このブログを検索

2025年1月24日金曜日

ロシア連邦タタールスタン共和国の石油タンクが長距離攻撃用無人機で被災

 今回は、2025114日(火)、ロシア連邦タタールスタン共和国首都カザンにあるプラントで火災が発生した事例を紹介します。火災が起きたのは、ガスプロム社が所有する液化天然ガス貯蔵プラントにおいて液化ガス燃料タンク3基で起きたとみられ、航続距離1,000kmのウクライナ製長距離攻撃用無人機「リュティ」が使われたと報じられています。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシア連邦Russiaのタタールスタン共和国Republic of Tatarstan首都カザンKazanにあるプラントである。

■ 発災があったのは、プラント内にある石油タンクである。

< 事故の状況および影響 > 

事故の発生

■ 2025114日(火)夜、タタールスタン共和国カザンのプラントで火災が発生した。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。

■ SNSでは、炎が空に向かって上がる様子を撮影した画像が投稿されている。

■ 事故にともなう死傷者は出なかった。

■ 火災が起きたのは、ガスプロム社Gazpromが所有する液化天然ガス貯蔵プラントで、液化ガス燃料タンク3基で発生したとみられる。

 一方、この液化天然ガス貯蔵プラントの近くには化学会社のカザノルグシンテス・プラントKazanorgsintez plantがあり、このプラントの石油タンクが火災になったと報じているメディアもある。なお、カザノルグシンテス・プラントはロシアで最も大きい化学会社の一つで、国内唯一のポリカーボネート生産者であり、エチレン、ポリエチレンなどの有機化学製品の生産者である。

■ タタールスタン共和国の首相は、消防隊がすぐに現場に到着し、消火作業に当たったといい、死傷者の報告はなく、深刻な被害も出ていないと語っている。

被 害

■ 液化ガス燃料タンク3基が火災になり、損傷した。

■ タンク内の燃料が焼失した。 

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 114日(火)早朝にタタールスタン共和国カザンで起こった事故は無人航空機(ドローン)による攻撃で、その結果、市の北郊で大規模な火災が発生したという。爆発の直前、近くのオシノヴォ村Village of Osinovo上空をドローンが飛ぶ音が聞こえ、その後プラントで爆発音が聞こえたという目撃者がいるが、地元当局は火災現場についてこれ以上の詳細を明らかにしていない。

■ タタールスタン共和国の知事によると、無人航空機(ドローン)は撃墜され、残骸がプラント敷地内に落下したといい、死傷者や大きな被害はなく、すべての企業は通常通り稼働していると語り、攻撃の責任はウクライナにあると主張している。

■ ウクライナ当局は、攻撃の背後に自分たちがいるとはまだ明言していない。火災はウクライナ国境から約1,000km離れた場所で発生している。ウクライナのメディアは、プラントの火災原因をすぐには確認できなかったと語っている。

■ 攻撃にはトルコの「バイラクタル」に似たウクライナ製長距離攻撃用無人機「リュティ」が使われたとみられる。この無人航空機は最大50kgの爆薬を搭載し、最大1,000kmを飛行できる。

■ 202518日(水)、ロシアのサラトフ州SaratovエンゲルスEngelsの石油貯蔵所で火災が発生し、 5日間連続で炎上した。この施設は1週間以内に2度目の無人航空機(ドローン)攻撃を受けたという。この石油貯蔵所は、ロシアのエンゲルス軍用空軍基地への主要な燃料供給元であり、無人航空機攻撃の少し前に、地元住民が数回の爆発音を聞いたという。この火災では、消防士2名が死亡したという。エンゲルスはウクライナ国境から約600km離れている。

■ 2025114日(火)、ウクライナは大規模な無人航空機(ドローン)とミサイルによる攻撃を開始し、ロシアの工場、化学工場、ガスタンクに被害を与えたという。ウクライナの200機以上の無人航空機(ドローン)がロシアを攻撃したとされる。火曜日の攻撃は、ウクライナによる今年最大の攻撃と報じられている。ウクライナの最新のミサイルと無人航空機(ドローン)攻撃は、ロシアのオリョール、サラトフ、ヴォロネジ、スミ、トゥーラを含むロシアの12地域とタタールスタン共和国を標的としたという。

 「ドローンはロシアの防空軍の注意をそらすことに成功し、ミサイルが主要目標を攻撃する道を開いた」とウクライナ軍の無人システム部隊は述べ、国境から100kmロ以上離れたセルツォの町近くの工場への攻撃を確認した。

■ 2025117日(金)午後930分頃、ロシアのカルーガ州KalugaリュディノヴォLyudinovoの石油貯蔵所で、ウクライナの無人航空機による攻撃を受けて火災が発生したと、同州の知事が明らかにした。報道官は、工業施設で火災が発生したことを確認したが、攻撃による死傷者は出ていないと語っている。

補 足

■ 「ロシア連邦のタタールスタン共和国」; 通称ロシアと呼んでいるロシア連邦は、ユーラシア大陸北部に位置する人口約14,080万人の連邦共和制国家である。ロシア連邦は89の連邦構成主体に分かれるが、そのうち24が共和国を称する。タタールスタン共和国はロシア連邦地域管轄区分のひとつで、ロシアの西部に位置し、沿ヴォルガ連邦管区にある人口約400万人の共和国である。

■「ウクライナ製長距離攻撃用無人機;リュティ(Liutiy)」は、ウクライナの長距離攻撃用無人機で1,000kmの航続距離を有する。外観の点では、リュティはトルコの無人航空機(ドローン)バイラクタルTB2に似ており、同様の胴体と尾翼アセンブリを備え、優れた空力性能と低燃費を有する。本体素材をグラスファイバーで作られたリュティは、50kgの弾頭を搭載できる。弾頭は75kgまで増やすこともできるが、その場合の航続距離は750800kmに減少する。リュティはハイブリッド誘導システムにより自律性と精度が高められており、初期のリュティがロシアの電子戦に対して脆弱だったが、その後、妨害に対する防御力が向上している。ちなみに、1,000km離れた距離というのは、東京を中心に半径1,000kmの円を書くと、北海道と九州が円周の線にかかるほどの遠さである。

■ 「発災タンク」に関する情報はなく、詳細は不明である。

所 感

■ 貯蔵タンクを運営する事業者や公的機関にとって攻撃型無人航空機(ドローン)の動向は、テロ対応上、知っておく必要がある。最近の12年、テロ対応上から見てみると、無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化している。20246月~7月の事例では、「飛行機型からいわゆるドローン型へ回帰しており、テロ対策上からは厄介なドローンの攻撃性である」と所感に書いた。航続距離は長くはないが、FPVFirst Person Viewドローンは狙いの正確性であり、GPSGlobal Positioning System;全世界測位システム)を使用せず、 FPV型ドローンの操縦者がゴーグルを装着し、ドローンの視点でリアルに景色や障害物を認識しながら操作するものである。


 しかし、今回の事例では、ウクライナ国境から約1,000km離れた場所でタンク火災が発生している。航続距離が1,000kmの長距離攻撃用無人機;リュティ(Liutiy)が使用されたとみられる。戦争は無人航空機を果てしなく進歩させている。このような状況にあり、日本の貯蔵タンクを運営する一(いち)事業者にとっては、テロ対策をとろうにも限界を越えている。公的機関による無人航空機(ドローン)によるテロ対策を考えていく必要がある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    English.nv.ua, Explosions and fires at Russia’s strategic chemical plant and oil depot – videos,  January  14,  2025

    Kyivindependent.com, Drone strike reportedly targets Russian chemical plant in Tatarstan, causing fire,  January  14,  2025

    Mil.in.ua, LNG storage facility catches fire in Kazan after UAV attack,  January  14,  2025

    Global.espreso.tv, Ukraine launches massive strike on Russian military targets, up to 1,100 km deep,  January  14,  2025

    Odessa-journal.com, Ukrainian drones attacked a liquefied gas facility in Kazan and targeted an oil depot in Engels for the second time this week,  January  14,  2025

    Censor.net, Kazan attacked by drones: residents report fire near Kazanorgsintez plant,  January  14,  2025

    Newsukraine.rbc.ua, Explosive night in Russia: Oil depots, refineries, and defense facilities targeted,  January  14,  2025

    France24.com, Ukrainian drone attacks spark fires at Russian gas facility, industrial sites,  January  14,  2025

    Themoscowtimes.com, Ukrainian Army Hits Russian Military, Industrial Sites in Overnight Barrage,  January  14,  2025

    Euronews.com, Russian drone attacks kill two and injure 19 in Ukraine, including infants,  January  14,  2025

    Newsweek.com, Russia Factories, Oil Terminals Hit in Massive Drone-Missile Attack,  January  14,  2025

    Kyivpost.com, Over 200 Long-Range Drones Strike Key Russian Targets: Explosives Plants, Fuel Depots Hit,  January  14,  2025

    Antikor.com.ua, In the Russian city of Kazan, drones carried out an attack on the "Orgsintez" plant: a fire started,  January  14,  2025         

    Kyivpost.com, Hello ‘Liutiy’ UAV – Goodbye Russian Oil Refineries, May 19, 2024         


後 記: ウクライナとロシアによる戦争におけるタンク設備の被災事例の紹介は、 20247月に投稿した「ロシアのロストフ州東部の石油貯蔵施設がドローン攻撃でタンク火災」をもって終わりにすると書きましたが、今回の事例はロシア連邦でも、ウクライナ国境から遠く離れたタタールスタン共和国の事例でしたので、通常のタンク事故ではないかと思い、調べることとしました。しかし、ウクライナとロシアによる戦争のひとつで、長距離攻撃用無人機(ドローン)が使われた(らしい)ことが分かりました。航続距離が1,000kmというドローンの範ちゅうを超えた無人航空機がどのように飛んでいったか、被害はどうだったかという基本的なことがつかめませんでした。以前に述べたように、いわゆる戦争における“報道” になり、軍発表の戦果や被災は小さいという話が入り乱れて事実ははっきりしない事例でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿