建設された津波対策のA重油タンク
(写真はFnn.jpから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、宮城県気仙沼市朝日町にある気仙沼オイル・ターミナル(油槽所)である。
■ 2011年3月11日、東日本大震災があった日、漁港にあるオイル・ターミナルの石油貯蔵タンク22基が被災にあった。
気仙沼市朝日町付近(赤い枠、震災後) (写真はGoogleMapから引用)
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<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2011年3月11日14時46分、大地震(マグニチュードMw=9)が宮城県の気仙沼を襲い、続いて15時26分に大津波による高さ8mを超す巨大な波が河口と漁港に押し寄せた。
■ 沿岸にあったオイル・ターミナルには、23基の貯蔵タンクがあったが、津波によって22基(アンカーボルト無し)が流失し、11,521KLの油が海の中に流出してしまった。流失したタンクの中には、ターミナルから2.4km離れた河口近くに浮かんでいるのが発見された。
津波で流される石油タンク (写真はARIA資料から引用)
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■ 漁港内は厚さ5cmの油混じりの沈殿層に覆われた。オイル・ターミナルが流失したことによる死傷者はいなかったが、気仙沼市では人口73,489名のうち、津波のよって1,214名の人が亡くなり、220名の人が行方不明(2016年12月時点)である。オイル・ターミナルの流失した石油貯蔵タンクを新たに建てる復興計画は、この5年以内より早くなることはないといわれた。
■ 東北の海岸沿いを襲った津波は、三沢、久慈、八戸、大船渡、石巻など各地の漁港にあった小型の貯蔵タンクの多くを押し流した。こうして、この地域には、油に汚染されたスポットが生じた。
■ 宮城県が県沿岸部について津波痕跡の調査を行なった結果、気仙沼市では、基準海面からの高さが20mを超えた地点があり、ほとんどの場所で既存の堤防や護岸を越えていた。調査地点の中で最も高い位置の痕跡は、気仙沼市の中島海岸付近で21.6mだった。なお、気象庁の設置していた気仙沼広田湾沖の津波観測GPS波浪計では、6.0mが観測されている。
■ 津波による石油タンクの被害状況; 気仙沼湾にあったオイル・ターミナルは漁船用の燃油などの石油を貯蔵するもので、4つの事業所があった。貯蔵タンクの大きさは容量40~3,000KLで、気仙沼・本吉地域広域行政事務組合消防本部によってまとめられたタンクの被災状況はつぎのとおりである。
● 気仙沼市朝日町(湾口の埋立地先端)および潮見町(湾中部)に設置されていた100KL以上の石油タンク23基中、22基が津波により流失した。18基のタンクが市内各地で発見されているが、4基は所在不明である。なお、流されなかったタンクは容量100KLの横型円筒タンクだった。
● 18基のタンクの発見場所は図のとおりで、最長は湾口にあったタンクが湾奥の河口まで約2.4km移動していた。
● 発見されたほとんどのタンクでは、発見場所周囲および内部に油分は見分されず、津波で流される過程でタンク内の油は流出したと考えられる。この流出した油が、気仙沼湾内で発生した海面火災になり、さらに広範囲に延焼拡大した一因になった。
オイル・ターミナルの被災前後 (写真はARIA資料から加工して引用)
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気仙沼市大島の位置 (図はGoogleMapから引用)
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■ 2012年7月28日、東日本大震災の津波で流されて行方不明だった石油タンクが発見された。流された22基のうちの1基である。午前9時55分頃、気仙沼市の大島付近で海底の石油タンクの引き揚げ作業をしている会社から「タンクが爆発し、作業員がけがをした」と119番通報があった。男性は午前9時15分頃に深さ21mまで一人で潜り、タンクをつり上げる鎖を通すため、電気とアセチレンを使うバーナーで穴を開ける作業をしていたという。この日は穴を開けて鎖を通し、29日にクレーンで引き揚げる予定だった。
被 害
欧州基準による産業事故の規模
■ セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用している。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。
注:当該事例についてフランス環境省のARIA資料では、津波による石油タンク流失の映像を添付している。海上保安庁などが撮影して公表された津波映像の中から、石油タンクが流されている場面を編集したものと思われる。
「Destruction of an Oil Terminal」を参照。
< 事故の原因 >
■ 事故原因は自然災害(津波)である。津波の水圧でタンクが倒壊したり、津波の浮力によってタンクが浮いて流された。
< 対 応 >
津波で水没しても本体の大きな損壊を免れた仙台港の給水タンク
(写真はKahoku.co.jpから引用)
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■ 2014年7月、気仙沼市は新しいオイル・ターミナルの計画を発表した。
● 気仙沼市は津波で破壊された石油タンクの再建に着手する。国の復興事業を活用し、南気仙沼地区にタンク8基(総容量7,000KL)を建設する。事業費31.5億円で、2016年秋の完成を見込む。
● 構造上、地震と津波に強く、手本となるタンクがある。仙台市宮城野区の仙台港は、東日本大震災で7mを超す津波に襲われた。給水タンク2基が水没し、うち1基は壁にコンテナが衝突したが、いずれもタンク本体は大きな損壊を免れた。
● 2基とも、コンクリート壁にピアノ線を埋め込んで強度を増すプレストレスト・コンクリート(PC)構造だった。鋼板製が主流の燃油用の貯蔵タンクに対し、強い水圧がかかる大容量の給水タンクに採用されている。「東日本大震災級の津波に流されることなく、漂流物衝突の衝撃にも耐えられる」と、気仙沼市はPC工法に注目し、新たな石油タンクに採用する計画である。
● 構造上、地震と津波に強く、手本となるタンクがある。仙台市宮城野区の仙台港は、東日本大震災で7mを超す津波に襲われた。給水タンク2基が水没し、うち1基は壁にコンテナが衝突したが、いずれもタンク本体は大きな損壊を免れた。
● 2基とも、コンクリート壁にピアノ線を埋め込んで強度を増すプレストレスト・コンクリート(PC)構造だった。鋼板製が主流の燃油用の貯蔵タンクに対し、強い水圧がかかる大容量の給水タンクに採用されている。「東日本大震災級の津波に流されることなく、漂流物衝突の衝撃にも耐えられる」と、気仙沼市はPC工法に注目し、新たな石油タンクに採用する計画である。
(図はDecn.co.jpから引用)
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■ 2015年7月、気仙沼市は、朝日町地区で整備を計画している漁業用燃料油施設の配置・構造などに関する基本設計をまとめた。
● 陸上施設として地上式鋼製燃料油タンクを8基整備する。全体の容量は約7,000KLを想定している。詳細設計を発注し、2015年内の造成工事着手を目指す。
● 計画では、燃料油タンクは、A重油用(990KL)を6基建設するとともに、軽油用(500KL)と灯油用(500KL)を1基ずつ整備する。
津波対策では、津波で倒壊せず、かつ浮かないような構造とし、タンクから2m離した周辺を高さ12.2mのPCコンクリート壁で覆うとともに、基礎RCコンクリート(厚さ2m)からアンカーなどで固定する。
● 液状化や支持力対策として、平均深さ15mで地盤改良工を実施する。送油ポンプなどの燃料設備も耐震性に配慮するとともに、緊急遮断弁などを設置する。
● さらに、海上施設(ドルフィン)として杭式桟橋を設ける計画である。このほか、A重油などをローリーへ出荷する施設や管理棟、消防設備などを設ける。
● 並行して、施設の管理運営方式についても検討し、管理運営者の選定手続きなどを詰める。概算事業費は約31.5億円を見込んでいる。
● 市は危険物保安技術協会の技術援助を受けて津波対策調査を実施した。こうした取組みにより、仮にL2級(レベル2)の津波で被災した場合でも1か月以内に応急復旧による仮稼働を行い、2か月程度で試運転を可能とする計画だ。
● 海上施設の荷役対象船舶は、載荷重量2,000DWTのタンカーを最大船種として想定し、2,000DWTタンカー1隻とバージ船1隻の同時着桟、またはバージ船2隻の同時着桟が可能な施設として整備する。施設の稼働は2016年度末を予定している。基本設計は日本工営が担当した。
■ 2019年2月、気仙沼市は新しいオイル・ターミナルの建設中である。気仙沼市と地元の石油販売会社が、周囲を特殊なコンクリートの壁で覆って津波への強度を一気に高めた国内初の「津波対応型燃油タンク」を建設している。2019年5月末に完成する。東日本大震災でタンクが被災して火災が起きたことから、災害対策事業の一環で建設を決めた。市は「大きな漁船が衝突しても壊れない」と安全性に期待している。当面の新しいオイル・ターミナルの概要はつぎのとおりである。
● 設置場所;気仙沼市朝日町の「漁業用燃油施設」の敷地
● 貯蔵量; 4,950KL、A重油
● タンク仕様; 容量990KL×5基、直径11m×高さ12m
鋼板製タンクの外側に緩衝材が巻き付けられ、さらに鉄筋とピアノ線で強度を
高めたプレストレスト・コンクリート(PC)で固められ、400トン程度の船がぶつ
かっても壊れない強度にし、さらに、基礎とPCを一体構造にすることで、津波で
浸水してもタンクが浮き上がったり、転倒しないようにした。
● 事業費; 26億円(国のグループ化補助金や復興交付金を活用)
タンクは石油販売会社の気仙沼商会が設置
周囲のコンクリート壁は気仙沼市が整備
● 完成後の運用; 気仙沼商会と市内の石油販売会社10社が共同で利用
● 工事; 安部日鋼工業(岐阜市にあるプレストレスト・コンクリート構造物の設計・施工会社)
● 工事; 安部日鋼工業(岐阜市にあるプレストレスト・コンクリート構造物の設計・施工会社)
PCを使った工法はこれまで、国内の給水タンクで利用されてきたが、燃料用タンクでは初めてである。工事を担当した安部日鋼工業は「頑丈なタンクが、その上によろいを着たような状態」といい、気仙沼商会の社長は「安全性を高めたタンクを活用して、気仙沼の基幹産業である漁業を盛り立てたい」と語っている。
津波対策の石油タンク
(写真はKahoku.co.jpから引用)
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気仙沼油槽所の竣工式
(写真はKahoku.co.jpから引用)
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補 足
■ 「フランス環境省
: ARIA」(French Ministry of Environment :
Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French
Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。
■ 東日本大震災時における各地の石油タンクの被害状況
危険物保安技術協会によって調査され、その内容は、「Safety
& Tomorrow誌」(2011年9月~2012年3月)に掲載されている。
● 東日本大震災における危険物施設の被害概要「仙台地区」
● 東日本大震災における危険物施設の被害概要「久慈地区」・「いわき地区」・「鹿島地区」
● 東日本大震災における危険物施設の被害概要「石巻地区」・「川崎地区」・「市原地区」
この調査では、気仙沼市の石油タンクは対象にされなかった。
所 感
■ 気仙沼のオイル・ターミナルの石油タンク流失は、ある面、東日本大震災時における代表的な事故であろう。フランス環境省ARIAは、数多い東日本大震災の石油タンク被害の中で、気仙沼のオイル・ターミナルの石油タンク流失を津波による象徴的な貯蔵タンク事故事例として選んだものと思われる。そして、今回、津波対策を施した貯蔵タンクが気仙沼のオイル・ターミナルで建設されたのを見ると、先見の明があったといえよう。
気仙沼オイル・ターミナルが復興されたが、そのタンクは鋼板製タンクの外側に緩衝材が巻き付けられ、さらに鉄筋とピアノ線で強度を高めたプレストレスト・コンクリート(PC)で固められた構造とし、400トン程度の船がぶつかっても壊れない強度にし、基礎とPCを一体構造にすることで、津波で浸水してもタンクが浮き上がったり、転倒しないようにしたという。津波対策の貯蔵タンクとして象徴的な例となった。
津波対策の石油タンク上部
(写真はKahoku.co.jpから引用)
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■ 構造の詳細はわからないが、当初計画はタンクから2m離した周辺を高さ12.2mのPCコンクリート壁で覆うとともに、基礎RCコンクリート(厚さ2m)からアンカーなどで固定する案で、鋼板製タンクとPCコンクリート壁の間は2m離す計画だった。それが、最終的には、鋼板製タンクの外側に緩衝材が巻かれ、その外側にPCコンクリートで固められるようになった。これはPC防液堤付きのLNGタンクの構造と似ている。
PC防液堤付きのLNGタンクの構造の例
(図はCity.hitachi.lg.jpから引用)
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備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Aria.development-durable.gouv.fr,
Destruction of an oil terminal, N 40260, 11 /03/2011,
JAPON, KESENNUMA
・Km-fire.jp, 東日本大震災「消防活動の記録」(気仙沼・本吉地域広域行政事務組合消防本部),
2012年7月
・News-sv.aij.or.jp, 地震・津波による火災への備えー東日本大震災での被災実像からー(日本建築学会),2012年9月
・Kahoku.co.jp,第10部・津波火災(下)もろさ/油大量流出、炎広がる海
・Ristex.jp, 気仙沼港の石油タンク倒壊による調査報告(RISTEX
CT ジャーナル), 2011年4月25日
・Sonpo.or.jp, 東日本大震災における 危険物施設の被害 (
消防庁消防研究センター,予防時報),
2012年
・Memory.ever.jp, 気仙沼を襲った大津波の証言(河北新報), 2011年
・Isad.or.jp, 東日本大震災に伴う火災の調査から得られる教訓(消防科学総合センター,
消防科学と情報), 2012年
・Asahi.com, 津波で流されたタンク爆発、潜水士1人けが 気仙沼(朝日新聞),
2012年7月28日
・Mainichi.jp, 東日本大震災:気仙沼湾海底泥に環境基準上回る油沈殿(毎日新聞), 2012年04月11日
・Bousaihaku.com, 石油タンクの津波被害について
(消防庁消防研究センター ), 2012年
・NHK.or.jp, 都市を襲う津波火災に迫る(NHK、時論公論), 2014年
・Kahoku.co.jp
, 燃油タンクを津波に強く 気仙沼市と地元企業、特殊コンクリ壁で外部覆う 安全性向上に期待, February
15, 2019
・Fnn.jp, 新たなタンクは津波対策も! 気仙沼港の「燃油タンク」再建〈宮城〉, June 21,
2019
・Decn.co.jp
, 宮城県気仙沼市/朝日町地区漁業用燃油施設整備/15年度内にも造成着工, July
03, 2015
・
Kahoku.co.jp , 対津波高強度燃油タンク 気仙沼に建設、運用開始, June
22, 2015
・Shoeimaru.da-te.jp, 気仙沼油槽所が完成し竣工式, June
24, 2015
・Abe-nikko.co.jp, 当社施工現場(気仙沼燃油タンク)が岐阜新聞で紹介されました, June
12, 2015
後 記: 前回のブログ「気仙沼オイル・ターミナルの壊滅」(2015年2月)はフランスのARIA資料の事故情報をもとにまとめたものです。このときは、地元の人たちが、この未曾有の災害を記録に残しておこうという気持ちの伝わるものだったのが印象的で、多くの関連情報があり、ARIA資料の内容を補完することができました。今回、気仙沼オイル・ターミナル(油槽所)が復興されたのを知り、まとめることとしました。まとめにあたり、どのような形をしようかと迷いました。東日本大震災の気仙沼市のことに広げると、収拾がつかなくなるので、気仙沼油槽所の被害と復興に絞り、事故情報の形態をとることにしました。調べ始めると、竣工式の情報だけでなく、4年前からの計画段階での情報があり、経緯がよくわかりました。
このことで最近感じるのは、中央紙(全国紙)は一過性のニュース記事だけで終わっているように思います。このブログのような事故情報をまとめていると、事故があったことはわかりますが、5W1Hの状況を知りたいのに分からないことがほとんどです。この点、地方紙の方が追究していると思います。今回の報道では「河北新報」です。また、中央紙では、ニュース記事をインターネットで発信していても、すぐに削除してしまい、内容を見ることができません。中央紙の記事からインターネットを通じて拡散することには、寄与していますが、曖昧な話や中途半端な話で終わっていることが多いと感じます。
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