今回は、2025年10月5日(日)、韓国の京畿道華城市にあるレーザー加工工場のレーザー加工機用の液体窒素タンクが破裂した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、韓国の京畿道(경기도;キョンギド/けいきどう)華城市(화성시;ファソンし/かじょうし)香南邑(ヒャンナム・ウプ)にあるレーザー加工工場である。レーザー加工は高密度のレーザーを調節して工作物の一部を溶かして加工する。
■ 事故があったのは、レーザー加工工場内にある液体窒素タンクである。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2025年10月5日(日)午前5時30分頃、京畿道華城市香南邑のあるレーザー加工工場で爆発音があった。一方、火災は起こらなかった。
■ 消防署には「建物が爆発した」という通報があり、消防隊が出動した。
■ 消防隊は、火災がないことを確認し、建物内部に人がいないか捜索をした後、安全措置を実施した。
■ 事故にともない、レーザー加工工場と隣にあった工場の建物2棟の壁面や屋根が崩れるなどの被害があった。
■ 事故にともなう死傷者はいなかった。事故が発生した当日は日曜日の明け方の時間であり、人がいなかった。
■ 事故は工場内のヘリウムガス・タンクが爆発したと伝えられ、大半のメディアはヘリウム貯蔵タンクが爆発したと報道した。しかし、その後ヘリウムガス・タンクでなく、貯蔵能力4,900㎏規模の窒素貯蔵タンクが破裂したことが明らかになった。
■ レーザー加工では、レーザビームによって溶融した金属を吹き飛ばすための高速ガス流が用いられ、アシストガスと呼ばれる。切断時に主に使用されるのは、酸素ガスや窒素ガスである。チタンやチタン合金の場合は、酸化や窒化を防止するためにアルゴンガスが用いられる。溶接や焼き入れには、加工部が酸化することを防ぐためアルゴンガスやヘリウムガスが使用される。今回の事故では、窒素ガスのための液体窒素タンクが破裂したものとみられる。
■ ユーチューブでは、事故報じる動画が投稿されている。
●Youtube、「레이저공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고…인명 피해 없어 / 연합뉴스TV (YonhapnewsTV)」(2025/10/05)
●Youtube、「화성 공장서 헬륨가스 추정 폭발…다친
사람 없어 / SBS」(2025/10/05)
被 害
■ 液体窒素タンク1基が損壊した。
■ 工場2棟の壁面と屋根が損傷した。
■ 負傷者はいなかった。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中とみられる。
推測のひとつは、「二重殻式液体窒素タンクの内槽の本体またはパイプからクラック(割れ)が発生し、液化窒素が漏出しながら気化して内槽と外槽との間の圧力が上昇、破裂したと考えられる」、別な推測では、「安全装置が作動していないので、貯蔵タンクの品質レベルが悪かったのではないか。内槽と外槽の間に圧力が上がり、内槽はそのままで外槽が飛んでおり、外槽の溶接部位などに欠陥があったのではないか」というものである。
< 対 応 >
■ 事故後の被災確認では、二重殻式液体窒素タンクの内槽(ステンレス製)は角度45度の傾斜で倒れており、外槽(炭素鋼製)だけが破裂により完全に離脱していた。そして、内槽と外槽の間にあった断熱材も痕跡もなく飛んでいたという。
■ 産業ガス供給業者の専門家は、「窒素貯蔵タンクの外槽だけ噴き飛んだということから、内槽の本体またはパイプからクラック(割れ)が発生し、液化窒素が漏出しながら気化して内槽と外槽との間の圧力が上昇、破裂したと推定される」という。また、「何より貯蔵タンクの真空を維持しなければならない内槽と外槽の間安全装置が作動していないのは貯蔵タンクの製品欠陥ではないか」と語った。なお、「最近までガスを供給しながら、リリーフ式安全装置が作動する事例はなかった」と付け加えた。
■ 事故現場を訪れた別な高圧ガス業界の専門家は、安全装置が作動していないことについて今回の貯蔵タンクの品質レベルに注目した。内槽と外槽の間に圧力が上がり、内槽はそのままで外槽が飛んだということは、外槽の溶接部位などに欠陥があったのではないかと指摘した。
■ 安全装置が未作動によって、内槽の液化窒素が漏れて圧力が上昇して外槽が噴き飛んだことに対して、窒素貯蔵タンクの安全装置を徹底的に点検する必要があるという指摘がある。
■ 今事例の貯蔵タンクメーカーはB社であることが明らかになった。京畿道西部地域にある高圧ガス充填事業者は「20年前もB社の貯蔵タンク品質に関連した問題が多かった」といい、「特に貯蔵タンクの真空系が壊れるなどの事例の発生頻度がたびたびあり、製造業者に責任を問うこともした」と話した。
■ 今回の窒素貯蔵タンクの破裂事故により、高圧ガス業界の一部では「断熱性能が悪い貯蔵タンクの場合、週末や連休など操業しないときにさらに早く圧力が上昇する可能性があり、スプリング式、破裂板式など安全装置の作動可否などの点検をさらに徹底しなければならない」と指摘している。
■ 窒素貯蔵タンクの破裂事故は、2022年5月、京畿道金浦と慶尚北道慶州で相次いで起きている。今回の事故とは異なり、2件の事故では貯蔵タンク内槽と外槽がそれぞれ破裂し、貯蔵タンクが丸ごと飛び、破片が広範囲に落下した。
補 足
■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,120万人の共和制国家である。首都はソウル特別市である。
「京畿道」(경기도;キョンギド/けいきどう)は、大韓民国の北西部、朝鮮半島の中西部に位置し、人口1,360万人の道である。
「華城市」(화성시;ファソンし/かじょうし)は、京畿道の南西部に位置し、人口約94万人の都市である。
「香南邑」(ヒャンナム・ウプ)は、華城市の南部に位置する邑(行政区分)で、人口約85,000人である。
■「レーザー加工工場」の建物被害の写真はあるが、どのようなレーザー加工機を使用して製品を作っているのかは報じられていない。日本の一般的なレーザー加工機を使用した工場の例を写真に示す。
■ 一般的な「レーザー加工機」のしくみは図のような基本構成となる。
● レーザー発振器系; レーザー光を発振する装置である。加工する材料、板厚、加工精度などによってレーザー光の種類(波長)や出力が選ばれる。切断用の熱源としてはCO2レーザーなどが一般的に使用される。
● 加工光学系; レーザー発振器から発生したレーザー光を集光してテーブルに照射するための装置である。レーザー発振器からレーザー光を伝送する「光路」、そして伝送されたレーザー光を集光して対象物へ照射する「集光系」から構成される。また、レーザー光によって融解・蒸発した金属を除去するための「アシストガス」などの噴射装置も加工光学系に含まれる。
● 加工物質系; 加工物を固定するためのテーブルと加工物を指す。切断などでレーザー光の照射位置を移動させる場合、集光系またはテーブル(あるいはその両方)を動かす必要があり、テーブルには駆動システムを組み込む。レーザー加工では、レーザーに対する加工物の光学的性質(反射率、吸収率、透過率など)に加えて熱的性能も重要な要素になる。また、加工物を動かす場合は、テーブルの送り速度などが重要なパラメータになる。
■「アシストガス」は、レーザー光での切断能力を十分に発揮するために使用される。たとえば、切断の際に使用されるガスは窒素ガスと酸素ガスがあり、それぞれに役割が違う。酸素ガスは、噴射することによる酸化反応で熱を引き起こすことができる。窒素ガスは、溶融金属を切断溝から排出していく。
アシストガスは、用途や加工物の素材、制御方法によって様々な種類のものがある。切断時に主に使用されるのは、酸素ガスや窒素ガスである。ステンレス切断には窒素ガスがよく使用されるが、チタンやチタン合金の場合は、酸化や窒化を防止するためにアルゴンガスが使用される。溶接や焼き入れには、加工部が酸化することを防ぐためアルゴンガスやヘリウムガスなどが使用される。
■ 破裂した「液体窒素タンク」は貯蔵能力4,900㎏規模の貯蔵タンクと報じられている。液体窒素タンクの圧力と温度について、一般的には、圧力が使用圧力範囲内(例:約0.95 MPaなど)で、温度が沸点である約-196℃(77K)といわれている。この超低温環境を維持するため、タンクは二重殻構造で真空断熱などが施されている。
事故後の被災確認では、二重殻式窒素貯蔵タンクの内槽(ステンレス製)は角度45度の傾斜で倒れており、外槽(炭素鋼製)だけが破裂により完全に離脱し、内槽と外槽の間にあった断熱材は痕跡もなく飛んでいたという。液体窒素1㎏はガスになると0.8N㎥であり、貯蔵能力4,900㎏規模の内槽の直径を1.2mと仮定すれば、高さは約5.4mとなる。被災写真で写っている容器がこの程度の大きさと見られるので、発災タンクと思われる。
■「事故事例」(AI による液体窒素タンクの事例紹介);液体窒素タンクの事故事例には、タンクの破裂、爆発、酸素欠乏による窒息死がある。具体的には、①安全弁の元弁が閉止されたまま長期間放置されたことによる内圧上昇での破裂、②液体窒素に溶け込んだ酸素と可燃物(例:ベンゼン)による爆発、③実験室で気化し、酸素濃度が低下した窒息が発生している。
このうち、タンクの破裂事例としては、1992年に北海道の食品工場で液体窒素貯槽が破裂し、工場が半壊、周辺に甚大な被害が出た。原因は、安全弁の元弁が閉められ、完全に密閉された状態になったまま、約2か月間使用されていなかった貯槽に外部からの熱が入り続け、内圧が上昇し限界を超えて破裂したものである。液体窒素は気化すると体積が約700〜900倍に膨張するため、密閉された容器内で気化すると内圧が急上昇して破裂する危険がある。事故は夜間に破裂したため、物的被害のみで済んだ。本事例はつぎの資料を参照。
・「液化窒素貯槽の破裂事故」、 安全工学、VoL33 No.4 1994
・「安全弁元弁の閉止によって液化窒素貯槽が破裂」、失敗知識データベース
所 感
■ 今回の事例の原因は、つぎのような推定が考えられている。
● 二重殻式液体窒素タンクの内槽の本体またはパイプからクラック(割れ)が発生し、液化窒素が漏出しながら気化して内槽と外槽との間の圧力が上昇、破裂した。
● 安全装置が作動していないので、貯蔵タンクの品質レベルが悪かったのではないか。内槽と外槽の間に圧力が上がり、内槽はそのままで外槽が飛んでおり、外槽の溶接部位などに欠陥があったのではないか。
このうち最初の推定に対する対策は、内槽内の非破壊検査と水圧試験があるが、欠陥が内在したタンクについて適確な試験・検査はなかなか容易でない。2番目の安全弁に関する対策は、安全弁の定期的な試験・検査である。さらに、人為的な安全弁の元弁を閉止することに対する方策(常時開放札やロックドオープンバルブ策)である。
■ 特に、安全弁の元弁閉止による破裂事例は、1992年に日本の北海道の食品工場でも起こっており、工場が半壊、周辺に甚大な被害が出た事故である。比較的新しい技術であるレーザー加工機であるが、液体窒素タンクという付帯設備にも注意しなければならないという事例である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Yna.co.kr,
레이저공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고…인명 피해 없어, October 5,
2025
・Mt.co.kr,
화성 레이저 가공 공장서 폭발 사고…벽면·지붕 무너져, October
5, 2025
・News1.kr,
화성 레이저 가공공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고…건물 일부 붕괴, October 5,
2025
・News.nate.com,
화성 레이저 가공 공장서 폭발 사고…벽면·지붕 무너져, October
5, 2025
・News.zum.com,
레이저가공 공장 펑, 헬륨가스탱크 폭발…인명피해
없어, October 5, 20
・News.sbs.co.kr,
화성 향남읍 공장서 헬륨가스 추정 폭발…다친 사람 없어 , October 5,
2025
・Imnews.imbc.com, 화성 향남읍 공장서 액화질소 추정 폭발 사고‥인명피해
없어, October 5,
2025
・News.nate.com, 경기 화성 레이저공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고…인명 피해 없어, October
5, 2025
・Gasnews.com,
질소저장탱크 안전장치 철저히 점검해야,
October 10, 2025
後 記: 今回の事例はあまり聞いたことのない事故なので調べることとしました。しかし、何が破裂したのかメディアによって異なり、よく分かりません。韓国の報道は事業者名などを報じないなどもどかしさを感じる記事が大半でした。しかし、検索をやっていると、AIによる情報がありました。「華城香南邑のあるレーザー加工工場で液化窒素(ヘリウムガスと推定されることもある)が爆発し、工場建物2棟の壁面と屋根が破損する事故が発生しました。 事故は、2025年10月5日午前5時35分頃発生、事故当時工場に人がいなかったため、人命被害はありませんでした」というもので、早い段階で「液化窒素(ヘリウムガスと推定されることもある)」と妥当な表現で、初めてAIの良さを理解しました。そして事故から5日後に韓国のガスニュースを報じるウェブサイトの記事によって事故状況がつかめました。一方、今回ほど発災場所、レーザー加工工場、レーザー加工機、アシストガス、液体窒素タンク、過去の事例など基本的な情報を調べたことはなかったですね。お陰でいろんなことを知るチャンスをいただきました。(ちょっと嫌味?)
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