このブログを検索

2014年4月24日木曜日

韓国S-オイル社製油所で原油タンクのミキサー破損で油漏洩

 今回は、2014年4月4日、韓国ウルサンにある-オイル社オンサン製油所の原油タンクから油が漏洩した事故を紹介します。
韓国ウルサンのS-オイル社オンサン製油所で原油タンクから油漏洩 
 (写真はEnglish.YonhapNews.co.krから引用)
<事故の状況> 
■  2014年4月4日(金)午後3時30分頃、韓国ウルサン(Ulsan)にある製油所のタンクから油が漏洩する事故があった。事故があったのは、ソウルから南東へ約410km離れた港湾都市であるウルサンのS-オイル社(S-Oil Corp.)オンサン製油所で、容量570,000バレル(90,600KL)の原油タンクから油が漏洩した。

■ 油漏洩の原因はタンクの攪拌用ミキサーの破損と見られている。発災に伴い出動した消防隊は、火災の発生を防止するため、漏れた油の上に泡を放射した。

■ ウルサン広域消防局の当局者によると、発災から3日経った4月6日(日)も油の漏洩は続いているが、週末までには油の漏洩は止まる見通しだと語っていた。当初、漏れ量は20,000バレル(3,200KL)といっていたが、当局によると、6日(日)午前11時時点で、貯蔵タンクから漏れた原油量は138,000バレル(22,000KL)と推定されるが、製油所の構外には漏れていないという。また、海への原油流出の恐れはないと、当局は付け加えている。タンクまわりには高さ約3mのコンクリート製防油堤が設置されており、油の漏洩は堤内に限定されている。 

■ S-オイル社の声明によると、漏洩のあったタンクから近くの別なタンクへ油を移送しているといい、 6日(日)午後3時30分時点で、381,000バレル(60,600KL)の移送が終え、残りは51,000バレル(8,100KL)だという。原油の移送は午後9時頃に終了する見込みだといい、移送作業が完了次第、漏洩の真の原因追及に着手するとS-オイル社は語っている。なお、S-オイル社オンサン製油所は66.9万バレル/日の精製能力を有する韓国内で第3番目に大きな製油所であるが、操業に影響はないという。

記者会見するS-オイル社CEOの
ナセル・アルマハシル氏 
 (写真はKoreanTimes.co.kr から引用)
■ S-オイル社の最高経営責任者(CEO)ナセル・アルマハシル氏は、オンサン製油所の油漏洩について謝罪した。同氏は、漏洩に伴う人身災害はなく、油の封じ込めの状況にあり、油漏洩が構外や海へ流出しないように会社として最善の努力を尽くしていると語った。S-オイル社によると、念のためオイルフェンスを張り、油吸着材を準備しているという。また、S-オイル社は漏洩地区の土壌汚染への対応を必要とする。

■ S-オイル社はサウジアラビアと提携しており、サウジアラビアン・オイル社系列のアラムコ海外共同BVが最大の株主で、約35%の株式を保有している。漏洩のあった原油タンクはオンサン製油所にある15基のタンクのひとつで、同製油所はサウジアラビアから原油輸入して精製している。

■ S-オイル社およびウルサン広域消防局によると、貯蔵タンクからの漏れは6日(日)午後9時に止まったという。漏れ出た油は防油堤内に留まっているが、油回収を終えるには2~3日かかるという。

■ 今回の事故後の展開はウルサンの住民に安堵をもたらした。ウルサンの住民であるキム・チョンヨンさんは、「大ごとにならないようなので、ほっとしています。でも、大気中にはオイル中の有害物質がまだ残っているんでしょう」と語った。今回のような事故は、街の住民が工業地帯の汚染や事故に常にさらされる弱い立場だということを示していると、環境活動家としてのキムさんは語った。
 また、韓国環境運動連合のような地元の市民団体は、プラントで働く労働者や製油所近くに住む市民が安心できるように会社は安全基準を見直すべきだと述べている。

■ S-オイル社は、タンクのミキサーがなぜ壊れたかについて調査を始めた。また、事故のあった貯蔵タンクはわずか5年しか経っていないといわれており、施設が古いということを否定している。

■ 今年初め、韓国で第2番目に大きな製油所で77.5万バレルの精製能力を持つGSカルテックスにおいて164KLの油が漏洩し、海へ流出する事故があったばかりである。

補 足                  
■ 「慶尚南道」(キョンサンナムド、けいしょうなんどう)は、韓国の南東部に位置する行政区で、人口約316万人である。慶尚南道は日本からも近く、山口県と姉妹提携を行っており、NHK山口放送では、毎週木曜の夕方6時台に「キョンサン南道便り」と題して慶尚南道のトピックスを紹介している。
 ウルサン(蔚山 Ulsan)は慶尚南道の北に位置し、人口約108万人の港湾・工業都市である
                  韓国の南部と日本の位置関係  (写真はグーグルマップ から引用
■ S-オイル社(S-Oil Corp.)は、1976年にコーリアン-イラン・ペトロリアム社(Korea-Iran Petroleum Co.)として設立された韓国の石油会社である。双龍セメントがイラン国営石油会社(NIOC)との共同企業として設立したが、1978年のイラン革命によってイラン側が撤退し、1980年に 双龍精油(Ssangyong Oil Refining)と改称した。その後、1991年にアラムコ海外共同BV(Aramco Overseas Co. B.V)が出資して35%の株式を取得し、1999年に双龍セメントの持株28.4%を自社株として買収し、双龍グループから法的に独立して、2000年3月に双龍精油からS-オイルに社名を変更した。ウルサン市のオンサン(温山)に製油所を保有し、当初の精製能力55万バレル/日から、現在は66.9万バレル/日である。
 現在の最高経営責任者は、サウジアラムコのナセル・アルマハシル(Nasser Al-Mahasher)氏が2012年に就任している。
                    ウルサンのオンサン付近     (写真はグーグルマップ から引用
                    S-オイル社オンサン製油所    (写真はKorea Joongang Daily から引用
サイドエントリー型ミキサーの取付け例

■ 貯蔵タンクには、油のスラッジ沈降防止、性状均一化、温度の均一化などの目的から攪拌用ミキサーが設置されるものがある。異種液の混合、溶解等に用いられる化学用タンクでは、タンク上部に立型の攪拌機が設置されるが、貯蔵タンクでは、一般に側板部に取り付けるサイドエントリー型ミキサーが使用される。ミキサーのシャフト部にはメカニカルシール(旧式ではグランドパッキン)を設け、タンク内液の漏れを最小限に留める。シール部からの漏れが多くなった場合、ロック機構(遮断機構)によって漏れを止める構造になっている。このシール構造のメンテナンス時に固定ボルトの締付不足などの保全不良があると、数日経って異常漏れを起こすことがある。 
 通常、シール部から大量漏洩することはないが、1970年代半ばに出光兵庫製油所(現在は閉鎖され、プラントは撤去)の原油タンクにおいてミキサーの設計・製作不良によって構造部品が破損し、シャフト貫通部から原油が大量流出した事例がある。油が流動点の高い大慶原油であったため、漏洩後に固化し、構外に流出することはなかった。

所 感
■ タンクからの漏れ原因は撹拌機用ミキサーとみられるが、大量漏洩に至る要因としては①メカニカルシールの部品破損(部品組込み時の保全不良などによる)、②ミキサーシャフトの折損(設計・製作不良および振動による)が考えられる。メカニカルシール部からの通常より多い異常漏れであっても、ロック機構をセッティングすれば、大量漏洩を防ぐことができるので、今回の事故は日本で起こった事例以来の稀な事例といえる。 1960〜2003年までの43年間に起こった242件の貯蔵タンク事故について分析した「貯蔵タンク事故の研究」の中では、ミキサーが要因の事故例はあがっていない。

■ 今回の事故では、S-オイル社最高経営責任者(CEO)のナセル・アルマハシル氏が率先して事故対応に対処している。記者会見にも応対しており、非常事態後の危機管理としては妥当な対応だったと思われる。油漏洩が堤内に限定されたこともあり、住民や報道関係の受け取り方は比較的冷静である。
 S-オイル社内の組織的な動きや連携状況はわからないが、S-オイル社にはウェブサイトを開設しており、情報公開はウェブサイトを通じて行うと更に良かったと感じる。

■ 堤内への油漏洩に対する消防活動がどのように行われたか興味ある点である。火災の発生防止のため漏れた油の上に泡が放射されたようであるが、消防車による通常泡か、特別な中・高発泡の泡かはわからない。(標題の現場写真でも判別はつかない) このような堤内への油流出時には中・高発泡が有効であり、専用の泡放射ノズルを準備しておくべきである。また、地下への浸透防止の観点から水を張り込み、地面に接触する油をできる限り少なくするのが良いが、このような対応がとられたかは分からない。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・In.Reuters.com,  S-Oil’s Ulsan Refinery Reports Oil Leak ; Run Unaffected,  April 04, 2014
    BunkerPrtsNews.com, Oil Leak from S.Korea’s S-Oil Crude Tank due to Crack, April 05, 2014   
      ・English.YonhapNews.co.kr, Oil Leak at S-Oil’s Ulsan Refinery Extends Three Days, April 06, 2014
      KoreaTimes.co.kr, S-Oil Refinery’s Oil Leak Placed under Control, April 06, 2014
      ・KoreaHerald.com, Oil Leak at S-Oil’s Ulsan Refinery Extends Three Days, April 07, 2014 
      ・KoreaJoongangDaily.joins.com, S-Oil Tried to Clean up Crude after 3-day Leak, April 08, 2014 




後 記: 韓国といえば、慶尚南道の西に隣接する全羅南道(チョルラナムド、ぜんらなんどう)にある珍島(チンド)沖で4月16日(水)に沈没した旅客船セウォル号のニュースが日本でも連日流されています。新しい情報が出るたびに危機管理のずさんさのひどいのがわかります。
 そのような中、4月19日・20日(旧暦3月20日・21日)は弘法大師の命日に当たり、毎年、山口県の秋穂(あいお)では秋穂八十八ヶ所巡りの「お大師まいり」が行われています。四国八十八ヶ所のお遍路に行けない人のためにもうけられたといわれ、全行程約50km(歩きで2日間)のお遍路で、当日の各札所にお接待が出ます。ということで、初めて「お大師まいり」に歩いてきました。予想以上に盛況というか、自転車で周る人、車で周る人、歩いて周る人が結構多く、特に各札所には近所の方と思われる人がたくさんお接待に出ておられました。近くの小・中学校の生徒でしょうか、スタンプラリーのカードを持って、お接待で出たお菓子を袋いっぱいにして自転車で周っていました。今年は1日だけ28ヶ所(約20kmほど)周りましたので、続きは来年におまいりします。

0 件のコメント:

コメントを投稿