「世界の貯蔵タンク事故情報」と称して事故情報を紹介し始めたのが、2011年5月からです。その後、タンク施設以外で世間の耳目を集めるような事故があり、タンク以外の事故情報も投稿してきました。2020年4月で十年になるのを機にこれまでの事故情報のデータベースをもとに考察することとしましたが、今回はその3回目でタンクに限った事故について分析した結果を紹介します。
■ 「世界の貯蔵タンク事故情報」と称して当ブログで事故情報を紹介し始めたが、タンク施設以外で世間の耳目を集めるような事故があり、タンク以外の事故情報も投稿してきた。
ここでは、貯蔵タンクに限った事故故情報のデータベースをもとに考察してみる。
< 掲載した事故件数の割合 >
■ 2011年5月から始めたので、基本的にそれ以降の事故情報である。しかし、それ以前の事故でも注目された事故がある。たとえば、2005年の英国のバンスフィールド事故、2009年のプエルトリコのカリビアン石油火災やインドのインディアン石油火災などである。これらの事故は論文で引用されるケースも多く、事故状況をブログで紹介した。
■ この十年間に掲載した事故情報は計273件である。これらを1953~1999年、2000~2009年、2010~2020年の3つに区分してみると、図のとおりである。
■ 2009年以前の事故件数は39件である。この中には、「米国ホワイティング製油所の装置爆発で貯蔵タンク70基に延焼(1955年) 」のような過去の大事故を記録として残しておこうというものがある。これを系統的に残したものが、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめたARIA(事故の分析・研究・情報)がある。 最初に紹介したのは、「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故(1983年8月)」であるが、ARIAの事例はよく記録にまとめられており、貴重な報告書である。しかし、残念ながら、ARIAは、現在、更新されていない。このほか、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が同社のウェブサイトに「Code Red Archives」というサブサイトを設け、同社の経験した技術的な概要を情報として公開しているものがある。
< 年度ごとの事故件数の割合 >
■ 事故の総数273件を年度ごとに分けると、図のとおりである。ブログは2011年5月から始めており、20020年は4月までの件数であるので、2010年と2020年は極端に少なく見える。
■ 年度ごとの整合性をとるため、2010年以前と2020年を外すと、図のとおりとなる。
年間の平均事故件数は約25件となる。
■ もっとも多い年は2013年の37件である。この年に、東京電力福島原子力発電所の汚染水貯槽(タンク)で一連の漏れ事例が3件あり、2013年は事故の多い年といえる。
■ 2011年~2019年までの9年間の中で、主な事故を10件あげると、つぎのとおりである。
●「東日本大震災時の気仙沼オイルターミナルの壊滅」(2011年3月11日)
●「日本触媒でアクリル酸タンクが爆発・火災、死傷者37人」(2012年9月29日)
●「長崎原爆製造後の放射性廃液が貯蔵タンクから漏洩」(2013年2月15日)
●「中国福建省でパラキシレン装置爆発によって貯蔵タンクへ延焼」(2015年4月6日)
●「フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災」(2015年7月14日)
●「中国福建省でパラキシレン装置爆発によって貯蔵タンクへ延焼」(2015年4月6日)
●「リビアの2つの石油施設基地で砲撃によって複数のタンク火災」(2016年1月4日)
●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」(2016年8月17日)
●「韓国の石油貯蔵所で半地下式ガソリンタンクの爆発・火災」(2018年10月7日)
●「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」( 2019年3月17日)
< 月の上・中・下旬における事故件数 >
■ 事故が起こったのが、月の上旬、中旬、下旬の3区分で分けると、図のとおりである。
(上旬;1~10日、中旬;11~20日、下旬;21~31日)
■ もっとも多いのが中旬で約38%、次が下旬の約35%、もっとも少ないのが上旬で約27%となった。事故発生の背景にはいろいろあるが、中旬は上旬の約1.4倍多い結果だった。しかし、月の中旬に注意が必要だと断言はできないように思う。
< 月ごとの事故件数 >
■ 月ごとに分けた事故件数は図のとおりである。
■ 6月が35件と最も多く、11月が13件と最も少ない。傾向としては、6月をピークにした山形になっている。
■ これを四半期ごとに分けてみると、第1四半期と第4四半期に比べ、第2四半期と第3四半期が多い。見方を変えれば、4月~9月にタンク事故が多く、人の活動期と関係があるように見える。
< 曜日ごとの事故件数 >■ 曜日ごとに分けた事故件数は図のとおりである。
傾向としては、月曜から徐々に増え、金曜がもっとも多く、土日に下がり、もっとも少ないのが日曜である。金曜の件数は51件で、日曜の件数が25件であり、金曜は日曜の2.0倍である。
■ 月の上・中・下旬における事故件数では、傾向ははっきり表れていなかった。月ごとの事故件数では、人の活動期である4月~9月にタンク事故が多い傾向が見えたが、曜日ごとの事故件数では1週間における人の社会・経済活動と関係があるとようにみえる。
■ 事故防止は常に考えておかなければならないが、曜日ごとの事故件数の割合から、金曜日は気の緩みがないように心掛けることが肝要だといえよう。金曜日に起こった主な事例は、つぎのとおりである。
●「エクソンモービル名古屋油槽所の工事中タンクの火災事故」(2003年 8月29日金曜)
●「カリビアン石油タンクターミナルの爆発・火災」(2009年 10月23日金曜)
●「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故」(2011年 3月11日金曜)
●「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」(2016年4月4日金曜)
●「韓国のスチレンモノマー装置でタンクからオイルミスト噴出」(2019年5月17日金曜)
< 地域別の事故件数の割合 >
■ 世界を地域別に分けた事故件数は、図のとおりである。地域は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている5つの分類と同じにした。
● アジア・豪州; 日本、韓国、中国、インド、オセアニア、中東、その他
● 北 米; 米国、カナダ、メキシコ、
● 欧 州; イングランド、フランス、ロシア、その他
● 南 米; ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチン、その他
● アフリカ; ナイジェリア、ケニア、リビヤ、エジプト、その他
■ この分類によると、事故件数は「北米」と「アジア・豪州」のふたつの地域で8割を占める。一方、近年の事故発生をみると、この分類では「アジア・豪州」が大枠すぎるので、細分化した。また、「北米」について「米国」を単独に分類した。この細分化した分類による地域別の事故件数は図のとおりである。
■ 細分化した地域別の事故件数では圧倒的に「米国」が多い。これは米国では、陸上における小規模な油田施設やタンクターミナルが多く、これらの施設における事故が多いためである。
■ アジアでは、「日本」のほか「中国」の事故件数が多くなっており、また、その他のアジア(図の「アジア」)の事故件数が多く、アジア全域で事故が起こっている。さらに、最近、新たに目立つのが「中東」における事故件数である。
< 場所別の事故件数 >
■ 場所(施設)別にみた事故件数は、図のとおりである。 場所(施設)の区分は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている分類を参考に、「製油所」、「タンクターミナル」、「化学工場」、「油田」、「その他」の5つの分類とした。
■ もっとも事故が多い場所(施設)は、「製油所」や「化学工場」ではなく、「タンクターミナル」の32%だった。しかし、事故はひとつに片寄るのではなく、相対的に5つの分類に分散している。日本から見れば、油田の事故件数が多いが、これは米国における小規模の陸上油田のタンク事故が多いためである。
< 設備別の事故件数 >
■ 設備別の分類による事故件数は、図のとおりである。設備の区分は、「タンク」、「配管」、「プラント」、「その他」の4つに分類した。
■ このブログの主目的である「タンク」が273件の96%と大半を占める。「配管」は7件で3%、「プラント」は1件で2%だった。タンクの関連設備で事故が起これば、その設備だけに限定されず、主のタンクへ波及するといえる。
■ 「その他」は1件であるが、1%に達しなかった。この1件は、「2019年台風19号で被災のあったタンク・貯蔵関連施設」で複数の被災箇所を取り上げたものである。
< 原因別の事故件数 >
■ 原因別の事故件数は図のとおりである。原因の区分は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている分類を参考にして、「落雷」、「保全/火気工事」、「運転ミス」、「設備の故障」、「故意の過失」、「割れ/腐食」、「漏れ/配管破損」、「静電気」、「直火」、 「自然災害」、「異常反応」、「その他」、「不明」の13分類に分けた。
■ 分類では、「不明」が105件で38%と圧倒的に多かった。事故情報をインターネットの報道記事を主体にしているので、事故直後では調査中で原因が不明な事故が多くなっているためである。また、この段階では、「静電気」と「異常反応」は0件だった。
■ 「不明」を除いた事故件数を分類してみると、図のとおりである。日本では、「落雷」による貯蔵タンクの事故は少ないが、世界的にみると、「落雷」による事故件数が多い。続いて、「保全/火気工事」、 「運転ミス」 、「漏れ・配管破損」が多い事故原因だった。
■ 最近の傾向としては、「自然災害」と「故意の過失」による事故件数が多い。特に、台風/ハリケーンや豪雨による事故が目立ってきている。また、中東におけるテロ攻撃による「故意の過失」の事故件数が多い。
< 原因推定別の事故件数 >
■ 調査中として原因不明の事故情報について、事故の状況から原因を類推してみた。この原因推定別の事故件数は図のとおりである。原因不明の事故件数は三分の二程度は減ったが、それでも「不明」は36件残った。
■ 原因推定別の事故件数では、「落雷」を抜いて「保全/火気工事」がトップとなった。 2010年2月に米国CSB(化学物質安全性委員会)の安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が出され、事故の未然防止が叫ばれているが、保全に関わるミスは相変わらず多い。
■ これに「運転ミス」が続き、「故意の過失」を含めれば、人為的な要因が多い。
■ 円グラフにすると、 「落雷」、「保全/火気工事」、「運転ミス」の3つの分類で約半分を占める。一方、そのほかの原因の要因は分散しており、いずれの原因要因も起こり得ることを示している。また、原因別ではゼロ件だった「静電気」と「異常反応」がそれぞれ9件と1件出てきた。
< 事故の形態別の事故件数 >■ 事故の形態別の事故件数は図のとおりである。事故形態の区分は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている分類を参考にして、 「火災」、「爆発」、「漏洩」、「その他」に区分し、新たに「環境汚染」を追加し、「毒性ガス流出」は「環境汚染」または「漏洩」の区分とした。
■ 事故件数の割合は「爆発」(123件、45%)が「火災」(89件、32%)を上回った。従来の認識では、「火災」の方が多いと思う。これは、発災時に爆発が伴った火災は「爆発」に分類したことが要因にあるかもしれない。しかし、タンクの火災では、爆発を伴う可能性のあることを認識しておくべきことを示す。
■ 「火災」と「爆発」に「漏洩」を加えた3つの事故形態は257件で94%を占めた。 タンクの内容量を考えれば、「火災」、「爆発」、「漏洩」のいずれの事故形態も社会的な影響の大きい事故になりうる。
■ 事故の形態として「その他」の分類には、溶剤タンクの入槽作業時の酸欠事例(2件)を含むが、つぎのような意外な事例を含んでいる。
●「消火用水タンクが破裂して死者2名の事故」(2011年6月1日)
●「米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃」 (2017年11月14日)
■ 事故形態の範ちゅうとしては「爆発」であるが、被害拡大につながる「ボイルオーバー」を取り上げた事例は、つぎのとおりである。
●「1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」(1964年6月16日)
●「ポーランドのチェホビツェ火災」(1971年6月26日)
●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー」 (1974年1月11日)
●「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故」(1983年8月30日)
●「米国テキサス州の原油タンク火災」(1990年8月25日)
●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」(2016年8月17日)
●「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」( 2019年1月11日)
< 内容物別の事故件数 >
■ 発災の内容物別の事故件数は図のとおりである。内容物の区分は、原油、石油製品、ケミカル、廃油、廃水などタンクなど発災設備内に入っていた21種の物質に分けた。
■ 事故件数の割合は「原油」(88件)が最も多く、続いて「ガソリン」(32件)、「石油」(24件)だった。「石油」の区分は発災当時の情報でオイルとしか分からないものだった。原油と石油製品類の割合は212件、77%を占め、危険性の高いことを示す。
■ 一方、「ディーゼル燃料」(15件)と「アスファルト」(18件)が、軽質の「液化石油ガス」や「ナフサ」より事故件数が多い結果となった。特に「アスファルト」は安全だという意識を取り去る必要がある。
■ 内容物が「水」(2件)や「空」(2件)でも事故が起こっており、条件によっては内容物にかかわらず、事故の要因が潜んでいるといえる。
< 事故の負傷者数 >
■ 事故に伴い負傷者(死亡者および吐き気・頭痛などの治療を受けた被災者を含む)が発生した事故件数は101件だった。全事故件数が273件だったので、負傷者が発生する割合は37%であり、事故の3件に1件は負傷者が出ている。
■ 負傷者数は全部で1,925人だった。全事故件数(273件)に対する1件あたりの負傷者の平均は7人となる。これは負傷者の発生した事故の中に、住民に多くの被災者が出たため平均が高くなっている。
■ 負傷者の多かった主な事故は、つぎのとおりである。
●「韓国のスチレンモノマー装置でタンクからオイルミスト噴出」(2019年5月17日) 327人
●「中国・河南省のガス工場で空気分離装置が爆発、死者15名負傷者多数」(2019年7月19日) 280人
●「ベネズエラの製油所で爆発してタンク火災、死者41名」(2012年8月25日) 191人
●「インドの化学プラントでタンクから無水酢酸が漏洩、被災者55名」(2019年4月17日) 55人
●「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」(2016年5月15日) 51人
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Tank-accident.blogspot.com, May 2011 – April 2020
後 記: 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その2)」を投稿してから、本命のタンクに限定した事故情報の分析をやり始めました。データの一貫性から一度にまとめた方が良いと思いました。事故の内容物などはいろいろな表現があり、そのままでは分析が収束しませんでしたので、全件をもう一度読み返し、整合性を取り直しました。いまはエクセルという表計算ソフトがあるので、データベースができれば、集計やグラフは簡単に作成してくれます。しかし、データベースを作るのは思っていた以上に手間がかかりました。
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