今回は、2026年4月28日(火)、広島県三次市にある医薬品などを製造する丸善製薬㈱の三次工場で、エタノールを貯蔵するタンク2基が爆発・火災を起こし、負傷者5名が発生した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、広島県三次市(みよしーし)にある丸善製薬㈱の三次工場である。丸善製薬は医薬品や健康食品の原料を製造する会社である。
■ 事故があったのは、工場内にあるエタノール貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響 >事故の発生
■ 2026年4月28日(火)午前11時30分頃、丸善製薬の三次工場のエタノールを貯蔵するタンクで爆発・火災が発生した。
■ 付近の住民から「タンクが爆発した」という119番通報があり、消防署が出動した。
■現場ではエタノールを貯蔵するタンク2基から炎が上がっていた。工場内には複数のタンクがあり、うち2基が爆発し、火災が発生した。1基のタンクは屋根が噴き飛び、近くに落下していた。もう1基のタンクは屋根の一部が外れて隙間から炎が噴き出していた。
■ 住民のひとりは、「大きな音が2回して、建物のガラス窓が揺れた」と話している。
■ 事故当時、丸善製薬の三次工場では、製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていた。
■ 発災にともない、作業をしていた20~30歳代の男性5名が骨折ややけどなどで病院に搬送された。ふたりが重傷とみられる。5名は同市と兵庫県に住む社外の請負会社の作業員である。
■ ユーチューブやフェースブックでは、事故を伝える映像が投稿されている。
●Youtube、「製薬工場で爆発事故 中にエタノール…男性作業員5人重軽傷 広島・三次市(2026年04月28日)
●Youtube、「5人負傷】製薬工場でエタノール入ったタンク爆発 広島・三次市」(2026/04/28)
●Facebook、「Alcohol storage tank fires and explosion at Maruzen Pharmaceuticals in Miyoshi City, Japan (28 April 2026) Five people were injured in the incident 」(2026/04/28)
被 害
■ エタノールの貯蔵タンク2基が爆発・火災で焼損した。
■ 負傷者が5名出た。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。
発災時、製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていたというので、工事が関連しているとみられる。
< 対 応 >
■ 火災を起こしたエタノールタンク2基は、約3時間後の午後2時30分頃に消し止められた。
■ 4月28日(火)、丸善製薬は、同社のウェブサイトで事故の状況などを発表し、「事故当時は製造棟新設工事に関連する作業を行っていました。深くおわび申し上げます」と述べた。
■ 現場検証のため、三次工場は一時操業停止としていたが、5月8日(金)より、安全確認が完了した倉庫内の在庫に ついて、出荷を行う体制を整えているという。
補 足■「広島県」は、中国地方の山陽側の中央部に位置し、南は瀬戸内海に面し、人口約271万人の県である。県庁所在地は広島市である。
「三次市」(みよしーし)は、広島県の北部に位置し、人口約46,000人の市である。三次市は、中国地方の中心部に位置しており、江の川の支流が三次盆地で合流するため、河港として栄え、古くから山陰-山陽を結ぶ文化・経済・交通の要衝の地として機能してきた。 現在でも、中国自動車道・中国やまなみ街道(尾道自動車道・松江自動車道)・芸備線など三次市を中心に放射状の交通網が整備されている。
■「丸善製薬㈱」(まるぜんせいやく)は、1938年に設立し、広島県尾道市に本社を置き、医薬品などを製造する会社である。医薬品以外にも、化粧品や甘草から抽出した甘味料などを製造している。広島県三次市に製造工場がある。
■「エタノール」 (エチルアルコール; C2H6O)は、引火性の高い液体で引火点が約13℃で揮発性が高く、室温でも可燃性ベーパーを容易に放出し始め、このベーパーが電気火花、溶接火花、裸火などの発火源に接触すると、激しい爆発を引き起こす可能性がある。密度は0.78g/㎤、燃焼範囲(爆発限界)は3.3~19.0vol%である。
エタノールには消火を困難にする特殊な特性があり、エタノールは水に溶ける性質がある。すなわち、水ではエタノール火災を消火できないだけでなく、場合によっては液体と混ざることで可燃性ベーパーの拡散を助長する。エタノールの消火には水溶性引火性液体に接しても破泡しない頑丈な泡を形成する耐アルコール泡が必要で、エタノール火災の消火には、AR-AFFF(耐アルコール性)と呼ぶ特殊な消火泡を用いる。この泡は燃焼液の表面に膜を形成し、酸素を遮断し、ベーパーの発生を抑える。
2026年2月に発生した「ブラジルでエタノールタンクの保全工事中に爆発、死傷者3名」 (2026年3月)の事故では、タンクに固定泡消火設備が設置されており、 AR-AFFF(耐アルコール性)の消火泡が投入されて消されたとみられる。しかし、ブラジルの多くの消防署では、アルコール専用泡の不足が消防業界の既知の問題となっている。
今回の事例では、 AR-AFFF(耐アルコール性)の特殊な消火泡が使用されたかは報じられていないが、「広島県の各消防本部の化学消火薬剤の備蓄状況」(2010年とやや古いデータではあるが)では、下表のように、三次市の属する「備北地区消防組合」の耐アルコール用消火薬剤は多くの蓄えはないが、広島県全体では備蓄量はあるとみられる。おそらく、危急の場合、融通しあうのではないだろうか。
■「発災タンク」は、エタノール貯蔵タンク2基と報じられているが、タンクのサイズなどの仕様はわからない。グーグルマップと被災写真で調べると、2基の発災タンクは同じ形状で、直径は約2.0mであり、高さを約3.0mとすれば、容量約9.4KLのコーンルーフ型円筒タンクである。
所 感
■ 事故の原因は分かっていない。しかし、事故当時は製造棟新設工事に関連する作業を行っており、タンクの周辺で配管の取付け作業が行われていたという。このブログでは、何度も指摘してきたが、「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(2011年7月)のつぎの項目のいずれかが欠けていたと思われる。
①代替方法の採用、 ②危険度の分析、 ③作業環境のモニタリング、
④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督
■ 消火活動は、「約3時間後」に消し止められたと報じられているが、詳細は語られていない。2基同時火災という困難な状況下で、且つ消防車や消防隊の配置も最適な場所の確保が難しかったが、今回の事故はメディアによる映像が放映されているので、消火戦略について推測してみる。
●AR-AFFF(耐アルコール性)の泡薬剤の備蓄量に不安があるため、他の消防本部からの融通を優先し、初期の消火戦略は防御的戦略をとり、他のタンクへの延焼を防ぐ冷却放水を行った。
●AR-AFFF(耐アルコール性)の泡薬剤が到着した段階で、積極的戦略をとり、泡放射を行った。このとき、まず1基のタンクに集中して泡放射を実施した。もう1基のタンクは冷却散水を継続した。
●1基のタンクが消火できたら、つぎに残りのタンクについて泡消火の積極的戦略をとった。
タンク火災としては直径約2mと大きくはないが、消火までに約3時間かかっており、複数基火災が予想以上に消火が難しいかを知る事例となっている。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
・Yomiuri.co.jp, 工場でエタノールタンク2基が爆発・炎上、やけどや骨折で作業員5人重傷か…周辺で配管取り付け作業中に, April
29, 2026
・ Maruzenpcy.co.jp, 三次工場におけるタンク火災事故に関して, April
28, 2026
・ Nikkei.com, 広島県三次市の製薬工場でタンク爆発か 5人負傷し搬送、地元消防, April
28, 2026
・News.ntv.co.jp, 製薬工場でエタノール入ったタンク爆発 5人負傷 広島・三次市,
April 28, 2026
・News.yahoo.co.jp, 製薬工場タンク爆発か、5人搬送 広島・三次、2人は重傷, April
28, 2026
後 記: 今回の事例でよかったと感じたのは、火災現場の活動状況のわかる映像があったことです。文字による記事だけでは、タンクの大きさも分からず、消火活動もまったく分からない状況でした。テレビ局の強みが発揮されたと思います。それでも、分からないことの多い事例です。安全意識の高いはずの化学プラントでなぜ「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(2011年7月)の指摘しているような基本的事項の逸脱があったのか、また、なぜ発災タンクに隣接していたタンクもすぐに爆発したのかなど、これまでの事例に無かったことが起きています。 “それが事故というものだ” で済まない気のする事例です。














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