今回は、2025年4月1日(火)、マレーシアのセランゴール州スバンジャヤのプトラハイツを通っているペトロナス・ガス・ベルハド社のガスパイプラインが漏洩により爆発があり、火災が発生し、多数の被害者や負傷者が出た事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、マレーシア(Malaysia)セランゴール州(Selangor)スバンジャヤ(Subang Jaya)のプトラハイツ(Putra Heights)にある国営石油会社;ペトロナス社(Petronas)系のパイプライン施設である。
■ 事故があったのは、住宅地のプトラハイツを通っているペトロナス・ガス・ベルハド社(PETRONAS Gas Berhad; PGB)天然ガス用の直径36インチのガスパイプラインである。パイプラインは1991年に設置され、30年経っている。
< 事故の状況および影響 >事故の発生
■ 2025年4月1日(火)午前8時10分頃、プトラハイツの地下を通っているガスパイプラインで漏洩により爆発があり、火災が発生した。爆発による炎は空高く舞い上がり、発生した巨大な炎は数マイル先からでも見えた。
■ イスラム教徒が祝うお祭り“ハリラヤ” の2日目に起きた爆発は祭りの静けさを打ち砕いた。 住民のひとりは、耳をつんざくような音を聞き、飛行機の墜落事故だと思ったと語っている。近くの住民は、家のドアや窓が揺れ、強い揺れを感じたという。
■ 最初の爆発で炎や土砂、瓦礫が空に舞い上がり、多くの人が命からがら逃げ出した。
■ 足に火傷を負った住民は、「家から急いで逃げたが、近くの火災の熱で転倒し、火傷を負ってしまった。自宅の天井が崩落し、敷地内に駐車していた自分の車が押しつぶされたのを見てショックを受けた」と語っている。火災現場近くの住民は、燃え盛る火を近くに感じながら逃げる途中で負傷した人も多いという。
■ 発災にともない、セランゴール消防局はパイプラインで火災が発生したことを確認し、関係消防署の消防隊を出動させた。出動したのは11の消防署から78名の消防士である。
■ ペトロナス社は、午前8時40分過ぎ、ガスパイプラインの主要なバルブ4か所を閉鎖し、孤立させることとした。この作業には約4時間かかると予想された。
■ 午前9時30分頃、炎が燃え盛る中、消防隊は消火活動を続けた。当時の火炎温度は約1,000℃に達していたという。一方、爆発後の破壊の様子をとらえたビデオがソーシャルメディア上で拡散し始めていた。また、ガスパイプラインの爆発について虚偽の情報も流布しており、警察が調査しているという。
■ 現場から半径290m以内で緊急避難が行われた。州知事は、消防署が安全対策として近隣の住宅を避難させ、事態が収束するまで住民は近隣のモスクなどに避難したと述べた。火災の影響を受けて避難した住民は、合計74世帯364人が2か所の仮設避難所に避難したという。
■ 事故にともなう負傷者は305人に達した。治療中の被害者は134人で、4月4日(金)時点で48人は依然として病院や診療所で治療を受けており、集中治療室に入った重傷者は1名である。死亡者は報告されていない。
■ この事故により、308世帯1,254人が被害を被り、住宅237棟と車両365台が被害を受けた。家屋の全壊は87棟で、148棟は修理が必要となった。
■ ペトロナス社は、 午前8時10分にペトロナス・ガス・ベルハド社のガスパイプラインで火災が発生したことを発表した。事故を起こしたパイプラインはバルブによって孤立したと補足した。災害管理当局は、バルブが閉止されれば、最終的に火は消えるだろうと語った。
■ 環境省は、午前12時頃から現場付近の空気質の監視を開始した。
■ 高速道路や現場周辺の道路はすべて通行制限された。
■ 爆発時、空に立ち昇った炎は20階建ての高さの60mに達した。その後、ガスパイプラインから高さ30mの炎が燃え上がり続けたが、炎は徐々に弱まり、午後3時頃には消防士が近づくことができるほど小さくなった。
■ バルブ閉止によって、パイプラインの内部圧力は40バールから0.1バールに低下した。当局はさらなる危険を防ぐため、残留ガスを燃焼させ、燃え尽きる措置を取った。
■ ガスパイプラインの爆発と火災により、爆心地の現場景観は劇的に変化し、長さ24m×幅21m×深さ10mのクレーターが形成された。消防署の予備調査では、火災はガスパイプラインが長さ約500mにわたる漏れによって発生したとみられるという。
■ 4月7日(月)、プトラハイツで発生したガスパイプラインの火災により、マレー半島の中部地域にはガス供給が中断している地域があるという影響が出ている。一方、電力供給は安定しているという。
■ ユーチューブでは、事故の状況を伝える動画が多数投稿されている。 主なものはつぎのとおり。
●Youtube、「Malaysia: Massive Gas Pipeline Explosion
Sparks Fire in Putra Heights」(2025/04/01)
●Youtube、「Dozens suffer burns after gas pipeline leak triggers massive fire in Malaysia」 (2025/04/02)
●Youtube、「Drone footage reveals devastation at Putra Heights gas explosion site 」 (2025/04/06)
●Youtube、「Saluran paip gas di Putra Height terbakar, api menjulang tinggi」(2025/04/01)
●Youtube、「PAIP GAS PETRONAS MELETUP DI PUTRA HEIGHTS, DAERAH PETALING, SELANGOR」(2025/04/01)
●Youtube、「Gas Meletup Putra Height」(2025/04/02)
被 害
■ 直径36インチのガスパイプラインが損傷した。
■ 事故にともなう負傷者が305人出た。治療中の被害者は134人で、4月4日(金)時点で48人は依然として病院や診療所で治療を受けており、集中治療室に入った重傷者は1名である。死亡者は報告されていない。
■ 事故により308世帯1,254人が被害を被り、住宅237棟と車両365台が被害を受けた。家屋の全壊は87棟で、148棟は修理が必要となった。
■ 周辺の道路が通行制限された。
< 事故の原因 >
■ 爆発はガスパイプラインの漏れによる。漏洩に至った原因などは調査中である。
< 対 応 >
■ 爆発・火災事故は鎮圧に8時間を要し、4月1日(火)午後3時45分に完全に鎮火した。
■ ガスパイプラインはトレンガヌ州からマレー半島の南北やタイに天然ガスを輸送するためのもので、ガスパイプラインは3本ある。事故時、3本のパイプラインのうち1本が破裂し、ガス漏れを起こして爆発に至ったことが判明した。
■ 4月5日(土)、警察の初期捜査によると、4月1日(火)の事故現場から30mの場所で土木請負者が大規模な掘削作業を行っていたという。当日、土木請負者の掘削作業がパイプラインの敷設ルート付近で行われており、この作業がガスパイプラインの爆発に影響しているのではないかという疑問が出ている。これまでの警察の捜査では、土木請負者の設置した下水道管は深さ2.1mのところであり、ペトロナス社のガスパイプラインは道路の下5.6mに敷設されており、両者の間には1.6mの距離があるという。
■ 土木請負者の工事は、この地域の既存の地下下水道システムを交換する作業で、掘削機とバックホーが使用された。3月30日(日)の作業は中止されていた。作業では、バックホーは事故の前日に現場から撤去されたが、掘削機は、ガスパイプラインの爆発後、地中に埋まっていると考えられる。
■ 4月3日(木)、掘削作業を映したドライブレコーダーの映像とみられる動画がソーシャルメディアに投稿された。映像は3月28日と30日に撮影され、道路脇の掘削作業現場からそう遠くない場所で掘削機が映っている。この動画は140万回再生され、多くのソーシャルメディアユーザーの注目を集めている。
■ 4月6日(日)、警察は、ペトロナス社のガスパイプラインの爆発について請負者の掘削作業が影響したかどうかを判断する前にパイプラインを完全に見えるようにする必要があるとし、「作業は、警察によって、ペトロナス社、公共事業局(PWD)、マレーシア測量地図局(JUPEM)、労働安全衛生局(DOSH)、請負者などの共同のもとに実施している」とセランゴール警察署長は語っている。
捜査のための掘削作業は、掘削機3台、ブルドーザー1台、バックホー1台を使用して行われ、深さ6〜7mにあるとみられるガスパイプラインの全範囲を調査するために行われている。掘削作業は24時間体制で4月10日(木)時点でも、土壌が崩壊しないよう慎重に行われている。
■ 爆発により事故前から使用されていた掘削機が地中に埋もれており、掘削機を撤去するためにクレーターエリアを掘削する作業が4月15日(火)に行われる予定だという。
補 足
■「マレーシア」(Malaysia)は、東南アジアに位置し、マレー半島南部およびボルネオ島北部からなる連邦立憲君主制国家で、人口は約3,470万人。マレーシアはイギリス連邦加盟国のひとつで、首都はクアラルンプール(人口約177万人)である。
「セランゴール州」(Selangor)は、マレーシア中部の西部に位置し、人口約655万人の州である。
「スバンジャヤ」(Subang Jaya)は、セランゴール州の南部に位置する人口約95万人の都市である。
「プトラハイツ」(Putra Heights)は、1999年からマレーシアのセランゴール州スバンジャヤで開発されつつある住宅街である。
■「ペトロナス社」(Petronas)は、正式社名Petroliam Nasional Berhadで、1974年8月に創設されたマレーシアの石油および天然ガスの供給を行う国営企業である。マレーシアは東南アジアで第2位の石油・天然ガス生産国で、液化天然ガスの輸出では世界2位である。
「ペトロナス・ガス・ベルハド社」(PETRONAS Gas Berhad; PGB)は、ペトロナス社系の会社で天然ガス部門を担っている。
■「発災箇所」について爆発と火災によって爆心地の現場景観が劇的に変化し、大きなクレーターが形成されている。グーグルマップで調べてもすぐに被災写真と結びつかず、特定に時間がかかった。このひとつの理由は、発災場所の前にある被災した建物が最近建ったものらしく、グーグルマップの写真では無かったことである。
■ ブログでは、最近、米国テキサス州におけるガスパイプラインの異常な事故を2件紹介した。
●「米国テキサス州のパイプラインで油窃盗中に爆発火災、石油生産施設へ延焼」(
2025年3月)
●「米国テキサス州のパイプライン火災の原因は自殺者の車による破壊」(2025年2月)
所 感
■ 強烈な爆発事故が起こったものである。爆心地の現場景観は劇的に変化し、長さ24m×幅21m×深さ10mのクレーターが形成されたという。これまでに戦争の爆弾やミサイルなどによる被害以外に、今回のような爆発事例は見たことがない。
■ 最近、タンク事故ではないが、異常なガスパイプライン事故を2件紹介し、米国テキサス州ではパイプラインの安全対策に問題があるという指摘をしてきた。米国の事故ではなく、原因はまだわかっていないが、近くで行った工事が関係したにしろ、パイプラインの経年劣化の見逃しにしろ、ガスパイプラインの安全対策に問題があることは確かである。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Malaymail.com, Police:
Petronas gas pipeline needs full exposure to determine if contractor disrupted
route, April 07,
2025
・Edition.cnn.com, Burst gas pipe sparks colossal fire in Malaysia,
injuring more than 100, April 01,
2025
・Straitstimes.com, Malaysia gas pipeline fire: Excavator feared
buried at site, no bodies found, say police,
April 05, 2025
・Therakyatpost.com, The Mystery Contractor: Putra Height Gas
Explosion Has More Questions Than Answers,
April 07, 2025
・Petronas.com, Fire
Incident at PGB Main Pipeline Near Putra Heights, Subang Jaya, April
01, 2025
・Thestar.com.my, Putra
Heights fire: Ground stabilisation intensified this morning, April
09, 2025
・Theguardian.com, Malaysia fire: huge blaze
erupts near Kuala Lumpur as gas pipeline explodes, April
01, 2025
・Apnews.com,
A fireball from a burst gas pipeline in Malaysia injures 145
people, April 01,
2025
・Channelnewsasia.com,
‘Restart from zero’: Uncertainties loom for Selangor’s Putra Heights residents
after huge gas pipeline blaze,
April 01, 2025
・Theedgemalaysia.com, Gas Malaysia says more areas to face gas
supply disruption after Putra Heights blaze,
April 07, 2025
・Gempak.com, Putra Heights Fire: Timeline & Updates on the Gas Pipeline
Explosion That Shook The Nation, April 07,
2025
・Freemalaysiatoday.com, Those spreading false
info on Putra Heights fire will face law, warn S’gor cops, April
10, 2025
・Vygrnews.com, Massive Gas Pipeline Explosion in
Malaysia’s Putra Heights: Injuries and Evacuations Reported, April
01, 2025
・Pipeline-journal.net, Probe into the Cause of
Putra Heights Gas Pipeline Fire Delayed & Aid Increased, April
08, 2025
・Carz.com.my, Putra Heights Gas Pipeline Fire:
What We Know So Far, April 01,
2025
・Bernama.com, 32-feet Deep Crater formed at Gas Pipeline Fire Site, April
02, 2025
・Astroawani.com,
Kebakaran paip gas Putra Heights: Siasatan awal diketahui hari ini, April
04, 2025
・Mstar.com.my, Memang ada aktiviti korek tanah,
30 meter dari lokasi paip gas meletup,
April 04, 2025
・Malaysiagazette.com, Petronas sudah tutup valve saluran paip, 7
mangsa telah diselamatkan, April 01,
2025
・Sinarharian.com.my, Kebakaran Putra Heights:
Faktor tanah, kerja forensik di 'ground zero' belum dapat dimulakan, April
10, 2025
・Beritaharian.sg,
Kebakaran saluran gas di Selangor: Polis sahkan ada aktiviti korek tanah, April
04, 2025
後 記: 最初に事故を知ったのは、キノコ雲のような爆発直後の炎の写真で、戦争時の爆弾によるものかと見間違うほどでした。マレーシアの事例で感じたのは、インターネットによる情報が飛び交っているということです。爆発後のビデオがすぐにソーシャルメディアに投稿され、情報の速さがわかります。一方、虚偽の情報も流布しており、課題があるのは確かです。(これはマレーシアだけでなく、日本もそうですが)
情報の正確性という点では、公的機関から出される情報も問題があります。被害や負傷者などの情報がメディアによって異なるし、日にちが経ってもなかなか収束しません。その分、事故原因の調査情報は速いようです。しかし、事故現場は、1月28日に起こった日本の埼玉・八潮市の道路陥没事故を見ているようです。クレーター部の法面が安定しないのと掘削箇所に水が出てきて、なかなか苦労しているようです。