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2014年10月11日土曜日

石油貯蔵タンク火災の消火戦略

 今回は、 「A-CERT」(シンガポール企業緊急対応チーム協会)がまとめた「Storage Tank Fire Fighting Strategies」(貯蔵タンク火災の消火戦略)という資料を紹介します。
概 要
 この資料はつぎのような事項についてまとめたものである。
 ● タンク火災にはいろいろなタイプがあり、そのタイプ毎の火災の影響について評価する。
 ● 緊急事態の制圧や軽減策を実行するにあたり、使用する消火用資機材について適切な知見を有し、的確な判断を行なえるようにする。
 ● SCDF(シンガポール市民防衛庁)および共同支援部隊と協力してタンク火災の消火を確実に行なえるようにする。

貯蔵タンクの種類
 貯蔵タンクの分類はいろいろあるが、大別するとつぎのようになる。
 ● 常圧タンクには、固定屋根式、浮き屋根式(シングル型またはダブルデッキ型)、内部浮き屋根式がある。
 ● 圧力タンクには、球形タンク、円筒型タンク(竪型または横型)がある。
 ● このほかに冷凍タンクがある。

貯蔵タンクの火災 

事故の最初の要因
 タンク事故に至る最初の要因として共通的な事象はつぎのとおりである。
 ● 浮き屋根式タンクや内槽型タンクの上部において、可燃性混合気が形成して引火する。
 ● 過圧によってタンクが破裂する。
 ● 減圧によってタンクが変形する。
 ● タンクへの過充填が起こる。
 ● タンク底板や側板の腐食開口によって漏洩が起こる。
 ● 製品油切替時やタンク・クリーニング時などにおいてマンホールやフランジ部が開いたり、配管の腐食開口によって内部油が防油堤内へ漏洩する。
 ● サイドエントリー型ミキサーから漏洩が起こる。
 ● テロ攻撃、他のタンク火災の拡大など外部要因による。

浮き屋根式タンク火災における最初の要因
 浮き屋根式タンク火災に至る最初の要因としてはつぎのような事象がある。
 ● ルーフドレン/緊急バルブの故障によってシングルデッキ/ダブルデッキが沈降する。
 ● 屋根が腐食開口して漏れ出た可燃性液体に引火する。
 ● リムシール部からベーパーが大量に漏れ出る。
 ● タンクへ雷の直撃がある。
 ● 近くのフレアから赤熱したカーボンが降ってくる。

固定屋根式タンク火災における最初の要因
 固定屋根式タンク火災に至る最初の要因としてはつぎのような事象がある。
 ● 移送作業中に静電気の蓄積が生じる。
 ● ベント部での火災が起こる。
 ● 溶接、配管の切断などの火気使用工事が行われる。
 ● 漏れ調査などで堤内に車両を乗り入れる。

ハザード・ゾーン
 発災部中心からのハザード・ゾーンは概ねつぎのようになる。

圧力による区分け
 圧力による区分けあるいは影響はつぎのようになる。
 ● 5psi (34.4kPa) 人の致死率100%、鋼構造物の損傷、圧力容器レベル
  ● 2psi (13.8kPa) 常圧貯蔵タンクの破損
  ● 1psi (  6.9kPa) 建家の部分破壊
  ● 0.5psi (3.4kPa) 窓ガラスの破損

輻射熱による区分け
 輻射熱の強さの影響はつぎのようになる。
 ● 37.5kW/㎡ 1分間の曝露で人の致死率100%、 プロセス設備の損傷 
  ● 12.5kW/㎡  1分間の曝露で人の致死率1%、 10秒間で1度の火傷
  ●     4kW/㎡ 20秒間以上曝露した場合、痛みを感じる

固定屋根式タンクにおける代表的な火災例
 固定屋根式タンクにおいて起こる代表的な火災のシナリオ例はつぎのとおりである。
 ● 全面火災
 ● 堤内火災
 ● ベント火災
 ● 固定屋根の内側における軽質可燃性混合気による内部爆発
 ● 圧力タンクからのジェット噴射火災
 ● BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion:沸騰液膨張蒸気爆発)

固定屋根式タンク火災に対する戦略
 固定屋根式タンク火災に対処する消火戦略の基本はつぎのとおりである。
 ● 事前に制定した事故時対応計画を実行すること。
 ● 移送操作を停止すること。
 ● 固定泡消火設備を作動させること。
 ● 発災タンクおよび隣接タンクの冷却散水システムを作動させること。
 ● 移動型の消火泡モニターを配備して、補完させること。

リムシール火災への対応

消火泡および冷却水
 消火泡の適用に関する基本はつぎのとおりである。
 ● 冷却水は、NFPAによれば6.5 L/min/㎡を基本とする。
 ● 消火泡は、NFPA11によれば、火災面積当たり4.1 L/min/㎡、フォームダムでは12.2 L/min/㎡を基本とする。
 ● 移動型泡モニターでは、泡の自然消滅、火炎の上昇気流、風によって供給量の25%がロスするとみておく。
 ● 泡放射はフットプリント法による。

事故対応の現地統制
■ 事故対応時の現地における統制の基本は、つぎのようなHAZMATについて配慮する。
 H(Hazard): ハザードの認識
 A(Action): 積極的(オフェンシブ)戦略、防御的(ディフェンシブ)戦略、不介入戦略の選択
 Z(Zoning): ホットゾーン、ウォームゾーン、コールドゾーンの区分けと必要な退避の判断
 M(Manage): 事故の対応マネジメント;消防隊の安全確保、前進チーム・防御チーム・冷却チームの編成
 A(Assistance): シンガポール市民防衛庁、警察、共同支援部隊との協力
 T(Termination): 終結の判断とその後のフォロー

■ 考慮すべき事項はつぎのとおりである。
 ● 発災状況を確認し、ハザード・エリアを決める。そして、消防隊の安全性を確保する。
 ● 積極的戦略、防御的戦略、不介入戦略のいずれかを選択する。必要な個人用防護具を確認する。
 ● 火災や流出の発災個所に油が供給され続けていれば、油の移送作業を停止させる。
 ● 安全性に問題がなければ、発災タンクの油を別なタンクへ移し送る。
 ● 火気作業は禁止するほか、近くに引火源が無いことを確認する。事故対応に関係ない人間は退避させる。

前線チーム
 前線チームは、固定消火システムを使用して、発災第一線で効率的で迅速な行動を行なう。
 ● 例えば、上部泡注入設備や底部泡注入設備(SSI方式)などの半固定の送泡設備がある場合、この泡消火設備を作動させるように行動する。
 ● できる限り早い段階での消火活動の開始は火災を鎮火へ至らせることができる。その理由は、油が十分に加熱されておらず、ベーパーの発生が抑えられており、火炎の規模がまだ小さいからである。
 ● 大型化学消防車の泡モニターを使用する。
 ● 大容量泡放射砲システムの泡モニターを使用する。

防御チーム
■ 防御チームは、前線チームを支援し、泡混合設備の稼動を行い、消火泡の供給を行なう。
 ● 前線チームを防護する。水噴霧は形成された泡の面を消してしまうことがある。
 ● タンク火災面や堤内火災面を覆っている泡の面が消滅しないように泡を補給し続ける。
 ● フットプリント法による泡放射において必要な消火泡を供給する。
 ● 消火泡の発泡倍率
     ・非吸入式泡    1:4
     ・低発泡消火泡  1:10
     ・中発泡消火泡  1:200
     ・高発泡消火泡  1:500
     ・特殊泡       例えばアンモニアのようなケミカル類

■ 油漏洩の事故対応の場合、泡混合設備は固定の発火源となるため、可燃性混合気があれば、引火の恐れが高いことを認識しておく。

■ 多量漏洩油に火がついた場合、フラッシュ・ファイヤを起こしやすいので、前線チームのフラッシュ・ファイヤ防護への支援(例えば、防護壕、シャッター膜、救出など)を行なう必要がある。

■ リムシールからの異常漏洩、リムシール火災あるいは全面火災時には、タンク側板越えの上部泡注入方法で消火泡を投入することになる。
■ モニターまたは可搬式泡ノズルによってタンクおよび堤内への泡放射を支援する。

■ タンクに泡が一杯になった場合、静電気が発生しないように泡を激しく注入しない。

冷却チーム
■ 堤内および集水溜めにおける水はけ状況を監視する。

■ 堤内に水が一杯になり始めたら、可燃性液が隣接するタンク堤内に溢流する要因になるので、注意する。

ボイルオーバー
ボイルオーバーの発生
 ● ボイルオーバーとは、燃えている油がタンクから噴き出す現象をいう。幅広い蒸留分をもった原油などで起こる。
 ● 火災によりタンク燃焼面からタンク底部の方へ熱が伝わっていくが、このヒートウェーブ(高温層の降下速度)は時間あたり1フィート(0.3m/h)である。
 ● 噴出する燃えている油の温度は150~300℃である。

ボイルオーバー現象
 ● ヒートウェーブの熱い層がタンク底部の水の層に達すると、水蒸気爆発が起こる。
 ● 水が急激に水蒸気になると、体積は1,600倍に膨張する。
 ● 水蒸気は燃えている油を噴出させる推進力となり、飛散距離がタンク直径の6倍に達することもある。

ボイルオーバーの前兆
 ● 火炎の高さが高くなり、輝きが増す。
 ● 火災の燃焼音の中に、パチパチという音あるいはハエの羽音のような音が聞こえるようになる。
 ● 燃えている油が発災タンクから溢流し始めることがある。

スロップオーバー
 スロップオーバーの発生について考慮すべき事項はつぎのとおりである。
 ● スロップオーバーは、水の蒸気が熱い油の燃焼面にかかるときに起こる現象である。
 ● 燃えている油の温度は水の沸点を超えている。
 ● 沸騰する水が燃えている油とともにタンク外にこぼれ落ちる。
 ● 燃えている油面の上に注水すべきでない。









圧力タンク、圧力槽、配管設備
 圧力タンク、圧力槽、配管設備などでは、つぎのようなことがある。
 ● 圧力のかかった球形タンクや圧力槽などの設備では、破裂の状況が起こりうる。そして、破裂すれば、噴出する状態となる。
 ● タンク内での爆発は圧力タンクや圧力槽などの破裂や噴出の原因となり、BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)が起これば、影響の範囲は拡大する。
 ● 意図的に弱くした継手部をもつ常圧タンクの屋根は、内部爆発が起これば、継手部が外れて爆発力を逃がすようになっている。

圧力タンク火災への対応 




圧力タンク火災の戦略
 圧力タンク火災に対処するための戦略的思考はつぎのとおりである。
 ● 冷却を基本とし、両サイドから冷却する。
 ● 冷却作業の位置として円筒端の方からは避ける。
 ● 液レベルより上部を冷却する。
 ● ウォータカーテンを実施し、火炎衝突からの影響を軽減する。
 ● BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)の発生に留意する。
 



                                                  (写真はWindsorstar.comから引用)
冷凍タンク火災への対応
冷凍タンクの仕様
 ● 液状態で貯蔵するため経済的である。すなわち、石油ガス(LG)を液化石油ガス(LPG)にすれば、容積を250分の1に減じることができる。
 ● 温度-150~-50℃の低温インナータンク(アルミニウム・キルド炭素鋼、ニッケル鋼)と常温アウタータンクから構成される。
 ● 大気圧の状態の温度で運転される。

事故に至る想定
 ● インナータンクからアウタータンクとの間のアニュラー空間部へ液化ガスが漏れる。漏れはつぎのような状況で起こることが考えられる。
   a) 鋼板溶接部の欠陥
   b) ポップコーンポリマーの生成(ブタジエンと酸素の反応)
   c) 氷結現象によってアウタータンクの底板から押し出されて破損
 ● アウタータンクが脆化して破損する。
 ● 内部の液化ガスがタンク堤内に流出して、ベーパー層を形成する。
 ● 引火してベーパー層に火がつく。
 ● タンク火災へ至る。

冷凍タンク火災への戦略
 ● 液化石油ガスの移送を停止する。
 ● 漏れた液化石油ガスを貯留ピットに流す。
 ● 液化石油ガスの蒸発を減じるため、高発泡の消火泡を適用する。
 ● アウタータンクの破損に至る恐れのあるような冷却をさせない。
 ● 周辺にある引火源(例えば、フレアー、車両)になるようなものを取り除く。
 ● インナータンクに入っている液化石油ガスを回収する。
 ● 液化石油ガスのベーパーが引火源の方へ流れて行かないようにウォーターカーテンを設置する。
 ● 防液堤を越えて液化石油ガスのベーパーが散逸しないようにモニターを設置する。

消火戦略上の配慮すべき事項
 もし、配慮が欠けていたら、すべて水泡に帰すだろう!
 ● 消火システムに対する検査、テスト、保全の不足
    ・泡放出装置
    ・ドレンチャー設備
    ・インバル・バルブ(遠隔操作バルブ)
    ・ウォーターカーテン






補 足              
■  「A-CERT」(Association of Company Emergency Response Teams (Singapore):シンガポール企業緊急対応チーム協会)は、シンガポールの企業で異常事態が発生した際に適切な対応が行なうことができるように設立されたCERT(Company Emergency Response Team企業緊急対応チーム)をまとめた団体である。 A-CERTには企業会員のほか、個人会員も参画できるようになっている。2005年、石油および可燃性物質の防火に関する法律が制定されたことから設立されたものであるが、この背景には公設消防が来る前の企業による緊急対応能力を促進させようとするもので、「SCDF」(シンガポール市民防衛庁)が強力に推進し、CERTの訓練や教育を支援している。

■ 「SCDF」(Singapore Civil Defence Force:シンガポール市民防衛庁)は、シンガポール政府の内務省に属する機関で、火災や災害時の消防、救援・救助、緊急搬送などの業務を行なうほか、火災予防、市民保護に関する規制を策定し、実施する任務を担っており、職員数は約6,000人である。
 2011年9月28日に起こった「シンガポールのシェル製油所のタンク地区で火災」では、消火活動や広報活動を主導的に行っている。(「シンガポールのシェル製油所火災-2011 その後の情報」も参照)

■ 「輻射熱による区分け」では、輻射熱の強さの影響について主な3例を挙げているが、おそらく詳細な区分けがなされていると思われる。日本では、「石油コンビナートの防災アセスメント指針」(消防庁特殊災害室、2013年3月)の中でつぎのようにまとめられている。 

■ 「WISER」(Wireless Information System for Emergency Responders:緊急時対応無線情報システム)は、事故発生時の最初の応答者を支援するために設計されたモバイル・アプリケーションである。特に有害物質に関する事故では、有害な物質の取扱いについて迅速に多くの決定を行う必要があり、このために最初の通常の応答者やHAZMATチームに対して物理的特性、環境への影響、使用可能な緊急資機材などの情報を与えるためのシステムが開発されている。

■ 「インバル・バルブ」(Inbal Valve)は、ミル・インバル・バルブ社(MIL Inbal Valves Ltd)が1971年に開発した特殊なバルブで、産業用の自動制御弁や遠隔操作弁として使用されている。インバル・バルブは機械的な可動部品のないクラッパー型(またはダイアフラム型)のバルブで、ファイヤ・プロテクション(防火)分野では、散水設備や消火水ラインの自動制御弁や遠隔操作弁として使われている。


所 感
■ 消火戦略という標題でまとめられたものが少ない中で、石油貯蔵タンクの概要を含めて消火戦略について総合的に整理された資料として参考になる。実際の緊急事態時に消火戦略を即断すべき企業のマネージャーやスタッフにとって有用である。日本では消火することだけが消火戦略のように受け取られているが、戦略の敵である火災の状況によって、①積極的(オフェンシブ)戦略、②防御的(ディフェンシブ)戦略、③不介入戦略の3つのうちいずれかを選択することが消火戦略であり、本資料はこの基本にもとづき最低限の内容がまとめられている。

■ 不介入戦略をとらざるを得ない事象のひとつであるボイルオーバーについて、ヒートウェーブを1フィート/h(0.3m/h)としている。 この値はやや小さめで、ボイルオーバーの起こる予測時間は遅めになる。危険予知の観点からいえば、ヒートウェーブはもう少し速い値にすべきだと考える。例えば、日本の「自衛防災組織等の防災活動の手引き(案)」(危険物保安技術協会、2014年1月)では、ヒートウェーブ(高温層の降下速度)は「安全率を考慮して概ね1~2m/h」としている。  

備考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Acerts.org.sg, Storage Tank Fire Fighting Strategies, A-CERTS, September, 2012



後記: 今回の資料は会議場発表用の資料コピーでキーワード主体の文章でしたので、わかりやすくするため、内容を理解しながら、できる限り主語・述語の文章に置き換えました。ただ、「圧力タンク火災への対応」の図の中に出てくる「DP」という略語はわかりませんでした。また、資料は白黒コピーでしたが、図は作り直してカラーにしました。写真の中にカラーがあるのは、インターネットで調べている中で同じもの(類似のもの)が見つかったものです。 
 今回の資料を見ていて、シンガポールが国際的な自由貿易港だと感じました。「泡放射はフットプリント法による」と記載され、 Williams Fire & Hazard Control社の大容量泡放射砲システムが導入されているようですし、WISER(緊急時対応無線情報システム) も導入されているようです。インバル・バルブという日本では馴染みのない設備があり、この種の情報と実行は日本より早いのではないでしょうか。
 なお、資料にはケース・スタディとして実際の火災事例をとりあげていますので、別な機会に取り上げたいと思っています。 


2014年10月9日木曜日

イタリア・シチリア島の製油所でタンク火災

 今回は、2014年9月27日、イタリアのシチリア島北東海岸のミラッツォにあるエニ社とクウェート・ペトロリアム社の共同企業体であるミラッツォ製油所にあるガソリン用貯蔵タンクで起こった火災事故を紹介します。
イタリアのシチリア島ミラッツォ製油所のタンク火災
(写真はMaritime-executie.com から引用
 <事故の状況> 
■  2014年9月27日(土)午前0時55分頃、イタリアのシチリア島北東海岸のミラッツォにある製油所で貯蔵タンクが火災を起こす事故が発生した。事故があったのは、イタリアの大手石油会社のエニ社(Eni)とクウェート・ペトロリアム社(Kuwait Petroleum)の共同企業体であるミラッツォ製油所(Milazzo Refinery)にあるガソリン用貯蔵タンクNo.513で起こった。
シチリア島のラッフィネリア・ディ・ミラッツォ(ミラッツォ製油所)付近
(写真はグーグルマップから引用)
■ 事故は、ガソリン用で貯蔵能力50,000KLの浮き屋根式タンクから出火し、火災となったものとみられる。地元の報道では、ミラッツォ製油所から立ち上る炎は夜空を明るく照らし、数マイル(58km)離れたところからも見えたという。近くの住民は自分たちの住むエリアまで広がってくるのではないかという恐怖を感じた。

■ ミラッツォ製油所の巨大な炎は一晩中輝きを放ち、周辺の住民が避難しようとして交通は大渋滞し、混乱をきたした。ミラッツォ港は事故の影響を受け、すべてのバースの入出荷を停止している。

■ 火災発生後、メッシーナ消防署とミラッツォ消防署が出動し、消火活動が行われた。しかし、強い風がタンク内の火災面に絶えず空気を供給し続け、火炎の勢いはすさまじく、消火活動を困難にした。消防隊は、27日(土)の朝、火災は制圧下にあり、事故に伴うケガ人も出ていないと発表した。緊急対応部署が火災は住宅地まで広がらないという声明を出しても、住民は無視して車を出し、島の道路は渋滞の長い列が続いた。火災は、土曜日中も燃え続け、煙の厚い雲を放出し続けた。消防隊は、タンクが燃え尽きるまで待つことになると語った。

■ 火の手が上がったとき、施設内でメンテナンス作業が行われていたが、これが火災の原因だったかは現時点でははっきりしていない。メッシーナ消防署のサルバトーレ・リゾー氏によれば、火災はタンク屋根が陥没したことが原因だと、イタリアTVチャンネルのライ・ニュース24は伝えている。バルチェッローナ・ポッツォ・ディ・ゴット町の検事は火災の原因を調査中だと語った。

■ ミラッツォ製油所では、1993年、爆発によって7名の作業員が亡くなるという事故が起こっている。
(写真はLainfo.esから引用)
(写真はTempostretto.it から引用)
(写真はRT.comから引用)
(写真はRT.comから引用)
(写真はAmnotizie.it ら引用)
(写真はCorriere.itら引用)
(写真はTempostretto.it ら引用)
(写真はNotizie.tiscali.it ら引用)

 <事故状況の動画> 

補 足                
■ 「イタリア」は正式にはイタリア共和国で、南ヨーロッパに位置する共和制国家である。イタリア半島と地中海に浮かぶ2つの大きな島(サルデーニャ島、シチリア島)からなり、人口約6,000万人で、首都はローマである。
 「シチリア島」はイタリア半島の西南の地中海に位置する島で、周辺の島を含めてシチリア自治州を構成している。シチリア州はイタリアに5つある特別自治州のひとつで、人口約500万人、州都はパレルモである。
■ 「エニ社」(Eni)は、イタリアの半国有の石油企業で、イタリア最大の工業会社であり、70か国に展開する。1926年、イタリア政府が60%出資して設立したイタリア石油公団(Agip)が母体である。当初は100%国有だったが、現在は政府保有率は30%である。社名のEniは炭化水素公社(Ente Nazionale Idrocarburi) の略である。

■  「クウェート・ペトロリアム社」 (Kuwait Petroleum Corporation:KPC)は、1980年に設立されたクウェート国営の石油会社で、クウェート石油公社と訳すことがある。国際事業は子会社の「クウェート・ペトロリアム・インターナショナル社」(Kuwait Petroleum International:KPI)が担当しており、ミラッツォ製油所には1996年に合弁事業の参加を行っている。なお、KPCは1960年に設立された「クウェート国営石油会社」(Kuwait National Petroleum Company:KNPC)とは異なる。

■ 「ミラッツォ製油所」(Milazzo Refinery)は1961年に操業を開始した製油所で、精製能力は16万バレル/日である。当初は独立系の石油会社であったが、1982年にエニ社が保有し、その後、1996年にクウェート・ペトロリアム社が50%の株式を取得し、合弁事業の製油所に移行した。貯蔵施設はタンク数170基、貯蔵能力410万KLである。
                          ミラッツォ製油所の全景     (写真は同社ウェブサイトから引用)
                         ミラッツォ製油所の計器室    (写真は同社ウェブサイトから引用)
■ 発災タンクの大きさについて報道では、1,000,000ガロン(3,780KL)、5,000リットル(22,700ガロン)、50,000KLと様々な数値があり、実際のところはっきりしていない。事故の写真とグーグルマップで見比べてみたが、特定には至らなかった。タンク地区に直径約58mクラスの浮き屋根式タンク群があり、これらのタンクは容量40,00050,000KL級であり、このタンク群のうちの1基が発災タンクと思われる。
                   ミラッツォ製油所のタンク地区  (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
ミラッツォ製油所のタンク地区の浮き屋根式タンク(直径約58mクラス)
 (写真はグーグルマップから引用)
所 感 
■ 発災原因は特定されていないが、浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降し、何らかの引火源によって全面火災になったものと思われる。火災の勢いが弱まり、側板が座屈した事故状況写真をみると、座屈が片側に偏っている。これは、強風の影響とともに浮き屋根が一様に沈降せず、傾いたまま沈んだのではないかと思われる。日本では、浮き屋根の沈下事故を契機に屋根の沈降対策が行われつつあるが、世界的にみても、浮き屋根の沈降事故は現実に起こりうると考えるべきである。

■ 消火活動の観点でみると、最も消火困難な火災だったと思われる。強風、障害物あり全面火災のほか、泡モニターの配置場所も適切なところがなかったと思われるし、消防資機材としての大容量泡放射砲システムが配備されていたかも疑問である。
 結局、積極的戦略はとりえず、燃え尽きるのを待つ防御的戦略しかなかったと思う。ガソリンの燃焼速度を33cm/hとし、タンク液位を15~20mと仮定すれば、燃え尽きるまでは45~60時間(二日~二日半)かかる。発災から三日経った9月30日も完全に鎮火していない様子なので、実際に燃え尽きたものと思われる。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
       ・ChannelNewsAsia.com, Panicked Residents Flee Italy Refinery Fire, September 27, 201
       ・RT.com, Huge Blaze at Sicily’s Oil Refinery Sparks Panic, Prompts Locals to Flee, September 27, 2014    
       ・Trust.org, Italy Refinery Blaze at Milazzo under Control, September 27, 2014 
       ・Lainfo.es, Large Fire at Oil Refinery in Italy, September 27, 2014 
       ・LiveLeal.com, Huge Blaze at Sicily’s Oil Refinery Sparks Panic, September 28, 2014  
       Dsecurity.info, Refinery in Southern Italy Fires Occurred 1000000 Gallons of Fuel Crisis, September 28, 2014
       ・MariTime-Executive.com, Italian Oil Refinery Fire Hampers Vessels’ Operations, September 29, 2014
       ・AgoraMagazine.it, Sicily Refinery Fire under Control, Authorities Say, September 29, 201
       FireDirect.net, Italy – Milazzo Refinery Fire Forces Evacuation, October 02, 2014
       ・Jiji.com, ラッツォ製油所の火災=伊, September 27, 2014



後 記: 夜の火災は人にとって実際よりも極めて大きく感じます。ましてタンク火災の火炎は大きく、昼間に見るより夜空に照らされる分、さらに大きくなり、今にも自分の方へ迫ってくるという恐怖を感じるのは普通です。今回の真夜中に突然起こった火災事故時、ほとんど情報が流されない中、当局が大丈夫だというだけでは、シチリア島の住民が車で避難し始めるのは異常とはいえないでしょう。夜の火災写真を見ても、タンク1基の火災とは思えないほどです。隣接するタンクに延焼しなかったことは幸運だったといえます。過去の火災に直面したときのことを思い出しながらまとめました。