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2020年9月8日火曜日

沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)

 今回は、 2020年4月10日(金、沖縄県にある普天間飛行場内の格納庫の消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ流出した事故について、9月4日(金)、原因が公表されたので、紹介します。  
 これまでの経緯は、つぎのブログを参照してください。  

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、沖縄県宜野湾市(ぎのわん・し)の米軍普天間飛行場内にある格納庫である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年4月10日(金)午後4時40分頃、普天間飛行場内の格納庫の消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ流出した。


■ 泡消火剤は、普天間飛行場から宜野湾市真栄原(まえはら)側へ延びる雨水排水用の水路を通じて漏れた。水路の水は下水処理されず、比屋良川(ひやらがわ)を通って牧港湾(まきみなと・わん)につながっている。水路の隣にある第2さつき認定こども園では、同日午後5時頃、園児たちが「トックリキワタの綿が飛んでいる」と騒ぎ、泡に気付いた。園長は触れないよう指示し、園児約130人を保育室内に集めた。側溝からは薄いカルキ臭がしたが、体の不調を訴える園児や職員はいなかったという。

■ 宜野湾市には同日午後530分頃、米軍から連絡があった。米軍は沖縄防衛局に対し泡消火剤は有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んでいると説明したが、漏れた量や場所、原因は明らかにしなかった。


■ 沖縄防衛局は同日、事故現場に職員を派遣し、原因究明と再発防止策の徹底を米軍へ申し入れたという。宜野湾市は、沖縄防衛局、外務省沖縄事務所、沖縄県に対し、泡消火剤を早急に回収することと事故原因の究明を申し入れた。一方、沖縄県はメディアからの問い合わせを受けて沖縄防衛局に事実関係を照会し、午後6時過ぎに事故を把握した。


■ 発生から一夜明けた4月11日(土)、宜野湾市嘉数(かかず)と大謝名(おおじゃな)の間を流れる宇地泊川(うちどまり・がわ)で大量の泡消火剤が確認された。消火剤の泡は風にあおられ、川周辺の公道や住宅街に拡散した。市消防本部が川で除去作業に当たったが、量が多すぎたため断念した。米軍は飛行場外の除去作業をせず、大量の消火剤が除去されないまま放置されている。夕方になって河川を見に来た近くの40代女性は、「きょうはお天気だったけど、こわくて洗濯物を干すのはやめた。まだ泡が残っているのを見てますます不安になった。自然にもどんな影響があるのか」と話した。 

被 害 

■ 米軍内の泡消火システムが作動し、泡消火剤が流出し、一部が普天間飛行場の構外へ流れた。

流出量は、消火剤原液ではなく、水で薄めた量で、全体量が約227,100リットル(227KL)で、基地内で回収したのは約83,270リットル(83.2KL)だった。全体の6割以上の143,830リットル(143.8KL=200リットル入り入りドラム缶719本分)が基地外に流れ出た。 


■ 泡消火剤が宜野湾市の河川や海に流出し、環境汚染を起こした。

宜野湾市消防本部が一部を回収した量は250リットルだった。


■ 事故に伴う負傷者の発生はない。


< 事故の原因 >

■ 2020年4月17日(金)、当初、在日米軍海兵隊は流出要因について、つぎのように述べていた。

 「何かが格納庫内の泡消火システムを起動させ、漏れが起こった。そして、泡が雨水排水系を通って基地の外に移動してしまった」


■ 2020年9月4日(金)、日本の防衛省は、泡消火剤流出の発端について、米兵ら47人が参加したバーベキューだったと発表した。

 バーベキューが行われたのは、消火装置がある格納庫から約3~6mの場所で、バーベキューの器材に火を付けたところ、消火装置が熱に反応した。その場にいた米兵や駆けつけた初動対応チームも一時停止の方法がわからず、消火装置は30分近く作動し続けた。さらに、泡消火剤が漏れ出ても地下タンクにたまる仕組みになっていたが、整備不良で外部に流出したという。

 バーべーキューを開くことになったのは、隊員たちが格納庫内で寝泊まりしており、食事も軍からの支給品であり、士気を上げるためだったという。


< 対 応 >

■ 4月16日(木)、日本の防衛相は参院外交防衛委員会で、米側に厳重に抗議したことを明らかにした。日米両国が2015年に締結した「環境補足協定」に基づき、基地への立入り調査を求めた。環境に影響する事故で立入りを要請するのは協定締結後初めてである。

 同日午後、防衛省、外務省、環境省の現地職員6人が普天間飛行場に立入り、約1時間半にわたり泡消火剤が漏れた現場や周辺の状況を確認し、泡消火剤の保管状況や基地外に流出した経路などについて、米軍側の説明を受けたという。本来は閉じているはずの格納庫の扉が、事故当時、開いたままになっていたため、外に漏れ出す量が多くなったという。 


■ 4月17日(金)、泡消火剤が普天間飛行場の外へ流れ出た事故を受け、沖縄県は副知事と県職員の計3人が普天間飛行場内を視察した。普天間飛行場から有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡消火剤が、何らかの原因で基地の外へ流れ出たことについて米軍に強く抗議した。

■ ワシントン本部サービス(Washington Headquarters ServicesWHS)によると、417日(金)の午後、沖縄副知事が普天間飛行場での流出現場を視察したが、副知事の訪問目的は、普天間飛行場から水成膜泡(AFFF)が放出された航空機格納庫の場所を確認することだった。視察では、在日米軍普天間飛行場司令官が流出についてミーティングでつぎのように説明した。

 「この事故では、薬剤と水の混合液が約60,000ガロン(227,000リットル)で、薬剤原液は1,200ガロン(4,540リットル)でした。基地から流出したのは、約38,000ガロン(143,800リットル)と推定しています。これに触れても危険ではありませんが、そうすることは避けるべきです。在日米軍普天間飛行場の長としては、流出の原因を特定するために徹底的な調査を行っています。そして、調査が終了して最終的な報告書の中で述べられる推奨事項に基づいて、将来、同種の事故が発生する可能性を減らすための対策を実施する予定です」


■ 4月18日(土)、沖縄防衛局は、普天間飛行場に隣接する保育園で、飛散した泡が付着した恐れのある砂場の砂を数十cm掘って取り除き、新しい砂に交換した。泡の大量流出があった宇地泊川(比屋良川)では4月17日(金)に続いて草刈りをし、流水で川沿いの柵などを洗った。


■ 4月21日(火)、防衛省は、沖縄県と宜野湾市とともに計10人で同飛行場への立入り調査を実施した。泡消火剤の流出経路とみられる滑走路南側沿いにある排水路3か所で水(計4リットル)を採取した。防衛省は今回採取した水を専門的に分析し、汚染の度合いなどを調査する。午後4時に基地内に入り、午後7時頃まで調査した。米軍から事故原因などの説明はなかったという。宜野湾市長は記者団に「協定にやっと実効性が出てきた。米軍がそれだけ重大な事故だと捉えていると理解している」と述べた。


■ 4月24日(金)、防衛省は、沖縄県と宜野湾市とともに同飛行場への3回目の立入り調査を実施した。 在日米軍が、4月23日(木)に「汚染の疑いがある土壌の入れ替えをする」と通知してきたため、防衛省、沖縄県と宜野湾市は、環境補足協定に基づく立入り調査という形で立ち会った。泡消火剤が流出した格納庫周辺で、米軍による土壌の入れ替え作業が行われた。米軍が土壌を除去したのは、滑走路南端近くの格納庫周辺である。

■ 4月24日(金)、沖縄県知事は立入り調査が行われたことについて、「協定の実効性確保が非常に重要だ。抜本的な解決方法として、国内法を適用するなど、日米地位協定の見直しを日米両政府に働き掛けたい」と述べた。米軍は、これまで在日米軍基地内で発生した環境汚染について積極的に公表しなかった。しかし、今回の流出事故は明らかに泡消火剤が普天間飛行場から流出し、飛散したものであることが確認され、日米地位協定の環境補足協定に基づく立入りを米軍が初めて認めざるを得ない状況になった。宇地泊川で飛散した泡を回収することなく、放置した米軍の責任も重く問われている。


■ 普天間飛行場から流出した事故を受け、琉球新報社は4月11(土)~13日(月)に付近の河川など5地点から水を採取し、京都大の環境衛生学教授に有機フッ素化合物含有の分析を依頼していたが、4月24日(金)に結果が出た。その結果、地下水汚染を判断する米国の暫定指標値PFOS・PFOA合計40ナノグラム(1リットル当たり)の6倍に当たる247.2ナノグラムが宜野湾市の宇地泊川で採取した水から検出されるなど、4地点で多量の有機フッ素化合物が検出された。

■ 202094日(金)、日本の防衛省は、米軍の報告を受け、泡消火剤の流出の発端は、米兵ら47人が参加したバーベキューだったと発表した。


■ 2020年9月7日(月)、沖縄県知事は、米軍普天間飛行場から泡消火剤が大量に漏出した事故原因がバーベキューだったことに、「本当に言葉にならない」と述べ、「県民に不安を広げてしまうとことは、あってはならない。厳に謹んでいただきたい」と語った。  


補 足

■「沖縄県」は、九州地方に位置し、日本で最も西にあり、沖縄本島、宮古島、石垣島など多くの島々から構成される人口約145万人の県である。

 「宜野湾市」(ぎのわん・し)は、沖縄本島中南部の中央に位置し、県庁所在地の那覇市から北東約10kmにあり、人口約98,600人の沖縄県第5の都市である。


■「普天間飛行場」(ふてんま・ひこうじょう)は、在日米軍海兵隊の軍用飛行場である。通称は普天間基地といい、2,800mの滑走路を有し、嘉手納基地(かてな・きち)と並んで沖縄における米軍の拠点となっている。面積は約4.8km2で、市域の約25%に相当する。飛行場は航空基地として総合的に整備されており、滑走路のほか、駐留各航空部隊が円滑に任務遂行できるための諸施設として格納庫、通信施設、整備・修理施設、部品倉庫、部隊事務所、消防署、PX(売店)、クラブ、バー、ボーリング場、教会、診療所などが存在する。滑走路の西側には、司令官の庁舎や兵隊の宿舎等が配置され、東側には、格納庫、消防署等がある。


■「格納庫」(かくのうこ; Hangar)は、航空機やヘリコプターを風雨や砂塵などから守り、整備や補給、待機などを行う格納施設である。一般に鉄骨構造であるが、軍用格納庫の中にはコンクリート製や簡易テントなどがある。普天間飛行場では、3か所複数棟の格納庫があり、立入り調査によって南端にある格納庫で泡消火剤が流出したことが分かった。普天間飛行場の南端にある格納庫は、第2さつき認定こども園から300~400mの距離である。


■ 石油火災に使用される「泡消火薬剤」は消防法やISO規格によって規定されており、成分構成による分類と定義を表に示す。

■ PFOS(通称ピーホス)と呼ばれる「ペルフルオロ・オクタン・スルホン酸」(有機フッ素化合物の一種)は低分子化合物であり、高い親水性・親油性により界面活性能がよく、高い起泡性を持つ。このことから消火剤(水成膜泡消火薬剤など)に使用されていた。

 2009年5月にジュネーブで開催された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」の第4回締約国会議(COP4)を受け、日本国内では、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関す る法律)が2009年10月にPFOSなど12物質を「第一種特定化学物質」に指定し、製造・輸入の事実上禁止となった。残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants;POPs)は、毒性が強く、難分解性、生物蓄積性、長距離移動性、人の健康または環境への悪影響を有する化学物質で、人の健康と環境を保護することを目的として検討され、締結されたものである。


■ 流出した泡消火剤は水成膜泡(AFFF)だった。米国で水成膜泡(AFFF) のメーカーとしては3M社が製造していたライトウォータが有名であったが、2002年に製造を中止している。しかし、この泡消火剤は米国だけでなく、国内でも使用されている。


■ 日米地位協定の「環境補足協定」 は2015年年9月に署名が行われたが、日米地位協定締結から55年を経て初めての取組である。 「環境補足協定」の概要は、つぎのとおりである。

(1) 情報共有・・・両国は、入手可能かつ適当な情報を相互に提供する。

(2) 環境基準の発出・維持・・・米側は、「日本環境管理基準(JEGS)」を発出・維持し、同基準は、両国または国際約束の基準のうち、最も保護的なものを一般的に採用する。これは漏出への対応・予防に関する規定を含む。

(3) 立入り手続の作成・維持・・・日本の当局が次の場合に米軍施設・区域への適切な立入りを行えるよう手続を作成・維持する。

(ア)環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合。

(イ)施設・区域の返還に関連する現地調査(文化財調査を含む)を行う場合。

(4) 協議・・・ 環境補足協定の実施に関するいかなる事項についても、一方からの要請により、日米合同委員会での協議を開始する。


■「航空機格納庫の泡消火設備」は、石油貯蔵タンクの火災で一般的に用いられる低発泡泡でなく、膨張比(発泡割合)が500:1程度の高発泡泡が使用される。高発泡用泡放出口を有し、膨張比が高いものほど軽くなるため積泡しやすくなり、防護対象の表面を一気に被覆したり、防護対象の空間を埋め尽くして、消火や抑制できる。一方、高発泡泡は風に飛ばされやすくなるが、航空機格納庫のようなところでは有効である。格納庫における高発泡泡消火設備の放射テスト例を写真に示す。

所 感 

■ 前々回、格納庫の泡消火システムが作動する(させた)要因として、つぎのことが考えられると述べた。

 ● 格納庫内の航空機(またはヘリコプターなど)が火を出して、泡消火システムが作動した。

 ● 泡消火システムが故障し、泡消火システムが誤作動した。

 ● 米軍関係者がいたずら(故意の過失)で泡消火システムを作動させた。

 ● 定期の泡消火テストを実施した。

 ● 使用期限切れの泡消火薬剤を交換する際、意図的に泡消火テストを実施した。

 今回の発表で「米軍関係者がいたずら(故意の過失)で泡消火システムを作動させた」の範ちゅうだと分かった。(「いたずら 」ではないにしろ「未必の故意」である)


■ 前回、薬剤と水の混合率は2%となり、通常、水成膜泡(AFFF)は薬剤と水の混合率が3%または6%で使用されるので、放出した泡消火剤は薄めで形成されていると述べた。今回の発表でも、泡消火システムが高発泡の泡で放出したのではなく、薬剤と水の混合液(混合率が2%)のまま放出したのではないかという疑問は払拭されなかった。しかし、発表では、泡消火剤が漏れ出ても地下タンクに溜まる仕組みになっていたが、整備不良で外部に流出したという。このように、泡消火システム全体の保守状況がおろそかになっていると感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Nikkei.com, 普天間へ立ち入り、水採取 消火剤流出で防衛省調査,  April  21,  2020

    ・Asahi.com,  普天間飛行場に2度目の立ち入り 消火剤流出事故,  April  23,  2020

    ・Ryukyushimpo.jp,  普天間3地点で水採取 泡消火剤流出 国・県・市が初の立ち入り,  April  22  2020

    ・Sankei.com,  米軍普天間飛行場へ3回目立ち入り 防衛省、泡消火剤流出で,  April  24,  2020

    ・Ryukyushimpo.jp,  事故の影響表れた」 国指針案5倍に県 泡消火剤流出,  April  24  2020

    ・Nhk.or.jp,米軍基地 消火剤流出事故  日本側が初の環境立入調査,  April  17,  2020

    ・This.kiji.is, 保育園の砂を交換 泡消火剤の大量流出で 泡が付着した恐れ,  April  19,  2020

    ・Stripes.com, Marine general apologizes for massive firefighting foam leak on Okinawa; Japan officials want answers,  April  17,  2020

    ・Military.com, Marine general apologizes for massive firefighting foam leak on Okinawa,  April  17,  2020

    ・Whs.mil, US Marines host Okinawa Vice-Governor Jahana,  April  17,  2020

    ・Stripes.com, Marines grant Japan’s request to collect water samples after firefighting foam leak on Okinawa,  April  23,  2020

    ・Dvidshub.net, US Marines host Okinawa Vice-Governor Jahana,  April  17,  2020

    ・Okinawatimes.co.jp, 自衛隊、21年度までにPFOS処理へ 泡消火薬剤約39万リットル保有,  February  7,  2020

    ・Asahi.com, 普天間消火剤流出、米軍が土壌除去 県・市には提供せず,  April  24,  2020

    ・Mainichi.jp, 泡消火剤流出 放置の米軍に重い責任/沖縄,  April  25,  2020

    ・Ryukyushimpo.jp, 米軍、土壌採取を拒否 県申請に「調整つかず」 泡消火剤流出,  April  25,  2020

    ・Ryukyushimpo.jp, 普天間流出の泡消火剤に多量有害物 宇地泊川で米指標の6倍超 本紙・京大調査,  April  24,  2020

    ・Qab.co.jp,  米軍泡消火剤流出事故 県が基地内視察し抗議,  April  17,  2020

    ・Asahi.com,  普天間の泡消火剤流出、発端は米軍のBBQ 防衛省発表, September  04,  2020

    ・Nhk.or.jp, 「原因はバーベキュー」米軍普天間基地の消火剤 大量流出事故,  September  04,  2020

    ・Okinawatimes.co.jp, 「BBQが引き金に」泡消火剤の大量漏出 米海兵隊が原因明かす,  September  04,  2020

    ・Okinawatimes.co.jp, 「言葉にならない」沖縄の玉城知事、BBQで泡消火剤漏れに苦言,  September  07,  2020

    ・Ryukyushimpo.jp,泡消火剤流出、米軍のバーベキューが原因 格納庫近くで装置作動,  September  04,  2020



後 記: 今回の原因発表を聞いて、開いた口が塞がらないという感じでした。米軍の中でも最も優秀といわれる海兵隊の話とは思えないお粗末さです。普天間飛行場は、滑走路の西側に司令官の庁舎や兵隊の宿舎等が配置され、東側に格納庫、消防署等を置き、航空基地としてきちんと分けられて配置されています。新型コロナウイルスを考慮したものか分かりませんが、士気を上げるために格納庫(近く)でバーベキューをやるなんて、石油タンクのそばでBBQをやるみたいなものではないですか。これだってにわかに信じられません。

 原因が公表されたあとに、当初の事故状況を読み返してみると??がたくさん出てきます。たとえば、在日米軍海兵隊は、「何かが格納庫内の泡消火システムを起動させ、漏れが起こった」と釈明していましたが、「何か」とは人でなく、「熱」だったのでしょうね。また、発災当日、沖縄防衛局は事故現場に職員を派遣しています。どこまで知っていたのでしょうかね。






2020年9月1日火曜日

米国テキサス州のシェブロン社パサデナ製油所でタンク火災

 今回は、2020年8月18日(火)、米国テキサス州ハリス郡パサデナにあるシェブロン社の製油所で、貯蔵タンクが火災を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris)パサデナ(Pasadena)にあるシェブロン社(Chevron)のパサデナ製油所である。同製油所の精製能力は11万バレル/日である。

■ 事故があったのは、製油所の北東側にあるタンク貯蔵地区にあるオイルタンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年8月18日(火)午前5時45分頃、タンク貯蔵地区にあるオイルタンクで火災が発生した。タンクからは煙が600フィート(183m)以上の高さに上がった。


■ 発災に伴い、自衛消防隊が出動した。タンク屋根の下から煙が出ていたが、全面火災には至っていないとみられた。


■ 製油所周辺にあるウォッシュバーン・トンネルなどの道路の交通遮断が行われた。また、発災タンクがヒューストン可航水路に近いため、予防措置として可航水路が一時的に閉鎖された。


■ 発災から45分後には、火炎は消えて見えなくなったが、タンクからは水蒸気の白煙が上がっていた。火災は午前6時30分頃に制圧下に入ったが、消防隊はなおもタンク側板に冷却用の噴霧水をかけた。


■ シェブロン社によると、自社の敷地境界での大気モニタリングでは、異常は検出されていないという。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

被 害

■ 貯蔵タンク地区のオイルタンク1基が火災で損壊した。


■ 事故に伴う負傷者の発生は無かった。


■ 住民の避難は無かったが、周辺の道路やヒューストン可航水路が一時的に閉鎖された。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。


< 対 応 >

■ ヒューストン可航水路は、一時的に閉鎖されたが、すぐに解除された。製油所周辺にあるウォッシュバーン・トンネルなどの道路の交通遮断が行われたが、午前9時頃には解除された。


■ 現場には、パサデナ市とハリス郡の緊急対応担当者が立ち入り、シェブロン社の対応チームと協同で対応した。


■ 火災は、 8月18日(火)午前8時45分頃、鎮火した。


■ 8月19日(水)、シェブロン社は、貯蔵タンクの火災に際して消火までの間、大気汚染ガスの放出があったことをテキサス州環境品質委員会へ報告した。火災によって、二酸化硫黄8,000ポンド超(3,630㎏超)と窒素酸化物3,000ポンド超(1,360㎏超)が過剰に放出されたという。


■ ドローンの映像はユーチュ-ブに投稿されていないが、動画はつぎのメディアサイトで見ることができる。(画面の下側に出るが、やや重いので、少し時間がかかるかもしれない) 

  ● Click2houston.com, 「No injuries reported after fire at Pasadena refinery」 





補 足 

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ハリス郡」(Harris)は、テキサス州の南東にある人口約470万人の郡である。

「パサデナ」(Pasadena)は、ハリス郡の南東に位置し、ヒューストンに近く、人口約15万人の市である。


■「シェブロン社」(Chevron Corp.)は、米国カリフォルニア州サンラモンに本社を置くエネルギー企業であり、スーパーメジャーと総称される6社のうちの一社である。

 パサデナ製油所は、2019年5月、シェブロン社がペトロブラス社から買収したものである。精製能力は11万バレル/日で、タンク地区は510万バレル(81万KL)の原油と石油製品を貯蔵できる能力を擁している。事故と関連があるかどうかは分からないが、発災タンク近くの2基のタンクが撤去されており、買収後1年余で設備改造が急ピッチに行われているという印象である。


■「発災タンク」は、被災写真が報じられているが、タンク仕様は分からない。グーグルマップで調べてみると、発災タンクの直径は約43mである。被災写真によりタンクの直径:高さの比(2.5:1)から、タンク高さは約17mである。従って、容量は24,600KLとなる。

 内液は、一部メディアで“原油” としているが、大半は単に“オイル” となっている。タンク型式はコーンルーフ式であるが、タンクは保温が施されており、重質系の油だとみられる。被災写真では、タンクの屋根が半分以上崩落し、タンク内に入った水が蒸発して内表面から白い水蒸気が出ているので、原油ではなく、油温の高い重油やアスファルトではないかと思われる。また、火災によって大気汚染ガスの放出があったことが報告されているが、その内訳はオイルの燃焼物による窒素酸化物(1,360㎏超)と二酸化硫黄(3,630㎏超)である。原油であれば、液面からの揮発性ガスが入ると思うが、含まれておらず、二酸化硫黄が入っているので、硫黄分の高い残渣油系のオイルと推測する。


所 感

■ 今回の事故は状況がはっきりしない。発災時刻が午前5時45分頃であり、通常の保全工事が行われる時間帯ではなく、早朝の入出荷に関わる事象の可能性が考えられる。

 火災が消えたあと、タンクから水蒸気が出ているのを見ると、 「東亜石油京浜製油所のアスファルトタンク火災事故(2006年)」が思い出される。今回の事故はタンク内液さえ分かっていないが、2006年の事故は原因調査が行われ、貴重な教訓が報告されている。


■ 被災写真を見ると、タンク屋根が半周以上崩落しており、激しい爆発ではなかったにしろ、単に火災というより小爆発を伴った発災だったと思われる。火災最盛期の消防活動は写真を含めて報じられていないので、詳細は分からないが、積極的消火戦略をとらず、防御的消火戦略として冷却を主としたものではないだろうか。タンク冷却は、口径の大きい吸込みホースや大容量の泡放射砲を装備した消防車で行われている。そのほかの冷却放水銃も可搬式の固定ノズルを使用しており、対応している消防車や消防士が少ないように感じる。激しい火災ではなかったようなので、人員・資機材に不足感はない。



備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Click2houston.com, No injuries reported after fire at Pasadena refinery,  August  18,  2020

      ・Abc13.com,  Fire erupts in oil tank at Chevron Pasadena Refinery,  August  24,  2020

      ・Khou.com, Pasadena residents wake up to smell, smoke after fire at nearby refinery,  August  18,  2020

      ・Tankstoragemag.com,  Fire at Pasadena Refinery tank causes no injuries,  August  19,  2020

      ・Industrialfireworld.com, Storage Tank Blaze Quickly Extinguished in Texas,  August  18,  2020

      ・Khou.com, Raw video: Refinery fire on Red Bluff in Pasadena; firefighters spray down storage tank,  August  18,  2020

      ・Morningstar.com, Chevron Reports Tank Fire, Emissions at Texas Refinery,  August  19,  2020



 後 記: 今回の事故は、最近の事故情報と同様、ドローンによる映像がなければ、内容の薄いものになっていました。しかし、もう一歩進めて、ドローンの映像を見れば、タンクの大きさやタンク内液の種類が気になるはずです。メディアには、ドローンに頼るだけでなく、映像を見て感じる疑問を取材で得て、記事にまとめることを期待します。それにしても、スーパーメジャーと称されるシェブロン社がウェブサイトにひと言も掲載せず、事務的に大気汚染ガスの放出を報告したのみです。スーパーメジャーは以前から情報公開に消極的でしたが、近年、ドローンによる映像が撮られるので、情報公開の考え方を変えていかなければならないのではないでしょうか。







2020年8月27日木曜日

米国テキサス州ペリカン島の石油ターミナルでタンク爆発、負傷者2名

  今回は、2020年5月19日(火)、米国テキサス州ガルベストンのペリカン島にあるペリカン・アイランド・ストレージ・ターミナル社の石油ターミナルでタンクが爆発し、負傷者2名を出した事故を紹介します。

<発災施設の概要>  

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ガルベストン郡(Galveston)ガルベストン(Galveston )あるペリカン・アイランド・ストレージ・ターミナル社(Pelican Island Storage Terminal)の石油ターミナルである。

■ 事故があったのは、ガルベストンのペリカン島にある石油ターミナルの貯蔵タンクである。



< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年5月19日(火)午後3時20分頃、石油ターミナルの貯蔵タンクで爆発があった。 


■ ガルベストン消防署は、ペリカン・アイランド・ストレージ・ターミナル社からタンクが爆発して、負傷者が出ている旨の通報を受け、直ちに出動した。


■ 負傷者は2名で、爆発があった後にケガをした。当時、200万ガロン(7,570KL)の入った重質原油製品のタンクまたは近くで溶接作業をしていたという。負傷者は市内の病院に搬送された。


■ 消防隊は、泡モニターノズルを用いて活動した。火災は1時間ほどで制御下に入った。

■ 石油ターミナルの近くにあるテキサスA&M大学ガルベストン・キャンパスでは、予防措置として避難所への避難指示を出したが、構内にいた人数は限定的だった。

被 害   

■ 石油ターミナル内のタンク1基が爆発で屋根部を損壊した。

■ 事故に伴う負傷者が2名発生した。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、保全/火気工事のミスとみられる。


< 対 応 >

■ 火災は泡消火によって消された。


■ 避難指示は午後430分頃に解除された。


■ ユーチューブやフェースブックでは、ドローンによる映像が投稿されている。

Youtube  LIVE: Air 11 over tank explosion on Pelican Island in Galvestonを参照)

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ガルベストン郡」(Galveston)は、メキシコ湾沿いに位置し、人口約34万人の郡である。

「ガルベストン」(Galveston )は、メキシコ湾に面したガルベストン島とペリカン島からなる人口約5万人の市である。

「ペリカン島」(Pelican Island)は、ガルベストン市の一部で、シーウルフ・パークウェイの道路でつながっている。

 なお、ガルベストンでは、2012年2月「米国テキサス州ガルベストン島でタンクが爆発・火災」の事故が起こっている。

■「ペリカン・アイランド・ストレージ・ターミナル社」(Pelican Island Storage Terminal)は、テキサス州ヒューストンに本社を置き、ペリカン島に200万バレル(32万KL)の貯蔵容量を有しており、重質燃料油、カーボンブラックオイル、減圧蒸留流出油、6番燃料油(高粘度残留油)、原油などの重質系を取り扱っている物流石油会社である。 


■「発災タンク」は、200万ガロン(7,570KL)のタンクと報じられている。この数値がタンク容量を指すのか、タンクに入っている量を指すのかは曖昧である。グーグルマップで調べてみると、発災タンクは直径約44mである。被災写真によりタンクの直径:高さの比(4:1)から、タンク高さは約11mである。従って、容量は16,700KLとなる。ペリカン・アイランド・ストレージ・ターミナル社にある大きなタンクは約18基である。1基あたり15,000KLとして総容量は27万KL級の石油ターミナルとなり、同社の貯蔵容量と整合する。

 内液は重質原油製品(Heavy Crude Oil Products)と報じられており、重質原油なのか原油の重質油製品なのかは分からない。タンク型式はコーンルーフ式であるが、タンクは保温が施されており、重質系の油が入れられていたのは間違いない。


所 感

■ 今回の事故は、保全/火気工事のミスによるもので、米国CSB(化学物質安全性委員会) 「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例である。

 一方、被災写真とグーグルマップの過去の写真を見比べてみると、最近、石油ターミナルのタンク屋根で改造工事が行われていることが分かった。大気開放のタンクベントのひとつを利用して配管が設置されている。発災タンクでは、屋根部の配管が途中で折れて地上に落下している。爆発の影響で折損したのか、配管工事の途中で地上に置かれたものかは分からないが、発災タンクで溶接作業が行われていたので、この配管を通じて可燃性ガスに引火して爆発したものだと思われる。

■ 最近の事例で「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」20206月)でも、「住宅地が近いので、タンクベントを利用して不活性ガスの封入あるいは除害装置への連絡管が設置されているのではないだろうか(爆発しているので、不活性ガス封入ではないと思われる) 」と指摘した事故と同種の事例ではないかと思う。ただし、配管は1箇所のみであり、目的はよく分からない。 


■ タンクの爆発事例としては、タンク屋根が全周的に側板から外れていないので、比較的小規模の爆発だったと思う。消火作業は、タンク屋根と側板のはがれたわずかな隙間部を通して泡を張り込んでいる。消火時間は分からないが、避難指示が発災から1時間後に解除されているので、難航した消防活動ではなかったと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Click2houston.com, 2 workers injured in oil tank explosion in Galveston,  May 19,  2020

      ・Tankstoragemag.com, Tank explosion injures two in Galveston, Texas,  May 20,  2020

      ・Galvnews.com, Explosion rocks Pelican Island tank farm, two injured,  May 20,  2020

      ・Khou.com, 2 workers injured in oil tank explosion near Texas A&M Galveston campus,  May 19,  2020

      ・Hydrocarbonprocessing.com, 2 people injured in oil tank explosion,  May 19,  2020

      ・Firehouse.com, Two Workers Hospitalized Following Oil Tank Explosion,  May 20,  2020

      ・Bicmagazine.com,  Oil storage tank explodes in Galveston, injures two,  May  19,  2020



 後 記: 今回の事故は、最近の事例と同様、新型コロナウィルスの影響で報道記事の内容が乏しいものでした。しかし、さすがに米国らしくドローンによる映像が流され、記事を補完するに十分なものでした。爆発事故の割にタンク屋根が大きく壊れておらず、タンク内液に注目したのですが、“重質原油製品”というあいまいな言葉で、着火から爆発過程の推測に悩みました。しかし、ドローンによる映像をよく見ると、タンク屋根で配管改造工事が行われていることが分かり、タンク内液に執拗なこだわりはなくなりました。また、ペリカン・アイランド・ストレージ・ターミナル社には親会社があり、関係が複雑そうで、ターミナルの貯蔵容量などに混乱がみられましたが、ブログでは触れませんでした。