このブログを検索

2019年6月17日月曜日

徳島市の油槽所で油受入れ中の灯油タンクが爆発

 今回は、2019年5月16日(木)、徳島県徳島市の徳島石油㈱の油槽所にある灯油用の貯蔵タンクで爆発・火災が発生した事例を紹介します。
(写真Topics.or.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、徳島県徳島市末広1丁目の徳島石油㈱のタンク施設である。タンク施設には、10基の貯蔵タンクがあった。

■ 発災があったのは、徳島石油末広油槽所にある灯油用の貯蔵タンクである。タンクは直径約8.8m×高さ約9.1m、容量500KLで、事故時にはタンクの半分ほどの灯油が入っていた。
徳島市の徳島石油末広油槽所付近 (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月16日(木)午前7時40分頃、油槽所にある灯油用の貯蔵タンク1基で爆発・火災が発生した。タンクから黒煙が上がった。

■ 消防署に複数の周辺住民から「タンクが爆発した」との通報が相次いだ。

■ 発災により、市消防局の消防隊が消防車13台を伴い出動した。

■ 現場は住宅地に隣接した商業施設が集まる地域で、周辺道路は警察による交通規制や周辺住民に対する避難誘導がおこなわれ、一時、騒然となった。

■ 消防隊は、タンクを冷却するとともに、泡薬剤で消火に努めた。その結果、発災から約1時間45分後の午前午前9時25分までに鎮火した。

■ 事故による負傷者は出なかった。また、周辺の建物への被害も無かった。

■ 出火当時、油槽所近くの新町川に止まっていた船から、地下配管を通じて油槽所に燃料を移送する作業が行われていた。

被 害
■ 容量500KLの灯油タンク1基が爆発・火災で破損した。内液の灯油が焼失していると思われるが、量などは不詳である。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >
■ タンクの爆発原因は調査中である。
(写真Twitter.comから引用)
(写真Topics.or.jpから引用)
< 対 応 >
      現場検証 写真Topics.or.jpから引用)
■ 5月17日(金)、市消防局や県警は現場検証を始めた。近くの新町川岸壁からタンクに伸びる送油管の状況などを確認した。総務省消防庁消防研究センターの職員を含む約30人が現場検証に当たった。タンカーを新町川岸壁に接岸させて燃料油出口を調べたほか、岸壁に設置された注入口やタンクに至る送油管の敷設状況に異常がないかなどを調査した。18日(土)以降は爆発したタンク付近を確認する。
 
■ 徳島石油の関係者も現場検証に立ち会った。報道関係者の取材に対して「近隣住民にご迷惑をお掛けしたことは申し訳ない。現時点では原因が分からないのでお話しできることはない」と話した。なお、徳島市は施設の使用停止命令を出した。

補 足
■ 「徳島県」は、四国北東部に位置し、人口約73万人の県である。
 「徳島市」は、徳島県の東部に位置し、人口約25万人の都市で県庁所在地である。
           徳島県の位置 (図Jmap.jpから引用)
■ 「徳島石油㈱」は、1931年に設立し、徳島市と高松市を中心に東四国全体をネットワークする石油製品の総合商社で、直営サービスステーション32箇所などを擁し、ガソリン、灯油、軽油、重油、LPGを供給する。徳島市末広に、地上式貯蔵タンク9基、総容量2,450KLの油槽所を保有している。
              徳島石油末広油槽所(事故前) (写真GoogleMapのストリートビューから引用)
発災タンク(中央) 
写真はAnzendaiichi.blog.shinobi.jpから引用)
■ 発災のあった「灯油タンク」は、直径約8.8m×高さ約9.1m、容量500KLで、事故時にはタンクの半分ほどの灯油が入っていたと報じられている。グーグルマップで確認すると、直径は報じられた値であり、容量500KL級の固定屋根式タンク(コーンルーフ・タンク)である。被災写真を見ると、タンク屋根は噴き飛んでおらず、屋根の一部が側板から外れているだけのように見える。従って、故意に接続部を弱くするタンクの設計どおりであり、また爆発力はそれほど大きなものでは無かったと思われる。

タンクの静電気発生を示す 
Law.resource.orgから引用)
■ 「灯油」は、比重0.79~0.85、引火点40~60℃、燃焼範囲が1.1%~6.0%の可燃性流体であり、灯油ストーブに使用され、同種類のケロシンはジェット機の燃料にも使われ、ガソリンなどに比べて比較的に安全な石油製品である。一方、石油製品は導電率が低く、静電気が生じやすい流体であり、特に灯油は静電気が蓄積しやすいといわれている。
 貯蔵タンクでは、この静電気対策がとられ、ひとつは接地で静電気が蓄積しないように大地へ流す。もうひとつはできるだけ静電気が生じないように入荷配管の流速を制限する。米国では、従来、各社ごとに流速制限を設け、例えば、液深さが6フィート(1.8m)になるまで流入液の流速を3フィート/s(0.9m/s)に抑えるといった対策例である。
 現在、API(米国石油協会)の静電気対策の推奨基準であるAPI RP 2003「Protection Against Ignitions Arising Out of Static, Lightning, and Stray Currents」では、つぎのような基準を推奨している。
 ● 受入時の初期流速は、充填配管の直径の2倍または61cmの深さ(どちらか小さい方)に浸漬するまで、1m/sに制限する。
 ● 初期流速の制限が終われば、受入流速を増加してもよいが、静電気の蓄積を最小にするため、最大流速は7m/s~10m/sとするのがよい。

所 感
■ 状況から考えると、事故の原因は灯油タンクへの受入れ中の流動帯電による静電気だと思われる。推測と疑問点を挙げるとつぎのとおりである。
 ● 受入れ始めの初期流速は1m/sを超えていたのではないか。事故当時はタンクに半分程度入っていたというが、受入れ始めのタンクはどういう状態だったか。「充填配管の直径の2倍または61cmの深さ(どちらか小さい方)に浸漬するまで、1m/sに制限する」は満足していたのだろうか。
 ● 油槽所は受入れ始めの初期流速の制限事項を知っていたのだろうか。 
 ● 初期流速の制限が終わったとして、その後の受入流速が速かったのではないだろうか。「最大流速は7m/s~10m/s」の範囲になっていたのだろうか。
 ● 油槽所は荷揚げ時の最大流速を定めていたのだろうか。「最大流速は7m/s~10m/s」の範囲にしていたのだろうか。
 ● タンクの接地はされていたのだろうか。接地されていても、正しく保全されていなかったのではないか。

■ 一方、タンク内の蒸気空間から考えてみると、受入れ前の蒸気空間はほとんど空気で、灯油ベーパーはわずかと思われる。(満杯のタンクから灯油を払い出しており、代わりに空気が流入している) 灯油を受入れ始めると、空気が出てゆき、灯油ベーパー成分が増えていく。灯油ベーパーの燃焼範囲は1.1%~6.0%であり、この範囲になったとき、蓄積していた静電気で火花を発し、引火して爆発したと思われる。

■ 消火活動については、タンクを冷却するとともに、泡薬剤で消火に努めた結果、発災から約1時間45分後に鎮火させている。タンクの固定泡消火設備の有無などが分からないが、よく消火させ、大きなタンク火災にならなかったという印象である。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Rescuenow.net,  徳島市の徳島石油末広油槽所でタンク爆発火災、現在は鎮火,   May  16,  2019
    ・Topics.or.jp,  徳島市で石油タンク1基が爆発し出火、消防車13台が出動,   May  16,  2019
    ・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  2019年5月16日 徳島市の油槽所で船から灯油を500KLタンクに荷揚げ中、タンクが爆発し火災発生、けが人なし,  May  23,  2019
    ・Nhk.or.jp , 油槽所のタンク火災 一時騒然,   May  16,  2019
    ・Eitokun.com , 徳島市末広でタンク爆発火事情報[今日の火災速報]ツイッター動画や画像で現在の場所は【2019年5月16日リアルタイム速報】,   May  16,  2019
    ・Topics.or.jp, 徳島市のタンク爆発 現場検証で送油管の状況確認,   May  18,  2019
    ・Kore-shiri.com, 徳島市末広1丁目徳島石油の火事原因や場所、被害は!画像動画を調査,   May  16,  2019


後 記: 日本におけるタンクの爆発・火災事故ですが、午前7時40分頃に発生し、午前9時半には鎮火している所為か、意外に情報が少ないという印象です。爆発して火災になったと報じられていますが、実際の火災に関するコメントや写真が無く、火災の程度はどうだったのでしょう? 事故自体は大きくなく、被害も限定的で良かったと思っていますが、原因については関心のあるところです。「タンク、灯油、受入れ中」という言葉が出れば、タンクに関係した人であれば、すぐに静電気が頭に浮かぶでしょう。ただ、状況を知ると、疑問が出てきます。日本には、油槽所や製油所などに多くの石油タンクが存在しています。総務省消防庁は現場検証に立会していますが、同庁の「平成31年 災害情報一覧」には災害としての記載もありません。教訓は広く開示してもらいたいものですね。


0 件のコメント:

コメントを投稿