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2021年12月13日月曜日

ハワイの米海軍・地下燃料貯蔵タンク施設が飲料水汚染で運営停止

 202156日(木)、米国ハワイ州オアフ島にある米海軍のレッドヒル燃料タンク貯蔵施設で油漏れがあり、原因調査結果は、20211029日(金)に公表された。その後、20211130日(火)、米軍基地の住民や職員などに供給している飲料水が油に汚染されていることが分かった続報について紹介します。「ハワイの米海軍・地下燃料貯蔵タンク施設で人為ミスによる油流出」202111月)を参照)

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、米国ハワイ州(Hawaii)オアフ島(Oahu)にある米海軍のレッドヒル燃料タンク貯蔵施設(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)である。施設の建設は1940年にさかのぼり、地下燃料貯蔵タンクが20基あり、最大貯蔵容量は252百万ガロン(953,820KL)である。

■ 事故があったのは、 施設内にある地下燃料貯蔵タンク系の設備である。地下燃料貯蔵タンクは1基の容量が12.5百万ガロン(47,300KL)で、パイプラインによって約2.5マイル(4 km)離れた真珠湾の米海軍基地に接続されている。

■ レッドヒル燃料タンク貯蔵施設にもっとも近い飲料水用の立て坑は約3,000フィート(910m)離れたところにあり、真珠湾ヒッカム合同基地の軍の家族らに水を供給する水源である。つぎに近い飲料水用の立て坑は約1マイル(1,600m)離れたハラワ(Halawa)にあり、ハワイ州水道局がホノルル市に飲料水を供給している。2つの立て坑はいずれも米海軍が運営している。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202156日(木)、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設から油漏れが発生した。

■ 米海軍によると、漏洩した油はジェット燃料で、漏洩量は1,000 ガロン (3,785リットル)以上 という。

■ 米海軍は、「封じ込めシステムは施設内に燃料を封じ込めるように設計されており、燃料が環境に放出された兆候はありません」と述べていた。

 

■ パイプラインにサージ圧力(ウオーターハンマー)が発生し、部品が破損した。

■ 内部の油が外部の下部アクセス用トンネル内に1,618 ガロン(6,125リットル)漏洩した。うち38ガロン(144リットル)は回収できず、土壌に浸出して土壌汚染した可能性がある。 

■ 事故に伴う人的な被害は無かった。

■ 20211130日(火)、米軍真珠湾ヒッカム合同基地に供給している水道水が油で汚染されていたことが分かった。(油漏洩の事故との相関は分かっていない)

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、オペレーターの人為ミスである。燃料移送運転中、オペレーターが燃料ラインのバルブを閉じるときに正しい手順に従わなかったため、システム内にサージ圧力(ウォーターハンマー)が発生し、パイプライン中の部品が吹き飛ばされて燃料が放出された。

< 対 応 >

■ 2014年にタンクNo.5から27,000ガロン(102KL)以上漏洩するという事故が起こった。タンクは飲料水用の帯水層から100フィート(30m)上にあるため、施設が重要な水源を汚染する可能性があるのではないかと懸念が生じていた。この帯水層から得られる水はホノルルの都市部で消費される飲料水の4分の1を供給している。今回の油漏洩のニュースは燃料タンクの信頼性に関する住民の懸念を新たにしていた。

■ 漏洩原因の調査が、海軍供給システム司令部(Naval Supply Systems Command)の海軍石油局(Naval Petroleum Office)によって行われた。調査結果は、20211029日(金)に公表された。それによると、ジェット燃料の漏れは地下燃料貯蔵タンクからではなく、パイプラインからのものであるという。

■ 漏洩原因は、オペレーターが燃料移送運転中、燃料ラインのバルブを閉じるときに正しい手順に従わなかったため、システム内にサージ圧力(ウォーターハンマー)が発生し、パイプライン中の部品が吹き飛ばされて燃料が放出されたものだった。

■ 米海軍は、実際に漏洩した燃料の量は1,618ガロン(6,125リットル)であるといい、38ガロン(144リットル)を除いてすべて回収したと発表した。そして、地下燃料貯蔵タンクは、事故が起こっている間、損傷を受けておらず、その後実施されたタンク健全性試験に合格したと付け加えた。

■ 回収できなかった燃料は一部が土壌に浸出した可能性がある。1,618ガロン(6,125リットル)の燃料は施設の下部アクセス用トンネルに流出し、海軍は38ガロン( 144リットル)の燃料を回収できなかったと思われる。

■ 米海軍は、燃料移送手順中に制御室におけるシステムオペレーターをさらに配置するなど、再発防止の安全対策をとった。

■ 202110月、海軍はタンク内に新しいライニングを追加するか、2045年までに撤去することを提案した。この撤去の提案は以前の合意から7年遅いものだった。これに対して、ハワイ州の健康省と環境保護庁は計画案を拒否した。現在、米海軍のタンクに関する改造計画に反対する訴訟があっている。ハワイ州はタンクの完全な撤去と移設を求めている。

水道水の汚染

■ 20211130日(火)、米軍真珠湾ヒッカム合同基地の施設の水道水を使用している小学校2校を含めた基地の住民や職員など約1,000世帯の人がガソリンのような臭いを訴えたことをハワイ健康省が発表した。水道水を飲んだ後、けいれんや嘔吐などの症状が出た人もいるという。翌121日(水)、水のサンプルのひとつから石油分が検出され、住人は飲用、調理、口腔衛生のための代替の水源を見つけるよう促された。

■ 123日(金)、米海軍はレッドヒル燃料タンク貯蔵施設の近くにある井戸から採取したサンプルに石油が含まれており、ケミカル(石油)はその井戸から来ていることを発表した。米海軍は「十分な注意」規定のため1128日(日)から井戸(飲料水用)を閉鎖していると語った。

■ 米海軍は石油が水に浸入する原因については明らかにしていないが、AP通信は消火システムの排水管からレッドヒル燃料タンク貯蔵施設の下部トンネル内に水と油の混合液が漏れたと報じている。当時、米海軍は、事故の際に燃料が環境に漏れていないと述べていた。

■ 米海軍は、汚染源はレッドヒル燃料タンク貯蔵施設からわずか半マイル(800m)のところにあるレッドヒル水系の立て坑であるとみている。

■ ハワイ州知事は、「飲料水の汚染が確認されたテスト結果によって、米海軍が第二次世界大戦時代の施設を実際には有効に運営していないということを示している。海軍はこの危機に立ち向かい、修復する間、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の運営を直ちに停止するようを求める 」という声明を出した。

■ ハワイ州の水道局は、「レッドヒルの水源を閉鎖したことについて海軍からただちに通知されなかったことを遺憾に思う」と述べている。

■ 123日(金)、ハワイ州水道局は、飲料水汚染の予防的措置として、飲料水源のハラワの立て坑を閉鎖した。

■ 海軍は、排水系統をきれいな水でフラッシングして、残っている石油を水から取り除くとし、最大10日間かかる可能性があると語った。また、石油がどのようにして上水道に流入したかを調査することも約束した。

■ 126日(月)、ハワイ州の健康省は、地下貯蔵タンク系の漏洩や運転によって「人の健康と安全または環境に差し迫った危険」が生じた際に対応できる知事の権限にもとづき、燃料施設の運営を停止するよう海軍に命じた。同省は、海軍は命令に上訴できると語った。

■ 126日(月)、米海軍は、ホノルルの飲料水のほぼ20%を供給するハワイの帯水層の上にあるレッドヒル燃料タンク貯蔵施設の使用を停止すると発表した。海軍長官は真珠湾の記念行事のため、ハワイを訪れていたが、「ひどい悲しい出来事」と呼んだ事故の影響を受けたすべての人たちに謝罪すると語った。海軍がレッドヒル燃料タンク貯蔵施設を永久に閉鎖することを検討しているかどうか質問に対して、海軍長官はすべての可能性が調査されていると答えている。

■ 米海軍によると、国防総省は2006年以来、施設の更新と環境試験の実施に2億ドル(220億円)以上を費やしてきたという。

■ 128日(水)、海軍長官は、石油が海軍の飲料水系にどのように浸入したかについての調査が終了し、海軍が運用しているレッドヒルとハラワの飲料水用立て坑の閉鎖が続くまで、貯蔵タンクの運用を停止するよう命じた。

■ 汚染された飲料水を使った家族の中には、燃料の臭いが始まってから1週間後に、発疹、胃の問題、めまい、喉の痛みなどの症状が出たという。

■ 米軍は汚染された飲料水の家に住む人たちのために飲料水を配布しているほか、ホテルの部屋を手配した。129日(木)の午後には、軍のコミュニティセンターにホテルの部屋を申請している人たちが並んでいた。

補 足

■ 「ハワイ州」(Hawaii)は、中部太平洋に浮かぶハワイ諸島にあり、人口約1,360万人の米国の州である。

「オアフ島」(Oahu)は、ハワイ諸島のひとつで、ホノルル郡に属する人口約90万人の島である。オアフ島のホノルル市(人口約35万人)が州都である。

■ 「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設」(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)は、米国が第二次世界大戦に入る前に、真珠湾にある地上式の燃料貯蔵タンクの脆弱性について懸念を抱き、1940年に大量の燃料を貯蔵でき、敵の空中攻撃から安全な新しい地下施設を建設することとされた。レッドヒルは均質な玄武岩で地下タンクに適している。当初は4基の大きな横型の地下タンクを建設する予定だったが、計画の過程で、建設と掘削が同時に行える竪型に変更された。 3,900人の労働者が24時間無休のプロジェクトで、レッドヒルの建設中の194112月に日本による真珠湾攻撃が行われたが、1943年に操業が開始された。 20基の地下貯蔵タンクで構成されており、うち23基は、通常、清掃・検査・修理のために空になっていて、現在、180百万ガロン(68KL)の燃料を貯蔵している。貯蔵されている燃料は船舶用ディーゼル、JP-5JP-82種類のジェット燃料の3種類である。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設を紹介する動画がYouTubeに投稿されている。(YouTube, RH Trailer(2016/10/07)を参照)

■「地下燃料貯蔵タンク」は、厚さ1/4インチ(6.3mm)の鋼板の溶接構造の単層タンクシステムで、外側には24フィート(60120cm)のコンクリートで裏打ちされている。すなわち、コンクリート製タンクで鋼板ライニングを施工しているとも言え、 海軍はタンク内に新しいライニングを追加するか、2045年までに撤去することを提案していた。

所 感 (前回)

■ 事故の原因は人為ミスである。燃料移送運転中、オペレーターが燃料ラインのバルブを閉じるときに正しい手順に従わなかったため、システム内にサージ圧力(ウォーターハンマー)が発生し、パイプライン中の部品が吹き飛ばされて燃料が放出されたとしている。

■ しかし、オペレーターが間違いをした要因(間接原因)については言及されていない。燃料ラインのバルブを早急に閉めなければならない何かの事象が起こったのではないだろうか。例えば、初めにパイプラインのフランジ部などから漏洩があり、早急にバルブを閉止するよう指示があった際、あわてて(あるいは正しい手順がとれずに)閉じたということなどである。すなわち、平常運転でなく、異常な状態が起こり、平常時の正しい手順がとれなかったのではないか。長い距離(4km)のパイプラインを操業するオペレーター(軍人でなく、業務委託した民間人という)は、サージ圧力(ウォーターハンマー)についてよく理解しているはずである。

■ 一般に軍事組織は機密を第一義にするため公表しない。その中で、米軍は発表する方で、その内容はウソではないが、真実を語っていない、いわゆる“フェイク”が少なくない 。たとえば、今回の漏洩について「漏れたのは1,618ガロンで、38ガロンを除いてすべて回収した」と練られた説明になっており、回収できなかった38ガロンを曖昧にしている(蒸発なのか、外部の土壌に浸出したのか) ここにメディアの取材による真実への取組みに期待する点である。

所 感 (今回)

■ 202156日(木)に発生したレッドヒル燃料タンク貯蔵施設の油漏れが意外な展開をしている。レッドヒルの海軍運営の飲料水源が油汚染によって、米軍基地の住民や職員など約1,000世帯の人に身体の不調を訴えるという事態になった。しかも、皮肉なことに海軍長官が127日の真珠湾記念行事のためにハワイを訪れており、不満の矛先が海軍長官に向けられ、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の運営を停止するという発言に至った。

■ しかし、これまでの一連の動きを考えれば、問題先送りのしっぺ返しだといえる。 80年前の溶接施工技術やコンクリート技術を今の技術で見たときには、このままではいつか破綻する時期がくるだろうと思っていたが、こんなに早い展開になるとは思っていなかった。

 周南市(旧徳山市)には、旧日本海軍が建設した12基の覆土式地下タンク(最大は内径88m×深さ10m×容量50,000KL)があったが、戦後、解体・埋め戻された。しかし、今も川(雨水排水路)に油が浮くことがある。排水路には常時オイルフェンスが展張され、油の回収が行われている。旧地下タンクやパイプラインから漏洩した油が地中に残存しているらしいが、どこから流れてくるか分からないという。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設が日本の覆土式地下タンクと同じとは断言できないが、地下タンクから漏れた油は外(土壌側)から見えない。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設でも、過去に漏れた油が土壌に浸透し、徐々に井戸などで顕在化してくるのではないだろうか。

(注;「今も戦時タンク跡から油 山口県周南緑地地下に旧日本軍施設【動画】」(中国新聞2020/10/23)を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Operator error caused US Navy’s Hawaii tank farm leak,  October 29, 2021

    Militarytimes.com, Navy says operator error caused Hawaii pipeline leak,  October 27, 2021

    Usnews.com, Navy Says Operator Error Caused Hawaii Pipeline Leak,  October 26, 2021

    Hawaiinewsnow.com, Another leak prompts new calls to shut down Navy’s massive Red Hill fuel storage facility,  May 08, 2021

    Civilbeat.org, Navy Says Fuel From Red Hill Pipeline Likely Leaked Into Soil After Human Error,  October 26, 2021

    Nhregister.com, Navy says operator error caused Hawaii pipeline leak,  October 26, 2021

    Hawaiipublicradio.org, 700 Gallons Of Fuel Recovered After Leak At Navy's Red Hill Storage Facility, May 07 , 2021

    Staradvertiser.com, Navy confirms 1,000-gallon fuel release at Red Hill, May 07 , 2021

    Khon2.com, Data shows contamination in soil spiked after Red Hill fuel leak despite Navy claims, May 25 , 2021

    Usatoday.com, Navy suspends use of military tank farm above Hawaii aquifer after petroleum leak, December 06, 2021

    Abcnews.go.com, Navy halts use of fuel storage complex above Hawaii aquifer, December 07, 2021

    Ctvnews.ca, U.S. Navy contests Hawaii's orders to suspend, drain fuel tanks, December 07, 2021

    Military.com, Navy Halts Use of Fuel Storage Complex Above Hawaii Aquifer, December 07, 2021

    Businessinsider.com, Hawaii governor orders the Navy to shutdown its WWII-era fuel storage facility at Pearl Harbor after petroleum leaks into water supply, December 08, 2021

    Navytimes.com, Navy secretary suspends operations at Red Hill fuel storage facility following water contamination, December 10, 2021

    Tankstoragemag.com, US Navy suspends Hawaii fuel storage site, December 07, 2021

    Hawaiinewsnow.com, Navy fights state order to shut down and empty Red Hill fuel tanks, December 08, 2021

    Spectrumlocalnews.com, Honolulu Board of Water Supply shuts down its Halawa shaft, December 03, 2021


後 記: 今回の飲料水汚染の報道は、前回の油漏れの事故に比べて米国の主要メディアも大々的に報じています。大事故ではないのに、なぜ海軍長官の発言をメディアが紹介しているのだろうと不思議でしたが、後になって分かりました。海軍長官が127日(日本では太平洋戦争の真珠湾攻撃は128日ですが、時差の違いで米国は127日)の真珠湾記念行事のためにハワイを訪れたためでした。表現は適切ではないですが、飛んで火にいる夏の虫のような感じです。しかも、被害者が軍の家族であり、汚染問題が発覚するまでの海軍の情報公開や対応がまずかったようで、多くの不満が出ています。今回の飲料水汚染問題は米軍の中の内輪もめの様相です。しかし、どのような調査結果が出るか分かりませんが、これからは水源汚染を恐れる(実際に汚染が発生してしまいましたが)ハワイ州に対して米軍がどのような対応をしていくのでしょうか。

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