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2020年5月17日日曜日

この10年間の「世界の貯蔵タンク事故情報」について(その1)

「世界の貯蔵タンク事故情報」と称して事故情報を紹介し始めたのが、2011年5月からです。その後、タンク施設以外で世間の耳目を集めるような事故があり、タンク以外の事故情報も投稿してきました。今回は、2020年4月で十年になるのを機にこれまでの事故情報のデータベースをもとに考察してみます。これから何回かに分けて行っていく予定です。
< はじめに >
■ 「世界の貯蔵タンク事故情報」と称して当ブログで事故情報を紹介し始めたのが、2011年5月からである。当初は名の通り貯蔵タンクと関連施設の事故を対象としていたが、タンク施設以外で世間の耳目を集めるような事故があり、タンク以外の事故情報も投稿してきた。2020年4月で十年になるのを機に、これらの事故情報のデータベースをもとに考察してみる。考察はこれから何回かに分けて行っていく予定である。

< 掲載した事故件数の割合 >  
■ 2011年5月から始めたので、基本的にそれ以降の事故情報である。しかし、それ以前の事故でも注目された事故がある。たとえば、2005年の英国のバンスフィールド事故、2009年のプエルトリコのカリビアン石油火災やインドのインディアン石油火災などである。これらの事故は論文で引用されるケースも多く、事故状況をブログで紹介した。

■ この十年間に掲載した事故情報は計337件である。これらを1953~1999年、2000~2009年、2010~2020年の3つに区分してみると、図のとおりである。
掲載した事故件数の割合
■ 2009年以前の事故件数は40件であり、これをどうみるかであるが、筆者自身としては意外と多いと感じる。もっとも古い年の事故は、つぎの事例である。
 このほかにフランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめたARIA(事故の分析・研究・情報)を紹介してきたので、多くなっている。 最初に紹介したのは、つぎの事例である。
 このARIAの事例はよく記録にまとめられており、貴重な報告書である。しかし、残念ながら、ARIA(事故の分析・研究・情報)は現在は更新されていない。

< 年度ごとの事故件数の割合 >  
■ 2011年以降の年度毎の事故件数は292件である。これを年度ごとに分けると、図のとおりである。年間の平均事故件数は約32件となる。(2011年は5月から始めており、2020年は4月までの件数であるので、8年間をとった) 1か月あたりでは、約2.7件である。
年度ごとの事故件数
■ もっとも多い年は2013年の46件で、もっとも少ない年は2015年の24件である。この2年の差異は1.9倍で非常に差がある。一方、この2年を除けば、2012年~2019年は28件~36件と比較的差がない。

■ 実際、2013年には、石油貯蔵タンク以外で多くの死傷者を出すような重大な事故があった。また、この年に東京電力福島原子力発電所の汚染水貯槽(タンク)で一連の漏れ事例があった。主な事故を列記すると、つぎのとおりである。

< 月の上・中・下旬における事故件数 >  
■ 事故が起こったのが、月の上旬、中旬、下旬の3区分で分けると、図のとおりである。
(上旬;1~10日、中旬;11~20日、下旬;21~31日)

月の上・中・下旬における事故件数
■ もっとも多いのが中旬で約43%、次が下旬の約30%、もっとも少ないのが上旬で約27%となった。事故発生の背景にはいろいろあろうが、中旬は上旬の約1.6倍多い結果だった。日にち毎に分けることはできるが、結果が出ても因果関係が出てくることは考えにくいので、月を3つに分けてみた。しかし、中旬が上旬に比べて事故の発生が多かったが、月の中旬に注意が必要だと断言はできないように思う。

< 曜日ごとの事故件数 >  
■ 曜日ごとに分けた事故件数は図のとおりである。
 傾向としては、月曜から徐々に増え、金曜がもっとも多く、土日に下がり、もっとも少ないのが日曜である。金曜の件数は69件で、日曜の件数が30件であり、金曜は日曜の2.3倍である。
曜日ごとの事故件数
■ 月の上・中・下旬における事故件数では、はっきり出ていなかったが、曜日ごとの事故件数では1週間における人の社会・経済活動との関係があるとようにみえる。中には、台風や地震といった自然災害がからんだ事例もある。

■ 事故防止は常に考えておかなければならないが、曜日ごとの事故件数の割合から、金曜日は気の緩みがないように心掛けることが肝要だといえよう。金曜日に起こった主な事例は、つぎのとおりである。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Tank-accident.blogspot.com, May 2011 – April 2020

後 記: 最近のテレビ、新聞、インターネットでは、新型コロナウイリス関連のことばかりです。2020224日の専門家会議を受け、日本政府が229日に「これから12週間が瀬戸際」と言っていたのは何だったのでしょう。瀬戸際、すなわち“狭い海峡と外海の境” ではなく、すでに陸地の見えないウイリスの海に出ていたのですね。日本はSARS(重症急性呼吸器症候群)やMARS中東呼吸器症候群)にさらされなかったので、ほかの国よりも感染症に対して鈍感だったといわれています。しかし、畑村洋太郎氏が2006年に出した「失敗学事件簿 あの失敗から何を学ぶか」で「第5章 災害・病気から学ぶ失敗学」の中に「SARS騒動の背景にあるもの」として、人間の「移動欲」につきまとうリスクについて警鐘を鳴らしています。
 現在、メディアによる取材が縮小している中で、貯蔵タンク(だけではないが)の事故情報が聞こえてこないので、このブログを始めて10年間のデータを振り返るには良い時かと思ってまとめています。

2020年5月11日月曜日

米国の戦略石油備蓄についての動き

 今回は、2020年3~4月にかけて新型コロナウイリス感染拡大による石油の需要が落ち、世界的に原油の価格が下がっている中で、米国における戦略石油備蓄の動きについて紹介します。
< はじめに >
■ 新型コロナウイリス(COVID-19)の感染拡大で石油の需要が落ち、世界的に原油の価格が下がっている。原油価格は、2020年3月初めには1バレル50ドル前後で取引されていたが、その後、20ドル前後に急落した。通常、原油は世界で1日に1億バレルほど消費されてきたが、国際エネルギー機関(IEA)によれば、4月は前年比で約30%にあたる1日2,900万バレル程度消費量が減っている。このような状況下で、米国の戦略石油備蓄について動きがあった。

< 米国の戦略石油備蓄 >  
■ 米国の戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve ;SPR)は、米国エネルギー省の管理のもとに備蓄されている緊急時ための石油である。 1973年のOPECの石油禁輸措置で石油供給が中断されたのを機にとられた政策で、米国は1975年から石油備蓄を始めた。
     米国における戦略石油備蓄の基地 (図はSteelguru.comから引用)
■ 戦略石油備蓄はルイジアナ州とテキサス州にあり、総貯蔵容量は77,700万バレル(12,300KL)である。戦略石油備蓄の事務、ルイジアナ州ニューオーリンズ郊外のエルムウッドにある。
 現在、備蓄基地は石油精製・石油化学の主要な都市部の近くでメキシコ湾岸の4箇所にある。
 ● バイユー・チョクトー基地(ルイジアナ州バトンルージュ): 1987年に稼働し、6基の地下岩塩ドームタンクがあり、総容量は7,600万バレル(1,210万KL)である。
 ● ビッグヒル基地(テキサス州ウィニー): 1991年に稼働し、14基の地下岩塩ドームタンクがあり、総容量は1 億7,000万バレル(2,700万KL) である。
 ● ブライアンマウンド基地(テキサス州フリーポート): 1986年に稼働し、19基の貯蔵タンクがあり、総容量は2億4,710万バレル(3,930万KL) である。
 ● ウェストハックベリー基地(ルイジアナ州レイクチャールズ): 1988年に稼働し、21基の貯蔵タンクがあり、総容量は2億2,700万バレル(3,610KL)である。
            米国の戦略石油備蓄の4基地 (写真Energy.govから引用)
< 戦略石油備蓄の動き >
■ 原油価格の下落傾向にあった3月13日(金)、米国大統領は戦略石油備蓄を積み増し、大量の原油を良い価格(安価)で購入する方針を示した。米国大統領がエネルギー省長官に約7,700万バレル(1,224万KL)の空き容量がある戦略石油備蓄を満杯にするように指示したことを受け、エネルギー省は、3月19日(木)、戦略石油備蓄向けに7,700万バレルの米国産原油を購入する予定とした。

■ しかし、直近に出された新型コロナウイルスに対処する大型景気対策法案に財源措置が盛り込まれなかったため、米国議会は調達に必要な予算計上が無いと指摘し、当初分の約3,000万バレル(477万KL)を購入する計画は失敗に終わった。 エネルギー省は、3月25日(水)、戦略石油備蓄を最大限に増やすことを目的とした原油購入を取り下げた。エネルギー省は、資金繰りのめどが付いた場合には購入を再度提示する考えを明らかにした。

■ 米国の超党派議員4名は、4月初め、原油価格の急落で打撃を受けている石油企業を支援するため、30億ドルを投じて原油を購入し、戦略石油備蓄を積み増す法案を提出した。法案の成立には上下両院の可決と米国大統領の署名が必要になる。アナリストは、新型コロナウイリスの感染拡大で石油需要が急減しており、たとえ購入が認められても、国際原油価格を押し上げる効果や原油生産者を支援する効果は乏しいと分析した。

■ エネルギー省は、4月2日(木)、石油企業に対して戦略石油備蓄で空いている3,000万バレル(477万KL)の保管スペースを提供できると発表した。米国政府が原油価格の急落への対処を支援しようというものである。

■ エネルギー省は、4月初め、石油を貯蔵する企業は2021年3月まで戦略石油備蓄に保管することができ、わずかな費用で貯蔵経費をカバーすることができると述べていた。石油の引渡しの大半は5~6月に行われる予定だという。

■ 米国大統領は、4月20日(月)、戦略石油備蓄を積み増す方針を改めて示した。エネルギー省は、新型コロナウイルス感染拡大による原油需要の落ち込みで在庫が増え、貯蔵施設が能力の限界にある国内石油会社に対し、戦略石油備蓄の貯蔵施設の余力分約7,700万バレル(1,224万KL)の一部を貸すための手続きを進めている。

■ 米国ニューヨークの原油先物市場で、4月20日(月)、米国で生産されている原油であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)を貯蔵するスペースが少なくなっていることを背景に、WTIの原油価格がマイナスになった。原油先物市場で価格暴落の引き金となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大でエネルギー需要が減少する中での原油在庫の急増である。5月渡しの取引最終日を翌日に控え、現物の保管スペースに困った投資家が一斉に売却に走った。市場では、積み上がった在庫処分のため、原油価格低迷は長期化するとの懸念が広がっている。原油の余剰分については、各国で石油タンカー、パイプライン、貯蔵タンクなどに貯めてしのいでいるが、この状態が続けば、貯蔵スペースがなくなるのも時間の問題である。
                原油価格の推移 (図はEnecho.meti.go.jpから引用)
■ エネルギー省の提示を受け、シェブロン社( Chevron)、エクソンモービル社(Exxon Mobil)、アロンUSA社(Alon USA)など石油企業の9社は、米国の戦略石油備蓄に2,300万バレル(365KL)の原油を保管するスペースを借りることに同意した。 4月下旬、9社の石油企業は2,300バレル(365KL)分の保管スペースのみ契約交渉中だという。

■ エネルギー省は、民間に対し約7,700万バレル(1,224万KL)相当の保管場所の一部貸し出しを検討しているが、米国の原油在庫の増加ペースは、週1,000万~2,000万バレル(159万~318万KL)である。政府が所有する保管場所にも限りがあり、米戦略国際問題研究所は、「控えめに見積もっても、2020年7月中旬には、米国全体での貯蔵スペースがなくなる」と指摘する。

■ 戦略石油備蓄の貯蔵タンクを借りているほかの企業は、アトランティック・トレーディング社(Atlantic Trading)、エナージー・トランスファー社(Energy Transfer)、エキュノアー・マーケティング&トレーディング社(Equinor Marketing&Trading(US))、マーキュリア・エナージー・アメリカ社(Mercuria Energy America)、MVP ホールディング社(MVP Holdings)、バイトル社(Vitol)である。

■ 4月29日(水)、米国財務長官は、国家戦略備蓄に数億バレルの積み増しが含まれる可能性があると述べた。ただ、財務長官は追加備蓄のための貯蔵能力をどのように確保するかについて詳しく説明しなかった。財務長官は、ホワイトハウスで「数億バレルの追加備蓄能力を確保する可能性を模索しており、多数の異なる選択肢を検討している」と述べ、財務省とエネルギー省の当局者によるチームがその作業に当たっているとした。

■ 戦略石油備蓄のウェブサイトによると、110万バレル(175,000KL)のサワー原油が4月に施設に移されており、現在、貯蔵量は6億3,610万バレル(1億113万KL)を保管しているという。貯蔵容量は約7億1,400万バレル(1億1,300万KL)あり、約90%が満タンになっている。(空きスペース;7,790万バレル=1,238万KL)

ヴォパック社のタンク・ターミナルの例 
(図はTanknewsinternational.comから引用)
■ 一方、タンク・ターミナル業界の中で世界最大の企業であるヴォパック社(Vopak)でも、貯蔵タンクがほぼ一杯だという。このオランダの会社は、原油需要が落ちて原油価格が下落し、生産者やトレーダーが必死に貯蔵タンクを見つけようとしている中で、利益を上げている。ヴォパック社は、これまでのところ、新型コロナウイルスによる操業への影響は限定的で、66箇所のタンク・ターミナルはすべて稼働しているという。だたし、将来的には変化があるかもしれないといい、新型コロナウイリスのパンデミック(世界的な流行)によって、いろいろな計画が遅れたり、長期的には景気後退のリスクになるかもしれないと語っている。

補 足
■ 日本の石油備蓄(事業)は、米国の戦略石油備蓄と異なり、かなり複雑である。備蓄体制は図に示すように、国の直轄事業の国家備蓄、民間石油会社の法律による民間備蓄、産油国と連携した産油国共同備蓄の3つに分けられる。
(図はJogmec.go.jpから引用)
 国家備蓄は、全国10箇所の国家石油備蓄基地と民間から借上げたタンクに約4,954KLの原油・石油製品が貯蔵されている。民間備蓄は、備蓄義務のある民間石油会社により、約2,983KLの原油・石油製品が備蓄されている。産油国共同備蓄は、日本国内の民間原油タンクを産油国の国営石油会社に政府支援の下で貸与し、日本への原油供給不足が懸念される場合は優先的に日本に供給する事業であり、約167KLが貯蔵されている。国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄の総計は約8,104KLであり、備蓄日数に換算すると約208日分(20173月時点)である。
 日本の場合、さらに液化石油ガスについて国家石油ガス備蓄基地があり、民間の液化石油ガス輸入基地の隣接地に建設決定され、現在、全国で5箇所ある。
(図はJogmec.go.jpから引用)
所 感
■ 日本の石油備蓄の総量は約8,104万KLである。それに対して米国の戦略石油備蓄の総量は日本の1.5倍にあたる約1億2,300万KLである。ここで経済規模や人口などを考慮すると、日本の備蓄量は相対的に多い(努力している)ようにみえる。しかし、日本の石油備蓄は民間の貯蔵タンクを個々に借り上げたものを含んでいるので、同列で比較できないだろう。

■ 一方、今回の戦略石油備蓄の最初の動きを見ると、“戦略”的な判断というより、単に経済的な利益から出た発想のようだ。戦略石油備蓄は、もともと、石油が入らなくなったときのことを考えた政策である。近年、米国では、原油生産の増産を続けてきており、新型コロナウイリスによる需要の急激な落ち込みで生産した原油の行き場所が無くなるとは思ってもいなかっただろう。戦略石油備蓄の余裕スペースを生産原油の貯蔵にあてても一時的な措置にすぎず、急激な石油需要の上昇がないかぎり、生産井を絞るか停止するしかないだろう。戦略石油備蓄の余裕スペースに安価な原油を入れるメリットにはなるが、岩塩ドームのタンクは文字どおり塩漬けの貯蔵用で、油の出し入れに対して弱点があり、これが“戦略”石油備蓄の政策なのか疑問である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Tankstoragemag.com, US Department of Energy confirms it will assist oil producers with emergency storage,   April  07,  2020
   ・Enecho.meti.go.jp,  新型コロナウイルスの影響はエネルギーにも? 国際原油市場の安定化に向けた取り組み,  April  28,  2020
   ・Tankstoragemag.com,  Vopak tanks almost full & all terminals operational,  April  20,  2020
   ・Tankstoragemag.com,  Nine companies rent US emergency oil reserve space for 23 mln barrels,  April  30,  2020
   ・Jp.reuters.com,   米、石油備蓄を数億バレル積み増す可能性=財務長官,  April  30,  2020
   ・Newsweekjapan.jp,  トランプ米大統領、戦略石油備蓄積み増す意向再表明,  April  21,  2020


後 記: 最近、貯蔵タンクの事故情報は極めて少なくなっています。事故が本当に少なくなっているのであれば、結構なことです。しかし、新型コロナウイリスの影響で都市封鎖になり、外出ができなくなっているため、メディアの取材活動が停滞しているので、事故が無いのではなく、情報が入らなくなっているのではないかと感じています。
 ということで、事故情報ではなく、戦略石油備蓄に関する話題をとりあげました。 4月20日、ニューヨークの原油先物市場でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の原油価格がマイナスという前代未聞の出来事があり、調べてみました。そうすると、“戦略”ではなく、単なる思いつきで戦略石油備蓄が右往左往している米国の様子が垣間見えました。

2020年5月2日土曜日

兵庫県三田市で搬送タンクが落下して泡消火剤が流出

 今回は、2020年4月15日(水)、兵庫県三田市のモリタテクノス社三田工場で回収した泡消火剤の搬送タンクが落下して破損し、内部の泡消火剤の溶液が流出した事故を紹介します。
王子池(左フェンス奥)の沈砂槽から泡消火剤溶液の回収作業 (写真はKobe-np.co.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、兵庫県三田市(さんだ・し)の工業団地第二テクノパークにある(株)モリタテクノスの三田工場である。 (株)モリタテクノスは消防車の保守・点検を手掛ける会社である。

■ 発災があったのは、モリタテクノス社の三田工場の泡消火剤の搬送用タンクである。
          三田市テクノパークのモリタテクノス社付近 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年4月15日(水)午後9時頃、モリタテクノス社の三田工場で回収した泡消火剤の溶液約2,000リットルの入ったタンクがフォークリフトから落下し、内部の泡消火剤溶液が流出した。

■ 発災は、放水テストで使用した泡消火剤を搬送タンクへ回収後、溶液処理施設へフォークリフトで運搬中、タンクを落下して破損させたため、泡消火剤溶液が敷地内に流出した。泡消火剤は火災の消火作業に使われ、濃度は10分の1程度に薄められている。

■ 敷地内に流出した泡消火剤の溶液はスポンジに吸わして回収したが、一部は工場内の側溝に漏れた。側溝は社外の雨水系統に通じている。

被 害
■ 消火剤の搬送タンクが破損し、内部の泡消火剤の溶液約2,000リットルが敷地内に流出した。 

■ 一部が敷地外へ流れ、市の調整池の沈砂槽へ流入し、回収作業が必要になった。

■ 事故に伴う負傷者はいない。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、不適切な搬送作業により、搬送タンクを落下させ、内部の泡消火剤の溶液を流出させた。

< 対 応 >
■ 翌4月16日(木)、三田市立ち合いのもと流出経路を確認したところ、泡消火剤溶液は地下埋設の雨水排水管を経て近くの王子池(調整池)沈砂槽に達していたため、同社は清掃業者を手配し、水を吸い上げて回収する作業を実施した。

■ 三田市は池の水を採取し、専門機関に水質検査を依頼した。

■ 4月18日(土)、 モリタテクノス社は同社のウェブサイトに事故の概要とお詫びを発表した。 
             王子池(調整池)と沈砂槽  写真はGoogleMapから引用)
補 足
■「兵庫県」は、近畿地方の西方に位置し、人口約546万人の県である。県庁所在地および最大の都市は神戸市(人口約152万人)である。
 「三田市」(さんだ・し)は、兵庫県の東南にあり、阪神地域の北に位置し、人口約110,000人の市である。
 「テクノパーク」は、正式には北摂三田テクノパーク(ほくせつさんだ・テクノパーク)といい、都市再生機構により開発された工業専用地域である。 パーク内には高速道路のインターチェンジがあり、大阪市街地に1時間あまりで行くことができ、また京都舞鶴港までも1時間あまりで到着でき、アクセスが良く、工場の立地条件はよい。
            三田市の周辺 (写真はGoogleMapから引用)
■「 ()モリタテクノス」は、消防車の保守・点検を手掛ける会社で、消防関連事業を展開する()モリタの関係会社である。 
         モリタテクノ社三田工場 構内に各種消防車両が見える (写真はGoogleMapから引用)
■ 石油に使用される「泡消火薬剤」は消防法やISO規格によって規定されており、成分構成による分類と定義を表に示す。
 沖縄県の在地米軍普天間飛行場で泡消火剤が基地外に流出して問題になったのは、泡消火剤に含まれる有害なPFOS(通称ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸(有機フッ素化合物の一種)だった。このPFOSは、低分子化合物であり、高い親水性・親油性により界面活性能がよく、高い起泡性を持つことから消火剤(水成膜泡消火薬剤など)に使用される。
 今回の泡消火剤は、消防車の放水テスト関連で使用されるものと思われるが、泡消火剤の分類は分からないし、PFOS(通称ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含むものかも不詳である。
 沖縄県の在地米軍普天間飛行場の泡消火剤の流出事故は、つぎのブログを参照。
■「搬送タンク」の仕様は分からない。2,000リットルの泡消火剤が入っていたというので、少なくとも直径2m×高さ1.5m程度で大きな容器ではないと思われる。

所 感
■ 今回の事故は、泡消火剤の流出という点で沖縄県普天間飛行場における事故と同じであるが、住民や報道メディアの関心の高さによって取扱い方に差があると感じた。有害なPFOS(通称ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸(有機フッ素化合物の一種)の問題に関心があれば、沖縄の事故直後であり、事故の起こった時期は悪かったといえよう。

■ しかし、事故が起こった後の対応としては、今回の方が適切だったと感じる。
 ● 社外の調整池の沈砂槽に流入したことを市の立ち合いのもとで確認した。
 ● 汚染水の回収の対応をとった。
 ● 事故状況とお詫びを社のウェブサイトに掲載した。(発表は事故後3日目で、もっと早くすべきだった)
 事故が無いことに越したことはないが、事故が起こったときの異常事態対応はルールに則り、粛々とやれるようにしておかなければならないと思う。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kobe-np.co.jp,  工場から消火剤が流出 2千リットルのタンク、リフトから落下で,  April  17,  2020
    ・Morita-technos.com,弊社三田工場からの火災用消火溶液流出のお詫びとご報告,  April  18,  2020


後 記: 今回の事故は、沖縄県の在日米軍普天間飛行場における泡消火剤の流出事故についてインタネット情報を調べているとき、たまたま知ったものです。火災以外の通常時に泡消火剤が社外に流出するなんてめったに起こらないと思いますが、重なるものなのですね。
 消火剤メーカーのグループ会社ですので、 PFOS(通称ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸の有害性や取扱い法はよく理解している(はず)と思いますので、放水テストで使用された泡消火剤にPFOSは含まれていないでしょう。 PFOSを含むものが製造できなくなって10年余、防衛省自衛隊でも泡消火剤の入れ替えの計画を発表しましたし、この動きは加速されていくでしょう。

2020年4月29日水曜日

沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故で立入り調査

 今回は、2020年4月10日(金)に在日米軍普天間飛行場内の格納庫の消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ流出した事故について日本側が初めて立入り調査を行ったことについて紹介します。事故当時の状況は沖縄の米軍普天間飛行場から泡消火剤が市内に大量流出」(2020年4月17日)を参照。
              3回目の立入り調査  写真はTwitter.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、沖縄県宜野湾市(ぎのわん・し)の米軍普天間飛行場内にある格納庫である。
            普天間飛行場付近 (写真はGoogleMapから引用)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年4月10日(金)午後4時40分頃、普天間飛行場内の格納庫の消火システムが作動して泡消火剤が放出され、基地外へ流出した。

普天間飛行場から基地外へ流出する泡消火剤
510日)基地内に米軍の消防車が複数台見える
(写真はRyukyuheiwa.blog.fc2.comから引用)  
■ 泡消火剤は、普天間飛行場から宜野湾市真栄原(まえはら)側へ延びる雨水排水用の水路を通じて漏れた。水路の水は下水処理されず、比屋良川(ひやらがわ)を通って牧港湾(まきみなと・わん)につながっている。水路の隣にある第2さつき認定こども園では、同日午後5時頃、園児たちが「トックリキワタの綿が飛んでいる」と騒ぎ、泡に気付いた。園長は触れないよう指示し、園児約130人を保育室内に集めた。側溝からは薄いカルキ臭がしたが、体の不調を訴える園児や職員はいなかったという。

■ 宜野湾市には同日午後5時30分頃、米軍から連絡があった。米軍は沖縄防衛局に対し泡消火剤は有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んでいると説明したが、漏れた量や場所、原因は明らかにしなかった。

■ 沖縄防衛局は同日、事故現場に職員を派遣し、原因究明と再発防止策の徹底を米軍へ申し入れたという。宜野湾市は、沖縄防衛局、外務省沖縄事務所、沖縄県に対し、泡消火剤を早急に回収することと事故原因の究明を申し入れた。一方、沖縄県はメディアからの問い合わせを受けて沖縄防衛局に事実関係を照会し、午後6時過ぎに事故を把握した。

■ 発生から一夜明けた4月11日(土)、宜野湾市嘉数(かかず)と大謝名(おおじゃな)の間を流れる宇地泊川(うちどまり・がわ)で大量の泡消火剤が確認された。消火剤の泡は風にあおられ、川周辺の公道や住宅街に拡散した。市消防本部が川で除去作業に当たったが、量が多すぎたため断念した。米軍は飛行場外の除去作業をせず、大量の消火剤が除去されないまま放置されている。夕方になって河川を見に来た近くの40代女性は、「きょうはお天気だったけど、こわくて洗濯物を干すのはやめた。まだ泡が残っているのを見てますます不安になった。自然にもどんな影響があるのか」と話した。 
写真は、左;Ryukyushmpo.jp右;Headlines.yahoo.co.jp02から引用)
被 害
■ 米軍内の泡消火システムが作動し、泡消火剤が流出し、一部が普天間飛行場の構外へ流れた。
 流出量は、消火剤原液ではなく、水で薄めた量で、全体量が約227,100リットル(227KL)で、基地内で回収したのは約83,270リットル(83.2KL)だった。全体の6割以上の143,830リットル(143.8KL=200リットル入り入りドラム缶719本分)が基地外に流れ出た。 

■ 泡消火剤が宜野湾市の河川や海に流出し、環境汚染を起こした。
 宜野湾市消防本部が一部を回収した量は250リットルだった。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。

■ 2020年4月17日(金)、在日米軍海兵隊は流出要因について、つぎのように述べた。
 「何かが格納庫内の泡消火システムを起動させ、漏れが起こった。そして、泡が雨水排水系を通って基地の外に移動してしまった」

< 対 応 >
■ 4月16日(木)、日本の防衛相は参院外交防衛委員会で、米側に厳重に抗議したことを明らかにした。日米両国が2015年に締結した「環境補足協定」に基づき、基地への立入り調査を求めた。環境に影響する事故で立入りを要請するのは協定締結後初めてである。
 同日午後、防衛省、外務省、環境省の現地職員6人が普天間飛行場に立入り、約1時間半にわたり泡消火剤が漏れた現場や周辺の状況を確認し、泡消火剤の保管状況や基地外に流出した経路などについて、米軍側の説明を受けたという。本来は閉じているはずの格納庫の扉が、事故当時、開いたままになっていたため、外に漏れ出す量が多くなったという。 
 なお、4月16日(木)の立入り調査について防衛省は沖縄県に伝達せずに実施したが、防衛相が「われわれのミスだ」と陳謝している。

■ 4月17日(金)、泡消火剤が普天間飛行場の外へ流れ出た事故を受け、沖縄県は副知事と県職員の計3人が普天間飛行場内を視察した。普天間飛行場から有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡消火剤が、何らかの原因で基地の外へ流れ出たことについて米軍に強く抗議した。
 視察を終えた副知事は、「(米軍側から)県民に大きな不安を与えたことをお詫び申し上げるとお詫びの言葉がありました。徹底した原因究明とそれをもとにした再発防止策を透明性を持って県や国に報告したい」と説明したという。沖縄県は、次週にも、日米地位協定の環境補足協定に基づく基地内の立入りを行う予定である。
          沖縄副知事に説明を行う在日米軍517日) (写真はTwitter.comから引用)
        沖縄県副知事による普天間飛行場の視察517日)   (写真はWhs.milから引用)
■ ワシントン本部サービス(Washington Headquarters Services;WHS)によると、4月17日(金)の午後、沖縄副知事が普天間飛行場での流出現場を視察したが、副知事の訪問目的は、普天間飛行場から水成膜泡(AFFF)が放出された航空機格納庫の場所を確認することだった。視察では、在日米軍普天間飛行場司令官が流出についてミーティングでつぎのように説明した。
 「この事故では、薬剤と水の混合液が約60,000ガロン(227,000リットル)で、薬剤原液は1,200ガロン(4,540リットル)でした。基地から流出したのは、約38,000ガロン(143,800リットル)と推定しています。これに触れても危険ではありませんが、そうすることは避けるべきです。在日米軍普天間飛行場の長としては、流出の原因を特定するために徹底的な調査を行っています。そして、調査が終了して最終的な報告書の中で述べられる推奨事項に基づいて、将来、同種の事故が発生する可能性を減らすための対策を実施する予定です」

 ミーティング後、日本と在日米軍普天間飛行場の当局者は、流出現場に移動し、泡が発生した格納庫を訪れた。また、AFFFが駐機整備区域から雨水排水系に流れた場所を確認することもできた。司令官は、水と混合した水成膜泡(AFFF) は、雨水排水系に入るのを防ぐために、各種吸収材を使用した応急措置や宜野湾消防署が回収した泡消火剤を適切な処分法を待っている間、普天間飛行場に保管することなど実施したクリーンアップ作業と軽減策を説明した。

 在日米軍普天間飛行場司令官は防止策について、つぎのように説明した。
 「私たちは、遺物のような泡薬剤を、軍の消火用仕様を満足し、より環境にやさしい代替品に置き換える過程にあり、米国海軍長官からの指導に従っています。米国は、日本環境管理基準( Japan Environmental Governing Standards)と国防総省の指示に準拠するように努力しています」

2さつき認定こども園の遊具を
清掃する沖縄防衛局の職員ら
(写真はRyukyuheiwa.blog.fc2.comから引用)
■ 4月18日(土)、沖縄防衛局は、普天間飛行場に隣接する保育園で、飛散した泡が付着した恐れのある砂場の砂を数十cm掘って取り除き、新しい砂に交換した。泡の大量流出があった宇地泊川(比屋良川)では4月17日(金)に続いて草刈りをし、流水で川沿いの柵などを洗った。

■ 4月21日(火)、防衛省は、沖縄県と宜野湾市とともに計10人で同飛行場への立入り調査を実施した。泡消火剤の流出経路とみられる滑走路南側沿いにある排水路3か所で水(計4リットル)を採取した。防衛省は今回採取した水を専門的に分析し、汚染の度合いなどを調査する。午後4時に基地内に入り、午後7時頃まで調査した。米軍から事故原因などの説明はなかったという。
 宜野湾市長は記者団に「協定にやっと実効性が出てきた。米軍がそれだけ重大な事故だと捉えていると理解している」と述べた。21日(火)の調査には、専門業者や外務省、環境省職員も参加した。沖縄県は水質だけではなく土壌調査も求めており、防衛省は今後も普天間への立入りを米側に求めていく方針だ。
水路付近を調査する宜野湾市長ら521日立入り)
(写真はRyukyushmpo.jpから引用)
             水のサンプル採取521日立入り)  (写真はTwitter.comから引用)
流出した格納庫と水のサンプル採取地点
(図はMainichi.jpから引用)
■ 4月23日(木)、外務省によると、米側は在日米軍の調査チームによる調査結果を日本側と共有する、と約束したという。外務省によると、普天間飛行場の米軍司令官は深く謝罪し、原因究明について日本側と連携していく意向を示したという。

■ 4月24日(金)、防衛省は、沖縄県と宜野湾市とともに同飛行場への3回目の立入り調査を実施した。在日米軍が、4月23日(木)に「汚染の疑いがある土壌の入れ替えをする」と通知してきたため、防衛省、沖縄県と宜野湾市は、環境補足協定に基づく立入り調査という形で立ち会った。泡消火剤が流出した格納庫周辺で、米軍による土壌の入れ替え作業が行われた。米軍が土壌を除去したのは、滑走路南端近くの格納庫周辺である。泡消火剤が漏出した可能性のあるエリアとして約65㎡(深さ約15cm)の土壌を取り除いた。重機で掘り起こし、土囊(どのう)に入れてから箱に詰め、「適切に処理する」と話したという。沖縄県は協定の締結時に交わされた日米合同委員会合意に基づき、基地内の土壌をサンプル調査できるよう沖縄防衛局を通じて申請していたが、米側は日米間の調整がつかなかったとして拒否した。
                   土壌の入れ替え524日立入り)  (写真はTwitter.comから引用)
              土壌の入れ替え作業524日)   (写真はTwitter.comから引用)
              土壌の入れ替え作業524日)   (写真はTwitter.comから引用)
流出のあった格納庫と土壌入れ替えを行ったエリア(矢印)
(写真GoogleMapから引用)
■ 4月24日(金)、沖縄県知事は立入り調査が行われたことについて、「協定の実効性確保が非常に重要だ。抜本的な解決方法として、国内法を適用するなど、日米地位協定の見直しを日米両政府に働き掛けたい」と述べた。

■  米軍は、これまで在日米軍基地内で発生した環境汚染について積極的に公表しなかった。しかし、今回の流出事故は明らかに泡消火剤が普天間飛行場から流出し、飛散したものであることが確認され、日米地位協定の環境補足協定に基づく立入りを米軍が初めて認めざるを得ない状況になった。宇地泊川で飛散した泡を回収することなく、放置した米軍の責任も重く問われている。

■ 普天間飛行場から流出した事故を受け、琉球新報社は4月11(土)~13日(月)に付近の河川など5地点から水を採取し、京都大の環境衛生学教授に有機フッ素化合物含有の分析を依頼していたが、4月24日(金)に結果が出た。
 その結果、地下水汚染を判断する米国の暫定指標値PFOS・PFOA合計40ナノグラム(1リットル当たり)の6倍に当たる247.2ナノグラムが宜野湾市の宇地泊川で採取した水から検出されるなど、4地点で多量の有機フッ素化合物が検出された。米軍が泡消火剤への含有を認めているPFOSのほかにも、PFOAやPFHxSなどの有機フッ素化合物が高濃度で検出された。
 一般的な河川水などのPFOS・PFOAの合計含有量は1リットル当たり10ナノグラム程度であり、日本国内では環境省の諮問機関・中央環境審議会の専門委員会が暫定指針値として1リットル当たり50ナノグラムを提案しているが、今回検出された値はそれらを大幅に超えている。
有機フッ素化合物PFOSPFASが検出された地点
(写真はRyukyushmpo.jpから引用)
■ 事故が起こる約2か月前の2020年2月7日(金)、防衛相は、自衛隊が保持する有機フッ素化合物PFOS(ピーホス)を含む泡消火薬剤が約394,000リットルだったと公表した。防衛相は、同日、自衛隊がこれらの泡消火薬剤を、原則、2021年の年度末までに撤去する計画を発表した。同省は国が目標値を定める予定の有機フッ素化合物PFOSやPFOAを含む泡消火薬剤は使用しない方針である。
 一方、新たな泡消火薬剤に関して同省は、「流通している製品は何らかの有機フッ素化合物を含んでいる」としており、環境影響への懸念は完全に払拭(ふっしょく)されていない。

補 足
■「沖縄県」は、九州地方に位置し、日本で最も西にあり、沖縄本島、宮古島、石垣島など多くの島々から構成される人口約145万人の県である。
 「宜野湾市」(ぎのわん・し)は、沖縄本島中南部の中央に位置し、県庁所在地の那覇市から北東約10kmにあり、人口約98,600人の沖縄県第5の都市である。

■「普天間飛行場」(ふてんま・ひこうじょう)は、在日米軍海兵隊の軍用飛行場である。通称は普天間基地といい、2,800mの滑走路を有し、嘉手納基地(かてな・きち)と並んで沖縄における米軍の拠点となっている。面積は約4.8km2で、市域の約25%に相当する。飛行場は航空基地として総合的に整備されており、滑走路のほか、駐留各航空部隊が円滑に任務遂行できるための諸施設として格納庫、通信施設、整備・修理施設、部品倉庫、部隊事務所、消防署、PX(売店)、クラブ、バー、ボーリング場、教会、診療所などが存在する。滑走路の西側には、司令官の庁舎や兵隊の宿舎等が配置され、 東側には、格納庫、消防署等がある。

■「格納庫(かくのうこ; Hangar)は、航空機やヘリコプターを風雨や砂塵などから守り、整備や補給、待機などを行う格納施設である。一般に鉄骨構造であるが、軍用格納庫の中にはコンクリート製や簡易テントなどがある。普天間飛行場では、3か所複数棟の格納庫があり、立入り調査によって南端にある格納庫で泡消火剤が放出したことが分かった。普天間飛行場の南端にある格納庫は、第2さつき認定こども園から300~400mの距離である。

■ 石油に使用される「泡消火薬剤」は消防法やISO規格によって規定されており、成分構成による分類と定義を表に示す。
■ PFOS(通称ピーホス)と呼ばれる「ペルフルオロ・オクタン・スルホン酸」(有機フッ素化合物の一種)は低分子化合物であり、高い親水性・親油性により界面活性能がよく、高い起泡性を持つ。このことから消火剤(水成膜泡消火薬剤など)に使用されていた。
 2009年5月にジュネーブで開催された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」の第4回締約国会議(COP4)を受け、日本国内では、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関す る法律)が2009年10月にPFOSなど12物質を「第一種特定化学物質」に指定し、製造・輸入の事実上禁止となった。残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants;POPs)は、毒性が強く、難分解性、生物蓄積性、長距離移動性、人の健康または環境への悪影響を有する化学物質で、人の健康と環境を保護することを目的として検討され、締結されたものである。

 当時、日本でPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡消火薬剤は表に示すとおりである。ただし、技術基準を遵守することで、 当分の間、既設の使用は認められることとなっている。また、火災時等災害時の使用(放出)については、 化審法上の技術基準は設けていないので、規制はない。
 環境省などはPFOSを含有しない泡消火薬剤へ順次切り替えることを推奨しているが、総合点検時に放射が不要になったこと、交換に要するコストが大きいことの理由により薬剤の交換が進んでいないのが現状である。
(表はShosoko.or.jpから引用)
■ 流出した泡消火剤は水成膜泡(AFFF)だと分かった。米国で水成膜泡(AFFF) のメーカーとしては3M社で製造していたライトウォータが有名であったが、2002年に製造を中止している。しかし、この泡消火剤は米国だけでなく、国内でも使用されている。

■ 日米地位協定の「環境補足協定」 は2015年年9月に署名が行われたが、日米地位協定締結から55年を経て初めての取組みである。 「環境補足協定」の概要はつぎのとおりである。
(1) 情報共有・・・両国は、入手可能かつ適当な情報を相互に提供する。
(2) 環境基準の発出・維持・・・米側は、「日本環境管理基準(JEGS)」を発出・維持し、同基準は、両国または国際約束の基準のうち、最も保護的なものを一般的に採用する。これは漏出への対応・予防に関する規定を含む。
(3) 立入り手続の作成・維持・・・日本の当局が次の場合に米軍施設・区域への適切な立入りを行えるよう手続を作成・維持する。
  (ア)環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合。
  (イ)施設・区域の返還に関連する現地調査(文化財調査を含む)を行う場合。
(4) 協議・・・ 環境補足協定の実施に関するいかなる事項についても、一方からの要請により、日米合同委員会での協議を開始する。

■ 「日本環境管理基準」(Japan Environmental Governing Standards ;JEGS)」は、在日米軍が施設・区域内の環境管理を行うに当たって作成したものである。日本環境管理基準は、米国防省が策定した基準に沿って、環境に関する日本の国内法上の基準と米国の国内法上の基準のうち、より厳格なものを選択するとの基本的な考え方の下に作成されている。

■「航空機格納庫の泡消火設備」は、石油貯蔵タンクの火災で一般的に用いられる低発泡泡でなく、膨張比(発泡割合)が500:1程度の高発泡泡が使用される。高発泡用泡放出口を有し、膨張比が高いものほど軽くなるため積泡しやすくなり、防護対象の表面を一気に被覆したり、防護対象の空間を埋め尽くして、消火や抑制できる。一方、高発泡泡は風に飛ばされやすくなるが、航空機格納庫のようなところでは有効である。格納庫における高発泡泡消火設備の放射テスト例を写真に示す。
        格納庫の泡消火設備の放射テストの例 (写真はGielle.itから引用)
所 感
■ 今回の立入り調査で分かったことは、つぎのとおりである。
 ● 事故のあった格納庫は普天間飛行場の南端に位置する格納庫だった。
 ● 流出した泡消火薬剤は水成膜泡(AFFF)で、薬剤原液は4,540リットルだった。
    (前回の所感では、 2,300~6,800リットルと推定していた)
   従って、原液中のPFOS(ピーホス)の含有量を1%と仮定すれば、45リットルのPFOSとなる。

 ● 事故で放出した泡消火剤は、薬剤と水の混合液が227KLだった。
   従って、薬剤と水の混合率は2%となる。通常、水成膜泡(AFFF) は薬剤と水の混合率が3%または6%で使用されるので、放出した泡消火剤は薄めで形成されている。
 ● 事故当時、米軍は雨水排水系に入るのを防ぐために、各種吸収材を使用した応急措置を実施した。しかし、全量のおよそ63%にあたる約143KLが基地外へ流出しており、この吸収材の使用による応急措置は効果が薄かった。一方、泡消火システムは高発泡の泡で放出したのではなく、薬剤と水の混合液(混合率が2%)のまま放出したのではないかとみられる。

 ● 従って、前回の所感で挙げた格納庫の泡消火システムの作動要因の中で、つぎの項目は無いと思う。
   ×格納庫内の航空機(またはヘリコプターなど)が火を出して、泡消火システムが作動した。
   ×米軍関係者がいたずら(故意の過失)で泡消火システムを作動させた。
   ×定期の泡消火テストを実施した。
   ×使用期限切れの泡消火薬剤を交換する際、意図的に泡消火テストを実施した。
 これらのことから、泡消火システムが故障し、薬剤と水の混合だけの(誤)作動ではないだろうか。

■ 過去の高発泡の泡を放出した事例とは異なる事故であると思う。これまで在日米軍基地内で発生した事故や環境汚染は積極的に公表しなかったが、格納庫の泡消火システムに関わる事例として報告書が公表されることを期待したい。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Nikkei.com, 普天間へ立ち入り、水採取 消火剤流出で防衛省調査,  April  21,  2020
    ・Asahi.com,  普天間飛行場に2度目の立ち入り 消火剤流出事故,  April  23,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp,  普天間3地点で水採取 泡消火剤流出 国・県・市が初の立ち入り,  April  22  2020
    ・Sankei.com,  米軍普天間飛行場へ3回目立ち入り 防衛省、泡消火剤流出で,  April  24,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp,  事故の影響表れた」 国指針案5倍に県 泡消火剤流出,  April  24  2020
    ・Nhk.or.jp,米軍基地 消火剤流出事故  日本側が初の環境立入調査,  April  17,  2020
    ・This.kiji.is, 保育園の砂を交換 泡消火剤の大量流出で 泡が付着した恐れ,  April  19,  2020
    ・Stripes.com, Marine general apologizes for massive firefighting foam leak on Okinawa; Japan officials want answers,  April  17,  2020
    ・Military.com, Marine general apologizes for massive firefighting foam leak on Okinawa,  April  17,  2020
    ・Whs.mil, US Marines host Okinawa Vice-Governor Jahana,  April  17,  2020
    ・Stripes.com, Marines grant Japan’s request to collect water samples after firefighting foam leak on Okinawa,  April  23,  2020
    ・Dvidshub.net, US Marines host Okinawa Vice-Governor Jahana,  April  17,  2020
    ・Okinawatimes.co.jp, 自衛隊、21年度までにPFOS処理へ 泡消火薬剤約39万リットル保有,  February  7,  2020
    ・Asahi.com, 普天間消火剤流出、米軍が土壌除去 県・市には提供せず,  April  24,  2020
    ・Mainichi.jp, 泡消火剤流出 放置の米軍に重い責任/沖縄,  April  25,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp, 米軍、土壌採取を拒否 県申請に「調整つかず」 泡消火剤流出,  April  25,  2020
    ・Ryukyushimpo.jp, 普天間流出の泡消火剤に多量有害物 宇地泊川で米指標の6倍超 本紙・京大調査,  April  24,  2020
    ・Qab.co.jp, 米軍泡消火剤流出事故 県が基地内視察し抗議,  April  17,  2020


後 記: 今回の立入り調査について沖縄や日本の主要メディアが報じるのは当然でしょう。しかし、目立ったのは、米国の軍関係の報道メディアが積極的だったことです。 Washington Headquarters Servicesのほか、 Stars&Stripes、 Military.com、 Dvidshub.netなどが報じていますし、在日海兵隊のツイッターで多くの写真が投稿されています。このあたりは、さすが情報や記録好きな米国だと感じました。一方的な米軍側の見方の記事ですが、日本国内のメディアが普天間飛行場に入れない中で非常に参考になりました。事実らしいことが分かると、さらに疑問が出てきますが、今後の進展(事故報告書の公表、日米地位協定の見直し)を期待したいと思います。
(表はRyukyuheiwa.blog.fc2.com から引用)