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2018年7月14日土曜日

マレーシアの製油所で原油タンク火災、負傷者4名

  今回は、2018年7月5日(木)、マレーシアのトレンガヌ州にあるケママン・ビチューメン・カンパニーのケママン・ビチューメン製油所で起こった原油タンク火災の事故について紹介します。
 (写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、マレーシア(Malaysia)トレンガヌ州(Terengganu)ケママン(Kemaman)にあるケママン・ビチューメン・カンパニー(Kemaman Bitumen CompanyKBC)のケママン・ビチューメン製油所(Kemaman Bitumen Refinery)である
 ケママン・ビチューメン・カンパニー(KBC)は、タイにあるTipcoアスファルト社(Tipco Asphalt Public Company Limited)の完全子会社である。ケママン・ビチューメン製油所の精製能力は30,000バレル/日で、アスファルト精製の製油所である

■ 発災があったのは、テルーク・カロング工業地帯(Teluk Kalong Industrial Area)にある製油所の2つある原油タンク地区のうちのひとつである。発災のあった原油タンク地区には、6基の原油貯蔵タンクがあった。なお、精製設備は618日(月)から定期保全期間に入っていた。
      トレンガヌ州のケママン・ビチューメン製油所付近  写真はGoogleMapから引用)
      ケママン・ビチューメン製油所の貯蔵タンク地区 (発災前、矢印が発災タンク)
(写真はKbc.com.myから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 201875日(木)午後605分頃、4,800KLの原油の入ったタンクの1基から火災が発生した。タンクは炎が高さ30m以上噴き出し、厚い真っ黒い煙がこの地区の大気を覆うように立ち昇り、数km先からも確認できた。

■ その後、タンク火災は隣接のタンクへ延焼した。さらに、午後930分まで3基目のタンクへと広がった。

■ 火災発生に伴い、ケママン・ビチューメン製油所の自衛消防隊が出動し、公設消防署には午後626分に通報が寄せられ、消防隊が出動した。ケママン消防署などの消防車両十数台と消防士100名が現場に急行した。

■ 消防隊は、テレンガヌ州で起こった最大の火災に立ち向かっていた。消防隊は、最初の2基のタンク火災を80%まで制圧することができたといい、さらに3基目のタンク火災の制圧に苦労していた
 76日(金)の午前中、火災は2基の原油タンクを損壊させ、3基目へと広がり、事故発生から16時間が経過していた。 3基目のタンク火災は比較的小さかった。

■ 事故発生に伴い、4名の負傷者が出た。4名の負傷者が出たが、ひとりは43歳の請負会社の人であり、顔と右手に火傷を負い、病院へ搬送されて治療を受けている。ほかの3名の被災者は病院で外来治療を受けた。 当時、被災者は事故のあった現場でメンテナンス作業をやっていたとみられる。

 火災のあった1基目のタンクには4,800KL2基目は1,580KL3基目のタンクには13,679KLの油が入っていたという。3基の合計で20,059KLである。この貯蔵タンク地区には6基のタンクがあった。

■ 消防隊は、タンクへ泡を使った消火試みた。消防隊は、消防署管内の泡薬剤とともに、数社の会社から泡の供給を受け、14,000リットルの泡薬剤を準備していた。さらに本部から泡薬剤の供給を受ける予定であるという。消火用水の供給には問題なかった。

■ 76日(金)午前9Tipco社から消防隊には、重質原油の入った火災タンクは制御できるならば、これらのタンクに限定して燃え尽きさせてもよいという指示が出された。

■ 火災は、3日目の77日(土)午前7時になって消された

被 害
■ 原油タンク2基が火災で損壊し、1基が損傷した。内部の原油が焼失した。発災当時、3基の原油タンクの総容量は101,000KL、入っていた容量の五分の一だったというが、焼失量は分かっていない。

■ 事故に伴い、負傷者4名が発生した。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は分かっていない。調査中である。(3週間で報告書が出される予定)
(写真はYoutubeから引用)
(写真はLimaumanis.comから引用)
 (写真はBernama.comから引用)
(写真はFreemalasiatoday.comから引用)
(写真はHydrocarbonprocessing.comから引用)
< 対 応 >
■ 出動したのは、トレンガヌ州の消防隊員78人とパハン州の消防隊員33人が火災に対応した。このほか、
また、警察や民間防衛部隊を含む関係機関とともに、ケママン・ビチューメン・カンパニーとケママン・サプライ・ベース社の緊急対応チーム41名が支援した。

■ マレーシア国家消防救助局(State Fire and Rescue Department)によれば、火災の調査をするため特別なチームが編成され、原因調査は3週間かけて行われ、報告書が出される予定だという。現地には、石油精製タンクの設計者やコンサルタントが調査を支援するため呼ばれた。火災が消され次第、調査が開始される。

■ 発災から3日、火災対応に従事した消防士は200名を超えた。自らの命の危険をかえりみず、巨大な炎を消すために戦った。実際、このような状況に対応するのが初めての隊員もいた。

■ 2基目と3基目のタンク火災は48時間以内で終わると予想されていた。最初のタンク火災は完全に消火されていた。2基目のタンク火災は数%を残すだけになっていた。3基目のタンク火災はなおも燃えていた。現場で見積もられている油の減少によって、消防士は直接攻撃のテクニックが適用できるようになった。

■ Tipcoアスファルト社は、3基のタンク火災に対して製油所の生産能力は影響しないと語った。残ったタンクの運用についてよく管理しなければならないと付け加えた。マレーシアのタンク設備は8基の原油タンクがあり、総貯蔵能力は350,000KLである。火災に巻き込まれたタンクの総容量は101,000KLで、発災当時は、五分の一だったという。
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
補 足
■ 「マレーシア」(Malaysia)は、東南アジアのマレー半島南部とボルネオ島北部を領域とする連邦立憲君主制国家で、人口約2,900万人である。イギリス連邦加盟国で、タイ、インドネシア、ブルネイと陸上の国境線で接し、シンガポール、フィリピンと海を隔てて近接する。通常、マレー半島部分が「マレーシア半島」、ボルネオ島部分が「東マレーシア」 と呼ばれる。一方、マレー半島とボルネオ島間の往来は、マレーシア国民であってもパスポートを必要とする。
 「トレンガヌ州」(Terengganu)は、マレーシア半島の東部に位置し、人口約630万人の州である。
 「ケママン」(Kemaman)は、トレンガヌ州の南部に位置し、人口約20万人の工業都市である。
 
 なお、マレーシアの事故としては、つぎのような事例がある。
              マレーシア周辺   (写真はGoogleMapから引用)
■ 「ケママン・ビチューメン・カンパニー」(Kemaman Bitumen CompanyKBC)は、2003年に設立され、精製能力30,000バレル/日のアスファルト精製に特化した石油会社である。トレンガヌ州ケママンに26ヘクタールの土地のケママン・ビチューメン製油所を有しており、2016年には、原油970万バレルを処理し、アスファルトおよび非アスファルト製品150万トンを生産した。重質ナフテン系原油を処理し、アスファルトAGO(常圧軽油)、VGO(減圧軽油)、ナフサなどを生産している。マレーシア国内のアスファルト需要の四分の一を供給しているほか、アジア各国にも輸出しているなお、ケママン・ビチューメン・カンパニー(KBC)は、タイにあるTipcoアスファルト社(Tipco Asphalt Public Company Limited)の完全子会社である。
ケママン・ビチューメン製油所の精製プロセス
(写真はKbc.com.myから引用)
■ 「発災タンク」は図の①のタンクである。2基目が②、3基目が③と続いた。タンクに入っていた量は、報道によれば、それぞれ4,800リットル、1,580リットル、13,679リットルで、3基合計で20,059リットルと報じられているが、明らかに単位が間違っている。このブログ本文では、KLのミスとして、1基目が4,800KL2基目が1,580KL3基目が13,679KLし、3基の合計で20,059KLとした。一方、Tipco社によれば、被災原油タンクの総容量は101,000KLで、発災当時、容量の五分の一だったというので、総容量は概ね合っている。

 グーグルマップによれば、タンク①と③の直径が約50m、タンク②が約65mである。タンク高さを約15mと仮定すれば、容量はタンク①が28,000KL、タンク②が50,000KL、タンク③が28,000KLとなる。総容量は106,000KLとなり、大体合っている。

 このタンク寸法によれば、タンク①の4,800KLは液位約2.4m、タンク②の1,580KLは液位約0.5m、タンク③の13,679KLは液位約7.0mとなる。ここで、ひっかかるのがタンク②の液位約0.5mである。今回のタンク火災の燃焼時間は約36時間で、このうちタンク②が全面火災の様相を呈し、最もひどく燃えている。仮に燃焼時間を30時間とし、燃焼速度30cm/h仮定すれば、液位は約9.0mである。この容量は約30,000KLでタンク容量の60%である。おそらく、タンク②には、30,000KLほどの油が入っていたとみる方が妥当だと思う。
 
(写真はGoogleMapから引用)
■ 火災タンクと隣接タンクとのタンク間距離が短い。タンク間距離は約10mほどしかない。また、火災タンクは原油タンクではあるが、固定屋根式になっている。なぜ、このような仕様になっているか分からないが、複数タンク火災の要因のひとつになっていると思われる 

■ 火災の状況であるが、最初2基目のタンクは屋根が噴き飛ばされているので、爆発的な燃焼があったものと思われる。従って、火災は「障害物あり全面火災」になった可能性がある。また、この2基のタンクの外まわりには、足場が組んであり、何らかの工事が実施されていたとみられる。

 これらのタンクの全面火災を消火するために必要な大容量泡放射砲の能力は、日本の法令では、つぎのようになる。
 ● タンク①と③(直径約50m: 20,000L/min
 ● タンク②(直径約65m:     40,000L/min
 タンク②の全面火災を消火するために必要な泡薬剤量(混合比率1%とし、2時間分を確保と仮定48,000リットルとなる。今回の事故で確保できた泡薬剤量は14,000リットルと言われており、能力40,000L/min大容量泡放射砲の35分間分の量である過去の成功した消火事例では、ノックダウン時間(泡消火剤投入後、火勢が急激に衰えた時間)が1030分といわれている。極めて適切な泡放射を行えば、消える可能性もあるが、 「障害物あり全面火災」であり、消火後も一定時間、泡放射を継続する必要があることから、泡薬剤量14,000リットルは不十分だといえる。

■ 発災タンクは原油タンクであり、「ボイルオーバー」の発生する可能性がある。報道では、この爆発的事象について言及されていないが、YoutubeCrude oil tank explosion in kemamanでは、少なくとも爆発的な燃焼が見られ、慌てた様子の動画が紹介されている。タンク②の液位を約9.0mとして、ヒートウェーブの降下速度を一般的にいわれている12m/hとすれば、火災から約4時間30分~9.0時間でボイルオーバーは発生する可能性がある。動画は75日に公開されており、事故当日の夜の場面と思われ、時間的には合う。これらから考えると、タンク②では、ボイルオーバーが発生したのではないだろうか。

所 感
■ 今回のタンク事故原因は、何も言及されていない。しかし、
 ● 請負会社の人が負傷している
 ● 発災タンクのまわりに足場が組んである
 ことからすると、タンク工事に関係しているのではないだろうか。この点からいえば、「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事故ではないかと思う。

■ 今回の事故は、3基の複数タンク火災になっている。
 ● 最初のタンク火災で爆発的な事象が起きたのではないだろうか。この燃焼炎が隣接する固定屋根式タンクのブリーザー弁などの息継ぎ設備に着火したと思われる。
 ● それに加えて、タンク間距離が約10mと短いことも複数タンク火災の要因になった。

■ 消火活動は報道をみる限り、順調に経過したように受け取れるが、実際はそうでもないと思われる。
 ● Tipco社の情報公開では、燃え尽きさせてもよいと意見を出している。実際の火災時間も約36時間かかっており、2基目のタンク火災では、ボイルオーバーと思われる爆発的燃焼が起きている。
 ● 最初の2基のタンク火災は、結局、防御的消火戦略をとらざるを得なかったものと思われる。
 ● 泡消火が試みられており、さらに大容量泡放射砲も使用されているが、効果はあがっていなかったと思われる。この要因には、確保した泡薬剤量が不十分な上に、タンク配置が大容量泡放射砲システムに適していなかったとみられる。


 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   Nst.com.my,  Fire at Kemaman Oil Storage Facility Spreads to Third Tank,  July  07,  2018
          Freemalaysiatoday.com, 100 Firemen Battle Raging Oil Tank Fire in Kemaman,  July  06,  2018
          Thestar.com.my,  Special Task Force to Investigate Raging Oil Tanker Fire in Terengganu,  July  06,  2018
          Malaymail.com ,  Kemaman Refinery Fire: Firefighters Soldier on Despite Life-Threatening Hazard,  July  07,  2018
          Tanknewsinternational.com , Fire Breaks Out at Kemaman Oil Storage Facility,  July  06,  2018
          Sg.news.yahoo.com, Cause of Kemaman Refinery Blaze to Be Known in Three Weeks,  July  07,  2018
          Theedgemarkets.com,  Tipco Says Malaysia Refinery Production Capacity Unaffected by Fire,  July  06,  2018
          Hydrocarbonprocessing.com, Over 100 Firefighters Battle Massive Kemaman Refinery Fire,  July  06,  2018
          Tipcoasphalt.com, Notification of Fire Broke out in Three Crude Oil Storage Tanks of Kemaman Bitumen Company Sdn. Bhd. (KBC) ,  July  06,  2018
          Tipcoasphalt.com,  Update of Fire Broke out in Three Crude Oil Storage Tanks of Kemaman Bitumen Company Sdn. Bhd. (KBC) ,  July  07,  2018
          Youtube.com, Crude Oil Tanker Catches Fire in Kemaman Industrial Area,  July  05,  2018
          Youtube.com, Crude Oil Tank Explosion in Kemaman,  July  05,  2018
          Youtube.com, Seorang cedera kebakaran tangki simpanan minyak,  July  05,  2018
          Youtube.com, Viral Tangki Minyak Meletup Di Kemaman,  July  06,  2018
          Youtube.com, KEBAKARAN TINGKI MINYAK KILANG KBC - KEBAKARAN BERJAYA DIPADAMKAN SEPENUHNYA [8 JULAI 2018],  July  07,  2018



後 記: 今回の事故は分からないことの多い事例です。報道で一番惑わされたのが、タンクに入っていた油量です。最初に見た記事でリットル単位で書かれおり、ミスと思いました。その後、他の記事でも同様にリットル単位で、タンクの規模から明らかに違うのですが、結局、正しいと思われる記事が出てきませんでした。マレーシアはイギリス連邦加盟国ですので、体積単位に混乱があるのかと思いましたが、ハイドロカーボン・プロセッシング(Hydrocarbon Processing)という米国の化学雑誌の報道でも、同じミスがありました。米国や英国では、国際単位(メートル系)を使っていませんので、このような間違いが起こるのだろうと感じます。

 では、発災現場では、どのような単位が使われていたかというと、現地のニュース番組で流されていた中に、発災タンクの情報をホワイトボードに記載されている箇所がありました。これによると、タンク①と②の内部容量が書かれています。タンク①は4,800㎥とメートル系で表示されていますが、タンク②はIn3単位です。表示は、13666.220となっており、はっきりしませんが、13,666,220In3 だとすれば、22,352KLです。補足では、30,000KLほどが入っていたのではないかと記載しましたが、オーダー的には合っているように思います
 一方、単位が混在しており、どのような管理をしているのかと思う反面、これで実態が把握できるのかという疑問もありますこの油量だと、消防活動の状況も見方が変わってきます。報道では、消防による消防活動が十分成果を上げていたようになっていますが、補足で記載したように実際はかなり違っていたように思います


2018年7月4日水曜日

米国アイオワ州で石油タンク車が脱線し、洪水の川へ油流出

 今回は、2018年6月22日(金)、アイオワ州ライアン郡のドゥーンで起こった石油タンク車の脱線による油流出事故を紹介します。
(写真はKttc.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のBNSF鉄道の貨物列車である。列車は、コノコフィリップス社用の原油(タールサンド)をカナダのアルバータ州からオクラホマ州のストラウドに輸送していた。

■ 発災があったのは、アイオワ州(Iowa)北西部のライアン郡(Lyon County)ドゥーン(Doon)である。当時、このエリアは6月20日(水)から21日(木)にかけて豪雨があり、地域によって洪水が起こっていた。
      ライアン郡ドゥーンの脱線場所付近 (矢印が発災場所、洪水前
(写真はGoogleMapから引用)
洪水前の脱線した線路と郡道付近
(写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年6月22日(金)午前4時30分、原油を輸送していた貨物列車に牽引された石油タンク車の一部が脱線した。脱線した石油タンク車のまわりに油膜が広がり、石油タンク車は線路や土砂の上に積み重なり、一部は水中に沈んでいるものもあった。

■ 脱線したのは32輌の石油タンク車で、うち14輌から原油が漏れ出した。漏れた油量は推定230,000ガロン(871KL)で、洪水のリトルロック川に流出した。石油タンク車の積載量は1輌当たり25,000ガロン(95KL)以上である。
脱線後の早い時期に撮られたと思われる被災写真
(写真はKiwaradio.comから引用)
■ 前日、アイオワ州ライアン郡とスー郡の広い地域で洪水が発生し、道路が閉鎖された。この洪水の復旧活動のボランティアに前夜参加していた住民によると、「鉄道の軌道上に水が溢れ、貨物列車はその中を通り抜けようとした」と語った。住民のひとりは、30輌近くの石油タンク車が洪水の中を“レゴのように投げ込まれた”と語った。川幅は100ヤード(90m)から洪水によって半マイル(1,600m)に広がっていた。

■ 脱線場所から離れている農場主は、「竜巻の心配はしていたが、油流出を心配する必要は無いと思っていた」と語っている。油流出によって、このエリアでは強い油臭がした。

■ 脱線事故によってライアン郡南部のドゥーンでは、270番通りと280番通り間のガーフィールド通り沿いの住民に避難勧告が出された。現場から半マイル(800m)以内の住民はわずかであるが、少なくとも4世帯が避難した。

■ リトルロック川はすぐにロック川に合流する。ロック川の水位は21.5フィート(6.5m)に達し、2014年以降2番目に高い水位になっていた。下流の地区では、飲料水の汚染が心配された。流出油が脱線現場から約240km離れたネブラスカ州オマハの南まで達する可能性を指摘されている。オマハの公共水道事業者は、ミズーリ川から飲料水を取り入れているポンプを監視しているという。

■ 脱線したタンク車は、DOT-117Rs型という新機種で、安全性が改善され、事故時において漏れを防ぐことができるといわれていた。

■ この事故に伴う負傷者は出なかった。

被 害
■ 原油(タールサンド)を運んでいた32輌の石油タンク車が脱線し、損傷を受けた。

■ 石油タンク車14輌から原油が漏れ出し、流出した油量は推定230,000ガロン(871KL)である、油は洪水のリトルロック川に流出し、環境汚染を起こした。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。しかし、油流出によって少なくとも4世帯が避難した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、洪水で増水し、線路の土盤が十分な強度をもつことができず、通過していく石油タンク車の重さに耐えることができなかったと思われる。

■ 当局は、増水したリトル・ロック川の洪水によって石油タンク車が線路から外れた要因のひとつであることは認めたが、物理的に水が線路を傷つけたかどうかはまだ分かっていないという。
 なお、6月20日(水)に降った130~180mmの雨によって川は急激に水かさが増え、さらに6月21日(木)のどしゃぶりが拍車をかけた。

■ 一部の関係者は、洪水が線路の下の土壌を浸食したと推測していたとみている。
(写真はNewstiowa.comから引用)
(写真はResilience.orgから引用)
(写真はNwestiowa.comから引用)
手前はクリーンアップ作業用の車両
(写真はDesmoinesregister.comから引用)
(写真はKiwaradio.comから引用)
< 対 応 >
■ 事故後数時間で、BNSF社は危険物専門家と環境保全専門家を現場に派遣したと語った。そして、6月22日(金)午後5時頃からBNSFのスタッフ、危険物担当、クリーンアップ作業員がドゥーンの南からロックバレーの北で作業を行った。作業は、オイルフェンス、スキマー、バキューム車を使用して、できるだけエリアを狭めようとした。クリーンアップ作業には、ミネソタ州セントポールに本社のある産業・環境保全会社ベイウェスト社がオイルフェンスなどを積んだトラック6台でやってきた。

■ ライアン郡の保安官は、「対応は長くかかるだろう」といい、「洪水と脱線事故を同時に対処するのは最悪である。原因は分からないが、ひとつ言えることは、洪水が起こっていなければ、脱線事故は起こっていないだろう」と語った。
 
■ 6月23日(土)、アイオワ州知事は、異常気象による洪水と脱線事故による油流出を受け、プリマス郡、スー郡、ウッドベリー郡とともにライアン郡に災害非常事態宣言を発令した。同日、アイオワ州知事は現場を訪れた。対応は、鉄道会社、連邦政府、アイオワ州、地方自治体の各機関が参加している。

■ BNSF社の広報によると、流出油の半分は脱線現場に近いところに展張したオイルフェンス内にあるといい、追加のオイルフェンスを現場から下流の約8kmのところに展張したと語った。そして、水から油を分離できる特別な装置を使って回収する予定だという。

■ クリーンアップ作業では、脱線して部分的に水没した石油タンク車をクレーンで移動することができるように、線路と並行して仮設道路を建設することとなった。

■ 油流出のニュースによって、脱線場所から南西にある約8kmの小さな町であるロック・バレーの当局者は、町の飲料水の井戸をすべて停止させた。町はロック・バレーの農村水系から水を供給した。ライアン郡保安官は、地区の飲料水は汚染の危険性はないと思われるという話だったが、住民をあずかる町は、アイオワ州天然資源省の検査で町の飲料水の安全性が確認されるまで農村水系から取り入れるとした。

■ 6月24日(日)の時点で、脱線した石油タンク車のうち7輌を別な場所へ移動し、10輌から油を抜いた。移動したところには、油が広がらないよう堤を作っている。クリーンアップに参加している作業員は200名という。

■ 6月25日(月)、BNSF鉄道によると、脱線した石油タンク車32輌のうち24輌から油を抜き取ったといい、うち14輌はかなり損傷している石油タンク車からだった。残りの8輌は油漏れを起こしておらず、すでに線路から移動されている。しかし、作業をしているメンバーによると、6月27日(水)までにカラになることはないという。線路の復旧は6月26日(火)までに終える目標だという。
(写真はSiouxcityjounal.comから引用)
(写真はSiouxcityjounal.comから引用)
補 足 
米国アイオワ州の位置
(写真はNizm.co.jpから引用)
■ 「アイオワ州」(Iowa)は、米国中西部に位置し、人口約305万人の州である。地形は平坦ではなく、うねりのある丘陵で構成されている。
 「ライアン郡」(Lyon County)は、アイオワ州北西隅に位置し、人口約11,500人の郡である。
 「ドゥーン」(Doon)は、ライアン郡の南部に位置し、人口約600人の町である。BNSF鉄道はドゥーンを通過している。

■ 「BNSF鉄道」は、旧バーリントン・ノーザン・サンタ・フェ:Burlington Northern Santa Fe:BNSF)で、テキサス州のフォートワースに本社があり、1996年に運行を開始し、米国の中西部から西部にかけて50,000kmの路線網を保有している。米国では、ユニオン・パシフィック鉄道(UP)に次いで第2位の鉄道会社である。2009年、BNSF鉄道はバークシャー・ハサウェイ社(Berkshire Hathaway Inc)の傘下になった。
BNSF鉄道の線路網
(写真はJa.wikipedia.orgから引用)
■  石油タンク車で大きな事故は、つぎの事例である。
 この脱線事故では、石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こし、47名の死者を出した。このときに使用されていたタンク車が「DOT-111型」で、当時から安全性に問題があることが指摘されていた。 DOT-111型の設計上の問題は、タンクのヘッド部およびシェルが破損しやすいことなどである。
 その後も、石油タンク車の事故は続き、ラック・メガンティック列車脱線事故後、半年も経たずに、アラバマ州アリスビルで石油タンク車が脱線し、湿地帯に大量の油流出を起こした。オンタリオ州ゴガモでも同様の事故があり、2015年3月の1か月間に2回の石油タンク車の脱線があり、マカミ川に2度の油流出があった。2017年7月には、イリノイ州プレーンフィールドで45,000ガロン(170KL)の油流出を起こす石油タンク車の脱線事故があった。  

DOT-117型タンク車の改善点
(図はScoopnest.comから引用)
■ 米国では、石油タンク車の安全化が思うように進まない状況が続いていたが、2017年、議会は鉄道業界に対して、危険物や引火性液体を輸送するDOT-111型タンク車を段階的廃止するよう命じた。また、国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board)は、できるだけ早く、DOT-111型タンク車を「DOT-117型」タンク車へ交換するように求めた。「DOT-117型」はDOT-111型の問題点を改善した機種である。
 今回のドゥーンの事故は、鉄道輸送上、石油の輸送を安全化するとした新型のDOT-117型タンク車による最初の事故である。しかし、今回の事故は、アイオワ州の川に871KLの油を流出させたということを考えれば、この種のタンク車が絶対安全ではないことを明らかにしたという意見もある。

所 感
■ 今回の事故で、負傷者が出なかったことや流出油の半分はオイルフェンスに囲い込まれているという報道に、なぜそのようなことがいえるのだろうという疑問をもったが、かなり早い段階に撮られた一枚の被災写真によって理由が分かった。(写真は前出)
 ● 脱線したタンク車より進行方向側に無事な何輌かのタンク車が見える。すなわち、機関車と何輌かのタンク車が増水に曝される線路を通過したあと、あるタンク車が脱線したものである。洪水で増水し、線路の土盤が十分な強度を保つことができず、石油タンク車の重さに耐えることができなかったと思われる。従って、先頭の機関車にいた運転手はケガをしなかった。
 (なお、脱線したタンク車の後方に無事なタンク車の列が見える)
 ● 流出油のかなりの部分は、線路と郡道に囲まれる三角形の増水エリアに留まっているのが分かる。このことにより、流出油の半分はオイルフェンスに封じ込まれたというコメントになったと考えられる。

■ 脱線したタンク車は将棋倒しで覆いかぶさる様相を呈している。かなりの速度が出ていたものと思われる。タンク車は、カナダのラック・メガンティック列車脱線事故で使用されたDOT-111型でなく、新しいDOT-117型であったが、このタンク車が絶対安全ではないことを明らかになったという意見がある。一方、 DOT-111型タンク車だったならば、被害はもっとひどいものになっただろう。

■ 米国では、石油パイプラインとともに、広大な土地を縦横に鉄道輸送するのが日常の状況とはいえ、洪水で線路の際まで増水している中を、貨物列車を高速で走らせる考え方が理解できない。狭い日本であれば、走らせないか、あるいは最徐行で確認するのではないだろうか。


備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Desmoinesregister.com,  Lowa Train Derailment: Hazmat Team on Scene after Oil Leaks into River,  June 22  2018
    ・Desmoinesregister.com,  230,000 gallons of Crude Released into Floodwaters after Train Derailment, Railroad Says,  June 23  2018
    ・Ecowatch.com, Derailed Train Spills 230,000 Gallons of Crude Into ,  June 25  2018
    ・Cbc.ca,  Cleanup Underway after Train from Alberta Derails in Iowa, Leaking Crude Oil into Floodwaters,  June 23,  2018
    ・Desmoinesregister.com, Seven Cars Removed after Train Derailment, Oil Spill; Cleanup and Railroad Repair to Follow,  June 24,  2018
    ・Apnews.com,  Crude Oil Leaks into Floodwaters after Train Derails in Iowa,  June 22,  2018
    ・Nytimes.com, The Latest: Estimated 230,000 Gallons of Oil Spilled,  June 23,  2018
    ・Kttc.com, Train Derailment Leaks Crude Oil into Rock River near Doon, IA,  June 23,  2018
    ・Globalnews.ca,  About 870,000 Litres of Crude Oil Leaks into Iowa Floodwaters after Train Carrying Oil from Alberta Derails,  June 22,  2018
    ・Reuters.com,  Nearly Half of Iowa Crude Oil Spill Contained, BNSF says,  June 25,  2018
    ・Washingtonpost.com , The Latest: Cleanup of Oil from Derailment in Iowa Begins,  June 22,  2018
    ・Kiwaradio.com, FOURTH UPDATE: Railroad Says 230,000 Gallons Of Crude Leaked Into Floodwaters,  June 23,  2018
    ・Argusleader.com, Train Carrying Oil Derails in Northwestern Iowa, Prompting Evacuations, Clean-up,  June 22,  2018
    ・Wpta21.com,  Train derailment leaks crude oil into Rock River near Doon, IA,  June 22,  2018
    ・Mprnews.org,  Crude Oil Leaks into Floodwaters after Train Derails in Iowa,  June 23,  2018
    ・Rt.com , Major Oil Spill Spreads across Iowa Floodwaters, Forcing Evacuations after Train Derails (VIDEO),  June 24,  2018
    ・Siouxcityjournal.com, Railroad reopens track at oil spill derailment site in Northwest Iowa's Lyon County,  June 26,  2018
    ・Siouxcityjournal.com , Northwest Iowa oil spill not expected to disrupt water supplies downstream,  June 25,  2018
    ・Resilience.org,  Derailed Oil Train Spills 230,000 Gallons of Tar Sands in Flooded Iowa River,  June 27,  2018
    ・Progressiverailroading.com , USDOT Publishes First Report on Tank-car Fleet Composition,  September 25,  2017


後 記: 今回の事例は、アイオワ州で洪水に見舞われている中で起こった事故のためか、予期したほどセンセーショナルな伝え方をされていませんでした。かなり多くの報道がありましたが、通信社の情報をもとにしたものが多く、淡々とした同じような内容のものでした。人口約600人ほどの町の話ですし、ライアン郡としても約11,500人の地域のニュースだと、こんなものなのでしょうか。脱線後のクリーンアップの状況もやっと見つかったという感じです。なお、アイオワ州の事故を扱うのは初めてです。