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2021年2月27日土曜日

ロッテルダムは固定消火システムの代替策としてモバイル・システムを採用

  今回は、オランダのロッテルダムにある統一産業消防本部が、タンク火災に対して固定消火システムの代替策としてモバイル・システムによる消火システムを選択し、実際に資機材と車両を具体化した内容を紹介します。

< はじめに >

■ オランダのロッテルダムにある統一産業消防本部(Unified Industrial Fire Department of Rotterdam)は、タンク火災に対して固定消火システムの代替策として、モバイル・システムによる消火システムに投資し、開発を行っている。

< 開発の背景 >

■ オランダは小さな国かも知れないが、この国には欧州最大の港であるロッテルダム港がある。にぎやかな港には、毎年、多くの貨物を積んだ船が集まっている。その中には、危険物質をいっぱいに積んだ船もある。また、この港は貯蔵タンクのある製油所や化学プラントなどの産業を引き付けている。実際、ロッテルダムには、シェル社が欧州最大の製油所を操業しているほか、BP社やエクソン社の製油所もある。

■ 可燃性や爆発性の液体で満たされたタンクが非常に多いので、管轄エリア(60 km×20 km)の港は大規模なタンク火災や堤内火災の危険性にさらされている。ここで一旦火災が発生すれば、港湾事業が停止し、経済的損失が発生し、環境への悪影響を引き起こす恐れがある。

■ ロッテルダムの統一産業消防本部は、この地域を安全に保つことを任務とする官民合同の消防部署である。この消防部署には、地方自治体、ロッテルダム-レインモンド消防署、ロッテルダム港周辺で危険物を取り扱っている産業が含まれ、都市部に関わらず、輸送ルート沿いの製油所、化学施設、タンク基地における火災や流出事故などに共同で対応する。

■ 統一消防本部のマネジメント・チームのメンバーであるA.J.クレイジェット氏(A.J. Kleijwegt)は、タンク火災からこの地域の安全を保つことは大きな仕事だと話し、つぎのように説明している。

「オランダはまことに小さな国ですが、港湾施設は大きく、企業は互いに近くにあります。都市部も工業地帯に極めて近い状態です。タンク火災を23日間放置することさえ現実にできません。この港では、毎日380,000人が働いています」

■ オランダ政府はリスクを認識し、2016年にタンク火災や堤内火災に関連する新しい規制を設けた。新しい法律は、貯蔵タンクを所有する企業に高価な固定消火システムの設置を要求するものである。 

< 代替案の選択 >

■ 投資コストが高くかかるため、統一産業消防本部のクレイジェット氏に代替案を模索する道を選ぶこととした。 クレイジェット氏は、モバイル・ソリューションの機能が発達してきており、現状を踏まえれば、これが良い選択だということを2019年の後半になって当局に納得させた。「当局は、モバイル・システムによってタンク火災を迅速に低コストで消火できるか確認するために1年の時間を与えてくれました」とクレイジェット氏は述べた。

■ その年の間、クレイジェット氏は、過去のタンク火災とその結果、熱輻射の影響、安全に対応人員を送り込めるかを調査した。クレイジェット氏は、 「私たちは過去の火災の特徴や規模を検討し、そして最終的には、当局にロッテルダム港におけるタンク火災についてモバイル戦略を受け入れるよう説得しました」と言い、「企業も、高価な固定消火システムに投資する必要がないため、この計画に賛成しました」と述べている。

■ 固定消火システムの応答時間は優れており、消火するよう設計された火災だけには対応できる。一方、対照的にモバイル・システムはどんなときにも常に利用可能である。「固定消火システムの応答時間は数秒で、おそらく1分です。それに比べて私たちのシステムの反応が遅いのは事実です」とクレイジェット氏は認めているが、「固定消火システムは常に機能するだろうと仮定しています。しかし、タンク火災が発生するときには、常に理由があります。それは爆発であるか、あるいはほかの理由があります。固定消火システムはどのように反応するでしょうか? 事象が起こったとき、固定消火システムは100%機能するという保証はありません」 と語った。

■ 消防署とモバイル・システムは一日24時間年中無休で活用できる。統一産業消防本部はこの地域で8つの消防署を運営しており、そのうち6つに24時間体制で人員を配置している。これらの消防署から消防隊は6分以内にすべてのタンクに関して事故の対応ができる。

■ タンク火災は複雑な事象であり、消火、冷却、ベーパー発生の抑制のために、大量の水と多くの消火用泡剤が必要となる。共同消防署のマネージング・ディレクターであるジャンウァールス氏は、「モバイル・システムは給水に優れています。それで、私ども消防隊は消火用水と泡を供給する役目を果たすことができます。泡薬剤も私どもは約200KL準備しています」と話している。

 < 新しいモバイル・システムの開発 >

■ 統一産業消防本部は約600万ドル(66,000万円)を投資して、貯蔵タンクやタンク基地のためのモバイル・システムについて資機材と車両に具体化した。

■ 最初に、統一産業消防本部はダイナミックに動ける適応性のある戦略を検討した。システムは、迅速に動き、人員(消防士)にとって通常の業務に近く、そして何よりも安全である必要があった。

■ 消防本部のリーダーは、消防士が給水にすばやくアクセスできる水中ポンプとホース展張システムを含む最善の方法を決定した。消防本部では、過去に他の用途で水中ポンプを使用したことがあった。

■ 統一産業消防本部のクレイジェット氏は、つぎのように説明している。

「水中ポンプは思っている以上に短時間で機能します。私どもはかつて、優れた水源である港湾当局の給水船を使ったことがありますが、それほど早く使えるようになりませんでした。給水の確立に4時間かかったこともあり、これでは余りにも時間がかかり過ぎです。水中ポンプを使えば、1時間以内で給水を確立できます」

■ 統一産業消防本部はドローンを採用した実績もあり、人員を危険にさらすことなく、タンク火災や堤内火災に関する情報を収集するための遠隔操作火災モニターとして配備する予定である。ドローンによって詳細な状況を把握でき、消防隊がタンク火災時の戦略を決めたり、変更するのに役立てることができる。

■ 統一産業消防本部のクレイジェット氏は、つぎのように話している。

「私どもはドローンを2年間使用し、非常に良い経験をしました。ドローンは泡の覆いの状況や効果を私どもに示してくれます。ホットスポットの状況を確認でき、泡モニターの放出効率を把握して、泡モニターの方向を変える必要があるか、あるいは泡モニターを交換する必要があるかを確認できます。ドローンは煙と風向を見極めることもでき、これによって風が煙を遠いところへ運ぶ可能性を知る上で重要です」 

■ 火災からの輻射熱の問題は常に懸念事項であるが、このドローン機器を使用することで、消防隊は安全な距離から無駄なことをせずに火災と戦うことができる。

■ 統一産業消防本部のクレイジェット氏は、つぎのように述べている。

「大規模な火災があれば、火災に近づくことさえ難しい状況になります。しかし、タンク火災を消すのに極端に近づく必要はありません。消防隊は60m離れたところから活動を始め、必要に応じて近づくようにすればよいでしょう。 泡モニターのチームとドローンのチームが協力すれば、この安全性を確保できます」

< 事前の計画と訓練 >

■ 統一産業消防本部のクレイジェット氏は、つぎのように話している。

「私どもの戦略を検討するに際して、ダイナミックで、柔軟かつ迅速な対応ができることに重点を置いています。タンク火災は危険に満ちたシナリオのようなものです。発生する危険性を理解し、安全に対応しなければなりません。このために、ドローンと泡モニターを配備するようにしました。私どもが計画について考えた3番目のことは事前準備です。ロジスティクス(兵站:へいたん)について配慮した計画にしたことです」

■ 消防士と地域の人たちの安全を保つことが最も大きな配慮事項であり、十分に練られ、テストされた事前の計画が必要である。モバイル戦略に移行するに際して、統一産業消防本部は関係機関や企業に対して事前の計画を調整する必要があった。統一産業消防本部のクレイジェット氏は、「私どもはロッテルダム港におけるすべての貯蔵タンクについて事前の計画を立てています。ロジスティクスの計画では、誰がどこに行き、何をすべきか、そしてどのような順序で行うかを示しています。また、身体を使った訓練だけでなく、システム全体に関するトレーニングの年間計画も作成しています」と語っている。

■ 新しい機材が設置されれば、統一産業消防本部は2021年の後半に各メンバーに特別なタンク火災訓練を実施する予定である。統一産業消防本部のクレイジェット氏は、「私どもは、新しい戦略のもとで幹部のトレーニングを行わなければならないし、すべての企業が同じ方向を向くようにしなければなりません」という。

■ 統一産業消防本部は、トレーナー養成計画にもとづいて新しいシステムについて各メンバーをトレーニングする予定である。また、各メンバーは、新しく泡薬剤、ポンプ、ホース、泡モニターの各取扱い方法を学ばなければならない。統一産業消防本部のクレイジェット氏は、「私どもにとって遠隔操作火災モニターはまったく新しい機材なので、すべての担当者が操作できるようにトレーニングしなければなりません」と説明した。

■ ロッテルダムの統一産業消防本部では、大規模なタンク火災に多くは遭遇していない。2017年の製油所火災、リムシール火災、爆発後のタンク全面火災など過去に何件かの事故と戦ったことがある。

■ この地域は幸運だったといえよう。迅速な対応によって大事故にならず抑え込まれてきたが、タンク火災は複雑であり、適切な計画と準備、そして事故時の人員・資機材の配備が必要である。統一産業消防本部は将来起こるであろう大きな事故に対する準備を進めており、安心しているとクレイジェット氏は話している。

 

■「爆発後のタンク全面火災」の事故とは、20177月に起こった「オランダで入荷作業時にメタノール貯蔵タンクが爆発」の事例である。ブログでは、全面火災になっていないのではないかと書いたが、実際には、短い時間だろうが、全面火災になったようである。また、タンクには、サブサーフェース注入式の固定消火システムが設置されていたが、泡が堤内に漏れ出たようである。

所 感

■ ロッテルダムで採用した“モバイル・システム”の消火システムとは、移動式(モバイル)消火設備とドローンに搭載したモバイル機器(カメラなど)を活用したシステムを組合わせたものである。移動式消火設備は日本の大容量泡放射砲システムと同様の構成(泡放射砲、消火用水ポンプと水中ポンプ、泡混合設備、大径ホース)と思われる。

■ この導入の背景には、貯蔵タンクに固定消火システム設置の義務化(法令)がある。法令の不遡及の原則から考えれば、既設の貯蔵タンクに適用されず、経過措置がとられると思われる。しかし、貯蔵タンクの対象基数や一旦発生してしまった火災の影響を考えれば、できる限り早く何らかの代替策をとる方向性になったものであろう。

■ 日本では、固定消火システムや化学消防車など三点セットの設置が法令化されている。しかし、三点セットの化学消防車が有効に機能しなかった事例から、2004年に大容量泡放射砲システム導入の法令化が行われている。一方、日本の状況からみれば遅れているとみえるオランダのロッテルダムでは、さらにドローンに搭載したモバイル機器(カメラなど)を活用した消火システムを導入しようとしている。前回のブログで「放水能力22,700リットル/分を有する大型化学消防車」が登場したことを紹介したが、消火設備は着実に進歩している。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, The Unified Industrial Fire Department of Rotterdam Invests in Mobile System to Fight Tank Fires,  February 17, 2021

    Kappetijn.eu, Lessons learned Methanol Tank fire, June 26th 2017


後 記: モバイル・システムという言葉を目にしたときは、ドローンによるモバイル機器を活用した消火システムだと思いました。そうではなく、固定消火システムに対する移動式の消火システムでした。最近、言葉のとらえ方が個々人でやや異なり、定義が曖昧になってきたように思います。技術の進歩によって、消火分野の言葉の中には、モバイルのようにどちらを指しているのか迷うものが出てきました。このほかに“モニター”があります。これまでは、泡モニターをいう言葉でしたが、ドローンの出現により、監視モニターを指している場合があります。今回の資料でも、単に“モニター”と言っている場合があり、はっきりと泡モニターとか監視モニターというべきだと感じました。

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