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2025年3月27日木曜日

ロシアと米国の電話会談でエネルギー施設への攻撃一時停止?

 今回は、2025319日(水)、ロシアのクラスノダール地方のカフカスカヤにあるナフタトランス社のカフカスカヤ石油ターミナルで無人航空機(ドローン)による攻撃で貯蔵タンクと配管が火災になった事例を紹介します。前日の318日(火)に米国大統領とロシアの大統領が電話会談を行い、ロシアとウクライナのエネルギー施設への攻撃を一時停止すると報じられましたので、貯蔵タンク事故の観点から調べたものです。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシアRussiaクラスノダール地方Krasnodar regionのカフカスカヤKavkazskayaにあるナフタトランス社 Naftatransのカフカスカヤ石油ターミナルKavkazskaya oil terminal である。石油ターミナルには、容量20,000KLの貯蔵タンクが5基あり、合計10KLの石油製品が保管されている。

■ 発災があったのは、石油ターミナルの貯蔵エリアにある石油貯蔵タンクと配管である。

< 事故の状況および影響 > 

事故の発生

■ 2025319日(水)夜、石油ターミナルが火災になった。勤務中の30人は避難し、工場の操業が停止された。

■ 石油ターミナルがウクライナの無人航空機(ドローン)5機による夜間攻撃を受け、2基の貯蔵タンクを結ぶ配管が損傷し、火災になった。その後、貯蔵タンクの1基が火災を起こした。

■ 石油貯蔵タンクと配管は炎と煙に包まれた。

■ 発災にともない、消防隊が出動し、火災を制圧しようと努めた。出動したのは、消防士276名、2台の特殊消防車を含む105台の消防設備で対応した。

■ 当初、火災面積は20㎡だったが、その後、1,700㎡の面積に広がった。さらに、油の流出によって320日(木)朝には、3,750㎡まで広がった。

■ 地元当局が行った近隣の2か所の大気検査で、ベンゼンなどの有害化学物質の濃度が過剰に検出された。

■ 当局は、クラスノダール方面の道路を閉鎖し、住民に対して外に出たり、窓を開けたりしないよう勧告した。

■ 戦争遂行のための重要な収入源となっているロシアのエネルギー産業に対するウクライナの頻繁な攻撃による破壊的影響を浮き彫りにしている。ロシアもまた、戦争中ずっとウクライナのエネルギー網を攻撃し、民間人や産業に影響を与える停電を頻繁に引き起こしている。

■ 発災前日の318日(火)、米国大統領とロシアの大統領はウクライナとロシアの戦争について電話会談を行った。ロシア大統領はウクライナのエネルギー施設への攻撃を一時停止することに同意したと報じられている。ロシア国防省は、今回の攻撃がロシア大統領と米国大統領の電話会議で一時停止に合意した数時間後に発生したと述べた。320日(木)には、ロシア外務省はウクライナが石油ターミナルを攻撃することで停戦協定に違反したと述べた。

 ウクライナ大統領は、ロシアとの文書化された合意があれば、米国大統領とロシア大統領の間で318日(火)に話し合われた停戦に参加する用意があると述べた。また、 319日(水)、ウクライナ当局者は、ロシアが民間人を攻撃することで停戦の約束を破ったと非難している。ウクライナ大統領は、病院や鉄道設備を含む主要なインフラストラクチャへのロシアの攻撃が「米国大統領の言葉とは、現実が大きく異なる」ことを示していると語っている。

■ 321日(金)、カフカスカヤ石油ターミナルの貯蔵タンクで新たな爆発が発生した。ロシアの地方当局によると、「消火活動中、燃えているタンクの圧力が下がった(減圧)ため、石油製品が爆発し、燃えている石油が流出した」と語った。火災は別のタンクに燃え広がり、火災面積は10,000㎡に拡大した。これは初期の火災面積の2倍以上である。450人以上の消防士が消火活動に当たったが、消防士2人が負傷したほか、3台の車両が損傷した。

■ ユーチューブにはタンク火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

 Youtube“This’s scary, let’s run!” - ”Fire at oil depot in Krasnodar spreads to over 4,000 sq meters of area2025/03/20

   ●Youtube100,000 fuel destroyed- “Russian oil pumping station in Krasnodar is no longer exist“2025/03/22

   ●Youtube Fire at oil depot in Krasnodar spreads to a large area, hundreds of firefighters are battling it2025/03/19


被 害

■ 石油貯蔵タンクが火災で複数基損傷したほか、関連配管が損傷した。内部の油が焼失した。 

■ 消防士2名が負傷した。 

■ 火災により環境が汚染され、ベンゼンなどの有害化学物質の濃度が過剰に検出された。

■ 道路の一部が閉鎖され、住民に対して外に出たり、窓を開けたりしないよう勧告が出された。 

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消防隊は、消火戦術として①貯蔵タンク火災の制圧、②遮断弁まわりの制圧、③堤内エリア内での油火災の制圧の3つの活動を行った。

■ 320日(木)朝には、消防隊は堤内のタンク、遮断弁まわり、燃えている石油製品の消火作業を続けた。消火活動には、消防士406人と157台の消防資機材が投入されている。

■ 無人航空機(ドローン)の攻撃はノヴォロシースクへ石油を輸送するパイプライン施設を標的とし、大規模な爆発と火災を引き起こしたといわれている。

■ 321日(金)、石油ターミナルの貯蔵タンクで新たな爆発が発生し、消火活動中、燃えているタンクが減圧になったため、石油製品が爆発し、燃えている石油が流出した。火災は別のタンクに燃え広がり、火災面積は10,000㎡に拡大した。450人以上の消防士が消火活動に当たっており、消防士2人が負傷したほか、3台の車両が損傷した。

■ 322日(土)、当局は、依然として猛威を振るっている火災の消火活動を支援するため、水を積んだ消防列車を投入し、現場に列車4両が向かった。

■ 323日(日)、消防士たちは燃えている2番目のタンクの消火作業を続けている。最初のタンク火災は321日(金)までに燃え尽きた。

■ これに先立ち、314日(金)、ロシアのクラスノダール地方にあるトゥアプセ製油所のガソリン貯蔵タンクが夜間に無人航空機(ドローン)攻撃を受けた。火災の面積は1,000㎡を超え、消防隊が火を完全に消し止めるまでに3日以上かかった。

 ロシア最大級のトゥアプセ製油所は、国営ロスネフチが所有し、年間約1,200万トンの原油処理能力を持ち、ディーゼル燃料、航空燃料などを生産しており、生産量の90%は輸出向けとなっている。また、ロシアの黒海艦隊に燃料を供給しており、ロシア軍にとって戦略的に重要な場所である。

■ 321日(金)、 ロシア西部のウクライナ国境に近いクルスク地方にあるスジャガス計量ステーションが大規模な爆発が起き、火災となった。この施設はかつてガスプロム社がウクライナ経由で欧州にガスを輸出するために使用していた。

 ウクライナは、321日(金)、ロシアが責任を押し付ける目的でスジャガス計量ステーションを故意に攻撃したと非難した。同ステーションはロシア軍自身によって繰り返し砲撃されたという。ウクライナは、「ロシアが多数の偽情報を作り続け、国際社会を欺こうとしている。公式の情報源だけを信じ、情報を検証し、操作に屈しないようお願いする」と付け加えた。

 ロシアのメディアは、ウクライナ軍がロシアの欧州向けガス輸出に重要な役割を果たす主要ガス輸送施設を攻撃したと主張していた。ロシア国防省は、ウクライナが同基地の爆破を計画していたと主張し、ウクライナが挑発を画策していると非難した。

補 足

■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,200万人の連邦共和制国家である。2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

       ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

       ●ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

    「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

  ●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」20234月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」20235月)

  ●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」20236月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災」20241月)

  ●「ロシア各地の石油貯蔵施設が無人航空機攻撃でタンク火災、新型ドローンか?20246月)

  ●「ロシアのロストフ州東部の石油貯蔵施設がドローン攻撃でタンク火災」20247月)

「クラスノダール地方」Krasnodar regionは、ロシアの北コーカサス(北カフカス)に位置し、ロシア連邦の南部連邦管区を構成する地方のひとつで、人口は約540万人である。行政の中心はクラスノダール(人口約93万人)である。

「カフカスカヤ」Kavkazskayaは、クラスノダール地方の東部に位置する町である。

■「ナフタトランス社」 Naftatrans は、2007年に設立されたロシアおよび旧ソ連圏の物流会社の一つである。

「カフカスカヤ石油ターミナル」Kavkazskaya oil terminalは、ナフタトランス社が保有し、カスピ海パイプライン・コンソーシアムと鉄道による石油輸送を結び付けているロシアの石油輸出ネットワークの重要な拠点である。この施設のインフラには、クロポトキンスカヤ石油ポンプ場につながる15.7kmのパイプラインが含まれており、ノヴォロシースクへの輸出用に石油を輸送する上で重要な役割を果たしている。この石油ターミナルから13km離れたところにクロポトキンスカヤ石油ポンプ場があるが、2025217日の無人航空機(ドローン)攻撃を受けて機能停止となっている。

■「発災タンク」に関して、石油ターミナルには容量20,000KLのタンクが5基あると報じられている。グーグルマップで調べると、クラスノダール地方のカフカスカヤに5基のタンクが設置されている石油ターミナルがあるので、ここがカフカスカヤ石油ターミナルとみられる。5基はいずれも同じ大きさの固定屋根式(ドーム型)で、直径は約38mである。容量20,000KLとすれば、高さは約18mとなる。発災タンクは5基のうちのいずれかであるが、情報が不足し特定できなかった。

所 感

■ 米国大統領とロシアの大統領が電話会談を行い、ロシアとウクライナのエネルギー施設への攻撃を一時停止すると報じられたので、戦争が終わるのか貯蔵タンク事故の観点から実際の状況を調べてみた。しかし、三か国の思惑の違いが明らかで、ことが進展するかどうか疑問を感じざるを得ない。今回のカフカスカヤ石油ターミナルの事例を見て、「エネルギー施設への攻撃を一時停止する」という提案は貯蔵タンクへの攻撃にロシア側は本当に対応に困っていると思われる。

■ ウクライナの無人航空機(ドローン)の攻撃性は戦争が始まって以来、ここ2年で急速な進歩を遂げている。今回の事例では、たった5機の無人航空機(ドローン)で石油ターミナルが壊滅的な被害を受けているとみられる。高価なミサイルなどでなく、安価な無人航空機(ドローン)が防空システムをくぐり抜けている。最近の無人航空機(ドローン)による攻撃でタンク被害が大きいことは、これまでのブログで紹介してきたとおりである。しかも、 FPV型無人航空機(ドローン)の使用は個人レベルで遂行できることである。ロシアはウクライナの攻撃だと主張するが、これまでもウクライナは攻撃について正式には発表していないことがある。「エネルギー施設への攻撃の一時停止」の状況でも、ロシア国内のテロリストがやったのだろうということができる。

■ このブログでは、日本におけるテロ対応の観点から無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性を見てきた。無人航空機(ドローン)が飛行機型からFPV型(First Person View)ドローンが出てきたことで、テロ対策上からは厄介な攻撃用ドローンである。しかし、逆に見れば、高価な防空システムは必要なく、従来の監視システムの改良で対応できる余地があるのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Youtube.com, Russian oil depot explodes after Ukrainian drone attack,  March  19,  2025

    United24media.com, Fire at Key Russian Oil Hub Doubles in Size Following Drone Attack,  March  19,  2025

    English.alarabiya.net, Blast intensifies fire at Russian oil depot struck by Ukraine,  March  20,  2025

    Reuters.com, Gas pumping station in Russia near Ukraine border on fire after explosion,  March  21,  2025

    Newsweek.com, Second Blast Hits Russian Oil Depot Holding 100,000 Tons of Fuel,  March  21,  2025

    Kavkaz-uzel.eu, Нефтебаза в станице Кавказской продолжает горетьИсточник,  March  20,  2025

    Moneytimes.ru, На нефтебазе в станице Кавказская сохраняется угроза распространения огня,  March  23,  2025

    Straitstimes.com, Russian authorities bring in trains to fight oil depot fire,  March  23,  2025

    Arnnewscentre.ae, Blast intensifies fire at Russian oil depot struck by Ukraine,  March  21,  2025

    Vesti.ru, На горящей под Краснодаром нефтебазе произошел выброс нефтепродуктов,  March  23,  2025

    Pravda.com.ua, На горящей 2 суток нефтебазе в Краснодарском крае РФ произошел взрыв – огонь охватил еще один резервуар,  March  21,  2025

    Forbes.ru, Отказ от ударов по энергообъектам и обмен пленными: итоги разговора Путина и Трампа,  March  19,  2025

    Ria.ru, На горящей на Кубани нефтебазе прогремел взрыв,  March  21,  2025

    Vesti.ru, На горящей под Краснодаром нефтебазе произошел выброс нефтепродуктов,  March  23,  2025


後 記: ロシア大統領と米国大統領の電話会談でエネルギー施設への攻撃が一時停止で合意したというニュースが流れましたが、中身をみると、ロシアが米国を懐柔(かいじゅう)していますね。まさに怪獣です。ところで、話は変わって今回の石油ターミナルのタンク火災ですが(こちらが本来メインの話題です) 、やはり流れてくる情報は戦争における報道(事実を隠して嘘をついてもよいという風潮)であり、本当なのかどうか疑問をもちながら(翻訳を)読んでいました。ということで、どこまでが本当なのか半信半疑でブログをまとめました。また、発災写真はたくさんありましたが、信ぴょう性に?が付いたものが多く、引用したものが少なかったですね。

2025年3月19日水曜日

米国テキサス州のパイプラインで油窃盗中に爆発火災、石油生産施設へ延焼

 今回は、202535日(水)、米国テキサス州リーブス郡を通っているウェスタン・ミッドストリーム・パートナーズ社のパイプライン施設が爆発し、火災となり、石油生産施設に延焼した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)リーブス郡(Reeves County)を通っているウェスタン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Western Midstream Partners LP)のパイプライン施設である。

■ 事故があったのは、リーブス郡オーラ(Orla)近くの国道285号線と郡道436号線付近にあるパイプライン施設である。パイプラインはウェスタン・ミッドストリーム社の石油生産施設敷地内にあった。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202535日(水)午後1130分頃、パイプラインが爆発し、石油生産施設内で火災が発生した。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。

■ リーブス郡保安官代理とともに消防隊が現場に到着し、油が燃えているのを確認した。近くには、真空タンカー(バキューム・トラック)が2台停車していた。

■ パイプラインは運転が停止されたが、遮断された距離は約2.5マイル(4km)あり、残液が燃え尽きるまでに時間を費やす必要があった。

■ 火災は激しく、死傷者が出たかどうかは不明であった。パイプラインの監督は従業員全員が無事であることを確認しており、爆発時に現場には他に誰もいなかったはずだと述べた。しかし、念のため、リーブス郡保安官事務所は石油会社に対し、トラックの在庫台数を確認し、不明者がいないことを確認するよう求めた。

■ 当局は、現場まわりの通行について追って通知があるまで避けるよう注意喚起した。

■ 保安官事務所は爆発の原因を調査している。

■ インスタグラムでは、事故を伝えるニュース映像が投稿されている。主なものはつぎのとおりである。(今事例ではユーチューブに投稿されたものはなかった)

 Instagram.comA couple of thieves are behind the pipeline explosion and tank battery fire in Reeves County, Texas2025/03/10

被 害

■ パイプラインが火災になり、一部焼損した。

■ パイプラインの火災によって近くの石油生産施設に延焼した。

■ 負傷者は出なかった。

■ 現場まわりの道路の通行が制限された。  

< 事故の原因 >

■ 原因は、パイプラインから油を窃盗しようとして引火し、爆発・火災が起きたものである。

< 対 応 >

■ 310日(月)、 リーブス郡保安官事務所の発表によると、パイプラインの爆発・火災は石油窃盗犯ふたりによる犯行だという。

■ 捜査の結果、2台の真空トラック(バキューム・トラック)でパイプラインのメンテナンス用に設計されたステーションから石油製品を盗もうとしていたことが判明した。捜査では、現場から回収された証拠品から、窃盗犯の容疑者が安全性を無視して行ったため、静電気が蓄積して引火し、高圧のパイプラインで火災が起こり、続いて爆発に至ったとみられることが分かった。

■ リーブス保安官事務所は、今回のような窃盗は公共の安全にとって最大の懸念事項であるといい、「この火災が人口密集地域に広がる前に、あるいは天然ガスパイプラインに接触する前に鎮火できたのは、非常に幸運でした。油田地帯のコミュニティーには、こうした危険な事故を防ぐために、疑わしい動きがあれば、通報してほしい旨呼びかけています。今回、事故発生時に被害が大きくなるのを防ぐために協力してくれた人に感謝したいと思います」と語っている。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「リーブス郡」(Reeves County)は、テキサス州の西部に位置し、人口約13,000人の郡である。

「オーラ」(Orla)は、リーブス郡の国道285号線沿いにある非法人の町で、人口は約2万人ほどと推定されている。

■「ウェスタン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Western Midstream Partners LP) は、 20071月に設立され、原油や天然ガスの収集・圧縮・処理・加工・輸送を行うエネルギー会社である。テキサス州、ニューメキシコ州、コロラド州、ユタ州、ワイオミング州で活動しており、子会社には、Western Midstream Operation GP, LLCWestern Midstream Services, LLCWestern Midstream Services Holdings, LLCWestern Midstream Operation, LPがある。

■「発災場所」は、テキサス州リーブス郡オーラ近くの国道285号線と郡道436号線近くと報じられており、グーグルマップで調べた。しかし、この周辺には石油生産施設が点在しており、発災場所の特定には至らなかった。

 爆発は、「パイプラインのメンテナンス用に設計されたステーション」と報じられている。一般にパイプラインのステーションは、ブロックバルブ・ステーション、ポンプ・ステーション、コンプレッサー・ステーションなどパイプラインの保守と操作に使用されるステーションをいうが、今回のメンテナンス用ステーションの詳細はわからない。

 ■「窃盗の方法」の詳細は報じられていない。石油パイプラインの窃盗事例は本ブログでつぎのような事例を紹介した。

   「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」 20149月)

   「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」20179月)

 「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」20191月)

  石油パイプラインの窃盗は、違法な「ホットタッピング」によるものが多い。 「ホットタッピング」は、本来、パイプラインの内容物を抜かずにバルブを切れ込んだり、バイパスラインを設置するために開発された工法で、パイプラインに枝管(バルブ付き)のノズル部を溶接し、ホットタッピング・マシンという特殊な穿孔機を使用してパイプラインに孔を明け、抜出し口を設ける。通常はパイプラインの流れを一時的に止め、内圧を下げてから溶接工事や穿孔工事を行なう。パイプラインからの油窃盗では、内圧がかかったままであるので、極めて危険な工事である。今回は、パイプラインのステーションから石油製品を盗もうとしていたと報じられており、 「ホットタッピング」の方法ではなく、既存設備を使ったものだと思われる。

所 感

■ 今回のパイプライン事故原因は当初わからなかった。このため、停車していた真空タンカー(バキューム・トラック)はパイプライン会社所有の車だという認識で対応している。しかし、捜査の結果、パイプラインから油を窃盗しようとしていたことがわかった。これまでメキシコでパイプラインからの石油窃盗はあったが、米国では聞いたことがない。

■ 前々回に紹介した「米国テキサス州のパイプライン火災の原因は自殺者の車による破壊」20252月)の事例では、テキサス州のパイプラインの安全対策に問題があるという指摘をするメディアが多く、日本では考えられないほど甘い印象だったが、今回はさらに深刻な指摘どおりの事例といえよう。

■ 消火活動についてはほとんど報じられていない。火災の写真をみると、パイプラインの内液は天然ガスと思われ、燃え尽きるまでの不介入戦略をとったものとみられる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

Yourbasin.com, Pipeline explosion in Reeves County sparks massive fire; casualties unknown, March 06, 2025

    Newswest9.com, Active pipeline explosion and tank battery fire in Reeves County, officials say, March 06, 2025

    Newswest9.com, Thieves cause tank battery fire, explosion in Reeves County, officials say, March 10, 2025

    Conchovalleyhomepage.com, Reeves Co: Tank battery explosion caused by petroleum thieves, March 10, 2025

    Firstalert7.com, Pipeline explosion after attempted robbery of petroleum products, March 11, 2025

    Sanangelolive.com, Pipeline Explosion and Fire Erupt in Reeves County, Cause Unknown, March 06, 2025

    Chron.com, Static charge causes explosion during attempted petroleum theft in Reeves County, March 10, 2025

    Ktsm.com, Reeves Co: Tank battery explosion caused by petroleum thieves, March 10, 2025

 

後 記「米国テキサス州のパイプライン火災の原因は自殺者の車による破壊」20252月)や今回の油窃盗事例を見ると、「おい、おい、アメリカさんよ、しっかりしてくれ」と言いたくなりますね。 米国大統領は掘って、掘って、掘りまくれDrill, Baby, Drill)と言っていますが、パイプラインをDrillすると解釈?) したのでしょうか。冗談はさておき、現在の米国はパイプラインの安全対策について真剣に考える必要があります。(日本は偉そうなことが言えるのかという反論が聞こえてきそうですが)

2025年3月13日木曜日

福岡県飯塚市の自動車解体施設で廃車のガスタンクから火災、負傷者2名

 今回は、2025114日(火)、福岡県飯塚市勢田にある自動車解体施設で、解体作業中に廃車の中にあったガスタンクが爆発して火災となり、負傷者2名を出した事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、福岡県飯塚市勢田(せいた)にある自動車解体施設である。

■ 事故があったのは、施設ヤード内の廃車の中にあったガスタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025114日(火)午前1030分過ぎ、廃車の解体作業中に爆発が起き、火災が発生した。

■ 発災にともない、消防署に「廃車の解体作業中にガスのタンクが爆発し、周囲に延焼した」という119番通報があった。通報にもとづき、消防隊が出動した。

■ 現場の住民によると、 「地響きするようなドーンっていう爆発音で家が揺れた。その後、細かくパーン、パーンという音が何度も聞こえた」という。

■ 火災は、現場に積み重なって置かれている複数の廃車などに延焼し、車は黒く焼け焦げ、赤い炎や煙が上がった。この火災で車両10台以上と敷地内の倉庫の一部が焼けた。

■ 事故にともない、解体作業にあたっていた2人が負傷し、病院に搬送された。ひとりは顔に火傷を負い、もうひとりは「耳が聞こえにくい」、「腰が痛い」などと訴えていたという。

■ 警察によると、発災当時は7人で廃車の解体作業などが行われていたという。事業所の関係者は、「廃車となったタクシーの車両から、燃料であるLPガスのタンクを外して運んでいるときに爆発が起きた」と話している。

■ユーチューブでは、事故を伝えるニュースの映像が投稿されている。

 Youtube「 ガスタンクが爆発」飯塚市で火災 2人搬送」2025/01/14

  ●Youtube「ガスタンクが爆発」飯塚市で火災 けが人情報も」2025/01/14

  ●Youtube「爆発音で家が揺れた」中古車輸入会社で車両の解体中に出火 19歳男性従業員が顔にやけどの重傷 福岡・飯塚市」2025/01/14

被 害

■ 廃車の車両10台以上と敷地内の倉庫の一部が焼けた。

■ 負傷者が2名出た。

< 事故の原因 >

■ 爆発・火災の原因は調査中である。施設の関係者は「廃車となったタクシーの車両から、燃料であるLPガスのタンクを外して運んでいるときに爆発が起きた」と語っている。  

< 対 応 >

■ 消防車8台が出て消火にあたり、火は約3時間後に消し止められた。

■ 警察と消防は、作業中に何らかの原因で爆発が起きたものとみて詳しい状況や原因を調べている。

補 足                                                

■「福岡県」は、九州地方の北部に位置し、人口約509万人の県である。

「飯塚市」は、福岡県北中部に位置し、筑豊三都(飯塚市・直方市・田川市)の一つで、筑豊で最多の人口約12万人を擁し、同地域の中心機能を持つ都市である。

■「自動車解体施設」は、廃車の引取りを行い、廃車を解体し、リサイクル部品の生産・販売を行う施設である。飯塚市勢田にある自動車解体施設の火災について報じたメディア各社は事業者名を報じていない。通常、今回のような火災について発災事業所を公表しない理由はない。変に疑いをもってしまう。逆に、2025122日には、事業者からフェースブック(Facebook)に、「114日にヤード内の輸出専門業者からの火災で関係者の皆様方々には多大なご迷惑とご心配をお掛けし誠に申し訳ありません。並びに沢山の励ましの言葉や沢山のお見舞いを頂き感謝でしかありません。(中略) 今後こういう事のないよう輸出業者に通達し改善していきますので、皆様今後共どうぞ宜しくお願い申し上げます」というコメントが投稿されている。

■「発災タンク」について「廃車の解体作業中にガスのタンク」と報じられている。一方、事業所の関係者の話しとして「廃車となったタクシーの車両から、燃料であるLPガスのタンクを外して運んでいるときに爆発が起きた」とも報じられている。実際、タクシーの車両では燃料としてLPGを使用するケースは多い。類似事例は、このブログでも「豪州の自動車解体施設でLPG燃料タンクによる火災」 20175月)を投稿している。

所 感

■ 自動車解体施設で廃車の燃料用LPGタンクが爆発して火災になった事故は、このブログの「豪州の自動車解体施設でLPG燃料タンクによる火災」 20175月) と類似事例である。

 豪州の事例では、所感に「燃料油の場合、燃料タンクからの油の抜き取りは比較的容易であるのに対して、 LPG燃料タンクでは残量が分かりにくい上にLPGの抜き取り(大気放散でなく)はむずかしい。この観点からすれば、LPG自動車の解体作業における盲点だったように思う」と書いたが、今回の事例でも、LPG燃料タンクの残液抜取りに問題があったと思われる。

■ 事業所の関係者が語っている「廃車となったタクシーの車両から、燃料であるLPガスのタンクを外して運んでいるときに爆発が起きた」と語っているが、廃車のタクシーを移動させているのか、LPガスのタンクを運んでいるのか状況は曖昧である。被災写真には、自動車解体施設のヤードに焼けた廃車類とともに、タクシーのような車両とフォークリフトが写っているが、当該事故のLPG車の廃車かどうかはわからない。

■ 消火活動は3時間かかって消火したとしか報じられていないので、どのような消火戦略をとったかはわからない。豪州の事例では、消火活動にかなり苦労している。消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、LPガスの火災では、火を消せばLPガスが流出・拡散し、何らかの引火源によって大きな爆発になる恐れがある。消火戦略やプロパンガスボンベの爆発・火災事例はつぎのブロブを参照。

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)

 ●「カナダの建設機械レンタル会社でプロパンガスボンベが爆発・火災」 20247月)


 

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

       Nhk.or.jp, 自動車解体事業所でLPガスのタンクが爆発 2人けが 飯塚,  January  14, 2025

       Yomiuri.co.jp, 「車を解体中にガスタンクが爆発」作業員2人搬送福岡県飯塚市の自動車関連会社「何回も爆発音」,  January  14, 2025 

       Newsdig.tbs.co.jp, 「爆発音で家が揺れた」中古車輸入会社で車両の解体中に出火 19歳男性従業員が顔にやけどの重傷 福岡・飯塚市,  January  14, 2025

      News.tnc.co.jp, 【速報】「爆発があった」との趣旨の通報 男性2人けがか「車が燃えている」激しく煙上がる 会社敷地内か 警察と消防が状況調べる 福岡・飯塚市,  January  14, 2025

      Okinawatimes.co.jp, 「車を解体中に爆発」と119番 福岡で複数人負傷か、19歳搬送,  January  14, 2025

      Sankei.com, 「車解体中にガスタンクが爆発」と通報、複数人負傷か 福岡県飯塚市の会社,  January  14, 20 25


後 記: 今回の事例では、九州のテレビ放送などによって事故状況が報じられました。しかもヘリコプターによる取材もあり、情報を調べれば、状況はわかると思いました。しかし、昼前の出来事だったので、昼のニュースの速報で報じられたあと、火災は消え、後報はなく、事故状況はよくわかりませんでした。LPG車のLPガスタンクの火災で危険性を知っている人ならば、関心のあるところなのですが。負傷者が出ているにもかかわらず、火が消えて万々歳といった雰囲気です。(「万々歳」は言い過ぎですが、類語辞典を調べても妥当な言葉が見つかりませんでした)

2025年3月8日土曜日

岩手県大船渡市の山火事、7日間続き雨で沈静化、死者1名

 今回は、2025226日(水)、岩手県大船渡市で起こった国内最大規模の山火事について紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 2025年の岩手県は山火事が多く、岩手県陸前高田市で225日(火)に発生した山火事は翌日鎮火したが、隣接する大船渡市では219日(水)から山火事が連続で3つ発生し、226日(水)に新たに起こった山火事は国内最大規模になった。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025226日(水)午後1時頃、岩手県)大船渡市の赤崎町合足(あったり)地内で山火事が起こり、燃え広がった。

■ 山火事発生は合足漁港付近にいた人からの通報でわかり、火災発生という情報を受け、消防隊が現場に出動した。

■ 大船渡市は、午後111分に防災無線で市民に火災を周知し、午後150分に市内三陸町綾里(りょうり)地区に避難指示を出した。

■ 火災は延焼が拡大し、合足漁港の近くの県道あたりが燃えていて、県道9号線で交通規制が行われた。以降、各地の市道などが消火活動のため各所で通行止めになった。

■ 火災発生にともない、消防隊の消火活動は、各都道府県から緊急消防援助隊が支援して行われた。しかし、狭い山道に入っていく消防車は限られ、さらに山の中には消火栓が無いことなどから消火活動は難航した。

■ 山火事は、赤崎町合足地区、三陸町綾里の田浜地区と小路地区のあわせて3か所で火災が発生しており、227日(木)午後には大船渡市街地に近い赤崎町の北西部に延焼した。 焼失面積は約1,200ヘクタールとなり、平成以降の山火事で国内最大規模になるという。

■ 大船渡市は、三陸町の綾里全域と越喜来(おきらい)3つの地区、それに赤崎町の13の地区に避難指示を出した。 対象世帯1,896世帯、対象人数4,596人である。 226日(水)午後2時、越喜来小学校の屋内体育館に最初の避難所が開設され、以降、31日(土)までに13か所の避難所が設置され、住民約1,200人が避難した。そのほか、公設の避難所以外に避難した人がおり、その数は約2,500人にのぼる。山火事の影響で綾里小学校、赤崎小学校、東朋中学校が臨時休校となった。

■ 大船渡市は、2011年の東日本大震災で津波による甚大な被害を受けた被災地のひとつで、その経験を生かし、住民の避難は比較的すみやかに行われ、避難所の開設や物資の調達なども迅速に行われた。しかし、三陸町綾里で男性ひとりの焼死体が見つかった。また、家屋など84棟が焼損したとみられるが、詳しい被害状況は調査できていない。その後、焼失家屋は78棟に修正された。

■ 31日(土)、岩手県内はオホーツク海を進む低気圧の影響で風が強まっていて、大船渡市では早朝に最大瞬間風速18.2m/sを観測した。昼の時点でも10m/s前後の風が吹いており、湿度は30%台と空気の乾燥した状態も続いた。

■ 火災地区に近い住民の中には、想像以上に火の手が早く、着の身着のまま逃げてきたという人もいる。燃え続ける山火事で避難対象区域内の住民は家の状況を確認しに行くこともできない。

■ 32日(日)山火事は発生5日目を迎え、平成以降、国内最大規模になった。夜通しで消火活動が行われたが、火の勢いは弱まっていない。焼失面積は午前6時時点で約1,800ヘクタールに拡大し、31日朝から一日で約400ヘクタール拡大した。大船渡市は、たび重なる避難指示の拡大で避難所がひっ迫した状態が続いていることから、2日新たに1か所の避難所を開設した。

■ 32日(日)午後5時、大船渡市は会見を開き、三陸町綾里では、北東部にある小石浜地区の集落の方向に延焼が拡大しているほか、赤崎町合足地区の周辺でも集落の方向に延焼が拡大しているという。

■ 33日(月)午前6時時点には、焼失面積が2,100ヘクタールに拡大した。さらに三陸町綾里の小石浜地区の付近や三陸町越喜来の甫嶺(ほれい)地区の付近などの方向へ延焼が拡大していることが確認された。

■ 大船渡市赤崎町にあるセメント業界大手の太平洋セメントの大船渡工場は、従業員の安全の確保などのため、228日(金)から稼働を停止した。工場で働く従業員約150人の多くが地元出身で、このうち30人ほどが避難指示の対象になっているという。工場の設備に被害は出ておらず、周辺で煙は確認されていないが、延焼が続いていることなどから稼働の再開のめどは立っていない。

■ 32日(日)朝、山火事に伴って避難指示が出ている三陸町綾里の漁業者たちは、船で綾里の港に向かい、停泊している漁船を退避させた。三陸町綾里は、定置網漁やワカメの養殖などが盛んな地域だが、全域に避難指示が出ていて陸路では立入れない状況が続いている。定置網漁を行う漁業者のひとりは「一番大事な網が燃えてしまった。網は注文してからできるまで半年から1年はかかるので、今シーズンの漁は諦めることになるかもしれない。担い手が減らないか不安だ」と語った。

■ 山火事に伴い、三陸鉄道は盛(さかり)駅と三陸駅の間の上下線で運転を取りやめているが、沿線への電力供給が停止したため、32日(日)の始発から運転取りやめ区間を盛駅と釜石駅の間に拡大した。避難指示が解除されるまでは、代行バスを運行する。避難指示区域をう回するため、陸前赤崎駅、綾里駅、恋し浜駅、甫嶺駅には停車しない。

■ 34日(火)、火災の発生から7日目となり、消火活動を継続して実施しているが、焼失面積は2,900ヘクタールに拡大した。

■ 35日(水)は、山火事発生後、初となる雪や雨が未明から降り、地元消防によると、地上隊からの報告では、延焼拡大は見られず、降雨が寄与したとみられる。降り始めからの雨の量は午後5時の時点で17mmだった。山からは今も煙が立ち上っているが、赤い炎は見えない。それだけに避難中の住民にとっては待ちに待った雨となった。家族と避難を続ける住民のひとりは「自宅の状況が分からず不安もあるが、雨で少し希望が見えた」と表情が緩んだ。

■ 35日(水)、大船渡市によると、山火事による地域別の建物被害の状況は、三陸町綾里小路16棟、石浜9棟、田浜9棟、港19棟、岩崎下4棟、宮野東3棟、赤崎町外口18棟の計78棟だと発表した。

■ ユーチューブには、山火事の状況を撮影された動画などのニュースが投稿されている。主なものはつぎのとおりである。

 YouTube「岩手・大船渡市の山火事 約4600人に避難指示【スーパーJチャンネル】」2025/3/01

    ●YouTube「岩手・大船渡市の山火事、平成以降最大の焼失面積 火の手が市街地に拡大する恐れも【羽鳥慎一モーニングショー】2025/3/03

    ●YouTube「住宅地に火の手迫る岩手・大船渡の山火事で約2100ha焼失 発生6日目も拡大止まらず約4600人に避難指示」2025/3/03

 ●YouTube「岩手・大船渡市の山火事 焼失面積は約2600ヘクタール 大船渡市の面積の約8%に|TBS NEWS DIG2025/3/04

被 害

■ 山林が2,900ヘクタール焼失した。

■ 死者がひとり出た。住民の1,896世帯、4,596人に避難指示が出された。公設の避難所に約1,200人が避難し、公設の避難所以外に避難した人は約2,500人にのぼった。

■ 住宅78棟が焼失した。

■ 山火事の周辺では、県道や市道などが交通制限された。 

< 事故の原因 >

■ 山火事の原因はよくわかっていない。

< 対 応 >

■ 226日(水)午後133分、大船渡市は災害対策本部を設置し、岩手県防災課に自衛隊派遣要請した。さらに午後250分、岩手県に緊急消防援助隊要請し、午後7時に災害救助法を適用することとした。岩手県はこの対応にもとづき、午後350分に災害対策本部を設置して対応することとした。

■ 総務省消防庁は周辺の自治体に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。

■ 227日(木)の地上消火活動は県内相互応援隊69人、緊急消防援助隊1,158人で対応した。空中消火活動は防災ヘリコプター8機で114 231,7000リットルを散水した。

228日(金)も引き続き、地上消火活動は県内相互応援隊74人、緊急消防援助隊1,675人で対応し、空中消火活動は防災ヘリコプター11機で276 650,650リットルを散水した。 

31日(土)は、地上消火活動で県内相互応援隊73人、緊急消防援助隊1,673人で対応し、空中消火活動では防災ヘリコプター13機で128 524,200リットルを散水した。32日(日)、33日(月)も同様の規模で消火活動を実施した。

■ 32日(日)午前11時の時点で、緊急消防援助隊は宮城県、山形県、青森県、福島県、栃木県、秋田県、新潟県、茨城県、東京都、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、北海道の14都道県にのぼった。活動の規模は4531,697人となった。

32日(日)、消火活動は、自衛隊の大型ヘリコプター6機をはじめ、北海道、東北各県の防災ヘリコプターなど前日より1機多い計13機で空中から散水を実施した。地上からは消防隊が放水を行ったが、火災制圧に苦戦している。地元消防によると、鎮火が思い通りいかない理由について、現場の勾配がきつく延焼しやすい地形で、燃えやすいスギが多い点を挙げ、強風が続いていることや、延焼が広範囲に及んでいることなどを挙げた。大船渡市では2日(日)も強風注意報が出され、乾燥注意報も継続された。

■ 32日(日)、地上での消火作業にあたる関係者によると、炎が帯状に連なり、襲い掛かってきそうな状況で、油断していると包囲され、とても危険な状態だったといい、 「火を消して、燃え止まりを作っていく繰り返しです。しかし、これだけ火が回っていると消火はかなり難しい。山ですし、なかなか人が入りきれないところが残っています」と語っている。今回の山火事は、車が入れない、ホースを伸ばしても届かない、人がすぐには入れない、そんな場所が燃えているのだという。

■ 32日(日)、大船渡市の山火事でペットを連れて避難した人に対して、動物愛護団体が無料で一時的にペットを預かる取り組みを始めた。

34日(火)は、地上消火活動で県内相互応援隊83人、緊急消防援助隊2043人を動員して対応し、空中消火活動は防災ヘリコプター15機で355 1,416,050Lリットルの散水を行ったが、火災の制圧に至らなかった。

■ 35日(水)は、雨が降り、悪天候でヘリコプターが飛べず、空中散水や上空からの調査はできなかった。気象台によると、36日(木)にかけて降雨が続く予報である。

■ 36日(木)朝の上空からの映像では、火災の現場で煙の発生が少なくなっているのが確認された。山火事の発生から1週間以上が経過する中、地域の住民からは一刻も早い鎮圧を望む声が聞かれた。住民のひとりは 「煙も見えなくなってよかった。煙を見ないだけでも心が穏やかになる。あとは鎮圧を待つだけです」と語った。

■ 36日(木)、大船渡市は赤崎町の一部で避難指示の解除を決めた。その他の地区についても鎮火の確認次第、避難指示を解除していくという。

■ 各地で支援の動きが広がっており、 災害義援金や災害見舞金が寄せられている。宮城県の石巻赤十字病院は、岩手県の要請を受けて大船渡市内の避難所に入り、身を寄せている人たちの健康状態などの確認を行った。また、国際NGOのピースウィンズ・ジャパンも228日(金)夜遅くから所属する看護師などが大船渡市に入り、避難者の健康観察や食品などの物資支援を行った。

補 足

■「岩手県」は、日本の東北地方に位置し、人口約114万人の県で、北は青森県、西は秋田県、南は宮城県に接している。都道府県の中では面積が広く、北海道に次いで2番目である。県の人口のうち、8割以上は内陸部の北上盆地に集中し、沿岸部は平地が少なく、小都市が点在する。

「大船渡市」(おおふなと・し)は、岩手県南部の太平洋沿岸地域に位置し、陸中海岸南部最大の港湾を持つ臨海工業都市で、人口約31,000人の市である。大船渡市は臨界工業地域を除けば、大半が山地や丘陵地である。 2011311日の東日本大震災では市域に大津波が襲来、各所に甚大な被害が生じた。

 冬の気候は東北地方内では比較的温暖とされるが、冬型の気圧配置下では太平洋側に特有の晴天が多く、放射冷却現象による冬日と最高気温5℃程度の日が続く。南岸低気圧の通過により雪が降るが、豪雪地帯に指定されているにもかかわらず、積雪量は他の三陸や東北南部の都市と比べても特に少なく、最深積雪は多くの年で715cm程度である。

■ 貯蔵タンクではないが、山火事に関するブログを初めて投稿したのは、米国アリゾナ州で“ホットショット隊”が19名亡くなるという悲惨な事故からである。その後、異常気象などによる世界的に大きな山火事について投稿してきた。

 ●「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」20137月)

 ●「ブラジルのアマゾン熱帯雨林で森林火災が多発」 20199月)

 ●「豪州における山火事の被害(20192020年)」 20203月)

 ●「米国カリフォルニア州の山火事でプロパンガスタンクが爆発」20249月)

■ 山火事はつぎのようなステップで広がっていくという。

 ● 火災には、燃えるもの、酸素、燃焼のための熱源が必要となる。山火事は落雷などによって始まり、乾燥と強風によってまたたく間に広がる。

 ● 山火事の中で最も移動速さが高く、最も危険な箇所は“ヘッド”という名で知られている。火災の先部分は熱く、風に乗って飛んでいく“スポット・ファイア”が生じ、さらに先へ進んでいく。

 ● ある種の草木類は他のものより燃えやすいものがあり、炎の“フィンガー”を形成する。一方、これによって地上部分には“ポケット”が生じ、火との戦いを難しいものにする。

 ● 熱や煙は上方へ昇っていくので、火災の進展速度は上り斜面の方が下り斜面より速い。このため、丘の上の方が熱くなり、風も丘に向かって吹き上がり、火炎をさらに推し進めるようになる。そして、飛び火が丘を転がり落ちるようになり、新たな火の手を生じる。

■ 米国には“ホットショット”という「山火事消火の専門チーム」があり、110チームを保有している。各ホットショットのチームは20名のメンバーで構成され、特別な訓練を受けている。ホットショットメンバーの主要な役割は山火事と近隣の住宅の間を分断するための防火帯を構築することで、このため山火事の燃料源になる雑木林、木々、草木などを取り除くことである。これはきつい作業である。常に火の手の位置と退却ルートに注意を払いながら、土を掘り起こし、チェーンソーで伐採し、地面を削り取って運んだりしなければならない。元“ホットショット”の隊員によると、“ホットショット”に必要な資質は、モチベーションの高さ、協調性、堅実な仕事へのこだわり、楽観的な思考だといい、さらに必要な要件は頑健な体力だという。例えば、20kgの荷物を背負って3マイル(4.8km)の距離を45分以内で歩けなければ、ホットショットには向かないという。

所 感

■ 今回の山火事によって、日本でも海外で起こるような大規模の山火事が起こ得るといえる。消火活動に従事した人たちは悪戦苦闘で大変だったと思う。しかも、1週間以上、連日2,000人を超え、10機以上の防災ヘリコプターで対応したが、制圧に至らなかった。

 大規模の山火事の対応は、消火活動の人員・資機材について根本的に見直す必要性を呈した事例になった。2003年北海道十勝沖地震後のタンク火災で従来の三点セットの消防機材ではまったく対処できなかったのと同じである。これを契機にタンク火災では大容量泡放射砲システムが導入された。山火事の対応でも、海外で採用されている空中消火機のような大容量の散水や泡消火ができる消防機材などを検討する必要があろう。

■ また、人材では米国の“ホットショット隊”を参考にして山火事に関するスペシャリストを育てる必要があろう。米国の“ホットショット隊”の責任者は、20249月米国カリフォルニア州の山火事の際、つぎのような話をしている。

「“ホットショット隊” は、オレゴン州に向かう前に数日間パーク・ファイアの消火活動に従事し、そこで延焼防止のための防火線の構築に取り組んできた。彼らの肉体的に過酷な勤務時間は、通常12時間近くに及ぶ。ホットショット隊の責任者は山火事対応の計画・リスク軽減・戦略立案を主な業務とするが、消防隊員が毎晩少なくとも7時間の睡眠をとり、十分な栄養をとることで疲労を管理することが不可欠である。消防隊員の人数を増やし、休日を増やし、メンタルヘルスについての改善をしたことが、消防士の健康に大きく貢献したといい、消防業務の文化はこの25年間で大きく変わり、特に調子が良くないときは、休暇を取って自分の気持ちや状況を話すことが許されるという、大きな文化の変化があった」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       News.ntv.co.jp,  岩手・大船渡市で新たな山火事発生 消火活動中,  February  26,  2025

       Iwate-bousai.my.salesforce-sites.com,  大船渡市赤崎町林野火災発生に伴う対応状況,  February  28,  2025

       Arrows.peace-winds.org,  大船渡市赤崎町林野火災発生に伴う対応状況,  March  01,  2025

       News.tv-asahi.co.jp,  大船渡市の山火事 懸命の消火活動続く 漁船も避難,  March  02,  2025

     Nhk.or.jp, 岩手 大船渡の山林火災 発生から4日も延焼続く焼失約1800ha,  March  02,  2025

       News.yahoo.co.jp, 「規模が大きすぎる」消火活動の最前線は炎が押し寄せてくるような光景岩手県大船渡市の山火事は鎮圧のメド立たず,  March  02,  2025

       Weathernews.jp,  山火事続く大船渡 瞬間的に10m/s超の強風 次の降水は5()頃か,  March  01,  2025

       City.ofunato.iwate.jp, 令和7226日 林野火災(赤崎町 合足地内発生)に伴う大船渡市の対応状況,  March  03,  2025

       Pref.iwate.jp,  9回災害対策本部員会議(令和735日),  March  05,  2025

       Nikkei.comjp,  大船渡の山火事、市域9%焼失 降雨で延焼拡大見られず,  March  05,  2025

       Newsdig.tbs.co.jp, 【山火事】大船渡市の山林火災 建物被害の一部判明 岩手,  March  05,  2025

       News.yahoo.co.jp, 【山火事】大船渡市の山林火災 恵みの雨から一夜 現地から中継 一部避難指示解除も検討 岩手,  March  06,  2025

 

後 記 2024918日(水)に地元山口県で山火事が発生し、3日以上火災が続きました。ちょうど「米国カリフォルニア州の山火事でプロパンガスタンクが爆発」20249月)をまとめているときで、日本も海外の大規模な山火事の対応が必要になってきたことを感じました。したがって、今回の大船渡市の山火事に関心があり、タンク火災ではありませんが、まとめることとしました。各メディアもこぞってテレビ放送や取材記事を投稿しましたので、情報は余るほどありました。しかし、このブログでは、結局、岩手県や大船渡市の公共の情報が一番有用でした。画像はテレビが主になっていましたし、被災写真も区域が広すぎて分りずらいものでした。