(写真はCenturylink.net
から引用)
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■ 事故があったのは、カルフォルニア州(California)
コントラコスタ郡(Contra Costa)クロケット(Crockett)にあるニュースター・エナジー社(NuStar
Energy)のセルビー・ターミナル(Selby Terminal)である。セルビー・ターミナルは、サンフランシスコ市街地から約30マイル(48km)北東にあって、タンクは24基あり、ガソリン、ディーゼル燃料、航空燃料、エタノールを入れており、総貯蔵能力300万バレル(47万KL)
を有している。
■ 発災があったのは、セルビー・ターミナルのエタノール貯蔵タンクである。
カルフォルニア州コントラ・コスタ郡クロケット付近(矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
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ニュースター・エナジー社のセルビー・ターミナル周辺
(矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
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セルビー・ターミナル(発災前) (写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年10月15日(火)午後2時頃、セルビー・ターミナルにおいて1基のタンクが爆発して火災となった。しばらくして隣のタンクが爆発して火災になったが、爆発の力はすさまじく、タンクの屋根が空中に吹き飛ばされた。
(タンク爆発の瞬間はユーチューブを参照。YouTube「NustarEnergy explosion in Crockett」)
(写真はSfchronicle.comから引用)
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■ 爆発によって大きなファイヤボールが立ち昇り、遠方の建物も揺れ、窓ガラスがガタガタと鳴った。現場近くの住宅では、窓ガラスがひび割れた家もあった。前日に地震があったため、爆発したとき、住民はまた地震が来たように感じたという。
■ 発災に伴い、消防署や近隣製油所の自衛消防を含めた消防隊が出動し、約200名の消防士が消火活動を行った。
■ セルビー・ターミナルの近くを通っている州間高速道路80号線が交通規制で閉鎖された。
■ 当局は、空気汚染の恐れがあるため、住民に避難勧告を出した。すぐに爆発現場近くの地区の住民約20人が避難した。また、予防措置として、この地域の4つの学校が水曜日を休校とした。
■ この地区で働く人たちにけが人はいなかったという。しかし、消防活動中、シェブロンからの応援消防士1名が軽傷を負い、手当てを受けた。
■ 火災発生によって、セルビー・ターミナルは運転を止め、製品の出荷を停止した。
■ 火災は約7時間続いたが、午後9時前に制圧された。
■ ドアと窓を閉めておくように言われていた近隣の住宅は午後6時30分に開けてもよいと告げられた。交通規制で閉鎖された州間高速道路80号線は午後9時30分に再開されたが、車の渋滞は当分続いた。
被 害
■ 固定屋根式タンク(コーンルーフ式タンク)2基が損壊した。また、タンク内部に入っていたエタノール250,000ガロン(950KL)
が焼失した。
■ 事故に伴い、地元住民に避難勧告が出された。また、幹線道路が交通規制で閉鎖され、輸送や住民への影響が出た。
■ 油燃焼によって煙の形で高レベルの粒子状物質が近隣地区に放出され、環境への影響があった。ただし、発災当日に採取した空気サンプルの毒性物質に関するデータは通常の周囲レベルを同じだった。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。
(写真はSfchronicle.comから引用)
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(写真はAbcnews.go.comから引用)
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(写真はKatu.comから引用)
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< 対 応 >
■ 最初にセルビー・ターミナルに到着した消防隊は、ニュースター・エナジー社の対応に失望した。何人かの労働者は現場から逃げ出し、冷却システムは作動していなかったという。また、火災になっているタンクの油種や貯蔵量の情報をすぐには聞くことができなかった。このとき、隣接タンクの1基が爆発し、炎上した。
■ 今回の火災の速さ、激しさ、タンク設置位置から考えると、消防隊の第一陣が到着するまでに施設の冷却システムを作動できなかったとみられている。従業員は試みたかもしれないが、失敗した可能性、あるいは火災のためにコントロールできなかったかもしれないという。火災の原因調査では、冷却システムが作動しなかった理由を特定しようとしている。
■ エタノールは、通常、青い炎を形成するので、消防士はタンク内の油がエタノール以外の燃料と混合しているかも知れないと推定していた。消防隊によると、エタノール火災はガソリンやディーゼル燃料の火災よりも戦うのが難しいというわけではないという。
■ 火災の勢いは激しく、他のタンクの火災が懸念された。消防隊は、火災の拡大を防ぐため、隣接タンクに冷却水を放出した。それとともに、消防車から泡放射を行い、施設に設置されている固定放水システムを介して泡を放射した。
■ 消防隊は泡消火で燃え盛る炎と戦い、航空燃料とエタノールの入った隣接タンクへの延焼を防いだ。消防隊は火炎を消火させても、漏れ出たエタノールに再引火し、一進一退を繰り返した。
■ タンク火災の火の粉によってターミナルに隣接している丘の植生に燃え広がり、この山火事は15日(火)の夜までに15エーカーに及んだ。一時は火災タンクに近いため、山火事への消火活動ができなかった、午後5時30分頃までに出動したのは42の消防隊にのぼった。
(座屈したタンクの火災と山火事の状況がユーチューブで流されている。YouTube「SkyFoxflies over refinery fire in Crockett」を参照)
■ 火災は約7時間燃え続けた後、午後9時前に制圧された。タンクは座屈しており、隣接タンクへの延焼はないと消防は語っている。しかし、念のため再燃しないことを確認するため、消防隊員は現場に残った。
■ 鎮火後、コントラコスト郡消防署は火災の原因調査を始めた。
■ 火災によってガソリンに添加するエタノール貯蔵タンク2基が激しく損傷や破壊を受けた。2基のタンクに入っていた量は極めて少なく、貯蔵能力の1%未満で2基合計で250,000ガロン(950KL)だった。
■ 消防隊は大規模火災を消火するため大量の泡を必要とし、保有していた約15,000ガロン(56,700リットル)の泡薬剤を使用した。保有していた泡薬剤をほとんど使い果たし、緊急で泡薬剤を手配した。
■ 消防隊の消火活動にとって良かったのは、比較的穏やかな天候だったことである。15日(火)の午後、この地域の風は風速2~3m/sと弱く、施設からの煙の拡散を遅らせ、山火事の進行を遅らしたとみられる。また、当時、湿度が比較的高く、気温が低かったことも幸いした。
■ 火災前日の10月14日(月)午後10時33分にクロケットのベイ・エリアでは、マグニチュード4.5の地震が発生している。地震はニュースター・エナジー社セルビー・ターミナルから南東に約15マイル(24km)のところで発生した。近くにあるシェル石油とマラソン石油の2つの製油所で不具合があったという情報もあり、当局は爆発・火災が起こった15時間前の地震とセルビー・ターミナルの施設に影響があったかどうかということも調べているという。ニュースター・エナジー社は、14日(月)の地震の後、従業員が施設を歩いて点検したが、問題は無かったと言っている。
■ 10月21日(月)、コントラコスト郡は、タンク火災では煙の形で高レベルの粒子状物質を近隣地区に放出したが、発災当日に採取した空気サンプルの毒性物質に関するデータは通常の周囲レベルを同じだったと発表した。
■ 火災の脅威が解消されれば、ニュースター・エナジー社は封じ込め池での作業を開始するが、別な火災が発生する可能性があるため、封じ込め池の排水を延期した。
(写真はNbcbayarea.comから引用)
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(写真はKtla.comから引用)
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(写真はKqed.orgから引用)
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(写真はSfchronicle.comから引用)
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(写真はSfchronicle.comから引用)
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(写真はkron4.comから引用)
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(写真はMercurynews.comから引用)
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補 足
■ 「カルフォルニア州」(California)は、米国西部の太平洋岸にあり、人口約3,720万人の州である。州都はサクラメントであるが、ロサンゼルス、サンフランシスコなどの大都市がある。
「コントラコスタ郡」(Contra
Costa)は、カルフォルニア州の中部に位置し、人口約95万人の郡である。
「クロケット」(Crockett)は、サンフランシスコ湾岸地域のコントラコスタ郡にあり、人口約3,000人の町である。
■ 「ニュースター・エナジー社」(NuStar
Energy)は、2001年に設立された米国の独立系石油会社で、74箇所のタンク・ターミナルと9,800マイル(15,700km)のパイプラインを保有し、原油、石油製品、特殊液体の貯蔵・流通を行っている。
「セルビー・ターミナル」(Selby
Terminal)は、容量14,000~200,000バレル(2,200~31,800KL)のタンクを24基保有し、総貯蔵能力は300万バレル(47万KL)である。
■ 「火災タンク」は、「貯蔵能力の1%未満で2基合計で250,000ガロン(950KL)」という以外に詳細仕様が示されていない。950KLの半分の475KLを1%とするタンク容量は47,500KLであるが、セルビー・ターミナルにおける最大タンク容量は31,800KLであるので、これは大きすぎる。グーグルマップで調べると、発災のあったタンクの直径は約42mである。高さを20mとすれば、タンク容量は約27,700KLとなる。これから火災タンクは直径約42m×高さ約20m超で、容量は30,000KL級のコーンルーフ型タンクだとみられる。
タンク型式についてガソリンなどの高揮発性(低引火点)を貯蔵する場合、コーンルーフ型タンク内に内部浮き屋根が使用される。一般に内部浮き屋根式タンクにはシェルベントを設置するが、火災タンクにはコーンルーフのトップベントは設置されているが、シェルベントは付いていない。これからいうと内部浮き屋根式ではないが、これだけで火災タンクに内部浮き屋根が用いられていないと断定はできない。(シェルベントを保有しない内部浮き屋根式タンクの可能性)
発災タンク(事故前) (写真はGoogleMapから引用)
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■ 火災燃焼物は「エタノール」とある。エタノールは引火性の高い液体で、密度は0.78g/㎤、燃焼範囲(爆発限界)は3.3~19.0vol%である。エタノールは水和性があり、消火には水溶性引火性液体に接しても破泡しない頑丈な泡を形成する耐アルコール泡が必要である。因みにガソリンの燃焼範囲は1.0~7.0
vol%であり、エタノールの方が燃焼範囲は広く、上限が高い。
一方、カリフォルニア州は、気候変動対策を念頭に自動車燃料へのバイオマス・エタノール混合導入に積極的な州である。バイオマス・エタノールの性状はエタノールと同じで、密度は0.81g/㎤、爆発限界は3.5~15vol%というデータがある。純粋のエタノールについて石油を貯蔵するような大型タンクに保管することは考えにくく、火災タンクに入っていたのは、バイオマス・エタノールまたはガソリンと混合したバイオマス・エタノールではないかと思われる。
炎の色は、エタノールでは薄い青色をしているが、バイオマス・エタノールはきれいなオレンジ色である。過去の事例を見ると、バイオマス・エタノール・タンク火災の炎は薄い青色ではなく、ガソリンなどと同じオレンジ色をしている。
(写真は、左;Tanakajima.co.jp
、右;Toma.ootaki.infoから引用)
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■ 「地震の影響」が火災の要因になっていないか調査されている。日本では、「過去の地震による石油コンビナートの被害事例」がある。この中で、
2003年十勝沖地震のあとに起きたタンク火災としては、「大地震により原油の浮き屋根タンクのリング火災2日後、他の浮き屋根タンクで日本初の全面火災発生」(詳細は「平成15年十勝沖地震危険物施設の被害記録」を参照)がある。これは浮き屋根が地震で沈降して液面が大気に曝露して火災になったものである。
■ エタノールやメタノールのタンク火災は、つぎのような事例がある。
● 2013年2月、「米国ノースカロライナ州で落雷によるエタノールタンク火災」
● 2016年8月、「オランダで入荷作業時にメタノール貯蔵タンクが爆発」
また、泡薬剤の問題に関する指摘としてつぎのようなタンク火災事例がある。なお、ブログの「補足」で泡薬剤の種類に関して紹介している。
● 「グアテマラの固定屋根式タンク火災で消火泡から炎」(2003年7月)
所 感
■ 爆発・火災の要因は、爆発混合気の形成である。ガソリンよりもエタノールは燃焼範囲(爆発限界)が広く、上限が高いので、タンク内に空気が入ってきた場合、爆発混合気を形成しやすい。火災タンクがなぜ2基とも空に近い状況になっていたかは分からないが、外気温あるいは運転(油の抜出し)の変化によって爆発混合気を形成したのだろう。地震によって液面が揺れ、蒸発しやすさを作ったかもしれないが、爆発混合気の形成の主要因とは考えにくい。
タンク容量の1%程度(475KL)しか入っていなかったとされるが、タンク高さ20mであれば、液面高さは20cm程度である。エタノールの燃焼速度をガソリンと同程度の30cm/hとすれば、1時間程度で燃え尽きてしまう。火災時間は7時間であり、全面火災であれば、液は210cm(3,150KL)入っていたことになる。タンク屋根などによる「障害物あり全面火災」やこぼれた油の「堤内火災」で火災時間が長くなっただろうが、液面高さが20cm程度とは考えられず、もっと多かったと感じる。
■ 消防隊の消火戦略は、隣接タンクへの冷却散水を行う防御的消火戦略をとるとともに、火災タンクへの積極的消火戦略をとった。エタノールは水和性があり、耐アルコール泡が必要である。米国では、石油タンク火災に使用している泡薬剤の多くが多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)であるので、エタノール火災でも適正な泡薬剤を使用したものと思う。
今回の火災では56,700リットルの泡薬剤を使ったという。大型化学消防車の泡放射ノズル(能力3,000リットル/分)を想定し、泡薬剤の混合率(希釈濃度)を1%とすれば、時間当たり1,800リットルの泡薬剤を使うことになる。ここで泡放射ノズル4台で7時間使用したとすれば、50,400リットルの泡薬剤が必要となる。実際使用量とオーダー的に合っており、長時間、複数の泡ノズルで消火活動を行ったことが分かる。
今回、大容量泡放射砲は使われていないが、日本の法令では、直径42mのタンクの場合、放射能力10,000リットル/分×1台の大容量泡放射砲システムが必要である。三点セット2台でも消火できるとされているが、今回の事例を見れば、実際にはなかなか容易ではないといえる。
■ 今回の事故では、発災事業所であるニュースター・エナジー社の対応が適切ではなかった。最初に現場に到着した消防隊の印象を悪くしている。火災タンクの油種や残量について明確でなく、セルビー・ターミナル事業所自身が十分把握していなかったのではないかと思う。その後も報道機関の質問には答えていたとみられるが、ニュースター・エナジー社のウェブサイトには、ほかのニュースを掲載しているにも関わらず、タンク火災について何も言及されていない。今回のタンク火災は構内にとどまる事故ではなく、住民への避難勧告や幹線道路の交通規制が出たにも関わらず、市民へのお詫びの発表もない。
カリフォルニア州は、「米国の石油貯蔵タンク基地におけるハザード評価」で紹介したように石油ターミナル計画は環境影響報告書を提出する必要があり、環境影響報告書の中で貯蔵タンクの「ハザード評価」(ハザード・アセスメント)を行わなければならないような厳しい州である。ニュースター・エナジー社は過去にタンク火災の事例は無いようであるが、今回の事故対応については反省点が多い。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Nbcbayarea.com,
ATF Agents Search NuStar Facility After Fire in Crockett,
October 16, 2019
・Reuters.com, Three ethanol tanks burning at NuStar
California storage facility -Fire Dept, October 16, 2019
・Sfchronicle.com,
Did Pleasant Hill quake trigger fuel tank explosion in Crockett? It’s
one possibility, October 16, 2019
・Abc7news.com,
Contra Costa County Fire: Fire contained at NuStar
energy facility in Crockett near Rodeo, October 16, 2019
・Latimes.com, Tanks of ethanol burn at energy facility in
the Bay Area, prompting road closures, October 15, 2019
・Kron4.com, Cause of fire at NuStar
energy facility being investigated, October 16,
2019
・Kqed.org, Cause of
NuStar Explosion and Fire Under
Investigation, 'No Concerns' About Integrity of Other Tanks, October 15, 2019
・Washingtonpost.com, The Latest: Authorities seek cause
for California fuel fire, October 16,
2019
・Eastbaytimes.com, Shelter-in-place lifted, I-80 reopens
after storage tanks burn, reported explosion at East Bay energy facility,
October 16, 2019
・Sfchronicle.com, NuStar
fire: Smoke was a problem after Crockett explosions, but lack of wind kept
toxins away, October 21, 2019
・Firehouse.com, Company's Gaffes Delayed CA Crews in Oil
Facility Fire, October 18, 2019
・Centurylink.net,Health
Warning Lifted Over Fire At California Oil Facility, October 23, 2019
・Csfchronicle.com,NuStar
fire: Smoke was a problem after Crockett explosions, but lack of wind kept
toxins away, October 21, 2019
・Mercurynews.com,Smoke,
but few toxics in Crockett tank fire air samples, October 21, 2019
・Patch.com,Fire
Suppression System At Tank Fire Not Working During Inferno, October 18, 2019
後 記: 今回のタンク火災は多くの報道記事がありましたが、タンク火災や消火活動について判然としないところが結構ありました。報道は住民生活への影響を第一にするので、仕方がないところですが、火災の状況はもう少し丁寧に伝えてもらいたいものです。タンクの油種や残量、タンク型式(単なるコーンルーフ式ではなく、内部浮き屋根式タンクではないかという疑問は残ったまま)などがそうですが、報道で初動にFire
Suppression Systemは作動していなかったとありますが、このFire Suppression System(火災抑制システム)がどのような消防設備を指しているのかわかりません。発災前のタンク写真を見ると自動(半自動)泡消火システムやタンク散水システムではなさそうなので、固定ノズルでタンクへの放水を行う冷却システムではないかと判断しました。発災事業所は的確に答えていないだけでなく、半ば開き直っているという印象をもちました。
米国の世の中は、任命した長官を解任(お払い箱)しても弾劾調査が行われても、平然と開き直っている大統領の影響でしょうかね。
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