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2026年6月6日土曜日

米国ワシントン州の製紙工場で薬品タンクが破裂・倒壊、死傷者19名

 今回は、2026526日(火)、ワシントン州ロングビューにあるニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の製紙工場において薬品タンクが破裂・倒壊して、死傷者19名を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ワシントン州(Washington)ロングビュー(Longview)にあるニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社(Nippon Dynawave Packaging)の製紙工場である。同社は、日本製紙㈱の子会社である。

■ 事故があったのは、製紙工場内にある薬品タンクである。薬品タンクには、白液(ホワイトリカー)という水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムの混合液が入っていた。タンク容量は340万リットル(3,400KL)とみられる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2026526日(火)午前7時過ぎ、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の製紙工場にある薬品タンクが破裂・倒壊するという事故が起きた。

■ 事故にともない、ひとりの死亡が確認されたほか、9名の安否が分かっていない。このほか、消防士を含む9人が負傷し、病院へ搬送された。事故翌日、病院に搬送されていたひとりの死亡が確認され、死者は2名となり、負傷者は8名となった。

■ タンクには、紙の原料を作る際に使われる白液(ホワイトリカー)と呼ばれる薬品が保管されていたという。白液のpH値は14で、皮膚に触れると重度の化学火傷を引き起こすという。

■ 発災が起こる約15分前に従業員の勤務交代が始まっており、このエリアには、事務作業スペース、休憩室、作業スペースなどが含まれていた。ちょうど交代勤務の時間帯で、多くの作業員が現場に集まり、致死性の化学物質が入った巨大なタンクの隣にある休憩室周辺に集まっていた。  

■ 現地警察、消防などとともにニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は現場の安全確保を行うとともに行方不明者を捜索を進めた。行方不明者の捜索は週を通して続けられ、消防隊は屋内エリアの瓦礫を片付け、現場のまわりをドローンによる上空からの捜査を行い、 犠牲者の見落としがないように努めた。遺体収容作業は綿密に行われたが、非常に困難だった。最後の犠牲者は530日(土)に収容された。 

■ 528日(木)時点、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社(日本製紙)は、発災にともなう死傷者について死者8名、不明者3名、負傷者8名であると発表した。 その後、529日(金)時点で死者9名、不明者2名、負傷者8名と発表した。530日(土)、死者11名の身元が確認され、負傷者8名となり、最終的に死傷者は19名だった。

■ 米国ワシントン州の州知事は、527日(水)、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の工場で薬品タンクが破裂・倒壊した事故について「州史上で最悪の産業事故となるだろう」と現場での記者会見で述べ、約50名の州兵を派遣したことを明らかにした。今回の事故は、1930年にパシフィック・コースト・コール・カンパニーが所有する炭鉱で爆発によって17名の労働者が死亡した時以来、ワシントン州で最悪の産業災害となった。

■ 工場で紙をつくる工程の中で使う白液(ホワイトリカー)とよばれる薬品を貯蔵するタンクが破裂・倒壊したが、さらに、この汚染物質は工場から近くのコロンビア川に流出しているがわかった。製紙産業で栄えてきた町への影響は大きい。白液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含む化学溶液で、強いアルカリ性で触れるとやけどをする。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、発生直後と23時間後の二度、工場から川につながる排水口で高濃度の汚染を確認したといい、今後、中和作業が必要になると説明した。州政府は「飲料水への影響や大気汚染の被害は確認されていない」としている。一方、州知事は「排水口から12匹のコイの死骸が見つかった」と述べ、20名の州兵が除染支援にあたるという。

■ タンク容量は、最初30万リットル(300KL)といわれていたが、実際は340万リットル(3,400KL)だったと当局が明らかにした。損壊したタンクには、推定34万リットル(340KL)の液体が残っている。

■ 当局は、大気質やロングビュー市の飲料水に健康への悪影響は検出されていないという。

■ ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社の親会社の日本製紙㈱は、同社のウェブサイトで事故があったことを発表するとともに、「謹んで哀悼の意を表すとともに、ご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。また、地域の皆様、お取引先様、および関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」と述べている。

■ ユーチューブでは、タンク事故のニュースを伝える動画が投稿されている。

  Youtube「日本製紙傘下企業の化学薬品タンク破裂、1人死亡・9人不明 米ワシントン州」2026/05/27

  ●Youtube「日本製紙グループの子会社工場でタンク破裂 1人死亡、9人不明 アメリカ・ワシントン州」2026/05/27

  ●YoutubeWhite liquor tank at center of deadly Longview implosion not inspected by state, experts say2026/06/02

被 害

■ 薬品用タンク1基が損壊した。

■ 11名の死傷者が発生した。内訳は、死者11名、負傷者8名である。

■ 汚染物質(白液)が近くの河川に流出し、川が環境汚染された。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 捜査当局はまだ原因を特定しておらず、調査中である。

■ 化学安全専門家らは、タンクの被災写真から、タンクは外側に破裂したのではなく、内側に損壊したとみられ、圧力の急激な変化(おそらく安全弁の詰まりが原因)が壊滅的な内破を引き起こした可能性があるという。これは、たとえば薄い壁のプラスチック製ペットボトルに口を当てて吸った様子にたとえれば、ボトルは真空状態になり、内側に潰れる。専門家のひとりは、多々起こる工業用タンクの爆発とは異なり、40年の実務経験の中で目のあたりにしたタンクの内破事故は片手で数えられるほどしかないという。 注記;内破(ないは)は外側からの圧力が内側からの圧力よりも著しく大きくなった結果、物体が中心部に向かって急速に押し潰される現象である。外側へ向かって飛散する爆発とは逆のメカニズムである。

■ 一方、「タンクに重大な欠陥があり、それが破裂または崩壊の原因となった」という専門家もいる。捜査官はタンクの構造に亀裂、腐食、通気口の問題がないか調べ、保守記録を精査して機器の不具合を確認し、従業員、管理者、技術者に聞き取り調査を行い、原因を特定する予定だという。 

■ また、何らかの詰まりがあったのではないかと推測する専門家もいる。

■ ワシントン州労働産業局は、今回の事故の原因究明と、安全規則違反が事故の一因となったかどうかを明らかにするため、職場安全に関する調査を正式に開始した。この調査には最長6か月かかる可能性がある。  

■ 今回の事故は、安全記録に問題のない施設で発生したわけではなかった。

 ワシントン州労働産業局は、2019年から2025年の間に、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社を安全規則違反で4回告発しており、破裂・倒壊事故発生時点で既に同社に対する2件の労働産業局による調査が開始されていた。 この案件は、当局者によると、いずれもタンク破裂・倒壊とは直接関係がないという。1件は、アンモニア水浄化槽のバルブに関する懸念について匿名の通報を受け、3月に開始されたものだった。

 20263月、製紙工場の労働者らは、排水口が床に陥没穴を作っていることを州の労働安全衛生局に通報した。また、同施設では20237月に大規模な木材チップ火災が発生し、ポートランドの大気汚染レベルが悪化したが、正確な原因は特定されなかった。2025年にも同施設で火災が発生したが、負傷者は出なかった。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、過去2年間で州環境局から12,000ドルの罰金を含む、汚染および環境基準違反で告発されていた。

■ ワシントン大学環境・職業保健科学部の教授は、ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社が過去5年間で3回の検査を受けており、タンク破裂・倒壊時、2件の未解決検査があったことは注目に値すると述べた。「労働産業局の監視対象になったり、従業員から通報されるような問題が繰り返し発生しているなら、その現場でより良い安全衛生文化を築くために何かを変える必要がある」という。

補 足

■「ワシントン州」(Washington)は、米国西海岸の最北部に位置し、人口約770万人の州である。州都はオリンピア市で、人口規模や経済の面での中心都市はシアトル市である。

「ロングビュー」(Longview)は、ワシントン州南西部に位置し、カウリッツ郡で最も大きく人口約37,800人の市である。南端を流れるコロンビア川がオレゴン州との州境となっている。

■「ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社」(Nippon Dynawave Packaging)は、日本第2位の製紙会社である日本製紙㈱がシアトルに拠点を置く木材会社ウェイアハウザーからロングビュー工場を22,500万ドルで買収し、2016年に完全子会社になった。ニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社は、飲料パック用の紙などを製造し、従業員は2025年末時点で564名である。

 ロングビュー工場は、コロンビア川沿いにある製紙工場では70年以上にわたり、木材チップを化学薬品で煮沸する製紙法が用いられてきた。クラフトパルプ化と呼ばれるこの製法は、木材を分解して丈夫なセルロース素材に変え、紙や牛乳パックなどの容器の製造に利用できる。チップは、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と硫化ナトリウムの混合液で加熱され、白液(ホワイトリカー) として知られる腐食性の化学物質が生成される。

■「白液(ホワイトリカー) 」は、厄介な物質で、非常に腐食性が高く、pH値は14で、化学火傷を起こしやすい。世界には約4,500のパルプ・製紙工場が稼働しており、その大半はアジアにあり、米国で操業を続けている製紙工場は約128に過ぎない。 「白液(ホワイトリカー) 」 に関連する事故の報告は稀である。データ分析によると、526日(火)の事故以前の過去10年間で、米国で発生した流出事故は8件だった。そのうちのひとつは、2021年にニッポン・ダイナウェーブ・パッケージング社で発生したもので、バルブが開いていたため3,000ガロン(11KL)のガスが漏れ出したが、この事故で負傷者は出なかった。

 専門家によると、パルプと製紙の工程は過去100年間ほとんど変わっておらず、極めて危険な作業であるという点も変わっていないという。

「発災タンク」は、容量が340万リットル(3,400KL)と報じられている。グーグルマップで調べると、直径は約20mであるので、高さは約10.8mとなる。型式はコーンルーフの円筒式固定屋根型タンクである。通気管(オープンベント)は臭気対策のためと思われる延長パイプ型である。一般に延長パイプの先に封水設備があるが、本事例では延長先がどのようになっているかは分からない。

所 感

■ これまでタンク事故について紹介してきたが、今回のようなタンクの被災事例は初めてである。報じられた原因に関する専門家の意見は、つぎのとおりである。

 ● タンクは外側に破裂したのではなく、内側に損壊したとみられ、圧力の急激な変化(おそらく安全弁の詰まりが原因)が壊滅的な内破を引き起こした可能性がある。

 ● タンクに重大な欠陥があり、それが破裂または崩壊の原因となった。

 ● 多々起こる工業用タンクの爆発とは異なり、40年の実務経験の中で目のあたりにしたタンクの内破事故は片手で数えられるほどしかない。

 このタンクには、安全弁は無いが、同様の働きをする通気管(オープンベント)が延長されており、詰まる要因は高い。また、タンク底板と側板の溶接部に欠陥があり、ここを起点に破裂して多量の内液が流出した可能性はあると思う。

■ 日本でも、日本製紙が親会社のため、事例に対する反応は高かった。しかし、原因に関する報道は無かった。米国で多数の被害者が出たほか、稀に見る異常なタンク倒壊で、犠牲者が捜査が一段落したあと、原因に関する推測が報じられた。事業者の安全管理に関するこれまでの経緯が報じられたが、被災写真を見てもっとも驚くのは、薬品タンクに漏洩時の防止堤はなく、さらにタンク横に駐車スペースがあり、引継ぎ所が近くにあったという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Newsdig.tbs.co.jp,  日本製紙子会社の工場で薬品保管のタンク破裂し1人死亡、9人安否不明 消防が立ち入れないエリアも 米ワシントン州,  Ma 27,  2026

    Newsdig.tbs.co.jp, 日本製紙子会社工場でタンク破裂 1人死亡、9人不明米西部,  May 27,  2026

    Asahi.com,  米西部の日本製紙子会社工場薬品タンク破裂、州史上最悪の産業事故か,  May 28,  2026

    Nipponpapergroup.com,  米国子会社日本ダイナウェーブ・パッケージングにおける事故の状況について(第一報~第四報),  May 27,  2026

    News.yahoo.co.jp, 日本製紙の子会社で工場タンクが破裂した事故で遺体の収容を完了 死者11人 米ワシントン州,  May 31,  2026

    Reuters.com, Eleven confirmed dead in Washington state chemical accident, all bodies recovered,  May 31,  2026

Jnylaw.com, 11 Killed at Nippon Dynawave Packaging in Washington,  June 02,  2026

    Opb.org, ‘Something dramatically wrong’: Questions but few answers after Longview mill tragedy,  May 31,  2026

    Nbcnews.com, All missing victims recovered in Washington paper mill explosion,  May 31,  2026

    Usatoday.com, Victims identified in Washington chemical explosion, death toll at 11,  May 31,  2026


後 記: 人間というものは、慣れてしまえばリスクをリスクと考えないものだとよく分かる事例です。米国の創造的発想はすばらしいものですが、いったん現実になったプロセス設備に対する感度が鈍いところがあるように思います。安心しきったところに、今回のような破裂・倒壊事故が起こるものなのでしょう。ところで、今回の事故の要因名について、報道では爆発 破裂 倒壊などが使用されていましたが、被災写真を見ると、これまでのタンク事故には無い印象で、ぴったりする表現がありません。内破という言葉もありますが、一般に浸透しておらず、類似辞典を調べてみました。しかし、いい表現がなく、結局破裂・倒壊という言葉にしました。

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