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2021年3月22日月曜日

福島事故から10年: 原子力プラントで何が起こったのか?

 今回は、2021311日(木)の東日本大震災の福島原発事故から10年を迎え、英国放送協会がまとめた「原子力プラントで何が起こったのか?」(What happened at the nuclear plant?)の記事を紹介します。

< 背 景 >

■ 10年前の311日(金)の午後、日本でこれまでに記録された中で最も激しい地震が東日本を襲った。マグニチュード9.0の地震は激烈で、地球の軸がズレるほど強かった。地震によって津波が引き起こされ、本州の太平洋岸の町を襲い、18,000人以上の人たちの命を奪った。

■ 福島原子力発電所では、巨大な津波が防衛線(防潮堤)を越えて原子炉建屋に入って浸水させ、大災害を引き起こした。当局は、プラントからの放射線漏洩量が大きくなるにつれて立入禁止区域を広く設定し、150,000人以上の人びとが自宅から避難することを余儀なくされた。

■ 10年経った今も、この区域はそのままの状態で、多くの住民は自宅に戻れていない。 当局は、作業にすでに何兆円もの費用をかけているが、完了するのに最大40年かかると考えている。

< プラントはどこにあるか >

■ 福島第一原子力発電所は福島県大熊町にある。この地域は首都東京の北東約220kmの東海岸に位置している。

■ 2011311日(金)午後246分、東日本大震災あるいは2011年東北地方太平洋沖地震として知られる地震が仙台市の東方沖、発電プラントから北97kmで発生した。

■ 津波が海岸を襲うときに、住民にはわずか10分前に警告が発せられた。

■ 地震、津波、原発事故の結果、国内全部で50万人近くが家を離れることを余儀なくされた。

< 福島で何が起こったのか? >

■ 原子力発電所のシステムが地震を検知し、原子炉は自動的に停止した。非常用ディーゼル発電機が起動し、原子炉内のコアの周りに冷却剤を送り続けたが、原子炉は反応が停止した後も信じられないほど高温のままであった。

■ しかも、すぐに高さ14mを超える津波が福島を襲った。海水は防潮堤を圧倒し、プラントを浸水させ、非常用発電機を打ちのめした。

■ 従業員たちは電力を回復させようと急いで行動したが、3基の原子炉の核燃料は過熱してコアを部分的に溶融させた。これは核のメルトダウン(炉心溶融)として知られている。

■ また、プラントは何度か水素爆発に見舞われ、原子炉建屋がひどい損傷を被った。放射性物質が大気と太平洋に漏れ始め、避難区域と立入禁止区域が拡大していった。

< 何人が負傷したか? >

■ 原発事故の最中や直後に、死者は出なかった。爆発で少なくとも16人の作業員が負傷し、さらに原子炉の冷却やプラントの安定化に取り組んでいた数十人が放射線にさらされた。報告によると、三人の従業員が放射線によって高レベルに被ばくした後、病院に運ばれた。

■ 放射線の長期的な影響についてはいろいろな議論がある。世界保健機関(WHO)が2013年に出した報告では、この事故によってこの地域のがん発生率が目に見えるほど増加した傾向はないという。国内外の科学者は、プラント直近の地域を除けば、放射線のリスクは比較的低いままであるとみている。

■ 震災から10周年を前に、 202139日(火)、国連の報告書では、災害による放射線に直接的に関係した福島の住民に健康への悪影響はないと書かれている。放射線に関する将来の健康への影響については、識別できそうにないと述べられている。

■ しかし、多くの人たちは危険性がはるかに大きいと思っており、地域の住民は警戒を続けている。当局は多くの地域で規制を解除しているにもかかわらず、ほとんどの人は自宅に戻っていない。2018年、日本政府は、ひとりの従業員が放射線の被ばく後に死亡したと発表し、家族は補償されるべきであることに同意した。一方、放射線のために避難して移動しなければならなかった病院の入院患者数十人が亡くなったのを含め、多くの人々が避難先で死亡したことが確認されている。

■ 福島原発事故は、国際原子力機関によってレベル7の事象に分類されており、事象評価の中では最も高く、チェルノブイリ事故につづいて2番目の災害である。

< 誰が誤っていたのか? >

■ 評論家は、プラント操業者の東京電力(Tepco)と日本政府双方の慌てふためいた対応と同様、レベル7の事象への準備の不十分さを批判した。

■ 日本の国会によって設立された独立した委員会の調査では、福島原発事故は“深刻な人為的災害” と結論付け、安全の要件を満たさず、今回のような事象を検討してこなかったエネルギー会社を批判した。 しかし、2019年、日本の裁判所は、災害から出てきた唯一の刑事事件であることで、東京電力の元幹部3人の怠慢をしりぞけた(無罪とした)。

■ 2012年、当時の日本の野田佳彦首相は、国が原発事故の責任を分担すると述べた。2017年、裁判所は、政府に部分的な責任があり、避難者に補償を支払うべきであるとの判決を下した。

< クリーンアップ作業はどうなっているか? > 

■ 10年経った今も、日本の福島県のいくつかの町は立入り禁止のままである。当局は、住民が帰還できるように地域の汚染除去に取り組んでいる。

■ 大きな課題が残っている。現場に残された核廃棄物の除去、燃料棒の取り出し、100万トンを超える放射能汚染水の処理を安全に行うためには、今後3040年間、数万人の労働者が必要になる。

■ しかし、放射線が恐いという理由や、すでに他の場所で新しい生活を築いているという理由、あるいは災害が発生した場所に帰りたくないという理由で、住民の一部は二度と戻らないことに決めている。

■ 2020年の報道によると、政府は放射能を減らすためにフィルターを通した水を早ければ来年にも太平洋に放出し始めるという。

■ 一部の科学者は、巨大な海が放出した水を薄め、人間や動物の健康へのリスクが低くなると信じている。しかし、環境保護団体のグリーンピースは、水には人間のDNAにダメージを与える可能性のある物質を含んでいると述べている。

■ 当局は、液体をどうするかについて最終的な決定はなされていないと述べている。

 

■「国際原子力機関によるレベル7の事象」は、原発事故の深刻さの度合いを示す指標である国際原子力事象評価尺度の中の最も深刻なレベルの事象である。国際原子力事象評価尺度は図を参照。

■「英国放送協会」は、 British Broadcasting Corporation、略称:BBC で、イギリスのラジオ・テレビを一括運営する公共放送局である。インターネットでは、ニュースを配信している。

所 感

■ 東日本大震災から10年を迎え、日本のテレビや新聞のメディアでいろいろな特集番組があった。地震や津波による自然災害を風化させないという意図は効果があっただろう。この災害の中で福島原発事故も取り上げられていたが、海外ではどのように見ているかよくわかった。

■ 今回の英国放送協会(BBC)のインターネット情報は、この10年の動きを海外の第三者的視点でまとめられており、つぎのようなハッとする事項があった。

    ● 水素爆発で16人が負傷し、3人の従業員が放射線による被ばくで病院に搬送されたが、原発事故の最中や直後に、死者は出なかったという指摘は、改めてあれだけの大事故で死者が無かったのだと思った。一方、2018年にひとりの従業員が放射線の被ばく後に死亡したという話は初めて知ったし、放射能被ばくの怖さを感じる。

 ● 国連の報告書で、福島の住民に“健康への悪影響はなく”、放射線の将来の健康への影響は“識別できそうにない”という。多くの地域で規制を解除しているにもかかわらず、ほとんどの人は自宅に戻っていないことに合理的で率直な疑問をもっていると感じた。

 ● 国会による委員会では、事故は“深刻な人為的災害” と結論付け、対策を検討してこなかった東電を批判し、また、当時の首相は国が事故の責任を分担するとしている。 しかし、裁判所は東京電力の元幹部3人の怠慢をしりぞけた。この矛盾は、日本の刑事事件の裁判のあり方に疑問を呈していると感じた。

 ● 汚染水の処理について、一部の科学者は、海への放出によって希釈すれば、人間や動物の健康へのリスクが低くなると信じていると今の状況を述べ、一方、環境保護団体のグリーンピースが水には人間のDNAにダメージを与える可能性のある物質を含んでいるとして、対応策の見直しや丁寧な説明を求めていると感じた。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Bbc.com, Fukushima disaster: What happened at the nuclear plant?,  March  10,  2021       

    Firedirect.net, Japan – 10 year Anniversary – Fukushima Disaster,  March  11,  2021


後 記: 311日の東日本大震災10年を契機にいろいろな特集が組まれていました。そのひとつにテレビで映画「Fukushima 50」が放映されたのを観たきっかけで、インターネット情報の“FireDirect” に福島原発事故を振り返る記事に興味が出ました。この記事のオリジナルは“BBC”のインターネット情報でした。表現は日本人からみるとやや大袈裟な気もしますが、できるだけ趣意に沿った日本語にしました。たとえば、「海水は防潮堤を圧倒し、非常用発電機を打ちのめした」は、「海水は防潮堤を越え、非常用発電機を停止させた」ではあまりにも味のない文章です。 また、標題の写真は原発事故ではありませんが、東日本大震災のすさまじさを表しているので、そのまま引用しました。 FireDirect” では、下のような千葉のLPGタンク火災事故の写真を標題に使用されていました。


  

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