このブログを検索

2023年9月4日月曜日

ルーマニアのLPガスステーションで消火活動中に大爆発、死傷者58名

  今回は、 2023826日(土)、ルーマニアの首都ブカレスト近郊のクレベディアにあるフラガスSRL社のLPガスステーションにおいてLPガスタンクが爆発・火災が発生し、死傷者58名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ルーマニア(Romania)の首都ブカレスト(Bucharest)近郊のクレベディア(Crevedia)にあるフラガスSRLFlagas SRLLPガスステーションである。

 ルーマニアでは、液化石油ガス(LPガス)は家電製品の燃料として使用されるほか、ガソリンや軽油よりも価格が比較的安いため、一部の自動車では燃料として使用されている。

■ 事故があったのは、DN1A道路沿いにあるLPガススステーション内にあるLPガス用タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023826日(土)午後650分頃、 LPガスステーションで爆発事故があり、火災になった。発災によって犠牲者が発生した。

■ 事故に伴い、消防署の消防隊が出動した。出動はブカレストなど近隣の消防と医療の両方の部隊が動員された。

■ この事故によって7名の負傷者が発生した。当初、ひとりが死亡と発表されたが、後に火災と関係なく、パニックによる心停止だった。7名の負傷者は、火傷を負った3名がブカレスト臨床救急病院に搬送され、4名はバグダサール・アルセニ病院に搬送された。

■ 駆けつけた消防隊の目の前で、LPガスステーションのLPガスタンクがロケットのように炎を噴き出していた。

■ 826日(土)午後730分頃、 LPガスステーションの火災現場で爆発が発生し、LPガスタンクの一部が噴き飛んだ。火災はなおも続いた。消火のために現場に来た消防士たちは、 LPガスステーションの構内にLPガスを満載したタンクローリーがまだあるかどうかよく分からなかったとみられる。

■ 火災がLPガス設備であるので、政府緊急対応ユニット(IGSU)の消防隊は半径800m以内の住民を避難させて、消火活動を行うこととした。約3,000人の住民が避難し、現場の道路は閉鎖された。

■ 火災はタンク2基と近くの家を焼き尽くした。

■ 現場には25台の消防車が配備され、消防隊が炎を噴き出すLPガスステーションに向かって放水した。

■ 826日(土)午後9時頃、突然、LPガスタンクが爆発音とともに周囲が見えなくなるほどの閃光が走り、大爆発が起こった。現場にいた消防士らは全速力で逃げ出した。


■ 爆発は非常に強力で、近くにいた消防士のヘルメットが溶けるほどだった。

■ この爆発によって1名が死亡、50名が負傷した。このうち3名が火傷と外傷を負ってUPUトゥルゴヴィシュテに搬送され、47名がブカレスト市の保健ユニットに搬送された。犠牲者総数のうち、内務省職員は43名(消防士39名、警察官2名、憲兵2名)だった。

■ 現場付近の家屋数軒と車両が火災で被害を受けた。再び爆発が起こる危険性があるため、すべての公共施設が停止され、地域の地元住民には水も電気も供給されなかった。

■ この地域は依然として危険であった。高温にさらされて変形したタンク3基がLPガスステーションの構内にあった。そのうちの少なくとも1基はひびが入っており、周囲への安全が確保されていないため、住民家に戻ることができない状況だった。

■ 郊外では大気汚染の増加がすでに確認されており、住民は窓を閉めるよう勧告された。ルーマニア環境省は、爆発が起きた地域の大気質評価を発表した。同省によると、基準からの逸脱はわずかであり、大気の質には影響しないという。

■ 827日(日)には火災は消えた。

■ ユーチューブには、火災や爆発時の状況が複数投稿されている。その例を紹介する。

 Youtube「ガススタンドに閃光爆発の瞬間 タンクローリーにも火の手迫る ルーマニア」(2023/8/28

 ●Youtube危険】ガソリンスタンドで2度の爆発…少なくとも1人死亡・消防士26人けが ルーマニア2023/8/28 

 ●YoutubeHUGE Gas Explosions in Crevedia, Romania - Aug. 26, 2023 explozii în Crevedia2023/08/27)(ルーマニアのクレベディアで大規模なガス爆発 )

 ●YoutubeImagini IGSU de la incendiul ce a urmat exploziei din Crevedia2023/08/27)(クレベディアの爆発後の火災のIGSU画像)

被 害

■ LPガスステーション内にあるLPガスタンク群が少なくとも5基が火災で焼損した。内部のLPガスが焼失した。

■ 2回の爆発・火災によって死傷者58名が出た。内訳は死者1名、負傷者58名である。(1回目の爆発・火災で7名が負傷し、2回目の爆発・火災で1名が死亡し、50名が負傷した)

■ 近くの住民約3,000人が避難した。発災現場の近くの住宅では電気と水道が止められ、道路が閉鎖された。

■ 爆発・火災によって、近くの住宅、車両、畑が焼損したほか大気汚染が発生した。


< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 最初の爆発は、LPガスタンクに積込むホースの取扱い中に、従業員がタバコに火をつけたことによるという話が出ている。要因は、土曜日中にLPガスをあるタンクから別のタンクに移そうとしたらしいという話がある。 

< 対 応 >

■ 最初の爆発後、隊員の危険を軽減するため、ロボットを使って消火活動を行うことにした。

■ 827日(日)、爆発現場から約1,000m離れたひまわり畑でタンクの破断した片割れが見つかった。畑の持ち主によると、タンクの片割れは土曜日まで畑には無かったという。破断したタンクの大きさは全タンクの約4分の3に相当した。もう片割れの部分は住民の家の庭の近くにあった。

■ LPガスステーションはもともとガス倉庫として使用されていたが、官庁による検査後に閉鎖(廃止)された。それにも関わらず、設備を受継いだフラガスSRL社は活動を続けていたとみられる。LPガスステーションには10,000リットルのタンクが6基あり、そのうち2基は満タンだった。

■ EU加盟国では、安全対策に対する当局の監督の欠如に対して繰り返し怒りが噴出しているという。

■ ルーマニアのインターネット情報誌のオブザベーターニューズ(Observatornews)では、アニメーションによるタンク破裂の動画が投稿されている。(下図を参照)


補 足

■「ルーマニア」(Romania)のは、東ヨーロッパのバルカン半島東部に位置する共和制国家で、人口約1,900万人である。首都は人口約216万人のブカレスト(Bucharest)である。1989年、ニコラエ・チャウシェスクの独裁政権が打倒され(ルーマニア革命)、民主化された。2007年に欧州連合(EU)に加盟した。

「クレベディア」(Crevedia)は、ルーマニアのダンボヴィシャ郡にある人口約6,600人の町である。

■「フラガスSRL社」(Flagas SRL)は、ルーマニアで1997年に設立されたその他雑貨小売業で事業を展開している。ルーマニア国家環境保護庁によると、クレベディアにある旧LPG基地は2021年まで自動車用燃料の販売に関して環境認可を受けていた。旧ステーションは2020年に営業を終了する予定だったという。

クレベディアで爆発したLPガスステーションはフラガスSRL社に属しており、カラカル市長の息子が所有しているものだった。国家安全対策の不遵守に関連した不正行為で緊急事態監察局から数回の罰金を科せられ、2020930日、同社は職場を閉鎖すると当局に通知していた。

■ 発災施設は、報道によってガソリンスタンドやLPガススタンドと言っているところが多いが、もともとLPガスの倉庫業だったところで、正式な燃料販売を行うスタンドではないので、ブログでは「LPガスステーション」と称した。日本では、 LPガススタンドと言ってもガソリンスタンドと同様の屋根のついた燃料販売所を思い浮かべるが、ルーマニアでは必ずしも屋根付きのスタンドではなく、LPガスタンクと計量器だけのLPガススタンドがあるようだ。写真を参照。発災のあったLPガスステーションは、販売の認可をとっていたらしいので、LPガスタンクと計量器を付け、LPガスを販売していたのかもしれない。しかし、発災のLPガスステーションには10,000リットルのタンクが6基あったという。正規のLPガスのタンクではなく、タンクローリーのガスタンクを転用していたのかもしれない。

■ LPガス設備の事故としては、つぎのような事例がある。

 ●「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故(2011年)の原因」20123月)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その2) 」201411月)

 ●「中国 山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」20157月)

 ●「ナイジェリアのマトリックス社のLPG施設で爆発・火災、死傷者17名」20227月)

所 感

■ 今回の事故は実際のところ事実がはっきりしない。爆発は2回起こったという報道や3回または4回発生したというメディアがあるし、死傷者の人数も報道によって異なっていた。このブログでは、いろいろな記事や発災写真から爆発経緯をつぎのように推測した。

■ 今回の事故を「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)の「圧力タンク火災への対応」に沿ってみていく。固定屋根や浮き屋根式の常圧タンク火災とは少し異なり、LPガスのような圧力タンク火災に対処するための戦略的思考は、つぎのとおりである。

 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。

 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。

 ● 液レベルより上部を冷却する。

 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。

 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。


 
さらに、消防隊の配慮事項についてみていくと、つぎのような感想をもつ。

 ● 危険区域の判断; ホットゾーン、ウォームゾーン、コールドゾーンをどのように設定したか。住民への安全を考慮して、半径800m以内の住民を避難させて消火活動を行うこととしたので、危険区域の考えはあったと思われるが、ハザード個所に近いホットゾーンなどの設定に課題があった。

 ● 前線チームの消火戦術; 隊員の危険を軽減するため、ロボットを使って消火活動を行うことにしたのは適正だった。消火活動を撮った写真では、放水ノズルの遠隔操作装置を隊員1名で監視しているので、最小人数の配置であったようだ。しかし、圧力タンクの冷却は両サイドから、液レベルより上部に行うのが基本であることからすると、複数のロボットを使い、両側から行うべきだっただろう。この後、3回目の爆発があり、消防隊の配置を変えてしまったと思われる。

 ● 防御チームと冷却チーム;  3回目の爆発によって前線チームの支援を行う防御チームと冷却チームが前線に出てきてしまったのではないだろうか。当初、LPガスステーションの構成や配置を知らなかったようだが、この時点で複数のLPガスタンクが存在していることを把握し始め、冷却の必要性を認識したと思われる。このとき、冷却を隊員が保持する放水ノズルでやるため、LPガスタンクに近づいたのではないだろうか。スクアート車があれば、遠くから冷却できたと思う。

 ● 対応本部; 少なくとも消防隊は各署から出動してきており、指揮系統が十分できていたか疑問がある。最初に前線チームに派遣した隊員は通常の防火服だと思われる。前線チームに派遣する隊員には耐熱耐火服を着用すべきだっただろう。 また、LPガスタンクでは、BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する必要があるが、報道にあるようにLPガスタンクは高温にさらされて変形し、タンクにひびが入っていたという。大爆発はBLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)によるものだと思う。最悪のケースを想定しておくのが対応本部の役割であるが、この対応が適切でなかったと思う。この背景には、3回目の爆発が負傷者の出るような状況でなかったのが、大丈夫だという安易な判断を生んでしまったのではないか。また、今回のような発災場所の状況が分からないときには、ドローンを活用することが必要であろう。【 「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」 20213月)を参照】


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     News.yahoo.co.jp,  ルーマニアのLPガススタンドで爆発 1人死亡、50人以上けが 負傷者の多くは消防士,  August  28,  2023

     Voi.id,  ルーマニアのガソリンスタンドが2回爆発し、146負傷,  August  27,  2023

     Fnn.jp, LPガススタンドが突然の爆発 周囲が光に包まれ逃げ惑う人々 1人死亡、消防士など57人ケガ ルーマニア,  August  30,  2023

     Bbc.com, Romania gas station blasts kill two and injure many,  August  30,  2023

     Reuters.com, One person dead, 57 injured after explosions at Romanian gas station,  August  28,  2023

     Esp.md, O serie de explozii în benzinării de lângă București: O persoană a murit, 57 au fost rănite,  August  27,  2023

     Obiectivtulcea.ro, Incendiul unei benzinării din România a provocat 2 explozii, cel puțin 1 mort și zeci de răniți,  August  26,  2023

     Gandul.ro, FOTOGRAFIE ȘOCANTĂ. Exploziile de la Crevedia au fost atât de puternice încât au topit căștile pompierilor, August 26, 2023

     Observatornews.ro, VIDEO ANIMAŢIE. Imaginea care arată amploarea exploziei din Crevedia: cum a fost aruncată o bucată de câteva tone din cisternă la 1 km distanţă, August 30, 2023

     D igi24.ro, Doi morți după exploziile de la stația GPL din Crevedia. 12 pacienți au fost transferați în străinătate
,  August 28, 2023


後 記: 今回の事故情報でもっとも悩んで時間がかかったのが、LPガスステーションの場所でした。ガソリンスタンドのような構造を考えていましたので、グーグルマップではなかなか特定できませんでした。分かってからも、このLPガスステーションの役割・機能がはっきりしません。LPガスの販売業や倉庫業にしては、発災時のステーション内の機器配置がグーグルアース撮影時の配置とは違っていますので、なにを目的にした設備なのでしょうか。

つぎつぎと爆発があり、変化する発災現場に報道(広報する人と取材者)が追いついていない状況で、いつ(時間)の話かこんがらがっていました。報道では、さらにLPガスステーションの所有者がカラカル市長の息子だということが分かり、だんだん政治向きの問題になっていきました。ここでは、LPガスタンク火災という稀な事例で多くの人が死傷していますので、情報が少ない中ですが、消防隊員の配置に関して所感をまとめました。

0 件のコメント:

コメントを投稿