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2024年2月6日火曜日

愛知県の武豊火力発電所でバイオマス燃料が爆発・火災

 今回は、2024131日(水)、愛知県武豊町にある東京電力と中部電力が出資している電力会社JERAが運営している武豊火力発電所において、燃料の木質バイオマスを貯蔵するバンカー設備で爆発があり、火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、愛知県武豊町(たけとよ・ちょう)にある武豊火力発電所である。武豊火力発電所は、東京電力と中部電力が出資している電力会社「JERA」が運営している石炭火力発電所で、2022年からバイオマス燃料として使われる木質ペレットも燃料として取り入れ始めた。

■ 事故があったのは、火力発電所で使う燃料(石炭・木質バイオマス)を貯蔵するバンカー設備である。施設内には6つのバンカーがあり、このうちのひとつを木質ペレット専用に割り当てている。事故があったのは、木質ペレット専用のバンカーで、当時、このバンカーには300トン程度の木質ペレットが保管されていた。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2024131日(水)午後3時頃、武豊火力発電所で爆発が起きた。爆発のあと建物から炎と黒い煙があがった。

■ 住民から「爆発音があり、黒煙が上がっている」と消防に通報があり、消防隊が出動した。消防車など16台が出動した。

■ 近くの住民のひとりは、「午後3時すぎ、家にいるときにドーンという音がして家が揺れて、ベランダから外に出たら火力発電所が黒い煙を上げながら燃えていました。その後、『石油コンビナートで火災が発生しました』という町内放送も聞こえ、消防車がたくさん集まっています」と語った。

■ 発電所の近くの会社に勤める男性は、「爆発音と爆風でガラスが揺れるような振動が来て地震が来たと思いました。外に出たら発電所の建屋の屋根が粉々に吹っ飛んでいて、赤い火が見えたあと黒い煙が出てきました。これまでも事故などで救急車が来ることはありましたが、目に見えて分かるものはなかったので、びっくりしました」と話している。

■ 武豊町は、発電所での爆発と火災を受け、町内に設置されている防災行政無線を通じて住民に対し、「煙が回る可能性があるので、ドアや窓を閉めてください」と注意を呼びかけた。

■ 発電所の5号機が運転していたが、火災を受けて、午後329分に運転を停止した。武豊火力発電所によると、中部電力管内の電力の供給について「現時点では安定供給できると考えている」と述べた。  

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。当時、敷地内にいた職員ら約220人に怪我はなかった。

■ 武豊火力発電所を運営するJERA社は、燃料の貯蔵設備が出火元とみられると発表した。火元は、燃料となる木質ペレットをためておく鋼製の円筒バンカー(直径10m×高さ35m)で、当時、内部には約300トンの木質ペレットが入っていた。バンカーについている温度センサーが通常20℃のところ、55℃まで上がっており、外壁の損傷もバンカー付近が最も大きかったという。

■ 火災によって18階建て建屋(高さ76m)の一部と燃料運搬用のベルトコンベヤーが燃えた。木質ペレットは、荷揚げされた後、ベルトコンベヤーでバンカーがある建屋(高さ約60m×幅約15m×奥行き約80m)に運ばれる。建屋にはバンカーが6個並んでいて、一番手前側のバンカー内の木質ペレットから出火したとみられる。

■ ユーチューブでは、事故を伝えるテレビの映像などが投稿されている。主な動画はつぎのとおり。

  Youtube「高さ76メートルのはるか上まで炎が 火力発電所が爆発した瞬間の映像 近くの住人「ガラス窓がガタガタ揺れた」 」2024/02/01)  

  ●Youtube「武豊火力発電所の火災はなぜ起こった? 専門家に聞く 「燃料自体は危険ではないが保管や運搬などの過程によって発熱の可能性」2024/02/02

  ●Youtube「【火力発電所が爆発】瞬間映像火柱、黒煙、熱風も何が? 運営会社が「おわび」

2024/02/01)  

  ●Youtube「全国で火災や発煙13『バイオマス発電所』でなぜ事故が相次ぐのか 専門家が指摘する可能性」2024/02/01

被 害

■ 火災によってバンカー設備を含む18階建て建屋の一部と燃料運搬用のベルトコンベヤーが損壊した。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ 住民に対して、煙が回る可能性があるので、ドアや窓を閉めるよう、注意喚起が呼びかけられた。

< 事故の原因 >

■ 爆発の詳細要因は調査中である。

 出火元は、燃料の木質ペレットをためておく貯蔵設備である鋼製の円筒バンカー(直径10m×高さ35m)だとみられる。バンカーについている温度センサーが通常20℃のところ、55℃まで上がっていた。


< 対 応 >

■ 発電所内の火災は、約5時間後に制圧され、131日(水)午後8時すぎに鎮火した。

■ 警察と消防は現場検証を行って火災の詳しい原因を調べることにしている。

■ 131日(水)、事故について資源エネルギー庁やJERA社は、これまでのところ原因は不明だとしている。

■ 21日(木)午後240分頃、ベルトコンベア付近において再び出火していることが確認されたため、公設消防に通報され、消火活動が行われた。火災は午後330分過ぎに鎮火に至った。この再出火は1度目の火災で損傷したベルトコンベヤー内の木質燃料に残り火があり、それに引火したとみられる。

■ 22日(金)、JERA社は、武豊火力発電所の火災をふまえ同様の木質バイオマス燃料を使用する碧南火力発電所(愛知県碧南市)と常陸那珂火力発電所(茨城県那珂郡東海村)の設備の安全性を確認する緊急点検を実施した結果、バイオマス燃料の受入・貯蔵・コンベア輸送・ボイラーへの燃料供給に至るまでの一連の系統設備で異常は認められなかったと発表した。点検対象と点検内容はつぎのとおりである。

 ● 着火源となりえる機械装置の異常の有無(電動機、減速機、ローラ等) ⇒目視での点検および異音がないことを確認した。

 ● 集じん装置のフィルター詰まりの有無 ⇒フィルターの詰まりがないことを確認した。
 ●  バイオマス粉塵の清掃状況 バイオマス燃料の一連の系統設備において、設備の周辺に粉塵の著しい堆積がないことを確認した。なお、粉塵の軽微な堆積が認められた箇所は、計画的に清掃を進めていく。

 ● 保管中のバイオマス・ペレット温度 ⇒バイオマス・ペレットの温度について確認した結果、問題はなかった。

■ 温室効果ガス排出量の削減に向け、木質チップやペレット、未利用材などを燃料とし再生可能エネルギーと位置付けられるバイオマス発電所は増加の一途を辿っており、それに伴い火災などの発生も増えている。政府は2030年時点の電源構成でバイオマスを5%程度まで拡大する目標を掲げるが、火災などの事故が頻発すれば電源としての信頼が揺らぎかねない。

■ 木質バイオマス燃料を混焼する武豊火力発電所5号機は20228月に営業運転を開始したが、バイオマス燃料に起因する発煙事象が過去にも起こっており、監視や清掃を強化する取り組みを行ってきたという。同発電所では、20228月、9月、20241月にコンベヤーなどで発火の事故が起きたといい、今回の爆発・火災事故によってリスクが改めて浮き彫りとなった。

■ 有識者は、昨今、バイオマス発電での火災事故が目立ってきていると指摘し、再生可能エネルギー拡大のためには、バイオマス発電の安全対策を洗い出し、今後につなげていく必要があるという。

■ 2024131日(水)には、王子製紙の富岡工場(徳島県阿南市)にある木質バイオマスなどを燃料とする自家発電設備でも火災が発生している。ボイラーに燃料を供給する設備から出火しており、原因は調査中だという。再開の見通しは立っていない。

■ 木質ペレットなどのバイオマス燃料は、素材が木質であることから燃えやすい性質を持っているうえに、ペレット状なのでいったん燃え出すと、燃料全体の温度が上昇して鎮火が容易ではない特徴を持つ。特に輸入したバイオマス燃料については、国内の輸入審査が甘いことから、不純物を含んだ質の悪いバイオマス燃料をつかまされるケースも起きている。

 木質ペレットなどのバイオマス燃料は、経済産業省の固定価格買取制度(FIT)で使用燃料ごとに発電電力の買い上げ価格が設定されており、2022年に発覚したベトナムのバイオマス燃料輸出業者の不正では、FITにより年間100億~160億円前後のバイオマス電力事業者への過払いが発生していた可能性が指摘された。だが、経産省は十分な調査をしないまま済ませてきた。

■ 25日(月)、JERA社は火災原因を究明する事故調査委員会を設置したと発表した。委員会のメンバーは、委員長にJERA社の副社長、JERA社の4名、バイオマスに詳しい名古屋大の成瀬教授の5人で構成するほか、他にも社外からの人選を調整している。また、オブザーバーとして経済産業省中部近畿産業保安監督部が加わる。

補 足

■ 「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されている。

 バイオマス発電に関してこのブログでは、つぎのような事故を紹介した。

 ● 20192月、「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」

(● 20196月、「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」

 ● 20226月、「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」

 ● 20233月、「関西電力㈱舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」

 ● 20239月、「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」

(● 20239月、「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の住民説明会」

 ● 202310月、「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果」

■「㈱JERA」(ジェラ;JERA Co., Inc.)は、2015年に東京電力と中部電力の共同出資で設立された火力発電企業である。武豊火力発電所の最大出力は107kWである。

■「武豊火力発電所」は、1966年に1号機、1972年に2号機から4号機が運転を開始したが、老朽化に伴って1号機から4号機を廃止し、代わりに環境への配慮などから石炭と木質バイオマスを混ぜて燃やす新たな設備を導入し、20228月から5号機として運転を開始した。燃料となる石炭や木質バイオマスは貯蔵施設からベルトコンベヤーでボイラーの周辺へと送られる。

所 感

■ 事故原因は分かっていない。しかし、 20233月の 「関西電力㈱ 舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」と20239月の「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果」をみると、同種の事故であることは明らかである。

 バイオマス発電所の受入搬送設備は燃料(木質ペレット)に関してふたつのリスク、すなわち木質ペレットの自然発火(木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生)のリスクと、木質ペレットによる粉塵爆発のリスクが存在している。従って、燃料受入搬送設備(受入建屋、コンベア、バンカー)はこのふたつのリスク回避の対策が必要になる。

 ● 受入建屋、コンベア、バンカーは、木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生の可能性のある貯槽機能をもった設備で、この対策が必要である。

 ● 受入建屋、コンベア、バンカーには、発酵による可燃性ガスを検出するようなガス検知器や温度監視計器は適切に機能するシステムを設置する。危険性を検知したら、回避の対応ができる方策が必要である。今回、バンカーには温度計が設置されていたが、温度上昇に対応できていない。

 ● 受入建屋、コンベア、バンカーには、粉塵発生のリスクに対して、粉塵爆発を防止する集塵機などの機器を設置する。

■ 20228月の営業運転から1年半で小火災の事故が3件あるという。運転・操業管理面では、つぎのような疑問点がある。

 ● バイオマス燃料の質的転換をやってしまったのではないか。バイオマス発電に使用する輸入木質バイオマス燃料が、一昨年来、不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになっている。コスト低減を目的に正規のバイオマス燃料から転換したため、自然発火の要因が生まれたのではないだろうか。

 ● 運転管理の面でいえば、バイオマス燃料の自然発火を検知する監視システム(温度検知や一酸化炭素検知など)を装備していると思うが、この監視システムが正しく管理されていたか。1年の実績だけで監視システムをやめたりして、自然発火の要因を見逃したのではないだろうか。

 ● 木質ペレットが粉塵の出やすい種類に変更されていなかったか。

 ● 1年余の運転実績では、受入搬送設備(受入建屋、コンベア、バンカー)に粉塵が多量に発生するような変化はなかったか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

 ・Nhk.or.jp,  愛知 武豊町 火力発電所火災 燃料を貯蔵する設備付近が火元か,  February  01,  2024

    Jera.co.jp,  武豊火力発電所における火災発生について(第1報~第5報),  January 31February  01,  2024

    Jera.co.jp,  木質バイオマス燃料を使用する当社火力発電所における緊急点検の実施結果について, February  02,  2024

    Yomiuri.co.jp,  愛知・武豊火力発電所の火災、出火元は燃料貯蔵設備か「木質ペレット」300トン保管, February  01,  2024

    Bloomberg.co.jp,  バイオマス発電所で相次ぐ火災、JERA武豊火力は過去3度発煙, February  01,  2024

    Jiji.com,  JERA武豊火力発電所で火災 ボイラー施設爆発、けが人なし愛知, January 31,  2024

    Nagoyatv.com,  火事の影響で5号機は発電を停止 復旧のめどは立たず 武豊火力発電所, February  01,  2024

    Asahi.com,  爆発音と震動に「地震が来たかと思った」 JERA火力発電所で火災, January 31,  2024

    Xtech.nikkei.com,  木質ペレット燃料が原因でまた火災事故、JERAは火力発電所を緊急点検, February  01,  2024

    News.yahoo.co.jp, 愛知の発電所火災、燃料入るバンカー火元か 通常20→55度に, February  01,  2024

    Rief-jp.org,  JERAの愛知・武豊火力発電所で爆発・火災事故。超々臨界圧火力発電(USC)にバイオマス混焼方式。バイオマスが火災要因の可能性。JERA1年半前に茨城県でもバイオマス火災発生, January 31,  2024

     ・Chunichi.co.jp, 武豊火力発電所の火災、中部電力など出資のJERAが事故調査委を設置, February  05,  2024

 

後 記: 事故をテレビで見て、20233月の 「関西電力㈱ 舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」や20239月の「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果」と同種の事例だと思いました。事故情報を調べていくと、爆発規模が予想より大きいことがわかりました。事故は中部地区で起こったので、各メディアがヘリコプターを出動して報じていますし、バイオマス燃料の発電所で事故が多いという指摘も結構ありました。しかし、目で訴える報道としては、富貴ヨットハーバー管理協議会の監視カメラによる爆発の瞬間の映像が出色でした。これで、主要な電力会社の関西電力、東京電力、中部電力が同じ事故を起こしてしまいました。コスト低減を主にしてしまい(と思っています)、バイオマス燃料に関する基礎技術を疎かにしてしまったという印象が強いですね。

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