今回は、2023年5月5日(金)、ベルギーのアントワープ・ ブルージュ港において港湾施設のセキュリティと管理を支援するために世界初の自律型ドローンのネットワークを立ち上げた事例を紹介します。
< はじめに
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■ 欧州ベルギーのアントワープ・ ブルージュ港は、年間2億8,700万トンの入出荷量を誇る世界の貿易と産業の拠点である。ベルギー国内のみならずドイツ、フランス、スイスなど欧州の各地域と水路、高速道路、鉄道で接続されており、年間約52,000隻のバージ船が利用するなど物流の中継地として機能している。港湾施設は、アントワープ市とブルージュ市が株主である公法有限責任会社であるアントワープ・ブルージュ港湾局によって運営され、1,800 人が雇用されている。
■ アントワープ・ブルージュ港は、経済、人々、気候を調和させる世界初の港になることを目指している。持続可能な方法で成長するだけでなく、物流、海事、産業の中心地としての独自の立場に焦点を当て、循環型経済と低炭素経済への移行を主導することも目指している。アントワープ・ブルージュ港は、港湾コミュニティ、顧客、そのほかのパートナーと協力して、持続可能な未来に向けた革新的な解決方法を積極的に模索している。
< 自律型ドローンのネットワークの立ち上げ >
■ アントワープ・ブルージュ港は、港湾施設のセキュリティと管理を支援するために世界初のドローンのネットワークを立ち上げた。自律型ドローンが港湾エリア上空を毎日飛行し、バース管理、モニタリング、インフラストラクチャの検査、油流出や浮遊廃棄物の探知などの幅広い機能をカバーし、事故発生時にはセキュリティ・パートナーのサポートを行う。このネットワークは2019年から検討していたが、2023年5月5日(金)に正式に発足した。
■ ドローン・ネットワークは、ディ‐ハイブ社(D-Hive)がドローン・イン・ボックス・ネットワーク(Drone-in-a-box network)をつくり、ドローンマトリックス社(DroneMatrix)、スキードローン社(SkeyDrone)、プロキシマス社(Proximus)が協力し、6機の自律型ドローンのネットワークを構築した。自律型ドローンは、ベルギーのアントワープ港湾区域で毎日飛行し、120km²以上のエリアをカバーする。ドローンが指定された経路から外れたり、その他の原因で安全上の懸念が生じた場合には、すぐに警告を発信するシステムになっている。
■ このネットワークは、複雑な港湾環境において円滑で安全かつ持続可能な運営を行うため、新らたな眼として機能する。自律型ドローンは上空からの独自な視点を提供し、港湾管理者が広大なエリアを迅速かつ効果的に管理・検査・監督することを可能にする。
■ これまでの視界内飛行(Visual Line Of Sight; VLOS)とは異なり、操縦者の視界外で行われる。産業分野において規模の大きい目視外飛行(Beyond Visual Line of Sight; BVLOS )を実施するのは初めての事例である。1日18回の自律型ドローンによる目視外飛行(BVLOS)は、港の中心部にある指揮管制センターから遠隔操作される。運用方法は、現在の枠組みに代わり、新しく適切で安全な目視外ドローン飛行の枠組みをスキードローン社(Skeydrone)が策定し、運用許可はBCAA(ベルギー民間航空局)とEASA(欧州連合航空安全庁)が承認した。
■ ユーチューブにこのドローンによる実施状況が投稿されている。(YouTube、「World first: new drone network for smooth and safe traffic in Antwerp」を参照)
< 港湾施設の将来 >
■ アントワープ・ブルージュ港のCEO(最高経営責任者)であるジャック・バンダメーレン氏は、つぎのように語っている。
「港の面積が広大であることから、港湾局としての中核業務を遂行する上で、ドローンは活用できると考えています。このドローンによるネットワークは、港のカメラ、センサー、ドローン・ネットワークから得られる多くのデジタル情報から新たなデジタルツインの展開において重要な役割を果たし、港で何が起こっているかをリアルタイムに把握することができます。これにより港をより効率的に管理し、海上交通をさらに安全かつ円滑にするための完全デジタル神経システムの開発において、重要な一歩を踏み出すことができます」
■ アントワープ副市長でアントワープ・ブルージュ港理事会会長のアニック・デ・リダーは、つぎのように語っている。
「私たちは、経済の推進役である港をクリーンで安全にできるだけ円滑に運営するために日々業務を遂行しています。革新的なパートナーであるドローン・ネットワークができれば、港で何が起こっているのかをより正確に把握することができるようになり、より安全且つ効率的でスマートな将来の港の実現に向けて取り組むことができます」
所 感
■ 日本でもドローンを活用した事例は多く、インターネットにたくさんの情報が投稿されている。このブログでもつぎのような事例を紹介した。
●2020年4月、「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」
海外でのドローン活用については、つぎのような事例を紹介した。
●2021年3月、「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」
●2022年2月、「欧州における自律型ドローンによる石油ターミナルの検査」
今回、ベルギーにおける自律型ドローンのネットワークをみると、日本と決定的な違いがある。日本では、操縦免許をもった操縦者によるドローンを使いこなそうという発想である。一方、欧州ではドローンの能力を最大限に発揮させ、操縦者のいない目視外飛行(BVLOS)のネットワークを構築して、実業務に活かそうとしている。以前の所感に「日本では、操縦の安全性や高価という“制限”の思考性が高いが、もっと柔軟性と創造性をもった若い世代の活躍を期待したい」と述べたが、ドローン活用へのこの期待に変わりはない。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Seatrade-maritime.com, Antwerp-Bruges launches port management drone
network, May 08, 2023
・Tankstoragemag.com, Port of Antwerp-Bruges launches drone
network, May 11, 2023
・Newsroom.portofantwerpbruges.com, World first in Antwerp port area:
drone network officially launched, May
05, 2023
・Totalnews.com, Port of Antwerp: drone network officially
launched, May 08, 2023
後 記: このところ、2回続けて、無人航空機(ドローン)が武器として戦争への反映状況について投稿してきました。貯蔵タンクのテロ対策としての参考にはなりますが、このブログの目的としては若干ずれてきているので、今回は港湾施設における自律型ドローンのネットワークという実業務のドローン活用について紹介することとしました。
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