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2022年3月18日金曜日

ハワイの米海軍・地下燃料貯蔵タンク施設を永久閉鎖の決定

今回は、202237日(月)、ハワイ真珠湾にあるレッドヒル燃料タンク貯蔵施設について、米国防総省が施設の永久的な閉鎖を命じたことを紹介します。閉鎖のきっかけになった施設からの石油漏洩と飲料水汚染の問題については、つぎのブログを参照。

< 施設の概要 >

■ 施設は、米国ハワイ州(Hawaii)オアフ島(Oahu)にある米海軍のレッドヒル燃料タンク貯蔵施設(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)である。施設の建設は1940年にさかのぼり、地下燃料貯蔵タンクが20基あり、最大貯蔵容量は252百万ガロン(953,820KL)である。

■ 地下燃料貯蔵タンクは1基の容量が12.5百万ガロン(47,300KL)で、パイプラインによって約2.5マイル(4 km)離れた真珠湾の米海軍基地に接続されている。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設を紹介した最新版がユーチューブに投稿されている。(YouTube Red Hill Video: U.S. Navy and the University of Hawaii - Building Partnerships, Developing Results 2021/11/18を参照)

■ レッドヒル燃料タンク貯蔵施設にもっとも近い飲料水用の立て坑は約3,000フィート(910m)離れたところにあり、真珠湾ヒッカム合同基地の軍の家族らに水を供給する水源である。つぎに近い飲料水用の立て坑は約1マイル(1,600m)離れたハラワ(Halawa)にあり、ハワイ州水道局がホノルル市に飲料水を供給している。2つの立て坑はいずれも米海軍が運営している。

< 状況および影響 >

■ ハワイ真珠湾にあるレッドヒル燃料タンク貯蔵施設からジェット燃料が漏れて飲料水を汚染したことを受け、米国防総省は、 202237日(月)、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の永久的な閉鎖を命じた。

■ 米国の国防長官が出した覚書には、安全な飲料水の回復や環境修復など汚染対策の取組みに加えて、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の長期的な観点について徹底的な検討を行ったと記されている。国防長官は、海軍長官に対して「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の燃料撤去と永久閉鎖に必要なすべての措置を講じる」よう指示している。すべての燃料を撤去し、施設を閉鎖するには、12か月以内に完了させる必要があり、国防長官は2022531日までに、マイルストーンを含む行動計画を要求している。燃料はインド太平洋地域に再配分される予定である。

■ 一方、昨年2021128日に海軍長官によって、石油が飲料水系にどのように浸入したかについて調査を行うとしたことについては言及されなかった。

■  37日(月)、ハワイ州保健局は、「私たちは、国防長官がハワイの人々や環境のために正しいことをすると決断したに満足しています。この決定は、今回の人道的災害を受けた海軍給水システムの利用者にとって遅きに失したものですが、それでも、この問題のある施設がもたらす脅威がようやく対処されることになり、一安心です。私たちは、国防総省の計画書と海軍による実行策を待ち望んでいます」という声明を発表した。

■ 燃料施設はレッドヒルの帯水層の100フィート(30m)上にあり、真珠湾ヒッカム合同基地やハワイの一部地域に飲料水を供給している。ハワイ州水道局によると、オアフ島の100万人近くがこの帯水層の水を利用しているという。202111月、米軍基地の家族の人たちが吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、皮膚関連の問題に苦しんでいるとの報告を受け、海軍は20211128日(日)、この飲料水の井戸を一時的に閉鎖していた。 4,000世帯を超える家族が住宅からワイキキ・ビーチ・ホテルへ移転しており、避難は3か月を越えている。

■ 202112月、ハワイ州保健局は、海軍が安全に運用できることを実証できるまで、米国海軍に燃料貯蔵施設の操業停止を命じた。海軍は当初、保健局の命令に異議を唱えるが、作戦を一時停止すると述べ、20221月、保健局の命令に従うことに同意していた。

■ ハワイ州知事と州保健局は、 37日(月)の記者会見でレッドヒル燃料タンク貯蔵施設を閉鎖するという国防総省の決定を称賛したが、同時に米軍にその誓約を守らせるつもりだと述べた。

 州知事は「人々の健康を確保せずに国家の安全保障などありえない」といい、「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設は前の太平洋戦争中に建設されたもので、現在ではもっと良い選択肢がある」と語った。州知事は、オアフ島にはレッドヒル燃料タンク貯蔵施設に入っている燃料を保管できるほど大きな貯蔵施設がないと指摘した。つまり、少なくとも一部は燃料タンカーに積み込まれなければならないことを意味している。

 ハワイ州保健局長は、さらなる燃料漏れの可能性があるため、レッドヒルの貯蔵施設の燃料タンクを空にすることが「リスクが無くなったわけではない」と付け加えた。州保健局長は「燃料撤去は極めて安全に行う必要がある」といい、「私たちは、ハワイ州できれいな飲料水を確保するために、さらに多くの作業が必要である」と述べた。



補 足

■ 「ハワイ州」(Hawaii)は、中部太平洋に浮かぶハワイ諸島にあり、人口約1,360万人の米国の州である。

「オアフ島」(Oahu)は、ハワイ諸島のひとつで、ホノルル郡に属する人口約90万人の島である。オアフ島のホノルル市(人口約35万人)が州都である。

■ 「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設」(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)は、米国が第二次世界大戦に入る前に、真珠湾にある地上式の燃料貯蔵タンクの脆弱性について懸念を抱き、1940年に大量の燃料を貯蔵でき、敵の空中攻撃から安全な新しい地下施設を建設することとされた。レッドヒルは均質な玄武岩で地下タンクに適している。当初は4基の大きな横型の地下タンクを建設する予定だったが、計画の過程で、建設と掘削が同時に行える竪型に変更された。 3,900人の労働者が24時間無休のプロジェクトで、レッドヒルの建設中の194112月に日本による真珠湾攻撃が行われたが、1943年に操業が開始された。 20基の地下貯蔵タンクで構成されており、うち23基は、通常、清掃・検査・修理のために空になっていて、現在、180百万ガロン(68KL)の燃料を貯蔵している。貯蔵されている燃料は船舶用ディーゼル、JP-5JP-82種類のジェット燃料の3種類である。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設を紹介する動画がYouTubeに投稿されている。(YouTube, RH Trailer(2016/10/07)を参照。さらに、202111月に新たな動画Red Hill Video: U.S. Navy and the University of Hawaii - Building Partnerships, Developing Resultsが作成されている)


■「地下燃料貯蔵タンク」は、厚さ1/4インチ(6.3mm)の鋼板の溶接構造の単層タンクシステムで、外側には24フィート(60120cm)のコンクリートで裏打ちされている。すなわち、コンクリート製タンクで鋼板ライニングを施工しているとも言え、 海軍はタンク内に新しいライニングを追加することを計画していた。 

 202110月、海軍はタンク内に新しいライニングを追加するか、2045年までに撤去することを提案した。この撤去の提案は以前の合意から7年遅いものだった。これに対して、ハワイ州の健康省と環境保護庁は計画案を拒否した。ハワイ州はタンクの完全な撤去と移設を求めていた。

所 感 

■  202112月に海軍長官は、石油が海軍の飲料水系にどのように浸入したかについての調査が終了するまで貯蔵タンクの運用を停止するよう命じた。この調査結果が公表されることなく、 202237日(月)、米国防総省がレッドヒル燃料タンク貯蔵施設の永久閉鎖を命じた。おそらく、貯蔵タンクの運用を続けていく限り、タンクを改造(新しいライニング)しても、過去に漏れて土壌に浸透した油によって飲料水への環境汚染は避けられないという話になったものと思う。

■ ハワイ州は何年も前から、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設が飲料水への汚染問題を起こしていると指摘していた。太平洋戦争時にこのような竪型地下タンクを20基も建設する技術と動員力に驚くが、80年前の溶接施工技術やコンクリート技術に頼っていれば、いつか破綻する時期がくるだろうと誰でも思う。閉鎖の決定的な要因は、米軍の家族が住む地域へ供給する飲料水で身体の不調を訴える人が多発して、家族がホテルへ避難するといった事態になったことであろう。

■ 永久閉鎖して油を撤去しても、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設では過去に漏れた油が土壌に浸透し、徐々に井戸などで顕在化してくる可能性は否定できない。飲料水の清浄化対策が必要となるだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Pentagon to permanently close Hawaii storage facility,  March 8, 2022

    Health.hawaii.gov, STATEMENT ON DEPARTMENT OF DEFENSE DECISION TO DEFUEL AND PERMANENTLY CLOSE RED HILL FUEL STORAGE FACILITY,  March 7, 2022

    Edition.cnn.com, US military to close fuel storage facility in Hawaii where water was contaminated by leak,  March 7, 2022

    Taskandpurpose.com, Pentagon to shut down fuel facility in Hawaii behind leak that sickened troops and families,  March 7, 2022

    Civilbeat.org, Pentagon To Close Red Hill Fuel Facility Permanently Amid Contamination Crisis,  March 7, 2022

    Hawaiinewsnow.com, Pentagon announces plan to empty Red Hill fuel tanks, close facility,  March 8, 2022

    Stripes.com, Austin calls for permanent closure of fuel tanks in Hawaii at center of tap-water contamination,  March 7, 2022


後 記: 民主主義というのは時間がかかるものだと感じます。水源汚染を指摘するハワイ州と地下貯蔵タンクを継続使用したい米海軍の両者は長年結論の出ない議論してきました。風向きが変わったのは、202112月に海軍長官が真珠湾記念行事のためにハワイを訪れてからです。ハワイ州は頑張ってきたかいがあるでしょう。

 2016年に製作されたレッドヒル施設のPR動画 RH Trailer(レッドヒルの宣伝用映画)がありながら、202111月に新たなPR動画 Red Hill Video: U.S. Navy and the University of Hawaii - Building Partnerships, Developing Results(米海軍とハワイ大学-パートナーシップの構築、成果の開発)を米海軍は製作しています。しかし、PR動画を作成したグループに今度はレッドヒルの永久閉鎖の計画を作成するように指示されたと言われています。



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