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2024年4月16日火曜日

愛知県の武豊火力発電所でバイオマス燃料が爆発・火災(調査)

 今回は、愛知県武豊町にあるJERAパワー武豊合同会社の武豊火力発電所で2024131日に起きた爆発事故について現場調査が行われ、2024321日(木)にその内容が報告されたので、事故経緯とともに紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、愛知県武豊町(たけとよ・ちょう)にあるJERAパワー武豊合同会社の武豊火力発電所である。武豊火力発電所は、東京電力と中部電力が出資している電力会社「JERA」に電力を供給している石炭火力発電所で、2022年からバイオマス燃料として使われる木質ペレットも燃料として取り入れ始めた。

■ 事故があったのは、発電事業者であるJERAに電力を供給している設備所有者のJERAパワー武豊合同会社が所有している武豊火力発電所5号機である。火力発電所で使う燃料(石炭・木質バイオマス)を貯蔵するバンカー設備である。施設内には6つのバンカーがあり、このうちのひとつを木質ペレット専用に割り当てている。事故があったのは、木質ペレット専用のバンカーで、当時、このバンカーには300トン程度の木質ペレットが保管されていた。


<
事故の状況および影響
>

事故の発生

■ 2024131日(水)午後3時頃、武豊火力発電所で爆発が起きた。爆発のあと建物から炎と黒い煙があがった。

■ 住民から「爆発音があり、黒煙が上がっている」と消防に通報があり、消防隊が出動した。消防車など16台が出動した。

■ 近くの住民のひとりは、「午後3時すぎ、家にいるときにドーンという音がして家が揺れて、ベランダから外に出たら火力発電所が黒い煙を上げながら燃えていました。その後、『石油コンビナートで火災が発生しました』という町内放送も聞こえ、消防車がたくさん集まっています」と語った。

■ 武豊町は、発電所での爆発と火災を受け、町内に設置されている防災行政無線を通じて住民に対し、「煙が回る可能性があるので、ドアや窓を閉めてください」と注意を呼びかけた。 

■ 発電所の5号機が運転していたが、火災を受けて、午後329分に運転を停止した。武豊火力発電所によると、中部電力管内の電力の供給について「現時点では安定供給できると考えている」と述べた。  

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。当時、敷地内にいた職員ら約220人に怪我はなかった。

■ 武豊火力発電所を運営する㈱JERA社は、燃料の貯蔵設備が出火元とみられると発表した。火元は、燃料となる木質ペレットをためておく鋼製の円筒バンカー(直径10m×高さ35m)で、当時、内部には約300トンの木質ペレットが入っていた。バンカーについている温度センサーが通常20℃のところ、55℃まで上がっており、外壁の損傷もバンカー付近が最も大きかったという。

■ ユーチューブでは、事故を伝えるテレビの映像などが投稿されている。主な動画はつぎのとおり。

  Youtube「高さ76メートルのはるか上まで炎が 火力発電所が爆発した瞬間の映像 近くの住人「ガラス窓がガタガタ揺れた」 」2024/02/01)  

  ●Youtube「武豊火力発電所の火災はなぜ起こった? 専門家に聞く 「燃料自体は危険ではないが保管や運搬などの過程によって発熱の可能性」2024/02/02

  ●Youtube、「【火力発電所が爆発】瞬間映像火柱、黒煙、熱風も何が? 運営会社が「おわび」

2024/02/01)  

  ●Youtube、「全国で火災や発煙13『バイオマス発電所』でなぜ事故が相次ぐのか 専門家が指摘する可能性」2024/02/01

被 害

■ 火災によってバンカー設備を含む18階建て建屋の一部と燃料運搬用のベルトコンベヤーが損壊した。(バンカー囲い~中継タワーJT7の範囲で著しい損傷があった)

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ 住民に対して、煙が回る可能性があるので、ドアや窓を閉めるよう、注意喚起が呼びかけられた。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因はバイオマス燃料による粉塵爆発とみられる。

 ● バイオマス燃料運搬中に、粉塵濃度の高いAバンカー投炭装置下部~バンカー内部で爆発が発生し、ベルトコンベヤー(BC9)~中継タワー(JT8)へ爆発が伝播した。

 ● 着火源は、投炭装置スクレーバー部の機械的摩擦(昇降台カバーとベルトの摩擦)による発熱とみられる。あるいは、燃料中の異物による部材への衝突着火の可能性もあり、引続き調査中である。

< 対 応 >

■ 発電所内の火災は、約5時間後に制圧され、131日(水)午後8時すぎに鎮火した。

■ 21日(木)午後240分頃、ベルトコンベヤー付近において再び出火していることが確認されたため、公設消防に通報され、消火活動が行われた。火災は午後330分過ぎに鎮火に至った。この再出火は1度目の火災で損傷したベルトコンベヤー内の木質燃料に残り火があり、それに引火したとみられる。

■ 木質バイオマス燃料を混焼する武豊火力発電所5号機は20228月に営業運転を開始したが、バイオマス燃料に起因する発煙事象が過去にも起こっており、監視や清掃を強化する取り組みを行ってきたという。同発電所では、20228月、9月、20241月にコンベヤーなどで発火の事故が起きたといい、今回の爆発・火災事故によってリスクが改めて浮き彫りとなった。

■ 有識者は、昨今、バイオマス発電での火災事故が目立ってきていると指摘し、再生可能エネルギー拡大のためには、バイオマス発電の安全対策を洗い出し、今後につなげていく必要があるという。

■ 木質ペレットなどのバイオマス燃料は、素材が木質であることから燃えやすい性質を持っているうえに、ペレット状なのでいったん燃え出すと、燃料全体の温度が上昇して鎮火が容易ではない特徴を持つ。特に輸入したバイオマス燃料については、国内の輸入審査が甘いことから、不純物を含んだ質の悪いバイオマス燃料をつかまされるケースも起きている。

 木質ペレットなどのバイオマス燃料は、経済産業省の固定価格買取制度(FIT)で使用燃料ごとに発電電力の買い上げ価格が設定されており、2022年に発覚したベトナムのバイオマス燃料輸出業者の不正では、FITにより年間100億~160億円前後のバイオマス電力事業者への過払いが発生していた可能性が指摘された。だが、経産省は十分な調査をしないまま済ませてきた。

■ 25日(月)、JERA社は火災原因を究明する事故調査委員会を設置したと発表した。委員会のメンバーは、委員長にJERA社の副社長、JERA社の4名、バイオマスに詳しい名古屋大の成瀬教授の5人で構成するほか、他にも社外からの人選を調整している。また、オブザーバーとして経済産業省中部近畿産業保安監督部が加わる。

■ 2024321日(木)、JERA社は、経済産業省で開催された「第20回 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 電気設備自然災害等対策ワーキンググループ」において131日に発生した武豊火力発電所における火災事故の調査状況を報告した。主な報告内容は、事故の概要(事故発生の時系列、火災による主要設備の損傷範囲)、武豊火力発電所における火災事故調査委員会による現在までの調査結果と推定原因、今後の調査内容・スケジュールである。 JERA社は、引き続き、武豊火力発電所における火災事故調査委員会において、火災事故の調査・分析にもとづく原因追究と再発防止を検討していくという。

■ 321日(木)に報告された調査に関する内容はつぎのとおりである。

 < 設備の概要 >

 ● 関係設備である運炭設備、バンカー囲い、投炭装置の概要を図に示す。

 < 設備の損傷状況と爆発の関係 >

 ● 最初の爆発は、構内監視カメラの映像によってAバンカー投炭装置付近で発生している。

 ● 爆発はベルトコンベヤーを伝播して、約1.6秒で中継タワーJT8へ到達した。その後、延焼し続け、約18分後に中継タワーJT7へ達した。

 ● 着火場所とみられるAバンカー投炭装置~バンカー内部には、Aバンカーの天板に膨らみがあるほか、投炭装置のBC9ABC9Bのケーシングに爆発による変形(膨らみ)があった。また、 BC9ABC9Bの投炭装置案内板が上方への浮き上がり(変形)があり、爆発は投炭装置下部で起きたとみられる。

 ● 着火源は、投炭装置のBC9Bの昇降台カバープレート部に変色がみられ、摩擦・発熱の可能性が考えられる。あるいは、燃料中の異物による部材への衝突着火の可能性もあり、引続き調査中である。






 < 爆発の推定原因 >

  ● 事故はバイオマス燃料による粉塵爆発とみられ、着火場所はAバンカー付近である。なお、バンカー囲い~中継タワーJT7の範囲以外の設備には著しい損傷は認められなかった。

  ● 事故は、投炭装置内部で粉塵濃度が爆発下限以上になり、着火源によって装置内部で爆発(一次爆発)が発生して、投炭装置外部に粉塵が飛散することで、バンカー囲い内や建屋内で爆発(二次爆発)が発生したと推定する。

  ● 粉塵爆発の過程はつぎのように推定する。

   ①閉空間であるバンカー囲い内やコンベヤー・中継建屋内において、投炭装置内やバイオマスバンカー内で可燃性粉塵が浮遊する閉空間が形成し、着火源によって引火して一次爆発が発生

   ②一次爆発によって装置内部で拡散・浮遊、さらに粉塵が装置外部に拡散・浮遊

   ③飛散した粉塵によって閉空間の粉塵濃度が上昇、爆発で発生した着火源で引火し、二次爆発が発生

 < 要因分析・評価結果 >

  ● 着火源に関する要因、粉塵源・粉塵飛散・浮遊に関する要因、粉塵以外の要因について要因分析を行い、その評価結果を図に示す。


 < 法令適合の状況 >

  ●関係法令と適合状況の確認を表に示す。







   < 今後の予定 >

  ● 今後の調査項目と調査内容は表に示す。

補 足

■ 「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されている。

 バイオマス発電に関してこのブログでは、つぎのような事故を紹介した。

 ● 20192月、「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」

(● 20196月、「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」

 ● 20226月、「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」

 ● 20233月、「関西電力㈱舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」

 ● 20239月、「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」

(● 20239月、「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の住民説明会」

 ● 202310月、「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果」

 ● 20241月、「愛知県の武豊火力発電所でバイオマス燃料が爆発・火災」 

■「武豊火力発電所」は、1966年に1号機、1972年に2号機から4号機が運転を開始したが、老朽化に伴って1号機から4号機を廃止し、代わりに環境への配慮などから石炭と木質バイオマスを混ぜて燃やす新たな設備を導入し、20228月から5号機として運転を開始した。燃料となる石炭や木質バイオマスは貯蔵施設からベルトコンベヤーでボイラーの周辺へと送られる。

所 感 (今回)

■ 今回の資料は写真や図を多用し、被災箇所や着火源などわかりやすく作成されている。要因分析も粉塵爆発だという推定でみれば、うまくまとめられている。

 一方、バイオマス燃料の木質ペレットには、粉塵爆発のリスクのほか、木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生リスクがある。木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生リスクは本当に無かったかという点について疑問が残る。たとえば、事象発生までCO計濃度の上昇が無かったとしているが、CO計の設置位置は適切だったのか、あるいは粉塵環境のなかでCO計が正しい値を示していたのかという点である。CO計に疑問が出れば、バンカー下部に木質ペレットが堆積していた可能性の要因が出てくる。

■ 前回、つぎのような疑問点を提示したが、今回の調査結果によれば、下線部の内容になり、疑問の残った項目もある。 

 ● 受入建屋、コンベヤー、バンカーには、木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生の可能性のある貯槽機能をもった設備で、この対策が必要である。  法令適合の状況では、バンカーには温度検知器およびガス検知器(CO計)を設置し、監視しているという。

 ● 受入建屋、コンベヤー、バンカーには、発酵による可燃性ガスを検出するようなガス検知器や温度監視計器は適切に機能するシステムを設置する。危険性を検知したら、回避の対応ができる方策が必要である。  同上。発熱兆候があれば、バンカー内のバイオマスの掻き出しを実施するという。  

 ● バンカーには温度計が設置されていたが、温度上昇に対応できていない。  要因分析で温度上昇についてコメントされていない。報道では、「バンカーについている温度センサーが通常20℃のところ、55℃まで上がっている」と報じられているが、要因分析などでは温度センサーに関するコメントはまったくない。

 ● 受入建屋、コンベヤー、バンカーには、粉塵発生のリスクに対して、粉塵爆発を防止する集塵機などの機器を設置する。  要因分析では、集塵機の能力不足の可能性があり、集塵能力を評価中だという。

 ● バイオマス燃料の質的転換をやってしまったのではないか。   要因分析では、バイオマス燃料の調達経緯についてコメントされていない。

 ● 運転管理の面でいえば、バイオマス燃料の自然発火を検知する監視システム(温度検知や一酸化炭素検知など)を装備していると思うが、この監視システムが正しく管理されていたか。1年の実績だけで監視システムをやめたりして、自然発火の要因を見逃したのではないだろうか。  法令適合状況では、建設時に1回、運転開始以降に2回の木質ペレットの発煙事象が発生している。その対応として安全確保のために適切な措置を講じているという。しかし、適切な措置の内容はコメントされていない。

 ● 木質ペレットが粉塵の出やすい種類に変更されていなかったか。  要因分析では、事故時の木質ペレット(米国産)について分析評価中だという。

 ● 1年余の運転実績では、受入搬送設備(受入建屋、コンベヤー、バンカー)に粉塵が多量に発生するような変化はなかったか。  要因分析では、事故時に搬送していた米国産ペレットだったという。現在、燃料を分析し、評価中だという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Nhk.or.jp,  愛知 武豊町 火力発電所火災 燃料を貯蔵する設備付近が火元か,  February  01,  2024

    Jera.co.jp,  武豊火力発電所における火災発生について(第1報~第5報),  January 31February  01,  2024

    Jera.co.jp,  木質バイオマス燃料を使用する当社火力発電所における緊急点検の実施結果について, February  02,  2024

    Yomiuri.co.jp,  愛知・武豊火力発電所の火災、出火元は燃料貯蔵設備か「木質ペレット」300トン保管, February  01,  2024

    Bloomberg.co.jp,  バイオマス発電所で相次ぐ火災、JERA武豊火力は過去3度発煙, February  01,  2024

    Jiji.com,  JERA武豊火力発電所で火災 ボイラー施設爆発、けが人なし愛知, January 31,  2024

    Nagoyatv.com,  火事の影響で5号機は発電を停止 復旧のめどは立たず 武豊火力発電所, February  01,  2024

    Asahi.com,  爆発音と震動に「地震が来たかと思った」 JERA火力発電所で火災, January 31,  2024

    Xtech.nikkei.com,  木質ペレット燃料が原因でまた火災事故、JERAは火力発電所を緊急点検, February  01,  2024

    News.yahoo.co.jp, 愛知の発電所火災、燃料入るバンカー火元か 通常20→55度に, February  01,  2024

    Rief-jp.org,  JERAの愛知・武豊火力発電所で爆発・火災事故。超々臨界圧火力発電(USC)にバイオマス混焼方式。バイオマスが火災要因の可能性。JERA1年半前に茨城県でもバイオマス火災発生, January 31,  2024

    Chunichi.co.jp, 武豊火力発電所の火災、中部電力など出資のJERAが事故調査委を設置, February  05, 

    Jera.co.jp,  131日に発生した武豊火力発電所における火災事故の調査状況について, March  21,  2024

    Jera.co.jp,  武豊火力発電所における火災事故について(第20回電気設備自然災害等対策ワーキンググループ資料, March  21,  2024


後 記: 今回の資料を最初に見て感じたことは、さすがに保安規定を司る経済産業省(中部近畿産業保安監督部)が関わる(オブザーバーですが)と、りっぱな調査報告書が出されるものだということです。それはそうでしょう、バイオマス発電所では、これまで東京電力、関西電力、中部電力という大手電力会社が直接あるいは間接に事故を起こしているのですから、真剣にならざるを得ないでしょう。ただ、調査報告の内容を読んでいくと、なにかすっきりしないものが残ります。なぜだろうと考えてみると、要因分析や法令適合状況を読むと、設計者の観点からの見方であり、発電所の保守や運転の実績・経験からの分析が希薄だったからです。

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