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2024年12月29日日曜日

ロシアの黒海にある海峡で2隻のタンカーが座礁、油流出4,000トン、死者1名

 今回は、20241215日(日)、ロシア船籍のタンカー2隻がロシアとウクライナ南部クリミア半島に囲まれたアゾフ海と黒海をつなぐケルチ海峡で悪天候の強風にあおられて漂流して座礁し、船体から重油4,000トンを流出させ、1名の死者を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシアRussiaのタンカー2隻である。2隻のタンカーはボルガタンカー社Volga Tankersが所有するもので、比較的小型で、船名はボルゴネフト212Volgoneft 212とボルゴネフト239Volgoneft 239である。ボルゴネフト212号は長さ136m×16m1969 年に建造され、ボルゴネフト239号は長さ132m×17m1973年に建造された。

■ 発災があったのは、ロシアとウクライナ南部クリミア半島に囲まれたアゾフ海と黒海をつなぐケルチ海峡Kerch Strait である。ケルチ海峡はロシア産穀物の主要輸出ルートのほか、原油、燃料油、液化天然ガスの輸出に使用されている。


< 事故の状況および影響 > 

事故の発生

■ 20241215日(日)、ロシア船籍のタンカー2隻がケルチ海峡で悪天候の強風にあおられて漂流し、沖合で座礁し、船体から重油が流出した。

■ ボルゴネフト212号とボルゴネフト239号は、ケルチ海峡を航行中に、1215日(日)に危険にさらされた。その海域の風速は時速45マイル(20m/s)に達していた。

■ ボルゴネフト212号は海岸から8km離れた場所で起き、ボルゴネフト239号はクラスノダール準州タマン港近くの海岸から80mの地点で座礁した。ボルゴネフト212号のタンカーの船首部分が完全に折れ、海に油の筋が漂っているのが確認できる。

■ 2隻のタンカーには合わせて9,000トン以上の重油を積んでおり、そのうち約3,000トンが流出したとみられる。当初の流出量は約3,000トンとみられていたが、流出が続いて約4,000トンになった可能性がある。

■ ケルチ海峡では新たに3隻目のタンカー;ボルゴネフト109号も漂流した。ただし、3隻目のタンカーは遭難信号を発したが、船体は無傷で、油の流出はないという。

■ ロシア緊急事態省は、ロシア南部クラスノダール地方の黒海沿岸が少なくとも49kmにわたって重油で汚染されたといっている。映像によると、マズートと呼ばれる低品質の重油の黒い波が、クラスノダール地方に押し寄せているのが確認されている。

■ ロシアのSNSでは、油まみれになった鳥の写真や動画が投稿されており、「海の生態系に壊滅的な結果をもたらす可能性がある」と懸念する専門家もいる。クラスノダール地方の沿岸では、油まみれの海鳥が次々と住民らに保護されている。重油除去には2年以上かかるとの見方もあり、「黒海で最悪の環境災害の一つになる可能性がある」との指摘も出ている。

■ ウクライナのグリーンピースは1217日(火)、重油流出の影響は60kmの海岸線に及び、マズートに汚染された鳥たちが死んでいると伝えた。

■ ロシア産原油の国際取引に使用されるタンカーは一般的に、約12万トンの積載能力がある船が使用される。このことから、事故を起こしたタンカーは、ロシアの河川や沿岸水域における原油輸送に使用されていたとみられる。

■ 1223日(月)には、ロシアのケルチ橋の始まりから南に約10kmの海岸に打ち上げられたボルゴネフト212号の残骸が映っているのが確認された。

■ ユーチューブには事故の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

 ● Youtube「アゾフ海と黒海を結ぶケルチ海峡でロシアのタンカー座礁 重油流出で環境被害深刻」(20241218)

  ● Youtubeイルカや鳥が真っ黒ロシアのタンカー2隻が悪天候で座礁し大量の重油流出 最悪の環境災害除去に2年以上かかるとの見方も」(20241220)

  ● YoutubeЭкологические последствия крушения танкеров в Керченском проливе2024/12/20

 ● Youtube Российские танкеры пошли ко дну во время шторма | Экологическая катастрофа в Керченском проливе2024/12/17


被 害

■ タンカー2隻が座礁して損傷した。

■ タンカー内に積んでいた重油約4,000トンが海へ流出し、環境汚染を引き起こした。

■ 船員1名が死亡した。 

■ 海に生息していた野鳥やイルカなどが油によって被災した。

< 事故の原因 >

■ 老朽化したタンカーで海上での運行ができないような船で、荒天時の操船ミスによって座礁してしまった。   

< 対 応 >

■ タンカーの救助活動には、複数のタグボート、ヘリコプター、50人以上の人員が投入された。ボルゴネフト212号から乗組員13人が救出されたが、その後、悪天候のため中断された。船首が嵐で引きちぎられたボルゴネフト212号では、船員1人が死亡した。ボルゴネフト239号は、ロシアのクラスノダール地方のタマン港付近の岸から80mのところで座礁し、14人が救助された。

■ ロシアの大統領は、副首相をトップとする事故対処作業部会の設置を命じた。当局は刑事過失があったとみて捜査をしている。

■ ロシアのタンカー2隻が座礁して大量の重油が流出した影響で、黒海などに生息する絶滅危惧種のイルカが危機に瀕(ひん)している。この海域では、ロシアなどが絶滅危惧種に指定するネズミイルカやバンドウイルカ、マイルカなどが生息しており、独立系メディアは少なくとも11頭のイルカと140羽以上の鳥が重油に汚染されて死んだと伝えている。

■ クラスノダール地方の首長によると、海岸に漂着した重油の除去作業は悪天候に阻まれて難航し、除去作業がいつ終わるかは分からない状況にあるという。ノボロシスク市の北部アナパ近郊の海岸に重油が押し寄せ、ロシアのエコロジストは「悪臭がひどいと地元住民が訴えている」という。

1223日(月)、油流出事故の除去作業にあたるボランティアらは、公開したビデオで、自分たちと地元当局が対応に追われているとして、ロシア大統領に連邦政府の緊急援助を送るよう訴えた。 

 現場ではボランティアが不足しており、最低限の防護をしながら活動している。流出油は手作業で洗浄されており、これでは明らかに十分ではない。人々は強い臭気、アレルギー、体調不良を訴えている。専門家らは浄化には技術が必要だと警告しているが、当局は「状況をコントロールしている」としている。

■ 当局は、海岸線に油が流出したため、テムリュク地区の4つの集落とアナパ地区の1つの村に地方非常事態が宣言されたと述べた。

■ クラスノダールの緊急対応センターは 、緊急事態省の職員やボランティアを含む約8,500人が進行中の清掃活動に参加していると述べた 。約400台の重機も配備されたと付け加えた。

■ 当局によると、 20241223日(月)時点でクラスノダール地方の海岸線約55kmが流出の影響を受けたという。当局は、緊急隊が流出したマズート(低品質の重油)の除去に「昼夜を問わず」取り組んでいると述べているが、清掃活動に携わる環境活動家やボランティアは、政府は災害への対応が不十分だと述べている。

■ 油流出の被害を受けているクラスノダール地方のリゾート地アナパに住む女性は、「私たちは皆さんの助けを懇願しています。これは心の底からの願いです」といい、「地元当局は対応に追われ、必要な資源が不足しています。彼らが持っている唯一の資源はシャベルを持った一般の人々ですが、この規模の大惨事はシャベルだけでは対処できません」と語っている。 

 ヴェセロフカ村とブラゴヴェシチェンスカヤ村の近くで活動するボランティアは、住民が砂から油を手作業で取り除いていると語った。場合によっては、マズートの袋がすぐに移動されずに再び海岸に漏れ出てしまい、海岸沿いの清掃作業を繰り返さなければならないこともあるという。

■ 法執行機関は、交通安全規則違反と海上輸送の運行に関する過失による死亡事故を引き起こした2件の刑事事件を開始した。捜査当局はタンカーの技術検査を行った会社の書類を押収し、捜索を行っている。両船の船長は拘束され、彼らは輸送安全要件に違反した疑いで告発されている。クラスノダール準州の知事、天然資源省などが緊急事態の現場に到着した。

■ 事故は内航海運の問題の大きさをはっきりと示した。今回の事故タンカーは50年を超えており、タンカーはとうの昔に期限切れになっている。1隻は1969 年に、もう 1隻は1973年に建設され、さらに、河川タンカーとして作られたものであり、海上航海を目的としたものではない。ソ連崩壊後、それらは「川・海」規格に転換されたという。両タンカーは最大波高22.5mの沿岸海域で航行できる河川船のクラスに属している。しかし、航行状況はタンカーのクラスに対応していなかった。専門家は、好天の場合と沿岸航行の場合にのみ海に出られると強調した。

■ 海上警備会社アンブリーによると、旧ソ連時代の船舶はここ数年、悪天候のため故障や沈没が相次いでおり、ロシアは欧米の制裁が原因で老朽化した船舶の修理に苦慮しているという。

■  2007年には、ケルチ海峡で停泊していたタンカーが嵐の影響で真っ二つに折れ、1,000トン以上の油が流出した事故が起こっている。


補 足

■ 「ロシア」Russiaは、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,200万人の連邦共和制国家である。

■「ケルチ海峡」Kerch Straitは、東ヨーロッパにある海峡である。黒海とアゾフ海を結び、西はクリミア半島のケルチ半島と東はロシア領クラスノダール地方のタマン半島を隔てている。海峡の幅は3.1kmから15km、深さは最大18mである。

■「タンカー事故」をこのブログで取扱ったのは、つぎのとおりである。

 ●「イランの石油タンカーが中国沖で衝突・炎上して漂流後沈没、死者32名」20181月)

 ●「米国テキサス州でバージがLPGタンカーと衝突して損傷、ガソリンが海上流出」 20195月)

 ●「インドネシアで修理中の石油タンカーで爆発、死傷者29名」20205月)

所 感

■ 事故の原因は、老朽化したタンカーで海上での運行ができないような船で、荒天時の操船ミスによって座礁してしまったものである。座礁事故は、起こるべくして起こったと感じる事例である。

■ 油流出が起こったあとの事故対応も不適切さを感じる。ロシアの大統領は、副首相をトップとする事故対処作業部会の設置を命じているが、現場の清掃作業がどのように組織され、実行しているのかまったく分からない、結局、当局は刑事過失があったとみて捜査しているしか見えない。

 たとえば、日本では、「流出油事故対応 総合マニュアル 」独立行政法人海上災害防止センター 、2006年)などがある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Asahi.com,  ロシア重油流出、油まみれの鳥が次々 「最悪の環境災害」の可能性も,  December  19,  2024

     Bbc.com,  ロシア籍タンカー2隻がケルチ海峡で難破、原油流出 少なくとも1人死亡,  December  16,  2024

     Cnn.co.jp,  ロシアのタンカー座礁、海岸に押し寄せる重油 油まみれの鳥の姿も,  December  19,  2024

     Yomiuri.co.jp,  ロシアのタンカー2隻が座礁、うち1隻が沈没で1人死亡黒海・アゾフ海結ぶ海峡で重油流出,  December  19,  2024

     Nhk.or.jp,  ロシアのタンカー2隻 クリミア半島近くで座礁 重油流出か,  December  18,  2024

     Reuters.com,  黒海でロシア籍タンカーの漂流相次ぐ、新たに3隻目 先に難破した2隻からは原油が流出,  December  18,  2024

     Greenpeace.org, The oil spill accident in the Black Sea demonstrates what environmental damage old tankers with Russian oil can cause around Europe,  December  17,  2024

     Cnn.com, Russia’s Black Sea beaches flooded with oil from wreck of tankers,  December  18,  2024

     Reuters.com, Black Sea oil spill worsens as third Russian tanker sends distress call,  December  18,  2024

     Reuters.com,  Black Sea oil spill volunteers in Russia ask Putin to send urgent help,  December  24,  2024

     Themoscowtimes.com, ‘Left to Fend for Themselves’: Volunteers Step Up as Russian Government Falters in Black Sea Oil Spill Response,  December  24,  2024

     Bbc.com, В Керченском проливе потерпели крушение два танкера с нефтепродуктами. Что известно, December 16, 2024

    Forbes.ru, Отмыть нельзя: экологические последствия утечки мазута в Керченском проливе,  December  17,  2024

    Daryo.uz, Разлив мазута в Черном море: можно ли купаться?,  December  25,  2024


後 記: ロシアで起こった海上流出油事故だったので、どのような状況なのかを知りたくて調べ始めました。ロシアの公的機関は油の回収作業をやっているという発言ですが、ボランティアをやっている人から見れば、不十分だといいます。普通、油流出事故では、ボランティアなど作業する人が何名で、油回収量が何日で何トンになったということが報じられますが、ロシア‐ウクライナ戦争の渦中であるクリミア半島近くの出来事なので、実際、人員資機材が導入できず、把握されていないのでしょう。船舶の航跡図もダメでした。最後に疑問をひとつ。標題の船首が折れている写真はボルゴネフト212号というのが報道ですが、事故前のボルゴネフト212号の写真を見ると、船首の形が違っているように見えます。

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