今回は、2023年6月27日にインターネット情報誌International Fire Protectionに載ったFire Safety in Storage Tanksを紹介します。内容は、線形熱検出ケーブル(LHDC)による早期の火災検知方法について、欧州アイルランドのベラナボイ・ブリッジ・ガスターミナルの内部浮き屋根式タンクに適用した例などです。
< はじめに
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■ 燃料タンクの火災はそれほど頻繁に起こるものではない。しかし、一旦、火災が起きると、壊滅的な打撃を受ける可能性がある。英国では、2005年12月に起きたバンスフィールド貯蔵ターミナルの爆発とその後に起きた火災事故を多くの人が記憶している。バンスフィールド貯蔵ターミナルは英国の石油パイプライン網における主要な拠点で、ヒースロー空港、ガトウィック空港、ルートン空港に航空燃料を供給しており、当時、爆発・火災は欧州でもっとも大きい事故として世界に広く報道された。事故調査の結果、最初の原因は計器の故障で、その結果、ガソリンがタンク屋根部から防油堤内に溢れ出し、大きな蒸気雲を形成して爆発したことが判明した。事故はその後、7つの防油堤にある20基以上のタンクで火災が発生した。
■ 2022年8月には、キューバのマタンサス・スーパータンカー基地においてタンクの1基に落雷があり、大火災が発生した。施設全体で複数回の爆発があり、火災が起こった。詳細は「キューバのタンク基地で落雷による原油タンク火災4基、死傷者162名」(2022年8月)を参照。
< 地上式常圧貯蔵タンク >
■ 圧力貯蔵タンクと異なり、常圧貯蔵タンクはほとんど圧力をかけない状態で液体を貯蔵する。多くの場合、液体あるいは液体の放出するベーパーは、揮発性で可燃性が高く、時には爆発性が高いものもある。この種のタンクに貯蔵される危険な液体には、アルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、バイオディーゼル、ディーゼル燃料、ガソリン、航空燃料、パラフィン、ケミカルなどである。
■ ほとんどの液体は、わずかな欠陥や開孔部からでも漏れたり、滲み出したり、さらに蒸発して可燃性のガスを放出する可能性があるため、このような危険な液体が入ったタンクを安全に運転するためには、特別な注意が必要である。当然、常圧貯蔵タンクの設計や運転には、液体の性質に応じて環境規制が適用される。また、規制には、液体やガスの発火防止の対策が適用される。
■ 常圧貯蔵タンクの型式には、タンク上部が閉じた固定屋根式のほか、タンク上部が開いている浮き屋根式がある。浮き屋根式はタンク内の液位に応じて上昇・下降する構造である。石油精製をはじめ多くの産業で使用されているが、浮き屋根は、安全性を確保する前提条件であるとともに、液面上の可燃性ベーパーをできる限り最小限に抑え、大気汚染の防止策になっている。
< 事故後の影響
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■ 可燃性の高い液体を閉空間で貯蔵することは火災や爆発の可能性があり、このことは安全を確保する義務を負っている事業者でなくてもよく分かっている。タンク事故の発生を減らす方策を考えるとき、人命への脅威を無くすことが最優先事項であるが、貯蔵タンクは重要な資産で業務の中心的要素であるので、タンク施設の損失には経済的影響や大幅な休止が伴う。
■ たとえば、マタンサス・スーパータンカー基地には8基の貯蔵タンクの施設があり、キューバの電力系統において重要な役割を果たしていた。敷地内には規模の大きい石油パイプラインが通っており、キューバ原油を受入れ、原油は発電を行う熱電発電所に移送されていた。
■ したがって、火災による環境への影響は大きいが、火災の消火に対する努力も、事業継続上、極めて重要な考慮事項である。たとえば、英国バンスフィールド油槽所タンク火災では、火災中にタンク防油堤の一部が損壊し、燃料と消火泡が放出され、土壌と地下水が汚染された。火災は4日間にわたって燃え続け、消防隊は約68,000KLの水と約800KLの泡薬剤を使用した。泡薬剤の中には、有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含むものもあった。この事故の経済的損失は約10億ポンドと見積られているほか、飲料水供給に用いられていた帯水層が汚染され、現場から約3km離れた公共水道の井戸が汚染の影響で閉鎖された。
消火活動は「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」( 2016年6月)を参照。
< 満杯と空の際の危険性 >
■ 満杯のタンクによって起こる火災の危険性は誰にとっても明らかであるが、タンクに詳しくない人にとって信じられないことは、タンクが空の場合でも問題を引き起こす可能性があることである。空になる前に燃料などのような揮発性製品を貯蔵していたタンクで処理されずにそのまま放置された場合、タンク内の雰囲気は炭化水素のベーパーで満たされている。このベーパーは可燃性が高く、引火すると爆発し、悲惨な被害を引き起こす可能性がある。
< “本質安全防爆”
による火災からの防護 >
■ 常圧貯蔵タンクの火災や事故の原因に浮き屋根のリム・ シール部の摩耗や損傷によるものがある。タンクの設計内容は地域のニーズに応じてメーカーや現場によって少しづつ異なる。一方、火災抑制システムを設置した場合、検知や作動したりする際の懸念事項は、可燃性の液やベーパー雰囲気の危険区域で電気機器を使用することである。このようなハザードには、“本質安全防爆” 技術の導入、すなわち認定されたバリアや隔離策を用いたシステムにする必要がある。
■ 本質安全防爆の技術は、実際の計装システムに用いている電気エネルギーや熱エネルギーが常に十分低く、引火が起こらないようにすることである。本質安全防爆のバリアは、ゾーン0(すなわち、爆発性混合物が継続的あるいは長時間存在するエリア) に分類される危険区域であっても、検知や作動の電気的信号が安全に操作できるように防護することである。
< 本質安全防爆形の線形熱検出ケーブル(Linear Heat Detection Cable; LHDC) >
■ “単純な装置”(Simple apparatus)は、少なくともこの50年間、本質安全システムの重要な部分として使用されてきた。“単純な装置” は英国規格BS EN 50020 : 2002「Electrical Apparatus For Potentially Explosive Atmospheres.
Intrinsic Safety ‘I’ 」(爆発性雰囲気用の電気機器、本質安全防爆“I”の5.4項で定義されているが、基本的に“単純な装置” を説明するためにのみ使用されている。その安全性は、いろいろなデータを参照しながら資格をもった技師の目視検査によって簡単に検証されている。エネルギーレベルが低く、引火源を持たないため、ATEX指令やその他の機関への認証は必要ない。ただし、設備が“単純な装置” だとみなされる場合でも、本質安全防爆バリアに接続しなければならない。この“単純な装置”の例としては、圧力スイッチ、キースイッチ、デジタル・リニア熱検出ケーブルなどの個別のスイッチ類がある。
■ ATEXとは、Atmosphères Explosives(爆発性雰囲気)の略で、爆発の可能性がある雰囲気内での使用を目的とした機器や防護システムで、EU(欧州連合)では 2003年7月に爆発の危険性のある雰囲気で使用される機器について、ATEX指令に準拠することが義務付けられた。
■ 線形熱検出ケーブル(Linear Heat Detection Cable; LHDC)はケーブルや被覆に炎や熱を感知させるもので、火災や過熱の初期兆候を検出することができる。通常のアナログ型のほかデジタル型がある。線形熱検出ケーブル(LHDC) は、独立した検出システムや消火抑制システムとして使用することができる。消火抑制システムは、常圧貯蔵タンクを火災の発生から防護するために泡消火剤の放出を行うシステムである。デジタル型線形熱検出ケーブル(LHDC)は小さな炎にさらされると反応する2芯ケーブルである。各ケーブルを覆っている反応性ポリマー絶縁体は、事前に設定された警報温度で溶融し、2本の内部導体またはケーブルを融着させ、スイッチ回路が形成される。
■ 線形熱検出ケーブル(LHDC) は浮き屋根のリム・シール上部に取付けて、漏洩ベーパーが発火する可能性をすぐに検出できるようにすべきである。前に述べたように地域のニーズによって、リム・シールの配置方法や固定方法にはいろいろな形態がある。最適で実用的なケーブルの取付け方法を決めるためには、徹底的に現物を見て個別に判断すべきである。ケーブルの入ったブラケットは、通常、タンク側板部にあるポンツーンの二次シールの可動域を覆うように固定されている。線形熱検出ケーブル(LHDC)用ブラケットは、一次シザース (またはパンタグラフ)のシール部に取付けることもできる。
■ 浮き屋根のポンツーンは、タンク液位の変化に応じて上昇や下降するため、検出ケーブルと制御パネル間の電気接続に問題が生じる場合がある。そのため、23m 4芯ケーブルを用いたATEX認定の自動ケーブル巻取り装置を使用し、接続に支障をきたさないようにする。
■ 2芯は線形熱検出ケーブル(LHDC)用に使用され、残りの2芯は終端監視抵抗器(End of Line monitoring resistor)を接続するために用いられる。このようにして終端監視抵抗器はタンク外に設置することができる。ケーブル巻取り装置はタンク上部のリムに設置され、フローティング・ポンツーンの屋根上の中継端子に接続されて動きに合わせて常に調整される。ケーブル巻取り装置は、タンクの液位が下がると、自動的にケーブルを送り出し、液位が上がれば巻き戻すようになっている。
■ ケーブル巻取り装置は、SUS316またはSUS304のステンレス鋼製キャビネットに収納されている。または、浮き屋根ポンツーンの上部にステンレス製ケーブル・コレクターを設置し、自立式の4芯コイルケーブルを使用することもできる。コイル状ケーブルは浮き屋根とタンク上部のリムに設置された2つの中継端子箱間に接続される。
< パトール社(Patol - 英国のLHDCメーカー) >
■ パトール社は、英国バークシャー州レディングにある英国の企業で、火災検知器を専門的に設計・製造している。パトール社はスディプテック・グループ(Sdiptech Group)の一員で、産業界に防火・安全管理機器の製造や専門的サービスを提供している。製造機器には、他の方法では出来ないような過熱状況を早期に知らせる線形熱検出ケーブル(LHDC) のファイヤセンス・シリーズの製品がある。パトール社の線形熱検出ケーブル(LHDC)は、常時監視が可能で、終端装置に組込むことによって開回路 (故障表示) と短絡 (火災表示) を知らせるようになっている。アースに接続したステンレス鋼のオーバーブレード(編組)を使用して供給することもできる。この方法は静電気放電のリスクを排除することができるために推奨される。小さな炎にさらされてからの反応時間は10秒未満である。
■ パトール社の線形熱検出ケーブル(LHDC)は、アイルランドの天然ガス生産事業で最大のコリブ・ガスプロジェクト(Corrib gas project)の8基の貯蔵タンクに取付けられた。
< アイルランドのベラナボイ・ブリッジ・ガスターミナルの防護 >
■ コリブ生産層はアイルランド北西沖約83kmに位置する天然ガス田で、同国のガス需要の60%を供給できる能力を有する。ベラナボイ・ブリッジ・ガス・ターミナル(Bellanaboy Bridge Gas Terminal)は、4分割されているプロジェクトのひとつで、シェルE&Pアイルランド社(Shell E&P Ireland Limited; SEPIL)が操業している。
■ 天然ガスはガス・ターミナルにおいて処理・乾燥・貯蔵され、パイプライン・システム(ボルド・ガイス・エイリアン;Bord Gáis Eireann)で国内に移送される。現場の美観・環境を重視し、タンク基地におけるシール型浮き屋根式タンクを防護するためにパトール社の線形熱検出ケーブル(LHDC)が選択された。本質安全防爆システムは、8基あるシール型浮き屋根式タンクにおいて発火エネルギーが生じないようにして電気機器が安全に作動することを確実なものとする。ベラナボイ・ブリッジ・ガス・ターミナルに採用されたパトール社のデジタル式線形熱検出ケーブル(LHDC)システムは、自動ケーブル巻取り装置からケーブル固定用クリップに至るまで、多くの部品が基地用に特別な調整と変更の改造が行われた。このシステムで行われた改造によって最高水準の火災検知方法を実現したといえる。
所 感
■ 日本でも、標準の光ファイバーケーブルを使用した火災検知用の熱感知システムが開発され、製作されている。実際に、ケーブルトレイ、コンベア、トンネルなどの設備異常温度検知向けに導入されているようだ。
■ この資料では、火災検知器を専門的に設計・製造している英国のパトール社が線形熱検出ケーブル(LHDC)を使用して、貯蔵タンクの火災検出方法に適用した事例が興味深い。 2005年12月に起きた英国のバンスフィールド貯蔵ターミナル火災事故や2022年8月のキューバのマタンサス・スーパータンカー基地におけるタンク爆発・火災事故の事例に見るように、一旦、火災が起きると、人的被害や物的損害などで壊滅的な打撃を受ける。さらに、貯蔵タンク施設が火災事故によって長期にわたって停止してしまう可能性がある。タンク火災について小さな炎の段階で早期に検出できる技術が確立されたのであれば、火災による大気汚染や地球温暖化、消火用水による土壌汚染などの環境問題を考慮すれば、線形熱検出ケーブルを積極的に導入していくべきである。
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Ifpmag.com, Fire safety in
storage tank, Author; Iain Cumner,
Managing Director at Patol Ltd , June
27, 2023
・Sfpegreatplains.wildapricot.org, Linear Heat Detection by
Protectowire Fire Systems, Power Point Presentation
・Monoist.itmedia.co.jp, 熱感知に必要な機能を1ボックスに収めた線形熱感知器, September 21, 2018
後 記: 線形熱検出ケーブル(LHDC)という技術は初めて知りました。この数年、このブログで紹介しているニュースや技術を見ると、明らかに米国から欧州にシフトしています。SDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)を見ても消極的な米国から積極的な欧州に主導権が移っています。アイルランドのベラナボイ・ブリッジ・ガス・ターミナルの建設では、環境問題から市民の反対運動があり、なかなか大変だったようです。貯蔵タンク(標題の写真)を見ると、シール型浮き屋根式タンクの背景が分かります。石油ベーパーが大気中にできる限り排出しないように内部浮き屋根式タンクが採用されたのでしょうが、さらにタンクから逃げるベーパーを無くすために通気口に配管を付け、シール型にしているようです。欧州におけるSDGsを感じる事例でした。
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