2019年7月27日土曜日

中国における石油貯蔵所の火災・爆発の事例分析


 今回は、中国でまとめられた「Research on Fire and Explosion Accidents of Oil Depots」(油貯蔵所の火災・爆発事故のリサーチ)という資料を紹介します。
(写真はZj1.cn から引用)
< 概 要 >
■ 中国の石油貯蔵所では、ときに火災や爆発事故が起こり、大きな犠牲者、厳しい環境汚染、甚大な経済的損失が出ている。この論文では、1951年~2013年の間に中国で起こった435件の石油貯蔵所の火災や爆発事故について事例分析を行った。事例について時間軸、場所、設備、引火源、発災物質の種類、責任性について統計的な分析の結果、最も危険な場所は入・出荷の運転エリアであり、最も弱点のある設備は貯蔵タンクであることが分かった。一方、引火源の割合は分散化しており、火災・爆発を防止するには、引火源の要因を限定してしまうのでなく、広く検討していくべきである。蒸気雲爆発は、石油貯蔵所における最も共通的な事故のタイプであるが、事故の原因の中でマネジメントの責任に関する問題が支配的である。データを分析することによって事故から学ぶべき教訓が提起されるので、安全に関するマネジメントを改善すれば、石油貯蔵所における火災・爆発の大部分は未然に防ぐことができるだろう。
■ この資料では、つぎのような事項についてまとめている。
 1. はじめに
 2. 中国における石油貯蔵所の火災・爆発事故
  2.1 事故の総括的な分析
  2.2 発災場所
  2.3 発災設備
  2.4 事故の引火源と発災物質
  2.5 事故の責任性
 3. 事故の教訓
 4. 結 論

1. はじめに
■ オイル・ターミナルやガソリンスタンドを含む石油貯蔵所では、可燃性の石油製品が大量に保管されている。入出荷作業、タンク清掃、サビ落とし、貯蔵タンクのメンテナンス、溶接などを行っている際、一旦、保管されている燃料油や可燃性混合気に引火すれば、石油貯蔵所では重大な火災・爆発の事故につながり、痛ましい人身災害、厳しい環境汚染、大きな経済損失を引き起こす要因になる。近年、世界的に石油貯蔵所で大きな火災・爆発事故が続いて起こっている。2005年12月の英国バンスフィールド石油貯蔵所の火災事故、2009年10月のプエルトリコのカリビアン石油タンクターミナルの爆発・火災事故、2009年10月のインド・ジャイプールのインディアン石油でタンク火災事故である。中国では、急速な経済成長と石油消費の増加が起こっており、石油貯蔵所における火災・爆発の防止は安全に関するマネジメントそのものであり、ひいては安定的に成長し続けることができるといえる。

■ 石油貯蔵所のような施設に関する事故の特徴、パイプラインに関する事故の特徴、落雷を引き金とする事故の特徴などについては以前に分析が行われている。しかし、石油貯蔵所の火災・爆発事故に関する総括的な分析は行われていなかった。さらに、中国における過去の火災・爆発事故は類似した理由によって繰り返し起こっていた。その中のかなりの件数は科学的研究や合理的な指導書があれば防止できていただろう。本論文の目的は、過去に起こった中国の石油貯蔵所における火災・爆発事例を最も危険なエリア、設備の弱点、引火源、発災物質の種類、マネジメント責任性について統計的に分析し、事故から学ぶべき教訓を提起し、石油貯蔵所における安全に関するマメジメントの改善に供することである。

2. 中国における石油貯蔵所の火災・爆発事故
2.1 事故の総括的な分析
■ 1951~2013年の間の中国の石油貯蔵所における435件の火災・爆発事例は、論文、書籍、火災防止に関する設計基準、レポート、インターネットから集めた。データ抽出の選択基準はつぎのとおりである。  
(1) 中国の石油貯蔵所で起こった事故の中で、火災、爆発、爆発までに至る火災、2次的な爆発、あるいはこれらの組み合わせに関連していること。
(2) パイプライン破裂のような事故、火災や爆発がなく制御された油流出事故はデータから除外した。
(3) 石油貯蔵所のエリアで起こった火災・爆発事故、ただし、エリア外で生じた被害のデータは除外した。
(4) 範囲が広すぎて中国の石油貯蔵所に限定できないような事故や球形タンクの事故は、データに含めていない。

■ 中国における石油貯蔵所の事故の概要は図1に示す。ただし、記録がはっきりしないものや電子様式で記録されていないものは除いた。これらの事故の報告には、人身災害、毒物汚染、経済的損失を含んでいる。しかし、これらの事故が起きた時期が非常に違っているので、経済的損失の数値自体を比較することは意味が薄い。この代わりとして人身災害の数値を集積してみた。(人身災害の数値は表1に示す)
図1 石油貯蔵所の10年毎の火災・爆発事故件数
■ 図1からわかることは、事故の多くが1970年代(174件;40%)と1980年代(128件;29.43%)に起きたということである。 この時期は石油産業到来の時代であり、中国における石油消費の急速な成長期にあった。第二次世界大戦の後、中国全体の工業化のレベルが1950年代から1960年代は低かった。このため、石油貯蔵所の数が少なく、この期間の火災・爆発事故は2.53%(1950年代)と5.52%(1960年代)の割合に留まり、他の期間に比べて相対的に少ないといえる。1990年代は科学的な安全に関するマネジメントの導入と火災防止の認識によって、事故の件数はその前の10年間から大幅に減少した。(約30%から7.36%へ減少) しかし、事故の件数は次の10年間には15.17%まで増えていった。中国における燃料油の消費量が急速に増加したため、石油貯蔵所の容量を増やすことが求められた。国家石油備蓄戦略の基本方針のもとに巨大な貯蔵タンクが建設されていった。しかし、このような新しい技術や設備の建設を実行に移していく裏側には、火災・爆発の高いリスクが横たわっていた。多くの石油貯蔵所が1970年代や1980年代に建設されていったので、30~40年を経過した頃には、施設や設備(貯蔵タンク、配管系、ポンプ場など)は火災・爆発事故に対して弱点があった。このような背景があるため、ここ数年、火災・爆発事故がある程度増えていくことは間違いないだろう。

■ 表1は、人身災害の死者と負傷者の人数を示す。この中で、人身災害のほぼ半分(42.16%)が死亡または重傷だったことがわかる。全435件の火災・爆発事故を統計的にみると、平均して1件あたり約3名の人身災害が生じていることになる。これは、火災・爆発事故が人間にとって極めて有害であることを物語っている。
表1 人身災害の被害者数
2.2 発災場所
■ 石油貯蔵所において火災・爆発事故の起こった場所の観点で、全435件の事故を4つのエリアで分類した。ひとつは石油貯蔵エリア(貯蔵タンク地区、防火堤、分配サブステーションなど)、ふたつめは入出荷エリア(鉄道トレッスル、鉄道プラットフォーム、ポンプ・ステーション、オイル・ドック、ドラム缶倉庫、油充填・抜出し設備など)、三つ目は付属オペレーション・エリア(消火ポンプ・ステーション、計装機器修理場、ボイラー室、分析室、排水系など)、四つ目はその他のエリア(事務所、食堂、休憩室または仮眠室)である。

■ 発災場所を各エリアで分類すると、件数と割合は表2のとおりである。
2 発災場所
■ 表2から分かることは、事故の半分以上(51.03%)が入出荷作業エリアで起こっていることである。日常の油充填やタンクローリーからの積出し時の入出荷作業エリアでは、燃料-空気の混合気が大量に出ている。このとき、引火源があれば、燃料-空気の可燃性混合気は激しい蒸気ガス爆発に至ることがある。このエリアでの爆発事故の起こる可能性は他の場所より高い。

■ 2番目に危険性の高い場所は石油貯蔵エリアで、割合は23.68%である。貯蔵タンクは石油貯蔵所の中で可燃性の燃料を保管する重要な設備である。貯蔵タンクに入っている石油が、落雷、電気火花、静電気によって引火すれば、防火堤内において表面火災、プール火災、爆燃を引き起こすことがある。従って、石油貯蔵エリア内の火災事故の可能性は他のどの場所より大きい。

■ 付属オペレーション・エリアでの事故は37件(8.51%)のみで、余り起きそうでない。しかし、一旦、付属オペレーション・エリアで火災・爆発事故が起きると、エリア内にある多くの設備や機材が脅かされ、つぎへの波及が危惧される。火災の燃焼や輻射熱によって石油貯蔵所のほかの場所でのオペレーションを停止したり、中断しなければならないことがある。従って、日常の安全マネジメントや安全チェックリストの実行は、事故の起こる可能性の高い入出荷作業エリアや石油貯蔵エリアと同様に真剣に行うべきである。

2.3 発災設備
■ 石油貯蔵所の火災・爆発事故を施設や設備の観点でみると、435件は貯蔵タンク、タンクローリー、油ポンプ、油配管、ドラム缶、その他(電気機器、電気ケーブル、エンジン、計測器、コンピュータ設備など)で占められている。火災・爆発事故と施設や設備との関係を見るために、統計データを前述の6つのグループに分類してみた。施設や設備の分類ごとの事故件数とその割合は表3に示す。
3 発災設備
■ 表3で明らかなことは、最も多い件数(120件、27.59%)のその他の設備を除けば、火災・爆発に最も弱点のある設備は貯蔵タンク(112件、25.75%)だということである。貯蔵タンクの事故に関する研究によると、最も事故の引き金になっている要因は落雷である。これは石油貯蔵タンクの事故統計と一致している。石油貯蔵タンクの事故のその他の原因としては、人為ミス、設備の故障、破壊活動、タンクの割れや破裂、故意の行為や自然災害がある。

■ 2番目に弱点のある設備はタンクローリーである。事故の件数は87件(20%)で、爆発事故は油充填や荷卸し中に起こる傾向がある。このことは発災場所に関する分析と合致している。つぎにリスクの高い設備は油ポンプ(12.41%)、油配管(8.74%)、ドラム缶(5.52%)と続く。従って、油貯蔵エリアの貯蔵タンクと入出荷作業場のタンクローリーは、日常の安全マネジメント上、十分な配慮を払うことが重要である。また、油ポンプ、油配管、ドラム缶のようなリスクの高い設備にも注意する必要がある。

2.4 事故の引火源と発災物質
■ 石油貯蔵所には、保管燃料や可燃性混合気を燃焼させる引火源は数多く存在する。435件の火災・爆発事故の原因を引火源について8つに分類した。すなわち、電気火花、静電気、落雷、野火、タバコ、熱源(例えば、エンジンの熱い表面、電気機器によって発生する熱)、溶接、その他(打撃や摩擦による熱)の8つである。

■ 435件の事故を引火源で分類したものを表4で示す。また、火災・爆発事故の発災物質による分類を表5に示す。
4 引火源
■ 表4から、引火源の割合が各分類ごとに分散しているという結論を見出すことができる。引火源の最も多いのが電気火花で割合は20%である。そして静電気、野火、熱源、溶接、その他の引火源が12.18%~16.32%の範囲にあり、ほとんど同じくらいである。落雷とタバコの割合は少なく、それぞれ4.14%(18件)と7.13%(31件)であった。

■ 一方、中国の石油貯蔵所における個々の火災・爆発事故を比較分析すると、多くの場合、類似した原因が繰り返されている。これらの事故の多くは、科学的指針から出される安全に関するマネジメントを改善することによって防止したり、回避できるとみられる。

■ 表5は、発災物質と火災・爆発事故の関係を示す。
5 発災物質
■ 不明なケースもあるが、発災物質の大半は可燃性混合気であり、その割合は76.09%を占める。知ってのとおり、可燃性混合気が引火すれば、蒸気雲爆発を起こす傾向がある。一方、保管燃料への引火は、表面火災、プール火災または爆燃のような事故になる傾向がある。このようなことから、石油貯蔵所における事故は蒸気雲爆発のタイプだとみられる。しかし、石油貯蔵所の緊急事態における最近の技術的安全対応は、冷却システム、消火活動、火災警報や火災監視といったもので、多くは火災防止に片寄っており、爆発防止に対する配慮は少ない。従って、石油貯蔵所における可燃性混合気の爆発防止システムを構築することは急務であり、科学的な指針を提供し、今後の安全マネジメントと緊急事態時の対応に活かしていく必要がある。

2.5 事故の責任性
■ 事故の原因調査に関していえば、多くは石油貯蔵所における火災・爆発の理由だけに終わっている。火災・爆発事故の責任性は6つに区分できる。すなわち、マネジメント責任(運転ミス、保全ミス、現場の要領書の不適切、火災・爆発の安全装置の不適切など)、技術的責任(設計の欠陥、材料間違い、設備の建設ミス、エロージョン対策ミス、落雷対策の接地ミスなど)、マネジメント責任と技術的責任の複合的な責任、外部の責任(違法な構造物、防火帯を犯す外部建築、第三者による損傷など)、破壊活動、自然災害の6つである。

■ 責任性の各分類の事故件数と割合は表6に示す。
6 事故の責任性
■ 表6から確かなことは、ほとんどすべての事故(約94%)がマネジメント責任または技術的責任、あるいは両方の複合的な責任に起因していることである。これに付け加えると、事故の54.71%はマネジメント責任にあるが、その割合の中には最初の立地場所で始めるというマネジメント責任を含んでいる。従って、日常の運転作業の中で安全に関するマネジメントを改善していくことが重要な役割を果たすことになる。マネジメント責任による事故は日常の運転、保全、修理の中で現れてくると思われる。技術的責任からくる事故は石油貯蔵所の設計や建設を始めるときに起こるものとみられる。このことから言えることは、火災・爆発事故は、石油貯蔵所の設計や建設から運転やマネジメントまでの全期間を通して起こるかも知れないということである。このため、全期間24時間を通して安全に関するマネジメントに対して十分な注意を払うべきである。

3. 事故の教訓
■ 上記で述べてきた火災・爆発事故から、石油貯蔵産業の安全レベルを改善するため、特別に学ぶべき教訓を提唱する。
(1) 主な発災物質は統計のデータから可燃性混合気であった。しかし、石油貯蔵所に
おける最近の消火システムは爆発防止と区別していない火災に基づいている。
基本的な消火活動の装置は火災警報システム、火災監視システム、消火栓などである。
しかし、これらは可燃性混合気の蒸気雲爆発のような爆発事象に効果的な対応はできなか
った。石油貯蔵所に当初から設置された火災消火システムに加えて、水噴霧、活性ガス、
ドライ・パウダーのような基本的な科学的爆発防止システムを導入すべきである。

(2) 火災・爆発の評価システムは、過去の経験的な方法からフォールト・ツリー(Fault Tree) 、イベント・ツリー(Event Tree)、システム理論(System Theory)、グレイ・システム・セオリー(Grey System Theory)を活用したもっと科学的な評価システムに変えていき、階層制度と評価の信頼性を改善すべきである。

(3) 最近の巨大な貯蔵タンクの落雷対策は、金属性のタンク側板を接地する方法が用いられている。しかし、大きなタンク火災になった事故の中には、貯蔵タンク屋根とタンク側板の間の間違った電気接続によって起こっている。このため強く推奨することは、接地に金属製のタンク側板を使う代わりに、雷を誘導するため貯蔵タンク近くに個別の避雷針を用いて改善すべきである。

(4) 石油貯蔵所における大多数の施設や設備が30~40年運転され、火災源や爆発源に弱点があるとき、火災・爆発事故が起こるとみられる。 1980年代~1990年代の間に建設された石油貯蔵所は火災・爆発事故に対して高いリスクを有している。従って、石油貯蔵所における人へのマネジメント責任を強化すべきであり、日常の安全チェックとメンテナンスをこの数年で改善していくべきである。

■ 一方、中国の石油貯蔵所における個々の火災・爆発事故を比較分析すると、
多くの場合、類似した原因が繰り返されている。これらの事故の多くは、科学的指針か出
される安全に関するマネジメントを改善することによって防止したり、回避できるとみら
れる。

4. 結 論
■ 石油貯蔵所の火災・爆発に関する事故件数とデータを集積し、分析を行った。

■ その結果、火災・爆発に対して最も危険なエリアや弱点のある設備、すなわち入出荷作業場や貯蔵タンクだということについて有益な情報を提供できた。

■ さらに、事故の引火源を調べると、その割合は分散しており、いろいろな引火源が石油貯蔵所における火災・爆発事故を引き起こす要因になっていることがわかった。

■ 発災物質の中で事故に占める割合が大きいのは可燃性混合気である。従って、蒸気雲爆発には十分注意を払うべきであり、爆発を回避することは石油貯蔵所の緊急対応時の安全性に関して大きな関心事である。

■ 事故に対する責任性を分析すると、すべての原因の中でマネジメント責任が大きな割合を示した。従って、日常の運転において事故を防止することが重要であり、全期間24時間を通して安全に関するマネジメントに集中しておくべきである。

■ これに加えて、安全に関するマネジメントが科学的な指針によって改善されれば、中国の石油貯蔵所における火災・爆発の多くは防止あるいは回避できるとみられる。

補 足                                   
■ 著者の「Yi Zhoua」氏の所属は 「物流エンジニアリング大学」(Logistical Engineering University) であり、正式には中国人民解放軍後勤工程学院(ちゅうごくじんみんかいほうぐん-ごきんこうていがくいん)で英名をLogistical Engineering Universityと言っている。中国の重慶市沙坪壩区にあり、1961年に設立された大学で、中国の重点軍事学校の一つである。 所属部署は「石油供給エンジニアリング部」(Department of Petroleum Supply Engineering)である。
 共著の一人である「Jianyu Zhaob」氏の所属は、「スウェーデン王立工科大学」 (Royal Institute of Technology)である。

■ 「事故の教訓」の中で、「火災・爆発の評価システムは、過去の経験的な方法からフォールト・ツリー(Fault Tree) 、イベント・ツリー(Event Tree)、システム理論(System Theory)、グレイ・システム・セオリー(Grey System Theory)を活用したもっと科学的な評価システムに変えていくべき」と指摘している。日本の「石油コンビナートの防災アセスメント指針」(2013年3月、消防庁特殊災害室)では、確率的な評価手法として「イベントツリー解析」、「フォールトツリー解析」、「リスクマトリックス」が掲載されている。
  なお、「事故の教訓」の中で、評価の信頼性を改善するほかに、「ヒエラルキー」(Hierarchy:階層制度)を改善すべきとあるが、石油貯蔵所の階層制度がどのようなことを指しているかは不詳である。

■ 当ブログで紹介した中国に関する事故などの情報は、つぎのとおりである。

所 感
■ このような中国国内を対象として石油貯蔵所の火災・爆発事故を総括的に分析した資料は興味深い。印象はつぎのとおりである。
 ● 1951年~2013年の63年間に435件の火災・爆発事故があったというので、平均すると6.9件/年である。貯蔵タンクに限ると、事故件数は112件であり、平均すると1.7件/年となる。一方、「貯蔵タンクの事故の研究」(2005年5月)では、世界で1960年~2003年の43年間に起こった242件の貯蔵タンクの事故件数について分析しており、これによると、平均は5.6件/年で、2000~2003年の4年間が最も多く、12.7件/年である。
 ● 中国では平均して1件あたり約3名の人身災害が生じており、この数値は多い。ひとつは入出荷作業での事故が多く、さらにタンクローリーの事故が多いためだと思う。すなわち、タンクローリーで火災・爆発事故が起これば、被災者は多くなる。 もうひとつは、これまでブログで扱った中国の事故を見てきて、安全性より職務に対する献身性が強いためだと感じる。論文で安全に関するマネジメントの改善が指摘されているとおりだろう。
 ● 発災物質による分類では「Fuel-air mixture」(可燃性混合気)と「Fuel」(燃料油)の2つに分け、爆発と火災の違いによる考察をしていることは面白い見方である。一方、発災物質としてはガソリン、軽油などの油種別の方がなじみがあるし、データへの興味がある。
 ● 事故の責任性に関する分析を試みているのが良く、その結果、事故の54.71%はマネジメント責任にあるということは理解できる。さらに、そのマネジメント責任(運転ミス、保全ミス、現場の要領書の不適切、火災・爆発の安全装置の不適切など)がどこにあったのかという掘下げを聞きたかった。

■「事故の教訓」の中で、「最近の巨大な貯蔵タンクの落雷対策は、金属性のタンク側板を接地する方法が用いられている。しかし、大きなタンク火災になった事故の中には、貯蔵タンク屋根とタンク側板の間の間違った電気接続によって起こっている。このため強く推奨することは、接地に金属製のタンク側板を使う代わりに、雷を誘導するため貯蔵タンク近くに個別の避雷針を用いて改善すべきである」と指摘しているが、 「中国における石油貯蔵タンクの避雷設備」(2012年5月) と読み比べると、中国の避雷設備の考え方が理解できる。 

■ 同じく、「事故の教訓」の中で、「石油貯蔵所における大多数の施設や設備が30~40年運転され、火災源や爆発源に弱点があるとき、火災・爆発事故が起こるとみられる。 1980年代~1990年代の間に建設された石油貯蔵所は火災・爆発事故に対して高いリスクを有している。従って、石油貯蔵所における人へのマネジメント責任を強化すべきであり、日常の安全チェックとメンテナンスをこの数年で改善していくべきである」という指摘は中国のみのことでなく、日本でも対岸の火事のように傍観していくべきではないだろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
 ・Aidic.it , “Research on Fire and Explosion Accidents of Oil Depots“,CHEMICAL ENGINEERING TRANSACTIONS, VOL. 51, 2016, Yi Zhou, Xiaogang Zhao, Jianyu Zhao, Du Chen
 Yi Zhou, Department of petroleum supply engineering, Logistical Engineering University, Chongqing 401311, China
 Xiaogang Zhao, Department of petroleum supply engineering, Logistical Engineering University, Chongqing 401311, China
 Jianyu Zhao, School of Architecture and the Built Environment, Royal Institute of Technology, SE-100 44, Sweden
 Du Chenc, Department of military engineering management, Logistical Engineering University, Chongqing 401311, China
  注記;本文の引用文献(15資料)については原文を参照。


後 記: 中国の論文ということで、読む前から興味がありました。中国の石油貯蔵所の事故情報はなかなかアンテナに引っかからず、どのくらいの頻度で起こっているかは漠然としていました。今回の資料は中国の事故を総括的に分析したもので、予想していたことがある反面、まったく予想に反していることもありました。現在の中国の事故は報道管制が敷かれたりして、事故の掘り下げが難しいと感じていました。その点、この論文はかなり踏み込んだところがあるように感じます。事故の責任性に関して言及している点や、「多くの石油貯蔵所が1970年代や1980年代に建設されていったので、30~40年を経過した頃には、施設や設備(貯蔵タンク、配管系、ポンプ場など)は火災・爆発事故に対して弱点があった。このような背景があるため、ここ数年、火災・爆発事故がある程度増えていくことは間違いないだろう」という指摘はなかなか表に出てこないように感じます。この論文が出された2016年以降、このブログで紹介した石油貯蔵所の火災・爆発事故は7件ほどあります。「安全に関するマネジメントが科学的な指針によって改善されれば、中国の石油貯蔵所における火災・爆発の多くは防止あるいは回避できる」という指摘どおりに進むか見ていくこととします。



2019年7月13日土曜日

中国・河南省の食品関連工場で二重層タンクが爆発、死傷者11名

 今回は、2019年6月26日(水)、中国河南省開封市にある食品関連会社の旭梅生物科技有限公司の天然香辛料抽出工場で死傷者11名の人災を出した爆発・火災事例を紹介します。
写真Read01.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国河南省(かなん/ホーナン省)の開封市(かいふう/カイフォン市)尉氏県(いし/ウェイシー県)にある食品関連会社の旭梅生物科技有限公司(Xumei Biotech Co.)である。      

■ 発災があったのは、旭梅生物科技の天然香辛料抽出工場で、天然香料を抽出するラインの近くで起きた。
河南省開封市(赤枠の周辺  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年6月26日(水)午後7時50分頃、旭梅生物科技有限公司の天然香辛料抽出工場で爆発・火災が起こった。

■ 工場に設置されていた2枚の強化ガラスが粉々になった。出火は二重層タンクからだといわれ、工場の作業場で働いていた6名が作業場に閉じ込められた。
 火災の遠景(左)、割れた強化ガラス右)
(写真は、左;Xianjichina.com、右;M..ce.cn から引用)
■ 発災に伴い、消防隊は6台の消防車とともに36名の消防士を出動させ、現場に午後810分頃に到着した。消防隊は爆発によって発生した火災の消火に努めた。午後9時頃、火災が消されたときには、5名の従業員は死亡しており、危篤状態だった1名は病院で亡くなった。

■ このほか、やけどの負傷者が5名発生しており、地元の病院で治療を受けている。

被 害
■ 天然香辛料抽出工場の二重層タンクが損壊した。このほか、工場内の強化ガラスなどが破損しているが、工場内の設備の被災状況は分からない。

■ 事故に伴い11名の死傷者が出た。うち、6名が死亡し、5名が負傷した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。

■ 事故の要因として、二重層タンクの圧力が上がり過ぎ、タンクからエタノール等が漏洩したという情報がある。

< 対 応 >
■ 河南省尉氏県は、6.26事故調査チームを立ち上げ、事故原因の調査を始めた。

■ 調査の一環として事業所である旭梅生物科技の長が当局に拘束された。拘留したのは、日常的な捜査手続きなのか、ある種の不正行為の疑いがあるのかは不明である。

補 足
■「中国」は、正式には中華人民共和国といい、東アジアに位置し、人口約13億9,500万人の社会主義国家である。
 「河南省」 (かなん/ホーナン省) は、中国の東部中央にあり、黄河の南にあることから河南と称された中国の中でも歴史のある地域で、人口約9,400万人の省である。省都は鄭州市(ていしゅう/チェンチョウ市)である。 
 「開封市(かいふう/カイフォン市)は、河南省東部に位置し、人口約530万人の地級市である。
中国における河南省開封市の位(マーク部)   (図はGoogleMapから引用)
■「旭梅生物科技有限公司」(Xumei Biotech Co.) は、20083月に開封市で設立された食品関連会社で、食品用香料や調味料などを生産している。法定代表者は李镇洲氏である。

■「発災タンク」は、二重層タンクとみられる。報道によってはダブルデッキ・タンク(Double-Deck Tankという情報があったが、中国の報道では「双层罐体」であり、二重層タンクとみるのが適当だと思われる。発災写真を見ると、タンクの外板がめくれているので、二重層の間の流体が爆発したものだとみられる。タンクの大きさや内部流体などの仕様は不詳である。
二重層タンクの例  
(図はTurkish.alibaba.comから引用)
所 感 
■ 事故の要因として、二重層タンクの圧力が上がり過ぎ、タンクからエタノール等が漏洩したという情報があるが、真偽は分からない。
 工場内の従業員の配置は分からないが、11名の死傷者が出ているところを考えると、何らかの設備異常が発生し、人が集まってきたところで、爆発・火災が起きたのではないだろうか。設備異常が発生した際に起こり得る人間の行動である。しかし、人災を防止する観点から状況を慎重に判断し、近づくことを躊躇(ちゅうちょ)することも必要である。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・Jqknews.com, An Explosion at a Factory Building in Kaifeng, Henan Province Killed Five People and One Person is Still Being Rescued,  June  26,  2019 
    ・Biospace.com,  Another Biotech Plant Explosion in China Kills Six,  July  02,  2019
    ・Hazardexonthenet.net,  Biotech Plant Explosion in China Kills six,  June  28,  2019
    ・Xinhuanet.com,   Six Dead in Plant Blast in Central China,  June  27,  2019
    ・Jp.sputniknews.com,  中国の工場で爆発 少なくとも6人死亡,  June  27,  2019
    ・Xianjichina.com, 河南尉氏县旭梅生物科技发生爆炸 致6人死亡5人受伤,  June  27,  2019 
    ・M.ce.cn, 6死5伤 3人特重度烧伤 直击河南尉氏县一工厂爆炸现场,  June  28,  2019
    ・Jintiankansha.me, 某公司提取车间双层罐爆炸,6人死亡,  June  28,  2019
    ・Baike.com , 6·26河南开封厂房爆炸事故,  June  27,  2019
    ・Kuaibao.qq.com, 突发』昨天,6死5伤!河南尉氏县一车间发生疑似爆炸事故,  June  27,  2019
   ・Alertchina.com ,  工場のタンクが爆発炎上 作業員6名死亡、5人けが 河南,  June  28,  2019 /read01.com
    ・Read01.com, 娛樂圈爆瓜接二連三,這家企業這個時候也爆了,究竟怎麼回事呢?,  June  28,  2019


後 記: 今回の事例はダブルデッキ・タンク(Double-deck Tank)という情報があり、石油貯蔵タンク施設でない工場で、どのようなダブルデッキ・タンク(二重屋根タンク)を使用していたのか気になりました。調べていくと、結局、中国語の「双层罐体」を英語に訳すときにダブルデッキ・タンクとしたことだったようです。
 今回の事例を調べるときに、やはり中国の情報公開がオープンとはいえないと感じました。河南省ではかなり報道が規制されているという感じです。特に写真は規制されているようです。写真のない記事が多かったですし、標題に掲載した発災タンクの写真も周りの風景がなく、大きささえ推量できないものでしたし、割れた強化ガラスも接写で撮られたもので、状況が分かりません。一方、このようなときに気をつけなければならないのは、別な事例の発災写真があることです。実際、掲載した写真が発災事業所のものと断言出来かねるというのが正直なところです。また、別のメディアの写真には、工場内を写したものと、タンクの破損状況が分かるものがあります。写真としては、こちらの方に惹かれるのですが、標題に出したタンクの破損状況とは異なります。結局、別な事例の発災写真として扱うこととしました。(下写真を参照)
 疑問をもった発災写真



2019年7月7日日曜日

東日本大震災で壊滅した気仙沼オイルターミナルの復興

 今日は、 2011年3月11日東日本大震災があった日、宮城県気仙沼市の漁港にある気仙沼オイル・ターミナル(油槽所)で石油貯蔵タンク22基が被災にあったが、2019年6月21日(金)にオイル・ターミナルの一部(A重油タンク5基)が津波対策を実施して建設され、竣工式を迎えた事例を紹介する。
          建設された津波対策のA重油タンク    (写真はFnn.jpから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、宮城県気仙沼市朝日町にある気仙沼オイル・ターミナル(油槽所)である。

■  2011年3月11日、東日本大震災があった日、漁港にあるオイル・ターミナルの石油貯蔵タンク22基が被災にあった。
     気仙沼市朝日町付近(赤い枠、震災後)  (写真はGoogleMapから引用)
 <事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2011年3月11日14時46分、大地震(マグニチュードMw=9)が宮城県の気仙沼を襲い、続いて15時26分に大津波による高さ8mを超す巨大な波が河口と漁港に押し寄せた。

■ 沿岸にあったオイル・ターミナルには、23基の貯蔵タンクがあったが、津波によって22基(アンカーボルト無し)が流失し、11,521KLの油が海の中に流出してしまった。流失したタンクの中には、ターミナルから2.4km離れた河口近くに浮かんでいるのが発見された。
        津波で流される石油タンク  (写真はARIA資料から引用)
■ 漁港内は厚さ5cmの油混じりの沈殿層に覆われた。オイル・ターミナルが流失したことによる死傷者はいなかったが、気仙沼市では人口73,489名のうち、津波のよって1,214名の人が亡くなり、220名の人が行方不明(201612月時点)である。オイル・ターミナルの流失した石油貯蔵タンクを新たに建てる復興計画は、この5年以内より早くなることはないといわれた。

■ 東北の海岸沿いを襲った津波は、三沢、久慈、八戸、大船渡、石巻など各地の漁港にあった小型の貯蔵タンクの多くを押し流した。こうして、この地域には、油に汚染されたスポットが生じた。

■ 宮城県が県沿岸部について津波痕跡の調査を行なった結果、気仙沼市では、基準海面からの高さが20mを超えた地点があり、ほとんどの場所で既存の堤防や護岸を越えていた。調査地点の中で最も高い位置の痕跡は、気仙沼市の中島海岸付近で21.6mだった。なお、気象庁の設置していた気仙沼広田湾沖の津波観測GPS波浪計では、6.0mが観測されている。

■ 津波による石油タンクの被害状況; 気仙沼湾にあったオイル・ターミナルは漁船用の燃油などの石油を貯蔵するもので、4つの事業所があった。貯蔵タンクの大きさは容量40~3,000KLで、気仙沼・本吉地域広域行政事務組合消防本部によってまとめられたタンクの被災状況はつぎのとおりである。
 ● 気仙沼市朝日町(湾口の埋立地先端)および潮見町(湾中部)に設置されていた100KL以上の石油タンク23基中、22基が津波により流失した。18基のタンクが市内各地で発見されているが、4基は所在不明である。なお、流されなかったタンクは容量100KLの横型円筒タンクだった。
 ● 18基のタンクの発見場所は図のとおりで、最長は湾口にあったタンクが湾奥の河口まで約2.4km移動していた。
 ● 発見されたほとんどのタンクでは、発見場所周囲および内部に油分は見分されず、津波で流される過程でタンク内の油は流出したと考えられる。この流出した油が、気仙沼湾内で発生した海面火災になり、さらに広範囲に延焼拡大した一因になった。 
           オイル・ターミナルの被災前後 (写真はARIA資料から加工して引用)
     気仙沼市大島の位置  (図はGoogleMapから引用)
■ 2012728日、東日本大震災の津波で流されて行方不明だった石油タンクが発見された。流された22基のうちの1基である。午前955分頃、気仙沼市の大島付近で海底の石油タンクの引き揚げ作業をしている会社から「タンクが爆発し、作業員がけがをした」と119番通報があった。男性は午前915分頃に深さ21mまで一人で潜り、タンクをつり上げる鎖を通すため、電気とアセチレンを使うバーナーで穴を開ける作業をしていたという。この日は穴を開けて鎖を通し、29日にクレーンで引き揚げる予定だった。 

被 害
欧州基準による産業事故の規模
■ セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用している。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。
注:当該事例についてフランス環境省のARIA資料では、津波による石油タンク流失の映像を添付している。海上保安庁などが撮影して公表された津波映像の中から、石油タンクが流されている場面を編集したものと思われる。 「Destruction of an Oil Terminal」を参照。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は自然災害(津波)である。津波の水圧でタンクが倒壊したり、津波の浮力によってタンクが浮いて流された。

< 対 応 >
津波で水没しても本体の大きな損壊を免れた仙台港の給水タンク
(写真はKahoku.co.jpから引用)
■ 2014年7月、気仙沼市は新しいオイル・ターミナルの計画を発表した。
 ● 気仙沼市は津波で破壊された石油タンクの再建に着手する。国の復興事業を活用し、南気仙沼地区にタンク8基(総容量7,000KL)を建設する。事業費31.5億円で、2016年秋の完成を見込む。
 ● 構造上、地震と津波に強く、手本となるタンクがある。仙台市宮城野区の仙台港は、東日本大震災で7mを超す津波に襲われた。給水タンク2基が水没し、うち1基は壁にコンテナが衝突したが、いずれもタンク本体は大きな損壊を免れた。
 ● 2基とも、コンクリート壁にピアノ線を埋め込んで強度を増すプレストレスト・コンクリート(PC)構造だった。鋼板製が主流の燃油用の貯蔵タンクに対し、強い水圧がかかる大容量の給水タンクに採用されている。「東日本大震災級の津波に流されることなく、漂流物衝突の衝撃にも耐えられる」と、気仙沼市はPC工法に注目し、新たな石油タンクに採用する計画である。

(図はDecn.co.jpから引用)
■ 2015年7月、気仙沼市は、朝日町地区で整備を計画している漁業用燃料油施設の配置・構造などに関する基本設計をまとめた。
 ● 陸上施設として地上式鋼製燃料油タンクを8基整備する。全体の容量は約7,000KLを想定している。詳細設計を発注し、2015年内の造成工事着手を目指す。
 ● 計画では、燃料油タンクは、A重油用(990KL)を6基建設するとともに、軽油用(500KL)と灯油用(500KL)を1基ずつ整備する。 津波対策では、津波で倒壊せず、かつ浮かないような構造とし、タンクから2m離した周辺を高さ12.2mのPCコンクリート壁で覆うとともに、基礎RCコンクリート(厚さ2m)からアンカーなどで固定する。
 ● 液状化や支持力対策として、平均深さ15mで地盤改良工を実施する。送油ポンプなどの燃料設備も耐震性に配慮するとともに、緊急遮断弁などを設置する。
 ● さらに、海上施設(ドルフィン)として杭式桟橋を設ける計画である。このほか、A重油などをローリーへ出荷する施設や管理棟、消防設備などを設ける。
 ● 並行して、施設の管理運営方式についても検討し、管理運営者の選定手続きなどを詰める。概算事業費は約31.5億円を見込んでいる。
 ● 市は危険物保安技術協会の技術援助を受けて津波対策調査を実施した。こうした取組みにより、仮にL2級(レベル2)の津波で被災した場合でも1か月以内に応急復旧による仮稼働を行い、2か月程度で試運転を可能とする計画だ。
 ● 海上施設の荷役対象船舶は、載荷重量2,000DWTのタンカーを最大船種として想定し、2,000DWTタンカー1隻とバージ船1隻の同時着桟、またはバージ船2隻の同時着桟が可能な施設として整備する。施設の稼働は2016年度末を予定している。基本設計は日本工営が担当した。 

■ 2019年2月、気仙沼市は新しいオイル・ターミナルの建設中である。気仙沼市と地元の石油販売会社が、周囲を特殊なコンクリートの壁で覆って津波への強度を一気に高めた国内初の「津波対応型燃油タンク」を建設している。2019年5月末に完成する。東日本大震災でタンクが被災して火災が起きたことから、災害対策事業の一環で建設を決めた。市は「大きな漁船が衝突しても壊れない」と安全性に期待している。当面の新しいオイル・ターミナルの概要はつぎのとおりである。
 ● 設置場所;気仙沼市朝日町の「漁業用燃油施設」の敷地
 ● 貯蔵量; 4,950KL、A重油
 ● タンク仕様; 容量990KL×5基、直径11m×高さ12m
           鋼板製タンクの外側に緩衝材が巻き付けられ、さらに鉄筋とピアノ線で強度を
           高めたプレストレスト・コンクリート(PC)で固められ、400トン程度の船がぶつ
           かっても壊れない強度にし、さらに、基礎とPCを一体構造にすることで、津波で
           浸水してもタンクが浮き上がったり、転倒しないようにした。
 ● 事業費; 26億円(国のグループ化補助金や復興交付金を活用)
    タンクは石油販売会社の気仙沼商会が設置
    周囲のコンクリート壁は気仙沼市が整備 
   ● 完成後の運用; 気仙沼商会と市内の石油販売会社10社が共同で利用
 ● 工事; 安部日鋼工業(岐阜市にあるプレストレスト・コンクリート構造物の設計・施工会社)
 PCを使った工法はこれまで、国内の給水タンクで利用されてきたが、燃料用タンクでは初めてである。工事を担当した安部日鋼工業は「頑丈なタンクが、その上によろいを着たような状態」といい、気仙沼商会の社長は「安全性を高めたタンクを活用して、気仙沼の基幹産業である漁業を盛り立てたい」と語っている。
     津波対策の石油タンク   (写真はKahoku.co.jpから引用)

気仙沼油槽所の竣工式
(写真はKahoku.co.jpから引用)
■ 6月21日(金)、建設中だった貯蔵タンクが完成し、竣工式が気仙沼市朝日町で行われ、約120人が出席した。気仙沼市長は、「気仙沼港の機能がさらに高度化・進化、そして安全性を増したという意味合いで、きょうの竣工は大きい」と語った。今後、貯蔵タンクはカツオ漁船などにA重油を供給する。 


補 足
■ 「フランス環境省 : ARIA」(French Ministry of Environment : Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。

■ 東日本大震災時における各地の石油タンクの被害状況
 危険物保安技術協会によって調査され、その内容は、「Safety & Tomorrow誌」(2011年9月~2012年3月)に掲載されている。
 ● 東日本大震災における危険物施設の被害概要「仙台地区」
 ● 東日本大震災における危険物施設の被害概要「久慈地区」・「いわき地区」・「鹿島地区」
 ● 東日本大震災における危険物施設の被害概要「石巻地区」・「川崎地区」・「市原地区」
 この調査では、気仙沼市の石油タンクは対象にされなかった。

所 感
■ 気仙沼のオイル・ターミナルの石油タンク流失は、ある面、東日本大震災時における代表的な事故であろう。フランス環境省ARIAは、数多い東日本大震災の石油タンク被害の中で、気仙沼のオイル・ターミナルの石油タンク流失を津波による象徴的な貯蔵タンク事故事例として選んだものと思われる。そして、今回、津波対策を施した貯蔵タンクが気仙沼のオイル・ターミナルで建設されたのを見ると、先見の明があったといえよう。
 気仙沼オイル・ターミナルが復興されたが、そのタンクは鋼板製タンクの外側に緩衝材が巻き付けられ、さらに鉄筋とピアノ線で強度を高めたプレストレスト・コンクリート(PC)で固められた構造とし、400トン程度の船がぶつかっても壊れない強度にし、基礎とPCを一体構造にすることで、津波で浸水してもタンクが浮き上がったり、転倒しないようにしたという。津波対策の貯蔵タンクとして象徴的な例となった。
           津波対策の石油タンク上部    (写真はKahoku.co.jpから引用)
■ 構造の詳細はわからないが、当初計画はタンクから2m離した周辺を高さ12.2mのPCコンクリート壁で覆うとともに、基礎RCコンクリート(厚さ2m)からアンカーなどで固定する案で、鋼板製タンクとPCコンクリート壁の間は2m離す計画だった。それが、最終的には、鋼板製タンクの外側に緩衝材が巻かれ、その外側にPCコンクリートで固められるようになった。これはPC防液堤付きのLNGタンクの構造と似ている。
PC防液堤付きのLNGタンクの構造の例
(図はCity.hitachi.lg.jpから引用)

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aria.development-durable.gouv.fr, Destruction of an oil terminal,  N 40260,  11 /03/2011, JAPON, KESENNUMA
  ・Km-fire.jp, 東日本大震災「消防活動の記録」(気仙沼・本吉地域広域行政事務組合消防本部), 2012年7月
  ・News-sv.aij.or.jp,   地震・津波による火災への備えー東日本大震災での被災実像からー(日本建築学会),2012年9月
  ・Kahoku.co.jp,第10部・津波火災(下)もろさ/油大量流出、炎広がる海
  ・Ristex.jp,  気仙沼港の石油タンク倒壊による調査報告(RISTEX CT ジャーナル),  2011年4月25日
  ・Sonpo.or.jp,  東日本大震災における 危険物施設の被害 ( 消防庁消防研究センター,予防時報),  2012年
  ・Memory.ever.jp,  気仙沼を襲った大津波の証言(河北新報),  2011年
  ・Isad.or.jp,  東日本大震災に伴う火災の調査から得られる教訓(消防科学総合センター, 消防科学と情報),  2012年
  ・Asahi.com,  津波で流されたタンク爆発、潜水士1人けが 気仙沼(朝日新聞),  2012年7月28日
  ・Mainichi.jp,  東日本大震災:気仙沼湾海底泥に環境基準上回る油沈殿(毎日新聞),  2012年04月11日
  ・Bousaihaku.com,  石油タンクの津波被害について (消防庁消防研究センター ),  2012年
  ・NHK.or.jp,  都市を襲う津波火災に迫る(NHK、時論公論),  2014年
      ・Kahoku.co.jp ,  燃油タンクを津波に強く 気仙沼市と地元企業、特殊コンクリ壁で外部覆う 安全性向上に期待,   February  15,  2019
      ・Fnn.jp,  新たなタンクは津波対策も! 気仙沼港の「燃油タンク」再建〈宮城,   June  21,  2019
      ・Decn.co.jp ,  宮城県気仙沼市/朝日町地区漁業用燃油施設整備/15年度内にも造成着工,   July  03,  2015
      ・ Kahoku.co.jp ,  対津波高強度燃油タンク 気仙沼に建設、運用開始,   June  22,  2015
      ・Shoeimaru.da-te.jp, 気仙沼油槽所が完成し竣工式,   June  24,  2015
      ・Abe-nikko.co.jp,  当社施工現場(気仙沼燃油タンク)が岐阜新聞で紹介されました,   June  12,  2015


後  記: 前回のブログ「気仙沼オイル・ターミナルの壊滅」(2015年2月)はフランスのARIA資料の事故情報をもとにまとめたものです。このときは、地元の人たちが、この未曾有の災害を記録に残しておこうという気持ちの伝わるものだったのが印象的で、多くの関連情報があり、ARIA資料の内容を補完することができました。今回、気仙沼オイル・ターミナル(油槽所)が復興されたのを知り、まとめることとしました。まとめにあたり、どのような形をしようかと迷いました。東日本大震災の気仙沼市のことに広げると、収拾がつかなくなるので、気仙沼油槽所の被害と復興に絞り、事故情報の形態をとることにしました。調べ始めると、竣工式の情報だけでなく、4年前からの計画段階での情報があり、経緯がよくわかりました。
 このことで最近感じるのは、中央紙(全国紙)は一過性のニュース記事だけで終わっているように思います。このブログのような事故情報をまとめていると、事故があったことはわかりますが、5W1Hの状況を知りたいのに分からないことがほとんどです。この点、地方紙の方が追究していると思います。今回の報道では「河北新報」です。また、中央紙では、ニュース記事をインターネットで発信していても、すぐに削除してしまい、内容を見ることができません。中央紙の記事からインターネットを通じて拡散することには、寄与していますが、曖昧な話や中途半端な話で終わっていることが多いと感じます。