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2023年12月6日水曜日

ブラジルで塗装工事中のトルエン貯蔵タンクが火災、死傷者7名

 今回は、2023622日(木)、ブラジルのサンパウロ州にある石油化学大手のブラスケム社のサントアンドレ生産施設においてトルエン用の貯蔵タンクが塗装工事中に火災を起こした事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、ブラジル(Brazil)サンパウロ州(Sao Paulo)にある石油化学大手のブラスケム社(Braskem)のサントアンドレ(Santo Andre)生産施設である。

■ 事故があったのは、サントアンドレ生産施設内にあるトルエン用貯蔵タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023622日(木)午前9時頃、サントアンドレ生産施設内にある貯蔵タンク付近で爆発があり、火災となった。

■ 発災に伴い、消防隊が消防士33名と消防車両11台で出動した。

■ 貯蔵タンクはトルエン用であったが、タンクの塗装工事中で、内液は空にしていたという。塗装作業はタンクの外で行われていた。

■ ブラスケム社は、安全上の理由から施設の従業員全員を現場から移動させた。

■ 事故に伴い、7名の死傷者が出た。ひとりが亡くなり、6名が負傷した。死傷者の内、5名は請負会社テネンゲ社(Tenenge)の従業員である。その後、2名が亡くなり、死亡者は計3名となった。負傷した2名はブラスケム社の従業員で軽傷だった。

被 害

■ 燃料貯蔵タンク1基が焼損した。タンク内液のトルエンが焼失した。 

■ 死傷者が7名出た。うち3名が亡くなり、負傷者は4名である。

■ タンク内液の燃焼によって有害な化学物質が空気中に放出され、環境が汚染された。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中で、分かっていない。

< 対 応 >

■ 火災は、4時間半を経た622日(木)午後130分頃に制圧された。 

■ サンパウロ州環境局(CETESB – Companhia Ambiental do Estado de São Paulo)は、発災直後から石油化学コンビナートの環境状態をモニタリングしているが、火災が消えた後も指導と監視を継続するという。

■ サンパウロ州環境局は、メンテナンス中のタンクには可燃性物質のトルエンが残留しており、消火に使用した水と廃棄物を混ぜて処理する予定だと述べた。調査によると、化学製品トルエンのベーパーが入った空のタンクがメンテナンス中に爆発したことが判明したという。トルエンは揮発性で引火性の高い物質である。火災は消防隊によって鎮圧され、消火活動からの出た廃水はブラスケム社の構内の排水系に保持され、SAO(水と油の分離システム)に送られ、その後処理プラントに送られる。

補 足                                                                          

■「ブラジル」 (Brazil)は、正式にはブラジル連邦共和国(Federative Republic of Brazil)といい、南アメリカに位置し、国土面積は日本の22.5倍を有し、人口約21,500万人の連邦共和制国家である。首都はブラジリアである。

「サンパウロ州」(Sao Paulo)は、ブラジル南東部の位置し、人口約4,630万人の州である。州庁所在地はサンパウロ市である。

「サントアンドレ」(Santo André)は、サンパウロ州の南部に位置する人口約72万人の都市である。サンパウロ市から18km南にあり、住宅地と工業地が混在した地域である。

■「ブラスケム社」(Braskem)は、 2002年に設立したサンパウロ市に本社を置く石油化学事業を営む会社である。2008年には、ラテンアメリカで最大、南北アメリカ大陸においてもエクソン・モービル、ダウ・ケミカルに次ぐ第3位の事業規模にまで成長した。ブラスケム社は、13個所の石油化学プラントを保有しており、サントアンドレ生産施設では、トルエンなどの芳香族化合物やポリマーを含む 12 の製品を生産している。

■「トルエン」(Toluene)は、化学式C7H8、の芳香族炭化水素液体で、水を1としたときの比重は0.87である。無色透明、引火点約4℃、爆発範囲1.27.1%、沸点約111℃と常温で揮発性があり、引火性が高く、特徴的な臭気を持ち、人体に対しては麻酔作用があるほか、毒性が強い。水には極めて難溶だが、アルコールや油類などには極めて可溶なので、溶媒として用いられる。主な用途は、染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、合成クレゾール、漂白剤、ベンゼンやキシレンの原料、医薬品、塗料・インキ溶剤などである。 工業的な製造法は、ベンゼンと同じで、改質ガソリンのナフサの接触改質、エチレンプラントのスチームクラッキングからの生成物がほとんどである。

 トルエンの関わったタンク事故は、20224月に起こった「韓国で開放工事中の内部浮き屋根式タンクが爆発、死傷者2名」(2023年11月)がある。

■「発災タンク」は、トルエンを貯蔵しているというだけで、タンクの仕様は報じられていない。グーグルアースで調べると、発災タンクが特定でき、タンクは固定屋根式で、直径は約18mである。高さを18mとすれば、容量は約4,580KLとなる。グーグルアースを見る限り、内部浮き屋根用の通気口が見当たらないので、浮き屋根型固定屋根式タンクではないとみられる。

所 感

■ 事故原因は調査中ということで発表されていない。空のタンクがメンテナンス(塗装)中に爆発したと報じられている。一方、メンテナンス中のタンクにはトルエンが残留していたと報じられているように、タンク内のトルエンのベーパーがタンク通気口を通じて漏れ、何らかの引火源によって爆発し、火災になったのではないだろうか。

 疑問点は、塗装工事の準備作業において内部の液を空にするのが基本だったのか。あるいは、空にせず液面を下げるだけだったのか。工事前にタンク通気口まわりや作業エリア付近のガス検知は行わなかったのか。印象としては、日常から同じ準備作業を行っていたが、たまたま事故が起こらなかっただけのような気がする。(事故の発生確率は「米国の石油貯蔵タンク基地におけるハザード評価」20161を参照)

■ 発災タンク側板の外周足場には養生シートが掛けられていたのがわかる。グーグルアースを見ると、ほかのタンク塗装工事において側板外周だけでなく、屋根を覆う養生シートがかけられているのがわかる。日本では、養生シートの目的は、塗装工事における足場からの墜落事故防止と塗料ミスト飛散によるトラブル防止のためである。しかし、ブラスケム社のプラントで使用されている養生シートは厚く、内部の作業環境は良くないように思う。なにか別な意図があるのかも知れない。屋根の通気口などは開口しているが、今回の事故では漏れたベーパーが養生シート内にとどまり、人災事故を大きくしたのではないだろうか。

■ 消火戦略は、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略のうち、放水によるタンクの冷却に集中する防御的戦略をとっていると思われる。それでも、火災制圧には発災から4時間半しかかかっていないところをみると、タンクの内液は燃え尽きたものとみられる。このことから、塗装準備作業はタンク内液の液面を下げただけだったように思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Icis.com,   Explosion at Brazil’s Braskem Santo Andre site leaves one worker seriously injured,  June  22,  202

     Mrchub.com,  Explosion at Braskem’s Petrochemical Complex leaves workers injured in the ABC region of São Paulo,  June  26,  2023

     Estadao.com.br,  Explosion at Braskem’s Petrochemical Complex leaves workers injured in the ABC region of São Paulo,  July  03,  2023

     Vnezuela-news.com, Incendio en planta Braskem de Brasil deja un fallecido y seis heridos,  June  22,  2023

     Otempo.com.br,  Incêndio em Polo Petroquímico da Braskem deixou 1 morto e 4 feridos,  June  23,  2023

     Jornalcruzeiro.com.br, Morre segunda vítima de incêndio em tanque da Braskem em Santo André,  June  23,  2023

     Reporterdiario.com.br, Explosão em tanque da Braskem deixa um morto e pelo menos sete feridos,  June  22,  2023

     Diarioregional.com.br, Tanque da Braskem pega fogo e deixa um morto e seis feridos,  June  22,  2023


後 記: 今回の事故では、発災タンクを調べるのにグーグルマップでなく、グーグルアースを見ることによって特定できました。グーグルマップでは、これではないかということまでしか分かりませんでした。グーグルアースではタンクの側板を見ることができます。被災写真はいろいろなところから撮ったものが多く、側板に記載してあるタンク番号を確認することのできるタンクがあります。このタンク番号とタンク配置から発災タンクが特定できました。今回のような例は初めてです。しかし、日本から遠く、地球の裏側にあるタンク火災の位置まで知ることができるなんて改めて技術の進歩を感じてしまいました。 

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