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2025年10月5日日曜日

米国ケンタッキー州の食用油製造工場で水素タンクが爆発、1名死亡

 今回は、米国ケンタッキー州シブリーにある食品企業AAK社の食用油製造工場で起こった水素タンクの爆発事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ケンタッキー州(Kentucky)ジェファーソン郡(Jefferson county)シブリー(Shively)にある食品企業AAK社の食用油製造工場である。AAK社はスウェーデンに本社があり、植物油を専門とする食品企業で、施設では大豆油の漂白、水素化、脱臭、精製が行われている。

■ 事故があったのは、セブンス・ストリートロード沿いにあるAAK社ルイビル工場(Louisville Plant)の製造で使用する水素タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025921日(日)1230分頃、食用油製造工場で水素爆発が起こった。

■ 発災にともない、現場での火災警報を受けて消防隊が出動した。

 午後1230分過ぎ、消防署がセブンス・ストリートロード2500番地の火災警報が鳴ったという通報を受けた。  

■ 消防隊が現場に到着した際、目に見える火災は確認できなかった。消防隊は工場職員の案内で爆発現場に案内され、そこで致命傷を負った作業員を発見した。作業員は、その後、死亡が確認された。

■ 消防署長は、「AAK社は油を使用可能な製品に変換するために大量の水素を使用しており、爆発は水素の取扱い中に起きた」と語っている。

■ 当局は、水素タンクのコンバージョン・プロセスで爆発が発生したと述べた。爆発の影響は建物の外部に限定された。注;水素タンクのコンバージョン・プロセス(a hydrogen tank conversion process

■ 通りの向かい側で働き、工場から漂ってくる臭いに悩まされてきたという住民は、「時々恐いことがあります」といい、「消防署の消防車がAAK社の工場に駆けつけるのを何度も目にしました。こんな生活は嫌ですし、周りの人たちもこんな生活を嫌がっているのは分かっています。何か対策を講じなければなりません」と語った。別な住民のひとりは、「本当に悲しいです。何か対策を打つ必要があることは、これまでAAK社は認識していたはずです。誰かが亡くなったということですが、本当に辛いことです」と語った。

■ この事故を受け、ルイビル工場の一部が閉鎖された。

■ ユーチューブでは、事故の速報を伝えるニュースの動画はあるが、タンク爆発の状況を伝える動画は無かった。

被 害

■ 水素タンクが損傷した。 

■ 作業員1名が死亡した。

■ 爆発は建物の外部に限定されたが、この事故を受け、ルイビル工場の一部が閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ AAK社は、事故後、つぎのような声明を発表した。

2025921日(日)、ケンタッキー州にあるAAK社ルイビル工場で事故が発生したことを深くお詫び申し上げます。誠に残念なことに、当社の従業員のひとりが亡くなりました。ご遺族、ご友人、そしてこの事故に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。緊急対応部署は直ちに対応し、当社は当局の捜査に全面的に協力しております。予防措置として、工場の関連部分の操業を停止いたしました。AAK社は安全を最優先に考えております。事故の真相究明に努め、このような事故が二度と発生しないよう、必要な措置を講じる所存です」

 ■ AAK社ルイビル工場では、1年前にも事故があった。202412月に水素タンクで火災が発生したが、負傷者は出なかった。この事故では、食用油製造工場で不具合の生じたガスケットから漏れ出し、発火したという。このため、メトロ危険物局などが現場に立ち入った。労働安全衛生局は20252月にAAK社ルイビル工場を調査対象としたが、その後調査は終了し、違反は記録されていないという。

■ AAK社は、2025921日の水素タンク爆発と202412月のタンク火災は別々のタンクで発生したと語っている。

補 足

■「米国ケンタッキー州」(Kentucky)は、米国の中東部に位置し、人口約450万人の州で、州都はフランクフォート(Frankfort)である。

「ジェファーソン郡」(Jefferson county)は、ケンタッキー州の中部に位置し、人口約58万人の郡である。

「シブリー」(Shively)は、ジェファーソン郡の西部に位置し、人口約15,000人の町である。

■「AAK社」は、スウェーデンに本拠を置く世界的な植物油脂生産企業で、以前はオーフスカールスハムンとして知られていた。従業員数は全世界で約4,000人で、米国法人はオーフスカールスハムンUSA社(AarhusKarlshamn USA, Inc.)である。

■「食用油製造」は、原料油によって大豆や菜種などの植物からとる植物油脂と、豚や牛などの動物からとる動物油脂の2種類に分けられる。原料油は採油、精製、加工の3つの工程を経て食用に適するものにされる。油脂の加工方法は3種類あり、用途や目的に応じて方法を変える。油脂の脂肪酸の二重結合に水素を加える加工法を「水素添加」といい、水素添加は「硬化」とも呼ばれる。

 AAK社は植物油脂の生産企業で、水素を使用しているので、油脂の加工方法として水素添加をしているプロセスと思われる。

■「発災タンク」は、屋外にあるコンバージョン・プロセスの水素タンク(a hydrogen tank conversion process)というだけで、詳細の仕様は分からない。第一に “a hydrogen tank conversion process”という用語の意味がよく分からないが、植物油の製造で水素を使用する切替えプロセスを指しているのではないだろうか。

 グーグルマップや上空から撮った施設のタンク写真を見たが、特定できなかった。また、水素タンクが爆発と報じられているが、タンク本体の爆発でなく、接続フランジや付属機器からの漏洩や流出などによる爆発ではないかと思う。

所 感

■ タンク爆発の原因は分かっていない。このブログでは、水素タンクの事故はあまり取扱ってこなかったが、つぎのような事例がある。いずれも今回の事例との類似性はない。

 ●「韓国の燃料電池開発会社で水素タンク爆発、死傷者8名」201911月)

 ●「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」20196月)

 ●「固定屋根式の軽油タンクで水素混合気による爆発火災 (1997) 20231月)

■ 水素タンクが爆発と報じられているが、タンク本体の爆発でなく、接続フランジや付属機器からの水素の流出や漏洩による爆発ではないだろうか。この製造工場では、202412月に水素タンクで火災事故を起こしているが、要因は不具合の生じたガスケットから漏れ出し、発火したという。火災と爆発の違いはあるが、今回の事故も同様の事例ではないだろうか。1年に2回も水素タンクの事故を起こすということは組織的な欠陥があるのだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hydrogeninsight.com, One person killed in hydrogen explosion at food-grade oil factory,  September 22,  2025

    Wlky.com, Get the Facts: Shively plant explosion kills one, but it's not the only incident there,  September 22,  2025

    Fox56news.com,  Hydrogen tank explosion at Louisville plant leaves 1 dead,  September 22,  2025

    Courier-journal.com, One dead after explosion at AAK plant in Shively,  September 22,  2025

    Whas11.com, Deadly blast at Shively food plant under investigation,  September 22,  2025

    Isssource.com, Worker Killed after Hydrogen Tank Blast,  September 23,  2025

    Wdrb.com,  Explosion at cooking oil plant in Shively kills 1 person, prompts investigation,  September 22,  2025

    Wave3.com, 1 dead after explosion at AAK plant in Shively,  September 22,  2025


後 記: 今回の事故は食用油製造工場の水素タンク爆発という聞いたことのない事例だったので、調べることとしました。しかし、分かったことは、事故の詳細な状況が報じられていないということです。最近、事故のあったインディアナ州のほか、テキサス州やルイジアナ州などで事故報道の質が深堀りしないと思っていますが、米国中東部のケンタッキー州でも同じでした。事業者(経営者)の自主性を重んじるためか、メディアが衰えて勢いが無くなっているのか分かりませんが、米国全体でまん延しているようで、今回、近くの住民が「何か対策を講じなければなりません」という言葉がむなしくなってきますね。



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