本情報は「英国石油産業協会」(United
Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)が提供した「安全警告」について取上げたつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・UKPIA.com, Process
Safety Alert 006, Floating Roof Tank Rainwater Drains Integrity Issues, June 1,
2011
・FierDirect.net,
Process Safety Forum Alert, Floating Roof Tank Rainwater Drains Integrity ,
July 15, 2011
<概 要>
■ この安全警告は、外部浮き屋根式タンクにおいて起こった事故から、開放型および閉止型の屋根排水系統に伴うリスクについて提起したものである。
<事故の状況>
■ タンク地区にあるガス検知器の警報が鳴り、操業中のエリアで炭化水素が漏洩している可能性があることがわかった。オペレーターがただちに現場を調査したところ、ダブルデッキ型浮き屋根タンクの屋根排水系統の出口からガソリンが漏れ出ているのが発見された。流出した油のベーパーによってガス検知器が発報したものだった。
=事故の原因=
■ ガソリンは、タンク浮き屋根から防油堤内へ雨水を排出するために設けられている呼び径6インチの屋根用排水系統から漏出していた。排水系統は、屋根の上下動に追随するようスイベル・ジョイントを設けた一連のパイプで構成されている。(図2を参照)
■ 排水系統と浮き屋根との接続部に不良があった。排水系統の不良によって、通常、開放されているドレン弁を通じて堤内エリアへタンク内液が漏れ出た。
図2 折りたたみ式屋根排水系統
(写真はUKPIA Process
Safety Alert006から引用)
図3 屋根と排水系統の接続部(損傷前)
(写真はUKPIA Process
Safety Alert006から引用)
<教 訓>
■ 外部式浮き屋根の屋根排水系統は、開放型あるいは閉止型(または流量制限型)のいずれもリスクが潜在している。 現場では、浮き屋根の排水系統のバルブを開放するか閉止するかはいずれも可能である。しかし、最終的には、各現場においてリスク評価を行って決めることになる。リスク評価を行うに当たって考慮すべきことの中には、浮き屋根がシングルデッキかダブルデッキを含めて、つぎのような事項があろう。
● タンク側板部のノズルに設置されているバルブを閉止しておく場合、雨が降ったあと、手動でバルブを開放する必要がある。
● 雨水排水系統に自動弁を設け、水と油の密度差を検知して作動させる方法がある。
■ 当該事項に関するガイダンスとしてはつぎの資料を参照すべきである。
● HSE guidance on drainage of
floating roof tanks, SPC/Enforcement/163
● EEMUA 159
● API 653
補 足
■ 「英国石油産業協会」(United
Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)は、英国の石油産業の下流部門に携わっている9社の会員会社による団体で、石油製品の精製、流通、販売に関して非競争領域における一般的な問題について共有化するために設立された。UKPIAでは、安全警告(Process
Safety Alert)など英国の石油産業の下流部門に貴重な情報を提供している。
■ 「EEMUA」(The Engineering Equipment &
Materials User’s Association)は、欧州の非営利会員組織で、工業施設を所有あるいは操業し、設備や材料に関するエンジニアリングのユーザーである会社を支援する団体である。
EEMUAは、工業施設の安全、環境、運転性能の改善に関する提案を行っている。 「EEMUA 159」は、常圧式貯蔵タンクについてリスクベースに基づく試験・検査に関するガイダンス
で、HSE(Health and safety;英国安全衛生庁)の“Integrity of Atmospheric Storage
Tanks SPC/TECH/GEN/35.”をカバーしたものである。
■ 「API」(American Petroleum Institute)は、米国の石油産業に関わる非営利団体の組織で、各種の活動を行っている。特に石油施設に関してまとめられた規格・基準は世界で活用されている。「API
653」は「API Std 653 Tank Inspection, Repair,
Alteration, and Reconstruction」 で、貯蔵タンクの検査、補修、改修に関してまとめられたスタンダードである。
所 感
■ 過去には、浮き屋根排水系統のスイベル・ジョイントのシール部不良からタンク内液が漏れる事例が少なくなかったが、スイベル・ジョイント部の改良(ダブルシールなど)によって漏れは改善された。しかし、今回の2011年の事例は、浮き屋根と雨水排水系統の接続部の不良による漏れという稀な事象であるが、保全ミスがあれば、起こりうる事例ではある。
大阪製油所タンク浮き屋根排水系統の損傷状況 (写真はNoa.jx-group.co.jpから引用) |
事象は違うが、雨水排水管に付帯していたチェーンが途中で引っかかり、排水管に異常な応力がかかり、ティー部で開口して、タンク内液のトルエンが堤内へ漏洩した事例(2007年5月、新日本石油精製大阪製油所の158番タンクの漏れ事例)がある。(注記1を参照)
最近、スイベル・ジョイントを使用しないフレキシブルホース型の雨水排水管を採用するケースがあるが、リスクマネジメントの観点からいえば、浮き屋根の雨水排水系統における漏れは、いろいろな要因によって、ある日、突然、顕在化する可能性があると認識しておくべきである。
■ 今回の安全警告は、浮き屋根雨水排水系統における潜在リスクについて言及されたものである。雨水排水系統を開放型にしておけば、今回の事例のようにガソリンのような揮発性の高い油の場合、漏れた液が堤内で爆発混合気を形成する可能性が高い。一方、閉止型にしておけば、雨水が溜まって、浮き屋根が沈下する可能性が出てくる。ただし、開放型でも、屋根排水の入口部がゴミで閉塞し、雨水が溜まって浮き屋根が沈下した事例(1987年10月、岡山県倉敷市の製油所における貯蔵タンクの浮き屋根沈下事例)がある。(注記2を参照)
今回の情報では、「雨水排水系統に自動弁を設け、水と油の密度差を検知して作動させる方法」が対策のひとつとして提案されている。おそらくガソリンのような揮発性が高く、水との密度差が比較的大きい液を念頭に置いているものと思われる。興味ある提案であるが、この場合、密度検知器の設置位置や計測の信頼性についても評価する必要があるだろう。
注記1;「158番タンクルーフドレンからの油漏洩事故について」(新日本石油精製㈱大阪製油所
事故対策会議の資料) http://www.noe.jx-group.co.jp/company/about/gaiyou/jigyousho/osaka/oshirase/pdf/20071101.pdf
注記2;失敗知識データベース「浮き屋根式ナフサタンクのポンツーンの浸水と屋根の雨水滞留による浮き屋根の沈下」 http://www.sozogaku.com/fkd/cf/CC0000167.htmlタンク解体工事 |
後記; 街路樹が紅葉し始めました。しかし、例年だと立冬といってもカレンダー上だけの季節感でしたが、今年は立冬という言葉を実感し、秋の紅葉というより、冬に紅葉を見ているような感じです。日本だけでなく、中国でも万里の長城ツアーで死者が出るような積雪があったり、米国では季節外れの大型ハリケーンが襲来したり、変な天候が続きます。
ところで、前回、出光興産徳山製油所の旧アスファルトタンクののんびり(?)した解体工事の話をしましたが、今週になってタンクの解体作業が始まりました。隣接地にスポーツクラブの駐車場があるため、高所作業車から散水をしながらやっていました。しかし、散水の水が風に流され、駐車場側に落ちていました。9月にスポーツクラブがメンテナンスのため1週間休みの期間にやれば、もっと楽に済んだでしょう。しかし、1基の解体に4日かかっていますから、いずれにしても粉塵対策はやることになるのでしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿