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2023年9月14日木曜日

イエメン沖の浮体式貯蔵施設からの原油移送(110万バレル)が完了

  今回は、 2023年8月28日(月)、イエメン沖の浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号から原油を抜き取る作業が完了した話題を紹介します。背景やこれまでの経緯は「イエメンの浮体式貯蔵施設から原油移送のため国連がタンカーを購入」20234月)「イエメン沖の浮体式貯蔵施設から国連が原油移送を開始」20238月)を参照。

< 環境汚染のリスク >

■ 国連は、数年前から、イエメン(Yemen)のラス・イッサ(Ras Issa)半島から約9km沖に停泊する劣化した旧大型タンカーのセーファー号(Safer)が紅海とイエメンの海岸線を危険にさらしていると警告してきた。全長360m34個の貯蔵タンクをもつ407,000DWTのタンカーには約110万バレル(175,000KL) の原油が入っており、1989年にアラスカ沖で起きたエクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)の事故の4倍の油を流出させる可能性がある。

■ 1976年に日本で建造されたセーファー号は1980年代にイエメン政府に売却された。1987年にタンカーは浮体式貯蔵・積出し施設(Floating Storage and OffloadingFSO)として改造され、イエメンの紅海オイルターミナルであるラス・イッサに係留されている。2014年に始まったイエメンの内戦により、貧困にあえぎ、タンカーは2015年から積出しはもちろん、メンテナンス作業が中断されたままになっている。乗組員は10名を除いてほとんどがタンカーから引き揚げた。

■ 劣化した浮体式貯蔵・積出し施設のタンカーから油を移送し、貯蔵する代替のタンカーの計画が持ち上がった。しかし、イエメンの国連高官は、状況がかなり落ち着いてきたが、内戦下で使用されることになる代替のタンカーを寄贈する人はおらず、リースを申し出る企業も無かったと語っている。

< 国連の対応 >

■ 202339日(木)、国連は、環境破壊を回避するため、イエメン沖で係留されて劣化して腐食が進行している浮体式貯蔵・積出し施設から約110万バレル(175,000KL)の石油を移送して貯蔵する大型タンカー(VLCC)ノーティカ号(Nautica)を購入したと発表した。代替の大型タンカーは長さ332mの二重殻構造である。ノーティカ号は、その後、イエメン号(Yemen)と改称されている。

■ 2023420日(木)、国連は、浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号からの実際の原油抜取り作業について、オランダのボスカリス社(Boskalis)の子会社であるSMITサルベージ社(SMIT Salvage)と合意に達した。

■ SMIT社は大手のサルベージや海難救助を行う会社であり、 2023530日(火)に現場に到着して以来、セーファー号で抜取りの準備作業を行っている。不活性ガスを注入してタンカーの油室から大気中の酸素を除去する作業を開始した。

< 油移送の開始・終了 >

■ 2023723日(日)、移送用大型タンカーのイエメン号(旧ノーティカ号)は、タグボート2隻の支援を受け、浮体式貯蔵・積出し施設のセーファー号と並んで係留された。予防措置としてイエメン号とセーファー号の船首と船尾にオイルフェンスが設置された。さらに、イエメン号とセーファー号の間に移送用ホースが接続され、イエメン号に原油を移送するためのポンプが準備された。

■ 725日(火)午前1045分、浮体式貯蔵・積出し施設のセーファー号から原油を抜き取る作業が始まった。

■ 国連とボスカリス社によれば、81日(火)時点で、浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号から36万バレルの原油を移送用の大型タンカーに無事移送されたという。この量は移送予定量の3分の1に当たる。

■ 811日(金)、浮体式貯蔵・積出し施設のセーファー号からポンプによる油の移送が終了した。セーファー号の横に係留された移送用大型タンカーのイエメン号に移送を終えたが、移送開始から完了するまでに約3週間かかった。

■ ボスカリス社は、「この複雑な作戦の成功裡の完了によって、人道的・環境的・経済的に多大な影響を及ぼす可能性のあった大災害は回避された」と語った。このあと、タンクの清掃(洗浄)作業には約1週間かかると述べた。

■ 828日(月)、セーファー号のタンク清掃(洗浄)が終わり、イエメン号による作業はすべて完了した。

■ 831日(木)、移送用大型タンカーのイエメン号はセーファー号の横に停泊していた場所から移動を開始した。


備 考

■「イエメン」(Yemen)は、正式にはイエメン共和国で、中東のアラビア半島南端部に位置する人口約3,050万人の共和制国家である。首都はサナアで、インド洋上の島々の一部も領有している。産油国ではあるが、 2014年の内戦勃発以来、400万人以上が避難を強いられており、 終わらない紛争と食料難で人道支援を待っている人は2,000万人以上に及び、アラブ最貧国といわれている。

■「エクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)の事故」は、1989324日(金)、米国アラスカ沖で起きた原油流出事故である。原油約20万トンを満載し、アラスカのプリンス・ウィリアン海峡で座礁し、約41,000KLの原油を流出させた。

■ ボスカリス社(Boskalis)は、浚渫、海事構造物、海事サービス分野で事業を展開するオランダの土木工事会社である。ボスカリス社は、沿岸防護、川岸の保護、土地埋め立てなどの中核的な活動のほか、増大する気候変動へのニーズにもソリューションも提供している。再生可能風力エネルギーを含む海洋エネルギーインフラの開発を促進し、港湾や水路の建設と維持にも取り組んでいる。ボスカリス社は海洋サルベージの専門会社であり、SMITサルベージ社(SMIT Salvage)が子会社になる。

所 感

■ 国連と実作業を行うオランダのボスカリス社(作業は子会社であるSMITサルベージ社)によって、劣化した浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号からの油移送作業がやっと完了したという印象をもつ。原油生産地域でこのような事態が起こるというのも時代の移り変わりを感じる。

■ 国連による地道な活動(移送に関わる費用捻出、イエメン内戦によるイランと連携するイスラム教フーシ派武装組織との交渉、大型タンカーの購入、保険の契約、実作業を行うサルベージ会社との契約など多くの課題を解決してきた)の成果である。SMITサルベージ社の実作業について特に報じられていないが、劣化した浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号の横に大型タンカーを係留して油の抜取りを行うという通常ではない現場での課題についてもきめ細かい対応が行われてきたのだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Rivieramm.com,  FSO Safer: 'critical work remains' after oil transfer from decaying FSO completed,  August  31, 202

     Yemen.un.org, UN PREVENTS CATASTROPHIC OIL SPILL IN THE RED SEA, CRITICAL WORK CONTINUE,  August  28, 2023

     Shippingtelegraph.com,  Salvage Team Smit Leaves Decaying Supertanker After Clean-Up,  August  30, 2023

     Theguardian.com, Yemen: UN removes 1m barrels of oil from ageing tanker to avert environmental catastrophe,  August  12, 2023

     Ogj.com, Boskalis removes all oil from decaying FSO Safer offshore Yemen,  August  12, 2023


後 記: 浮体式貯蔵・積出し施設から油の抜取りを開始したという話は前回のブログで紹介しました。油の抜取りが完了したという情報を知りましたが、日本のメディアのように何事もなく終わったら、何も報じないという選択肢もあります。しかし、このブログでは紙面や字数の制限はありませんので、紹介しました。タンクの事故では、事故調査報告書が報じられることは少なくないのですが、今回の話題はめずらしく問題もなく、ハッピーエンドで終わりました。

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