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2025年1月30日木曜日

スペインのバルセロナの貯蔵施設で酢酸メチルタンクが爆発・火災、死傷者5名

 今回は、 2025121日(火)、スペインのカタルーニャ州バルセロナにある化学製品の貯蔵会社のテプサ・イベリア・ターミナルにおいて作業員がタンクのメンテナンス作業を行っていたところ、タンクが爆発・火災を起こし、死傷者5名を出した事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、スペインSpainのカタルーニャ州CataloniaバルセロナBarcelonaにある化学製品の貯蔵会社;テプサ社Tepsaのテプサ・イベリア・ターミナルTepsa Iberia terminalである。テプサ社はバルク液体製品、特に化学製品の入荷、保管、再出荷に特化している。 

■ 事故があったのは、バルセロナ港にあるテプサ・イベリア・ターミナルの酢酸メチルMethyl acetateタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025121日(火)午前10時過ぎ、バルセロナ港のテプサ・イベリア・ターミナルのタンクが爆発し、火災が発生した。

■ 発災にともない、バルセロナ消防署は通報を受取り、消防隊が出動した。消防署の14の消防隊(消防士145名)が現場に派遣された。

■ バルセロナ港では、異常事態基準が発動されて対応した。

■ 事故は、工事請負会社の作業員がタンクのメンテナンス作業を行っていたところ、可燃性の高い酢酸メチルの入ったタンクで爆発が起きた。

■ 事故にともない、死傷者が5名出た。死亡したのはひとりで、重傷者1名が病院に搬送された。ほかの3名)は軽傷である。死亡した作業員と重傷を負った作業員は、タンクの溶接作業を行っていた。

■ 最初に消防隊が到着したとき、消防士は現場で火災の炎とともに投げ出されたと見られる作業員を目撃したと語っている。

■ 当局は化学物質流出の恐れがあると警告を発した。市は潜在的な危険に対処するため、化学物質リスク緊急計画を発動した。予防措置として近隣の企業には、従業員に対して事態が完全に収まるまで屋内に留まるよう勧告した。

■ 酢酸メチルは、塗料、ラッカー、クリーニング製品の製造において溶剤として使用される無色の液体である。酢酸メチルは可燃性が高いため、火気や熱源の近くで使用する場合には注意が必要であるが、有毒物質ではない。特徴的な果物の香りを持つ無色の液体で、その有用性にもかかわらず、長時間暴露または高濃度で使用すると、気道、目、皮膚に炎症を引き起こす可能性があり、吸い込むと神経系に影響を及ぼし、不快感やめまいを引き起こすおそれがあるという。

■ユーチューブでは、事故を伝える映像が投稿されている。

 Youtube Un muerto y 4 heridos en una explosión en un tanque inflamable en el Puerto de Barcelona2025/01/22

被 害

■ タンク1基が損壊した。

■ 死傷者が5名出た。内訳は、死者1名、重傷者1名、軽傷者3名である。 

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。要因は、タンクのメンテナンス中、溶接の火花がタンク内に残留していた酢酸メチルの可燃性ガスに引火して爆発し、溶接をしていた作業員が死傷したものとみられる。 

< 対 応 >

■ 爆発後、タンク内で火災が発生したが、現場に到着した消防隊が40分後に消火した。

■ 2025121日(火)、事故後、テプサ・イベリア・ターミナルは、つぎのような第一報を発表した。「今朝午前1010分、バルセロナ港のテプサ・イベリア・ターミナルのタンク内で爆発が発生しました。安全プロトコルが直ちに発動されました。状況は安全です。死亡者が1名、負傷者1名が病院に搬送されたことを報告します。当社は、現在、事故の調査に関係当局と協力しており、その他の施設には影響はありません。事故に関する詳しい情報は近日中に発表される予定です」

■ 死亡した作業員と重傷を負った作業員は、タンクの溶接作業を行っていた。タンクは空だったと思われていたが、初期調査によると、ガス状の残留物が爆発の原因となった可能性があるという。爆発を引き起こした物質は可燃性が高いが、有毒性ではない。化学物質の危険に対する緊急計画が発動されたが、危険な漏れは発生しなかった。

■ 消防隊など対応部隊は、港から提供されたドローンを含むさまざまな資機材を使用して、被災地域について徹底的な調査を実施した。これらの取組みは、リスクを最小限に抑え、地域が安全であることを保証するためである。

■ 発生した火災はすでに消し止められたが、消防隊は現場に11名の隊員を配置しているという。現場周辺には、警戒区域が設定されており、事故原因の調査が進められている。

■ 122日(水)には、ターミナルは通常通り稼働しているという。

■ テプサ社や同港で操業する他の企業の従業員らは、同社のサービスに対するアウトソーシングが労働者の安全を犠牲にしてコスト削減を目的とした動きであると指摘していた。

■ メディアの中には、今回の事故について「産業災害の広範な影響」と称して、つぎのような所見を出した。

「バルセロナ港で起きた爆発事故のような産業事故は、直接的な被害をはるかに超えて大きな影響を与えています。この事故は、産業環境における厳格な安全規制の緊急の必要性を浮き彫りにしただけでなく、社会の回復力と緊急事態への備えに関するより広範な問題を提起しています。

 重要なインフラストラクチャーで惨事が発生すると、産業活動に対する一般市民の認識が一変する可能性があります。地域社会は、危険物質の管理に携わる企業にさらなる透明性と説明責任を求めるようになります。このような主張は、地方自治体が住民の安全を確保し、リスクを最小限に抑える産業慣行を推進しようとする中で、政策に大きな変化をもたらす可能性があります。

 今後、緊急対応活動において自動化とテクノロジーの統合が進む傾向が予想されます。消火活動におけるドローンの使用は、テクノロジーの進歩が将来の事故の安全性と対応時間を改善する可能性があることを示しています。業界が進化するにつれて、これらの災害から得た教訓は、より持続可能で安全な運用慣行への移行を促進し、最終的には長期的な社会的および環境的保護を確実にすることができます。

 結論として、バルセロナ港での悲劇的な爆発事故は、産業環境、特に揮発性物質を扱う産業環境における厳格な安全対策があることを強く示しています」

補 足                                                

■「スペイン」Spainは、正式にはスペイン王国で、北アフリカに領土を持つ南西ヨーロッパの国で、大陸ヨーロッパの最南端に位置し、人口約4,860万人の国である。

「バルセロナ」Barcelonaは、イベリア半島北東岸に位置し、地中海に面し、スペイン・カタルーニャ州バルセロナ県にあり、カタルーニャ州の州都であり、バルセロナ県の県都で、人口約164万人の都市である。国際的な観光都市であると同時に、国際会議が多く開かれる都市であり、政治・文化・学術の面で大きな影響力を持っている。

■「テプサ社」(Tepsa)は化学製品、バイオ燃料、農産物などの貯蔵を専門とする会社で、1964年からバルセロナ港で操業している。多くの場合、化学製品、石油化学製品、燃料またはバイオ燃料製品を扱っている。バルセロナの港に加えて、タラゴナ、バレンシア、ビルバオの港にも、ターミナルを所有しており、 4個所の港ターミナルで、合計 90KLのタンクを保有している。

■「発災タンク」は、内液が酢酸メチルMethyl acetateというだけで、大きさなどの仕様は報じられていない。テプサ・イベリア・ターミナル内での被災状況は炎が見えている写真だけで、設置場所もはっきりしない。

所 感

■ 今回の事故は、酢酸メチルの残液が入ったタンクの上で溶接作業を行っていて爆発を引き起こしたとみられる。この類似事例は少なくない。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)で指摘されている対応策代替方法の採用、危険度の分析、作業環境のモニタリング、作業エリアのテスト、着工許可の発行、徹底した訓練、請負者への監督)が欠けていたものと思われる。

■ 類似事例の「ロシアのタタールスタン共和国で工事中の空のタンクが爆発、死者2名」202311月)では、爆発して作業員2名がタンク屋根から落下する映像が投稿されていた。事業者や請負会社においてタンク工事に関わる人は、この映像を忘れないよう切に祈る。

Взрыв на территории нефтегазодобывающего управления «Елховнефть»2023/06/30

■ 今回の事例では、ドローンが使用されたようだが、消防署が保有するドローンではなく、バルセロナ港から提供されたドローンだった。すでに世の中は、「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」 20213月)状況を人口約164万人のバルセロナは強く認識したのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Tepsa.com, PRESS RELEASE – Tepsa Iberia terminal in the Port of Barcelona, January 21, 2025

     Surinenglish.com, One dead and four injured in Port of Barcelona explosion, January 22, 2025

     Portseurope.com, Explosion at Tepsa facility, Barcelona port, January 22, 2025

     English.news.cn, One dead, several injured in explosion at Port of Barcelona, January 21, 2025

     Worldcargonews.com, Fatal explosion at the Port of Barcelona, January 21, 2025

     Hazardexonthenet.net, Blast at Port of Barcelona kills one person, injures three, January 21, 2025

     Bulk-distributor.com, Barca explosion kills one, January 22, 2025

     Quest-ion.co.il, Tragedy Strikes Barcelona Port: Explosive Incident Claims Life, January 22, 2025

     Lavanguardia.com, Un muerto y un herido muy grave al explotar un tanque con un producto inflamable en el Port de Barcelona, January 21, 2025

     Elpais.com,  Una explosión en el puerto de Barcelona provoca un muerto y un herido de gravedad, January 21, 2025

     Portdebarcelona.ca, Comunicado sobre la deflagración en Tepsa, January 21, 2025

     Es.euronews.com, Un muerto y varios heridos tras una explosión química en el puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Rtve.es, Un muerto, un herido crítico y tres leves en una explosión en el Puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Lasexta.com, Un muerto y un herido en estado crítico tras una explosión en una planta química del Puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Totbarcelona.cat, Un muerto y tres heridos en una explosión en el Puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Elcaso.elnacional.cat, Un muerto y un herido crítico en una explosión en el muelle de inflamables del Port de Barcelona, January 22, 2025

    Diariosocialista.net, Un muerto y un herido crítico en una explosión en el puerto de Barcelona, January 27httpses-us.noticias.yahoo.comhttpses-us.noticias.yahoo.com, 2025


後 記: スペインの事例は「スペインのカタルーニャ州でアンモニア・タンクから漏洩、死傷者15名」20196月)で初めて取り上げましたが、メディアの記事を読んでも「事故情報は漠然とは理解できるが、事故原因を考えるような情報が無いという印象の事例」と所感に書きました。しかし、今回の事例でスペインの国情の一端を垣間見る気がしました。興味の対象が日本(正確にいうなら私)とは随分異なるようです。前回も「発災写真や事後写真が無く、写真は慌ただしく工場前に集まった人や車両のものしかない」という印象は今回もまったく同じです。火災の消えてしまった発災タンクには興味がないのでしょう。一方、記事の中に説明はありませんが、下のような写真(絵)を貼り付けているものもありました。


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