今回は、2026年5月8日(金)、ペルシャ湾内にあるイランの主要な原油積出し拠点であるカーグ島周辺の海域で衛星写真によって大規模な石油流出が起きているのではないかという事故情報を紹介します。
<
発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、ペルシャ湾内にあるイラン(Iran)の主要な原油積出し拠点であるカーグ島(Kharg Island)周辺の海域である。 カーグ島はイランの原油輸出の90%を担う拠点である。
■ 事故があったとみられたのは、カーグ島内の原油積出し関連設備である。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2026年5月8日(金)、カーグ島周辺の海域で大規模な石油流出が起きている可能性があることが衛星画像で確認された。
■ 欧州の地球観測プログラム“コペルニクス” の衛星が5月6日(水)~7日(木)に撮影した画像では、島の西側海域に灰色と白色の帯状が8kmにわたって広がっていた。
■ 英国の紛争・環境観測団(CEOBS)は、流出の原因と発生地点は現時点で分からないと述べ、5月8日(金)時点の画像では、新たな活発な流出の兆候は見られなかったという。
■ 米国・イスラエルーイラン戦争によって米軍が攻撃開始後、カーグ島の軍事目標は早い段階で破壊されたところで、米海軍はイランのタンカーの出入りを阻止するため、イランの港湾を封鎖している。米国の財務長官は、4月下旬、近いうちにカーグ島の原油貯蔵施設が満杯になり、イランの油田は生産停止に追い込まれるとの見方を示していた。
■ 海上には油膜が広がっており、環境や生態系への影響が懸念される。米国・イスラエルーイラン戦争の緊張が続く中、早期の回収は困難な状況である。油膜は他のペルシャ湾岸諸国に到達する恐れもある。
■ 紛争・環境観測団(CEOBS)によると、ここ6か月の間に“同様な流出” は確認されていなかったといい、今回の流出は「重要性の高い石油ターミナルに負荷がかかっている兆候」ではないかと疑問を呈した。
■ 専門家の中には、貯蔵能力の不足を理由に石油が意図的にペルシャ湾に放出された可能性があると示唆しているが、現時点ではその説を裏付ける証拠はない。
■ 紛争・環境観測団(CEOBS)は、流出した石油は約44 ㎢に広がっていると推定している。一方で、石油の流出を監視するスペインの「Orbital EOS」は、流出が5月7日(木)時点で52 ㎢以上に及んでいるように見えると述べた。
■ 5月9日(土)、紛争・環境観測団(CEOBS)は、衛星画像では油膜の範囲が「大幅に縮小」している様子が見て取れると述べた。現時点では、「流出の原因と発生源は不明のままであり、利用可能な画像だけでは断定できないとしているが、地球観測プログラム“コペルニクス”の画像分析に基づくと、流出しているのは石油のように見える」と述べた。しかし、「9日(土)のコペルニクス画像では、最初に確認された6日(水)の画像と比べ、その規模が大幅に減少していることが示されているようだ」という。
■ 5月9日(土)、イラン議会エネルギー委員会は、貯蔵能力の逼迫によりイランの施設から石油が流出していることを確認する報告は「今のところない」とし、「国内の様々な油田での生産は問題なく続いている」と述べた。
■ 5月11日(月)、イラン外務省は、この地域での米国の軍事作戦が原因で生態系に被害が生じていると非難した。また、イランの石油ターミナル会社はカーグ島付近で石油流出が起きているとの報道を否定した。
被 害
■ カーグ島周辺に排出されたタンカーのバラスト水(油混じりの廃水)によって海の環境が汚染された。
< 事故の原因 >
■ カーグ島付近で原油流出の疑いがあったが、タンカーから排出された汚染物質を含むバラスト水(廃水)の投棄が原因である可能性が高いとみられる。
< 対 応 >
■ カーグ島周辺の流出報道が出る以前の2026年4月7日(火)、米軍はペルシャ湾に浮かぶイランの主要原油積出し拠点であるカーグ島の“軍事施設” を攻撃した。米国は4月13日(月)にもカーグ島の軍事施設を空爆したが、イラン経済の生命線とされる石油インフラストラクチャーへの攻撃は見送っていた。
■ 5月10日(日)、イラン石油ターミナル社は、カーグ島で操業する貯蔵タンク、パイプライン、積載施設、タンカーからの漏洩の証拠は検査で発見されなかったと発表した。
■ 5月12日(火)、イランは、カーグ島付近で原油流出の疑いがある事案について、石油施設からの流出ではなく、タンカーによる廃水の投棄が原因である可能性が高いという見解を示した。イランは「われわれの調査結果では、この流出がイラン以外のタンカーから排出された汚染物質を含むバラスト水によるものであることを示しており、イランのパイプラインや石油施設からの原油流出は報告されていない」と述べた。
■ 衛星画像分析官は、漏洩源がタンカーだと考えていると述べたが、光学画像だけでは漏洩源を特定することはできないという。
■ 5月13日(水)、東京大学で画像分析を行った教授によると、カーグ島はイランの原油輸出の大部分を占めており、その西側の海域は積荷作業を行うタンカーによって頻繁に利用されていた。油膜の位置はこうした操業環境と一致するものの、カーグ島の石油ターミナルに近いからといって、そこが油膜の発生源であると断定することはできないという。
教授は、「島の西側と南西側に広がっている漂流する油膜という空間パターンは、海底や海岸線の固定点からの連続的な漏出ではなく、単発の放出事象後に、風と海流によって運ばれた物質と一致しているように見えた。その後の画像では、活発な継続的な放出の兆候は見られなかった」いい、「入手可能な情報によると、石油ターミナルやパイプラインからの漏洩というよりも、船舶に関連した排出または漏洩の可能性が高いことを示している」と述べた。
補 足
■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国で、西アジア・中東のイスラム共和制国家である。世界有数の原油産出国であり、人口は約9,175万人で、首都はテヘランである。公用語はペルシア語である。
「カーグ島」(Kharg Island)は、ペルシャ湾のイラン北部に位置する島で、イラン本土の沖25kmにあり、ハールク(Ḵārk)と呼ばれている。英語圏ではKharg Islandといい、日本の報道では、主に英語圏の報道機関・通信社から提供される情報を利用してニュースを伝えるので、主にカーグ島と表記されている。常住の人口は約8,100人であるが、石油積出し施設に関係する施設職員、港湾作業員、警備・軍関係者などを含めると、約20,000人の居住者がいるといわれている。
■「地球観測プログラム“コペルニクス”(Copernicus)」は、欧州連合(EU)が主導する世界最大級の地球観測プログラムであり、衛星や現地観測データを活用して、環境監視、気候変動対策、安全保障に関わるデータを無料で公開している。環境保護、自然災害管理、持続可能な農業など地球全体の現状を把握し、意思決定を支援する「欧州の地球の眼」である。
■「紛争・環境観測団」(Conflict and Environment
Observatory、略称:CEOBS)は、2018年に英国で設立され、武力紛争や軍事活動が環境および人間に及ぼす影響を調査し、認識を高めることに特化した慈善団体である。
■ 「Orbital EOS」は、2019年にスペインで設立された環境監視の団体で、石油流出検知、環境パフォーマンス監視、海岸浸食など海洋分野における課題に対し、衛星ベースのソリューションを提供している。AI(人工知能)と高度な海洋モデリングを活用し、監視能力を向上させている。Orbital
EOSの技術(EOS Viewer)の主な用途の一つは石油流出監視である。
■「バラスト水」は、貨物を積んでいない船が航行時の安定性を保つために船底のタンクに取り込む海水をいう。バラスト水は港で積込み、別の港で排出されるが、この海水に含まれる外来種が移動先で生態系を破壊する問題を防ぐため、国際条約により処理装置の設置が義務化されている。
所 感
■ メディアの一報からカーグ島の原油積出し施設内の貯蔵タンクからの流出ではないかと調べ始めたが、そうではなく、タンカーからのバラスト水排出とみられることが分かった。
①地球観測プログラム“コペルニクス”で流出が疑われる衛星画像・・・⓶場所はイランのカーグ島・・・③米国によるイラン攻撃があった・・・④カーグ島の石油ターミナルは機能停止している
このような条件が揃えば、誰だって石油ターミナルのタンクや配管からの油流出と思ってしまう。 “無意識の思い込み” の典型例であろう。このような事例を調べて投稿している者にとってもっとも諌めなければならないことである。
■ ホルムズ海峡の封鎖でペルシャ湾には行き場のないタンカーや船舶が滞っている。意図したものかどうかはわからないが、このバラスト水投棄は戦争が及ぼす悪い影響のひとつである。しかし、タンカーなどの船舶関係者は、タンカーからのバラスト水の投棄はやってはならないということを強く意識してもらいたい。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Jp.reuters.com, カーグ島で石油流出か、イラン主要積み出し拠点 油膜とみられる画像, May 10, 2026
・Afpbb.com, カーグ島沖で石油流出か 9日の衛星画像では範囲「縮小」 環境団体, May 10,
2026
・Jiji.com, カーグ島海域に石油流出 貯蔵量超過の可能性も―イラン,
May 12, 2026
・Jp.reuters.com, ペルシャ湾の原油流出、タンカー廃水が原因の可能性=イラン高官, May 13, 2026
・Cnn.co.jp, イランのカーグ島付近で大規模な石油流出、衛星画像が捉える 専門家は新たな流出に警鐘, May 13, 2026
・Nbcnews.com, Oil spill in
Gulf likely caused by tanker dump, Iran says,
May 13, 2026
・Thenationalnews.com, Oil slick near Iran's Kharg Island sparks
concerns – but where did it come from?,
May 13, 2026
後 記: 所感で述べたように、ブログを投稿している者にとってもっとも諌めなければならないことは “無意識の思い込み” です。しかし、今回の事例で感じたことは、各地で戦争が起こっており、軍はうそを言っても構わないという風潮がメディアの中にも浸透しつつあるということです。このブログでは書きませんでしたが、カーグ島周辺の流出油の画像の中にはいろいろなものがあり、中にはカーグ島の東側のものもありました。もともとイランの事故情報のことは不明瞭でしたが、現在のイラン情勢では一層はっきりしないですね。第一、カーグ島の写真にしてもいい写真(下)だと思っても、よく見るとタンク基数や桟橋が違っており、以前の風景なのですね。




0 件のコメント:
コメントを投稿