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2021年4月11日日曜日

インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災

  今回は、2021329日(月)、インドネシア西ジャワ州インドラマユ県バロンガンにあるプルタミナ社のバロンガン製油所で落雷によるとみられるガソリン貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、同じ防油堤内にあった他の貯蔵タンク3基も火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)西ジャワ州(West Java)インドラマユ県(Indramayu)バロンガン(Balongan)にあるインドネシア国営石油会社;プルタミナ社(Pertamina)のバロンガン製油所である。バロンガン製油所は首都ジャカルタの東200kmほどの場所に位置し、精製能力は125,000バレル/日である。

■ 事故があったのは、製油所の貯蔵地区のあるガソリン貯蔵タンク(機器番号; T‐301G)である。発災時には、約23,000KLのガソリンを貯蔵していた。なお、この貯蔵タンクのエリアは2ヘクタールの面積に4基(T-301ET-301FT-301GT-301H)のタンクがあり、共通の防油堤で囲まれている。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021329日(月)深夜の午前045分頃、バロンガン製油所で爆発があり、大規模な火災が発生した。

■ 住民のひとりは、「ものすごい轟音(ごうおん)が聞こえて、炎が異常な高さに噴き上がっているのが見え、空に向かってそそり立つようだった」と語った。

■ 火災はガソリン貯蔵タンク(T-301G)で発生し、近くの2基のタンクに延焼し、貯蔵タンク3基が燃え、タンクの上空には、厚い黒煙が立ち昇った。

■ 発災に伴い、バロンガン製油所の自衛消防隊のほかインドラマユ地区消防局の消防隊が出動し、消防活動を行った。

■ 事故に伴い、 15人が負傷した。負傷者の中には、火災発生時に近くを通りかかり、やけどを負った人もおり、病院で治療を受けた。現地の災害当局によると、爆発後に心臓発作でひとりが死亡した。なお、3人が行方不明となっているという情報もある。

■ 事故に伴い、近隣の5つの村落(バロンガン村、スカレハ村、ラワダレム村、スカウリップ村、テガルルン村)が影響を受け、住民約950人が避難した。こうした中、プルタミナ社と警察は連携し、地元の住民や従業員の避難を促し、緊急避難テントを設置した。新型コロナウイルス対策によって煩雑な救援活動が必要で、複数の異なるキャンプに避難した。  

■ プルタミナ社によると、火災は悪天候の中で起き、「原因は不明だが、当時、激しい雨と雷が発生していた」と述べている。

■ プルタミナ社は、火災について防油堤内に限られており、周囲への延焼は防げるとしているが、製油所の操業を停止し、火災の拡大を防ぐための措置を講じている。燃料供給への影響は生じていないという。

■ ユーチューブでは、爆発時の状況やドローンによる火災時の映像が流されている。主な2件はつぎのとおりである。

 YouTube,Video Viral! Ledakan Keras Dari Kilang Minyak Pertamina Balongan, Terdengar Dari Radius 10 KM2021.3.29

 ●YouTube,KEBAKARAN | Loji Penapis Minyak Terbakar, Ratusan Dipindahkan2021.3.29

被 害

■ 人的被害は負傷者15名である。爆発後に心臓発作でひとりが死亡した。なお、3人が行方不明となっているという情報もある。近隣の村の住民約950人が避難した。

■ ガソリン貯蔵タンク4基が損壊し、内部のガソリンが焼失した。焼失量は94,500KLとみられる。


< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。プルタミナは事故原因の追及するため、インドネシア当局と協力して調査チームを結成した。

■ 暫定的には、雷を伴った大雨の中で、落雷により火災が発生したとみられている。

■ 一方、西ジャワ州の警察は、火災前に現場で漏洩があったという情報に注目している。漏洩の処理をしている間に落雷があったというので、何が引火して火災になったのか調べているという。 

< 対 応 >

■ 330日の火曜日中に、2基のタンク火災が消えたという情報が流れているが、実際は防油堤内のタンク4基の火災が続いている。

■ 331日(水)午前130分頃、タンク1基の火災が消えた。午前630分頃に燃焼していたタンク1基の火災が消え、つづいて午前830分頃にタンク1基の火災が消えた。消防隊は火災が消えた3基のタンクの冷却を続ける一方、残ったタンク(T-301F)の消火活動を行った。331日(水)午後までに4基のタンクはすべて火災が消えた。

■ プルタミナ社によると、 331日(水)午後までに、影響を受けた4基の貯蔵タンクの火災は鎮火したという。消火活動には泡消火剤が使用された。火災が消えた後、被災箇所の冷却過程に入っている。

■ 被災したのは貯蔵タンクのある地区の一部で、全貯蔵量135KLのうち7%(94,500KLに相当)が失われた。精製を行うエリアの被害はなかった。

■ 製油所の操業は45日後に再開する見通しである。

■ 331日(木)に火災が消えたといわれていたタンク1基が、木曜の午後8時頃、再燃したという。

■ ユーチューブでは、ドローンによる鎮火後の映像が流されている。

 YouTube,Potret Kondisi Terkini Kilang Minyak Balongan2021.4.2)


補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国といい、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

 「西ジャワ州」(West Java) は、ジャワ島の西部にあり、人口約4,990万人の州である。

 「インドラマユ県」(Indramayu)は、西ジャワ州の北に位置し、人口約170万人の県である。

 「バロンガン」(Balongan )は、インドラマユ県の西に位置し、人口約38,000人の町である。

■ 「プルタミナ社」(Pertamina)は、1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

「バロンガン製油所」は、プルタミナ社の保有する6つの製油所のひとつで、1994年に操業を開始した。リアウ州のドゥリ油田(Duri)とミナス油田(Minas)からの原油を処理し、ジャカルタとジャワ島西部地域に燃料を供給している。製油所内には、72基のタンクがあり、総容量は135KLである。

 プルタミナ社の事故例は、つぎのとおりである。

 ● 201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

■ 国有石油会社のプルタミナが保有する6箇所の製油所の製油能力は合計85万バレル/日で、現時点ではまだ国内消費量の半分にしか対応できていない。インドネシアは、2015年、国内の製油所の機能拡張や建設工事を国家戦略プロジェクトに認定し、総額450億米ドル(約5兆円)を投じて製油能力を倍増させると意気込んだが、実際には計画の遅れが目立ち、多くが一時保留あるいは白紙化しつつあるという。このため既存の製油所に頼らざるを得ない状況が続いている。

■「発災タンク」 (T‐301G)は事故時にガソリンを23,000KL保有していたという情報だけで、容量やサイズは報じられていない。グーグルマップで調べると、直径約55mである。高さを18mと仮定すれば、容量は40,000KL級の外部式浮き屋根タンクである。従って、発災時の液位は10mだったとみられる。この防油堤内には同じ径のタンクが4基あるが、いずれも火災になっており、どのタンクが最初に発災したかは分からない。   焼失したガソリン量は全部で94,500KLといわれている。発災タンクの23,000KLを除けば、残り3基のタンクには平均23,800KL入っていたことになる。

■ 消防活動の写真を見ると、「大口径ホース」と「大容量泡放射砲」が使用されている。放射能力は大きさから20,00030,000リットル/分ではないだろうか。

■ 発災が329日(月)午前045分頃で、最初に消火したのが331日(水)午前130分頃である。これが同一のタンクかどうか分からないが、同一タンクとすれば、全面火災時の「燃焼時間」は約49時間である。ガソリンの燃焼速度を33/hとすれば、液位10mは約30時間で燃え尽きることになる。最後に消えたタンクは331日(水)の午後であるので、燃焼時間は60時間ほどになる。この60時間で燃え尽きたとすれば、液位は約20mとなる。これらから、各タンクの液位は10m20mの間で、燃焼時間は4960時間だったと考えられる。(液位20mは最初の仮定高さ18mと異なるが)最初の発災タンクは屋根沈降で「障害物あり全面火災」という推定はあっても、残りの3基が「障害物あり全面火災」だったとは考えにくい。また、331日(木)に鎮火したタンク1基で再燃しているので、一部燃料が残っていたと思われる。

所 感

■ 火災の引火原因は落雷によるものだとみられる。配管の漏洩に落雷があったという見方もあるが、やはりタンクへの直雷の可能性の方が高いと思う。また、火災規模が大きいことを考えれば、豪雨で浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降したのではないか。浮き屋根沈降の例は、つぎのとおりである。

 ● 20178月、「テキサス州バレロ社のタンク浮き屋根沈降による環境汚染」

   ハリケーン・ハービーの豪雨によって、テキサス州でタンク浮き屋根が沈降した事例は少なくとも11件あったという。このほか、教訓として参考になる事例はつぎのとおりである。

 ● 20077月、「フランスで原油タンクのダブルポンツーン型浮き屋根が沈没」

 ● 201211月、「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」

 ● 20052月、「九州石油大分製油所のタンク浮き屋根の沈没事故」

■ NASAの雷マップ(データは最新でないが)によると、インドネシアのジャワ島付近は雷の多い地域のひとつである。通常、豪雨で浮き屋根の沈降があっても、環境問題は発生するが、引火してタンク爆発・火災になることは少なかった。しかし、最近は豪雨や雷の強さが大きくなっており、今回のように浮き屋根沈降が引き金になってタンク火災を起こす可能性があるように思う。

■ タンク火災の消火活動は困難だった。今回のように複数タンク火災(しかも4基)であれば、輻射熱が激しく、近寄ることさえ難しかっただろう。タンクの被災写真を見ると、いずれもタンク側板が内側に座屈しており、長い時間火炎に曝されていたことがわかる。燃焼時間からみると、消火活動によって消火させたというより、ガソリン燃料が燃え尽きるような状態になったあと、消火させたものとみられる。しかし、浮き屋根の下部に残っていたガソリンで再燃したタンクが1基あった。消火後も冷却していたらしいが、冷却が不十分だったと思われる。

■ 消火活動に大容量泡放射砲が使用されている。直径55m級のタンク全面火災であれば、日本の法律によると20,000リットル/分の大容量泡放射砲システムでよいことになる。使用された大容量泡放射砲はこれ以上の放射能力を有したものだったと思うが、複数タンク火災の輻射熱で放射距離がとれず、火災の盛んなときは有効に働いていないと考える。火災の勢いが弱まった以降に使用されているが、大容量泡放射砲を必要以上に長く放射すると、タンク屋根の浮力能力を超え、浮き屋根が沈降する恐れがある。この点、複数タンク火災時における大容量泡放射砲システムの運用方法(消火戦術)について考えさせられる事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Jp.reuters.com,  インドネシアの製油所で大規模火災、5人負傷・950人避難,  March  29,  2021

    Jakartashimbun.com,  プルタミナ製油所で火災  鎮火まで3,  March  30,  2021

    Afpbb.com,  製油所で大規模火災、5人重傷・1000人避難 インドネシア,  March  29,  2021

    Nna.jp, プルタミナ製油所火災が鎮火、再開にめど,  April  01,  2021

    News.lifenesia.com, プルタミナのバロンガン製油所で火災、900人超が避難,  March  31,  2021

    Voi.id,  バロンガンのペルタミナ石油工場火災で3人が行方不明,  March  29,  2021

    Bbc.com, Indonesia fire: Massive blaze erupts at oil refinery,  March  29,  2021

    Thejakartapost.com, Fire at Pertamina's Balongan oil refinery will not impact operations: CEO,  March  29,  2021

    Ogj.com, Explosion, fire hit Pertamina’s Balongan refinery,  March  30,  2021

    Channelnewsasia.com, Indonesia's Pertamina puts out fire in Balongan refinery storage units,  March  31,  2021

    Aljazeera.com, Fire at Indonesia’s Balongan oil refinery prompts evacuations,  March  29,  2021

    Tankstoragemag.com, Pertamina Balongan fire is out,  April  01,  2021

    Pertamina.com, Pertamina Put Forth the Effort to Extinguish the Refinery Tank Fire Incident at the Balongan Refinery,  March  29,  2021

    Pertamina.com, Pertamina Accelerates Investigations to Ensure Incident handling at the Balongan Refinery,  April  01,  2021

    Reuters.com, Indonesia Pertamina aims to restarts refinery in days after blaze,  March  30,  2021

後 記: 今回、しばらくぶりの大型タンクの火災事故です。調べていくうちに、タンク所有者や消防機関に対して問題提起されるような課題のある事故だということが分かりました。発災の原因、複数タンク火災の要因、大容量泡放射砲システムの有効性などです。一方、新型コロナウイルスによる取材制限とインドネシアの国情によって状況の詳細情報がはっきりしません。負傷者の人数はもちろん、2番目以降のタンクが火災になった時間や鎮火した時間さえもメディアによってバラバラです。事実(らしい)事項を抽出しましたが、これからのタンク火災の原因追及と調査結果の公表を望みたいですし、今後の情報公開をウォッチングしておきたいと思いました。

2 件のコメント:

  1. m.miyake様
    初めまして。
    とある製油所でプロセス安全の業務をしている者です。
    本サイトではいつも勉強させていただき、大変感謝しております。
    現在、弊社のリスクアセスメント活動の中でも落雷によるリスクについて注目しており、早期発見および十分な消火設備や戦術を検討していきたいと考えておりますが、リスクを定量化するにあたり国内における落雷によるタンク火災の発生確率の評価に苦労しております。私の所属しているチームの考えとしては雷の発生確率がわずかに低い以外は、海外と日本では大きな差はないものと考えているのですが、社内には「タンクの構造が海外とちがうのでは?」とか「日本はアースが十分に取れているのでは?」といった意見もあり、発生頻度の合意に苦労しております。
    貴殿の見識や調査すべきポイントなどをアドバイスいただけるとありがたいと思っております。
    以上、よろしくお願いいたします。

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  2. 「インドネシア中部ジャワ州の製油所のベンゼン・タンクが火災」のブログを読んでいただいた読者から質問がきて回答しましたが、回答先が「noreply・・・blogger.com」となっており、メールアドレスではないようなので、届いたかどうかわかりません。解決したならば結構ですが、いまも疑問があれば、myk-man@agate.plala.or.jpへ回答先をご連絡ください。

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