今回は、2020年10月1日(木)、米国ワシントン州シアトルのハーバー島にあるシェル・オイル社のタンク・ターミナルで、ポンプが故障して貯蔵タンクからガソリンが流出した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ワシントン州(Washington)シアトル(Seattle)のハーバー島(Harbor Island)にあるシェル・オイル社の関係会社であるシェル・パイプライン社のタンク・ターミナルである。なお、ハーバー島はデュワーミッシュ川がエリオット湾に注ぐ場所にある人工島である。
■ 発災があったのは、タンク・ターミナルのガソリン用貯蔵タンクと移送用のポンプである。
事故の発生
■ 2020年10月1日(木)午前5時頃、シェル社のハーバー島の石油ターミナルでポンプが故障したため、タンクから油の流出が生じた。
■ 発災に伴い、シアトル消防署が出動した。消防署は、この地域の大気質の測定値のために、半径1,000フィート(300m)の安全境界線を設定した。
■ 大量のガソリンが流出し、防油堤内に溜り水といっしょになって留まっているという。タンクは、ポンプが閉止され、午前6時までに安全が確保されたという。
■ 深夜、タンクには160,749 ガロン(609KL)のガソリンがあり、うち13,825ガロン(52KL)は事故が起こる前に移送されていた。 流出した量は6,800ガロン(25KL)と推測される。しかし、近くのデュワーミッシュ川には達していないとみられる。
■ 沿岸警備隊は、45フィート対応ボート‐中型を使用して周辺海域の監視を行っている。
■ 一方、ターミナルが閉鎖されたので、数十台のタンクローリーやトラックが荷物の配達を待機して立ち往生した。特に主要なウェスト・シアトル・ブリッジが閉鎖されたため、この地域に大きな交通への影響が出た。
■ シェル社は、流出した油の対応のため、クリーンアップの専門チームに出動を要請した。
■ 油流出事故を知った人は、SNSで、「ガソリンが流出したと聞いて心配です。すぐに水路に入らなくても、土壌を通じて浸み出したり、大雨の後に水路に入ったりすることもあります。環境汚染や災害について聞くのはうんざりします」と述べている。また、別な人は、「封じ込め設備を越えれば対応が大変です。オイルフェンスや吸着マットなどのほか、ボートやトラックが必要です。現在、10,000ガロンのガソリンが壁に封じ込められているかもしれませんが、そこは安全な環境にしておかなければなりません」と述べている。
■ 10月2日(金)、シアトル消防署は安全境界線の設定を解消し、周辺道路の閉鎖を解除した。
被 害
■ ガソリン用貯蔵タンクからガソリンが約6,800ガロン(25KL)流出した。
■ 移送用ポンプに流出に至るような損傷が生じた。
■ 負傷者はなく、人的被害は無かった。
< 事故の原因 >
■ ポンプが故障して内液のガソリンが大量に漏洩したものとみられる。 ポンプの故障部位や原因は分かっていない。
< 対 応 >
■ 当該事故で対応に従事した関係機関・企業は、ワシントン州エコロジー局、シアトル消防署、シアトル警察、米国沿岸警備隊、マリン・スピル・レスポンス社、ナショナル・レスポンス社環境サービス、シェル・パイプライン社である。
■ 米国沿岸警備隊によると、ワシントン州エコロジー局とシェル・オイル社は危険を軽減するため、迅速に対応、シアトルの水路や地元住民への影響は出なかったという。緊急対応段階から現地の本格的なクリーンアップ段階に移ったのは、10月1日(木)午後4時だった。
補 足
■「ワシントン州」(Washington)は、米国の北西端に位置する州で、人口約672万人である。
「キング郡」(King)は、ワシントン州の西部に位置し、人口約204万人の郡である。
「シアトル」(Seattle)は、キング郡の西に位置する人口約63万人の都市で、郡庁所在地である。
なお、ワシントン州では、つぎのような今回と類似事例が起こっている。
●2012年3月、「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」
■ 発災に関連するタンクの大きさなどの仕様は分かっていない。
ワシントン州エコロジー局は環境に関わる事故時の対応について細かく検討していた。例えば、流出事故は発災の規模によって6つのタイプ(種類)にレベル分けして、対応方針を明示していたが、現在は、事故事業所からの報告をベースにするようになっている。流出事故の6つのタイプ(種類)については「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」の補足を参照。
所 感
■ 今回の事故はポンプの故障によってガソリンが流出したという。原因はポンプ循環ラインの異常に関連しているのかも知れない。いずれにしても、ガソリンタンクが漏洩する状況下でガソリンに引火しなかったのは幸運だったといえる。もしも堤内火災になれば、ひとつの防油堤内に複数のタンクが密集して設置されているので、大きな火災事故になっていただろう。タンク事故の中には、配管系の異常から漏洩して火災になったつぎのような事例がある。
●2019年3月、「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」
●2018年6月、「米国ペンシルバニア州のタンク・ターミナルで配管火災」
■ 今回の流出事故では、クリーンアップ作業が迅速だったらしい。シェル社は、クリーンアップの専門チームに出動を要請しているが、対応に従事した企業名として挙がっているナショナル・レスポンス社とみられる。同社は、ワシントン州エコロジー局が流出油対応可能な請負会社のひとつにリストアップされている。ワシントン州エコロジー局は、2012年3月に起きた 「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」の対応を行っている。今回の事例では、対応策が明確でないが、つぎのような対策が有効である。
● 防油堤内へ水を(2日間)張り込む。水は油より重く、漏洩した油が浮き上がり、油が土壌へ浸透することを回避できる。油漏洩による地下浸透対策としては、発災後、1時間以内のできる限り早い段階で水を張り込むのがよい。
● 表層の油を回収する。ガソリンベーパーによる着火の危険性が高ければ、泡を張り込む。できれば、高発泡の泡がよいが、機材がなければ、通常の泡放射ノズルによる中発泡の泡とする。
● 油回収が終われば、土壌を入れ替える。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Komonews.com, Nearly 7,000
gallons of gasoline spill from terminal at Harbor Island, October 01, 2020
・King5.com, Hazmat crews respond to report of a ‘large gasoline
spill’ on Harbor Island, October 01, 2020
・Kiro7.com, Thousands of gallons of gas spill on Harbor Island,
October 01, 2020
・Industrialfireworld.com, Thousands of Gallons of Gasoline Spill in
Washington, October 01, 2020
・Westseattleblog.com, 13,000-gallon gasoline spill on Harbor Island,
October 01, 2020
・Apnews.com, Large gasoline spill on Harbor Island prompts
evacuations, October 02, 2020
・Thenewstribune.com, Large gasoline spill on Harbor Island prompts
evacuations, October 01, 2020
・Usnews.com, Large Gasoline Spill on Harbor Island Prompts
Evacuations, October 01, 2020
・Coastguardnews.com, Coast Guard, state, locals responds to gasoline
spill on Harbor Island, WA, October 01, 2020
・Twitter.com, Seattle Fire Dept. 2500 Block
of 13th Ave SW: The scene is secure and has turned over to the Shell company.
All our units are returning to service. No injuries reported, October 02, 2020
・Content.govdelivery.com, Coast Guard, state, locals responding to
gasoline spill on Harbor Island, WA, October 01, 2020
後 記: 今回の事故を調べていて感じたのは、情報量が少ないということと、内容が希薄だということです。これは、メディアが新型コロナ対応でテレワークを主体とする取材になっているためでしょう。発災に関連するタンクの大きささえ報じられていないのは、いかがなものでしょうかね。また、前回(「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」)の事故では、情報発信していたワシントン州エコロジー局がまったく情報を出していません。テレワークを基本とした業務にしているとウェブサイトに表明していますが、事故があったことぐらい掲載してもよいのではないでしょうか。
ところで、本ブログの投稿方式が変わり、以前の方式に比べ、やりにくくなりました。いろいろな方法を試していますが、なかなか思うような形になりません。意見を出していますが、改善されませんね。
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