台風19号の衛星写真 (写真はScienceportal.jst.go.jpから引用)
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< 被害施設の概要 >
■ 事故があったのは、つぎの会社・事業所である。
● 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)横浜製造所
● 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)根岸製油所
● 神奈川県横浜市の(株)トヨタユーゼック社TAA横浜会場
● 宮城県大河原町の(株)アストモスガスセンター仙南営業所
● 長野県東後市の国際石油開発帝石(株)の東京ライン
● 福島県いわき市の東部ガスの下タ田橋の橋梁添架管
● 福島県郡山市富久山町の(株)エム・ティ・アイ郡山工場
● 福島県郡山市のアイ・テック・サービス(株)郡山ガスセンター
● 埼玉県桶川市の中野酸工(株)桶川工場
● 静岡県静岡市清水区のJーオイルミルズ静岡工場
● 各地の消費者宅のLPガス容器
< 事故の状況および影響 >
(1) 台風19号の発生
■ 2019年10月初めに南鳥島近海でアジア名でハギビスと命名された台風19号は、中心気圧915
hPaとなり、猛烈な勢力に発達し、日本に接近し、10月12日(土)19時前に静岡県伊豆半島に上陸した。その後関東地方と福島県を縦断し、13日(日)12時に三陸沖東部で温帯低気圧に変わった。この間、強風域が本州の半分以上を覆うほどの大型で、勢力も強く、静岡県を始めとし、半日で13都県に特別大雨警報が発表され、大雨に加えて暴風、高潮などを伴う広範囲の被害に繋がった。
(2) 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)横浜製造所
■ 神奈川県横浜市神奈川区にある潤滑油製造工場のJXTGエネルギー(株)横浜製造所(潤滑油、グリース、エンジンテスト用の特殊燃料油など500種類の各種石油製品を生産)では、工場内の浮き屋根式タンクの浮き屋根上とタンク周辺側溝に、油混じりの雨水が10リットル程度漏洩した。
■ 施設外への漏洩は無し。浮き屋根上とタンク周辺側溝の漏洩は吸着マットにて同日に回収済。
横浜市JXTG横浜製造所付近 (写真はGoogleMapから引用)
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JXTG横浜製造所の浮き屋根式タンクの例 (写真はGoogleMapから引用)
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(3) 神奈川県横浜市のJXTGエネルギー(株)根岸製油所
■ 神奈川県横浜市磯子区のJXTGエネルギー(株)根岸製油所(石油精製能力27万バーレル/日)では、構内の護岸の損壊が認められた。土嚢による応急措置を実施した。危険物等の漏洩はなし。
■ また、敷地内の冠水により、出荷関連設備に不具合が生じ、一時、出荷を停止した。なお、近隣の他の製油所・油槽所は、特に問題はなく、石油製品の安定供給には影響はなかった。
横浜市JXTG根岸製油所 (写真はGoogleMapから引用)
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(4) 神奈川県横浜市の(株)トヨタユーゼックのTAA横浜会場
■ 神奈川県横浜市中区にあるU-Car(中古車)取扱会社の(株)トヨタユーゼックでは、TAA(トヨタオートオークショ)横浜会場に設置されたLPガスボンベ庫の屋根が強風により破損し、LPガスボンベの配管(ボンベから調整器の間)が切れ、LPガスが漏洩した。消防隊1隊出動し、漏洩検知活動などの対応行った。現在、漏洩は停止している。
横浜市トヨタユーゼックのTAA横浜付近 (写真はGoogleMapから引用)
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(5) 宮城県柴田郡大河原町の(株)アストモスガスセンター仙南営業所
■ 宮城県柴田郡大河原町の(株)アストモスガスセンター仙南営業所では、床上浸水によりボンベが流出した。流出したボンベは相当数が白石川に流出した。
■ 10月14日(月)午後3時時点で、流出容器のほとんどを回収済み。残りの流出容器については、引き続き、回収作業中である。
■ 15日(火)午後2時時点で、未回収ボンベは23本となり、引き続き事業者が回収作業を実施中である。
■ 17日(木)午後12時4時点で、未回収ボンベは1本となった。
宮城県大河原町のアストモスガスセンター仙南営業所付近 (写真はGoogleMapから引用)
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(6) 長野県東後市の国際石油開発帝石(株)の東京ライン
■ 長野県東後市の国際石油開発帝石(株)では、長野県東御市本海野地内の千曲川の増水による洗堀によってガス導管を添架している橋台が崩落したため、天然ガス東京ラインが損傷を受けた可能性が発生した。
■ このため、当該区間を遮断して安全を確保し、ガス供給は別系統により継続中である。
長野県東御市本海野付近の千曲川 (写真はGoogleMapから引用)
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(7) 福島県いわき市の東部ガス(株)下タ田橋の橋梁添架管
■ 福島県いわき市の東部ガス(株)では、いわき市の下タ田橋の橋梁添架管(中圧)の一部に折損が発見された。このため、バルブを閉止し、当該中圧管の使用を停止した。
■ バックアップ用低圧配管から別系統での供給を行っている。
■ 10月15日(火)、折損箇所は仮設配管を敷設することとし、同日から調査を開始した。
■ 10月19日(土)、折損箇所の仮設復旧配管の工事を実施している。
いわき市の下タ田付近
(写真はGoogleMapから引用)
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(8) 福島県郡山市富久山町の㈱エム・ティ・アイ郡山工場
■ 福島県郡山市の金属表面処理の㈱エム・ティ・アイ本社郡山工場では、川の氾濫で浸水したメッキ工場から毒物のシアン化ナトリウム(青酸ソーダ)が流出した。工場は台風19号で氾濫した阿武隈川沿いにあり、シアン化ナトリウムを使用する生産ラインや薬品の保管庫が水没し、薬品を貯めておくタンクが浸水して一部が流れ出たものである。
■ 10月16日(水)午後4時頃、浸水被害確認のため、市の環境保全センター職員が水質汚濁防止法に基づき㈱エム・ティ・アイに立入調査を実施した結果、シアン化ナトリウムが流出していることを確認した。工場出口調整池の貯留水を採取して水質検査を実施した結果、午後8時に排水基準0.5mg/Lのところ、基準の46倍の23mg/Lの濃度のシアン化合物を検出した。
■ 10月17日(木)午前8時頃、工場周辺の汚染状況を確認するため、周辺地域において氾濫水が残留している4箇所と、工場排出水の放流先水路で阿武隈川に流入する直前の1箇所において水質検査を実施した。結果は下記のとおり。
■ シアン化ナトリウムは毒物に指定されていて、高濃度で摂取すると死に至る危険性もあるということでるが、浸水で流出した際に薄まっているとみられ、清掃作業にあたった工場の従業員などに健康被害は出てないという。
■ 郡山市は、念のため、工場の周辺に住む5世帯に避難を促したが、地域住民は、「もうパニックすぎちゃって何からやっていいかわからない」といい、避難した人はいないということである。
■ 郡山市は、念のため、工場の周辺に住む5世帯に避難を促したが、地域住民は、「もうパニックすぎちゃって何からやっていいかわからない」といい、避難した人はいないということである。
福島県郡山市のエム・ティ・アイ郡山工場付近 (写真はGoogleMapから引用)
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■ 福島県郡山市のアイ・テック・サービス(株)郡山ガスセンターでは、川の氾濫で高圧ガスボンベが敷地外の工業団地内に流出した。アイ・テック・サービスは、ガス事業会社の岩谷瓦斯(株)の100%出資によってガスセンターの管理運営を請負う会社である。
■ 10月19日(土)午前10時時点で、大半は回収したが、ボンベ2本が未回収であ、事業者が回収作業を実施中である。ボンベ内のガス種(窒素、酸素、アルゴンまたは二酸化炭素)は調査中である。
アイ・テック・サービスの郡山ガスセンター(イワタニ福島郡山支店の敷地内)付近
(写真はGoogleMapから引用)
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(10) 埼玉県桶川市の中野酸工(株)桶川工場
■ 埼玉県桶川市のプロパン販売の中野酸工(株)桶川工場では、河川の増水によってプロパンガスボンベが流出した。事業所敷地外に流出したボンベは概ね回収済みで、10月15日(火)午後5時時点で約20本が未回収である。
■ 10月17日(木)午後5時時点で未回収は16本である。流出したボンベは不燃性の冷媒ガスを詰めていたボンベであり、中身は全て空の状態のため、危険性は低い。引き続き、事業者が回収作業を実施中である。
埼玉県桶川市の中野酸工桶川工場付近 (写真はGoogleMapから引用)
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(11) 静岡県静岡市清水区の(株)Jーオイルミルズ静岡工場
■ 静岡市清水区にある(株)Jーオイルミルズの静岡工場では、台風19号による高潮の影響で浸水する被害があり、台風が通過した10月14日(月)に農薬を保管していた保管庫の扉が壊れ、病害虫駆除に用いる指定特定毒物のリン化アルミニウム剤(製品名フミトキシン)の入ったアルミ製のボトル4本(1kg)がなくなっているのを職員が見つけた。アルミ製のボトルには粒状のリン化アルミニウム剤が入っている。
■ リン化アルミニウム入ったボトルのうち1本は工場の敷地内で見つかっていて、残る3本を引き続き探している。リン化アルミニウムは毒物に指定されていて、穀物を保管する際に病害虫の発生を防ぐため、ガス状にして使うという。
■ Jーオイルミルズによると、農薬が入ったボトルは頑丈で、開けるには専用の道具が必要なため、中身が漏れ出す可能性は低いとしていますが、農薬を直接口に入れたり、空気中の水分と反応して発生したガスを大量に吸い込むと、死に至る危険性があるという。このため、ボトルを見つけた場合は、絶対に手を触れずに、最寄りの警察か、会社に連絡するよう呼びかけている。
■ Jーオイルミルズによると、農薬が入ったボトルは頑丈で、開けるには専用の道具が必要なため、中身が漏れ出す可能性は低いとしていますが、農薬を直接口に入れたり、空気中の水分と反応して発生したガスを大量に吸い込むと、死に至る危険性があるという。このため、ボトルを見つけた場合は、絶対に手を触れずに、最寄りの警察か、会社に連絡するよう呼びかけている。
静岡市のJーオイルミルズ静岡工場付近 (写真はGoogleMapから引用)
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リン化アルミニウム剤の入ったボトル(商品名;フミトキシン)
(写真はJ-oil.comから引用) |
(12) 各地の消費者宅・LPガス容器
■ 岩手県、福島県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、長野県、山梨県において河川の氾濫等により消費者宅のLPガス容器が計73本流されていたことが分かった。
■ LPガス事業者等が水が引いた箇所から順に被害状況を確認していた。流されていた容器のうち32本は回収された。未回収の41本の容器についてき事業者が回収作業を実施している。
被 害
■ 流出による人身災害は無かった。
■ 流出による経済的な損失は不明である。
■ 流出による環境への影響は不明である。
< 事故の原因 >
■ 台風19号の暴風、豪雨、高潮の自然災害による。
ただし、個々の案件については事前の対応策や回避策があったと思われる。
< 対 応 >
■ 経済産業省は、省関連の被害状況を把握し、その状況を「令和元年台風第19号による被害・対応状況について」と題して10月12日(土)~19日(土)まで順次ウェブサイトに公表した。
■ 福島県郡山市は㈱エム・ティ・アイのシアン化ナトリウムの流出事故について調査し、対応状況を「台風19号を原因とする浸水被害に伴う毒物の流出事故について」と題してウェブサイトで公表した。
補 足
■ JXTGエネルギー横浜製造所の油漏洩は、「浮き屋根式タンク」の浮き屋根上とタンク周辺側溝に油混じりの雨水が10リットル程度あったという。
JXTGエネルギー横浜製造所は主に潤滑油の製造を行っており、この種のプラントでは、通常、浮き屋根式タンクを使うことはない。潤滑油のほかにエンジンテスト用の特殊燃料油などを作っているので、このプラントで使っている浮き屋根式タンクだと思われる。しかし、今回の報告だけだと、事象の状況は分からない。
台風や豪雨がきっかけで浮き屋根式タンクの浮き屋根沈没事故としては、つぎのような事例がある。
● 2005年2月、「九州石油大分製油所のタンク浮き屋根の沈没事故」
● 2007年7月、「フランスで原油タンクのダブルポンツーン型浮き屋根が沈没」
● 2012年11月、「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」
ハリケーンや豪雨によってタンクから油が流出した事故としては、つぎのような事例がある。
● 2010年7月、「パキスタン洪水に伴う油流出による環境汚染」
● 2012年9月、「米国ルイジアナ州の製油所でハリケーン襲来後に油漏出」
● 2012年10月、「米国ニュージャージー州でハリケーン襲来後にタンクから油流出」
● 2013年9月、「米国コロラド州で洪水によって被災したタンクから油流出」
● 2014年6月、「米国コロラド州で洪水によって今年もタンクから油流出」
● 2017年6月、「メキシコのペメックス社の製油所で浸水による火災で死傷者9名」
● 2017年8月、「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」
● 2019年8月、「佐賀県の大雨洪水で工場浸水して熱処理用の焼入油が流出」
所 感
■ 台風19号では多量漏洩の事故は無かったが、暴風、豪雨、洪水、大潮という自然災害の要因に加え、神奈川県、宮城県、福島県、長野県、静岡県、埼玉県と広範囲のエリアで起こったことが特徴である。また、台風19号の甚大な被災状況の陰に隠れて、2・3の事例を除き、報道機関による報道は無かった。この点は、内容の分かりにくさを除けば、公的な機関の情報公開に果たした役割は大きい。
■ 事故原因は、台風19号の暴風、大雨、洪水、高潮の自然災害による故意の過失である。しかし、自然災害だから仕方が無かったと判断すべきではない。個々の案件をみていくと、事前の対応策や回避策があったと思われる。過去の事例では、ハリケーンによる油流出事故が起こっている。以前であれば、日本の台風よりはるかに強いハリケーンの所為にされていたが、今は状況が変わってきている。日本の会社では、従来から台風対策がとられていた。しかし、日本のどこでも台風19号クラスの台風が襲来する可能性がある。従来の台風対策の前提条件を見直すべき時期が来たことを示す台風19号だった。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Meti.go.jp, 令和元年台風第19号による被害・対応状況について(10月13~19日), October 17, 2019
・Nhk.or.jp, 浸水した工場から毒物流出, October 17, 2019
・Fnn.jp, 台風の影響でメッキ工場から毒物(シアン化ナトリウム)が流出 周辺住民に呼びかけ〈福島県郡山市〉, October 17, 2019
・City.koriyama.lg.jp , 台風19号を原因とする浸水被害に伴う毒物の流出事故について, October 17, 2019
・This.kiji.is, 基準超え濃度「未検出」 郡山の工場・毒物流出、健康被害なし, October 18, 2019
・Quick-news.site, 郡山市メッキ工場で猛毒流出!危険性が?場所や地図は?, October 17, 2019
・Shiritailabo.com
, エムティーアイ(福島郡山)の場所や青酸ソーダ流出の避難エリアや被害状況は?, October 18, 2019
・Nhk.or.com
, 静岡の工場から農薬入りボトル流出台風19号の高潮の影響, October 17, 2019
・J-oil.com
, 当社静岡事業所における台風 19 号による農薬遺失に関するお詫びとお知らせ,
October 17, 2019
・Inpex.co.jp, 台風
19 号の影響について(お知らせ),
October 13, 2019
後 記: 台風19号による被災状況が連日報道されています。各地で洪水が起こり、2019年8月の「佐賀県の大雨洪水で工場浸水して熱処理用の焼入油が流出」のような事例が起こっていないかと思って調べ始めました。大きな流出事例は無かったのですが、各地で暴風、大雨、洪水、高潮による事故が起こっていました。
2010年7月に起きた「パキスタン洪水に伴う油流出による環境汚染」は2017年10月に本ブログに掲載したのですが、それは「このようにいろいろな災害や事故が起こると、驚くことがなく、物事に関する感性が鈍ってくるように感じています。その意味で初心に帰る事例として紹介することとしました」とその時の後記で述べました。パキスタン洪水の被災写真はまだどこか異国の事象だという気持ちがありましたが、台風19号で起こっている洪水の写真を見るとパキスタン洪水と変わりません。そういえば、千葉県で多くの屋根瓦を飛ばした台風15号と台風19号を比較した写真が報道されていましたね。
(写真はWeathernews.jpから引用)
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