今回は、2025年10月2日(木)、米国カリフォルニア州エルセグンドにあるシェブロン社の製油所のジェット燃料製造装置(アイソマックス;水素化分解装置)で爆発・火災が起こった事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、米国のカリフォルニア州(California)ロサンゼルス郡(Los Angeles)エルセグンド(El Segundo)にあるシェブロン社(Chevron)のエルセグンド製油所(El Segundo Refinery)である。エルセグンド製油所の精製能力は285,000バレル/日で、貯蔵容量は約150基の貯蔵タンクに1,250万バレルである。
■ 事故があったのは、エルセグンド製油所のジェット燃料製造装置(Jet fuel production unit)である。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2025年10月2日(木)午後9時30分頃、シェブロン社エルセグンド製油所の南東の角にあるプロセス装置で爆発・火災が発生した。
■ 製油所の近くで作業していた人は、「最初、シューッという大きな音が聞こえました。風みたいな音でしたが、圧力のある風のような感じでした」といい、「次の瞬間、目の前のすべてが突然明るくなって、タワーや機器の影が見えました。火事だと感じました。顔に熱波が襲ってくるのを感じて夢中で走って逃げました」と語った。
■ 発災にともない、警察と消防隊が出動した。エルセグンド警察によると、複数の爆発の通報を受けたという。
■ 午後10時頃に発生した大爆発により、製油所から数マイル離れた場所からも見えるほどのオレンジ色の炎が上がった。目撃者によると、爆発は小さな地震のようだったという。火災が発生した際に現れた火の玉はロサンゼルス西部の空をオレンジ色に染め、火災により点火された製油所のフレアも同様にオレンジ色に染めた。フレアは高い炎の柱を放出するもので、製油所が炭化水素を正常に処理できない場合に使用される。
■ シェブロン社の自衛消防隊を含む消防隊は火災の制圧に努めた。
■ 火災現場の近くには貯蔵タンクエリアがあり、延焼しないかという心配があったが、火災エリアは限定されている。
■ エルセグンドの消防隊のほか、ロサンゼルス郡消防局の隊員も現場に駆けつけ、救援活動を行った。カリフォルニア州知事緊急事態管理局は、州と地方当局と連携していくと述べた。
■ 事故にともなう負傷者は報告されていない。
■ 火災は製油所のアイソマックス7ユニット(Isomax 7 unit)で発生したという。この装置は中間留分燃料油をジェット燃料に変換する装置である。
■ 製油所付近の空気はガソリンの臭いがした。
■ 火災はエルセグンドや周辺都市の空気質に影響を与える懸念が出た。南海岸大気質管理局は、毒性物質のレベルの上昇は確認されていないものの、状況は変化する可能性があると指摘した。 「今晩、煙が収まれば状況が変わるかもしれません」といい、住民には煙が流れてきたり、臭いがしたりした場合はドアや窓を閉めるよう勧告した。
■ 空気質に影響を与えるだけでなく、地表に沈着して最終的には雨水溝や水路に流れ込むため、水質汚染にも影響を与えるだろうと注意喚起された。
■ 油はまだ燃えているが、消防署は、火は自然に消えるか、時間を経て消し止められると考えているという。
■ 製油所はロサンゼルス国際空港にジェット燃料を供給しており、空港は製油所のすぐ北に位置する。ロサンゼルス市長は、「現時点ではロサンゼルス国際空港への影響はない」と述べた。火災発生直後から欠航、迂回、遅延などの便は発生していないという。
■ 大きな製油所で発生した大規模の火災により、カリフォルニア州全域でのガソリン価格上昇への影響が心配されている。AAA(American Automobile Association;全米自動車協会)と南カリフォルニア大学の専門家は、州全体のガソリン価格が急騰する可能性が高いと予測している。AAAは、「この施設は、この地域の燃料供給において非常に重要な役割を果たしており、今後のガソリン価格の動向に注目が集まっている」と語っている。 この製油所は285,000バレル/日の原油を処理しており、西海岸最大の石油生産量を誇っている。製油所はカリフォルニア州内の自動車用燃料の20%とジェット燃料の在庫の40%を生産している。
■ 当局は、消防隊が製油所内の一区画に火災を封じ込めたと述べた。住民は避難する必要はないものの、当面の間、屋内にとどまるよう勧告した。
■ ユーチューブには、火災の状況を伝えるニュースや撮影された動画などが投稿されている。
●YouTube、「Massive
fire breaks out after explosion at Chevron oil refinery」(2025/10/04)
●YouTube、「Massive
blaze erupts at Chevron oil refinery in California」 (2025/10/03)
●YouTube、「WATCH:
Camera Captures Exact Moment Of Explosion At Chevron Oil Refinery In El
Segundo, California」 (2025/10/04)
●YouTube、「Massive fire erupts at Chevron refinery in El Segundo」 (2025/10/03)
被 害
■ ジェット燃料製造装置が火災で被災した。
■ 死傷者は出ていない。
■ 火災による大気汚染の懸念があり、火災現場の近くの住民に屋内にとどまるよう勧告が出た。
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 消防隊は、夜遅くまでに火災を施設の南東隅に封じ込め、翌日10月3日(金)の朝に鎮圧した。
■ 火災は午前7時頃までにほぼ鎮圧されたものの、消防隊は現場に残り、製油所の南東隅にあるプロセス装置で発生した炎を完全に消火した。
■ シェブロン社は10月3日(金)に複数のプロセス装置の稼働を停止した。
■ シェブロン社は火災の原因を調査している。
■ 専門家は、「シェブロン社の製油所が1週間停止するごとに、価格はおそらく13セントずつ上昇するだろう」といい、「不足が生じた場合、州は韓国か中国から石油を輸入しなければならなくなり、サプライチェーンに負担がかかり、商業航空旅行に影響が出る可能性があると考えている」という。
当初の予測では1ガロン当たり30~90セント上昇すると見込まれていた。しかし、製油所への被害が限定的となった現在では価格の急騰はそれほど急激にはならないだろう。現時点では、地元のガソリンスタンドでの価格上昇は1ガロンあたり5セントから15セント程度にとどまると予想されるという。
■ エルセグンド製油所は西海岸最大の石油生産施設だが、ここで爆発が起きたのは今回が初めてではない。2016年以降、エルセグンド製油所では少なくとも4件の火災が発生したと報告されている。
OSHA(労働安全衛生局)の記録によると、同局は2020年以降、エルセグンド製油所を12回検査した。そのうち4回の検査で14件の違反が発覚し、OSHAから合計44,000ドルの罰金が科された。なお、可燃性化学物質を扱う施設としてはこの数字は大きくないという。
補 足
■「カリフォルニア州」(California)は米国西海岸に位置し、メキシコとの国境から太平洋沿いに細長く伸び、人口約3,950万人の州である。
「ロサンゼルス郡」(Los Angeles)は、カリフォルニア州の南部に位置し、人口約1,000万人の郡である、
「エルセグンド」(El Segundo)は、ロサンゼルス郡の西に位置し、
サンタモニカ湾に面する人口約17,000人の町である。
■「シェブロン社」(Chevron Corp.)は、米国カリフォルニア州のサンラモンに本社を置く石油企業である。
「エルセグンド製油所」(El Segundo Refinery)は、精製能力は285,000バレル/日で、貯蔵容量は約150基の貯蔵タンクに1,250万バレルの規模を誇る。この製油所は約1.5平方マイルの敷地面積で、パイプラインの総延長は1,100マイル(約1,800km)を越える。製油所は1911年から操業しており、ガソリン、ジェット燃料、ディーゼル燃料を生産している。
■「発災場所」はジェット燃料製造装置(Jet fuel production unit)で、アイソマックス7ユニット(Isomax 7 unit)で発生したという。装置は水素化分解装置で、中間留分燃料油をジェット燃料に変換する装置である。
アイソマックス装置は重質油の水素化分解装置である。もともとはプロセス開発会社のUOP社が開発したもので発表当初はロマックス法と呼ばれていたが、シェブロン・リサーチ社で開発した水素化分解法(アイソクラッキング法)と特許上で共通した点があったため、両プロセスの統合が行われ、この水素化分解法をアイソマックス法(Isomax=Isocracking Lomax)と呼ぶことになった。 しかし、同じ名前ではあるが、両社から提供される水素化分解法は触媒においては独自に開発したものを使用している。 このアイソマックス法は重質油から軽質油への水素化分解のみな らず、LPガスの製造にも適用されている。アイソマックス(水素化分解)装置のプロセスフローの例と一般的な加熱炉の例は下に示す図を参照。
■ 発災場所は製油所のジェット燃料製造装置(アイソマックス;水素化分解装置)ということは報じられているが、事故内容の詳細は伝えられていない。事故写真を見ると、発災設備は加熱炉(または予熱炉)とみられる。目撃者の話を加味すると、加熱炉内のチューブの噴破(ふんぱ)ではないだろうか。
蒸気ボイラーでは聞くことはあるが、プロセス・ヒーターでは無い。突然、加熱管がわずかな欠陥によって開口し、炉内に急激に液が噴出して火災になったのではないだろうか。事故写真の中にはかなり大きな火炎になっているものがある。
■ 通常、プロセス装置の火災では、プロセスへの原料油張込みを停止(ポンプ停止やバルブ閉止)すれば、燃料源が無くなり、消防署が語ったように火は自然に消えるのが普通である。しかし、今回は火災の鎮圧に10時間を要している。なにか別な燃え続ける要因があったのかも知れない。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Cbsnews.com, How the Chevron
refinery fire in El Segundo could affect California gas price, October
3, 2025
・Abc7.com, What to know about
air quality and your health after El Segundo refinery fire, October
4, 2025
・Chevron.com, Fire at chevron el segundo refinery is now out, October
3, 2025
・Reuters.com,
Chevron's Los Angeles refinery down after large fire erupted in jet fuel
unit, October 3,
2025
・Latimes.com, ‘I thought we got nuked or something.’ Massive
explosion, fire at Chevron refinery rocks El Segundo, October
2, 2025
・Bbc.com, Massive fire at
Chevron refinery in California contained, officials say, October
3, 2025
・Calmatters.org, Refinery fire spotlights California’s gas supply
crunch and high prices at the pump,
October 7, 2025
・Theguardian.com, Fire still burning at California Chevron refinery
following explosion, October 3,
2025
・Nbclosangeles.com, Large fire erupts at Chevron refinery in El
Segundo, October 3,
2025
・Energynow.com, Massive Fire Erupts in Jet Fuel Unit at Chevron’s Los
Angeles Refinery, October 3,
2025
後 記: 今回の事故は米国の製油所の事例で、貯蔵タンクではありませんが、爆発事故ということもあり、調べることとしました。最近のローカルな事故ではメディアの情報内容が今一つ物足らないというものでしたが、本事例はメジャーの製油所事故なので、主要なメディアが揃って報じていました。住民の声やガソリン価格への影響などを伝える記事の多さにさすがだと思い直しました。しかし、肝心の事故内容を報じている記事は少なく、ちょっと期待外れでした。発災事業者が事故について話さないという前提というか思い込みがあるということを感じました。事故写真はドローン(ヘリコプター)による撮影など数多くのものが報じられましたが、夜ということもあり、出来の良い写真はありませんでした。
ところで、“米国のガソリンは安い” という印象がありますが、カリフォルニア州では特有の税金・環境規制などの影響で、現在は日本とほぼ変わらない、あるいはやや高いレベルになっているようです。
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