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2019年9月24日火曜日

サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃

 今回は、2019年9月14日(土)、サウジアラビアの国営石油会社であるサウジ・アラムコ社のアブカイク・プラントとクライス油田関連施設の2か所がイエメンの反政府武装組織フーシ派による無人機(ドローン)でテロ攻撃を受けた事例を紹介します。
無人機の攻撃による石油施設の損傷   (写真はbloomberg.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)の国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油施設である。

■ 発災があったのは、サウジ・アラムコ社のアブカイク(Abqaiq)とクライス(Khurais)にある石油施設である。アブカイク・プラントは、世界最大の原油安定化処理施設で1日に700万バレルの処理を行い、サウジアラビアの総生産量の約3分の2を担っている。クライスの油田関連施設は 1日に145万バレルの原油を生産して原油安定化処理する。なお、クライスとアブカイクは約180㎞離れている。
     アブカイク・プラント付近(事故前)  (写真はGoogleMapから引用)
             アブカイク・プラント(事故前) (矢印は攻撃を受けたスフェロイド・タンクの列)
 (写真はGoogleMapから引用)

               クライス油田関連施設(事故前)  (写真はNaturalgasintel.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
中東で使用されている無人機(ドローン)の例
 (写真はNhk.or.jpから引用)
■ 2019年9月14日(土)早朝、サウジ・アラムコ社のアブカイク・プラントとクライス油田関連施設の2か所で無人機(ドローン)による攻撃があり、火災が発生した。

■ クライス油田関連施設では、当時200名の人間がいたが、突然、午前3時30分頃に生産プラントの4か所が攻撃されたという。消防隊が現場に10分以内で到着し、火災を消そうとしたが、次々と攻撃があり、プラントが標的にされたという。施設内の原油安定化タワーが攻撃で火災になり、4時間燃え続けた。
          サウジ・アラムコの石油施設で上がる煙  (写真はThis.kiji.isから引用)
■ イエメンの反政府武装組織フーシ派(Houthi)が犯行声明を出し、アブカイクとクライスにある石油施設をドローン(無人機)10機で攻撃したと発表した。

■ アブカイクで撮影された映像では、施設から複数の煙が立ち上る様子が確認できる。映像を撮影した人は、夜中、爆発音で目が覚めたと話している。

■ アブカイク・プラントは生産された原油を輸出用に精製する施設であり、処理能力は700万バレル/日と世界最大規模でサウジアラビアの原油輸出の中枢である。今回の攻撃で日量570万バレルに上る原油と天然ガスの生産が影響を受けた。石油輸出国機構(OPEC)の最新のデータによると、サウジアラビアの産油量は日量980万バレルで、同国原油生産の半分以上、世界全体の5%相当が停止したとみられる。

■ 今回のテロ攻撃による負傷者は出なかった。

■ 9月15日(日)、米国政府とデジタル・グローブ社(DigitalGlobe)は攻撃を受けたサウジ・アラムコ社の石油施設の航空写真を公開した。
 アナリストによると、アブカイク・プラントでは、少なくとも17件の攻撃跡が特定されている。アブカイク・プラントへの攻撃には、12発の巡航ミサイルと20機以上の無人機が関与していたという。
 ● 原油を処理するために使用される14基のスフェロイド・タンクが正確な精度で攻撃されている。
 ● 施設内の他の設備3か所で爆発による火災跡がみられる。
 クライス油田関連施設の構造物にも損傷を受けた跡がある。
 ● 2基のタワーへの攻撃による火災の損傷跡とともに地面に火災跡がある。
(写真はBbc.comから引用)
       サウジ・アラムコのアブカイク・プラントにおける被害  (写真はAbc.net.auから引用)

    アブカイク・プラントのスフェロイド・タンクにおける損傷(拡大)  (写真はFt.comから引用)
         サウジ・アラムコのクライス油田関連施設の被害 (写真はAbc.net.auから引用)
             クライス油田関連施設の被害(拡大) (写真はAbc.net.auから引用)
■ 保険会社のロイドは、報告書を見て修理には数か月かかる可能性があることみている。

被 害
■ アブカイク・プラントでは、原油を処理するために使用される11基のスフェロイド・タンクに穴が開く損傷を受けた。このほか、少なくとも原油安定化装置のタワー3基と配管が火災となる損傷を受けた。 

■ クライス油田関連施設では、2基のタワーと配管が火災となる損傷と受けた。

■ テロ攻撃による死傷者は出なかった。

■ 今回の攻撃で日量570万バレルに上る原油と天然ガスの生産が影響を受けた。サウジアラビアの産油量は日量980万バレルで、同国原油生産の半分以上、世界全体の5%相当が停止したとみられる。
 
< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、テロ攻撃という「故意の過失」である。
  米国政府が発表した攻撃を示す航空写真  (写真は左;Bbc.com右;Theguardian.comから引用)
(写真はBeirutobserver.comから引用)
< 対 応 >
■ サウジ・アラムコ社は、 9月14日(土)午前4時に産業セキュリティーチームがアブカイクとクライスにある施設2か所で、火災への対応を開始した。2か所の火災は数時間で火の勢いを食い止められたという。

■ サウジアラビア内務省は、施設への攻撃を受けて捜査に乗り出した。しかし、無人機(ドローン)の出所や犠牲者がいたかどうか、施設の操業に影響があったかについては明らかにしていない。

■ 9月16日(月)、攻撃を受けて石油先物が急騰し、ブレント原油は10%以上上昇した。米国大統領は、必要に応じて、米国の戦略的石油備蓄からの石油の放出を許可した。

■ サウジアラビアの油田とパイプラインは、過去1年にわたってイエメンの反政府勢力の標的にされてきが、今回の攻撃はこれまでの規模を越え、大きな混乱を引き起こしている。

■ サウジアラビアは、今回の石油施設への攻撃よりずっと前から攻撃用無人機(ドローン)に対して脆弱であることを認識していたと思われる。過去18か月間、イエメンの反政府武装組織フーシ派はこの新しいタイプの攻撃用無人機(ドローン)をミサイルとともにたびたび使用し、サウジアラビアの空港、海水淡水化プラント、石油施設を攻撃していた。このような脅威が高まっている中で、サウジ・アラムコと防空、港湾、民間航空のサウジアラビア関係機関が適切な防衛システムを求めて米国や欧州を視察していたという。

■ 今回の攻撃に使用されたドローンは4プロペラの消費者用無人航空機ではなく、武装無人機で動力源はジェットエンジンに改良されたものだという。以前は標準化された商用のドローンを使用しており、航続距離は150㎞程度だった。新しい無人機は時速250㎞/hで、最大航続距離は1,200~1,500㎞になるとみられる。今回の攻撃で使用された無人機のモデルは明らかにされていないが、これまでの無人機は「カミカゼ」または「自爆ドローン」と呼ばれ、ベアリングの玉と混合した18㎏の爆薬の弾頭をもつものであった。

■ 米国はサウジアラビアを攻撃したのはイエメンの反政府武装組織でなく、イランだと言っていたが、 9月17日(水)、攻撃はペルシャ湾の北側にあるイラン南部から発射された無人機と巡航ミサイルだと発表した。サウジアラビアの防空体制はイエメンの反政府武装組織によるミサイル攻撃から守るため、数か月間、南に向けられていたので、北から侵入してくるミサイルやドローンに対して役立たなかったという。

■ この米国の発表の裏付けとなる証拠や情報は提供されていない。もし、これが真実ならば、湾岸危機をより危険なレベルに引き上げ、イラン政府による瀬戸際政策の新たな発端になるだろう。しかし、イランは攻撃への関与を否定している。

■ 9月17日(火)、サウジアラビア政府は、今後の原油輸出について原油備蓄を利用することで影響は及ばないとの見通しを示すとともに、損害を受けた施設は既に稼働を一部再開しており、数か月で生産能力は通常に戻ると表明した。現在は日量約200万バレルを処理していると説明し、月内に攻撃を受ける前の日量490万バレル前後に戻る見通しだとした。月内に日量約1100万バレルの生産能力は回復し、10月の生産量はこの数か月と同水準の日量980万バレルを目指すとした。しかし、フル能力の日量1,200万バレルの復旧は2019年11月末になるとの見通しを示した。

■ 市場では、この数日、アブカイク・プラントの損害規模を巡りさまざまな臆測が飛び交っていたが、サウジアラビア政府の発表により不透明性は薄らいだ。ただ、完全復旧には時間がかかる見通しであり、原油トレーダーらがサウジアラビアの供給リスク上昇を織り込んでいることから原油相場は高止まりしている。サウジアラビア政府の楽観的な再稼働計画の発表には、一部の市場オブザーバーによって懐疑的にみられている。

■ 9月20日(金)、サウジ・アラムコは攻撃されたアブカイク・プラントとクライス油田関連施設の一部を報道関係者に公開した。
 ● クライス油田関連施設では、4つの原油安定化装置が損傷を受け、塔槽や配管が焼けたことが明らかだった。圧力を下げて原油からガスを除去する高さ90mのタワーのひとつは黒焦げになっており、他の1基はさらに損傷していた。現場では24時間体制で修理に追われていた。施設の30%は被災から24時間以内に稼働しており、9月末までにフル生産に戻したいという。
 ● アブカイク・プラントでは、18回の攻撃があり、うち5発は原油安定化タワーに被弾し、11発はスフェロイド・タンクに被弾した。少なくとも3基のタワーは損傷がひどく、焼け焦がれて大きな穴が開いていた。損傷機器の何基かは取替が必要になるかもしれないという。
 ● アブカイク・プラントでは、攻撃を受けたスフェロイド・タンクの横に穴の開いた損傷部位を切断した鋼板が報道記者のために展示されていた。スフェロイド・タンクの上部には足場と大きな攻撃跡が見え、作業員が上下しており、修理できるか、取替が必要か検査していた。 
 ● サウジ・アラムコは、修理を完了させるために、米国と欧州の両方から必要な機器を調達することになるという。現在、一部の機器については修理できるか、または取替える必要があるか見極めているという。
      アブカイク・プラントの損傷補修状況  (写真は左Bloomberg.com右;Cnbc.comから引用)
          アブカイク・プラントの被災補修状況  (写真はBloomberg.comから引用)

アブカイク・プラントのスフェロイド・タンクの損傷状況(損傷部を切取って展示)
 (写真は左Bloomberg.com右;Cnbc.comから引用)

       クライス油田関連施設の損傷状況 (写真は左;Cnbc.com右;Livemint.comから引用)

クライス油田関連施設の損傷の補修状況 
(写真は左Nypost.com 右;Bloomberg.comから引用)
クライス油田関連施設の配管損傷状況
 (写真は左;Bloomberg.com右; Businessinsider.comから引用)
補 足
■ 「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、中東・西アジアに位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,000万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。
 「アブカイク」(Abqaiq)は、サウジアラビアのペルシア湾岸側に位置し、人口約44,000人の都市で、油田とともに発展した原油積み出し基地の石油工業の街である。
 「クライス」(Khurais)は、2009年に原油生産が始められたクライス油田のある町で、現在は1日に145万バレルの原油を生産している。

■ 「サウジ・アラムコ」(Saudi Aramco)は、サウジアラビアの国営石油会社で、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量は世界最大である。設立は1933年といわれるが、これは1933年に米国スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現在のシェブロン)の子会社であるカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー(CASOC=カソック)が同国の石油利権を獲得した時に始まる。その後、1944年にCASOCはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Aramco)、すなわちアラムコに変更した。さらに、1988年に完全国有化が進められ、国営石油会社「サウジ・アラムコ」となった。サウジアラビアの原油・天然ガス事業はサウジ・アラムコが独占して運営している。
 2016年、サウジ・アラムコはテロを憂慮しており、この対策のひとつとして5,000名のガードマンを直接雇用しており、さらに、サウジアラビア政府は国家警備隊と軍の治安部隊合わせて約20,000名を配備したという。

■ 「アブカイク・プラント」 (Abqaiq Plant)は原油安定化装置で、主な目的は原油から硫化水素を除去し、蒸気圧を下げ、原油をタンカーで安全に輸送できるようにすることである。サウジアラビアから産出されるアラブ・エクストラ・ライト原油、アラブライト原油、天然ガス液体(NGL)を処理する。施設には、軽油分離プラント(GOSP; Gas Oil Separation Plant )、水素化脱硫ユニットなどがあり、サウジアラビア国内のジュバイル、ラスタヌラ、ヤンブー(NGL用)の港に接続するパイプラインとポンプ場が含まれる。
原油安定化プロセスの例  (写真はScribd.comから引用)
■ 「スフェロイド・タンク」(Spheroid Tank)はドームルーフ型タンクの一種で、楕円の軸を中心に回転するとラグビーボールのような形の回転楕円体になる。スフェロイド・タンクは、低い圧力用のタンクで天然ガス液(NGL; Natural Gas Liquids)、エタン、エチレンなどの貯蔵タンクとして使用されることがある。アブカイク・プラントでは、原油を処理するために使用されていると思われる。
スフェロイド・タンクの例
 (写真は左Lloydslist.maritimeintelligence.informa.com右;Slideshare.netから引用)
■  イエメン内戦は2015年に始まり、ハディ暫定政権を支えるサウジアラビアと、「反政府武装組織フーシ派」(Houthi)を支援するイランの代理戦争と言われている。サウジアラビア主導の有志連合軍が軍事介入して空爆を続けるなどする一方、フーシ派はドローン(無人機)の能力の向上によって長距離攻撃が可能になっている。
  ● 2019年5月、中部の石油パイプライン施設が爆発物を積んだドローン(無人機)の攻撃を受けた。原油の生産や輸出には影響しなかったという。攻撃されたのはサウジアラビア東西を横断するパイプラインで中部リヤド県にあるサウジ・アラムコのポンプ施設2か所だった。うち1か所では火災が起きたが、すぐに鎮火した。フーシ派はサウジの「重要施設」へのドローン攻撃に着手したと報じた。それまでもドローンなどでサウジアラビアの都市を攻撃していたが、サウジ・アラムコの施設が対象になったのは初めてという。
  ● 2019年6月、サウジアラビア南部のアブハ空港およびジーザーン空港がフーシ派によるドローンのよるテロ攻撃を受け,アブハ空港で民間人1名が死亡し,複数が負傷した。
 ● 2019年7月、サウジアラビア南部のアブハ空港がフーシ派によるドローンによるテロ攻撃を受け,複数の民間人が負傷した。
 ● 2019年8月、イエメンの支配地域から1,000km以上離れたサウジアラビア東部の油田地帯をドローンによるテロ攻撃があった。

■ サウジアラビアの「防空システム」は、高度から侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していた。今回の無人機(ドローン)による攻撃によって、サウジアラビアの重要な石油施設の防空がいかに脆弱(ぜいじゃく)か露呈してしまった。イエメン国境から標的までの距離は、近い方のクライス油田で約770km、アブカイク・プラントまでは1,200kmである。今回の攻撃が無人機(ドローン)によるものであれば、従来とまったく異なる設計で、射程距離が飛躍的に伸び、精度も格段に向上した種類である。今回の攻撃でどのモデルが使用されたかは完全には明らかではない。しかし、これらの武器の入手可能性に関して転換点があったことは示唆している。現在、通常の商用のドローンを武器化するのにそれほど多くのことは必要ないといわれている。
        ドローンを捕捉するシステムの例  (図はFt.comから引用)
■ 「石油施設が攻撃を受けたとする衛星写真」について「エネルギー・コンサルティング・グループ」(The Energy Consulting Group)が疑問を投げかけている。図に示すように黒煙とその位置について、「黒煙はアブカイク ・プラントが直接に深刻な攻撃を受けたことを示す。しかし、興味深いことに、他の黒煙はガワール油田関連施設を目標にされ、何らかの損傷を受けているように見える。一方、クライス油田関連施設では黒煙が明白でない。そして、クライス油田関連施設が、どのくらい深刻な攻撃を受けたか、または波状攻撃の中で本当に目標とされたか疑問が出てくる」と指摘している。
 この疑問を受けて、さらにアブカイク・プラントのグーグルマップをよく見てみると、アブカイク・プラントの位置と攻撃を示す航空写真にズレがある。アブカイク・プラントの攻撃を受けた装置やタンクから離れたところで黒煙が出ている。このように衛星写真には疑問が多い。
 また、北方から攻撃されていることによって、無人機がイランから発射されたものだといわれているが、スフェロイド・タンクに開いた穴は南西側にあるとみられ、北方から攻撃されたと断定できないように思える。
サウジ・アラムコ石油施設が攻撃されたとされる衛星写真の疑問
 (写真はPenergy-cg.com,から引用)
アブカイク・プラントの位置と攻撃を示す航空写真のズレ 
(左;グーグルマップ、右;米国発表の航空写真)
所 感
■ 今回の事故原因は、テロ攻撃という「故意の過失」に該当する。
 無人機の攻撃による石油施設の被災や損傷がどのようなものになるのかを示す事例となった。
 ● 塔槽(タワー)や配管は、被弾して鋼板に穴の開くほどのひどい損傷を受けている。塔槽内部は圧力がかかっており、開いた穴から石油が噴出し、火災になったことは容易に想像がつく。
 ● クライス油田関連施設の被災時の状況によると、次々と攻撃があったという証言があるが、高さ90mのタワーや配管に複数の穴が見られているのと符合する。被災を示す航空写真では一か所のように見えるが、かなりな精度をもった連続の攻撃があったものと思われる。
 ● スフェロイド・タンクは各タンクの同じような位置に被弾して穴が開いており、これもかなりな精度をもって連続の攻撃があったものと思われる。
 ● 不思議なことはスフェロイド・タンクに火災跡が見られない。この理由はよく分からないが、タンク気相部に被弾して穴が開いたが、無人機はタンク底部に着底したと思われる。気相部は爆発混合気の範囲でなく、火災にならなかったのではないだろうか。タンク下部に被弾していれば、ここから石油が漏れ出し、火災が起こった可能性があり、被災状況はひどいものになっただろう。

■ 火災の状況はほとんど分からない。クライス油田関連施設の被災時に消火活動を行おうとしたらしいが、攻撃が続いたので、やめたと思われる。無人機による連続した攻撃時は不介入消火戦略をとるのが妥当で、攻撃がおさまった後、人身に被害が及ばないと判断した場合に適当な消火戦略をとることになるだろう。一方、火災は数時間で消えたと報じられているが、意外に早いという印象をもつ。プロセス装置は通油を止めれば、滞油量が大きくないからかも知れない。アブカイク ・プラントでは、スフェロイド・タンクも貯蔵タンクでなく、プロセス装置の機器のひとつだとみられるが、滞油量は大きく、火災が発生しなかったのはサウジ・アラムコからすれば幸運だった。

■ 2013年1月に起こったアルジェリアの天然ガスプラントの人質事件以降、石油施設など重要施設のテロ対応の必要性は高くなっている。従来はテロリストの侵入防止という観点でのテロ対応が主であった。今回の事件は、無人機によるテロ攻撃が高度な防空システムを容易に突破したという衝撃的な出来事だった。一方、近年の4プロペラの商用ドローンの発達は目を見張るものがあり、ドローンの活用とともに、ドローンによるテロ攻撃を防ぐ対応を真剣に考えるべき事例となった。
 注; アルジェリアの天然ガスプラントの人質事件はつぎのブログを参照。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Cnn.co.jp, サウジの石油施設にドローン攻撃、生産半減 フーシが犯行声明,  September 15,  2019
    ・Afpbb.com,  サウジ石油施設にドローン攻撃、2か所で火災 フーシ派が犯行声明,  September 14,  2019 
    ・Afpbb.com,  サウジ、ドローン攻撃受け原油生産が約50%停止 日量570万バレル相当,  September 15,  2019
    ・Jp.reuters.com,  サウジの石油施設にドローン攻撃、世界供給量の約5%が生産できず,  September 15,  2019
    ・Asahi.com, サウジの石油施設攻撃 イエメンの反政府組織が犯行主張,  September 15,  2019
    ・Nhk.or.jp, サウジ石油施設にドローン攻撃 イエメン「フーシ派」攻撃主張,  September 14,  2019
    ・Mofa.go.jp, ホーシー派によるサウジアラビア東部石油施設に対するテロ攻撃について(外務大臣談話),  September 15,  2019
    ・Nikkei.co, サウジ石油施設にドローン攻撃 イスラム武装組織か,  May 14,  2019
    ・Bbc.com, 【解説】 サウジ石油施設攻撃、揺れる中東はさらに不安定に 米は実は玉虫色,  September 16,  2019
    ・Theguardian.com, Iran denies launching drone attacks on Saudi oil facility,  September 15,  2019
    ・Ft.com, Saudi oil attack highlights Middle East’s drone war,  September 16,  2019
    ・Didigitaltrends.com,  The drones used in the Saudi Arabia oil attack were not ‘off the shelf’,  September 16,  2019
    ・Bbc.com, Saudi oil attacks: Images show detail of damage,  September 16,  2019
    ・Bbc.com, Saudi oil attacks: Drones and missiles launched from Iran – US,  September 17,  2019
    ・Bloomberg.co.jp, サウジアラムコ:原油輸出減少せず、備蓄を利用-月内に生産水準回復,  September 18,  2019
    ・Saudiaramco.com,  Saudi Aramco rapidly restores production capacity, expects stabilization of global supply,  September 17,  2019
    ・Pubs.spe.org, Aramco Plan to Restart Damaged Oil Facilities “Optimistic”,  September 18,  2019
    ・Cnbc.com, Detailed satellite photos show extent of ‘surgical’ attack damage to Saudi Aramco oil facilities,  September 17,  2019
    ・Cnbc.com, Saudi Aramco reveals attack damage at oil production plants,  September 20,  2019
    ・Bloomberg.com,  Saudi Arabia Reveals Damage to Giant Khurais Oil Field,  September 20,  2019
    ・Businessinsider.com, Photos show the scale of the destruction caused by the drone attacks on 2 Saudi Arabian oil facilities,  September 20,  2019 


後 記: サウジアラビアの石油施設への攻撃ということから貯蔵タンクが対象になったかと思い、調べ始めました。今回の事例ほど多くの報道が連日にわたって流されたことはないでしょう。報道は多岐にわたっており、調べるほど内容が発散していきます。このブログの立ち位置では、イエメン反政府武装組織とサウジアラビアの関係から“戦争” ではなく、“テロ” としましたが、実質的には戦争状態にあり、政府から流される情報は真実でなく意図的に嘘(フェーク)が混じっていると感じました。
 というわけで、例えば、米国とサウジアラビアが公開した無人機の残骸だとする情報など、真偽がよく分からないのは敢えて取り上げなかったものもあります。攻撃を受けた石油施設の被災写真や被災時の話からすると、ドローン10機による攻撃だけではないように思います。イエメンの反政府武装組織フーシ派はドローン10機による攻撃を行い、そのほかに攻撃に参加したところがありそうな気もします。しかし、どこから発射されたかも問題ですが、高度な防空システムが脆弱だったことが一番の問題だと思っています。サウジ・アラムコはうすうす(はっきり?)認識していたようです。日本の石油施設などの重要施設のオーナーや政府首脳は、今回の事件を聞いても海外の話で想定外として(某電力会社の社長・副社長のように)逃げるのではないでしょうね。


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