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2022年7月6日水曜日

千葉県君津市の日本製鉄でコークス炉の脱硫液タンクから構外に流出

 今回は、2022618日(土)、千葉県君津市にある日本製鉄()の日本製鉄東日本製鉄所にあるコークス炉で発生したガスの洗浄で使用する脱硫液のタンクが開孔し、内部の流体が漏洩し、さらに排水口を通じて構外の水路や河川に流出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、千葉県君津市にある日本製鉄()の日本製鉄東日本製鉄所である。

■ 事故があったのは、日本製鉄東日本製鉄所君津地区にあるコークス炉で発生したガスの洗浄で使用する脱硫液のタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022618日(土)午後5時頃、日本製鉄東日本製鉄所君津地区でコークス炉で発生したガスの洗浄で使用する脱硫液のタンクに孔が開き、内部の液が漏洩する事故が起きた。

■ 脱硫液はさらに排水溝を通って敷地外に流出し、水路を経て近くの小糸川に流入したとみられる。

■ 市消防本部によると、619日(日)正午頃、付近住民から「川の水が赤い。魚が死んでいる」と通報があった。その後、午後230分頃、日本製鉄から君津市に「設備のトラブルで通常、排出しないものが排水口から出た」と連絡があった。消防が現場を確認したところ、国道16号沿いの水路が約2.7kmにわたって赤茶色になり、魚が死んで浮いていた。

■ 魚の死骸が多数確認され、君津市は、小糸川の人見大橋から下流の魚について触ったり食べたりしないよう注意を呼びかけた。

■ 千葉県(環境生活部水質保全課)によると、脱硫液のタンクには約3,000KLの液が入っていたが、タンクに孔が開き、敷地内に漏れ、さらに排水口から敷地外の水路に流れたとみられる。タンクからの漏洩量や構外への流出量は分かっていない。

■ 脱硫液に含有される主な成分はチオシアン酸アンモニウムなどのアンモニア化合物である。脱硫液は、石炭をコークス炉で蒸し焼きにしたときに発生するガスから硫黄分を除去するための液で、八割は水だが、鉄と反応すると赤くなるチオシアン酸アンモニウムを含む。

■ 日本製鉄によると、タンクからの漏れが分かった618日(土)で、最も近い排水口1か所を遮断した。

ところが、619日(日)以降、別の排水口2か所からも漏れていたことが分かったという。結局、脱硫液は3カ所の排水口から敷地外に流出していた。

■ 小糸川と水路は生活用水として利用されておらず、健康被害は確認されていない。脱硫液は小糸川を通じて東京湾へ流れ込んだ可能性が高いと見られている。小糸川河口付近には、釣り場があり、釣りを楽しむ人や釣った魚を持ち帰る人もいるという。

■ 622日(水)は変色はなくなった。製鉄所周辺の水路は、619日(日)から約3日間にわたって水が赤く変色していたとみられる。

■ 千葉県によると液体は濃度が比較的低いため、人体に大きな影響はないとしている。君津市は、当面の間、新富水路や小糸川河口付近には近寄らず、人見大橋(通称:亀橋)よりも下流で獲れた魚を触ったり、食べたりしないよう注意喚起を行っている。隣町の木更津市では、魚の死がいに触らない、釣った魚を食べない、釣りや川遊びを自粛するなどの対策(自己防衛)が必要であると発表している。

被 害

■ 脱硫液のタンクに孔が開き、内部の液が漏洩した。

■ 脱硫液が排水口を通じて構外の水路や川に流出した。脱硫液に含まれるチオシアン酸アンモニウムによって水路や川が赤茶色に変色するとともに多くの魚が死んだ。魚が死んだのは、脱硫液の流出で一時的に水路や川のアンモニア濃度が高まったことが原因の可能性があるという。

■ 健康被害を訴える人はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 脱硫液のタンクに孔が開いた原因は調査中である。

■ 事業所内の排水口から、本来あるべきでないシアンが検出された原因は調査中である。 

< 対 応 >

■ 日本製鉄東日本製鉄所は、622日(水)、「住民の皆さまに心配とご迷惑をおかけしたことを重く受け止めています。千葉県の指導のもと原因究明を進め、再発防止を図りたい」と語った。

■ 日本製鉄は、624日(金)、「東日本製鉄所君津地区における着色水の構外への流出について」という声明文を発表した。発生の経緯はつぎのとおりだという。

 ● 618()午後5時時頃、コークス炉で発生したガスの洗浄で生じる脱硫液のタンク (発生当時の在庫 約3,000 KL)より漏洩が発生、#10排水口系統に流入していたため遮断ゲートを閉弁。

 ● 619()午後1時頃、#14排水口より脱硫液を含んだ赤色の着色水が構外へ流出していたことを確認したため、遮断ゲートを閉弁し、木更津海上保安署に通報し、千葉県・君津市・木 更津市・富津市に報告した。

 ● 620()正午頃、#11排水口より脱硫液を含んだ赤色の着色水が構外へ流出していたことを確認したため、木更津海上保安署に通報し、その後、関係行政機関に報告した。

■ 622日(水)、千葉県(水質保全課)は、「小糸川等における着色水について」と題して「君津市の小糸川、日本製鉄株式会社東日本製鉄所君津地区の南側水路、水路と小糸川の合流部から河口周辺において、619日から水の変色や魚のへい死が確認されている。分析結果が判明し、安全が確認されるまでの間、念のため、水路および水路と小糸川の合流部(人見橋から君津大橋の間)の水を飲んだり、この場所で釣った魚を食べないように注意する」旨の状況をウェブサイトで発表した。

■ 日本製鉄は、 621日(火)と622()に排水口付近から採取したサンプルの水質分析結果が623()に判明し、シアンを含む一部項目に関して環境規制値を超える結果を確認した。環境規制値を超えたのはシアン、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、アンモニアの4項目である。このうち毒性の強いシアンは、基準値(不検出)を上回る1リットル当たり0.30.6mgを2か所で検出した。


■ 日本製鉄によって623日(木)に採取したサンプルでは、シアンは検出されなかった。623日(木)と624日(金)の水質分析項目は上記のとおりで、624日(金)時点では大半が分析中で結果が出ていない。

■ 日本製鉄の624日(金)時点での対応状況はつぎのとおりである。

 ● 脱硫液のタンクからの漏洩原因、着色水の構外への流出原因、シアンが検出された原因について調査を行っている。

 ● 排水流出防止措置を強化し(排水口遮断の二重化など)、構外への流出防止に努めている。

 ● 東日本製鉄所君津地区の全ての排水口付近や小糸川合流地点の水質分析、周辺環境の観 察を継続して実施している。

■ 千葉県は、東日本製鉄所君津地区に対して水質汚濁防止法に基づいて原因究明などを行政指導するとともに、周辺の環境への影響などを調べている。シアンは水質汚濁防止法の規制対象で、環境基準は不検出である。

■ 629日(水)、千葉県は、現時点で環境基準を超えるシアンは確認されていないと発表した。県は小糸川など周辺水域の水質を分析していた。また、これまでに健康被害は報告されていないという。県は日本製鉄に対し再発防止の目途が立つまでは水質分析を続けるとしている。

■ 73日(日)、千葉県は、日本製鉄東日本製鉄所君津地区の東京湾に面した排水口(#7排水口)付近から、基準値を超えるシアンなどの有害物質が検出されたと発表した。 この事業所では618日に着色水が川に流れ出て、シアンなどが検出されているが、これとは別な排水口である。千葉県は、事業所で排水の処理施設が故障した影響で、先月30日と今月1日に基準値を最大で5倍を超えるシアンが東京湾に面する排水口で検出されたという。この排水口は高炉の集じん関連設備の排水ルートからのもので、脱硫液タンクからの流出とは異なる。日本製鉄は、集じん関連設備の使用を直ちに止め、発生原因を調査中である。


■ 千葉県は工場周辺の水路に毒性の強いシアンが含まれている可能性を621日(火)には把握していたことが判明した。最終的にシアン検出を公表したのは、それから8日後の629日(水)だった。シアンは人体に悪影響を与える恐れのある物質である。千葉県は検出値を「希釈されれば、直ちに健康に影響はない」としているが、住民への情報公開のあり方が問われている。

 千葉県は、620日(月)に工場周辺の水路で水を採取し、翌621日(火)に解析結果の速報値が出て、環境基準(不検出)を超える1リットル当たり0.2mgのシアンが検出されたことを把握していた。627日(月)に判明した確定値でも数値は変わらず、千葉県は629日(水)に公表した。

 千葉県は、この間、621日(火)~22日(水)に君津市と木更津市へ速報値の段階でシアンが検出されたことを伝え、注意喚起を依頼した。ただ、「取り扱いに注意してほしい」と念押しし、自ら公表はしなかった。

 県は今回の対応を「適切だった」としている。千葉県知事は630日(木)の定例記者会見で、「事業所の排水口付近で(21日時点では)シアンが検出されず、検出地点との因果関係が不明だった。事業者からはシアンが含まれていないという報告を受けていた。こうした観点から公表には及ばないと判断した」と説明した。

■ 脱硫液が流出後、工場周辺の水からシアンの検出が相次ぎ、関係者の間に戸惑いが広がっている。脱硫液はチオシアン酸アンモニウムであるが、水質検査ではシアンが検出されないはずである。千葉県や日本製鉄の水質調査では、これまでに工場周辺と排水口の4か所の水から1リットルあたり0.20.6mgを検出している。

 このうち、原因が推定できているのは、東京湾に面した敷地北側の排水口(#7排水口)の1か所だけだ。高炉の排ガスからシアンなどの有害物質を除去する施設が近くにあり、処理過程でトラブルが起きていたという。一方、他の3か所については理由が分からないままだ。いずれも脱硫液の流出経路にあたる場所だが、このため日本製鉄は、脱硫液が流出する過程でシアンが混入した可能性もあるとみている。

補 足

■「千葉県」は、日本の関東地方に位置し、人口約628万人の県である。

「君津市」は、千葉県南部に位置し、人口約80,600人の市である。君津市を流れる小糸川は、上流にヘラ釣りの聖地・三島湖がある。

■「日本製鉄東日本製鉄所」は日本製鉄()における製鉄所の総称で、20204月に鹿島製鉄所、君津製鉄所、直江津製造所、釜石製鉄所を統合して発足した。20224月に釜石地区を分離し、室蘭製鉄所と統合して北日本製鉄所とした。日本製鉄東日本製鉄所は、現在、鹿島地区、君津地区、直江津地区の3箇所に分かれている。

「日本製鉄東日本製鉄所君津地区」は、木更津港に面する千葉県君津市君津1番地にあり、君津地区の敷地面積は約1,173m2で、一部が隣の木更津市にあるが、工場の大半は君津市内にあり、高炉を2基有している。

■「コークス炉ガス」は、高炉用のコークス製造過程においてコークス炉から発生する副生ガスである。 主に製鉄所やコークス工場内で自家消費燃料として使用されている。コークス炉ガスには、いろいろな不純物などが含まれているため、燃料として利用される 前に精製処理される。特に、SOx の発生源とな る硫黄分(硫化水素)を除去するコークス炉ガス脱硫設備は、環境保護の観点から重要性が増している。

■「発災タンク」(脱硫液のタンク)はどのようなものか報じられておらず、不明である。コークス炉ガス脱硫設備のフローをみると、酸化塔ではないだろうか。容量が3,000KLであると報じられているので、直径約18m×高さ12m程度のかなり大きなタンクである。

■「チオシアン酸アンモニウム」は、別名ロダン化アンモニウムで、化学式NH4SCNで表される化合物で、除草剤、マッチ、合成樹脂の製造原料のほか防錆や繊維の染色にも用いられるが、コークス炉で石炭を燃やした際に発生するガスから硫黄分を取り除く液体の主成分でもある。チオシアン酸アンモニウムは、室温では安定な無色、比重は1.3、融点139℃、水やエタノールなどに溶けやすく、水溶液は 鉄と反応して血赤色になる。飲み込むと有害で、吸入した場合に気分が悪い時は、医師の診断・手当てを受ける必要がある。皮膚に付着した場合、水と石鹸で洗わなければならない。

 漏出時の措置としては、保護具を装着し、全ての方向に適切な距離を漏洩区域として隔離する。環境中に放出してはならないが、回収・中和漏洩物を掃き集めて空容器に回収し、後で廃棄処理する。チオシアン酸アンモニウム水溶液への浸漬試験では、腐食反応により水素が発生し,チオシアン酸イオ ンの触媒毒の効果で鋼材に水素を容易に吸蔵することが でき、金属表面の粗さが増加して腐食物の生成が確認されている。適用法令としては、労働安全衛生法、毒物・劇物取締法、消防法などには非該当で、唯一、水質汚濁防止法(有害物質;アンモニウム化合物、②生活環境項目;水素イオン濃度)に該当する。

所 感

■ 本事例は、流出原因がわからず、構外への流出判明も遅れており、いろいろ疑問点があるが、2つに区分して列記する。

 1. 618日(土)タンクからの漏洩確認~619日(日)水路への流出確認まで

   ● タンクの開孔で内液3,000KLの推定漏洩量はどの程度と見込んだか。

   ● 過去のタンク検査はどのような結果か。

   ● 内液を別なタンクなどに移送したと思うが、この措置にとらわれ過ぎ、構外流出に気がつかなかったのではないか。

   ● ♯10排水口の遮断弁閉止だけでなぜ良いと判断したか。

   ● 構外へ流出していないことをなぜ目視で確認しなかったか。

 2619日(日)水路への流出確認以降

   ● ♯14の排水口の遮断弁の閉止だけでなぜ良いと判断したか。

   ● 618日~19日に構外へ流出した液量をなぜ推定していないか。(流出対策の対応に必要)

   ● 619日の市消防による水路の赤茶色変色や魚の死がいの確認以降、千葉県はどのような対応をしたか。(なぜ619日に水のサンプルを採取せず、620日に延ばしたか)

   ● 621日時点で千葉県は水質検査の中間結果でシアンを確認した以降、どのような対応をしたか。  

   ● 事業所の水のサンプル採取が621日と622日と遅れたのはなぜか。

   ● 水質検査結果(シアン確認)が脱硫液流出と関係していないことを明確に公表しなかったのはなぜか。(事業所、千葉県)    

■ 今回の事例は、前回の「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」20226月)と同様、事故や対応を適切に行うには、つぎの3つの要素が重要である。今回の場合、土曜・日曜が重なっているとはいえ、事業所と千葉県の各担当部署ごとに問題がなかったかを考える必要があるように思う。

 ① ルールを正しく守る

 ② 危険予知活動を活発に行う

 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。   

      Asahi.com,  日本製鉄の敷地から脱硫液が流出 付近で魚が大量死、原因を調査へ,  June  22,  2022

      Nipponsteel.com,  東日本製鉄所君津地区における着色水の構外への流出について,  June  24,  2022

      Tokyo-np.co.jp,  小糸川に「脱硫液」流出 君津の製鉄所 下流域へ注意呼びかけ,  June  24,  2022

      Mainichi.jp,  製鉄所から脱硫液流出 周辺水路で魚大量死 君津/千葉,  June  24,  2022

      News.yahoo.co.jp,  製鉄所の敷地外に「脱硫液」流出 水路・川赤く染まり魚死ぬ 千葉・君津,  June  24,  2022

      News.goo.ne.jp,  製鉄所の水路に「赤い処理水」流出、3キロ先の川まで水が変色魚が大量死,  June  23,  2022

      Nhk.or.jp,  君津 水路で魚大量死 製鉄所から化学物質含む液体流出,  June  22,  2022

      Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2022618日 千葉県君津市の日本製鉄でコークス炉ガス洗浄用の脱硫液タンクに穴が開き、30003が漏れて一部が水路に流出、水路を3日にわたり赤く染め沢山の魚が死ぬ(修正1),  June  26,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日本製鉄の敷地外に脱硫液漏出 有害物質シアンを検出,  June  25,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日鉄、製鉄所から毒物流出 環境基準超える 千葉・君津,  June  24,  2022

     Mainichi.jp,  日本製鉄の製鉄所から脱硫液流出 水路の魚が大量死 千葉・君津,  June  22,  2022

     News.yahoo.co.jp,  千葉県君津市の小糸川の水が赤く変色 現時点で「シアン」不検出,  June  30,  2022

     Excite.co.jp,  千葉県君津市小糸川の水が変色 死んだ魚も確認される 釣り人は釣った魚を食べないよう注意,  June  23,  2022

     Kisarazu-prime.com,  君津市人見の小糸川に化学物質が流れ出しました。,  June  29,  2022

     City.kimitsu.lg.jp,  小糸川の着色水に関するお知らせ,  June  22July 01,  2022

     Pref.chiba.lg.jp,  小糸川等における着色水について,  June  22 July 01,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日本製鉄工場から東京湾にも... 基準値超えシアンなど検出,  July 04,  2022

     News.yahoo.co.jp,  千葉・君津市の製鉄所 有害物質「シアン」検出,  July 04,  2022

     News.yahoo.co.jp,  日本製鉄の工場からまた有害物質が流出 基準値の最大5倍超える「シアン」を検出 千葉・君津市,  July 04,  2022

     Mainichi.jp,  深まる謎 日鉄シアン検出、流出源は複数か 千葉・君津,  July 04,  2022

     Xtech.nikkei.com,  日鉄の君津地区でシアンなどの排出基準超過、6月の着色水流出とは別,  July  05,  2022

    News.nifty.com,  千葉県、21日に「シアン含有の可能性」把握 日本製鉄工場流出,  July 01,  2022


後 記: 今回の事故について6月中に出された報道や公式発表を読んでいって、ふと「重厚長大型の基幹産業」、「特権意識」という今の時代にそぐわない言葉が浮かびました。なぜだろうと考えましたが、河川や水路が赤くなったというのに、住んでいる人の声が無いからです。発災があってから4日経っており、ニュースでなくキュース(旧のニュース)なので、もう終わったことという関心の無さが感じられました。深掘りの無い事故報道だなと感じていたら、7月に入って別な排水口からシアンが海に流出していたという報道や千葉県は早くからシアン流出を把握していたという報道が出てきました。それまでもやもやしていたのですが、やはり裏が隠されていたのだと分かり、なにやら終わりのない事例になりそうです。

2022年6月29日水曜日

山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故

今回は、2022620日(火)、山口県下関市にある下関バイオマスエナジー社の下関バイオマス発電所において焼却灰を貯めるフライアッシュ・タンクの中で作業員が死亡した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、山口県下関市彦島にある下関バイオマスエナジー合同会社の下関バイオマス発電所である。このバイオマス発電所は、循環流動層方式ボイラーで木質ペレットを燃料とし、出力74,980kWで、20222月に運転を開始していた。

■ 事故があったのは、バイオマス発電所内にあるフライアッシュ・タンクである。フライアッシュ・タンクは排ガスのバグフィルター通過後に浮遊している灰をためておくタンクで、直径約7m×高さ約11m、上部は円柱形、下部は円すい形である。なお、燃焼時に発生した灰は直下にあるボトムアッシュ・タンクに貯められる。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022620日(火)午前1025分頃、フライアッシュ・タンクの中で作業員の男性(55歳)が倒れているのが発見された。

■ 作業員の男性は、タンク内の灰除去作業中で、(胸から下が)埋もれた状態を別の作業員が見つけ、消防に通報した。

■ 灰除去の作業をしていた男性は広島県三原市にある請負会社の作業員で、下関市内の病院に搬送されたが、およそ3時間半後に死亡が確認された。

 警察によると、同日午前830分頃から4人でタンク内の壁面に付着した使用済みペレットの灰を撤去する作業をしていたという。事故当時、作業員の男性は、高さ約11mのタンクの中に入って、内側の壁についた灰を取り除く作業をしており、タンク内にいたのはひとりだった。

被 害

■ 灰の除去作業をしていた作業員が死亡した。 

■ バイオマス発電所の運転には影響していない。

< 事故の原因 >

■ フライアッシュ・タンク内で灰除去の作業中をしていた作業員が灰に埋もれて死亡した。

■ 警察は作業員の死因と事故の発生原因について調査中である。

< 対 応 >

■下関バイオマスエナジー社は、620日(月)、下関バイオマス発電所において作業員死亡事故が発生した旨の声明を公表した。 発生原因等の詳細は調査中とある。  


補 足

■「山口県」は、本州南西部に位置し、中国地方に属する人口約132万人の県である。

「下関市」は、山口県の西部に位置し、人口約25万人の山口県で最大の都市である。

■「下関バイオマスエナジー社」は、山口県下関市においてバイオマス発電事業を目的として、九電みらいエナジー()、西日本プラント工業()、九電産業()の共同出資により設立された合弁会社である。事業は、九電みらいエナジー㈱が発電所の運営全般、西日本プラント工業㈱が設備の建設・保守、九電産業㈱が運転を担当し、九電グループが初めて調査・建設、運転・管理までを一貫して手掛ける大型バイオマス発電事業で、九電グループ単独としては九州域外最大の発電所である。出資比率は、九電みらいエナジー㈱;85%、 西日本プラント工業㈱; 9%、 九電産業㈱; 6%である。

■「下関バイオマス発電所」は、山口県下関市彦島迫町七丁目(下関市所有地)に、 発電出力74,980kW、 年間発電電力量 約5kWh/年(一般家庭約14万世帯分の年間消費電力に相当)、 使用燃料約30万トン/年(木質ペレット+PKS)、 CO2 排出抑制効果約34万トン-CO2/年、 着工2019610 日、 運転開始2022 22日である。 「下関バイオマス発電所」の概要は、ユーチューブに投稿されている。Youtube,「下関バイオマス発電所の紹介(約11分)」を参照)なお、グーグルマップで調べても、運転開始が2022 22日であるため、ストリートビューの建設中の写真しか出てこない。

■「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されたり、建設が予定されている。しかし、海外から原料(木質ペレットや木材など)を輸入する場合、安定的な燃料確保に課題が出ている。

■「焼却灰」は2種のタンクに貯められ、トラックによって搬出され、セメントの原材料や埋め立てに利用される。燃焼時に発生した灰は直下にあるボトムアッシュ・タンクに貯められ、排ガスのバグフィルターで除去後に浮遊している灰はフライアッシュ・タンクに貯められる。フライアッシュ・タンクは、直径約7m×高さ約11mで、上部は円柱形、下部は円すい形であり、ボトムアッシュ・タンクも同形状とみられる。

 焼却灰のサンプルは写真のように細かいが、バグフィルターで除去後に浮遊しているフライアッシュは、もっと微細な灰と思われる。しかし、事故時の作業が、タンク内の壁面に付着した灰を除去していたというので、何らかの要因で浮遊灰がタンク壁面に付着するような状態だったとみられる。

所 感

■ 石油系以外のタンクにおいて発生した人身災害で類似事例と思われるのは、つぎのとおりである。

 ●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」20186月)

 ●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」20192月)

 ●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」 202010月)

 ●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」 202112月)

 これらの事例で類することは、硫化水素の発生する可能性があるにもかかわらず、防護策をとらずに作業を行ったことによって人身災害に至ったことである。今回の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクの人身事故では、硫化水素は無かったと思われるが、入槽という酸素欠乏に配慮すべき作業である。

■ 今回の事故は操業開始(20222月)からわずか5か月で機器(タンク)を開放して作業(工事)を行わなければならない事態が起こっている。また、今回の灰除去作業は、発電所の運営で担当部門が境界領域の範ちゅうのように思う。すなわち、運転管理と設備の保守管理の担当区分や役割が明確で、マニュアルが策定され、そのとおりに実行されたかどうかである。

 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。この基本に欠落があったものと思われる。

 ① ルールを正しく守る

 ② 危険予知活動を活発に行う

 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Nhk.or.jp,下関市のバイオマス発電所作業員がタンク内で灰に埋まり死亡,  June  21,  2022

     Asahi.shinbun, バイオマス発電所で作業員死亡,  June  22,  2022

     Q-mirai.co.jp, 下関バイオマス発電所において作業員死亡事故が発生しました(下関バイオマスエナジー合同会社),  June  20,  2022

     Rim-intelligence.co.jp, 九電みらい=下関バイオマス発電所で死亡事故,  June  21,  2022

     Yama.minato-yamaguchi.co.jp, タンク内作業員 灰に埋もれ死亡,  June  210,  2022    


後 記: 今回の事故は山口県のローカルニュースで知りました。メディアは危険性物質の絡まない一労働災害としての位置づけで淡々とした短い報道でした。字数制限があり、複数のメディア情報を合わせてやっと概要が理解できました。調べていくと、下関バイオマス発電所は今年20222月に出来たばかりというのが分かりました。運転開始から5か月でタンクを開放しなければならなくなったという点が気になりますが、報道では語られていません。ところで、山口県周南市にもバイオマス発電所が計画中です。出光興産は出力50,000kWのバイオマス発電所を2022年度内に、トクヤマ・丸紅・東京センチュリーが出資する周南パワーは出力300,000kWのバイオマス混焼発電所を2022年に稼働する予定です。また、石炭火力発電所を稼働中の東ソー(出力676,900kW)とトクヤマ(出力517,000kW)は、バイオマス混焼率向上を検討しているそうです。バイオマス発電という設備や運転に課題点があれば、原因を究明して情報を共有していくべきだと感じます。 

2022年6月25日土曜日

米国ミズーリ州セントルイスでアスファルト・タンクが火災

 今回は、202269日(木)、米国ミズーリ州セントルイスにあるスピリット・アスファルト社の油槽所でアスファルト・タンクが爆発して火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ミズーリ州(Missouri)セントルイス(St Louis)ヘーゼルウッド(Hazelwood)にあるスピリット・アスファルト社(Spirit Asphalt)の油槽所である。

■ 事故があったのは、スピリット・アスファルト社の施設にある内液2,200ガロン(8.3KL)の入ったアスファルト・タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202269日(木)午前1030分頃、油槽所のアスファルト・タンクが爆発して火災になった。

■ タンクから黒煙が立ち上り、遠く離れたところからも見ることができた。

■ 発災に伴い、地元のヘーゼルウッド消防署の消防隊が出動した。

■ 火災の原因はタンクへの充填中に火花が発生し、製品に引火したものとみられる。当局によると、発災タンクは、アスファルトの製造に使用される製品が充填された他のタンクの近くで爆発したので、消防隊はまわりのタンクも爆発するのではないかと危惧していた。実際、爆発したタンクの後ろ側にあるタンク2基は溶剤とタールの混合物であり、非常に爆発しやすいものだった。

■ 発災現場近くの道路は通行規制が行われ、交通が閉鎖された。

■ 被災写真では、火災の際に高さ25フィート(7.6m)のタンクが倒れかかっていることが確認できる。

■ 事故に伴う負傷者は発生していない。

■ 近くにあった別な企業の一部は避難を余儀なくされた。

■ 当局によると、ヘーゼルウッドのアスファルト工場で作業員がタール(アスファルト)を移送させていた時にタンクが爆発したという。作業員によると、「鉄道のタンク貨車に屋根材用のタール製品を積み込む作業をしていた際に、火花が発生し、タンク内の製品に引火した。しかし、充填していたタンク貨車を切り離し、タンク貨車は安全な距離まで移動させることができた。一方、タンク内の製品が燃え続けるうちに、タンクの上部が吹き噴き飛んだ」という。

■ 消防隊は、はしご車の上からタンク内の火災を消そうと努めた。

被 害

■ アスファルト・タンク1基が爆発と火災で焼損した。タンク内に入っていたタール(アスファルト)が焼失した。 

■ 負傷者はいなかった。近くにあった別な企業の一部が避難した。

■ 発災現場近くの道路の交通規制が行われた。

< 事故の原因 >

■ 事故は、鉄道のタンク貨車に屋根材用のタール製品を積み込む作業をしていた際に、火花が発生し、タンク内の製品に引火して爆発したとみられる。

< 対 応 >

■ 消防隊は約90分後、火災をタンク1基で食い止めることができた。消防署長は、「他のタンクが爆発したり、火災になったりしていたら、もっと大変なことになっていただろうし、消防資機材はもっと必要になっただろう」と語っている。

■ セントルイス郡のハズマット隊(Hazmat Team)が化学的な問題の有無を確認するために出動要請された。鎮火後、現場をクリーンアップするときに問題がないことを確認しようというものである。発災現場近くの水路への流出はなかった。

■ 鎮火後、消防署長は周辺地域には危険はないと語った。しかし、消防隊員は何時間も現場に留まり、赤外線カメラを使用しながら火花や炎が出ないようにタンクを冷却した。

■ ユーチューブでは、消火活動の動画が投稿されている。YouTube Liquid asphalt tank on fire in Hazelwood2022/06/10)を参照)  フェースブックには、さらにタンク貨車などを含めた詳細な被災状況の動画が投稿されている。(FacebookA liquid asphalt tan is on fire in Hazelwoodを参照)

補 足

■「ミズーリ州」(Missouri)は、米国中西部のミシシッピ川沿いにある内陸の州で、人口約650万人である。

「セントルイス」(St Louis)は、ミズーリ州東部のミシシッピ川とミズーリ川の合流点に位置する米国中西部有数の商工業都市で、人口約31万人のどの郡にも属さない独立市である。

「ヘーゼルウッド」(Hazelwood)は、セントルイス北部にあり、人口約25,000人の町である。

■「スピリット・アスファルト社」(Spirit Asphalt)は、1999年にセントルイスで設立された建築材料の製造会社で、ベースアスファルト、舗装製品、屋根葺き(ふき)用アスファルトなどの製造を行っている。アスファルト・工業用コーティング製品を手がけるSWTグループの一員であり、スピリット・アスファルト社は、カナダの3つの州とメキシコ北部に加えて、本土50州のうち41州にサービスを提供している。

「発災タンク」は、総合すると、8,000ガロン(30KL)のタンクに内液2,200ガロン(8.3KL)の入った高さ25フィート(7.6m)のタンクと報じられている。しかし、グーグルマップで調べると、タンク直径は約10mであり、高さを7.6mとすれば、容量は約600KLとなる。内液2,200ガロン(8.3KL)はタンクに約10cmの液しか入っておらず、空に近い状態である。発災事業所では、鉄道のタンク貨車に屋根材用のタール製品を積み込む作業をしていたというので、当日、タンク貨車1両分の屋根材用タール製品8,000ガロン(30KL)を製造していたのではないか。この場合、600KLタンクに30KLの屋根材用タール液は38cmとなり、もともとタンクは低液位で製造に入っていたのではないかと思われる。

所 感

■ アスファルト・タンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。今回の爆発要因は、屋根材用のタール製品を取り扱っていたというので、溶剤などの軽質油留分の混入だとみられる。

「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)」202110月)では、興味深いコメントがある。要約すると、つぎのとおりである。

 ● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り(しぼり)出すようになっている。このため、舗装や屋根材シールなどを扱うアスファルト会社は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。

 ● この添加剤は軽質の炭化水素やケミカルなどである。米国では、添加剤として軽質の炭化水素を含むことを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。

 要は製油所で搾り(しぼり)上げたアスファルトが取扱いにくいので、アスファルト工場では軽質の炭化水素を混入させて、爆発の危険性を大きくしているという皮肉である。

■ 今回の事例では、容量600KL×高さ7.6mのタンクに低液位(液位38cm)で屋根材用タール製品30KLを製造し、タンク貨車に積み終わる前(液位10cm×残液8.3KL)に何らかの引火要因で爆発・火災を起こしたのではないだろうか。タンク内では、軽質の炭化水素ガスが空気流入によって爆発混合気を生じたと思われる。おそらく、このようなタンク低液位での製造はよく行われていたが、爆発混合気が形成し、たまたま引火要因が無かっただけではないかと思う。

■ タンクが倒れかかっているが、爆発のときのショックでタンク基礎からズレてしまったか、あるいは低液位で爆発・火災が起こり、部分的に外板の強度が弱くなったのではないかと思うが、原因はよく分からない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com,  Asphalt tank catches fire in Missouri,  June  13,  2022

    Fox2now.com,  2,200-gallon asphalt tank burns in Hazelwood,  June  09,  2022

    Ksdk.com,  25-foot tank explodes in Hazelwood, prompting large response,  June  09,  2022

    Wpsdlocal6.com,  No injuries reported after tank explosion at Missouri business,  June  09,  2022


後 記: 今回の事例は要因が語られており、比較的簡単にまとめることができると思っていました。ところが、タンクの大きさをグーグルマップ(グーグルアース)で調べたところ、タンクは意外に大きく600KLあるとわかりました。タンクの大きさに対して極めて少ない液でしかないことが分かり、どのように理解していいのか悩みました。メディアによる単位(ガロンとバーレル)の読み違いではないかということまで考えてしまいました。タンク貨車への積込みという情報から、タンク貨車1両分の容量は1065トンということが分かり、1ロット分の少ない製造を大きなタンクで行っていたのではないかというふうに考えました。被災写真を見ると、タンクは空に近い状況です。メディア情報に比べかなり推測が大きいのですが、事故の状況からかけ離れていないように思います。

2022年6月15日水曜日

米国バージニア州リッチモンドのガソリンタンク火災(1975年)

 今回は今回は、1975626日(木)、米国バージニア州リッチモンドにあるリトル・オイル社の石油貯蔵・出荷施設において爆発があり、ガソリン・タンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国バージニア州(Virginia)リッチモンド(Richmond)にあるリトル・オイル社(Little Oil)の石油貯蔵・出荷施設である。

■ 事故があったのは、州間高速道路95号線沿いにある石油の貯蔵・出荷設備のガソリン・タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 1975626日(木)真夜中頃、石油の貯蔵・出荷設備で爆発があり、火災となった。爆発して火災になったのは、合計90万ガロン(3,411KL)のガソリンを貯蔵していた2基のタンクだった。

■ リトル・オイル社の石油施設で働く従業員ひとりが爆発に遭い、負傷した。深夜勤務をしていた従業員は、燃料出荷のために自分の車を入口ゲートから移動させる必要があった。彼はガソリンの臭いを感じたが、なにも見えなかった。車の点火装置を回したとき、突然、爆発が起こった。

■ 彼は、重度のやけどを負ったが、助けを求めてよろめきながら歩いていった。近くにあったコロニアル・パイプライン社の事務所にいた従業員は助けを求める声を聞き、ドアを開けると、火傷を負ったリトル・オイル社の社員が立っていた。コロニアル・パイプライン社の従業員はすぐに消防署へ電話して事故発生の連絡と負傷者の救助を求めた。

■ 一方、彼の車は炎につつまれ、動かなくなっていた。彼はバージニア病院に搬送されたが、危篤状態だった。

■ 発災に伴い、午前013分にフォレストヒル通りの消防隊が出動した。1時間以内に15100名の消防士が現場に到着した。

■ 現場の近くに消火栓がないため、作業は難航した。消火栓から現場までの約1,200mの距離に消火ホースを展張した。水源から州間高速道路95号線を越え、大きな溝を通り、シーボード・コースト・ラインの鉄道線路を越えてホースを走らせた。

■ 発災現場は、州間高速道路95号線からモーリー通りへの出口近くにあった。タンク地区には、5基のタンクが隣り合って立っていた。貯蔵タンクには、燃料油や灯油が100万~200万ガロン(3,7905,580KL)入っていた。周辺にはアメリカンオイル社、ガルフオイル社、サザンフューエルオイル社、ユニオンオイル社が保有する石油貯蔵所があり、消防当局は火災が大きくなれば延焼する危険性を感じながら消火活動を行った。

■ 火災は2基の貯蔵タンクが燃え、さらに1基が炎上した。 No.1タンクは、25万(948KL)のガソリンを貯蔵していたが、頂部ベントから火を噴き出していた。No.2タンクは、65万ガロン(2,463KL)の高オクタン価ガソリンを貯蔵していたが、座屈し、まるでアルミ缶をつぶしたようだった。No.3タンクは頂部付近で突風が発生し、一時的に炎が舞い上がった。炎は500フィート(150m)の高さにまで舞い上がった。


被 害

■ 合計95万ガロン(3,600KL)のガソリンを貯蔵していた2基のタンクが爆発して火災となり、焼損した。さらに石油タンク1基が火災で焼損し、内部の石油が焼失した。

■ 発災時に現場にいた従業員1名がやけどを負った。また、耐熱服を着用してバルブの操作を行った消防士が熱にうなされ、病院に搬送された。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、何らかの理由でガソリンが漏洩し、従業員の車両のスターターで引火した。当時は雷によるという意見があったが、最終的に車両による引火と判断された。

< 対 応 >

■ 消防活動は3本の消防ホースから多くの水が火に注がれたが、あまり効果はなかった。午前8時頃に火の勢いが一時的に弱まったが、風の変化によって夜明け前の猛烈な火勢が再び現れた。バード空港から支援で出動してきた消防車による難燃性泡噴霧器も効果を発揮できず、午前中までに泡薬剤を使い果たした。

■ 州間高速道路95号線は消火活動のため通行が閉鎖され、リッチモンド周辺の交通が停滞した。火災現場の近くには多くの見物人が見守っており、州警察は立ち退くよう指導した。しかし、多くの消防士たちはすることがなく、消防車両の上に座ったり、写真を撮ったり、ボランティアから支給された昼食を食べたりしていた。

■ ところが、626日正午前になって、座屈したタンクから大きなファイアボールが噴出し、消防士、記者、見物人たちをあわてさせた。

■ 正午頃、ラジオではヘリコプターから火災の様子を伝えた。「No.3タンクの上部があたかも缶切りで開けられたような状態になっているのが見える。タンクから燃料が漏れており、タンク基礎部で火災が発生している。 No.3タンクは他のタンクほどひどく燃えているようには見えないが、漏れ出した燃料が火炎への供給を果たしている」と述べた。

■ 地元の消防署長は、“ライト・ウォーター”と呼ばれる泡薬剤について米国海軍の担当者に聞いて政府から入手しようと試みた。

■ No.3タンクの炎上を受け、消防隊員たちは自分たちだけでなく、まわりの機器についても気を配った。シーボード・コースト・ラインの鉄道が熱で使えなくならないように線路に冷却水をかけた。また、近くにあったタンク貨車6台を移動させた。

■ 626日午後になって警察が護衛して、ノーフォーク海軍航空基地、オセアナ海軍航空基地、ラングレー・フィールドから泡薬剤223バレル(35KL)を積んだトラック隊が現場に向かっていた。これには海軍の消防学校で使われる泡薬剤が含まれていた。

■ 消防署長は、泡薬剤が来たときの消防隊員の配置を指示した。海軍のトラックは現場へあと15分で到着する予定であったが、調整していたので1時間ほど遅れた。海軍のトラックが到着し、泡薬剤による消火活動が午後420分から開始された。泡薬剤に詳しいリーダーが白い泡の吹雪を放射した。海軍によると、ライト・ウォーターが開発されたのは最近であり、これが使用された最初の大規模な火災だという。

■ 午後5時頃、リッチモンドの消防士ら3名が耐熱用のアスベストスーツを着て、高オクタン価ガソリンが放出していたNo.1タンクの開いていた2つのバルブを閉止することに成功した。しかし、この作業でリッチモンドの消防士は熱にうなされ、病院に搬送された。

■ 泡薬剤を積んだトラックは、かろうじて火災の前にとどまって、消火活動に寄与していた。しかし、泡薬剤がなくなれば、ガソリンが再び炎上し、トラック焼き尽くす恐れがあった。監視を続ける中、夕暮れまでに、援軍はなんとか火災を制御することができた。

■ 泡が最後の残り火を消した時、リトル・オイル社の社長は「もっとひどいことになったかもしれない」と最悪の事態が避けられたと語った。

■ 火災が発生してから19時間後、626日(木)午後711分、消防当局は鎮火を宣言した。

■ その後、タンクには保険がかけられており、設備は取替えられた。リトル・オイル社で重傷を負った従業員は快復したという。

補 足

■「バージニア州」(Virginia)は、米国東部の大西洋側に位置し、人口約860万人の州である。バージニア州のタンク関連事故はなく、少なくともこの10年間に取り上げた事例はない。

「リッチモンド」(Richmond)は、バージニア州の中部に位置し、人口約22万人の州都である。

■「リトル・オイル社」(Little Oil)は、1921年にバージニア州リッチモンドで設立した石油会社である。ガソリンやディーゼル燃料などの販売代理店で、現在はバージニア州、ノースカロライナ州、メリーランド州のガソリンスタンドやコンビニエンスストアなどに石油製品を提供し、BPCitgoExxonMobilPureValeroなどのブランドや非ブランドに卸している。

■「ライト・ウォーター」(Light Water)は、1960年代後半に米国スリーエムで開発された水成膜泡薬剤(AFFF)である。フッ素系消火薬剤が働いた後、油面上にフィルム状の膜を作ってガソリン等のベー パーを抑制し、再燃防止と引火防止効果を狙ったものである。一時期は画期的な消火薬剤として広く使われていたが、薬剤が分解しにくく、長期間残留するとの観点から、製造者の判断により製造が中止されている。

 現在は、 PFOS(ピーフォス)と呼んでいるフッ素系化合物の泡薬剤が分解されにくい特徴を持つ事から環境への残留性や人体への蓄積性が問題視され、国際的に規制されることとなった。一方で、代替品であるフッ素フリーの泡薬剤に効果的なものが現れておらず、消火薬剤としての問題が出ている。消火薬剤の種類と特徴、フッ素フリーの泡薬剤の課題は、つぎのブログを参照。

 ●「グアテマラの固定屋根式タンク火災で消火泡から炎(2003年)」 20162月)

 ●「フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り」202110月)

 ●「フッ素フリー泡薬剤(F3)への移行で取り組むべき課題」 202111月)

■「被災したタンク」の場所や仕様などが情報によって若干異なっており、整合性から判断してまとめた。場所をグーグルマップで調べてみたが、タンク施設はいくつかあり、発災場所をはっきりと特定できなかった。

所 感

■ 今回の事例を火災の時間帯でみると、大きく3つに分けられると思う。

 ● 真夜中の発災から朝方までの時間帯・・・状況を知る従業員がやけどで負傷し、火災状況を手探りで把握しようと努め、消火ホースの放水で対応した。効果はほとんど無かった。

 ● 朝8時から昼までの時間帯・・・空港から航空用の泡消火設備(難燃性泡噴霧器)の支援を受け、対応した。効果は無く、泡薬剤を使い果たした。

 ● 午後から消火までの時間帯・・・消防署長が“ライト・ウォーター”と呼ばれる泡薬剤(水成膜泡薬剤)を入手しようと努めた。夕方に“ライト・ウォーター”が到着した。午後420分に泡放射開始、午後711分に鎮火した。ライト・ウォーターによる実質の消火時間は2時間51分だった。

 複数タンク火災に対して19時間で鎮火までにこぎつけたのは、手持ちの消防資機材だけでなく、広く支援を求め、的確な消防戦術をとったことが功を奏したという印象である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Richmondmagazine.com , The Big Little Inferno,  June 29, 2018

    Richmond.com , The Little Oil Fire of 1975 ‘one of the most spectacular fires’ in Richmond’s history,  August  13, 2018

    Richmond.com,  Little Oil inferno off I-95 could have been worse,  July  30, 2008


後 記: 今回の事故はいまから47年前の出来事です。毎回いいますが、米国というところは記録を残すことの好きな国です。今回の事故からいえることは、100名の消防士を集めても、資機材がなければやる仕事が無いということを米国の消防に携わっている人たちが感じたのではないかと思います。この事故のあと、タンクの大型化に対する米国における消火薬剤の開発、大型泡モニター(大容量泡放射砲)の開発、送水ポンプシステムの開発が結びついているように感じます。その好例が26年後に起きた2001年米国ルイジアナ州のオリオン製油所において直径82mのガソリン・タンクの全面火災について大容量泡放射砲を使用して65分で消火させた対応でしょう。(「米国オリオン製油所のタンク火災ー2001201110月)を参照) 





2022年6月5日日曜日

ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発

  今回は、2022531日(火)、ウクライナの東部ルガンスク州セベロドネツクにある肥料メーカのアゾット社の化学工場にロシア軍の攻撃によって硝酸タンクが爆発した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)の東部ルガンスク州セベロドネツク(Severodonetsk)にあるアゾット社(Severodonetsk Azot Association)の化学工場である。

■ 攻撃を受けたのは、化学工場にある硝酸タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022531日(火)午後2時頃、ロシア軍はセベロドネツクを空爆したほか、化学工場を砲撃した。

■ 工場内にあった硝酸タンクが爆発し、空に巨大な茶褐色の噴煙が空高く舞い上がった。 

■ 州知事は、硝酸タンクの爆発に伴い、「硝酸ガスは吸い込んだり、飲み込んだり、肌に触れたら危険だ」と指摘し、市内に残っている住民に「シェルターから出てはいけない」と呼び掛けた上で、「防護用マスクを準備するよう」求めた。

■ 硝酸は、黄色または赤色の液体で腐食性があり、皮膚に接触すると重度の火傷、潰瘍、瘢痕化を引き起こす可能性があり、その蒸気はを吸入すると肺水腫を引き起こす可能性がある。

■ 硝酸タンクの爆発は、空爆によるとものと砲撃によるものだという情報があり、明確ではない。新ロシア派の武装勢力はウクライナ軍の攻撃によるものだと主張している。硝酸タンク爆発により、有毒ガスが放出されたが、狭い範囲で済んだという情報があるが詳しくは分からない。

■ 硝酸タンク爆発によって死傷者が出たかは不明である。

■ 化学工場の地下には、避難施設があり、工場の領域は依然としてウクライナ政権の武装部隊によって管理されている。 

■ 硝酸タンクの大きさや入っていた硝酸の量は分かっていない。

■ ユーチューブには、タンクの爆発した瞬間の映像ではないが、ウクライナ軍の兵士の近くで茶褐色の噴煙の上がる様子をとらえた映像が流れている。YouTubeUkrainian soldiers hit by ‘giant cloud of ACID as Russia takes city’(ロシアが都市を占領するにつれて硝酸の巨大な雲に襲われたウクライナの兵士)を参照)

被 害

■ 化学工場の硝酸タンクが爆発し、有毒なガスが放出され、環境汚染を引き起こした。 

■ 硝酸タンク爆発による死傷者は分かっていない。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動で、平常時の“故意の過失”に該当。

< 対 応 >

■ ウクライナで硝酸が爆発したのは、今回で5回目だという情報がある。

 そのひとつは、202249日(土)、ウクライナ東部ルガンスク州で有毒な硝酸の貯蔵タンクが攻撃された。(動画サイト;ItemfixAcid Tank Blows Up In Chemical Plant In Ukraine(ウクライナの化学プラントで酸タンクが爆発)2022/04/10を参照、またはYouTubeКАК ГОРЕЛА АЗОТНАЯ КИСЛОТА В РУБЕЖНОМ! ВИДЕО С ДРОНА!(国境で硝酸がどのように燃えたのか!ドローンからのビデオ)2022/04/11を参照)

■ このほか、321日(日)、ロシア軍は、ウクライナ北東部スムイの化学工場を攻撃し、これによって有害物質のアンモニアの入ったタンクが損傷して工場の周囲約2.5kmにわたってアンモニアが漏れ出した。幸い、人的被害は報告されていない。YouTube「ロシア軍が化学工場を攻撃 アンモニア漏れる(2022321)を参照)

 専門家の中には、化学兵器を使用しない場合にも、化学工場を攻撃しただけで、化学兵器として取り扱う必要があるという。

補 足

■ 「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。20143月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。その前年の2013年に同国内で親ロシア派と親欧米派の対立が激化し、2014年に州庁舎を占拠した親ロシア派が一方的にドネツク州の一部を「ドネツク人民共和国」の樹立を宣言した。同5月に行われた住民投票では独立支持が多数を占めたが、ウクライナ政権や欧米は投票の正当性を否定しており、情勢は混乱していた。その後、2022224日(木)、ロシアは、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

「セベロドネツク」 (Severodonetsk) は、ウクライナ東部ルハンスク州の西部に位置し、人口約10万人の市である。ルハンスク州はロシア派の自称「ルガンスク人民共和国」に実効支配されているため、ウクライナ政府の管理が届かず、州行政庁をセベロドネツクへ臨時に移管している。

■「アゾット社」(Azot)は、1951年に設立されたウクライナの化学会社である。アゾット社は、ウクライナの世界的な窒素肥料企業であるオストケム・ホールディング(Ostchem Holding)の一員で、セベロドネツクの化学工場はセベロドネツク・アゾット・アソシエーション(Severodonetsk Azot Association)が運営している。

■「硝酸」(HNO)は、通常、無色~黄色の刺激臭のある強酸の液体で、発煙性が激しい。融点-41℃、沸点86℃で、普通に硝酸というときには、水溶液を指す。98%硝酸の比重は1.50以上、50%硝酸の比重は1.31以上である。肥料、硝酸エステル、ニトロ化合物の原料のほか、液体ロケット燃料の酸化剤として用いられる。

 濃硝酸からは常に硝酸のガスや微粒子あるいは窒素酸化物が発生しており、水や金属などの物質との反応で爆発的に発生する危険性物質である。漏洩時の事故処理に当たっては、保護衣と防毒マスクを着用する必要がある。多量に流出した場合、漏洩した液は土砂等で流れを止め、それに吸着させるか、または安全な場所に導いて、遠くから徐々に注水してある程度希釈した後、消石灰やソーダ灰などで中和して多量の水を用いて洗い流す。

所 感

■ 客観的にみれば、硝酸タンクの爆発はロシアによる空爆または砲撃という“戦争による軍事行動” で、平常時の故意の過失に該当するものであろう。

 硝酸タンクに関する事故をこのブログで取り上げたのは、つぎのとおりである。硝酸単体では化学兵器ではないが、通常時でさえ、漏洩事故があると広域で避難する必要があったり、人身災害の生じる恐れがある。このほか、化学工場のアンモニア・タンクの漏洩による人身災害事例もある。

 ●20174月、「ベルギーで硝酸タンクの漏洩によって全村避難」

 ●20206月、「インドの化学工場で硝酸用貯蔵タンクが爆発、死傷者87名」

 ●20196月、「スペインのカタルーニャ州でアンモニア・タンクから漏洩、死傷者15名」

 今回のロシアのウクライナ侵攻における化学工場への攻撃を見ると、“戦争で化学兵器を使用しない場合にも、化学工場を攻撃しただけで、化学兵器として取り扱う必要がある”という意見は正論だと思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Nikkei.com,  ロシア軍、硝酸タンクを空爆 ウクライナ東部州知事,  June  01,  2022

    News.tv-asahi.co.jp,  ロシア軍、東部で硝酸の貯蔵タンクを爆撃 占領地域でロシア化進,  June  01,  2022

    Afpbb.com,  ロシア軍が硝酸タンク空爆 ウクライナ東部の激戦地、住民に注意喚起,  June  01,  2022

    Nordot.app,  ロシア、インフラ狙い攻撃継続 英国防省が分析,  April  10,  2022

    Thesun.co.uk, TOXIC BLAST Harrowing moment giant cloud of face-melting nitric ACID spews into the sky as Russian forces lay waste to key city,  June  01,  2022

    Tass.com, Container with chemicals blown up at Kiev-controlled Azot plant in Severodonetsk,  June  01,  2022

    Nypost.com, Giant cloud of face-melting nitric acid spews into the sky as Russian forces lay waste to Ukrainian city,  June  01,  2022

    Pref.aomori.lg.jp, 化学テロ対策 (東北大学 医学系研究科 三村敬司),  August  23,  2013


後 記
: 硝酸タンクがロシアの攻撃によって爆発したというニュースはテレビで報じていたので、調べることにしました。しかし、茶褐色の噴煙が上がっていることのほかに詳しい情報はありませんでした。この件に関してだけいえば、日本のメディアも海外の通信社などによる情報を報じていたので、日本も海外も同じ程度の内容です。「備考」に列記した以外に多くのインターネット情報を調べましたが、同じような内容でした。ロシアのインターネット情報も調べましたが、極端にいえば、タス通信以外に発信していないという異常な状況(報道管制?)です。設備故障やテロ攻撃のようなタンク事故であれば、詳細な情報が流れますが、これが戦争時の情報なのでしょう。