今回は、先般、ロシアのモスクワにあるガスプロム・ネフチ社のモスクワ製油所がウクライナによる無人航空機(ドローン)による攻撃で、貯蔵タンクの屋根が噴き飛んだ事例を紹介しましたが、実際は防災ミサイルによる誤射でタンク屋根が噴き飛んだとみられる動画が出ましたので、この情報を改めて紹介します。前回のブログは「ロシアのモスクワ製油所、無人航空機による攻撃で貯蔵タンクの屋根が噴き飛ぶ」(2026年7月12日)を参照。
< 発災施設の概要 >
■ 被害があったのは、ロシア(Russia)のモスクワ(Moscow)にあるガスプロム・ネフチ社(Gazprom Neft)のモスクワ製油所である。この製油所は所在地からカポトニャ製油所(Kapotnya Oil Refinery)とも呼ばれている。
■ 発災があったのは、モスクワ中心部から南東約15km離れた製油所内にある燃料貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2026年6月18日(木)早朝、モスクワ製油所にウクライナ軍(Ukrainie)の無人航空機(ドローン)による攻撃があった。
■ 目撃者によると、強力な爆発により大型燃料貯蔵タンクの屋根が完全に噴き飛ばされ、激しい火災が発生したという。燃料貯蔵タンクの屋根が数十メートルも空中に舞い上がった。製油所では、少なくとも5か所で火災が発生し、黒煙が空に広がった。
■ 当初、このタンク屋根が噴き飛んだ原因はウクライナ軍の無人航空機(ドローン)による攻撃だったと報道されたが、新たな目撃者の動画がオンラインに公開され、OSINT(オープン・ソース・インテリジェンス)の専門家が分析した結果、発生した爆発は、無人航空機(ドローン)ではなく防空ミサイルによるものという見解が報じられた。
■ 防空ミサイルは、本来、敵の航空機、ミサイル、無人航空機(ドローン)から重要な施設や部隊を迎撃・防衛するための誘導兵器である。防空ミサイルはその射程や運用方法によって分類されるが、今回は、携帯式防空ミサイル(兵士が肩に担いで発射する小型ミサイル)とみられ、近年では無人航空機(ドローン)の迎撃に用いられている。
■ 携帯式防空ミサイルを撃ったのは、明確になっていないが、ロシアの発射したミサイルが誤って貯蔵タンクに当たったものだと報じられている。
■ OSINT(Open Source
Intelligence)とは、公開情報(ウェブサイト・SNS・公的データベースなど)を収集・分析し、サイバー脅威の兆候を把握するインテリジェンス手法である。元来は軍事情報活動の一環であり、現在、OSINTの活用は民間部門へも拡大し、多くの企業や団体において標準的な活動となっている。
■ ウクライナ軍は、製油所への攻撃により、RVS-10000型タンク3基、RVS-30000型タンク1基のほか製油所のオイルプロセス装置を攻撃で損傷させたと語っている。注記;貯蔵タンク RVS-10000型は、主に石油や化学薬品などの液体を大量に保管するために使用される容量10,000KLの円筒形鋼製タンクをいう。
■ フェースブックでは、防空システムのミサイルによるタンク被災の映像が投稿されている。
●Facebook、「Не
дрон, а ракета ПВО вызвала взрыв на НПЗ в Капотне」(2026/6/19)
被 害
■ 製油所の貯蔵タンク1基の屋根が噴き飛ぶほどの損壊をした。このほかタンク3基やプロセス装置が無人航空機(ドローン)による攻撃で損傷した。また、タンクや装置内にあった油が焼失した。
■ 死傷者は発生していない。
< 事故の原因 >
■ 原因は、テロによる“故意の過失”でなく、戦争時の無人航空機(ドローン)による攻撃である。 タンク屋根が噴き飛んだ貯蔵タンクへの攻撃は、無人航空機(ドローン)でなく、防空ミサイルによるものとみられている。
< 対 応 >
■ 本格的な戦争開始以来最大規模のウクライナ軍の攻撃で製油所が攻撃され、ロシアの一部に黒い油の粒が降り注いだ。この攻撃では、約200機の無人航空機(ドローン)がロシアの首都に向けて発射された。
ロシアのモスクワ市長によると、首都モスクワを目指していた少なくとも194機の無人航空機(ドローン)を6月18日(木)未明にかけてロシアの防空システムによって撃墜したという。
■ しかし、ロシアの防空システムが全部機能したわけでなく、ロシアの携帯式防空ミサイルが誤って貯蔵タンク1基に当たったものとみられる。
■ ロシア人がソーシャルメディアに投稿した動画は、二つのことを伝えている。ひとつは、首都モスクワの防空網は強固だったが、ウクライナの安価な大量生産の無人航空機(ドローン)によって突破され、製油所の貯蔵タンクの屋根が噴き飛ばされたことに代表される複数の火災が猛威を振るったことや環境災害が確実に発生しつつあることである。もうひとつは、モスクワ市民の不満の拡大と、それがもたらす政治的不安定さである。ロシア当局が抑制しようとしてきた動画が数多く投稿され、高まる反体制の姿勢と、最終的に失敗に終わった情報操作を示している。
■ 現場からの画像や動画はインターネット上で広く拡散されたが、紛争が続いている状況下では、すべての映像の真偽を独自に検証することは依然として困難である。
補 足
■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦で、ユーラシア大陸北部に位置する人口約1億4,000万人の連邦共和制国家である
「モスクワ」(Moscow)は、人口約約1315万人のロシア連邦の首都である。また、連邦市として市単独で連邦を構成する83の連邦構成主体のひとつである。
■「ガスプロム・ネフチ社」(Gazprom Neft)は、ロシアの石油企業で国内の石油製造・精製企業としては、5番目の規模をもつ。2005年天然ガス最大手ガスプロムの傘下企業となり、ガスプロム・ネフチに改称した。本社はサンクトペテルブルクである
「モスクワ製油所」(カポトニャ製油所:Kapotnya Oil Refinery)は、1938 年に操業したが、2011年からロシア国営企業ガスプロム・ネフチ社の傘下にある。精製能力は、年間約1,200万トンで、日量換算で約24万~30万バレル/日の規模である。
■「発災(被災)タンク」は大きさ、油種などの仕様について何も報じられていない。グーグルマップで調べると、直径約45mであるので、高さを15~20mとすれば、容量は23,800~31,800KLとなる。グーグルマップの写真を見ると、ドームルーフ式の固定屋根型タンクである。ウクライナ軍が攻撃でRVS-30000型タンク1基を損傷させてと語っているが、このタンクが発災(被災)タンクとみられる。
所 感 (前 回)
■ 戦争時の貯蔵タンクの被災については、基本的にこのブログの調査対象にしていないが、今回の事例はタンク屋根が噴き飛んだというので、調べることとした。
映像は少なくとも3か所から撮影されたものがあり、実際にタンク屋根が噴き飛んだものとみられる。タンク屋根は水平を保ったままかなりの高さまで飛んでいる。 一般にコーンルーフ式やドームルーフ式の固定屋根式円筒タンクは、タンク屋根と側板の溶接部の接続箇所が弱く作られており、この点でいえば、適切な設計・製作をされた貯蔵タンクといえる。タンク上部の混合気が爆発するような圧力になった場合、溶断部が破断するが、タンク屋根が水平を保って高くまで飛ぶということはめずらしい。事例のような状況になる要因を推測すると、タンク内部に液が少ない状態のところにタンク上部に無人航空機(ドローン)が突っ込んで爆発したのではないだろうか。このため、無人航空機(ドローン)の爆弾による衝撃的な力がタンク屋根部にかかり、溶断部を破断するが、タンク屋根が水平を保って空高く噴き飛んだのではないだろうか。
■ 2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻して軍事衝突が起こったが、両国の戦争でミサイルなどに代わって無人航空機(ドローン)によるタンク貯蔵施設への攻撃について、このブログで紹介したのは「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」(2022年10月)が初めてだった。その後、無人航空機(ドローン)は飛躍的に発達して、現在は戦争の主要な武器となっている。対ドローン防御設備が開発されても「ロシアで対ドローン防御設備を施した貯蔵タンクが攻撃で被災」(2026年2月)のように無人航空機(ドローン)による武器化の技術進展は、日本のドローンへのテロ対策を根本的に見直す必要性があることはこれまで述べてきたとおりである。
所 感 (今 回)
■ 戦争時の貯蔵タンクの被災については、このブログの調査対象にしていない。無人航空機(ドローン)によるテロ対応の観点から調べたが、結果は防災ミサイル(兵士が肩に担いで発射する小型ミサイル)で誤射によるものであった。誤射に関して意見や見解は示されておらず、これが“戦争”というもので、仕方ないことと思っているのであろう。人間のひととしての感性が鈍ってきている。
■ ロシアとウクライナの携帯式防空ミサイルの例は図のとおりである。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Bbc.com, Moscow residents complain of black rain after largest
Ukrainian attack hits oil refinery,
June 19, 2026
・Edition.cnn.com, Ukraine launches largest attack on Moscow since
start of full-scale war, June 19,
2026
・English.nv.ua, Satellite images reveal damage at Moscow refinery
after Ukrainian drone strike, June 21,
2026
・Ndtv.com, Video: Ukrainian Drone Hits Russian Refinery, Blows Tank
Lid Off, June 18,
2026
・Apnews.com, Ukrainian drones set a Moscow refinery ablaze in a major
attack on the Russian capital, June 19,
2026
・United24media.com, Moscow Oil Refinery After Ukrainian Drone
Attacks: What Satellite Images Show,
June 19, 2026
・Abcnews.com, Fuel storage
tank's lid blown off as Moscow refinery targeted by Ukraine, June
18, 2026
・ Facebook.com, Не дрон, а
ракета ПВО вызвала взрыв на НПЗ в Капотне,
June 19, 2026
後 記: それにしてもロシア国内におけるフェースブックなどによる無人航空機(ドローン)の動画撮影への関心の高さには驚きます。今回の貯蔵タンクの屋根が噴き飛ばされた動画も複数あります。そのうちのひとつがOSINT(オープン・ソース・インテリジェンス)の専門家による分析結果、発生した貯蔵タンク爆発は、無人航空機(ドローン)ではなく、防空ミサイルによるものだというのが分りました。撮影された動画がオンラインで公開されていなければ、前回のブログのようにウクライナの無人航空機(ドローン)によるものだったということで終わっているはずです。ところが、そうではなく自国の貯蔵タンクを自国の防空システム(携帯式防空ミサイル)で攻撃したということが分ってしまいました。









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