今回は、2025年3月19日(水)、ロシアのクラスノダール地方のカフカスカヤにあるナフタトランス社のカフカスカヤ石油ターミナルで無人航空機(ドローン)による攻撃で貯蔵タンクと配管が火災になった事例を紹介します。前日の3月18日(火)に米国大統領とロシアの大統領が電話会談を行い、ロシアとウクライナのエネルギー施設への攻撃を一時停止すると報じられましたので、貯蔵タンク事故の観点から調べたものです。
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、ロシア(Russia)クラスノダール地方(Krasnodar region)のカフカスカヤ(Kavkazskaya)にあるナフタトランス社( Naftatrans)のカフカスカヤ石油ターミナル(Kavkazskaya oil terminal )である。石油ターミナルには、容量20,000KLの貯蔵タンクが5基あり、合計10万KLの石油製品が保管されている。
■ 発災があったのは、石油ターミナルの貯蔵エリアにある石油貯蔵タンクと配管である。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2025年3月19日(水)夜、石油ターミナルが火災になった。勤務中の30人は避難し、工場の操業が停止された。
■ 石油ターミナルがウクライナの無人航空機(ドローン)5機による夜間攻撃を受け、2基の貯蔵タンクを結ぶ配管が損傷し、火災になった。その後、貯蔵タンクの1基が火災を起こした。
■ 石油貯蔵タンクと配管は炎と煙に包まれた。
■ 発災にともない、消防隊が出動し、火災を制圧しようと努めた。出動したのは、消防士276名、2台の特殊消防車を含む105台の消防設備で対応した。
■ 当初、火災面積は20㎡だったが、その後、1,700㎡の面積に広がった。さらに、油の流出によって3月20日(木)朝には、3,750㎡まで広がった。
■ 地元当局が行った近隣の2か所の大気検査で、ベンゼンなどの有害化学物質の濃度が過剰に検出された。
■ 当局は、クラスノダール方面の道路を閉鎖し、住民に対して外に出たり、窓を開けたりしないよう勧告した。
■ 戦争遂行のための重要な収入源となっているロシアのエネルギー産業に対するウクライナの頻繁な攻撃による破壊的影響を浮き彫りにしている。ロシアもまた、戦争中ずっとウクライナのエネルギー網を攻撃し、民間人や産業に影響を与える停電を頻繁に引き起こしている。
■ 発災前日の3月18日(火)、米国大統領とロシアの大統領はウクライナとロシアの戦争について電話会談を行った。ロシア大統領はウクライナのエネルギー施設への攻撃を一時停止することに同意したと報じられている。ロシア国防省は、今回の攻撃がロシア大統領と米国大統領の電話会議で一時停止に合意した数時間後に発生したと述べた。3月20日(木)には、ロシア外務省はウクライナが石油ターミナルを攻撃することで停戦協定に違反したと述べた。
ウクライナ大統領は、ロシアとの文書化された合意があれば、米国大統領とロシア大統領の間で3月18日(火)に話し合われた停戦に参加する用意があると述べた。また、 3月19日(水)、ウクライナ当局者は、ロシアが民間人を攻撃することで停戦の約束を破ったと非難している。ウクライナ大統領は、病院や鉄道設備を含む主要なインフラストラクチャへのロシアの攻撃が「米国大統領の言葉とは、現実が大きく異なる」ことを示していると語っている。
■ 3月21日(金)、カフカスカヤ石油ターミナルの貯蔵タンクで新たな爆発が発生した。ロシアの地方当局によると、「消火活動中、燃えているタンクの圧力が下がった(減圧)ため、石油製品が爆発し、燃えている石油が流出した」と語った。火災は別のタンクに燃え広がり、火災面積は10,000㎡に拡大した。これは初期の火災面積の2倍以上である。450人以上の消防士が消火活動に当たったが、消防士2人が負傷したほか、3台の車両が損傷した。
■ ユーチューブにはタンク火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。
●Youtube、「“This’s
scary, let’s run!” - ”Fire at oil depot in Krasnodar spreads to over 4,000
sq meters of area」(2025/03/20)
●Youtube、 「100,000 fuel destroyed- “Russian oil
pumping station in Krasnodar is no longer exist“」(2025/03/22)
●Youtube、 「 Fire at oil depot in Krasnodar spreads to a large area, hundreds of firefighters are battling it」(2025/03/19)
被 害
■ 石油貯蔵タンクが火災で複数基損傷したほか、関連配管が損傷した。内部の油が焼失した。
■ 消防士2名が負傷した。
■ 火災により環境が汚染され、ベンゼンなどの有害化学物質の濃度が過剰に検出された。
■ 道路の一部が閉鎖され、住民に対して外に出たり、窓を開けたりしないよう勧告が出された。
< 事故の原因 >
■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)
< 対 応 >
■ 消防隊は、消火戦術として①貯蔵タンク火災の制圧、②遮断弁まわりの制圧、③堤内エリア内での油火災の制圧の3つの活動を行った。
■ 3月20日(木)朝には、消防隊は堤内のタンク、遮断弁まわり、燃えている石油製品の消火作業を続けた。消火活動には、消防士406人と157台の消防資機材が投入されている。
■ 無人航空機(ドローン)の攻撃はノヴォロシースクへ石油を輸送するパイプライン施設を標的とし、大規模な爆発と火災を引き起こしたといわれている。
■ 3月21日(金)、石油ターミナルの貯蔵タンクで新たな爆発が発生し、消火活動中、燃えているタンクが減圧になったため、石油製品が爆発し、燃えている石油が流出した。火災は別のタンクに燃え広がり、火災面積は10,000㎡に拡大した。450人以上の消防士が消火活動に当たっており、消防士2人が負傷したほか、3台の車両が損傷した。
■ 3月22日(土)、当局は、依然として猛威を振るっている火災の消火活動を支援するため、水を積んだ消防列車を投入し、現場に列車4両が向かった。
■ 3月23日(日)、消防士たちは燃えている2番目のタンクの消火作業を続けている。最初のタンク火災は3月21日(金)までに燃え尽きた。
■ これに先立ち、3月14日(金)、ロシアのクラスノダール地方にあるトゥアプセ製油所のガソリン貯蔵タンクが夜間に無人航空機(ドローン)攻撃を受けた。火災の面積は1,000㎡を超え、消防隊が火を完全に消し止めるまでに3日以上かかった。
ロシア最大級のトゥアプセ製油所は、国営ロスネフチが所有し、年間約1,200万トンの原油処理能力を持ち、ディーゼル燃料、航空燃料などを生産しており、生産量の90%は輸出向けとなっている。また、ロシアの黒海艦隊に燃料を供給しており、ロシア軍にとって戦略的に重要な場所である。
■ 3月21日(金)、 ロシア西部のウクライナ国境に近いクルスク地方にあるスジャガス計量ステーションが大規模な爆発が起き、火災となった。この施設はかつてガスプロム社がウクライナ経由で欧州にガスを輸出するために使用していた。
ウクライナは、3月21日(金)、ロシアが責任を押し付ける目的でスジャガス計量ステーションを故意に攻撃したと非難した。同ステーションはロシア軍自身によって繰り返し砲撃されたという。ウクライナは、「ロシアが多数の偽情報を作り続け、国際社会を欺こうとしている。公式の情報源だけを信じ、情報を検証し、操作に屈しないようお願いする」と付け加えた。
ロシアのメディアは、ウクライナ軍がロシアの欧州向けガス輸出に重要な役割を果たす主要ガス輸送施設を攻撃したと主張していた。ロシア国防省は、ウクライナが同基地の爆破を計画していたと主張し、ウクライナが挑発を画策していると非難した。
補 足
■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約1億4,200万人の連邦共和制国家である。2022年2月24日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。
ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。
●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」(2022年3月)
●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」(2022年4月)
●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」(2022年4月)
●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」(2022年6月)
●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」( 2022年5月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」(2022年11月)
●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」(2022年10月)
●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」(2022年11月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」(2022年12月)
●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」(2023年4月)
●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」(2023年5月)
●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」(2023年6月)
●「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災」(2024年1月)
●「ロシア各地の石油貯蔵施設が無人航空機攻撃でタンク火災、新型ドローンか?」(2024年6月)
●「ロシアのロストフ州東部の石油貯蔵施設がドローン攻撃でタンク火災」(2024年7月)
「クラスノダール地方」(Krasnodar region)は、ロシアの北コーカサス(北カフカス)に位置し、ロシア連邦の南部連邦管区を構成する地方のひとつで、人口は約540万人である。行政の中心はクラスノダール(人口約93万人)である。
「カフカスカヤ」(Kavkazskaya)は、クラスノダール地方の東部に位置する町である。
■「ナフタトランス社」( Naftatrans) は、2007年に設立されたロシアおよび旧ソ連圏の物流会社の一つである。
「カフカスカヤ石油ターミナル」(Kavkazskaya oil terminal)は、ナフタトランス社が保有し、カスピ海パイプライン・コンソーシアムと鉄道による石油輸送を結び付けているロシアの石油輸出ネットワークの重要な拠点である。この施設のインフラには、クロポトキンスカヤ石油ポンプ場につながる15.7kmのパイプラインが含まれており、ノヴォロシースクへの輸出用に石油を輸送する上で重要な役割を果たしている。この石油ターミナルから13km離れたところにクロポトキンスカヤ石油ポンプ場があるが、2025年2月17日の無人航空機(ドローン)攻撃を受けて機能停止となっている。
■「発災タンク」に関して、石油ターミナルには容量20,000KLのタンクが5基あると報じられている。グーグルマップで調べると、クラスノダール地方のカフカスカヤに5基のタンクが設置されている石油ターミナルがあるので、ここがカフカスカヤ石油ターミナルとみられる。5基はいずれも同じ大きさの固定屋根式(ドーム型)で、直径は約38mである。容量20,000KLとすれば、高さは約18mとなる。発災タンクは5基のうちのいずれかであるが、情報が不足し特定できなかった。
所 感
■ 米国大統領とロシアの大統領が電話会談を行い、ロシアとウクライナのエネルギー施設への攻撃を一時停止すると報じられたので、戦争が終わるのか貯蔵タンク事故の観点から実際の状況を調べてみた。しかし、三か国の思惑の違いが明らかで、ことが進展するかどうか疑問を感じざるを得ない。今回のカフカスカヤ石油ターミナルの事例を見て、「エネルギー施設への攻撃を一時停止する」という提案は貯蔵タンクへの攻撃にロシア側は本当に対応に困っていると思われる。
■ ウクライナの無人航空機(ドローン)の攻撃性は戦争が始まって以来、ここ2年で急速な進歩を遂げている。今回の事例では、たった5機の無人航空機(ドローン)で石油ターミナルが壊滅的な被害を受けているとみられる。高価なミサイルなどでなく、安価な無人航空機(ドローン)が防空システムをくぐり抜けている。最近の無人航空機(ドローン)による攻撃でタンク被害が大きいことは、これまでのブログで紹介してきたとおりである。しかも、 FPV型無人航空機(ドローン)の使用は個人レベルで遂行できることである。ロシアはウクライナの攻撃だと主張するが、これまでもウクライナは攻撃について正式には発表していないことがある。「エネルギー施設への攻撃の一時停止」の状況でも、ロシア国内のテロリストがやったのだろうということができる。
■ このブログでは、日本におけるテロ対応の観点から無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性を見てきた。無人航空機(ドローン)が飛行機型からFPV型(First Person View)ドローンが出てきたことで、テロ対策上からは厄介な攻撃用ドローンである。しかし、逆に見れば、高価な防空システムは必要なく、従来の監視システムの改良で対応できる余地があるのではないだろうか。
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Youtube.com, Russian oil depot explodes after Ukrainian drone
attack, March 19,
2025
・United24media.com, Fire at Key Russian Oil Hub Doubles
in Size Following Drone Attack,
March 19, 2025
・English.alarabiya.net, Blast intensifies fire at Russian oil depot
struck by Ukraine, March 20,
2025
・Reuters.com, Gas pumping station in Russia near Ukraine border on
fire after explosion, March 21,
2025
・Newsweek.com, Second Blast Hits Russian Oil Depot Holding 100,000
Tons of Fuel, March 21,
2025
・Kavkaz-uzel.eu, Нефтебаза в станице Кавказской продолжает
горетьИсточник, March 20,
2025
・Moneytimes.ru, На нефтебазе в станице Кавказская
сохраняется угроза распространения огня,
March 23, 2025
・Straitstimes.com, Russian authorities bring in trains to fight oil
depot fire, March 23,
2025
・Arnnewscentre.ae, Blast intensifies fire at Russian oil depot struck
by Ukraine, March 21,
2025
・Vesti.ru, На горящей под Краснодаром нефтебазе произошел выброс
нефтепродуктов, March 23,
2025
・Pravda.com.ua, На горящей 2 суток нефтебазе в Краснодарском крае РФ
произошел взрыв – огонь охватил еще один резервуар, March
21, 2025
・Forbes.ru, Отказ от ударов по энергообъектам и обмен пленными: итоги
разговора Путина и Трампа, March 19,
2025
・Ria.ru, На горящей на Кубани нефтебазе прогремел взрыв, March
21, 2025
・Vesti.ru, На горящей под Краснодаром нефтебазе произошел выброс
нефтепродуктов, March 23,
2025
後 記: ロシア大統領と米国大統領の電話会談でエネルギー施設への攻撃が一時停止で合意したというニュースが流れましたが、中身をみると、ロシアが米国を懐柔(かいじゅう)していますね。まさに怪獣です。ところで、話は変わって今回の石油ターミナルのタンク火災ですが(こちらが本来メインの話題です)
、やはり流れてくる情報は戦争における“報道”(事実を隠して嘘をついてもよいという風潮)であり、本当なのかどうか疑問をもちながら(翻訳を)読んでいました。ということで、どこまでが本当なのか半信半疑でブログをまとめました。また、発災写真はたくさんありましたが、信ぴょう性に?が付いたものが多く、引用したものが少なかったですね。