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2021年9月10日金曜日

メキシコ湾の海が燃えている?

今回は、202172日(金)にメキシコ南東部カンペチェ沖のメキシコ湾で海上に巨大な炎の輪が出現し、この現象がSNS上で「炎の目」や「サウロンの目」と呼ばれて話題になった事例を紹介します。

< 状 況 >

■ 202172日(金)メキシコ南東部カンペチェ沖で海上に巨大な炎の輪が出現した。 火炎の輪は海流でウネウネ回りながら約150mに広がっている。

■ 巨大な輪はSNS上で「炎の目」や「サウロンの目」と呼ばれ、オレンジ色の溶岩にも似た画像が拡散し、ゴジラが出てきそうと話題になった。

< 炎 の 要 因 >

■ 炎の要因は深さ78mにある海中ガスパイプラインからのガス漏れである。事故は202172日(金)午前515分頃に起こった。

■ 現場はク・マロブ・サップ(Ku Maloob Zaap)油田のあるメキシコ湾で、メキシコの国営石油企業ペメックス社が運営する石油掘削施設と接続された海中ガスパイプラインである。火災の位置は石油掘削施設と約150m離れたところだった。

■ 火災の要因は石油の流出ではなく、石油掘削施設を構成する海中ガスパイプラインのガス漏れが原因だとペメックス社は説明している。海中ガスパイプラインが破裂してガスが漏れ、海上に出たガスが落雷によって引火したものとみられる。

■ この事故に伴う負傷者はいなかった。

■「炎の目」は、ユーチューブで映像が流れている。(つぎのYou Tubeを参照)

 Fire broke out on a subsea pipeline of the Pemex oil and gas company in the Gulf of Mexico.2021/7/3

 ●Gas pipeline fire boils underwater in the Gulf of Mexico | USA TODAY2021/7/4

< 原 因 >

■ ペメックス社によると、悪天候の影響でパイプラインのガス燃料圧縮装置に問題が発生してガス漏れが起き、海面まで浮き上がったガスに落雷で引火して火災が発生したという。

■ 石油掘削施設内のターボ機械が雷雨と激しい雨によって影響を受けたという。嵐は非常に激しかったため、事故の前に石油掘削施設のポンプ・ステーションは停止していた。

< 対 応 >

■ ペメックス社は、ガス漏れを止めるために直径12インチ径(約30cm)のパイプラインの相互接続用バルブを閉止し、炎を制御するために破裂したパイプラインに窒素を注入したと述べた。

■ 火災は約5時間後の72日(金)午前10時半頃鎮火した。

■ ペメックス社は、パイプラインからの漏れの原因を調査すると述べた。

■ 環境保護団体は、会社の説明に納得しておらず、火災による環境への影響の詳細な調査を求めている。

補 足

■「サウロンの目」のサウロンは、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンが書いた神話に登場する二代目冥王である。「指輪物語」(ロード・オブ・ザ・リング)では、直接的な姿はほとんど描写されず、「火にふち取られた目」という心象表現として登場する。2001年に映画「ロード・オブ・ザ・リング」(3部作)が製作され、「サウロンの目」が登場する。今回の「炎の目」は、映画の印象から「サウロンの目」と表現する人が出たと思われる。


■「ペメックス社」のク・マロブ・サップ(Ku Maloob Zaap)油田の石油掘削施設は、2021822日(日)午後310分に火災事故があり、従業員4名が死亡し、45名が負傷している。事故の原因は石油掘削施設のメンテナンス不足によるものだという。

所 感

■ 世の中には想像を超える事象が起こるものである。この事象はこれまで見たこともない海上の「炎の目」で、事故というより不可思議なこととしてインターネットで拡散したという稀有な事例である。

■ この事故は直径12インチ径(約30cm)のガスパイプラインの破裂とみられる。石油掘削施設で生産される原油から液体とガスを分離し、ガス成分だけを取り扱っているガスパイプラインと思われる。事故前にパイプラインのガス燃料圧縮装置に問題が発生しており、ターボ機械が雷雨と激しい雨によって影響を受けたという。これがガスパイプラインの破裂にどのように関係しているかは分からない。一方、直径12インチ径(約30cm)のパイプラインから流出しているので、大量のガスで一度火が付いてしまったら、映像のように海が燃えているように映ったのは理解できる。   


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Cnn.co.jp,  メキシコ湾に「炎の目」が出現 海中パイプライン火災,  July  04, 2021

      News.yahoo.co.jp,  メキシコ湾が燃えた日。海底パイプラインが破裂、消火に5時間,  July  06, 2021

      News24.jp,  「ゴジラ出現か」海に巨大な炎 メキシコ,  July  05, 2021

      Bloomberg.com, Huge Fire Near Pemex Offshore Platform Was Due to a Gas Leak,  July  07, 2021

      Reuters.com, ‘Eye of fire’ in Mexican waters snuffed out, says national oil company,  July  03, 2021

      Geektech.me,  メキシコ湾で水中火災がどのように発生したか、そしてこれが何につながる可能性があるか,  July  03, 2021

      Washingtonpost.com, Fire on surface of Gulf of Mexico is extinguished, but questions about pipeline leak remain,  July  03, 2021

      Abc.net.au, Gulf of Mexico ocean fire extinguished after Pemex pipeline rupture,  July  03, 2021

      Mexiconewsdaily.com,  Pemex says lightning strike set gas on fire in Gulf of Mexico,  July  06, 2021


後 記: 今回の事例は、731日に起こった「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」の事故を調べていて、情報としては知っていました。しかし、ガスパイプラインの事故としてブログに掲載するには、「炎の目」や「サウロンの目」の方に話題がいってしまい、事故情報というより、「米国ワイオミング州で硫黄の山の幻想的な災の火災」 20177月)と同様、興味深い話題として取り上げることとしました。しかし、メキシコのペメックス社は、822日(日)に石油掘削施設で火災を起こし、死傷者を出す事故を発生させました。何かがおかしい組織と思わざるを得ませんね。 

2021年9月6日月曜日

事故対応では科学技術を使いこなし、危険予知を活発に行う

 今回は、2021414日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「Why Dynamic Risk Assessments Matter」(動的リスク評価が重要である理由)の内容を紹介します。

< 背 景 >

■ 火災を消すための設備を配置したり、ベーパー抑制に供する機器を配備するための訓練は大切である。一方、タンク火災との戦いで勝利するための本当のカギは、事故が発生したときには、すでにダイナミックなリスク評価を完了しておくことである。  

■「あらゆる状況での変化を理解することと、その対応の影響や事故拡大の可能性について認識しておくことが肝要です」と産業緊急事態対応の専門家で市の消防副署長であるシェーン・スタンツ氏はいう。 

■ 「状況の変化への疑問に答えるため、未来を見通せる水晶玉を持っておこうという心構えが大事です。たとえ、あなたが疑問さえ浮かばなかったとしてもです」とスタンツ氏はいい、 「未来を見通せる水晶玉が無ければ、最初から適任の人たち、特にタンク基地で働く人たちを巻き込んでおくことが重要です。この人たちは、あなたが疑問に思ってもいなかったことについて知識・経験を提供してくれるでしょう」と語っている。  

< 現場での対応 >

■ タンク火災が発生したり、タンク火災へ至るおそれのある事故の現場に到着したとき、現場指揮所長はつぎのような要因を迅速に評価しなければならないとスタンツ氏はいう。  

 ● 現場地区に人が残っていないか、そしてすべての人たちが退避したかをほかの作業者といっしょになって確認することによって人員を把握する。

 ● 事故が拡大する恐れはないか、火災に曝露される恐れはないか、追加の支援を頼む必要はないかをただちに判断する。この目的は、事故が複数の事象に拡散しないことや、ほかの設備に広がらないであろうことを確認することにある。

 ● どうしたら問題を軽減できるかをすぐに判断する。たとえば、バルブをコンピューター画面から遠隔で閉止することはできるか?

 ● 事故の影響や広がりを監視するためのデータを提供できる固定式の空気モニタリング装置を探す。

■「現場に固定システムが設置されているか確認することは難しいことではないと思います。しかし、機器を動かしている人たちと話し合って、それが重要な情報であることを共有化することは都合の悪いことではありません」とスタンツ氏はいう。

■「タンク火災と戦うとき、つぎのような考慮すべき事項があるとスタンツ氏はいう。

 ● タンクの設計や建設状況は把握できているか?

 ● タンクの運転状態は把握できているか?

 ● タンク内に貯蔵されている物質の種類。可燃性、爆発性、腐食性、または毒性があるか?

 ● タンク内に入っている液体は重質か、軽質か? 液体はガソリンか、原油か?

 ● タンク内の液体の量はどのくらいか?

 ● タンクは火災になっているか、あるいはベーパー抑制を要する状況か?

 ● 落雷の危険性のある気象条件ではないか? 危険性のあるベーパー類を広がる恐れのある強風の気象条件ではないか?

 ● メンバーが火災を抑えるために展開できる既存の泡消火システムはタンクにあるか? 半固定式泡消火システムの展開は誰が決めるか?

 ● 状況が拡大していく可能性はないか?

 ● 大気モニタリングを実施する必要はないか? モニタリングの結果は消火戦術を変える必要はないか? あるいは泡モニターの台数を増やさなくてもよいか? たとえば、空気質が悪化したり、封じ込めができない場合、特定の道路を閉鎖したり、近隣住民を避難させる必要はないか?

■「タンクの専門家らはタンクに関連する情報を知見としてもっており、解決につながる要因をすばやく識別できるので、その道の専門家に相談すれば、大抵の変化に対処できる」スタント氏はいう。たとえば、タンク関連で働いている人は、タンクが内部型浮き屋根式タンクであるか、固定式のコーンルーフを備えたタンクであるか、外部型浮き屋根式タンクはすぐに分かる。

■「タンクの専門家らはタンクに関連する情報を知見としてもっており、解決につながる要因をすばやく識別できるので、その道の専門家に相談すれば、大抵の変化に対処できる」とスタント氏はいう。たとえば、タンク関連で働いている人は、タンクが内部型浮き屋根式タンクであるか、固定式のコーンルーフを備えたタンクであるか、外部型浮き屋根式タンクはすぐに分かる。

科学技術の進歩

■ 「科学技術は過去10年間で信じられないほどの進歩を遂げました。熱画像カメラを使用すれば、タンクの液位を知ることができます。ドローンを使用していろいろな情報を集めることができますし、ドローンに熱画像カメラを取り付けることもできます」 とスタンツ氏はいい、「以前は、人が歩き回って、地域をいろいろな角度で評価する必要がありました。いまではドローンを使用すれば、その地域の静止画像やビデオ映像を取得できます」と付け加えた。 

■ 科学技術の製品を導入することはひとつの選択肢である。しかし、火災現場の精神的なプレッシャーがかかる中で、技術を適切かつ効率的に使いこなせるかどうかは別の問題である。 

■ 効果的に科学技術を使いこなすために、消防部門は資機材に知るだけでなく、機器を操作する能力を確かなものとする知識と技能を訓練する必要がある。

■「進んでいる訓練計画を実施している消防隊などの緊急事態対応部署では、メンバー各個人の適格性を測っています。彼らは教室に座って解答欄にマークを記載しても証明書や資格を取得することはできません。緊急事態対応部署では、実際の緊急事態時に住民を安全且つ効果的で期待されることを実行できるか対応者全員を対象にして毎年確認しています」 とスタンツ氏はいう。

■ メンバー各個人の適格性を確認するには、技能を習得修了している人たちに観察してもらい、訓練についてテストしなければならない。たとえば、固定モニターの操作方法の適格性は、テストを受ける消防士を観察することになる。

■「メンバーを訓練して適格性があることを確認し、配置する人員に適正なバランスをとり、24時間年中無休で対応できるようにすることです。緊急対応組織にボランティア型消防士の人あるいは生産部門や保全部門から一時的に引き抜いてきた人たちを配置している場合、別な挑戦的課題があります。それらの人たちにとって、消防はフルタイムの仕事ではありません」 とスタンツ氏は説明する。

■ それでも、各メンバーが認定された対応分野について毎年十分な再教育訓練を受けることが重要だとスタンツ氏は述べている。

■「この分野には、事故対応指揮、トレンチレスキュー、ドローン使用の救出のほか、救急医療、危険物質の戦いや消火活動の訓練を受けた人たちが当てはまります」とスタンツ氏はいう。

■ 業界によっては、訓練プログラムが非常に複雑になる可能性があるといい、教える訓練内容を月ごとに細かく分けるのがよいと、スタンツ氏は説明する。ただし、適格性を改善し、維持させていくには、訓練は少なくとも四半期ごとに行う必要がある。

■ 労働安全衛生局(OSHA)では、特定の分野で訓練を受けた人々は、毎年、指定時間数の再教育課程を終えなければならないとしている。

リスクの軽減

■ 「企業やコミュニティは、火災との戦いをしている第一線に立った対応者のリスクや輻射熱などの曝露の状況を減らすために科学技術を使用することは望ましい。しかし、消防士などは必要なときに科学技術の機材を効果的に使用できなければなりません」とスタンツ氏はいう。 

■「私たちが防爆性のある建物の中に座って、操縦桿(そうじゅうかん)やジョイスティックのついたコンピューターを備えた設備を使って作業できるのであれば、それが火災と戦うにはもっとも好ましい方法でしょう。ロボット工学が進歩し、火災抑制に関する科学技術を取り入れた設備と組み合わせることは推進を加速しているようです」スタンツ氏は付け加える。

■ 効果的な訓練プログラムによって、いかなる種類の事故時でも重大なミスを起こすことはなくなる。

■「火災の抑制や漏洩の封じ込めの戦術を展開するときになって事故の想定や疑問点を尋ねるのでは遅く、その前のリスク評価とデータの検証にすべて帰結します」とスタンツ氏はいう。

■ たとえば、静電気放電がリスクだと理解していない人がいれば、そのときはベーパーを抑制しようということが、結局、火災を制御する取り組みに変ってしまうかも知れない。 というのは、ベーパーの抑制を展開する戦術が、燃料を着火させる静電気を形成してしまうからである。

■「だれもができるだけ早く火を消したいと思っています。しかし、最初に冷却作業、疑問点やデータを確認するといった防御的な方法を取ることによって、全員がエリアから確実に抜け出すための時間を稼ぐことができます。また、隣接エリアからの移動や孤立などの問題を悪化させるような状況にならないように追加の対策を講じることもできます」とスタンツ氏はいう。 

■ 火災事故には多くの潜在的なリスクがある。そのため、消防部門は潜在的な事故に対処するための計画を立て、その対応を日常的に実践していくべきだとスタンツ氏は説明した。 

■ たとえば、原油が火災になった場合、ボイルオーバーの発生する危険性が高くなるかもしれない。一般的、タンクには全体を通じて水が存在しており、特にタンク底部には原油の下側に水が存在する。火災時、タンク内には水の沸点よりかなり高温の層が形成され、その層が下降するにつれて極めて危険な状態をもたらすとスタンツ氏はいう。

■「燃えている油の高温の層が下降して水が存在しているところに達すると、いわゆるフロスオーバー(泡立ち)と呼ばれる現象が発生し、場合によってはボイルオーバーの状態になります。そのとき、存在していた水は水蒸気に変わり、燃えている熱い油をタンク上部から噴き出させます」とスタンツ氏は説明した。

■「ボイルオーバーが起こると、燃えている油がタンク外に数百ヤード(数百メール)噴き飛ばされる可能性があります」とスタンツ氏はいう。「そのため、タンク内にどのような種類の液体が入っているかを知ることは非常に重要です。タンク内の液体が原油ならば、それはゲーム・チェンジャーのように大きな影響を与えるものだからです。高温の層が水の層に達して悪夢を引き起こす前に何かをしなければならないため、時間に余裕はありません」

■ 変化の兆候を知ることは、安全な避難経路や距離を判断するのに役立つ。風向きが変わり、汚染物質が人口密集地域に流れそうな場合、別な地域からその地域に人々を避難させることは有益ではないとスタンツ氏は説明した。タンク内の液体が原油の場合、避難はより広範囲で距離をとる必要があり、避難は短時間で実施する必要がある。

■ 輻射熱が他のタンクや可燃性物質の点火源になる可能性があるため、風向きも注意が必要であるとスタンツ氏はいう。

■「このため、空気のモニタリングが大事になります。それは、避難の場所や経路への影響、あるいは近くの物質への曝露に影響を与える可能性があるためです」とスタンツ氏は付け加えた。

■ 日頃からさまざまな対応を行うことで、メンバーが潜在する事象を管理し、大きな問題がさらに大きくなるのを防ぐことができる。

補 足

■「トレンチレスキュー」は、溝状の地形(トレンチ)で周囲が崩れないよう処置を行い、二次災害を防止しながら救助活動を行うことである。工業界の消防部門の人にはなじみはないが、日本の公的消防機関では、トレンチ(溝)レスキューという名称で実際に訓練が行われている。たとえば、「県下4市合同トレンチ(溝)レスキュー(平成27120日・21日)」(小田原市消防本部)や「トレンチ(溝)レスキュー訓練を実施しました」(松戸市消防局)を参照。


■「ボイルオーバー」については、このブログでもたびたび紹介してきたが、主なものはつぎのとおりである。

 ●「貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測」20142月)

 ●「浮き屋根式貯蔵タンクのボイルオーバー」20144月)

 ●「原油タンク火災の消火活動中にボイルオーバー発生事例」20139月)

 ●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー(1974年)」20142月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その1) 」201410月)

 ●「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故(19838月)」201412月)

 ●「原油貯蔵施設におけるリスクベース手法による火災防護戦略」20163月)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」20168月)

 ●「原油貯蔵タンク火災時のボイルオーバー現象」20169月)

 ●「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」20192月)

 ●1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー(泡消火剤の搬送)」 20218月)

所 感

■ 今回の資料はトレンチレスキューの訓練が出てきたり、どちらかというと公的消防機関の人を対象にしている。しかし、心構えとして「あらゆる状況での変化を理解することと、その対応の影響や事故拡大の可能性について認識しておくことが肝要」という言葉は工業界の消防隊などの緊急事態対応部署の人にも当てはまる。

■「動的リスク評価が重要である理由」というやや硬い表現であるが、書かれている内容は、科学技術(テクノロジー)を使いこなし、日本でいう“危険予知”を活発に行うということのように思う。

 たとえば、ある原油タンクでリムシール火災が起きたとき、現場指揮所や消防隊のメンバーがどのような対応をとるかである。リムシール火災ならば、既存の固定泡消火システムで対応ができると疑念を抱かず、ほかの対応を取らなかったらどうなるか。固定泡消火システムが途中で停止してしまい、さらに浮き屋根が不調(沈降)になったらどうなるか。テクノロジーの粋を集めた大容量泡放射砲システムの搬送に時間がかかってしまったらどうなるか。そうなれば、資料に書かれているようなボイルオーバーに至る危険性が出る。「火災を消すための設備を配置するための訓練は大切である。一方、タンク火災との戦いで勝利するための本当のカギは、事故が発生したときには、すでにダイナミックなリスク評価を完了しておくことである」という指摘は重い。事前のリスク評価の段階で“危険予知”を働かせ、あらゆる事態を想定しておき、対応の事前計画を完了させておくことだと思う。  

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Why Dynamic Risk Assessments Matter(動的リスク評価が重要である理由), by Ronnie Wendt, April 14, 2021 


後 記: 本資料は事故対応の心構えについて具体例を交えて書かれたものですが、最後に「ボイルオーバー」の事例が出てきます。前回のブログでは、1964年の新潟地震時に起きたボイルオーバー事故を取り上げましたが、やはり、原油のボイルオーバー事例は消防隊など緊急事態対応に携わる人たちにとって不気味な怖さのある事象だという気がします。このブログでは、補足で記載したようにできるだけボイルオーバーに関することを取り上げてきました。ときには、読み返すことも良いのではないでしょうか。

2021年8月26日木曜日

1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー(泡消火剤の搬送)

 今回は、1964年の新潟地震における石油タンク火災に関して、最近インターネット情報の「乗り物ニュース」に泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動について投稿されていました。この内容を既ブログ「1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」(20145月)の消防活動の追録としてまとめましたので、紹介します。

要 旨

■  日本はこれまで多くの地震に遭ってきた。地震が起こると、油槽所、製油所、石油化学などの工場もまた被害を受けてきた。この論文では、日本において地震によって被害を受けた石油タンクの事故の歴史をまとめるとともに、1964年新潟地震の被災状況についてまとめた。

「日本における石油コンビナートの災害の歴史」については、既ブログ1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」20145月)を参照。

■ 19646月に新潟地方で起こった地震は石油コンビナート地区に大きな被害を与えた。約150基の油タンクが火災となり、他に90基ほどのタンクに被害が出た。原油や燃料油を保有していたタンクでは、ボイルオーバーが数回起こっている。

1964年新潟地震

■ 表2に1964年新潟地震の概要を示す。新潟市は東京から北250kmに位置し、日本海に面しており、石油コンビナートがある。多くの建物や家屋が被害を受けたが、火災は工業地帯近くの家屋に限定された。石油コンビナートを含む新潟市域は津波に襲われた。石油コンビナートを含む市街地の大部分に地震による液状化現象が発生した。おそらく液状化によると思われる橋の損壊が起こった。

石油コンビナートの被害

■ 新潟の石油コンビナートは大きく、その中には製油所と数百基の石油タンクがあった。火災の多くはシェルグループの昭和石油の製油所において起こった。(図1、2、3を参照) 図4は、石油タンクの大半が火災を起こした石油コンビナート地区をA、B、C、D、Eの5つに分けてみたものである。


■ エリアAには、大型の原油貯蔵タンクが5基(表3を参照)あったが、No.1103タンクから出火したのち、全タンクに延焼した。 No.1103タンクでは、地震による油の揺動で油が側板を越えて溢流し、屋根とタンク側板が衝突したことによって火災が起こったものとみられる。

■ エリアBでは、津波の影響を受け、ガソリン、灯油などの油が海に流出した。2番目の火災は、昭和石油と三菱金属の境界付近で起こった。火災の着火源は、保管されていた金属(おそらく鉄粉)と海水の化学反応による発熱と思われる。エリアBには揮発性の油が漏洩していたため、火災はすぐに広がっていった。図4の矢印は火災の広がりの方向を示す。

■ エリアAには大型の原油タンクが5基あり、エリアCには灯油と原油タンクがあり、エリアDには重油タンクがあった。エリアEには、原油をはじめ、いろいろな油種を貯蔵していたタンクが数多くあった。

■ 新潟市の西地区には日本石油の製油所があり、大量の油が漏洩していたが、火災は発生しなかった。

■ 最初にNo.1103タンクで発生した火災は、短時間でエリアAの全タンクに広がった。61823時(地震発生から約58時間経過)、 No.1103タンクにおいてボイルオーバーが起こった。ボイルオーバーは他のタンクでも起こったが、発生回数ははっきりしていない。しかし、ボイルオーバーが起こったことによって、エリアAの火災を消火することは極めて困難になり、火災は628日まで続いた。

■ 三菱金属との境界付近で発生した2番目の火災は、エリアCの西および南の方向へ広がり、さらにエリアDとエリアEへと拡大していった。エリアDには10基のタンク(ガソリン、灯油、軽油)があったが、幸いなことに消防隊の活動によって延焼を免れた。

■ ボイルオーバーは、エリアBの重油タンクで発生し、さらにエリアCとエリアDにあった原油タンクでも起こった。ボイルオーバーの正確な発生回数は明確でないが、おそらく少なくとも45回あったとみられる。

事故の時系列

■ 津波によって新潟港は被害を受けた。地震によって液状化が起こり、揚圧力や噴砂の現象が生じ、油タンクや施設にダメージを与えた。石油コンビナートでは4か所で火災が起こっていた。

火災の始まり

■ 4か所の火災の概況を以下に示す。

昭和石油の製油所

■ 火災は地震直後に原油タンク地区で発生した。地震による油の揺動によって原油が飛散し、火災に至った。その後、火災はエリアA内のタンクに防油堤を越えて広がった。合計5基のタンクが火災となり、ボイルオーバーは2基あるいは3基のタンクで起きたとみられる。

昭和石油と三菱金属の境界付近

■ 地震発生後、約5時間経過して2番目の火災が発生した。この地区の製油所側では、深さ約0.5mの海水に浸かっていたが、損壊した油タンクや配管から漏れた揮発性の油の層が水に浮いていた。 このため、火災は水上を容易に広がっていった。結局、計138基のタンクが火災あるいは損傷を受けた。

ナルマス・オイル

■ 蒸留装置の製品を貯蔵する容量100KLの燃料タンクが地震によって損傷した。漏れた油に引火し、火災は水の上を走って建物へと広がった。火災は617日午前4時に鎮火した。

ニットー・ファイバ

■ 埋設のパイプラインから原油が漏れ出し、引火した。火は水の上を伝わって広がり、617日午前5時に鎮火するまで火災が続いた。

消防活動

■ 火災時における主な出来事と消防活動の概要を表4に示す。発災初期において地元消防署は市街地の災害対応に集中した。石油会社の消防隊は617日の早朝から活動を始めた。しかし、616日、17日の消防活動は不十分なものだった。その後、東京消防庁と他市の消防署の派遣部隊が支援に駆けつけた。この消防活動によってエリアDにあった製品油タンクの延焼防止に成功した。

=泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動=

■ 油火災には専用の泡消火剤と化学消防車が必要不可欠であるが、当時の新潟市消防局に化学消防車は1台もなく、企業所有のものが3台だけだった。消火剤の備蓄もわずかだった。これを知った東京消防庁は、616日夕方、化学消防車5台と消防隊員36名を応援として出動させ、消火剤も緊急輸送することを決めた。消火剤は東京と埼玉のメーカーで直接トラックに載せられ、パトカーの先導付きで新潟へ向かった。とはいえ、当時はまだ関越自動車道などなく、一般道で約11時間以上もかかる大変な行程だった。

■ 応援隊が新潟に向かう間にも、火災がすさまじい勢いで広がっているとの情報が次々と入った。そこで東京消防庁では、航空機による消火剤の空輸を防衛庁(当時)に打診した。防衛庁は航空自衛隊の出動を決定する。在日米軍からも協力の申し出があったので、日米共同での空輸作戦を行うこととなった。地震発生の翌日617日早朝、東京都下の在日米軍立川基地(現在の陸上自衛隊立川駐屯地)に古いプロペラ輸送機4機が集結する。輸送機は名前をカーチスC-46“天馬といい、第2次世界大戦中に米国で大量生産され、戦後に航空自衛隊へ供与されたもので、製造から20年過ぎた古いものだった。在日米軍からはロッキードC-130輸送機1機が米軍提供の消火剤を積んで参加した。  

■ 集まったC-46輸送機4機とC-130輸送機1機の計5機は、消火剤入りポリタンクと専用の噴射ノズルを積んで立川基地を離陸した。新潟空港は施設が破損して離着陸不能であったため、あらかじめ消火剤にはパラシュートがくくり付けられており、それを空港上空で地上へ落とす物量投下を実施した。こうして新潟に届けられた消火剤は火災現場に運ばれ、消火活動に使われた。  

■ 618日午前030分、10時間以上かけて新潟市に到着した東京消防庁は、体制を整え火災への反撃が午前5時に開始された。しかし、618日に最初のボイルオーバーの発生し、火災との戦いをくり広げる消防隊を支援するため、消火剤の空輸は続行された。618日以降、輸送機の出発地は消火剤メーカーに近い埼玉県の航空自衛隊入間基地に移された。 

■ 618日から19日にかけての深夜には、航空自衛隊のC-46輸送機7機と米軍のC-130輸送機3機による夜間空中投下が敢行された。投下目標は、新潟空港の滑走路上である。そこには夜間ということで目印代わりに炎が焚かれたドラム缶が並べられていた。ちなみに、C-46輸送機にはレーダーなどなく、舵も重かったといわれているため、夜間低空飛行は非常に困難だったと想像される。

■ 空輸作戦は619日午後まで続けられ、延べC-46輸送機×22機、C-130輸送機×5機により、約87,730リットル(87.73KL)の消火剤の空中投下を行った。

タンク火災およびボイルオーバー

■ 異なるタンクでボイルオーバーが何回か起こったということは、いろいろな報告の中で言及されているが、正確な情報は明らかでない。(表4を参照) 火災発生から約58時間経過後、No.1103タンクでボイルオーバーが起こった。ボイルオーバーの発生までの時間が長かったのは、浮き屋根が浮力機能を有してリムシール火災の様相が長く続き、油への熱移動が小さく、油の燃焼速度やヒートウェーブ下降速度が遅かったためである。ヒートウェーブ下降速度は0.25m/hと推算している。 No.1103タンクでは、ボイルオーバーが2回以上発生した。

■ エリアC、D、Eには、エリアAと同様、ボイルオーバーを起こす恐れのある原油や燃料油のタンクがあった。事実、これらのタンクのいくつかはボイルオーバーが起こっているが、正確な発生時間や回数は分かっていない。エリアEにあった小型タンクで3日後にボイルオーバーが起こっている。ボイルオーバーが遅く起きたのは、前述の理由と同じだと思われる。何度もボイルオーバーが発生するような状況にあり、消防活動は困難を極めてが、消防隊には大きなケガをする消防士が出なかった。このような厳しい条件のもとで、消防隊は最善を尽くした活動を行なった。

教 訓

■ 新潟地震当時の日本にも、危険物の取扱いおよび貯蔵に関する法令があったが、この地震を契機に改正された。火災からの教訓と法令の改正内容はつぎのとおりである。

1) 防油堤が地震で簡単に壊れたので、防油堤の強度が災害を教訓にして改正された。

2) 油タンクの構造に関する法令が災害を教訓に改正された。

3) 火災が民間の家屋にまで達したので、石油施設のレイアウトに関する法令が見直された。

4) エアフォーム・チャンバーは全タンクに設置されていたが、そのほとんどは機能しなかった。このため、エアフォーム・チャンバーは火災警報システムと自動的に連動して作動すべきとされた。

 まとめ

■ この論文では、日本における地震の歴史とその地震による石油コンビナートの被災状況についてまとめた。

■ 1964年新潟地震では、大型の石油タンクが火災に至り、原油および燃料油を貯蔵していたタンクのいくつかはボイルオーバーが発生した。地震と津波によって新潟市は甚大な被害を受けたが、火災の消防活動時には、東京消防庁の尽力もあってケガをした人はほとんどいなかった。

■ 2011年における東日本大震災は、地震のような自然災害時に私たちが危険に直面するということを再認識させた。

補 足                                                                          

■「消防研究センター」(National Research Institute of Fire and Disaster)は消防庁の研究機関で、火災原因究明のための調査・試験や消防資機材の開発など消防の科学技術に関する研究開発を総合的に行っている。もともと1948年に創設された「消防研究所」が前身で長い歴史をもった機関であるが、現在は消防庁消防大学校に設置されている形となっている。著者の古積博氏と岩田雄策氏は消防研究センターの危険性物質研究室に所属する専門家である。古積氏はボイルオーバーを専門分野の一つとして研究され、多くの論文を発表されている。

■「昭和石油 新潟製油所」は1953年に建設され、 40,000バレル/日の精製能力があったが、1999年に精製装置は停止され、現在は「新潟石油製品輸入基地」として石油タンク基地となっている。「昭和石油」は1985年にロイヤル・ダッチ・シェル傘下のシェル・ペトロリウムと合併し、「昭和シェル石油」と改称されている。なお、旧新潟製油所跡地には、2010年、太陽光発電施設「新潟雪国型メガソーラー発電所」の稼働を開始させ、日本の石油元売大手が商業用の太陽光発電事業に初めて着手するケースとなり、2012年にはさらに増強し、現在8MW規模のメガソーラー発電所となっている。一方、新潟地震時に火災発生のなかった日本石油新潟製油所(26,000バレル/日)も1999年に精製装置を停止している。

■ 昭和石油新潟製油所の火災に関する消防活動は、予防時報「新潟地震に伴う昭和石油製油所火災戦闘記」、小野寺慶治(196410月発行)に詳しく述べられている。(残念なことに、ブロック分けとタンク番号を記載した図が添付されていない) 小野寺氏は、当時、東京消防庁消防監として派遣部隊の本部長として現場活動に参画し、地震による損傷と津波による被害を含む広域のタンク火災という過酷な条件の中で、現在からみれば貧弱な消防資機材でよく奮闘されていることがわかる。火災の消火活動で得た19項目の教訓が述べられており、広域の複数タンク火災に直面した経験は現時点でも参考になる。以下にその例を列記する。

 ● タンク容量、現在量、油種などを早く調査して消火活動の重点を決定し、対応部隊を決定しなければならない。しかも、未燃タンクの受ける温度を測定し、タンクの温度を測定し、さらにその後の変動をいち早く察知しなければならない。

 ● タンクの油量が少なければ少ないほど、内部ガス圧が加熱により急激膨張をなし、タンク屋根が噴き飛んだり、あるいは屋根が裂けて口をあける。 

 ● 燃焼しているタンク側板は、油レベルまでは変色しないが、上部燃焼部分は焼けさびとなる。さらに長時間燃え続けると、タンク側板上方は溶解して内部へ垂れ下がり、屋根部のないタンクでは油量が少なくなるにつれて低くなり、高さ34mくらいで止まる。また、屋根部が口を開けて燃え続けるタンクは、その部分がゆがみ、肩部が下がって変形する。この場合、タンク内部は不完全燃焼のため、火勢は弱い。

 ● 堤内火災で、配管のバルブやタンクの下部マンホールが長時間火災に曝されると、パッキンや締付けボルトが狂い、漏油するようになり、これがまた燃え続ける。

 ● 屋根部の飛んだタンクは、大きく口を開けて燃え、ときどき爆音を発する。これは、燃焼中に風のため空気がよく入り、完全燃焼する時に起きるものであり、またタンクの内部は空気の流通が悪いため、火勢は弱いが、縁から上方は急激に完全燃焼を起こし、上昇速度が非常に速い。従って、射程の短い泡放射を行っても、タンク内に泡は入らず、飛ばされてしまう。(タンクが高い場合)

 ● 燃焼しているタンクから受ける輻射熱は相当高温であるが、空気の対流作用が激しいため、周囲から流入する冷たい空気のため呼吸は楽である。

 ● 注水によるタンク冷却は効果があるが、防油堤内の排水を考慮しなければならない。水位が高まり、防油堤の外に漏れ出し、火面を広げないように留意すべきである。防油堤が地震によって壊れている箇所があった。

 ● 地上流出油火災は噴霧消火で十分効果をあげられるが、広範囲の火災には、その幅だけの噴霧ノズルを用いないと、側面から火が回り、退路を遮断される危険があるので、消火した部分を土砂などにより区切って行くようにするのが大切である。

 ● 筒先隊員はもちろん指揮者も機関員も平常火災と同じ人数では、長時間高温下の活動には耐えられない。常識的に考えて、指揮者と機関員は2人宛とし、筒先担当者は9名以上として3班に分け、1020分宛交代させるようにしなければ、隊員の疲労がかさみ、危険である。

 ● 長時間かつ灼熱下での活動では、消火ノズルは方向を変えられる固定式放水銃のようなものが必要だった。放射能力は1,500 L/min、射程4060m程度のものが必要である。東京消防庁の化学消防車のノズルは射程も短く、隊員が手で持つタイプであったから、疲労と危険が伴っていた。(注:当時の消火資機材のレベルが想像できる)

■「No.1103原油タンク」は、地震による油の揺動で油が側板を越えて溢流し、屋根とタンク側板が衝突したことによって火災が起こったものとみられるが、「昭和39年新潟地震昭和石油株式会社 新潟製油所火災」(消防庁)によると、「地震とともに屋根が34回側板より上方に揺動し、同時に上部から側板に沿って原油が周囲に溢流した。そして、4回目くらいの揺動時に火災が発生した」とある。

  No.1103タンクは容量30,000KLで直径51.5mであった。現在の消防法によると、必要な大容量泡放射砲の放水能力は20,000 L/minである。これは泡放射量約9.6 L/min・㎡に相当する。当時の消防車の性能では消火できないし、小野寺氏の要望した放射能力1,500 L/min程度では勿論、現在の大型化学消防車(放射能力3,000 L/min程度)を複数台配置しても消火できない。

 実際、燃え尽きる戦略がとられた。しかし、No.1103などのタンク群の西隣に主装置があり、さらに延焼を免れている製品油タンク群があった。このため、620日、燃え尽きる戦略のほかNo.1103タンクのボイルオーバーによる被害防止策として、タンク群と主装置間の道路に土砂による堤防を構築する戦術がとられた。この堤防(長さ200m、高さ70cm、幅1m)は、煙と熱気の中、自衛隊100名で約2時間余で構築されている。

■「1964年新潟地震」は新潟国体の終わった4日後に起こっている。そして、4ヵ月後に1964年東京オリンピック(1010日開会式)が開催された。地震直後は大きなニュースになったが、東京オリンピックがあったため、その後は地元以外に忘れられた感がある。しかし、現在、インターネットに投稿されている新潟地震に関する情報は少なくない。新潟地震による災害を表した写真の一部を以下に紹介する。


所 感20145月)

■ 1964年新潟地震があったことは知っているが、このように凄まじい災害だったとは思っていなかった。2011年東日本大震災前であれば、おそらく極めて稀な事例という位置づけで終わっていただろう。しかし、新潟地震の状況を見ていくと、東日本大震災時の津波による石油タンク損傷と油流出、LPガスタンク爆発・火災などの被災状況と重なる。

 現在は1964年当時より確かにタンク施設は強化され、消防資機材も充実した。しかし、今の石油タンクの事故想定は基本的に単発事故(タンク1基の事故)である。だが、単発事故に制限してくれる保証は何もない。 1964年新潟地震や2011年東日本大震災の事例をみると、堤内火災を伴ったタンク火災や複数基火災を仮想しておくべきである。

■ 消防資機材が充実したとはいえ、例えば、大容量泡放射砲システムは指定区域に1セット(最大タンクを対象)である。地震により同区域の複数基のタンクが全面火災になった場合、誰が、どのような判断でどこに大容量泡放射砲システムを送り込む決断をするのか考えておく必要がある。特に原油タンクはボイルオーバーが発生する可能性があり、余裕時間はない。今回、新潟地震における火災タンクのヒートウェーブ下降速度は0.25m/hと推算されているが、これは極めて稀な遅い例である。ヒートウェーブ下降速度の仮定値を設定し、ボイルオーバーの発生時間を推算して消火戦略を計画しなければならない。

所 感20218月)=泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動=

■ 1964年新潟地震時における泡消火剤のロジスティクス(兵站)活動を示すインターネット情報が投稿されたことは興味深い。延べC-46輸送機×22機、C-130輸送機×5機により、約88KLの消火剤が空中投下されたとのことである。当時の化学消防車や泡モニターの能力から考えれば、これだけの泡消火剤があっても火災を制圧することはできなかっただろうことは容易に推測できる。

■ 現在、大容量泡放射砲システムが導入されたが、複数基のタンク火災への対応に課題があるほか、当初から指摘されていた搬送に関わる課題がある。この点、50年前に中古の輸送機で泡消火剤を運ぶというアイデアと実行力は大いに参考になるのではないだろうか。 

備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

  ・「Multi-Boilover  Incidents in Oil and  Chemical Complexes in the 1964 Niigata Earthquakes, Loss Prevention Bulletin 231 June 2013        Hiroshi Koseki*, Gilles Dusserre**, Yusaku Iwata*       *National Research Institute of Fire and Disaster, Japan      ** Ecole des Mine d’Ales, France

      Trafficnews.jp,地獄のコンビナート火災へ向かった空自の老兵機&在日米軍機 知られざる51時間の死闘,   July  19,  2021

後 記: 今回の泡消火剤搬送のような情報は貴重です。本文は「乗り物ニュース」というインターネット情報ですが、このような情報があるのを知ったのは、Yahooニュース・ジャパンです。現在でも、火災事故における資機材のロジスティクス(兵站)活動をまとめて、それを公表(発表)することはほとんどありません。本ブログにどのように載せようか試案しましたが、別なブログにするよりも元のブログに追記しておく方がよいと考え、今回のような形にしました。しかし、初めて知った「乗り物ニュース」ですが、乗り物に興味をもっている人は多いのでしょう、かなり頻度高く情報を出しているようです。

2021年8月19日木曜日

イランのハールク島にある石油化学でガソリンタンク火災

  今回は、2021810日(火)、イランのハールク島にあるハールク石油化学においてガソリンタンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、イラン(Iran)のハールク島(Kharg island)にあるハールク石油化学(Kharg Petrochemical Company)である。

■ 発災があったのは、本土から約25km離れたハールク島のハールク石油化学のタンク地区にある貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021810日(火)朝(午前2時頃という情報もある)、ハールク石油化学で大規模の火災が発生した。公開された写真では、2基のタンクから黒煙が上がっているように見える。

■ 事故に伴い、ハールク石油化学の消防隊が出動した。

■ 発災から1時間ほどでタンク火災を制御でき、完全に消火するのに、4時間ほどかかったと報じられている。一方、午前10時時点で火災は消火できていないとも報じられている。

■ ハールク石油化学の広報担当は、タンクにガソリンが入っており、何らかの引火源の火花によって炎上したものとみられると発表した。

■ 事故に伴う死傷者は無かった。

被 害

■ ガソリンタンクが火災で損傷した。詳細な被害は不詳である。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は分からない。

< 対 応 >

■ 消火後、消防隊は影響を受けたタンクの冷却作業を継続した。

補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約8,000万人のイスラム共和制国家である。

「ハールク島」(Kharg Island)はブーシェフル州に属し、イラン本土から約25km離れた位置にあり、日本では英語のつづりからカーグ島とも呼ばれる長さ8 km×4 kmの小島である。イラン石油の主要な輸出基地で、かつては世界最大のオフショア原油ターミナルであった。しかし、1980年代のイラン-イラク戦争でイラク空軍によるハールク島の施設への激しい爆撃が行われ、ほとんどのターミナル施設が破壊された。1988年に戦争が終結した後も、施設の復興は遅く、 2009年に原油の輸出が再開された。

 イランで起こった事故でブログに紹介した事例は、つぎのとおりである。

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でナフサ貯蔵タンク火災」

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でまた貯蔵タンク火災」

  ● 201610月、「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」

  ● 20172月、「イランのテヘランで石油施設に落雷後、タンク火災」

■「ハールク石油化学」(Kharg Petrochemical Company)は国有のイラン石油会社系列で、1967年に設立され、ハールク島で原油からプロパン、ブタン、ペンタン、硫黄などを製造する石油化学であるとともに、原油輸出の石油ターミナルがある。

■「発災タンク」は内液がガソリンと報じられているだけで、大きさ(容量、直径×高さ)は分からない。発災写真を見ると、タンク型式はアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクと思われる。グーグルマップで調べると、島の南側にドーム型タンクがある。この付近のタンク群の配置が発災写真のタンク群に似ている。このドーム型タンクが発災タンクならば、直径は約51mであり、高さを18mと仮定すれば、容量は36,000KL級とみられる。

 一方、このタンクの後ろ側には、直径約35mのドーム型タンクがあり、高さを15mと仮定すれば、容量は14,000KL級とみられる。さらに、これらのタンクの間には、直径約10mの小型タンク(300KL級)が4基ある。黒煙が出ている高さから直径約10mの小型タンク群が火災の起点ではないかと思われる。なお、発災写真の左側タンク付近からも黒煙が上がっているが、これもタンク本体でなく、後ろ側にある配管やプラントの一部から出ているのではないかと思う。

所 感

■ 今回の事故は、発災写真で見られる容量36,000KL級(直径約51m)のドーム型タンクではなく、このタンクの後ろ側にある容量14,000KL級(直径約35m)のドーム型タンク、またはこれらのタンクの間にある小型タンク(300KL級、直径約10m)が起点の火災ではないかと思う。黒煙が出ている高さから直径約10mの小型タンク群の可能性の方が高いと思われる。なお、発災写真の左側タンク付近からも黒煙が上がっているが、これもタンク本体でなく、後ろ側にある配管やプラントの一部から出ているのではないかと思う。

■ 事故は石油ターミナルのタンクではなく、原油からプロパン、ブタン、ペンタンなどを製造するハールク石油化学のプラントにおける貯蔵タンク関連設備であろう。運転中だったと思われるプラント関連であり、原因は設備不具合または運転ミスにかかわる事項ではないかと思う。

■ 発災写真が何時頃(発災後の経過時間)撮影されたものか分からないが、印象としては発災後、比較的早い時間帯ではないかと思う。「大規模の火災が発生した」と報じられており、発災写真が撮影された後、さらに火災の規模が大きくなっているのではないだろうか。消防隊による活動で1時間後には火災は制御されたという報道もあるが、どのような状態を制御と言っているか分からないし、疑問が残る。ガソリンを主とした軽質分の火災であり、消防活動は難航しただろう。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Fire at Kharg petrochemical terminal put out,  August 11, 2021

    Iranintl.com, Blaze Breaks Out In Iran's Kharg Oil and Petrochemical Terminal,  August 10, 2021

    Reuters.com, Fire put out at Iranian petrochemicals plant - state media,  August 10, 2021

    Jpost.com, Fire breaks out in Iranian petrochemical factory – report,  August 10, 2021

    Iranpress.com, Gasoline reservoir of Iran's Kharg Petrochemical Company catches fire,  August 10, 2021

    Theiranproject.com, Production not affected after fire at Iranian petrochemical plant,  August 10, 2021


後 記: 今回の事故情報も内容の乏しいものでした。ハールク島という離れ小島で起こっていますし、新型コロナウイルスによるメディア活動制限で仕方ないのかも知れませんが、もう少し何とかならないものかと思ってしまいます。実際、多くのメディアは写真すら無い状態で、どのような経緯で得たのか分かりませんが、公開されたのも被災写真は1枚だけです。唯一の被災写真に文句を言ってはなんですが、どのように解釈すればよいか分かりづらい状況の写真です。しかし、この写真をもとにグーグルマップで根気よく調べていったら、どうやらタンクの後ろ側に本当の被災部がありそうなことが分かりました。

 ところで、イランでは新型コロナウイルスの感染者と死者数が急増し、過去最悪の水準に達しているそうです。コロナ対策の規制が緩く、ワクチン接種も進んでおらず、封じ込めに苦戦(失敗?)しています。米国の制裁による影響が新型コロナウイルスの感染にも出ているようです。

 イランといえば、隣国アフガニスタンの政局変化は速かったですね。この春頃、イランとパキスタンからアフガニスタンへの帰還が続いているといわれていました。イランからの帰還者が今年3月には約6万人のピークがあったようで、今も多くのアフガン難民が帰還しているそうです。アフガニスタンにおける新型コロナウイルスの感染者データは図のように減少傾向のように見えますが、国の混乱で実態を表していないでしょう。政局の安定化の課題のほか、新型コロナウイルス感染対策も大変でしょう。(日本ものんびり構えている状況ではありませんが)


2021年8月12日木曜日

メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災

  今回は、2021731日(土)、メキシコのタバスコ州にあるペメックス社のドスボカス・マリータイム・ターミナルにある浮き屋根式タンクで落雷による火災が起こった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、メキシコ(Mexico)タバスコ州(Tabasco)にあるメキシコ国営石油会社;ペメックス社(Pemex)のドスボカス・マリータイム・ターミナル(Dos Bocas maritime terminal)である。

■ 事故があったのは、ドスボカス・マリータイム・ターミナルの浮き屋根式タンクである。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021731日(土)午後930分頃、落雷によって浮き屋根式タンクから火災が発生した。

■ 火はタンク周囲から上がっており、リムシール火災とみられる。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ ペメックス社は事故状況などの情報は公開していない。

■ 発災時の映像がインターネットのツイッターに投稿されている。

(投稿されたTwitter動画Antonio De Marcelo Aug 1を参照)    

被 害

■ 人的被害は無かった。

■ 貯蔵タンクが落雷によって火災となり、損傷した。落雷による被災タンク基数や内部液の焼失量は分からない。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は落雷によって浮き屋根式タンクのシール部で着火したとみられる。

< 対 応 >

■ 火災は深夜0時頃に制御された。

補 足

■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置し、人口約12,600万人の連邦共和制国家である。

「タバスコ州」(Tabasco) は、メキシコの南西部に位置し、人口約224万人の州である。

■「ペメックス社」(Pemex)は、1938年に米国、英国、オランダの石油会社に支配されていた石油産業をメキシコ政府が国有化して設立されたメキシコ国営石油会社である。

「ドスボカス・マリータイム・ターミナル」(Dos Bocas maritime terminal)は、ドスボカス港にあるペメックス社の重要な原油輸出ターミナルである。ドスボカス港には、ペメックス社の新しい製油所の計画があり、開発が進められている。この地域は希少なマングローブの林があり、環境問題が報じられている。

 なお、メキシコ(ペメックス社)では、パイプラインでの油窃盗事故が多く、ブログで取り上げたのはつぎのとおりである。

 ● 20147月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」

 ● 20178月、「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」

 ● 20191月、「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」

■「発災タンク」は、浮き屋根式タンクという情報のみで、容量や大きさ(直径×高さ)などの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べても、同種のタンク群があり、情報が乏しく、特定できなかった。

所 感

■ 火災の原因は落雷によるものとみられる。

 NASAの雷マップ(データは最新でないが)によると、雷の多い米国のメキシコ湾岸ほどではないが、メキシコのタバスコ州付近も雷の多い地域のひとつである。


 ■ タンクのリムシール火災は、つぎのブログを見ると、ドローンで撮影した状況などがわかる。

 ●「マレーシアの製油所で原油タンクが落雷でリムシール火災」 20206月)

■ タンク火災の消火活動は2時間半ほどかかったが、内容は不明である。グーグルマップのタンク周辺を見ると、入出荷配管以外に配管が走っており、固定式泡消火設備(または半固定泡消火設備)が設置されているのではないかと思われる。従って、固定式泡消火設備(または半固定泡消火設備)を使用し、消防隊の泡消火モニターを併用して消火させたものと思われる。 

 リムシール火災は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、リング火災とも呼ばれる。日本では、固定式泡消火設備を設けることになっており、リムシール火災への別な対応方法は考えられていない。海外では、固定式泡消火設備のないのがあり、リムシール火災への対応方法が考えられている。リムシール火災の対応について「補足」の中で言及したブログはつぎのとおりである。

 ●「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」20189月)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Tankstoragemag.com, Lightning causes tank fire at Pemex termina,  August 03, 2021

    Finance.yahoo.com, Fire controlled at Pemex storage tank in southern Mexico,  August 02, 2021

    Mexiconewsdaily.com, Pemex controla incendio en tanque de almacenamiento de Dos Bocas,  August 01, 2021

    Eleconomista.com.mx, Pemex controla incendio en tanque de almacenamiento de terminal de Dos Bocas,  August 01, 2021

    Elsoldemexico.com.mx, Controlan incendio de contenedor en refinería de Dos Bocas,  August 01, 2021


後 記: メキシコではパイプラインでの油窃盗事故については状況をよく報道されていますが、タンクの事故は報じられていません。事故が無いのか、事業者からの情報公開がないためなのか分かりません。今回のリムシール火災などは、発災状況がどうだったのか、消火活動はどのように行われたのか、知りたいことがたくさんあります。落雷による火災が起きたが、消火できて一件落着という事業者のように見えます。国内に競争のない国有会社のマイナス面なのでしょう。メディアも新型コロナウイルスのためか報道が淡泊な印象です。なお、メキシコでの新型コロナウイルス感染者数は増加傾向にあり、810日時点、平均で116,782人の新規感染者が報告されており、1日平均人数のピークだった 121日の96%になっているそうです。