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2016年3月15日火曜日

米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み

 今回は、石油貯蔵タンク基地などで起った火災事故の消防対応の業務などを行う会社として有名なウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が公開しているCode Red Archivesの中から、ルイジアナ州で消防活動の相互応援を牽引している“ハイアード・ガン・ギャング” の活動について焦点を当てた資料を紹介します。
19971029日、 “ハイアード・ガン・ギャング”会員の調整努力によって、大型ポンプ、放水砲、消火ホースを使用して29,567gpm111,000L/分)という産業界で最大の大容量放水を記録した。(写真・解説はWilliamsfire.comから引用)
< 貯蔵タンクの大型化による影響 >
■ 消防活動の相互応援は、1944年以降、メキシコ湾岸沿いの地域で実施されてきた。しかし、1980年代になってシャルメット事故、ロサンゼルス製油所事故、バトンルージュ事故、バルディーズ号原油流出事故などの大きな火災や流出事故が続き、緊急対応と消防活動に関する産業界の考え方が劇的に変化した。特にメキシコ湾岸沿いでの変化が著しかった。

■ 歴史的にいうと、貯蔵タンクの大型化に対して、産業界にはつぎのような3つの主要な局面が現れた。
  ● タンクを大きくする方が環境にとって、より安全になると考えられた。というのは、汚染、流出、放散のリスクにつながる破滅的な事故の可能性が減るからである。
  ● タンクを大きくする方が経済的にみて、より現実的な策だと考えられた。というのは、小型タンクを数多く作って管理・保全するより、1基の大型タンクを作った方が全費用としては効率的だからである。
  ● 一方、タンクの大型化は消防士にとって新しい挑戦を強いることになった。1980年代後半までは、小型タンクの大きさや配置が定められていた。しかし、大型タンクでは、事故に伴う火災の規模が大きくなるため、消火戦術や消防資機材を変えなければならなかった。

■ より大きなタンクを建設する傾向は、緊急事態時の対応のやり方を時代遅れにしていった。すなわち、直径60フィート(18m)のタンク火災時の対応と同じ方法では、直径250フィート(77m)のタンク火災に対応することができない。人材、消火機材(設計や有効性)、泡薬剤を増やす必要性があったし、ある分野では徹底的な見直しが必要だった。

■ 1980年代の10年が終わろうというとき、この問題があからさまになる事故が起った。1989年、バルディーズ号原油流出事故とルイジアナ州バトンルージュの製油所大火災は、人員・資機材や消火戦術への負担が限界を越える事故だった。

■ ルイジアナ州バトンルージュの製油所事故では、15基の貯蔵タンク、4つのAPIセパレーター、2箇所の配管ラックが被災し、火災面積は25万平方フィート(23,000㎡)に及んだ。15基のうち2基の貯蔵タンクは直径134フィート(40m)で、火災が拡大し、防油堤内を完全に含む火災になった。火災が鎮火するまでに14時間29分の時間と多糖類添加耐アルコール泡薬剤(AR-AFFF=3M社ライトウォーターATC)48,000ガロン(181KL)を費やした。

■ 一連の事故は過去に経験したことのない状況に直面し、新しい方法と新しい設備を要する段階に入ったことを示した。ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社(Williams Fire & Hazard Control)は、大規模火災を制圧して消火するための大容量放水砲と独自の泡放射方法(特許:フットプリント法)による消火戦略を作り上げた。

< ルイジアナ州での動き >
■ ルイジアナ州南部の火災と安全に関して責任のある人たちが、相互応援コミュニティーをいかに強化するかについて総合的に検討しようと、自分たちの標準作業手順を詳細に見直し始めた。

■ ルイジアナ州南部の消防専門家たちは、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社とともに、産業界の防災に関するつぎのようなニーズについて検討していった。
  ● 特殊設備の標準化
  ● 消火薬剤の標準化
  ● 消防専門家のフォーラム: 現場で感じている問題と解決のための認識を共有化
  ● 専門消防士の会社化: 消防専門家のニーズに沿った消防設備の設計と製作を担う

■ ルイジアナ州バトンルージュ製油所事故のあと、規制当局、市民、会社内部から出た疑問に対して、産業界の情勢、すなわち歴史、成長、安全性、問題点が徹底して調べられた。

■ 消防関連分野からは強力で重みのある声が出された。消防関連分野では、緊急時対応者のための特別な訓練について早急なニーズが高まっていたし、産業界の成長に伴うリスクに合ったより多くの資機材へのニーズがあった。また、地理的領域を越えた緊急事態やいろいろな分野の緊急事態を扱う部署からは効果的な対応に関するニーズがあった。

< “ハイアード・ガン・ギャング”の結成と活動 >
■ この要望の声から、ひとつの信条が消防関連分野の人たちの心をとらえ、深く影響を与えることになった。その信条とは、「あなたが必要とする前に多くの支援者をつくれ」ということだった。この精神から“ハイアード・ガン・ギャング”(Hired Gun Gang)というグループが1987年に生まれた。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”は、ランディ・マスター氏が彼の長年の友人のほか、消防士ドワイト・ウィリアムズ氏やジェリー・クラフト氏などと話し合って結成したものである。 “ハイアード・ガン・ギャング”はルイジアナ州を本拠にして根付いていった。会員のメンバーはメキシコ湾岸沿いにある石油精製・石油貯蔵分野で直面している防災資機材の調整、訓練、緊急時対応に焦点を絞った。

■ 長年にわたり、この“ハイアード・ガン・ギャング”によるルイジアナ防災資機材供給ネットワークは、ルイジアナ州の工業地帯で起った十数回の重大事故に対応してきた。

■ 創設時からの企業には、エクソン・リファイナリ&ケミカル社(エクソンモービル)のバトンルージュ製油所、マラソン・オイル社のガリービル製油所、エクソンモービル・オイル社のシャルメット製油所、ループ社、シェル・オイル社(モティバ)、ノーコー社、アメリカン・シアナミド社、ウェストウェゴー社、ダウ社、プラケメン社、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社などである。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”のミーティングは年に2回開催され、会員各社固有の特徴やリスクについて討論を行った。集まったメンバーは潜在する最悪ケースの対応について話し合った。例えば、海上や桟橋での緊急事態、有毒物質を放出するプロセス装置の火災、タンク火災と周囲への影響などである。

■ また、“ハイアード・ガン・ギャング”のメンバーは、明確になった問題について事前対応計画をまとめたり、具体的な緊急事態に備えた訓練イベントを実施した。このような訓練イベントのひとつが、1997年10月29日、ルイジアナ州で実施された。“ビッグ・ガン・フロー”(Big Gun Flow)と呼ばれたイベントは“ハイアード・ガン・ギャング”による調整努力を物語るもので、大型ポンプ、放水砲、消火ホースを使用した大容量放水の威力を示した。このイベントでは、29,567gpm(111,000L/分) の流量に達し、産業界で最大の放水量を記録した。

■ ルイジアナ州南部とミシシッピ州西部では、 17社の会社が“ハイアード・ガン・ギャング”に入っている。会員の条件は簡単ではっきりしている。会社はATC/ウィリアムズ社との一括契約をしなければならない。そして、ほかの会員の緊急事態時の支援をするため、少なくとも放射能力2,000gpm(7,560L/分)の放射砲または消防車を保有することである。資機材情報はメンバー会社間で共有し、他の設備ベンダーの参加を禁じている。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”には役員というものを置かなかった。決定が必要なときは会員の投票にもとづいた。なにかニーズが生じて行動を起こす必要が出たときには、会員会社のロジスティクス・コーディネーターとしてウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が選ばれた。各会員会社は防災資機材のリストを提供し、自分たちの守りを維持できる限り、利用可能な資機材を事故時に活用できるようにした。この防災資機材には大容量放水設備を含んでいる。たとえば、ウィリアムズ社の大容量放水砲、容量4,000gpm(15,000L/分)と6,000gpm(22,000L/分)の移動式ポンプ、互換性のある泡薬剤(多糖類添加耐アルコール泡:AR-AFFF= 3M社ライトウォーターATC、ウィリアムズ社のサンダーストーム)などである。

■ “ハイアード・ガン・ギャング”の考え方はウィリアムズ社によって米国中で履行された。ウィリアムズ緊急時泡薬剤ネットワークは、“ハイアード・ガン・ギャング”のミーティングの中で議論して得られた結果であったが、今や世界中の戦略的泡薬剤配備機能として成長した。

■ この泡薬剤ネットワークが役立った事例がある。1989年、ルイジアナ州でその年の最悪の氷点下の日に起ったバトンルージュ製油所の火災事故において、テキサス州のメキシコ湾岸地域沿いにある“ハイアード・ガン・ギャング”の会員会社は72,000ガロン(272KL)のATCを14時間で届けた。さらに、2004年7月、泡薬剤ネットワークは、マラソン・オイル社からの緊急要請でサンダーストーム30トートバックを24時間以内で再供給を果たした。

< 近年の動向 >
■ 産業界の流れによって消防士の仕事は挑戦させられ続けているが、この傾向は世界的な事件によっても大きく影響されている。最近の世界中でのテロ活動によって、施設管理者は近隣施設で緊急事態が起ったときの支援として不可欠な資機材を送ることに躊躇(ちゅうちょ)し始めている。自分たちの施設がつぎのターゲットであるかもしれないということから、現場にある消防資機材を保持しておこうという警戒心が生まれている。また、残念なことに多くは過剰に懸念しすぎているところがあり、他所への緊急事態に対応することが法的な問題に立たされるリスクがあるのではないかということから、ほかの施設に人員や機材を支援に出すという責務について不本意な方向に悪化させている。

■ しかし、“ハイアード・ガン・ギャング”の組織は18年目に入り、結束は強いままである。それは、メンバーが大きな火災事故を目の前で見たり、非常事態の対応に際して共に作業を行うという成功体験があるからである。

■ 150件を超す消火成功実績のもと、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は相互応援コミュニティーの強化を図るとともに、支援活動のほか陸上・海上施設関連の火災対応のフルサービスに携わっている。

補 足
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana )は、米国南部のメキシコ湾岸にあり、人口約465万人の州である。 州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオーリンズである。
                                                              ルイジアナ州の周辺   (図はグーグルマップから引用)
■  「ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社は、 米国テネコ火災(1983年)、カナダのコノコ火災(1996年)、米国ルイジアナ州のオリオン火災(2001年)などのタンク火災消火の実績を有している。当ブログにおいてウィリアムズ社関連の情報はつぎのとおりである。

■ ウィリアムズ社はウェブサイトを有しており、各種の情報を提供している。この中で「Code Red Archives」というサブサイトを設け、同社の経験した技術的な概要を情報として公開している。今回の資料はそのひとつである。

所 感
■ 今回は、米国の消防活動や相互応援の状況を知るという点で興味深い内容である。ルイジアナ州周辺地区において貯蔵タンクの大型化に伴い、消防活動に関する課題解決のため有志による“ハイアード・ガン・ギャング”を結成したという自由な発想はいかにも米国らしい。そして、単なる情報共有化でなく、実務的な面に踏み込む合理性に感心する。消防機材や泡薬剤の統一化などは実際の相互応援活動で経験した中から出てきた意見だろう。日本でも、石油コンビナート地区毎に相互応援協定が結ばれており、公設消防と各社の消防機材の型式の違い(例えば、消火ホースや接続口など)による不都合がわかっているが、なかなか改善しきれていないのが現状であろう。

■ 日本では、大容量泡放射砲システムを全国12地区に区分して導入された。しかし、機種や泡薬剤は各地区によって選定され、統一されなかった。現在、各地区は他地区と相互応援協定を締結しているが、ここまで相互応援を拡大するならば、本来は英国のように機種や泡薬剤を統一して操作性の一元化を図るべきだっただろう。バラバラだと資料で述べられているように相互の訓練などが難しく、「消防士にとって新しい挑戦を強いる」ことになる。
 また、「最近の世界中でのテロ活動によって、施設管理者は近隣施設で緊急事態が起ったときの支援として不可欠な資機材を送ることに躊躇し始めている」という指摘は日本でも当てはまり、おそらく米国より日本の方がこの傾向が強いだろう。米国では、ウィリアムズ社のように自由に活動できる専門消火会社があるので、まだ対応ができる。日本では、このような専門消火会社がない状況であり、公設消防が大容量泡放射砲システムを保有していないといういびつな状態を改善すべきではないだろうか。今回の資料を読んで、そのような感想をもった。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Williamsfire.com,  「BEYOND Mutual Aid 」, FEATURE , Edited by Jerry Craft ,   CODE RED ARCHIVES, Williams Fire & Hazard Control. Inc.


後 記: 当資料の原題は、「相互応援を越えて」(BEYOND Mutual Aid)という深みのある良い題名でしたが、もっと内容が分かるようにした方がよいという思いから、ブログの標題は「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」としました。ルイジアナ州の相互応援の背景を知るとともに、ウィリアムズ社がなぜ米国南部で基盤を固めていくことができたかという点についても理解できる資料でした。一方、有志によって結成されたグループの名称である “ハイアード・ガン・ギャング”(Hired Gun Gang)とは、「雇われガンマンの一団」というような意味で、さすがに銃規制に緩い、というよりほとんどに無いに等しいルイジアナ州だと感じますね。

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