2024年7月8日月曜日

ナイジェリアのカナダ高等弁務官事務所で発電機用燃料タンクが爆発、死傷者4名

 今回は、約8か月前の2023116日(月)、ナイジェリアの首都アブジャにあるカナダ高等弁務官事務所にある発電機のディーゼル燃料タンクで爆発・火災がおき、死傷者4名を出した事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、ナイジェリア(Nigeria)の首都アブジャ(Abuja)にあるカナダ高等弁務官事務所(Canadian high commission)である。カナダ高等弁務官事務所はカナダ政府の国際関係を担当する省庁で、イギリス連邦の特殊な組織で、メディアの報道の中には大使館と報じているところもある。

■ 事故があったのは、カナダ高等弁務官事務所の発電機室にある発電機のディーゼル燃料タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023116日(月)午前1030分頃、カナダ高等弁務官事務所の発電機室にある発電機用のディーゼル燃料タンクが爆発し、火災が発生した。発電機室は本館ではなく、別な棟にあった。

■ 連邦首都圏の中央ビジネス地区にある外交道路沿いにある背の高い白い外交庁舎から濃い黒煙が上空に渦巻くのが見えた。この建物は連邦国防省や米国大使館などのすぐ近くである。

■ 事故は、 ナイジェリアの不動産業JMD社から派遣された作業員がミカノ(Mikano)製発電機の整備をしていた際に発生した。発電機は2台あり、うち1台は稼働していたが、もう1台は整備中だった。発電機室にあった2,000リットルのディーゼル燃料タンクが爆発して火災が起こった。

■ 発災に伴い、ナイジェリアの連邦首都圏(FCT Federal Capital Territory)の消防隊が出動した。

■ 発電機の整備に当たっていたナイジェリア人の整備作業員のうち2名が致命傷を受けて亡くなり、ほかの整備作業員2名が重度の火傷を負って治療のため病院に搬送された。死亡したふたりのうち一人はカナダ高等弁務官事務所の現地採用職員だった。

■ 目撃者によると、死亡した犠牲者は爆発の衝撃で発電機室から吹き飛ばされ、助かった人は屋根から脱出したという。

■ カナダ高等弁務官事務所のほかの職員は全員無事だった。カナダ外務省によると、20228月時点でナイジェリア高等弁務官事務所にはカナダ人外交官12名と現地採用職員32名が勤務していたという。 

■ カナダ・グローバル連携省(Global Affairs Canada)は、アブジャの外交地区にあるカナダ高等弁務官事務所を追って通知があるまで閉鎖すると発表した。「現在、現場の安全性を確認しており、爆発の原因究明に地元当局と協力する」といい、「調査は行われているが、現時点では故意の行為ではなく、事故であることを示している」述べた。

■ カナダの外務大臣は、116日(月)の午後、SNSに投稿した声明で爆発があったことを確認したといい、「この悲劇で亡くなったふたりのご家族に心からの哀悼の意を表します」と述べている。

■ ナイジェリア大統領の事務所は、建物から煙が漂う写真を公開した。報道官は、大統領が哀悼の意を表し、高等弁務官事務所にナイジェリア政府の全面的な支援を申し出たという。

■ ユーチューブには、火災時の建物の動画が投稿されている。

YoutubeBREAKING NEWS | Canadian Embassy in Abuja is reportedly on Fire2023/11/06

被 害

■ 発電機用ディーゼル燃料タンクが損壊した。内液の燃料が焼失した。

■ 発電機を整備していた人が4名死傷した。内訳は死者2名、負傷者2名である。

■ 発電機室内の設備が損傷した。 

< 事故の原因 >

■ 発電機室にある発電機用のディーゼル燃料タンクが何らかの要因で爆発し、火災が発生したとみられる。直接原因はカナダの技術専門家チームが正式な調査を始めた。

< 対 応 >

■ 連邦首都圏(FCT)の消防隊員が116日(月)午後1230分頃に火災を消し止めた。

■ 連邦首都圏の消防局が火を消し止め、ナイジェリア国防省、連邦消防局、連邦首都特別地域緊急事態管理局(Federal Capital Territory Emergency Management Agency)の救急車などの車両が状況に対応するため待機していた。

■ カナダ高等弁務官事務所の発電機室で爆発が発生して2名が死亡、2名が負傷したことを受けて、1114日(火)、カナダの技術専門家チームがアブジャに到着し、爆発の原因となった要因と状況を特定するための正式な調査を実施し始めた。カナダの調査チームとナイジェリアの関係当局は、それぞれの任務に沿って作業を調整するための努力が続けられている。

■ メディアの中には、この事故は発電機の取扱いや燃料関連の作業を行う際に厳格な安全対策が重要だということを浮き彫りにし、今回のような壊滅的な事故を防ぐために何が必要かということを指摘している。

補 足                                                

■「ナイジェリア」Nigeriaは、正式にはナイジェリア連邦共和国で、アフリカ大陸西南部に位置し、人口約21,000万人の連邦制共和国である。 2014年に南アフリカを抜きアフリカ最大の経済大国である。西にベナン、北をニジェール、北東がチャド、東はカメルーンとそれぞれ国境を接し、南はギニア湾に面し大西洋に通ずる。

「アブジャ」Abujaは、ナイジェリアの首都で人口約98万人の市である。1991年まではラゴスが首都だったが、一極集中などの理由により国土のほぼ中央に位置するアブジャに首都を移転した。旧首都ラゴスは現在でも経済の中心であり、ほとんどの国が大使館をアブジャに移転した今でも、より大規模な旧大使館を領事館としてラゴスに維持している国が多い。

■「発災タンク」は容量2,000リットルの発電機用ディーゼル燃料タンクで、発電機室は本館とは別棟と報じられている。メディアの中で1社のみ、被災後の発電機室内とみられる写真を掲載している。1社のみで真偽の確認はできないが、発電機が2台あり、別置きの燃料タンクが噴破して報じられている事故状況に合っており、今回の事故の被災後の写真と思われる。この写真を見ると、円筒タンクでなく、鋼製の箱型タンクで、縦シームが破裂したとみられる。大きさは1.3m×1.3m×1.3m程度の箱型タンクとみられる。

所 感

■ ディーゼル燃料(軽油)は、ガソリンなどとは異なり、爆発・火災を起こしにくい油であるが、これまで紹介したブログには、つぎのような爆発事例がある。

 ● 20138月、「米国ペンシルバニア州で燃料貯蔵タンクが爆発し、死者1名」; 容量37KLのガソリンタンクで漏洩があり、爆発事故前にディーゼル燃料のタンクへ 移送した経緯があり、爆発混合気が形成し、爆発したものとみられる。

 ● 20158月、「米国オハイオ州の地下貯蔵タンクが落雷で爆発、地表にクレーター」   ディーゼル燃料用地下貯蔵タンクのベント部に落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものとみられる。しかし、消防当局の中には、通常、ディーゼル燃料はファイヤーボールを伴う爆発を起こしにくいことから疑問点もあるという。

  20164月、「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」; 発災タンクはディーゼル燃料用だったが、タンク内はディーゼル燃料とガソリンの混合油だった。

 ● 201710月、「インドのムンバイ沖のブッチャー島で石油タンクに落雷して火災」     インドでは、ディーゼル燃料の区分として「高速ディーゼル燃料」と「ライト・ディーゼル燃料」2つがある。高速ディーゼル燃料は100%蒸留油で、一般に750rpm以上のエンジンに使用される。高速ディーゼル燃料の性状は、引火点:3296℃、燃焼範囲:0.75.0%、自然発火温度:257℃ある。日本の軽油とは、引火点に差異がある。このため、製品によっては引火しやすいディーゼル燃料がありうると思われる。

  201711月、「マレーシアでディーゼル燃料タンクが爆発・火災、死者3名」 原因はわかっていないが、過去の事例から類推すると、石油について安易な取り扱いをし、タンク内にディーゼル燃料だけでなく、廃ガソリンのような揮発性の高い油を混合したのではないかと思われる。

 ● 20192月、「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」; ディーゼル燃料用タンクの爆発は「薄層ボイルオーバー」ではないかと思われる。「軽油のように長時間燃焼を続けても燃料層内に高温層が形成されないが、燃焼末期には水が激しく沸騰する現象で、一種のボイルオーバーのような現象が起こる」という指摘がある。

  20202月、「アルゼンチンでバイオディーゼル用タンクが爆発・火災、死傷者3名」 バイオディーゼルは本来爆発を起こすような液でないので、原料油タンクの運用に問題があったと思われる。バイオディーゼルと軽質の石油を混合したタンクだったのではないだろうか。

■ 消火活動の状況はほとんど報じられていない。発災から約2時間の116日(月)午後1230分頃に火災を消し止めたという。現場では、発災直後の状況がつかめず、外交特権のあるカナダ高等弁務官事務所であり、テロ攻撃ではないかと思っただろう。報道では、このような微妙なことには触れていない。日本でもこのような事例は起こり得るし、東京の大使館での火災対応はなかなか難しい課題があると想像する。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Ctvnews.ca, Two Nigerian workers killed in generator explosion at Canada's high commission,  November  07,  2023

     Punchng.com, UPDATED: Canadian embassy gutted by fire, two die,  November  06,  2023

     Bbc.com,  Canada embassy explosion: Two people killed in blast in Nigeria,  November  07,  2023

     Africanews.com, Fire at Canadian High Commission in Nigeria kills 2 workers repairing generators,  November  07,  2023

     Nairametrics.com, FEMA attributes fire outbreak at Canadian High Commission in Abuja to tanker explosion,  November  06,  2023

     Reuters.com, Explosion at Canadian embassy in Nigeria kills two,  November  08,  2023

     International.gc.ca, Statement by High Commission of Canada on investigation into cause of explosion on November 6, 2023,  November  14,  2023

     Arise.tv, Two Dead in Inferno at Canadian High Commission in Abuja,  November  07,  2023

     Thecable.ng, Fire outbreak: Canadian high commission suspends Nigeria operations,  November  08,  2023

     Bbc.com, Canada issue travel alert, suspend operations for Nigeria afta fire incident for dia embassy,  November  06,  2023

     Daybreak.ng, How Generator Explosion Claims Two Lives at Canadian Embassy in Abuja, FEMA Reveals,  November  07,  2023

     Channelstv.com, UPDATED: Two Dead, Others Hospitalised As Fire Guts Canadian High Commission In Abuja,  November  07,  2023


後 記: ナイジェリアで起こった事故でタンク容量は2KLと比較的小さいのですが、カナダ高等弁務官事務所という特別なところで起こり、しかも死傷者が4名も出る事故だったので、調べることとしました。その際、“FEMA” という略号の機関が現れます。 このブログでもたびたび出てくる“FEMA”Federal Emergency Management Agency of the United States;アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)がなぜ出てくるのか疑問でした。米国大使館が近所にあるので、その関係かなと思っていましたが、実はナイジェリアの“連邦首都特別地域緊急事態管理局(Federal Capital Territory Emergency Management AgencyFEMAだということがわかりました。知らないことはいっぱいありますね。 

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