(写真はYomiuri.co.jpから引用)
|
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、神奈川県川崎市川崎区水江町にある東亜石油京浜製油所の水江工場の石油貯蔵タンク施設である。
■ 東亜石油は1924年に設立され、川崎市水江町に精製能力70,000バレル/日の製油所を有している。
発災があったのは、石油貯蔵タンク施設にある直径約26m×高さ約14.5mの容量6,500KLのアスファルトタンクTK-3である。貯蔵タンクはボイラー用の燃料としてアスファルトが入っており、タンク内に蒸気式加熱器が設置され、通常、150~170℃の範囲で温度調節されていた。
東亜石油京浜製油所の周辺(現在) (写真はGoogleMapから引用)
|
東亜石油京浜製油所の配置(発災当時)
(図はToaoil.co.jpから引用)
|
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はAsahi.comから引用)
|
■ 2006年5月21日(日)午後3時頃、東亜石油京浜製油所水江工場の石油タンク1基が爆発して、火災となった。タンク内にはボイラー用の燃料としてアスファルト約4,000KLが入っていた。
■ ドーンという爆発音は2km先まで響いたという。爆発時の衝撃でタンクの屋根がめくれ、中から激しく黒煙や白煙が立ち昇った。爆発炎上により屋根は破損し、上部から三分の一ほどがタンクの内側に折れ曲がった。
■ 発災に伴い、川崎市消防局の化学消防車などが出動し、消火活動が行われた。
■ 火災は約4時間後の午後6時44分に鎮火が確認された。事故に伴うけが人は出なかった。
被 害
■ アスファルト用貯蔵タンク1基が爆発・火災で損壊した。
■ 発災に伴う負傷者は無かった。
(写真はPref.kanagawa.jpから引用)
|
< 事故の原因 >
■ 原因は、作業の確認ミスにより高温のアスファルト内に軽質油が入って、爆発混合気が形成され、タンク内壁の付着物質の自然発火によって爆発を起こしたものとみられる。
(1) アスファルトタンクへ軽質油混入の要因
装置運転開始に伴う減圧残渣油(アスファルト)のタンク切替え作業時に、本来閉めておく小径配管のバルブの確認不足によって開いたままのバルブを通じて小径配管から軽質油がタンク内に入った。
(2) 可燃性ガスの発生要因
軽質油(軽油相当)が高温のアスファルトタンクに混入したため、タンク温度は管理温度(170℃)を超える183℃まで上昇した。軽質油が混入したアスファルトは120℃から酸化・熱分解が始まるといわれており、燃焼下限界を超える濃度の可燃性ガスがタンク内に滞留したとみられる。
(3) 着火要因
アスファルトタンクの内壁には、アスファルトから発生する微量のフューム(蒸気)が冷却され、タンク供用中に付着・蓄積する。このタンク内壁の付着物質が自然発火したものとみられる。
(同社の類似タンクにおいて酸化発熱・蓄熱した付着物質を採取して確認したところ、230℃付近で発火温度に達した)
発災の燃焼メカニズム
(図はToaoil.co.jpから引用)
|
< 対 応 >
■ 事故発生に伴って出動した車両は、川崎市消防局の化学消防車など23台だった。
■ 東亜石油は、5月21日(日)、原因究明のため第三者の専門家を入れた火災事故対策委員会を設置した。
■ 5月22日(月)、川崎市消防局と神奈川県警が合同の立入り調査を行った。
(写真はAsahi.comから引用)
|
■ 発災したアスファルト・タンクの原因究明のため、タンクの液抜き・清掃が行われた。この際、発災から10日ほど経った時点でも、タンク内が約72℃と高温で、人が近づけない状況だった。固まる前に残留しているアスファルトをタンクから抜きとる必要があるので、内部の温度を計測するため、大型クレーン車に温度計を吊り下げて、油温を計測した。発災時に183℃だったタンク内の温度は低下しているが、ペースは極めてゆっくりだったことが分かった。
■ 東亜石油は7月28日に中間報告を発表するとともに、つぎのような安全対策をとることとした。
(1) 誤操作の防止
・非定常作業時の再確認方法を実施する。
(2) タンク温度上昇防止
・監視用温度計の追加設置と軽質油の逆流防止対策を実施する。
・タンク最高管理温度(170℃)の設定と管理を強化する。
(3) タンク油量管理の徹底
(4) 類似箇所への水平展開
補 足
■ 「東亜石油」は1924年に設立された石油会社で、現在は昭和シェル石油グループの石油精製会社である。本社および拠点の京浜製油所は、川崎市川崎区にあり、精製能力は70,000バレル/日である。現在の工場のほかに精製能力120,000バレル/日の扇町工場があったが、2011年に閉鎖された。なお、発災のあった年の前年(2005年)に東亜石油はTPM優秀賞を受賞している。
■ 「アスファルトの取扱い」についてAPI(米国石油協会)では、つぎのような趣旨のリコメンドしている。
(1) タンク内の付着物は177℃を越える温度で酸化により発熱し、190℃を越える温度で自然発火する可能性がある。
(2) タンクに177~232℃の温度範囲で貯蔵する場合、タンク内に不活性ガス導入による不活性化は付着物の酸化を防止する一方、硫化鉄のような自然発火物の生成に適した環境を形成する。このため、タンク内に不活性ガスを導入するか否かは、施設のオーナーが選択する。
(3) タンク内の不活性ガス導入による不活性化は、自然発火性の付着物の生成を助長しやすくする。これを避けるために、約5%の酸素を含む不活性ガス(例えば、煙道ガス)を導入すれば、自然発火性の付着物の生成を最小にすることができる。
■ アスファルトタンクにおける最近の事故事例は、「インドネシアの製油所でアスファルトタンクが爆発・火災」の補足の項を参照。
所 感
■ アスファルトタンクにおいて注意すべき項目は、これまでの事例紹介の際につぎのように述べてきた。
① 水による突沸
② 軽質油留分の混入
③ 運転温度の上げ過ぎ
④ 屋根部裏面の硫化鉄の生成
今回の事例は、「軽質油留分の混入」が事故の原因である。混入に至ったのは複雑な要因によるものでなく、小径配管のバルブ1個の開閉確認のミスである。この対策として「誤操作の防止」について「非定常作業時の再確認方法を実施する」こととしている。そのとおりであるが、この対応を風化させずに継続して実行することは容易とはいえない。
このような作業時の失敗を防止するには、つぎの3つを実行する以外にない。
① ルールを正しく守る
② 危険予知(KY)活動を活発に行う
③ 報連相(報告・連絡・相談)によって情報を共有化する
備 考
本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
・Toaoil.co.jp,
京浜製油所水江工場の減圧残渣油(アスファルト)タンク火災事故,
May 23, 2006
・Toaoil.co.jp,
京浜製油所水江工場の減圧残渣油(アスファルト)タンク火災事故原因,
July 28, 2006
・Toaoil.co.jp,
TOA OIL 2007 Corporate Social Responsibility Report, March,
2007
・Yomiuri.co.jp, 川崎市の製油所タンクが爆発、けが人なし, May
21, 2006
・「産業と保安」, 東亜石油タンク火災事故, June
22, 2006
後 記: 今回の事例は、10年前に入手した情報をもとにまとめ直したものです。あらためてインターネットで検索して関連情報がないか調べてみましたが、無いということがわかりました。当時に報じられた新聞記事のリストが出てきましたが、すでに記事の公開はすべて打ち切られていました。それでは、この事例が事故情報としてまとめられ、インターネットで見られるかというと、これもありません。唯一、東亜石油の「2007
CSR レポート」に記載があるのみでした。
0 件のコメント:
コメントを投稿