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2023年10月9日月曜日

米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果

 今回は、202399日(土)に起きた米子バイオマス発電所の燃料受入搬送設備の爆発・火災事故について102日(月)に行われた鳥取県と米子市によって結成された調査チームが原因調査結果を発表したので、その内容について紹介します。前半はこれまでの概況を記載し、原因調査結果の内容は「対応」の項に記載しています。なお、事故の内容は「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」2023918日)「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の住民説明会」2023927日)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、鳥取県米子市大篠津町にある米子バイオマス発電所合同会社の米子バイオマス発電所である。

■ 事故があったのは、火力発電所で使うバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備である。輸入される木質ペレットは、境港に荷揚げ後、専用のトラック(コンテナ)で運ばれて鉄骨建屋(135㎡)内の受入搬送設備に受け入れる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202399日(土)午前925分頃、バイオマス発電所で爆発が起き、火災が発生した。

■ 爆発によって受入搬送設備の建屋の壁が吹き飛び、木質ペレットを燃料貯留槽に運ぶエレベータが燃えた。

■ 発災に伴い、消防署の消防隊が出動するとともに米子バイオマス発電所従業員が消火活動を開始した。約3時間50分後の午後115分頃に鎮火した。

■ 912日(火)、米子市長は、 20235月以降の相次ぐ火災で住民に大きな不安を与えているとし、米子バイオマス発電に対して、つぎのような申し入れを行った。

 ● 安全確保上、必要な場合を除き、運転を停止すること。

 ● 火災などの事故原因の究明を行ない、再発防止策を確実に実施すること。

 ● 事故とその後の対応状況について、地域住民への説明を行ない、信頼回復に努めること。

 ● 上記の対応を終わるまでは、運転を再開しないこと。

■ 事態を重くみた鳥取県は、米子市などとともにバイオマスに詳しい専門家や消防の関係者などからなる調査チームを立ち上げた。調査チームは921日(木)に現地調査を行った。

被 害

■ 鉄骨製の燃料受入れ建屋1棟約135㎡とエレベータ1基約75㎡が焼けた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 原因調査結果は、つぎのとおりである。(鳥取県・米子市による専門家の調査チーム)

 ●「爆発」については、①木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)、②建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)、の2つの可能性がある。

 ●「火元(着火)」は、①電気系統の火花(施設内で発生した静電気や火花)、②コンベアの潤滑油の摩擦、③木質ペレットの自然発火、の3つの可能性がある。  

 ● これらのどの組み合わせで今回の火災事故となったのかを特定するには至らなかった。

< 対 応 >

■ 102日(月)、鳥取県の調査チームが現地調査の結果を知事に報告した。調査チームの公立鳥取環境大学の田島正喜教授は、火災事故の原因のうち、 

 ●「爆発」については、①木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)、②建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)、の2つの可能性を示した。

 ●「火元(着火)」は、①電気系統の火花(施設内で発生した静電気や火花)、②コンベアの潤滑油の摩擦、③木質ペレットの自然発火、の3つの可能性を示した。  

 ● ただ、これらのどの組み合わせで今回の火災事故となったのかを特定するには至らなかった。

■ 調査チームは、現在の安全基準では事業者に瑕疵があったとは言えないとして、国に安全基準の強化を要望するよう求めた。鳥取県知事は、「考えられるすべての原因に対応するのが求められる安全対策だと思う。今回の調査結果をもとに、国に対してバイオマス発電所の安全基準づくりを働きかけていきたい」と述べ、国に対して事業者への指導を要望するとした。これを受けて鳥取県は、104日(水)に経済産業省や消防庁などに要望する。 

■ ユーチューブには、鳥取県の調査チームの説明状況を伝えたメディアの動画が投稿されている。     

 YouTube,「原因は静電気や摩擦熱などか、バイオマス発電所火災 現地調査の結果を平井知事に報告(鳥取市)」2023/10/02

 ●YouTube「バイオマス発電所爆発事故 調査チームが報告」2023/10/03

補 足

■「米子バイオマス発電所」は、20186月に「米子バイオマス発電合同会社」として設立され、木質バイオマスを燃料とした出力約54,500kWの発電所で、山陰両県(鳥取・島根)最大規模のバイオマス発電施設である。施設は20198月に着工し、202242日に商業運転を開始した。 「米子バイオマス発電合同会社」は、中部電力㈱ (名古屋市) 、三菱HCキャピタル㈱ (東京都) 、東急不動産㈱ (東京都) 、シンエネルギー開発㈱ (群馬県) 、三光㈱ (境港市)の5社が出資している。(事業体の構造図を参照)

 米子バイオマス発電所の事業は、シンエネルギー開発㈱が開発を進めてきたもので、バイオマス専焼発電所を建設・運営する。東急不動産㈱と三菱HCキャピタル㈱ が100%出資子会社を通じて、共同で本事業会社のアセットマネジメント(資産運用)業務を行う。また、中部電力㈱とシンエネルギー開発㈱は、本事業会社のプロジェクトマネジメント業務を受託している。そして、運転および保守は中部電力系の㈱中部プラントサービスが行っている。


■ 推定原因をみると、使用燃料(木質ペレット、パームヤシ核殻;PKS)に関する設計上の課題があるとみられる。このような施設の設計・建設では、事前検討会やリスク分析(評価)が行われ、社内のいろいろな意見を聞き、必要な対応がとられる。公共的な施設の場合、社内だけでなく、社外の審議会が行われる。例えば、出光興産㈱徳山事業所のバイオマス発電所の計画では、2020年山口県周南市環境審議会の各委員の意見に対して事業者の回答 「出光興産株式会社徳山事業所バイオマス発電所新設に伴う環境保全対策について」が公表されている。使用燃料に関連する質問と回答は表を参照。(詳細は、「周南市環境審議会(令和2910日~925日)各委員の意見に対する回答 「出光興産株式会社徳山事業所 バイオマス発電所新設に伴う環境保全対策について」 を参照)

注;なお、NHKの報道では、「爆発と着火の原因を組み合わせた複合的な原因で爆発に至ったとみられる」と報じたが、今回のような木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)の要因と、建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)の要因のふたつは生成過程が異なり、複合的な原因という言葉は誤解を与える。二つの原因が考えられるが、どちらとも断定できなかったということである。

所 感

■ 今回の鳥取県の調査チームによる原因調査結果は釈然としないが、この結果が正しいとすれば、バイオマス発電所の受入搬送設備は燃料(木質ペレット、パームヤシ核殻)に関してふたつのリスク、すなわち木質ペレットの自然発火(木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生)のリスクと、木質ペレットによる粉塵爆発のリスクが存在していたことになる。従って、受入搬送設備(受入建屋、バケットエレベータ)はこのふたつのリスク回避の対策が必要になるが、つぎのような疑問がある。

 ● 受入建屋には、燃料貯留槽と同様の貯槽機能(木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生の可能性)があるような設備なのか。

 ● 受入建屋には、発酵による可燃性ガスを検出するようなガス検知器や温度監視計器は設置していなかったのか。

 ● 検出する計器が設置してあったとすれば、機能する種類だったのか。

 ● 受入建屋は、粉塵発生のリスクに対してどのような設計が行われていたか。

 ● バケットエレベータには、粉塵爆発を防止する集塵機などの機器は設置されていなかったのか。

 ● 木質ペレットは粉塵が出やすい種類に変更されていなかったか。

 ● 1年半の運転実績では、受入搬送設備(受入建屋、バケットエレベータ)に粉塵が多量に発生するような変化はなかったか。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     News.yahoo.co.jpBSS山陰放送), 米子バイオマス発電所で「爆発」事故調査報告 着火・爆発原因の可能性は示されるも特定には至らず,  October  2,  2023

     News.yahoo.co.jp (さんいん中央テレビ), 原因は静電気や摩擦熱などか「バイオマス発電所」火災 現地調査の結果を平井知事に報告(鳥取市),  October  2,  2023

     Nhk.or.jp, 米子のバイオマス発電所火災複合的原因で爆発に調査チーム,  October  2,  2023 

     Nnn.co.jp, 粉じんかガス爆発か 米子バイオマス発電所火災事故 調査結果を知事に報告,  October  3,  2023


後 記: 原因調査結果は意外に早く出されました。実際には、102日(月)に調査チームによる鳥取県知事への報告がメディアへの情報公開されたものです。しかし、説明時間が15分間という時間制限もあり、内容は各メディアで少しずつ違っていました。この種の公的機関による事故調査結果がテレビなどで情報公開されるのは、日本ではめずらしいことです。よく理解できないので、原因調査結果の詳細が県や市のウェブサイトなどで掲載されるのを待ちましたが、ダメでした。代わりにインターネットでバイオマス燃料による発電所についていろいろ調べました。面白い話題(しかし、事故に直接関連しない)もありましたが、時間を費やしただけでした。それで、受入搬送設備に関する疑問についてまとめました。

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