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2016年11月9日水曜日

中国黒竜江省で実タンクによる火災の消火訓練

 今回は、2015年6月26日、黒竜江省の大慶油田の訓練基地で行われた容量20,000KLの実タンクを使用した火災の消火訓練について紹介します。
              三相射流消防車による消火活動   (写真はDqdaily.comから引用) 
< 防災訓練のあった施設の概要 >
■ 防災訓練があったのは、中国黒竜江省(ヘイロンチャン/こくりゅうこう省)大慶市(ダーチン/たいけい市)にある大慶油田有限責任公司の天然ガス分公司の訓練基地である。

■ 大慶油田有限責任公司は大慶油田で知られている石油会社であるが、中国の3大石油企業のひとつである中国石油天然気(ペトロチャイナ)の傘下にある。 
                        黒竜江省大慶市付近 (訓練のあった場所は不明)  (写真はグーグルマップから引用)
< 訓練の状況 >
■ 2015年6月26日、黒竜江省の大慶油田有限責任公司の天然ガス分公司の訓練基地でタンク火災の消火活動の訓練が行われた。訓練は黒竜江省、大慶市、大慶油田有限責任公司の共同で開催された。

■ 訓練は容量20,000KLの原油タンクで漏洩があり、火災が起きたという想定のもとに、実際にタンク火災を起こした実戦形式で行われた。

■ 訓練に先立ち、消火戦術が紹介され、訓練状況の映像が大型スクリーンで映し出された。

■ 訓練には、高さ25mから放射できる三相射流消防車(三相射流消防车)と呼ばれる特殊スクアート車、新型の泡消火剤、ドライケミカルなどが使用されたほか、無人偵察機による観察・監視が行われた。約20分の消火活動によって火災は鎮火した。三相射流消防車は、液体、気体、粉末の3種の消火剤を使用し、25mの高さから高速で放射する消防車である。 訓練では3台の三相射流消防車が使用され、淡い緑色の消火剤が噴射されると、瞬時にタンク上部を覆った。

■ 訓練には、大慶市消防隊、大慶原油の消防隊のほか、地方の消防署などから消防士300名と50台の消防車両が参加した。
(写真はDqdaily.comから引用)
(写真はDqdaily.comから引用)
(写真はDqdaily.comから引用)
(写真はMgxf.com から引用)
(写真はHlj.sina.com.cnから引用)
補 足
■ 「黒竜江省」(ヘイロンチャン/こくりゅうこう省)は、中国(中華人民共和国)東北部にある行政区で、ロシアと国境を接し、人口約3,800万人で、省都はハルピン市である。
 「大慶」(ダーチン/たいけい市)は黒竜江省の西南に位置する地級市で、市街人口約86万人である。市名は1959年に発見された大慶原油に由来する。油田発見が建国10周年直近であったため「大慶原油」と命名され、市の名前につながった。
黒竜江省と大慶市の位置   (図はPlaza.rakuten.co.jpから引用)
■ 防災訓練があったのは、大慶市の大慶油田有限責任公司の天然ガス分公司の訓練基地とあるが、詳細番地が分からず、グーグルマップでの場所の特定はできなかった。
  2007年頃から大慶原油の生産量は減ってきており、天然ガスの生産にシフトしているという。訓練に使用した円筒タンクは、余剰になった大慶原油用のタンクだと思われる。大慶原油は高流動点原油で、貯蔵には内部加熱器と外部保温が必要であり、不要な用役(蒸気)を省くため、貯蔵タンクは必要最低基数にされることから、訓練用に転用されたものと思われる。訓練の写真では、タンク外面は保温を撤去した跡のように見える。タンク容量が20,000KLとあるので、直径36m×高さ20m程度のものと思われる。この大きさのタンク全面火災では、放射能力10,000L/minクラスの大容量泡放射砲システムを必要とする。

■ 「三相射流消防車」は液体、気体、粉末の3種の消火剤を使用し、高さ25mから高速で放射する消防車とある。三相射流消防車は英語名でTriphase Jet Flow Fire Truckと称し、安徽省(アンホイ/あんき省)明光市(ミングァン/めいこう市)にある消防車メーカーである明光浩淼安防科技股份公司(Minggang Haomiao Protection Technology Corporation)が製作したもので、三相射流技術(Triphase Jet Flow Technology)を採用した消防車という。
 同社のウェブサイトによると、25m三相射流消防車(Benz 25M Triphase Jet Flow Fire Truck)は、粉末消火の放射能力が流量5kg/s×放射距離18m、泡消火の放射能力が400L/min×放射距離25mとある。(別な表では、粉末;30kg/s、泡混合液;80L/sというデータあり) ノズルは2個付いており、泡混合液と粉末消火剤を別々に放射させるほか、三相で放射させることができるとみられる。(詳細は同社ウェブサイトの「三相射流消火技術」を参照) 
 泡薬液と粉末消火剤を搭載した消防車としては、オーストリアの消防車メーカーであるローゼンバウアー社(Rosenbauer)が空港用化学消防車を製作しているが、技術の差異は不詳である。
25m三相射流消防車(Benz 25M Triphase Jet Flow Fire Truck   
(写真はMgxf.com から引用)
三相射流消防車による消火実験の状況   (写真はMgxf.com から引用)
所 感
■ 20,000KLの実タンクを使って火災の消火訓練を行うというアイデアと実現性(費用面、準備面、環境面、住民の理解面)は、さすがに中国だという感じである。
 放水だけの訓練では生まれない消防士の緊張感は相当なものだろうと思う。特に、タンク火災の経験のない消防士にとって貴重な経験になる。
 一方、消火技術や消火資機材の性能確認という面では、割り引いて考えざるを得ないだろう。訓練写真を見ると、火炎や黒煙の状況は実際のタンク全面火災のように激しいものではない。実タンクを使用して全面火災を再現するのではなく、訓練では、タンクの屋根部に工夫してリムシール火災または部分屋根火災を作り出し、タンク内には石油ではなく、水が入れられているものと思われる。

■ 三相射流消防車という名前は初めて聞く。訓練写真によると、初期消火には泡混合液が使用され、途中で粉末消火剤が使用されたとみられる。三相で放射させることによる効果はよくわからない。
 放射性能から見て、大型タンクにおける全面火災時の大容量泡放射砲システムの代替にはならないと思われる。しかし、石油化学プロセス装置の火災や航空機火災(空港用化学消防車)への適用はできるように思う。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Dqdaily.com,全省大型油罐火灾扑救跨区域实战拉动演练在大庆举行,  July 30,  2015 
  ・119.china.com.cn,黑龙江举行大型油罐火灾扑救跨区域实战演练,   June 29,  2015
    ・Mgxf.com, 25米举高喷射三相射流消防车完成演练任务,  July 07,  2015


後 記: 今回の情報1年以上前の話題ですが、たまたま実タンクを使ったらしい消火訓練の写真があったので、調べ始めたものです。10月に紹介した「中国河北省の原油備蓄タンク基地で防災訓練」と同様のきっかけです。初めは実タンクを使っただけのものかと思っていたら、三相射流消防車という初めて聞く消防車の存在が分かり、この点も調べることにしました。三相射流という技術は中国のようですが、車体はベンツ製ですので、共同事業ということでしょうね。メーカーである明光浩淼安防科技股份公司のウェブサイトは中国語だけでなく、英語版を出していますので、海外への販路を視野に入れているようです。たくましいですね。

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