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2023年8月29日火曜日

ENEOS水島製油所でタンク地区にあるポンプ設備で火災、落雷か?

 今回は、 2023823日(火)、岡山県倉敷市にあるENEOS㈱(エネオス)水島製油所B工場のタンク地区にあるポンプ設備が落雷と思われる火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、岡山県倉敷市潮通の水島コンビナートにあるENEOS㈱(エネオス)水島製油所である。水島製油所の精製能力は300,200バレル/日で、水島港を挟んだ西側にA工場、東側にB工場がある。

■ 事故のあった設備は、水島製油所のB工場のタンク地区(オフサイトポンプヤード群)である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023823日(水)午後020分頃、B工場のタンク地区のポンプ設備付近で火災が発生した。

■ 製油所から「雷がタンク周辺に落ちて火災が起きた」という119番通報あった。

■ 発災の通報を受け、消防署の消防隊が消防車13台とともに出動した。

■ 現場に出動した消防隊によると、タンク付近から炎と黒煙が上がっていたが、火災はタンク本体でなく、タンクにつながるポンプ設備付近が燃えていたという。ポンプ設備はタンクから重油や軽油を送り出す装置である。

■ 事故にともない、製油所の自衛消防隊の50歳代の男性が、消火活動中、顔にホースの放水が当たり、病院で受診した。けがは無いということである。

■ 公設消防と自衛消防隊の消火活動によって火災は午後240分頃に制圧され、発災から約3時間半後の午後344分に鎮火した。

■ 製油所によると、重油や軽油を貯蔵しているタンク周辺のポンプや配管が焼けたという。ポンプ設備に最も近いタンクは点検中で空だった。

■ 岡山地方気象台によると、倉敷市には大雨洪水警報や雷注意報が発表され、倉敷市付近には昼前から昼すぎにかけて発達した雨雲が流れ込んでいた。

■ 現場は市南部の水島コンビナートの一角で、工場東側に住む男性は「大きな被害がなく良かった」とほっとした様子だった。現場から2kmほど離れた店の女性は「爆発するのではと怖かった」と話した。

■ プロセス装置は動いているものの、製品の出荷を一部停止していて、ENEOS㈱は、A工場などと補完をしながら供給不足にならないよう対処するという。

■ ユーチューブには、火災の状況を伝える動画が多数投稿されている。その中の3例を紹介する。

 YouTube「タンク付近に雷が落ちて」製油所で火災落雷が原因か 岡山・倉敷」2023/08/23

 ●YouTube 「【製油所で火災】落雷が原因か「タンクに雷が落ちた」と通報 岡山・倉敷市」2023/08/23

 ●YouTube「製油所で火災 落雷が原因か 岡山・倉敷市」(2023/8/23)

犠牲になった

■ 物的被害はポンプ設備と配管類が焼損した。

■ 消火活動中に自衛消防隊の消防士が顔にホースの放水が当たり、病院で受診した。けがは無かった。

■ 火災によって大気汚染が生じた。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 警察署と消防署は現場で実況見分を行い、当時の状況や出火原因を調べることにしている。  

< 対 応 >

ENEOS㈱ は、事故のあった823日(水)、同社のウェブサイトに火災があったことと、地域や関係者へのおわびの声明を出した。

■ 警察署と消防署は、翌日の824日に現場で実況見分を行い、当時の状況や出火原因を調べることにしている。

■ 824日(木)、予定されていた実況見分は、現場に消火の際に使用した泡状の消火剤が多く残っているため、行うことができなかった。

■ 824日(木)、 ENEOS㈱は、火災について重油を保管しているタンクから数十m離れた場所にあるポンプから火が出たと発表した。 ENEOS㈱によると、ポンプは高さが1m、幅と奥行きがそれぞれ2mほどで、タンクに保管する重油を別のタンクに移し替えるためのものだという。


補 足

■「ENEOS株式会社」(エネオス)は、 石油製品の精製・販売等を行うエネルギー会社で、日本の石油元売の最大手で、世界では第6位の規模を持つ。持株会社ENEOSホールディングスの傘下である。

「水島製油所」は水島臨海工業地帯の中心部に位置し、350,200バレル/日(約55,682KL/日)と国内最大の原油処理能力を有する。多くの2次装置を装備し、燃料油、潤滑油、石油化学製品、石油コークス等を供給している。

 水島製油所は、日本鉱業(株)水島製油所(1961年操業開始)、共同石油(株)との合併により日鉱共石に社名変更(1992年)、ジャパンエナジーに社名変更(1993年)、JX日鉱日石エネルギー設立し、新日本石油精製水島製油所とジャパンエナジー水島製油所の一体運営を開始(2010年)、JXエネルギーに社名変更(2016年)、ENEOSへ社名変更(2020年)した経緯をもつ。 B工場は旧ジャパンエナジーの製油所である。水島製油所の紹介ビデオがユーチューブに投稿されている。Youtube.comENEOS水島製油所紹介動画」を参照)

■「発災したポンプ」の場所をタンクNo.29(発災写真から)の位置からグーグルアースで調べたが、はっきりせず、特定できなかった。

所 感

■ 状況からみて落雷による火災だろう。これまで日本では、落雷によるタンク設備の火災はほとんど無かったが、近年の異常気象が多くなり、雷の頻度が増え、規模も大きくなったことから、いよいよ来たかという感想である。落雷リスクを最小限に抑えるという点で最近のブログで参考になるのは「欧州における雷検知ネットワークによる落雷リスクの回避」20225月)である。

 しかし、今回の事例では、ポンプ内液が重油ということであり、ガソリンなどと比べて引火しずらいことに疑問が残る。重油タンクにおいて落雷によるタンク火災の起こる可能性は低いが、これまでもアスファルトタンクやディーゼル燃料タンクにおいて軽質分が混入したことによるタンク爆発・火災の起った例がある。今回の場合、例えば、タンク開放点検のため、軽質分でタンクを洗浄していたなど単なる重油ということではないように感じる。

■ 火災からの炎や黒煙を見ると、かなり激しい燃え方で、この点、ポンプから漏れたというより、大量に流出したという印象である。消火活動は大型化学消防車(スクワート車)による泡消火を行うとともに、周辺タンクへの冷却放水が行われたとみられる。タンクが内液に満たされていれば、必ずしも冷却放水は必要ない。例えば、「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」201612月)では、火災タンクの隣接タンクへの冷却に関する必要性の判断と水量について、冷却水の最小使用のため、タンク壁面からの水蒸気の有無で判断し、水量は1,8933,785L/minだとしている。

「米国テキサス州ディアパークのタンク大火災の原因(2019年)」20238月)では、タンクに隣接したポンプから出火して同じ防油堤内にある13基のタンクが焼損するという事故を紹介したばかりである。設置場所や遠隔操作の緊急遮断弁の設置について確認が必要である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Eneos.co.jp,  水島製油所における火災の発生について,  August  23,  2023

    エネオス.co.jp、  水島製油所における火災の発生について(ご報告),  August  24,  2023

    Webtsc.com、  落雷か、倉敷市・水島コンビナートのエネオス水島製油所で火災,   August  23,  2023

    Sanyonews.jp,  倉敷・水島の製油所で火災 落雷か 3時間半後に鎮火、1人けが,   August  23,  2023

    Nhk.or.jp,  岡山 倉敷 製油所タンクの火災は鎮火 けが人なし 落雷で出火か,   August  23,  2023

    News.yahoo.co.jp、  水島製油所の火事 ENEOS「製品の出荷を一部停止、供給不足にならないよう対処,   August  23,  2023

    Nikkei.com,  岡山・倉敷のENEOS製油所で火災、落雷か けが人なし,   August  23,  2023

    Newsdig.tbs.co.jp,  石油精製所の重油タンク周辺のポンプに落雷か 製油所で火災 消防車17台が駆けつけ3時間半後に鎮火 消火作業中に男性1人がけが,   August  23,  2023

    Sankei.com,  岡山・倉敷の製油所で火災、落雷か けが人なし,   August  23,  2023

    News.tv-asahi.co.jp,  製油所で火災 落雷が原因か 岡山・倉敷市,   August  23,  2023

    Headtopics.com,  落雷か エネオス製油所で火災 黒煙立ち込め...消防車16台出動,   August  23,  2023

    News.goo.ne.jp, 【水島製油所の火災】消火に使用した泡状の消火剤が残っているため実況見分は持ち越し,   August  24,  2023

    Nhk.or.jp, 水島コンビナートの製油所火災ポンプが焼損会社発表,   August  24,  2023


後 記: 今回の報道はだいぶ混乱していました。タンクが火災になったと報じているところがありましたし、軽傷1名と報じているところもありました。消火活動中にホースの放水が当たり、病院で受診したが、けがは無かったということですが、普通、病院で診察を受けた人は軽傷者ということになります。タンクの近くにあったポンプから出火したという情報を聞き、つい先日紹介した 「米国テキサス州ディアパークのタンク大火災の原因(2019年)」 20238月)の事故を想起しました。どうもはっきりしないことがありますが、原因が公表されるまでに時間がかかりそうですので、現状でまとめ、紹介することとしました。 

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