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2022年1月30日日曜日

韓国麗水市の化学工場で貯蔵タンク爆発・火災、死者3名

 今回は、20211213日(月)、韓国の全羅南道の麗水市にある麗水国家産業団地内のイイル産業化学工場で小型の貯蔵タンクが爆発・火災を起こして3名が死亡し、その後、タンク9基に延焼した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国の全羅南道(チョルラナムド ぜんらなんどう)の麗水(ヨス レイスイ)市にある麗水国家産業団地内のイイル産業(이일산업;二日産業)の化学工場である。

■ 事故があったのは、化学工場内にある危険物施設の貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211213日(月)午後130分頃、化学工場の貯蔵タンクで爆発音とともに構造物の破片が空高く飛び出した。その後、火柱が上がり、火災となった。火災は、散発的に爆発を繰り返しながら、隣接タンクへ延焼していき、黒煙が空を覆った。

■ 爆発によるタンク構造物の破片が噴き飛ぶ様子は構内に入ってきた車両搭載のカメラでとらえられ、テレビで放映され、インターネットのユーチューブに投稿されている。(YouTube「굉음과 함께 탱크 뚜껑 날아가“ 이일산업 사고 블랙박스 영상 확보 (轟音と一緒にタンクのふたが飛んでいく)2021.12.16.を参照)

■ 近くの店で昼食を食べていた人は、バンという音にびっくりして、慌ててドアを開けて外に出た。 「炎が湧き上がり、黒い煙が空に舞い上がり、怖かった」と語っている 

■ 発災に伴い、消防署が出動した。火災が拡大したため、消防当局は管轄消防署と周辺の消防署、特殊救助隊を出動させて消火活動に当たった。消火活動には、消防車と救急車など50台の車両、485人の人員が投入された。

■ 黒煙が10kmほど離れた麗水市街地でも視認できるほど火災が大きくなり、市民不安が大きくなった。消防当局は半径1km以内に駐車された車両を他の場所に移動するよう呼びかけた。

■ 化学工場の近くには海へ通じる川があり、化学物質や消火用水による水質汚染を防ぐオイルフェンスが展張された。また、現場では、消火用泡による水質汚染を防ぐため、バキューム車で消火排水を吸入した。

■ 発災に伴い、イルル産業の下請け業者に所属する3人の労働者が死亡した。死亡した3人は60才を超えた高齢の労働者だった。貯蔵タンクの上部で配管を交換する過程で事故が発生したとみられる。

■ 火災の状況は各局のテレビで放映され、インターネットのユーチューブに投稿されている。火災の最盛期の状況は、YouTube「여수산단 화학물질 제조 공장서 화재…2명 사망·1명 실종/ 연합뉴스」(麗水産団化学物質製造工場で火災… 2人死亡・1人失踪/連合ニュース)Yonhapnews 2021/12/13を参照。

被 害

■ 工事施工者の従業員3名が死亡した。

■ 爆発・火災の拡大によって10基の貯蔵タンクが被災し、うち4基の天板が爆発して損壊し、6基が火災で焼損した。

■ 火災による黒煙によって大気が汚染された。避難した住民は居なかったが、半径1km以内に駐車された車両は他の場所に移動する要請された。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、保全/火気工事のミスによるものとみられる。間接要因は火気工事環境を確認しなかった運転ミスとみられる。

< 対 応 >

■ 消防当局は、監視用ドローンを投入して肉眼で確認しにくい火災現場を映像で把握した。消火活動では、圧縮空気泡消火装置のCAFS(キャフス;Compressed Air Foam Systemを搭載した消防車を活用した。

■ 消防当局は、出火から4時間余りで火災を制圧し、午後5時頃に消火を確認した。

■ 消防当局によると、工場にあった全危険物貯蔵タンク73基のうち、危険物の貯蔵タンク4基の天板が爆発し、 6基が火災で焼損するなど計10基の被害があったが、迅速な消火活動の対応で被害を最小化できたという。

■ 当初、腐食防止剤などの原料として使用されるキノリン・タンクで作業中だったとされたが、キノリンではなく、水素処理された重質ナフサ(重質ガソリン)が貯蔵されたタンクであることが確認された。重質ナフサは自動車用ガソリン主配合燃料で燃焼時に煙などが発生するが、有毒性化学物質に該当しない。

■ 消防当局は、貯蔵タンクに可燃性物質がタンク高さの1/3ほど残っている状態で作業がなされた理由を調査しているという。タンク容量は90KLと報じているメディアがある。

■ 1221日(火)、イイル産業の代表取締役社長が公式謝罪文を発表し、「今回の事故で悲しみに陥った遺族の方々に深い慰めの御言葉を差し上げる」と明らかにした。

■ 1228日(火)、光州雇用労働庁は、事故発生場所作業許可書にガス濃度測定結果が虚偽で作成されたという疑惑に関して、実際のガス濃度測定が一部実施されていないことを確認した。

■ イルル産業では、20044月にも液体油化原料の貯蔵タンクが爆発して、労働者2名が大火傷を負う事故を発生させている。

補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国(だいかんみんこく)といい、朝鮮半島南部にある共和制国家で、人口5,180万人である。

 「全羅南道」(チョルラナムド ぜんらなんどう)は、韓国の南西部に位置する行政区で、人口約180万人である。

「麗水市」(ヨスし れいすいし)は、全羅南道東南部の沿海部に位置し、本土から大きく突き出した麗水半島にあり、市域には300余りの島が点在する。人口約28万人の都市である。

■「麗水工業団地」は1967年に造成され、工場誘致が行われ、現在、GSカルテックス、LG化学、麗川NCCなどの石油化学会社60社を含む220社が進出している。

 韓国メディア中央日報によると、工場の大半が有害物質を扱っているうえ、40年以上経った施設が多く、「不安な火薬庫」と言われているという。麗水工業団地では、人命被害事故が相次いでいる。20133月には「韓国の全羅南道でポリエチレン貯蔵タンクが爆発して死傷者」では死傷者17名を出す事故が起こっている。事故が発生する度に韓国ガス安全公社など関係機関が安全点検を施行してきたが、安全と直結した不良事例は絶えない。

■「イイル産業」(이일산업;二日産業)は、同社のウェブサイトによると、1999年に設立し、イソパラフィン溶剤の生産を始めた石油化学会社で溶媒や機能性溶剤などを手がけ、2010年には産業用燃料(バンカーC重油)の生産も行っているという。一方、メディアによると、廃油精製や貯蔵タンク賃貸事業を行っているとも言われているが、同社のウェブサイトには記載がなく、実態はよく分からない。

■「CAFS(キャフス)」は、Compressed Air Foam Systemの頭文字をとった圧縮空気泡消火装置で、水と消火薬剤を高圧の空気で混ぜて泡を作り、消防ホース経由して消火ノズルで噴射する。図を参照。最近は、このシステムを車両の中に組み込んだ自走するものが出ている。CAFSは世界的に採用され始め、日本でも東京消防庁や横浜消防本部など地方自治体の消防署に配備されているところが出ている。 CAFSの放水状況は「春日部市消防本部 CAFS放水訓練」を参照。

 なお、バテル研究所では、フッ素フリーの泡薬剤に関する従来の消火ノズルでのテストと圧縮空気式消火泡によるテスト結果について言及しており、 「フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り」202110月)を参照。

所 感

■ 今回の事故は直接原因は、保全/火気工事のミスによるものとみられるが、間接要因は火気工事環境を確認しなかった運転ミスだとみられる。事業所による作業許可書のガス濃度測定が実施されていないとみられる。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)以前の安全に関する基本的意識の欠如であろう。

 韓国の全羅南道麗水市にある麗水国家産業団地にある会社のタンク事故については、「韓国の全羅南道でポリエチレン貯蔵タンクが爆発して死傷者」20134月)を紹介し、当時、事故が多発にしており、関係機関が安全点検を施行してきたが、安全と直結した不良事例は絶えないと言われていた。今回の事故をみると、その教訓は活かされていない。

■ 火災・爆発の被害は計10基のタンクに及んでいるが、事故の詳細な状況はよく分かっていない。火災鎮火後の現場の空撮写真を見ると、同じ防油堤に設置されているタンク10基が被災している。発災タンクは重質ナフサ(重質ガソリン)が貯蔵されたタンクだというので、廃油リサイクル装置(廃油精製装置)の一連のタンクではなかろうか。重質ナフサのタンクは、屋根部が噴き飛んだ小型タンク(容量90KL程度)のいずれかであろう。タンク屋根部が噴き飛んだ後、配管などから漏れ出した油が防油堤内に溜まったあと堤内火災になり、残りの9基のタンクへ延焼したのではないかとみられる。

■ 消火活動は4時間かかっている。鎮火後の現場の空撮写真を見ると、屋根の無いタンク内の油はほとんど無いので、燃え尽きた状態に近かっただろう。おそらく初期の段階では、タンクが爆発しており、近寄るのは危険と判断したと思う。消防当局によると、「工場にあった貯蔵タンク73基のうち計10基の被害があったが、迅速な消火活動の対応で被害を最小化できたという」  確かにタンク施設は距離がなく、同じ防油堤内のタンクに限定されたのは適切な消火活動だったといえる。

 「圧縮空気泡消火装置のCAFS(キャフス)を搭載した消防車を活用した」とあるが、これは日本の消防署が保有しているものと同じシステムだとみられ、火災後期の段階で使用されたものだろう。燃え盛る小型タンク施設の消火活動で貢献したのは、大型化学消防車とスクアート車だと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

 ・Jp.yna.co.kr, 化学工場で火災 3人死亡,  December  13,  2021

   Joshrc.net,  麗水産業団地で爆発事故、労働者三人が亡くなる,  December  15,  2021

   Yna.co.kr,  여수산단 화학공장 폭발·화재로 작업자 3명 사망(종합2),  December  15,  2021

   Chosun.com, 여수산단 화학 공장서 폭발 화재… 작업자 3명 사망,  December  13,  2021

   Imnews.imbc.com, 여수산단 화학공장 폭발 화재‥2명 사망 1명 실종,  December  13,  2021

   News.kbs.co.kr, 여수산단 폭발 화재 원인은?…안전 수칙 제대로 지켰나,  December  15,  2021

   M.hankookilbo.com,  '3명 사망' 여수산단 폭발 이일산업, 안전 규정 무더기 위반,  December  28,  2021

   M.kmib.co.kr, 여수산단 폭발·화재 2차 대형피해 막은 전남소방,  December  14,  2021

   News.sbs.co.kr,  " km 밖에서도 들려" 여수산단 또 폭발사고, 3명 사망,  December  13,  2021

   Pressian.com, 여수산단 폭발화재 사고 현장 이일산업 대표 공식 사과문 발표,  December  21,  2021

   Mk.co.kr, "'' 소리에 검은 연기 치솟아"…아찔했던 여수산단 폭발사고,  December  13,  2021

   News1.kr, '3명 사망·실종' 여수산단 화재…상부 프레스 배관 작업 중 폭발,  December  13,  2021  


後 記: 今回の事故は昨年起きたものですが、今年になってから知ったものです。韓国語で検索すると、被災写真を含めてすごい量の情報が出てきます。さすがにインターネット時代の先端を行く韓国です。しかし、韓国では、「裏を取る」より、取材で聞いた話をいち早く伝えることを大切にしているようです。今回の場合、まず会社の形態がメディアによってまちまちです。インターネットで調べても会社自身が古い記事しか掲載していません。結局、はっきりとしたことは分からず、発災の状況やこれまでの経験から廃油リサイクル装置(廃油精製装置)と所感で述べることにしました。発災タンクの内液についても最初の情報が違っていました。重質ナフサ(重質ガソリン)と報じているメディアがあり、それを採用しました。しかし、発災事業所のウェブサイトでは、そのような液を生産しているとなっていません。情報量は確かに大量にあるのですが、どれが真実(らしい)情報かを選択するのに時間を要した事例です。

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