今回は、 2019年2月6日(水)、山形県上山市にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所であった水素タンクの爆発事故について、原因を調査していた産業技術総合研究所(産総研)の報告を山形新聞が記事に掲載したので、この内容を紹介します。これまでの状況や調査は、つぎのブログを参照してください。
●「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」(2019年2月)
●「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」(
2019年6月)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山形県上山市(かみのやま市)金谷の工業団地にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所である。この発電所は木のチップを使う木質バイオマスガス化発電で、2018年12月に完成し、2019年3月末に発電事業を始める予定だった。
■ 事故があったのは、バイオマスガス化発電所にある燃料用の水素タンク(生成ガスホルダー)である。水素タンクは燃料となるガスを貯めるために設置されており、水素のほか一酸化炭素やメタンなどが貯蔵されていた。
上山市の工業団地周辺 (矢印は事故のあった建設前の場所) (図はGoogleMapから引用)
|
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月6日(水)午後4時10分頃、バイオマスガス化発電所で爆発が起こった。
■ バイオマスガス化発電所の設備の試運転を始めて10分ほどして、水素タンクが爆発した。水素タンクの屋根部(直径3m、厚さ6mm、重さ約500kgの円形の金属板)が飛び、南西に約130m離れた民家の2階部分を突き破った。家の中にいた30代の女性が、衝撃で落ちてきたものに頭をぶつけて首にけがをした。
発電施設で発生した爆発事故による建物被害は13地点の計16棟に上った。窓ガラスが割れる被害は、施設から約450m離れた民家でも確認された。
■ 試運転を担っていたのは木質バイオマス発電施設などの設計・施工を請負った「テスナエナジー社」で、事故当日は午後4時ごろから、試運転に向けた作業を進めていた。
バイオマスガス化発電所と爆発のあったタンク(矢印) (写真はSakuranbo.co.jpから引用)
|
被 害
■ 人的被害として、住民1名が負傷した。
■ 発電所の燃料用水素タンク(生成ガスホルダー)が損壊した。
■ 施設を中心に半径約450mの範囲にある建屋で16棟に被害が出た。有害物質の漏洩は無かったと思われ、環境への影響はない。
< 事故の原因 >
■ 産業技術総合研究所(産総研)による原因調査が行われ、事故の直接原因は、配管内の酸素の追い出しが不十分なまま発電エンジンを起動させたことで、エンジンの火がタンク側に逆流する逆火が起き、逆火防止装置が十分機能しなかったことで爆発した可能性が高い。
■ 間接原因として、つぎの事項を指摘した。
● 緊急時を含む操作マニュアルが不完全である。
● 可燃性気体に関する危機意識や知識が不十分だった。
● 配管に酸素濃度計が無かった。
● 逆火防止装置の性能が十分では無かった。
< 事故原因 に対する対策>
■ テスナエナジー社は、9月11日(水)、調査結果を受け、安全対策案を地元関係者に提示した。
● 水素タンクを従来の半分の容量に小型化し、横向きにする。
● 水素タンクの蓋や側壁の強度を高める。
● 水素タンクを半地下構造にして安全柵を設置する
● 住宅側道路に面した側に防護壁を設置する。
● 配管に酸素濃度計を新設する。
● 高性能の逆火防止装置を導入する。
● 高性能の逆火防止装置を導入する。
< これまでの対応 >
■ 4月26日(金)、発電所を運営する山形バイオマスエネルギー社とプラントの設計・施工を担当したテスナエナジー社は、山形県庁で記者会見を開き、事故の調査結果を報告した。
テスナエナジー社によると、爆発はプラントで生成した水素ガスなどを貯めるタンクで起こった。事故原因について配管内の排気が不十分で、この残存酸素と貯蔵タンク内の水素やメタンの混合ガスが結びつき、エンジンから漏れ出した炎が伝って引火、爆発した可能性があると説明した。
■ 5月11日(火)、山形バイオマスエネルギー社とテスナエナジー社は、事故原因の住民説明会(非公開)を開いた。説明会には、事故現場の金谷地区の住民約50人が参加した。
テスナエナジー社は、事故後、県警の実況見分などを受け、住民への謝罪が遅れたことを陳謝した。その上で想定上の事故原因と断った上で、配管内の酸素の排気が不十分で、配管内にあった残存酸素と貯蔵タンク内の水素やメタンの混合ガスが結びつき、エンジンから漏れ出た炎が配管を伝って引火して爆発した可能性が高いと説明した。
■ 9月12日(木)、山形新聞は、関係者への取材で、爆発事故について原因を調べていた産業技術総合研究所(産総研)が調査結果をまとめていたとする記事を掲載した。施設の設計・施工と試運転を担っていたテスナエナジー社と山形バイオマスエネルギー社が住民の要請を受け、専門機関の産総研(茨城県つくば市)に調査を依頼し、結果が8月30日(金)にまとまったという。
補 足
■「上山市」(かみのやま市)は、山形県の南東部にあり、人口約3万人の市である。上山市は、江戸時代には上山藩の城下町や羽州街道の宿場町として栄え、現在は上山温泉で知られる。
■「山形バイオマスエネルギー」は、間伐材や果樹の剪定枝をチップ化し、燃焼させる木質バイオマス発電事業をしている。
同社は、2015年に山形県の建設業・産業廃棄物処理業の㈱荒正と不動産業の㈱ヤマコーなどがバイオマス発電の新会社として設立された。事故のあった発電設備は2018年12月に完成したもので、ガス化方式を採用している。投資総額は約13億円で、年4億円程度の売電収入を見込んでいる。
■「テスナエナジー社」は、2014年に木質バイオマスのガス化プラント事業を専業として設立された会社である。テスナプロセスバイオマス発電システムと特徴である炭化炉・ガス改質炉は図のとおりである。
爆発があったのは、発電設備の前にある生成ガスホルダー(水素タンク)である。
なお、山形バイオマスエネルギーの施設は配管の変更などのため、稼働時期が当初の構想から約2年ずれ込んでいた。当初の構想では、2017年春に操業を開始するとしていたが、熱効率を高めるため配管を変更する必要性が出てきたため、その後に運転開始時期を2018年4月頃に延期した。しかし、各地の発電施設の点検時期と重なり、配管の設置を担当する請負業者が確保できず、工期は再び遅れ、さらに1年ほどずれ込み、稼働開始が2019年の春まで延びていた。
テスナプロセスバイオマス発電システム (図はTesnaenergy.co.jpから引用)
|
■「産業技術総合研究所」(National
Institute of Advanced Industrial Science and Technology)は、2001年に設立された独立行政法人(国立研究開発法人)で、経済産業省所管の公的研究機関である。略称は産総研(さんそうけん)で、3,000名を超える人員を擁している。本部は茨城県つくば市にあり、日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化や、革新的な技術シーズを事業化に繋げるための橋渡し機能に注力するとし、2,300名の研究者が研究開発を行っている。
所 感
■ 産総研によると、「事故の直接原因は、配管内の酸素の追い出しが不十分なまま発電エンジンを起動させたことで、エンジンの火がタンク側に逆流する逆火が起きたとみられ、逆火防止装置が十分機能しなかったことで爆発した」という。これは、前回までの当ブログで述べてきた「試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった」ということである。これについてブログを読んだ方から、「窒素置換は5回することで、爆発下限界4%の1/4まで下がり、爆発しない」という明快な指摘があった。
■
これまで、「試運転を行ったメンバーが、このような非定常運転について十分な知識と経験がなかったのではないか」と指摘したが、今回の調査報告で「緊急時を含む操作マニュアルが不完全である」、「可燃性気体に関する危機意識や知識が不十分だった」と明確にされた。
■ 前回のブログ所感で、「2,000kWクラスというバイオマスガス化発電は新規のプロセス装置と同様である。水素エンジンの逆火対策として設置していた逆火防止装置(具体的には不詳だが)が機能しないという根本問題に立ち返ってしまったのではないか」と指摘したが、今回の対応策では「高性能な逆火防止装置を導入する」という。簡単に「高性能の逆火防止装置」というが、果たして実効のある装置があるのだろうか。
■ 事故を起こしているので、「水素タンクの改造」、「安全柵や防護壁」といった過剰と思われる対応策が提示されている。しかし、「定常運転時のマニュアルのほか非定常運転時のマニュアルの整備」の対応や、最も肝心な「可燃性気体に関する危機意識や知識が不十分だったことへの対応策」はどのように進めるか明確になっているのだろうか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Yamagata-np.jp, バイオマス施設事故の調査結果 専門機関「危機意識や知識不足」, September
12, 2019
・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp, 山形県上山市のバイオマス発電所で発電施設の試運転中、逆火で水素タンク爆発・・・(第3報), September
20, 2019
後 記: 前回の後記で、「県庁で報告しているので、県には報告しているのでしょうが、県のウェブサイトを見ても何も言及されていません。結局、企業がひとり悪者になってるという印象です。再生可能エネルギーの開発を奨励している県や経済産業省や国はどう考えているのだろうかと思います。今回の事故は警察にまかせているのでしょうが、警察にとっても厄介な事案でしょう」と書きました。経済産業省所管の産業技術総合研究所(産総研)が原因調査を行って関わっていたといえるので、この点は間違いでした。
しかし、産総研は事故原因を調査するような組織でないはずですので、慣れない案件で大変だったでしょう。
まして、「試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった」ことが原因という研究所で扱う話ではなかったですからね。本来は、「2,000kWクラスのバイオマスガス化発電は新規のプロセス装置」という研究テーマに関する話を聞きたかったですね。この点に関する課題は「高性能の逆火防止装置」に置き換えられています。これから試運転に移行されることになると思いますが、実証プラントで様々な問題を解決すべきことが予想され、商業プラントとして確立していくのは、相当な苦労がいるでしょう。
ところで、地元とはいえ、山形新聞はこの事故をよく追及していると感心しています。事故発生時は東京の主要メディアが記事にしていますが、原因調査結果を報じたのは山形新聞の一社だけでした。
0 件のコメント:
コメントを投稿