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2019年10月9日水曜日

フランスで潤滑剤の貯蔵施設を巻き込む工場火災

 今回は、2019年9月26日(木)、フランスのセーヌ・マリティム県ルーアンにあるルーブリゾール社の工場やSCMT社の倉庫がある工場地域で起こった火災事故を紹介します。
                  ルーアンの工場地域の火災と撮影するドローン  写真はActu.fr から引用)
 < 施設の概要 >
■ 事故があったのは、フランス(France)セーヌ・マリティム県(Seine-Maritime)ルーアン(Rouen)にある工場地域である。

■ 発災があったのは、工場地域にある化学会社のルーブリゾール社(Lubrizol)と倉庫・輸送業のSCMT社(Societe Commerciale De Magasinage et de Transports)である。ルーブリゾール社は工業用潤滑剤や燃料添加剤のメーカーで、ルーアンの化学工場にはプラントのほか工業用潤滑剤と燃料添加剤の倉庫がある。
                                   ルーアン市内周辺(矢印が発災場所) (写真GoogleMapから引用)
                  ルーブリゾール社の化学工場周辺 (写真GoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年9月26日(木)午前2時40分頃、ルーブリゾール社ルーアン工場とSCMT社の倉庫が火災になった。ルーアン工場には、プラントのほかドラム缶や貯蔵倉庫などがあった。
(写真はScd.en.rfi.frから引用)
■ 火災は何度も爆発を伴うものだった。
 (ユーチューブを参照。 YouTube「Explosionsheard as huge fire erupts at French chemical plant」

■ 発災に伴い、130名の消防士が出動し、消火活動に当たった。
(写真はTheguardian.comから引用)
■ ルーアンに住む男性は、「夜中に大きな爆発音が聞こえたが、暴風だと思って慌てたりはしなかった。しかし、午前6時半に起床してニュースを聞き、それ以降は屋内に閉じこもっている」と語った。「火は燃え続けていて厚い煙の雲が消えない。屋外は吐き気や肺の不快感を生じさせる強烈な臭いがする」という

■ 近隣の13地区で学校や保育所などが休校となり、警察は工場近くの住民に対して移動を制限するよう呼びかけた。工場からは黒煙が立ち上り、道路や車に油の残留物が付着しているという住民の苦情が相次いだ。消火水が溢れたら、付近を流れるセーヌ川に汚染物質が流れ込む恐れがあるという。

■ 消防当局は26日(木)正午前、「火は鎮圧されているものの、鎮火には至っていない」と発表し、消防当局トップは、「爆発する可能性があり、ドミノ火災となり得るため工場内で最もリスクの高い部分を守ることを最優先した」と話している。

■ ルーアンに加え周辺にある12の町の住民は、屋内に留まるよう求められたが、この地域にある学校は月曜まで休校になった。工場近くに住む人たちは9月26日(木)の夜には帰宅することができた。

■ 火災は9月27日(金)の朝までに消されたが、消防士は現場にとどまり、残ったホットスポットを監視した。完全な鎮火には数日かかる可能性があるという。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。しかし、火災に関連して気分が悪くなったりして病院を訪れた人は224人いたという。

■ 9月27日(金)、フランス保健相は、住民らに対する健康上のリスクがないと保証することはできないと述べた。地元当局によると、27日までに鎮火され、火災によるけが人は出ていないが、刺激臭のある黒煙が周辺の22km圏内に広がった。市内では学校が2日連続で休校となったほか、27日もマスクをして歩く人々の姿が多く見られた。

■ 火災は24時間以上燃え続け、刺激的な黒煙が現場から約22km先まで広がった。県は、この地方の作物の収穫と農産物の販売を禁止する処置をとった。ある農家は、発災以降、大量の牛乳を廃棄せざるを得なかった。また、火災から出た油混じりのススで畑が汚染されていた。県は損失を補償することを約束した。
                             いろいろなところについた油跡   (写真Uvelordremonondial.ccから引用)
■ 消火水は堰を溢れることがなかったので、懸念されていたセーヌ川の汚染は回避された
■ 火災の状況はインターネットの動画で流されており、そのひとつ(ユーチューブ)を紹介する。

被 害
■ 工場地域の倉庫など約30,000㎡が火災で焼失した。

■ ルーブリゾール社では、化学物質、石油、燃料添加剤など5,250トン以上の製品が焼失した。SCMT社では、保管されていた8種の製品が火災で焼失した

■ 発災に伴う負傷者はいなかったが、工場からは黒煙で道路や車に油の残留物が付着したという住民の苦情が相次いだ。火災に関連して気分が悪くなったりして病院を訪れた人は224人いた

■ 県は、この地方の作物の収穫と農産物の販売を禁止する処置をとり、畑や牧畜で出た被害について損失を補償することを約束した。  

< 事故の原因 >
■ 原因は調査中で、分かっていない。
 監視ビデオなどによって、火災はルーアン工場の構外で始まり、拡大したとみられるとルーブリゾール社は語っているが、火元についても確定されていない。
 (写真Newstatesman.comから引用)
(写真はLimnews.comから引用)
写真Nouvelordremondial.ccから引用)
 (写真Letelegramme.frから引用)
< 対 応 >
■ 火災事故についてセーヌマリティム県がPPI(特定の介入計画)を実施する判断をし、コミュニティへのすべての決定とコミュニケーションは県とその技術評議会によって管理されることとなった。

■  9月26日(木)から事故調査が進められており、ルーブリゾール社はPPI (特定の介入計画) を尊重し、対応している。監視ビデオと目撃者の証言によれば、火災はルーアン工場の構外で始まっているとみられ、ルーアン工場に拡大したとみられるとルーブリゾール社は語っている。

■ ルーブリゾール社の製品はノルマンディー・ロジスティック社(Normandie Logistique)の倉庫で管理されていた。倉庫はアスベスト材を使用した屋根の下に大量の化学物質を保管していたため、アスベスト汚染の問題が懸念された。

■ 9月30日(月)になっても町に炭化水素の強い臭いが漂っているにもかかわらず、地元当局は普通に生活して働くことができるという声明を出したが、住民の多くは不安を解消することはできなかった。県は、試験結果、大気や水道中に有害な毒素は認められないと述べた。黒いススを除去するクリーニングが行われ、学校は再開したが、こどもたちが頭痛に苦しんでおり、先生の一部は仕事に戻ることを拒否した。

■ 10月1日(火)、ルーブリゾール社の火災で5,250トン以上の化学物質、石油、燃料添加剤があったと県は発表した。3,300トン以上の多目的添加剤、711トンの粘度増進剤、および分散剤、不凍液、減摩添加剤などのケミカル類が数十トンだという。

■ 火災発生以来、政府は住民や環境団体から批判を受けており、10月2日(水)、労働組合、農民、住民は、化学工場の火災による人の健康や環境への影響に関するデータをすべて開示するよう政府に要求した。

■ 10月2日(水)、フランスの首相は燃焼した物質のリストを公開することを議会に告げた。以前、首相はルーアンの住民に長引く臭いは「迷惑」であるが、危険ではないと言っていたが、国家による透明性を約束した。ルーアンの火災に関する政府の公式見解に対する不信感は、パリのノートルダム大聖堂の火災による鉛中毒などの健康リスクに関する懸念に続いている。

■ 10月2日(水)、火災後に採取されたサンプルの分析を担当する国立産業環境リスク研究所の所長は、火災がダイオキシンの放出につながった可能性があると話した。ただし、現在の分析では、ほとんどの農産物がダイオキシンを放出する可能性は低いと付け加えた。

■ ルーアンの工場地域の敷地面積は135,000㎡であったが、火災で被災したのは約30,000㎡であることがわかった。被災画像を発災以前のグーグルマップと比較すると、被災敷地にある4つの倉庫が火災で完全または部分的に焼失している。このうち2つはルーブリゾール社の製品を保管するノルマンディー・ロジスティック社の所有する倉庫であるが、あとの2つはSCMT社の建物である。
                被災画像と発災以前のグーグルマップとの比較  写真Flourish.studioから引用)
■ 104日(金)、 SCMT社で保管されていた8種の製品が火災で燃え、うち6種は危険物ではないが、2種は粘度向上剤で健康や環境への影響の問題になることが指摘された。
写真Youubu.comから引用)
写真Leparisien.frから引用) 
補 足 
■ 「フランス」(France)は、正式にはフランス共和国で、西ヨーロッパにある人口約6,280万人の共和制国家である。
 「セーヌ・マリティム県」 (Seine-Maritime)は、フランス北部のノルマンディ地域圏にあり、人口約125万人の県である。
 「ルーアン」(Rouen)は、セーヌ・マリティム県の中部にある県庁所在地で、人口約112,000人の都市である。

■ 「ルーブリゾール社」(Lubrizol Corp)は、オハイオ州ウィクリフに本社を置く潤滑油メーカーで、潤滑剤、燃料添加剤、化成品などを開発・販売している。2011年に米国の億万長者のウォーレン・バフェットの投資会社バークシャー・ハサウェイ社に買収された。
 ルーアン工場は、「ルーブリゾール・フランス」の本社工場で、1954年に操業され、潤滑剤および塗料用添加剤の製造をしている。なお、2019年9月3日(火)午後4時頃、ル・アブールにある工場の添加剤製造ユニットのろ過室で火災事故が起こっている。

■ 「火災エリア」を被災写真とグーグルマップをつき合わせて調べてみた。(図を参照) そうすると、ルーブリゾール社ルーアン工場のプラント部の東端は火災を受けているが、プラントの大部分の施設は火災を受けていない。火災の被害はルーブリゾール社(ノルマンディー・ロジスティック社)の倉庫のほか、SCMT社の倉庫が受けている。グーグルマップでは会社名が記載されているが、報道情報をつなぎ合わせると、図中の「L(N)」がルーブリゾール社(ノルマンディー・ロジスティック社)の倉庫、「S」がSCMT社の倉庫と思われる。
                            火災エリア(黄色の枠写真GoogleMapから引用)
所 感 
■ 事故は、真夜中(午前2時40分頃)に人のいない倉庫で起こっており、電気に関連する火災ではないだろうか。あるいは、日中は忙しく人が動いている倉庫のようなので、不十分な後始末が影響しているかもしれない。

■ 5,000KL級石油貯蔵タンク火災と比べると、ドラム缶(ペール缶)などの火災は消火活動が厄介だと感じる。一連の爆発が続き、倉庫内の危険物の内容物を十分把握できていない状況の上、倉庫の隣が潤滑剤プラントで、プラントへの延焼を食い止める必要があり、冷却作業と並行して消火戦略を進めることは難しかったに違いない。火災は南からの風が強く、炎が北上して進んでいったように思う。

■ 今回の厄介だった点のひとつは火災後の始末である。貯蔵タンクの石油製品の火災でも、石油は完全燃焼せず、10%は未燃のまま飛散していく。今回の場合、火災写真のいずれのときも黒煙がひどく、多くの未燃分が飛散していったことは容易に想像がつく。これら未燃分の臭いがきつく、ひとつの市や県のレベルを越え、政府を巻き込む健康や環境の問題になってしまった印象である。 


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Afpbb.com,  フランスの化学工場で火災、セーヌ川に汚染物質流出の恐れ,  September  27,  2019
    ・Euronews.com, Black smoke unleashed by fire at French chemicals factory 'not toxic’,  September  27,  2019
    ・Newscenter.lubrizol.com, Press Release:Rouen, France Fire Update,  September  30,  2019
    ・Afpbb.com, 化学工場火災、健康上のリスク否定できず 保健相,  September  28,  2019
    ・Cnn.co.jp, 化学工場で大規模火災 巨大な黒煙と悪臭、住民は外出控え フランス,  September  27,  2019
    ・Japantimes.co.jp, Fallout from French chemical plant fire prompts ban on local agricultural output,  September  30,  2019
    ・Theguardian.com, French voice health fears after Rouen chemical plant fire, October 02,  2019
    ・France24.com, Potential dioxin emissions from Rouen chemical plant fire raises concerns, October 03,  2019
    ・Reuters.com, Over 5,250 tonnes of chemicals burned in Rouen, France, industrial fire, October 02,  2019
    ・Bbc.com, Rouen chemical factory fire 'leaves our children in danger‘, October 02,  2019
    ・Lci.fr,  Lubrizol: 224 passages aux urgences, dont huit hospitalisations, October 04,  2019
   ・Usinenouvelle.com, L'incendie de l'usine Lubrizol à Rouen soulève des inquiétudes pour l'environnement,  September  27,  2019
   ・Francetvinfo.fr, Incendie à Rouen : des produits dangereux ont-ils aussi brûlé dans une entreprise voisine de Lubrizol ? , October 04,  2019



後 記: 今回の火災事故は大きなニュースとなり、日本でも取り上げられたので、石油貯蔵倉庫の事故として調べることとしました。ルーブリゾール社は日本国内にも販売されている著名な会社で、どのような経緯で火災になったのだろうかと思いました。初めはプラントのある化学工場だったので、プラント全体が火災になり、大きな問題になってしまったのかと感じました。火元はルーブリゾール社ではないような発表があり、「発災施設」をどのような表現にしたらよいかと考えました。しかし、火災写真とグーグルマップを見比べていくと、意外にもプラントの大部分は火災に遭っていなかったのです。

 ここから調べなおしていくと、同様のことを記事にしていることが分かり、ブログは初めから推敲し直しが必要でした。発災から10日以上経っても火元が特定できたという報道はなく、さらに被災を受けた別な倉庫にも問題になる製品があったようだというのです。さらに、ルーブリゾール社はノルマンディー・ロジスティック社に製品の管理・輸送を任せていたということで、思い込みはいけないとしながらも、だんだんと訳が分からなくなっていきました。ということで、現時点で分かっている事実(らしいこと)でまとめることとしました。ルーブリゾール社が火元ではないというようなことを発表したのは、ノルマンディー・ロジスティック社(の倉庫)を同列とは考えていないのではないかと感じていますが、ブログでは触れませんでした。


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