今回は、2014年1月24日、イングランドのエセックス州コリートン旧シェル・ヘイブンの空の貯蔵タンクで保全工事中に起こった火災事故を紹介します。
旧シェル・ヘイブンのタンク火災に出動した消防車両 (写真はThurrockGazette.co.ukから引用)
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<事故の状況>
■ 2014年1月24日(金)午後12時50分頃、イングランドのエセックス州にある貯蔵タンクから火災が起こった。事故があったのは、エセックス州コリートン旧シェル・ヘイブンの閉鎖された製油所跡にある空の貯蔵タンクで、保全工事中に小火が起こったものである。
旧シェル・ヘイブンの製油所跡付近 (矢印部が貯蔵タンク群)
(写真はグーグルマップから引用)
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■ エセックス消防署は、午後1時前に、空の貯蔵タンクから火災発生という通報を受け、出動した。
コリンガム消防支署のジェフ・ウィール支署長は「貯蔵タンクは空で、作業員が保全工事中でした。作業員は鋼製の底板を切断し、溶接作業を行っていたところ、タンク基礎のアスファルト舗装がくすぶり始め、炎が燃え上がったということです。消防隊員は空気呼吸器を装着し、消火剤を噴射して火災を消しました」と語った。
■ コリンガム、オーセット、グレイの各支署から出動したエセックス消防署の隊員は現地のシェル社の消防隊とともに活動し、13時54分、素早い消火に成功した。消火後に残ったホットスポット部は熱画像カメラを用いてチェックを行なった。
補 足
■ 「イングランド」は、通常、英国あるいはイギリスと言っているが、正式には「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」である。人口は約6,200万人で、首都はロンドンである。
「エセックス州」は、イングランドの東部に位置する州(カウンティ)で、人口約167万人、州都はチェルムズフォードである。
エセックス州では、2013年4月29日、サロックにあるヴォパック社ロンドン・ターミナルで「ディーゼル燃料油タンクの火災事故」が起こっている。
■ 「エセックス消防署」は、正式には「エセックス州消防および救助サービス」(Essex
County Fire and Rescue Service;ECFRS) で、エセックス地域を管轄する州の消防機関である。管轄地域は
367,000 haで、年間に約25,000件の緊急事故に対応している。職員は1,640名のスタッフ、フルタイム消防士874名と待機消防士479名を擁している。同消防署のホームページには、緊急事故で対応した際の出動車両などの情報を公開している。
■ 「旧シェル・ヘイブン」はエセックス州コリートンのシェル社の製油所があった場所である。製油所は1999年に閉鎖し、2007年に海運会社のDPワールド社に売却された。現在はDPワールド・ロンドン・ゲートウェイ・ポートなどとして使用されている。石油精製プラントは撤去されたが、貯蔵タンクの一部が石油ターミナルとして使用されていると思われる。 グーグルマップから推算すると、直径30m級(容量10,000KL級)の浮き屋根タンクが18基、直径44m級(容量30,000KL級)の浮き屋根タンクが4基ある。
なお、隣接していたコリートン製油所も2013年に閉鎖されている。
操業時のシェル・ヘイブンの製油所 (写真はFlickr.comから引用)
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旧シェル・ヘイブンにある現在の石油タンク・ターミナル
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
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旧シェル・ヘイブンにある現在の石油タンク・ターミナル (上が東方向)
(写真はグーグルマップから引用)
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所 感
■ 火災は、タンク底板の腐食防止のため基礎部に使用していたアスファルト舗装(アスファルトサンド)が燃えたものと思われ、極めて珍しい事故である。建設当初のアスファルト舗装の油分によって火がつくことは考え難いので、底板取替えに伴い、基礎部のアスファルト舗装をやりかえたのでないかと思われる。その際、アスファルト分(油分)が多かったことも考えられる。
■ 石油精製プラントは無くなっても、貯蔵タンクは継続して使用されることが多い。大量の油を保管し、多くの危険要因が潜在している貯蔵タンクを軽視することなく、油断することなく管理していくことの大切さを示す事例である。
備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Essex-fire.gov.uk, Small
Fire in Empty Storage Tank, January 24,
2014
・ClactonAndFrintonGasette.co.uk, Fire in Storage Tank at Former
Shell Haven, January 24, 2014
・ThurrockGasette.co.uk,
Fire in Storage Tank at Former Shell Haven,
January 24, 2014
・TheEnquirer.co.uk,
Fire at Empty Storage Tank in Coryton, January 25, 2014
後 記: 空のタンクで火災という情報から、このブログで紹介した「豪州エクソン・モービルの旧製油所でタンク火災」と同様、閉鎖された製油所のタンク撤去工事中に中に残存していた油分による火災かと思いました。しかし、石油精製プラントはすでに撤去されており、一部のタンクが継続して使用されていたものの1基の保全工事中による小火でした。今回、旧シェル・ヘイブンの状況がよくわからなかったのですが、操業時の製油所の写真が見つかり、参考になりました。巨大な製油所のプラントがまったく無くなっており、「夏草や 兵(つわもの)どもの 夢の跡」という芭蕉の句を思い出しました。しかし、これはイングランドだけの話でなく、ここ周南市にある出光興産徳山製油所の石油精製プラントがこの3月で操業をやめます。精製プラントや中間タンクはいずれ無くなり、石油ターミナルとして製品タンクのみになるでしょう。時代の移り変わりを感じますね。
出光興産徳山製油所 (写真はSankeibiz.jpから引用)
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